世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第61話【歴戦の妖精】

 無限。

 

 その空間は、果てのない無限の空間だった。

 

 夜空に浮かぶ無数の星々が、リズの瞳に映り込む。

 

 ついさっきまで見上げていたはずの夜空が、今は目前に広がっている。

 

 これがフェアリーの言っていた宇宙。

 奇妙な浮遊感が全身にまとわりつく。

 地に足がついていない感覚が、どこか不思議だ。

 

『リズ。呼吸は大丈夫か?』

 

「うん。大丈夫よウンディーネ」

 

 リズは精霊の加護に守られ、空気がなくとも呼吸ができる。

 宇宙の静寂の中、彼女の世界は奇跡のように広がっていた。

 

「わ……」

 

 眼下には青く輝く地球が広がり、その美しさにリズの心は一瞬、感動に包まれる。

 

「凄い……これが……地球……」

 

 さっきまで自分が居た場所……

 おそらく宇宙に出た初の人間となったリズは、そのあまりの絶景に見惚れてしまった。

 

 地球の青と白のコントラストが、彼女にとってはまるで夢のような光景だった。

 

 しかしその夢のような光景を打ち破るかのように、上では激しい戦いが繰り広げられているのに気づいた。

 

 妖精たちが光を放ち、巨大なドラゴンに立ち向かっている。

 

 妖精たちの小さな体からは信じられないほどの力が放たれ、それが闇を切り裂いて光の道を作っていた。

 

 あの中のどこかにフェアリーが戦っている。

 だが、どう見ても妖精側が劣勢だ。

 数で押されている。

 

『まだ頑張ってるみてぇだな』

『じゃが全滅は時間の問題じゃろうな……』

 

 サラマンダーとノームの言葉に息を呑むリズは、シルフから貰った翼を羽ばたかせて宇宙を前進した。

 

 シルフから授かった風の騎士【エアフォース】。

 今リズが成っている姿がそれだった。

 外見はもはやツッコむ気が失せるほど、過去最高に肌の露出が多い。

 

 腕には小さな金のブレスレットが左2個と右1個。

 リズの大きな胸を支えるのは緑の布地。

 下半身もガバガバで、左足に気持ち程度の金のレギンスがあるのみ。

 しかもまたパンツ丸出しみたいなデザインだ。

 というかもはやタダの水着である。

 防御要素がどこにあるのだろう?

 

 いや、そんなことはもうどうでもいい。

 フェアリーを探さなきゃ。

 

 フェアリーを探して、例の作戦をやる。

 それしかこの状況を打破することはできない。

 

『リズ……本当にいいのかい?』

 

 その問いはシルフのものだった。

 彼が何を問うているのかは知っている。

 宇宙へ上がることを認めさせるため、シルフたちに説明した作戦がある。

 

 それは極めて危険な作戦だから、こうやってシルフはリズの気持ちの再確認をしたのだろう。

 

 もうここまで来たのだ。

 今さら引き返すことはない。

 やり遂げて見せる。

 フェアリーのために。

 

 リズは迷わずシルフに頷き、目の前の光景に再び集中した。 

 戦ってる妖精たちも決して諦めてない。

 彼らの勇気と団結力は、やはり凄まじい。

 

「フェアリィイイイイイーーーーーッ!」

 

 リズが叫ぶとその辺にいたドラゴンに見つかってしまった。

 リズは手に小さな光の弓を召喚する。

 

 リズは深呼吸し、弓を引き絞った。

 

「邪魔よ!【エアレイド】!」

 

 無数の風の矢が放たれ、まっすぐにドラゴンに向かって飛んでいった。

 

 矢が命中するとドラゴンは一瞬ひるみ、その隙に妖精たちが一斉に攻撃を仕掛けた。光と闇が交錯する中、リズは自分の力が妖精たちの助けになることを実感した。

 

「人間だ!」

「なぜ人間がこんなところに!?」

 

 先ほど仕掛けた妖精たちがリズを見て驚愕する。

 みんな白銀の身体に青い瞳。そしてドレスのような黒衣を身に纏っている。

 これがフェアリーたちの本来の姿らしい。

 あまりのキュートさに、リズの心は震えた。

 

 か、可愛い……って! それどころじゃない!

 

「あ、あの! フェアリーはどこですか!」

 

「ん? フェアリーは我々だが?」

 

「あ……」

 

 そうだった。

 みんな同じ名前で、同じ見た目なんだ。

 忘れていた。

 

 これでは、フェアリーを探すなんて……

 いや、こっちを見ればアイツから気づいてくれるはず。

 

『妖精ども。我々は援軍だ。片腕を失ったフェアリーが戻って来なかったか?』

 

 ウンディーネの問いに妖精たちがピンと来たらしく。

 

「ああ! アイツか!」

「誰かアイツを見た者はいるか?」

 

 妖精が妖精に聞くと、1人の妖精が手を上げる。

 

「俺は見たぞ! もっと上だ。アイツは最前線で【彼】と戦っている」

 

 上か!

 しかももう【彼】と戦ってるなんて!

 

「ありがとう! すぐに……」

 

 リズはすぐに向かおうとしたが、何人かの妖精たちがボロボロになって落ちてきた。

 その内の何人かは、死んでいた。

 

「お、おい! 大丈夫か!」

 

「つ、強すぎる……【彼】は……」

「ふ、負傷者多数……戦線を離脱しました……」

 

「なんてことだ……」

 

 妖精たちとリズは上を見上げた。

 そこには確かに光が交差しており、戦闘が続いていた。

 まだ誰か戦っている。

 

 周囲ではドラゴンと妖精の激闘。

 そのさらに上では【彼】が暴れまわっているようだ。

 ようやく戦況が分かってきた。

 

「おいお前たち、片腕を無くしたフェアリーを見たか?」

 

「ぁ、ああ……オレは見たぞ」

「わたしも見ました……」

「さっきまで一緒に戦ってたからな……」

「アイツ……今……【彼】と戦っている……たった数人で……」

 

 最後の妖精の言葉に驚愕したリズは、あそこにフェアリーがいると上を見上げた。

 すると更にボロボロになった妖精たちが落ちて来て、その中の生き残りが告げる。

 

「ほ、報告……部隊は壊滅……戦線を離脱しました……生き残ったのは、ワタシだけです……」

 

「しっかりしろ! お前、片腕のフェアリーを見たか?」

 

「か、片腕のフェアリーは今現在……たった1人で【彼】と交戦中……1人で、交戦中……」

 

「なんだと!?」

「1人でやり合ってんのかよ!?」

「やっぱりアイツは歴戦の妖精だわ……」

 

 妖精たちが驚く中、先の話を聞いたリズはもはや居ても立ってもいられなくなり、即座にシルフの翼を広げて上昇した!

 

「あ! おい! 待つんだ! 君が行っても足手まといだ! 戻れ人間!」

 

 妖精の声が一気に遠のいていく。

 

 そこにいるのねフェアリー!

 待ってて!

 すぐ行くから!

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