陽の明かりが一筋の銀線となって海を照らす中、二人の妖精が対峙していた。
女のフェアリーと、男のフェアリー……は十二翼の竜人となり、もはや妖精の面影はない。
二人の争いは海が水飛沫を舞い上げ、見ているリズたちに凄まじい覇気を刺してくる。
フェアリーと彼の目は鋭く、互いの動きを一瞬も見逃さない。
音もなく、いや音が追いついていないほどに二人は疾風の如く動いている。
青い光刃と赤い光刃がぶつかり合い、火花が散る。
剣の軌跡が光の弧を描き、まるで星が降るかのように美しい。
「おい! 何が起こってるんだ!?」
揺れる船の甲板をタスティエーラが駆け付けてきた。
「お、男のフェアリーが現れて、フェアリーと戦闘に! きゃあっ!」
なんとか答えたリズだったがフェアリーと彼の戦闘で船が大きく揺れコケそうになる。
「なんだと!?」っとタスティエーラもふんばりながら答え、フェアリーたちの海上での戦闘を見た。
二人の妖精の動きは人間離れしており、目にも留まらぬ速度で繰り広げられる攻防は、まさに神業としか言いようがない。
一瞬の隙を見つけたかのように、フェアリーが素早く羽で加速し、鋭い突きを繰り出す。
その突きは風を切り裂き、音が遅れてやってくるほどの速さだ。
しかし、もう彼はそれを見極め、わずかな動きで回避し、反撃の刃を振るう。
が、それさえもフェアリーは弾き返す。
どんな反射神経だ。
「ま、まったく見えん……」
タスティエーラが絶句する束の間に、再び交錯する剣光。
彼らの剣術はまるで舞踊のように流麗でありながら、その一撃一撃には破壊的な力が宿っている。
「彼ぇえええええっ!」
フェアリーが叫び、全身全霊を込めた一撃を放つ。
空気が震え、海が弾けるほどの力。
対する彼は微笑を浮かべ、見事にその一撃を受け流す。そしてカウンターの一撃を放つ!
掬い上げるような斬り上げ!
それはフェアリーの脇を捉え、次の瞬間!
フェアリーの左腕が吹き飛んだ!
「ぐあああああっ!」
「フェアリー!?」
切り口から血が飛び出し、フェアリーは激痛のあまりにも叫んだ。
見ていたリズも悲鳴のような声を上げていた。
タスティエーラも、船の全員も、あのフェアリーが片腕を斬られた現実に目を限界まで見開く。
「勝負ありだ。フェアリー」
彼に静かに告げられたその言葉と共に、フェアリーは歯を食いしばる。
「おのれ……! まだ!」
「やめておけ。俺とお前……互角だとでも思っているのか?」
「!?」
フェアリーが驚愕し、聞いていたリズも今さら気づいた。
そうだ。
コイツはさっき世界樹を喰わせたドラゴンに憑依したと言っていた。
だからあんな姿になったんだ。
でも憑依は強くなれる反面、生きていられる時間に制限が付くはず。
この【彼】という妖精は、もうすぐ勝手に力尽きるはず。
なのに、なぜこんなにも余裕を持っているのか?
「世界樹を喰わせたドラゴンは、地球を一発で消せるほどの力を得た。そしてソレを憑依して奪ったのが俺だ。俺とお前の能力差は完全に離れている」
「く……だが、憑依は自らを滅ぼす妖精最後の秘技。お前があとどれほど生きられる? もってあと数分のはずだ!」
斬られた部分を手で押さえながらがフェアリーが返し、彼はそれでも顔色一つ変えない。
「俺が何のためにドラゴンに世界樹を喰わせたと思う?」
「なに?」
「世界樹の力を持ってすれば憑依の代償は無効化できる」
「なん……だと!?」
「俺たち妖精は世界樹に憑依できない。だが一度ドラゴンに喰わせ、世界樹の力を捕食したドラゴンを介せばこの通り。俺はドラゴンにも世界樹にもなれた」
その言葉を皮切りに、彼は声高らかに笑い出した。
まさに絶望。
頼みのフェアリーは片腕を失い致命傷。
その上、彼の圧倒的なまでの強さに絶句している。
フェアリーでダメなら、ここにいる全員がダメだ。
リズのナイトルージュだろうが、アクアメイデンだろうが……
ノーム様から授かった【ガイアプリンセス】でも、きっと叶わない。
そもそも敵は空を飛べるのだ。
羽根のないリズにはまず勝負の土台にすら上がれない。
空さえ飛べれば、せめてフェアリーに加勢くらいは出来るのに!
リズが絶望に染まる中、フェアリーは残った片腕からまたも光刃を出した。
そのフェアリーの顔は、覚悟を決めた顔だった。
「お前がドラゴンと化したなら!」
叫んだフェアリーが突撃するも、12枚の羽が殺到し、それらを捌くのに足留めされた。
「くそっ!」
「無駄な足掻きはよせフェアリー。どうせ生真面目なお前の事だ。俺に憑依して道連れにしようって魂胆だろう?」
「!」
図星らしいフェアリーは額に汗を流した。
そのまま12枚の羽による流星の乱射を抜けたフェアリーは……彼にあっさり顔を掴まれた。
「っ!?」
「さよならだ。戦友」
彼の手が紅く煌めき、そして爆発した!
リズはその光景を、フェアリーが負ける瞬間をハッキリと見てしまった。
タスティエーラたちもみんな。
黒煙に包まれ、フェアリーは白眼を剥いて海に落ちていった。
「フェアリィイイイイイーッ!」
叫んだリズは咄嗟にアクアメイデンに変身し、海に飛び込もうとし……彼に首を掴まれた。
「うぐっ!」
「おっと、無視は困るな?」
「離して! フェアリーが! フェアリーがっ!」
暴れるリズだが彼の圧倒的な力に成す術がない。
だがタスティエーラたちは黙っていなかった!
「大砲用意!」と命令するタスティエーラに「いつでも撃てます!」と返した部下たち。
それを見た彼はリズを盾にしてきた。
「なっ!? 貴様!」
「どうした人間? 撃ってみろよ」
「卑怯だぞ貴様っ! その子を離せ!」
怒鳴るタスティエーラに彼はクククと笑い、背中の12枚の羽を展開した。
それを見たリズはハッとなり、タスティエーラたちに叫ぶ!
「みんな逃げて!」
だが時はすでに遅く、12枚の羽による流星の弾雨が船を襲った。
一発で甲板を貫く流星が何発も船に叩き込まれ、タスティエーラたちの悲鳴が爆音に飲まれていく。
あれほどの巨大な船が、数秒で撃沈した。
黒煙が舞い上がり、船の破片がゆっくりと沈みゆく。
「あ……ぁ……」
リズは……涙が出た。
しかし、声は出ない。
フェアリーが海に沈み、タスティエーラたちも、船も沈んだ。
地獄のようなこの光景に、嘘だと信じたい、夢であってほしいと願う思考が弾ける。
「さて……お前がフェアリーを変えた元凶だな? 名前は確か、リズと呼んでいたか?」
「!」