side present 二人目の狩人、又は壊れた少女
「うへ、アヤネちゃんそんなに急かさないで~」
「そんなこと言って……!ほら、早く行きますよ、先輩!!」
「何せ、今日は大切な日、ですからね☆」
「ん、セリカ、今度こそ喜んでくれるといいけど」
砂漠の中心に存在する、砂に飲まれかけた都市。
その中に一軒だけ存在する総合病院の一室に、そんな声が響き渡る。
「あ、みんなだ」
その頭の中で反響する声を
頭に猫耳を生やした黒髪の少女、黒見セリカは小さな庭園の中で聞いていた。
病室も、病院も、窓に映る街並みすらなく、
ただ深い深い神秘的な雲海が周囲を閉ざした、青ざめた月の照らす空間。
その中にある教会とも似た小さな家の中の作業台で
銃器と直剣を組み合わせた奇妙な武器の手入れをしていた彼女の手が止まると、
どこか遠くを見上げるように頭を起こした。
「……どうかされましたか?」
静かで落ち着いた声が彼女にそう呼びかける。
その声を発したのは一つの背の高い女性の人形だった。
球状関節が供えられたその手には、おくるみが抱かれている。
そんな人形を、セリカはちらりと見ると再び宙に視線を戻した。
「みんながお見舞いに来た。今日、退院する日だから」
「そうでございますか」
人形は、セリカの言葉に短くそう言った。
セリカは短く身じろぎしてから近くに折りたたんでおいてあった患者衣を手に取ると、
自分の身を包んでいた狩装束の留め具を手早く解いた。
パサリと音を立てて服が落ち、少女らしい成長途上の裸体と、
それから発せられる色香を帳消しにするような痛々しい古傷が露わになる。
「行かれるのですか?」
「うん。私の体質、完全に隠し通せてるとは言えないけどバレると面倒だし」
身支度をするセリカに人形が声をかけ、セリカがそれに答える頃には、
彼女の肢体は患者衣に包まれていた。
セリカは少しの間、髪を止めている水色と白色のリボンの内、血痕で汚れた白いリボンをどうするか考えていたようだったが、
やがて一つ息をつくと手を下した。結局外さないことにしたようだ。
着替えが終わると、セリカは奇妙な武器をほかの武器が飾られた棚の、空きスペースの一つに入れ、
代わりに近くに立てかけてあった古風な空間には似合わない、現代的なアサルトライフルを手に取る。
最後に、並々と赤い液体の入った小瓶をいくつか懐に忍ばせると、家を出た。
家の外にはたくさんの墓石が置かれており、
時折そこから得体の知れない白い小さな何かが現れては、セリカらに手を振る。
そんな彼らに手を振りながらゆっくりと庭園の奥に歩を進める彼女に、人形が従う。
「……やっぱり、まともに眠れないからといって武器のメンテナンスをするのは駄目ね。
あっという間に時間が過ぎる。
あの世界と違って、キヴォトスは眠っても時間が流れるし……とっても面倒」
「繧サ繝ェ繧ォ縲ょ?繧瑚セシ縺ソ縺吶℃繧九?縺ッ繧?a縺ヲ縺翫¢縲ょ菅縺後∪縺ィ繧ゅ〒縺?h縺?→縺吶k縺薙→縺ッ縲∝菅縺ォ縺ィ縺」縺ヲ豈偵□」
その時、おくるみの中から[何か]の声が聞こえた。
まともな人間が聞いたら一瞬で全身から血を吹き出し、狂死してしまいかねない言葉。
しかし、セリカも、人形もその言葉を平然と聞きとどめる。
そして、先程までまともに表情の変わっていなかった少女は、
その[何か]の声を聴いて初めて、諦観の笑みを漏らした。
「……そうね、先輩。まともでいるのはくだらないこと」
セリカは静かにそう声を漏らすと、すっと目を閉じた。
そして、薄く、柔らかく瞼を開く。
「でも、あっちでは私、まともなふりをしていたいから。それだけよ」
「窶ヲ窶ヲ縺昴≧縺」
セリカの言葉に、[何か]が短くそう言った。
彼女とて解っている。自分がもう、みんなの場所にいられるような存在ではないということを、
