………………
…………
……
波の……音?
私は……死んだのか?
リズは……地球は……どうなった?
意識が僅かに回復してきたフェアリーは、ゆっくりと目を開けた。
夜空が広がっている。
自分は、仰向けに倒れているようだ。
波の音が再度聞こえ、自分の下半身を冷たく冷やしてくる。
ここは、どこだ?
左右を見渡すと、少し離れた場所にリズが倒れているのが見えた。
「!? リズッ!」
フェアリーは咄嗟に立ち上がろうとしたが、傷口から血が吹き出して激痛が走った。
「うっぐっ!」
損失した片腕の切断面だ。
妖精の黒衣のおかげで、ある程度の出血は抑えられているが、完全とはいかない。
さすがに傷が大きすぎる。
だがそれでもフェアリーは激痛を歯を食いしばってリズの元へ駆けた。
「リズ!」
リズの腹部からは大量の血が流れており、血色も悪い。
体温も低く、今にも死にそうだった。
「出血が酷い……なにか、血を止めるものは!」
【彼】にやられたのだろうリズの傷は深い。
早く止血しないと、リズが死んでしまう!
フェアリーは辺りを見渡したが、すぐに絶望した。
周囲は海のみ。
フェアリーとリズが打ち上げられたのは、小さな砂の山。
とても陸地とは言い難い、狭い場所だった。
草木の一本もない。
「くそっ!」
フェアリーは自分の黒衣を破ろうとスカートの裾を持ったが、片腕を無くした今のフェアリーには何かを破くことさえ困難だった。
だが早くしないとリズが死んでしまう。
構ってられない、とフェアリーはスカートの裾をたくし上げ、歯で噛んで、腕でそれを引き千切ろうとした。
「ふっ! ぐっ! ううううううううっ!」
全力で裾を引き千切ろうとするフェアリーだが、妖精の黒衣がそんなもので引き裂かれるはずもなかった。
光刃でなら斬れるだろうが、長さの調整が出来ない光のブレードだ。自分ごと斬ってしまいそうだ。
ならばと、服を脱ごうとした。
脱いでリズの腹部に巻きつければ、多少の止血効果はあるはず!
『待ちなよフェアリー』
「!?」
突如聞こえた少年のような声。
フェアリーの目の前に現れたのは緑の光だった。
「シルフ様!」
『彼女は僕が治す』
そう言ってリズに緑の閃光を浴びせた。
それは精霊の力を与えるいつもの光景だったが、リズの腹部の傷がみるみる間に塞がっていった。
シルフの力を得たリズは、しかし目を覚まさない。
だが血色は良くなり、体温も回復している。
どうやら一命は取り留めたようだ。
「……良かった。ありがとうございますシルフ様」
『いいんだよ。君も重傷だね。早く手当てしないと……』
「不要です。手当てしたところで片腕はもう再生しません。それよりも他の精霊さま方を呼んでいただけませんか?」
『……そう言うと思って、前もって呼んでおいたよ。もうかなり経ってるからそろそろ着くんじゃないかな?』
「ありがとうございます。それよりここはいったい?」
『ただの砂山だよ。【風の鳴く島】じゃない』
「やはり……では、シルフ様はどうしてここに?」
『そんなもん、君たちが派手に戦ってたのが見えたからだよ。話も聞こえた。世界樹さまが喰われたことも……』
「そうですか……」
『ごめんよ。助けたかったけど、僕たち精霊は戦闘力がないから……』
「いえ、勝てなかった私の責任です。申し訳ありません。【彼】は私が止めます」
『止めるって……そんなボロボロなのにどうしようってのさ?』
「戦う以外にありません」
『勝算はあるの?』
「……」
そんなもの、ない。
【彼】は世界樹の力と大型ドラゴンの力を得た。
もはやフェアリー1人でどうにかなる相手ではない。
いや、たとえ妖精たちが束になっても勝てる見込みはないだろう。
彼を止めるには、どうすればいい?
それに世界樹を失ったこの地球は、やがて生命エネルギーの循環が無くなり枯れていく。
この地球の崩壊を止めるには、どうすれば……
悩むフェアリーの前に三つの光が飛来してきた。
それは火球・水玉・土の塊だ。
『持たせたな!』
『来たぞシルフ』
『待ったかの?』
サラマンダー・ウンディーネ・ノームが到着した。
よくここが分かったなと感心するが、それよりもまずは。
『ぬ!? リズ!? おいリズ! どうしたんだ!? なぜ寝ているこんなところで!?』
あのウンディーネが取り乱した。
あれだけ喧嘩した仲だというのに不思議なものだ。
「リズは心配いりません。もう回復しました。しばらくすれば意識も戻りましょう」
『なら良いが……、ってフェアリー! お前もその腕……!』
「問題ありません」
『問題しかないだろうが!』
「そんなことより皆様。私を宇宙へ届けてください」