世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第55話【彼】

 重なった唇の感触にフェアリーは驚いた。

 

 目を閉じたリズの顔がすぐ目の前にある。

 

 リズはギュッとフェアリーの背中まで手を回しており離れない。

 

 人間の接吻を知らないわけではなかったが、まさか自分が人間とそれをやる日が来るとは思っていなかった。

 

 リズの甘い香りが鼻をくすぐり、フェアリーは次第に目を閉じてリズとの接吻を堪能した。

 

 抱き締めてくるリズに、フェアリーも応えるように優しく抱き締め返す。

 

 全身を密着させて、ぬくもりを感じ合う。

 

 接吻は、人間の好意を表す接触行為だ。

 

 リズがこれを自分にしてきたということは、やはり彼女は自分に好意を持っているということになる。

 

 その好意に困る自分がいた。

 

 そして満更でもない自分もいた。

 

 その満更でもない自分に、フェアリーは困惑した。

 

 世界樹も、仲間たちも、自分さえも愛したことがないのに……

 

 それでもフェアリーは、リズが満足するまでキスをやめなかった。

 

 穢らわしい人間でも、リズならば何故か許せた。

 

 フェアリーのために泣いて、怒って、報われてほしいと願うこの少女が、お節介で、余計なお世話で、とても愛しい。

 

 これが愛というやつなのだろうか?

 

 数億年も生きていて、ついぞ知ることがなかった感情だ。

 

 フェアリーは冷え切っていた心に、熾火にも似た熱が灯されるのを感じ、リズの小さな肩を抱く手に力が込めた。

 

 優先順位に従って義務をこなすことしか知らなかった自分が、リズという一人の少女に意義を見出そうとしている。

 

 そんな錯覚にも等しい愚かな心が、どうしてだろう……今はひどく愛しい。

 

 永く、息をするのさえ忘れるほど濃密なキスを終えて、二人はゆっくりと唇を離した。

 

 身体は密着したまま、頬を赤くしたリズが切なく見つめてくる。

 いっそ目を背けたくなるほど、リズの上目遣いはフェアリーの胸を締め付けた。

 次のリズの言葉が、なんとなく察せられるからだ。

 

「行かないでフェアリー……側にいてよ……ずっと……」

 

「……困った人ですね。あなたは」

 

「ねぇ……だったらアタシも、精霊の力でフェアリーと同じ妖精になれないの?」

 

「なにを言って……」

 

「なんでもするから連れてってよ。お願いフェアリー……一緒に居たい……」

 

「リズ……」

 

 抱きつくリズを、フェアリーは引き剥がすことができなかった。

 どうしても手に力が入らなかった。

 なにをやっているんだろう。私は……

 

 人間は嫌いだけど、やはりリズだけは……

 

「おやおや……随分と仲睦まじいじゃないかフェアリー」

 

「!?」

 

 男の声が聞こえた。

 聞き覚えのある声だった。

 リズとフェアリーはハッとして離れ、船の甲板を見渡す。

 

 すると、その声の主は晴れた空の下に広がる海の上にいた。

 

「え!?」

 

 リズがその声の主を見て驚愕した。

 

「な!? あなたは!? でも、その声は……?」

 

 その声の主を見てフェアリーも驚いた。

 

 声こそ男のものだったが、見た目はフェアリーとまったく同じの銀髪で【妖精の黒衣】を身に纏っている。

 

 背中には半透明の羽が生えており、それを羽ばたかせて海の上を浮遊していた。

 

「フェ、フェアリーが……二人!?」

 

 リズが困惑して、隣のフェアリーと飛んでいるフェアリーを交互に見た。

 顔こそ似ているが、相手のフェアリーは胸がまったくない。

 声も男の事から身体も男のようだ。

 

「人間嫌いのお前が、どういう風の吹き回しだフェアリー?」

 

「その声……まさかあなたは『彼』?」

 

 フェアリーと同じく永年生き残ってきた妖精の一人だ。

 

『彼』もまたフェアリーと同じく、人間に何度も自分の地球を壊されてきた妖精だ。

 

 彼も人間を恨んでいる。

 こんな恨みを持つ前に戦死できれば良かったと嘆いていた本人だ。

 

「ああ。久しぶりだなフェアリー」

 

「お久しぶりです彼。ですが、その姿はどうしたのですか? まさかあなたまで人間に?」

 

「いいや。この姿は地球用の身体だ。今の俺は、なんにでもなれる」

 

「……どういう意味です?」

 

「準備は整った。さぁフェアリー。俺と共にこの地球を終わらせよう」

 

「な!?」

 

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