でも、どうしようもなくそばにいたい。そう渇望する想いを誰が止めることができようか。
「……それじゃあ、しばらくあっちに行くね」
「畏まりました。貴女の目覚めが有意なものでありますように」
人形がそう言って小さく一礼するのを見送り、セリカは一番奥に置かれた墓石に手を伸ばした。
そこから白い小さな何者かが現れ、セリカの手に触れた。
……瞬間、
ふっ……
彼女は、病室のベッドの上で目を覚ました。
手に持ったアサルトライフル……問題なし。
患者衣には輸血液の存在も感じられる。
「セリカちゃん、今大丈夫ですか?」
「お~い、セリカちゃ~ん。おじさんたちが遊びに来たよ~」
その時、病院の個室の扉が叩かれた……あちらから人の気配も多数する。
極めて特異な症状に犯されていたセリカは、特別に病院の個室を使っていた。
普段は数人が一緒の病室を使うのだが、当然といえば当然か。
しかし、その日もこれが最後だ。
「待ってて、今開けるから」
彼女はそう言うと、ベットから起き上がり、病室の扉を開けた。
瞬間、ピンク色の何かが勢いよく自分の腰に飛びついてきた。
ぼふっ
「うへ~、セリカちゃん昨日ぶりだねぇ、元気にしてた?」
「……一応、ね」
……咄嗟にステップ回避をしなかった自分をほめてほしい。とセリカは思う。
小柄で素早い何かというものに彼女は嫌な経験しかない。
具体的に言うと犬とか犬とか犬とか……
そう思いながら自分の腰に抱きつき頭をすりすりと押し付ける少女……
自分の先輩である小鳥遊ホシノをセリカはしばらくじっと見つめた後、
正面に視線を戻した。
「それで、みんなどうしたの?出るまでまだ2時間あるけど」
「もう……セリカちゃん、一か月も寝てたんですよ?
少しでも長く居たいって思うのは……と、当然じゃない、ですか」
「ふふふ、アヤネちゃん。そういうことは恥ずかしがらなくていいと思いますよ?」
セリカの問いかけに黒く短い髪に金色の瞳に眼鏡をかけた耳の長い少女、
奥空アヤネがそう答えるが、徐々に言っていることが気恥ずかしくなってきたのか顔が赤くなる。
そんな彼女に、すぐそばにいたベージュの長い髪と黄緑色の瞳の少女、
十六夜ノノミが笑いかけた。
「……まあ、アヤネが今言った通り、かな。ここで暇してるのもなんだし、手伝うよ」
最後に。ノノミとアヤネの後ろからそう言ったのは、
灰色の髪に青い瞳、白と黒の虹彩を持った狼耳の少女、砂狼シロコである。
彼女達の言葉に、しばらくきょとんとしていたセリカだったが、
やがて、ふっと微笑んだ。
「うん。みんな、ありがとう」
彼女は、小さくそう言った。
「……そう言えばセリカちゃん。いつの間にリボン、変えたんですか?」
少し時間がたち、元々持ち込んでいたものも少なく
病室の片付け自体はすぐに終わって、直ぐに何気ない会話へと切り替わった。
セリカが彼女達の会話に小さく相槌を打っているとふと、気が付いたようにノノミがそう言った。
……いつもセリカがつけていたのは空色のリボンだった。
しかし、今、彼女がつけている片方は赤黒く汚れた白色リボンだ。
一応、洗ったような痕跡は見られるが落としきれなかったのだろうか。
「……ああ、この子?」
そう言ってセリカがそのリボンを優しくなでる。
……まるで、それに意志があるかのような手つきと言葉だった。
「ふふ、かわいいでしょ。だいぶ前にもらったものなの」
「そ、そうですね」
優しく、そして悲しげに笑うセリカに、ノノミはただ、そう答えた。
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「セリカちゃん、早く早く~」
「先輩、どうしたの?こんなに急かして」
夕暮れ。退院の手続きと最後の検査を終え、アビドスの制服に身を包んだセリカ。
そんな彼女の目に懐かしい自分の高校が映った辺りで、
