無限。
その空間は、果てのない無限の空間だった。
夜空に浮かぶ無数の星々が、リズの瞳に映り込む。
ついさっきまで見上げていたはずの夜空が、今は目前に広がっている。
これがフェアリーの言っていた宇宙。
奇妙な浮遊感が全身にまとわりつく。
地に足がついていない感覚が、どこか不思議だ。
『リズ。呼吸は大丈夫か?』
「うん。大丈夫よウンディーネ」
リズは精霊の加護に守られ、空気がなくとも呼吸ができる。
宇宙の静寂の中、彼女の世界は奇跡のように広がっていた。
「わ……」
眼下には青く輝く地球が広がり、その美しさにリズの心は一瞬、感動に包まれる。
「凄い……これが……地球……」
さっきまで自分が居た場所……
おそらく宇宙に出た初の人間となったリズは、そのあまりの絶景に見惚れてしまった。
地球の青と白のコントラストが、彼女にとってはまるで夢のような光景だった。
しかしその夢のような光景を打ち破るかのように、上では激しい戦いが繰り広げられているのに気づいた。
妖精たちが光を放ち、巨大なドラゴンに立ち向かっている。
妖精たちの小さな体からは信じられないほどの力が放たれ、それが闇を切り裂いて光の道を作っていた。
あの中のどこかにフェアリーが戦っている。
だが、どう見ても妖精側が劣勢だ。
数で押されている。
『まだ頑張ってるみてぇだな』
『じゃが全滅は時間の問題じゃろうな……』
サラマンダーとノームの言葉に息を呑むリズは、シルフから貰った翼を羽ばたかせて宇宙を前進した。
シルフから授かった風の騎士【エアフォース】。
今リズが成っている姿がそれだった。
外見はもはやツッコむ気が失せるほど、過去最高に肌の露出が多い。
腕には小さな金のブレスレットが左2個と右1個。
リズの大きな胸を支えるのは緑の布地。
下半身もガバガバで、左足に気持ち程度の金のレギンスがあるのみ。
しかもまたパンツ丸出しみたいなデザインだ。
というかもはやタダの水着である。
防御要素がどこにあるのだろう?
いや、そんなことはもうどうでもいい。
フェアリーを探さなきゃ。
フェアリーを探して、例の作戦をやる。
それしかこの状況を打破することはできない。
『リズ……本当にいいのかい?』
その問いはシルフのものだった。
彼が何を問うているのかは知っている。
宇宙へ上がることを認めさせるため、シルフたちに説明した作戦がある。
それは極めて危険な作戦だから、こうやってシルフはリズの気持ちの再確認をしたのだろう。
もうここまで来たのだ。
今さら引き返すことはない。
やり遂げて見せる。
フェアリーのために。
リズは迷わずシルフに頷き、目の前の光景に再び集中した。
戦ってる妖精たちも決して諦めてない。
彼らの勇気と団結力は、やはり凄まじい。
「フェアリィイイイイイーーーーーッ!」
リズが叫ぶとその辺にいたドラゴンに見つかってしまった。
リズは手に小さな光の弓を召喚する。
リズは深呼吸し、弓を引き絞った。
「邪魔よ!【エアレイド】!」
無数の風の矢が放たれ、まっすぐにドラゴンに向かって飛んでいった。
矢が命中するとドラゴンは一瞬ひるみ、その隙に妖精たちが一斉に攻撃を仕掛けた。光と闇が交錯する中、リズは自分の力が妖精たちの助けになることを実感した。
「人間だ!」
「なぜ人間がこんなところに!?」
先ほど仕掛けた妖精たちがリズを見て驚愕する。
みんな白銀の身体に青い瞳。そしてドレスのような黒衣を身に纏っている。
これがフェアリーたちの本来の姿らしい。
あまりのキュートさに、リズの心は震えた。
か、可愛い……って! それどころじゃない!
「あ、あの! フェアリーはどこですか!」
「ん? フェアリーは我々だが?」
「あ……」
そうだった。
みんな同じ名前で、同じ見た目なんだ。
忘れていた。
これでは、フェアリーを探すなんて……
いや、こっちを見ればアイツから気づいてくれるはず。
『妖精ども。我々は援軍だ。片腕を失ったフェアリーが戻って来なかったか?』
ウンディーネの問いに妖精たちがピンと来たらしく。
「ああ! アイツか!」
「誰かアイツを見た者はいるか?」
妖精が妖精に聞くと、1人の妖精が手を上げる。
「俺は見たぞ! もっと上だ。アイツは最前線で【彼】と戦っている」
上か!
しかももう【彼】と戦ってるなんて!
「ありがとう! すぐに……」
リズはすぐに向かおうとしたが、何人かの妖精たちがボロボロになって落ちてきた。
その内の何人かは、死んでいた。
「お、おい! 大丈夫か!」
「つ、強すぎる……【彼】は……」
「ふ、負傷者多数……戦線を離脱しました……」
「なんてことだ……」
妖精たちとリズは上を見上げた。
そこには確かに光が交差しており、戦闘が続いていた。
まだ誰か戦っている。
周囲ではドラゴンと妖精の激闘。
そのさらに上では【彼】が暴れまわっているようだ。
ようやく戦況が分かってきた。
「おいお前たち、片腕を無くしたフェアリーを見たか?」
「ぁ、ああ……オレは見たぞ」
「わたしも見ました……」
「さっきまで一緒に戦ってたからな……」
「アイツ……今……【彼】と戦っている……たった数人で……」
最後の妖精の言葉に驚愕したリズは、あそこにフェアリーがいると上を見上げた。
すると更にボロボロになった妖精たちが落ちて来て、その中の生き残りが告げる。
「ほ、報告……部隊は壊滅……戦線を離脱しました……生き残ったのは、ワタシだけです……」
「しっかりしろ! お前、片腕のフェアリーを見たか?」
「か、片腕のフェアリーは今現在……たった1人で【彼】と交戦中……1人で、交戦中……」
「なんだと!?」
「1人でやり合ってんのかよ!?」
「やっぱりアイツは歴戦の妖精だわ……」
妖精たちが驚く中、先の話を聞いたリズはもはや居ても立ってもいられなくなり、即座にシルフの翼を広げて上昇した!
「あ! おい! 待つんだ! 君が行っても足手まといだ! 戻れ人間!」
妖精の声が一気に遠のいていく。
そこにいるのねフェアリー!
待ってて!
すぐ行くから!