重なった唇の感触にフェアリーは驚いた。
目を閉じたリズの顔がすぐ目の前にある。
リズはギュッとフェアリーの背中まで手を回しており離れない。
人間の接吻を知らないわけではなかったが、まさか自分が人間とそれをやる日が来るとは思っていなかった。
リズの甘い香りが鼻をくすぐり、フェアリーは次第に目を閉じてリズとの接吻を堪能した。
抱き締めてくるリズに、フェアリーも応えるように優しく抱き締め返す。
全身を密着させて、ぬくもりを感じ合う。
接吻は、人間の好意を表す接触行為だ。
リズがこれを自分にしてきたということは、やはり彼女は自分に好意を持っているということになる。
その好意に困る自分がいた。
そして満更でもない自分もいた。
その満更でもない自分に、フェアリーは困惑した。
世界樹も、仲間たちも、自分さえも愛したことがないのに……
それでもフェアリーは、リズが満足するまでキスをやめなかった。
穢らわしい人間でも、リズならば何故か許せた。
フェアリーのために泣いて、怒って、報われてほしいと願うこの少女が、お節介で、余計なお世話で、とても愛しい。
これが愛というやつなのだろうか?
数億年も生きていて、ついぞ知ることがなかった感情だ。
フェアリーは冷え切っていた心に、熾火にも似た熱が灯されるのを感じ、リズの小さな肩を抱く手に力が込めた。
優先順位に従って義務をこなすことしか知らなかった自分が、リズという一人の少女に意義を見出そうとしている。
そんな錯覚にも等しい愚かな心が、どうしてだろう……今はひどく愛しい。
永く、息をするのさえ忘れるほど濃密なキスを終えて、二人はゆっくりと唇を離した。
身体は密着したまま、頬を赤くしたリズが切なく見つめてくる。
いっそ目を背けたくなるほど、リズの上目遣いはフェアリーの胸を締め付けた。
次のリズの言葉が、なんとなく察せられるからだ。
「行かないでフェアリー……側にいてよ……ずっと……」
「……困った人ですね。あなたは」
「ねぇ……だったらアタシも、精霊の力でフェアリーと同じ妖精になれないの?」
「なにを言って……」
「なんでもするから連れてってよ。お願いフェアリー……一緒に居たい……」
「リズ……」
抱きつくリズを、フェアリーは引き剥がすことができなかった。
どうしても手に力が入らなかった。
なにをやっているんだろう。私は……
人間は嫌いだけど、やはりリズだけは……
「おやおや……随分と仲睦まじいじゃないかフェアリー」
「!?」
男の声が聞こえた。
聞き覚えのある声だった。
リズとフェアリーはハッとして離れ、船の甲板を見渡す。
すると、その声の主は晴れた空の下に広がる海の上にいた。
「え!?」
リズがその声の主を見て驚愕した。
「な!? あなたは!? でも、その声は……?」
その声の主を見てフェアリーも驚いた。
声こそ男のものだったが、見た目はフェアリーとまったく同じの銀髪で【妖精の黒衣】を身に纏っている。
背中には半透明の羽が生えており、それを羽ばたかせて海の上を浮遊していた。
「フェ、フェアリーが……二人!?」
リズが困惑して、隣のフェアリーと飛んでいるフェアリーを交互に見た。
顔こそ似ているが、相手のフェアリーは胸がまったくない。
声も男の事から身体も男のようだ。
「人間嫌いのお前が、どういう風の吹き回しだフェアリー?」
「その声……まさかあなたは『彼』?」
フェアリーと同じく永年生き残ってきた妖精の一人だ。
『彼』もまたフェアリーと同じく、人間に何度も自分の地球を壊されてきた妖精だ。
彼も人間を恨んでいる。
こんな恨みを持つ前に戦死できれば良かったと嘆いていた本人だ。
「ああ。久しぶりだなフェアリー」
「お久しぶりです彼。ですが、その姿はどうしたのですか? まさかあなたまで人間に?」
「いいや。この姿は地球用の身体だ。今の俺は、なんにでもなれる」
「……どういう意味です?」
「準備は整った。さぁフェアリー。俺と共にこの地球を終わらせよう」
「な!?」