急に最後尾からのんびりついてきていたホシノが、彼女の手を引いて走り出した。
療養中だったセリカに合わせて少しゆっくりとした走りだったが、
それでもどこか逸るような思いが抑えられていないように見える。
「もう、先輩!セリカちゃんはつい最近まで入院してたんですからね!!」
「わかってるよアヤネちゃん。でもでも~、早く見せてあげたいじゃん?」
「あはは、ホシノ先輩ったら。気持ちはわかりますけどね」
「……むう、先を越された」
他の少女たちも、その2人の姿を思い思いのことを言いながら追いかける。
小走りとはいえどキヴォトス人、あっという間に正門まで到着する。
しかしホシノはそこでは止まらず、そのままの勢いで校内に入り、階段を駆け上がる。
景色が流れていく。あの時焦がれた景色が、何気ない日常の色が。
……けれどどうしてだろう。あれだけ焦がれていた景色であるのに……なのに……
「ついた!」
気がつくと、ホシノの足は見慣れた教室の前で止まっていた。
扉ががらりと開く。そこには……
「……」
色紙で作られた花輪飾りで彩られていた。
ファストフードやお菓子ばかりだが、机には一杯のご馳走が並べられていた。
自分の机の上には、大きなケーキが。
そして、飾りの中心のカードには、
パンッ
背後で、心地よい破裂音が連続した。
「セリカちゃん、退院おめでと~!」
「セリカちゃん、退院おめでとうございます☆」
「セリカちゃん、退院おめでとうございます!」
「セリカ、退院おめでとう」
それに続いて発せられる揃っているようで、微妙に揃っていない祝福の声。
振り返ると同時、身体にカラーテープと紙吹雪がかかる。
……退院おめでとう。先ほど見たカードには確かにそう書かれていた。
「さあさあ、遠慮しないで。座って座って~」
「……うん、わかった」
ホシノに押されるようにしてセリカはいつ振りかの自分の席に座る。
……きっと、入院している間も掃除してくれていたのだろう。
1か月放置されていたとは思えないほど綺麗だ。
そして、その上にはやはり大きなホールケーキ……
「……このケーキは」
「それは~、みんなでお金を出し合って作ってもらった特製のケーキなんですよ~」
「ノノミ先輩が有名なケーキのお店を紹介してくれて、
そこに依頼して作ってもらったんです」
「そっか……ありがとう」
セリカはそう言うと、もう一度ケーキの方を見た。
白いクリームに、自分が好きだといった記憶のあるフルーツ。
……まさしく、自分のために、自分のためだけに作られたのだろう。
「……それじゃあ、切り分けよっか」
「それは駄目。そのケーキは全部セリカの」
セリカの言葉を、シロコが間髪入れずに否定した。
……そんなことはわかっている。
セリカは心の中でそう呟く。
でも、このケーキは自分にふさわしくない。
このケーキは、正常な黒見セリカが受け取るべきだったものだ。
それに、今の自分にこのケーキを一人で食べきることができる気が、彼女には全くしなかった。
……だから、もっともらしい言い訳であり、本心を言うことにした。
「でも、私はみんなで一緒にこの味を楽しみたい。その方が、私もうれしいから」
「……セリカちゃん」
教室が、少しの間だけ静まる。
誰もが彼女に視線を向ける中、セリカは次の言葉を紡いだ。
「それに、これは私のケーキなんでしょ?じゃあ、私がどうしようが私の自由、でしょ?」
「……確かに、そうかもしれませんね。それに、セリカちゃんがそう言うなら……」
アヤネが小さく俯き、そう呟く。
が、直ぐに顔を上げるとビシッとセリカのことを指さした。
窓から移り込んだ日の光が、眼鏡に反射してきらめく。
「でも、セリカちゃんの取り分は一番多くしますから。それだけは絶対に譲りません!!」
「……ふふ、ありがとう。アヤネちゃん」
