『なら良いが……、ってフェアリー! お前もその腕……!』
「問題ありません」
『問題しかないだろうが!』
「そんなことより皆様。私を宇宙へ届けてください」
『おいおい、そんなボロボロで何しに行こうってんだ?』
呆れるサラマンダーに、しかしフェアリーの顔は本気だった。
「無論、戦線復帰します。まだ仲間たちが宇宙で防戦をしているはず。片腕一つ失ったぐらいでは、参戦しない言い訳にはなりません」
『馬鹿者! そういう問題ではない! 今のお前が戦列に加わったとしても焼け石に水だ!』
ウンディーネが言うも、フェアリーは首を振る。
「それでも、です。……皆様が知っての通り、私たち妖精は戦う為に生まれてきた世界樹の兵士です。戦って死ぬなら、それが――」
『待つんじゃフェアリー。お前さんはそれで良いかもしれんがな? そこのお嬢ちゃんはどうする? ウンディーネとのやりとりは、ワシら全員知っとるぞ?』
ノームはリズの事を指していた。
痛いところを突かれたフェアリーは、倒れているリズを一瞥して、目を閉じる。
「……それでも、私は行きます」
『お前……っ!』っとウンディーネ。
「リズなら分かってくれます。いえ、リズしか分かってくれないでしょう」
自分で言って驚いた。
本当に自分が言ったのかと疑うほどに。
けれども先の言葉に嘘偽りはない。
リズならば、きっと理解してくれる。
「それに私は……人間が嫌いです。今でも、それは変わりません」
そう、人間は嫌いだ。
でも……
『人間は守る価値が無いと思います!』
この一言から始まったこの旅で、出会った人間たちは、本当に守る価値が無かったか?
イルセラや、ロザリーヌや、漁師たち。
そして……リズ。
ああ、彼女たちが笑うこの地球……それだけでも、価値がある。
この地球を守る価値があることを知った。
世界樹さまが何故、私を地球へ降ろしたか分かった。
だからこそ私は行かねばならない。
本来あるべき場所へ。
ごめんなさいリズ。
好きですよ。あなたのことは。
「……皆様、お願いします。私はこの地球を守りたい」
★
目を覚ますと、美しい夜空が広がっていた。
星々が輝き、月光がリズを照らしている。
「……。……っ! フェアリー!」
ぼんやりしていた意識が一気に覚醒し、彼にやられたフェアリーを思い出して飛び起きた。
辺りを見渡すが、そこには海しかない。
リズがいる場所は砂だけの陸地だった。
なぜこんな場所に? と最初こそ疑問に思ったが、彼に腹を貫かれて海に落とされたことを思い出した。
慌ててリズは腹を見た。
「あれ? 傷が無い?」
そんなはずはない。
確かに彼に貫かれたはず。
痛みも覚えている。
無傷はハズが……
『目を覚ましたようだね』
「え?」
聞き覚えのない少年のような声にリズは驚いた。
キョロキョロと声の主を探すと、目の前に緑の光が現れた。
『こんばんわ。僕はシルフ。気分はどうだい?』
「シ、シルフ、様!?」
風の精霊の初対面に驚いた。
ということはココは【風の鳴く島】?
そんなことを思っていると、サラマンダーやウンディーネたちまで現れた。
『おおリズ! 目が覚めたか!』
『心配したぞ! まったく!』
『体調は大丈夫かの?』
「み、みんな……みんなが助けてくれたんですか? ありがとうございます」
とりあえず状況的にそう思ったから礼を言って立ち上がった。
するとウンディーネが言う。
『違う。お前を助けたのはシルフだ。礼ならソイツに言え』
「え、あ……ありがとうございますシルフ様。助かりました」
『ううん。良いんだよ。それしかできなかったから……』
「あの、フェアリーは?」
彼女だけ居ないのがどうしても気になったリズが言うと、シルフたちは沈黙してしまった。
何も言わない精霊たちに、リズは嫌な予感がした。
「まさか……フェアリーは、海に……っ!?」
『いや……アイツは宇宙へ帰ったよ』
サラマンダーが正直に答えた。
『おいサラマンダー!』っとウンディーネが怒る。
『どうせいつかはバレるだろうが』とサラマンダーは反論した。
「宇宙へ!? そんな……」
事実を知ったリズは、衝撃のあまり尻もちをついた。
置いていかれたショックもそうだが、フェアリーは片腕を斬り落とされており重傷のはず。
「どうして行かせたんですか! フェアリーは片腕を失っているのに!」
自分で言ってから気づいた。
あのドが付くほど仕事に生真面目なフェアリーが、片腕を失ったくらいで止まるはず無い、と。
『ワシらも止めたんじゃがの……しかしフェアリーは……』というノームにリズは視線を落とした。
「……分かってます。フェアリーは、そんなことじゃ止まらないんですよね……。文句は言うくせに、仕事はちゃんとするんです。まるで……本人が嫌ってる人間みたい」
そうだ。
フェアリーは、どうしようもなく人間臭いんだ。
その道一筋で来た職人のように。
「……フェアリーはやっぱり【彼】を止めに行ったんですか?」
『そうだ。勝算は……無い様だったがな……』
ウンディーネの言葉にリズは顔を曇らせた。
やっぱり勝算は無いんだ。
【彼】はもう凄まじい力を手に入れてしまって、フェアリーでは太刀打ちできない。
フェアリーで勝てないなら、リズでもどうしようもない。
全精霊の力を持ってしても、おそらく……
なにせ【彼】は世界樹を喰らった大型ドラゴンに憑依して、その力を増幅させている。
こんな化け物に対抗できる力なんて、どこにも……
『まだドラゴンは降ってこねぇな』
『妖精たちが頑張っているんだろう』
『じゃがそれも何時まで持つかのォ……』
『ドラゴンもそうだけど、【彼】を止める術がない。僕たちはもう終わりだよ……』
精霊たちが口々にざわめく中、リズは夜空を見上げた。
あの星空の奥で、今もフェアリーは戦っているのだろう。
アタシたちのために。
そんなフェアリーの力になりたいのに、今は祈ることしかできないなんて……
フェアリーに会いたい気持ちと、一緒に戦いたい気持ちが込み上がってくる。
でも自分が参戦したところで、フェアリーたちの足を引っ張るだけかもしれない。
でもこのまま何もせず待っていても、きっとフェアリーたちは負けて、みんな死ぬ。
どうすれば…………そうだ!
「みんなお願い! アタシをフェアリーのいる宇宙へ飛ばして!」