セリカはまた、ふっと微笑んだ。
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……あっという間に夜になった。
けれど、小さな学校の小さなパーティーは続いている。
ホシノ先輩も、ノノミ先輩も、シロコ先輩も、アヤネちゃんも。
みんな、笑っている。
心の
「セリカちゃん。ほっぺたにクリームついちゃってますよ~?」
「……あ、ホントだ」
ノノミ先輩の言葉通り頬にクリームが付いていた。
指先でそれを掬い取り、口に含む。
「ほらほらセリカちゃん。このおさかなナゲット、もう食べた~?」
ホシノ先輩が、私の肩にしだれかかりながら目の前で魚型のナゲットをぶらぶらさせる。
「まだ、ね。ケーキを食べるので忙しかったから」
そう答えつつナゲットを受け取ると、私はそれの頭辺りをかみ砕いた。
その様子を見て、ホシノ先輩が言う。
「うへ、こうしてみるとやっぱりセリカちゃんは猫ちゃんみたいだねぇ。
いや~、おじさん、こんなかわいい猫ちゃんと居られて幸せだよ~」
「……ちょっと先輩、私は猫じゃないわよ」
私は精一杯、昔の私のような反応を返した。
「……そうだ。明日も休みにして、どこかに遊びに行かない?
自転車を借りて、みんなでライディングでも……」
シロコ先輩が
……けれど、シロコ先輩の化け物じみた体力についていける人物など
冷静に考えてそういないだろう。
「それ、シロコ先輩がしたいだけじゃないですか……」
「おじさんぐらいの歳になるともうつらいよ~。せめて外郭の水族館に行こうよ~」
「……」
「……もう、ホシノ先輩ったら。私たちとそんなに歳違わないじゃないですか」
周囲からそうツッコミが入り、シロコ先輩が心なしかしょげた顔をする。
……そう言えば、ホシノ先輩が年齢のことでぼけた時、
ツッコミを入れるのはいつも自分だったことを思い出す。
「ん……じゃあ、外郭の水族館までライディング……」
「なんでそんなにライディングに拘るんですか……?」
「……何となく」
「何となくって何ですか……」
迷った末に若干キメ顔気味にシロコ先輩がそう言ったため、
アヤネちゃんが呆れ気味にそう言った。
「……うへへへ、シロコちゃんは変わらないな~」
「はぁ……シロコ先輩らしいといえばらしいですが……ふふっ」
「そうですね~。いつも突然突拍子もないことを言って……うふふ」
「むう、みんなしてそう言う」
「……」
みんなに笑われて、シロコ先輩がぷくりと頬を膨らませる。
……ほら、笑えよ。
「……あ、そうだ!今まで忘れてた!」
アヤネちゃんが突然そう言うと、何やら近くの棚まで走っていって、そこから何か取り出した。
「……ハンカチ?」
一枚の、丁寧に折りたたまれたハンカチだった。
何の変哲もない、白地に水色のラインの入った……いや、違う。
それに気が付いた私に、アヤネちゃんが声をかける。
「退院のお祝いに作ったんです。セリカちゃん」
そこには、デフォルメされた対策委員会のみんなの顔が丁寧に丁寧に刺繍されていた。
「これは……」
「……どう?気に入って……くれた?」
いつの間にかアヤネちゃんから敬語が消え、
ホシノ先輩も、ノノミ先輩も、シロコ先輩も。
みんな、
……ほら、大切なみんなからの贈り物。かけがえのない贈り物。ずっと帰りたかった現実の象徴。
……ほら、
ほら、笑って、心から。まやかしの微笑みではなく、心から。
笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え
笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え
……頼むから、私。
「無理しなくてもいいんだよ、みんな」
……結局、私からこぼれたのはそんな言葉だった。
みんな、取り繕っていた笑顔が崩れる。
みんな、苦しそうな、今にも泣きだしそうな顔になる。
……窓に映る自分を見る。
光のない瞳。啓蒙を開いたヘイロー。悲しいほど表情がない、自分。
「ごめんなさい。何も感じられないの。何も……」
「……っ!!謝らないで、セリカちゃん!!」
謝る私を、アヤネちゃんがぎゅっと抱きしめた。暖かい。吐息が心地いい。
「……セリカちゃんは何も、何も悪くないから。
だから、お願いだから謝らないで……」
アヤネちゃんの瞳から、ぽたぽたと涙がこぼれる。
次に、背中に僅かに感じていた重みが、ずん、と重くなる。
「ごめんね。守ってあげられなくて。傍にいてあげられなくて」
……ホシノ先輩から、聞いたこともないような悲し気で、悲痛な声が聞こえた。
「……悪いのはセリカちゃんを苛んでいた病気です。なんの心配も、いりませんから」
「……ちょっとずつ。ちょっとずつ。きっと良くなる。思い出もまだたくさん作れる」
ノノミ先輩の腕が、シロコ先輩の腕が、私を包み込み、抱擁する。
「「「「だから、」」」」
……笑って。
…………とっても、暖かい。
(狩人のお姉さん、笑って)
(私たちの分まで、笑って)
(獣になり果てた俺の分まで、笑ってくれ)
幻覚が、私に呼びかける。悲しげに、呼びかける。
白い大きなリボンをした少女が。
真っ赤なブローチをした女性が。
オルゴールに耳を傾ける、長身の男性が。
……でも、
「……ごめんね」
私はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。抱擁はほどけ、幻影は掻き消える。
「……ちょっと、外の空気を吸ってくる」
「セリカちゃん……!」
扉へ向かう私に、アヤネちゃんが手を伸ばす。
その手を、私はやさしくからめとった。
「直ぐに、戻るから」
手が、ほどける。
その隙に、私は部屋の外に出て、扉を閉めた。
……部屋の中から聞こえる微かな嗚咽は、きっと気のせいではないのだろう。
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暗闇と月明りに包まれた廊下を、セリカは遠い昔の記憶を頼りに進んでゆく。
然程時がたたぬうちに彼女は屋上に出た。
「……きれい」
月が青い。流れる夜風は心地いい。
鮮血の香りも、獣の声も聞こえない。
……でも、そんなことは今はどうでもいい。セリカは辺りを見回す。
つけられている様子は、ない。
ここなら誰にも見られないし、聞こえないだろう。
「……っはぁ」
セリカは大きく息をついた。そして、
「なんで笑えないのよこの血みどろ野郎っ!!!」
少女の怒声は、夜の砂漠の彼方に吸い込まれて消えた。
セリカはその場に小さく、小さくうずくまる。
いっそのこと忘れてほしかった。
もういないものとして扱ってほしかった。
その方が、ひと時の苦しみだけで済むから。割り切ってしまえるから。
「ずっと、ずっと望んでたことでしょう?やっとみんなに会えたんでしょう……?」
強く、強く握り締められた拳からじわり、じわりと鮮血があふれる。
しかし、彼女は気にも留めない。
むしろ、その痛みが心地よかった。自己満足だとしても、
自分が罰を受けているような、そんな気持ちになれたから。
「笑い、なさいよ。みんなに、笑ってあげなさいよ。
この、ろくに狩りもできない木偶人形がっ……!!」
それは、自分に対する怒りであり、悲鳴のようだった。
「笑ってよ、笑えよ、笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え
笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑えっ!!!!!」
そう言ったきり、静まり返った屋上をただ微かな嗚咽だけが満たす。
……ゆっくり、ゆっくりと人影が起き上がる。
「……そろそろ、戻らなきゃ」
セリカはそう呟くと、そのまま立ち上がろうとする。
……が、その時、彼女の身体が大きく揺れた。どさりと、物音を立てて壁に手をつく。
その際、手からあふれる鮮血が、壁を伝って流れ出した。
ふと、セリカはその方を見た。
そこに映っていたのは、
月明りに照らされながら、歪な笑みの形に口元を歪め、絶えず大粒の涙を流し続ける少女の姿。
「……頼むから、私。笑ってよ」
かすれた声で、セリカは血に映る自分にそう呼びかけた。
……鮮血に映る自分も、全く同じように口を動かした。
セリカはしばらく自分自身を見つめていたが、
今度こそ立ち上がると懐に血塗れの手を入れた。
そこから取り出したのは、赤に極めて近いオレンジ色の液体で満たされた薄汚れた小瓶だった。
セリカがその蓋の表面を指先で軽くぬぐうと、かちりと小さな音を立てて、鈍色の太い針が飛び出す。
セリカは自身の太もも目がけて大きく振り上げた。
ドスッ
音を立てて針の先端が、深々と皮膚の奥に吸い込まれ、
中の液体があっという間に体内に流れ込む。
セリカは確認するよりも早く容器を引き抜くと投げ捨て……
ようとして思いとどまり、懐にしまった。
……その変化は劇的だった。
先程までだくだくと血が流れていた手のひらの傷が急激に閉じ、
あっという間にみずみずしい少女の肌に戻る。
何より、先程までいびつに作られていた笑顔が消え、
どこか恍惚として呆けたものに変わる。
「……うん。もうだいじょーぶ」
若干ろれつが怪しくなりながらセリカはゆらゆらと昇降口に向けて歩き出す。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
カツン、カツンという階段を下る音と共にふわふわとしたセリカの声も小さくなる。
その様子を、いつの間にか現れた歪んだ灯火のふもとにいる
青白い奇妙な小人たちが、心配そうに見つめていた。
ども~、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
……楽しんでいただける内容ではない気がする。うん。
それはさておきセリカちゃんってかわいいですよね。
正統派ツンデレで苦労人、ちょっとからかうと想定以上に反応してくれる。かわいい。照れちゃってる姿も可愛い。ほっぺたもちもちしたい。お耳さわさわしたい、
手作りラーメンおいしそう。いや、絶対おいしい。食べさせて。褒め殺していつもの反応できなくなるぐらい顔真っ赤にしたい。デレるのも可愛い。あたまわしゃわしゃしたい。水着セリカちゃんも巫女セリカちゃんもみんな好き。
か わ い が ら せ ろ (迫真)
……でも、それと同時に脳内の悪魔がささやくんですよ。
ああ、押しを曇らせてえって……。
ただ曇らせるんじゃないんです。
私、精神異常をきたした女の子が大好きでして……まあ、はい。
セリカちゃんってキヴォトスが頭キヴォトスだから(?)霞んでるんであって
ごく普通の女子高生だと思うんですよ。でもって精神は極めて善人寄りで、
精神強度をホシノ先輩がダイヤモンドとするなら(硬度は高いがドストレートにたたけば割れる)思うに、割とお豆腐なんですよ。でもってキヴォトスだから殺人の何たるかについても経験が薄いと。
そんな子が獣狩りの夜に叩き込まれたら……まあ、ぶっ壊れますよねっていう。
ともかく、今回、性癖ににとてもとても素直になってしまいました。
不快になられた方にはマジで申し訳ない。
でも後悔はしてません。
泣き顔のセリカちゃんも、壊れちゃったセリカちゃんも等しくかわいい。
とりあえず血い渇どうしよ……
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