極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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高評価ありがてえ……。
ま、それはさておきですね。
今回グロ注意、精神ダイレクトアタック注意。苦手な人はとことんダメな奴が来るんで
身の危険を感じたらブラウザバックを極めて推奨します。

……そのうちR18の方に移動するかも。エロじゃなくてグロの方で。


side past 黒見セリカ、又は見初められた少女(1)

 

……夕刻。一昔前のレンガ造りの街並み。その石畳の通路の隅で、一人の少女が眠っていた。

どこかの学校の紺色の長袖の制服にスカート。

黒く、長いツインテールは無造作に地面の上に投げ出されている。

しかし何より目を引くのは、頭頂部から生えた猫耳と、すぐそばに放り出された、

かわいらしく飾り付けられてはいるものの女子高生が持つには無骨なアサルトライフルだろう。

 

「……ん、んう?」

 

どうも起きたらしい。少女がもぞもぞと身じろぎすると身を起こした。

それと同時に、頭上に天使の輪のような赤い光輪が現れる。

少女はしばらく寝ぼけ眼をこすっていたが、

周囲に視線を移した時、その瞳が驚愕で見開かれた。

少女はもう一度瞳を激しくこすりもう一度見る。

 

「……え?」

 

少女の口から訳が分からない、と言いたげな声が漏れた。

少女は目をこするのをやめ、両手を自分の頬の近くへと持ってくる。

そして……

 

 

パンッ!!

 

 

小気味よい音があたりに響く。少女が自分の頬を張ったのだ。

しかし……

 

「っ!いったぁ……!」

 

次の瞬間、少女を襲ったのは自分でも思わぬほど力を込めて頬を張ったことによる激痛だった。

つまり、ここは夢ではない。となると、次に浮上してくる問題は一つ。

少女はもう一度周囲を見回す。

レンガ造りの建物、辺りには砂山が全くといっていいほど見当たらない。

そして何より、自分の記憶が正しければ意識が戻る前の時間は夜だったはず……

数秒間の静止、次の瞬間。

 

 

「一体全体、どこなのよここ~っ!!!」

 

 

少女の悲痛な叫びがあたりに響き渡った。

 

「お、落ち着きなさい黒見セリカ……ここはいったんみんなに連絡を……」

 

……そうは言うものの今のセリカは明らかに落ち着いている状態ではないだろう。

ともあれ、彼女はアビドス対策委員会の仲間に連絡するために自身のスマホをさが……

そうとしたところで手が止まった。

 

「……あれ?私のバッグは?」

 

そう。彼女がいつも持ち歩き、愛用しているスポーツバッグがどこにもなかったのだ。

彼女は基本的にほとんどの荷物をそこにまとめて整理整頓する癖がある。

素晴らしい習慣ではあるが、今回ばかりはそれが仇となった。

 

「う、嘘……どうしよう……」

 

それを理解した途端、彼女の顔色が明らかに悪くなった。

誘拐……行方不明……

そんな単語が彼女の脳裏をぐるぐると渦巻く。

 

「み、みんなに連絡しなきゃいけないのに……さっきからこの町、不気味だし。

なんか、生臭いし、変な臭い、するし……」

 

セリカは自身の愛銃を抱きかかえたままその場に再びうずくまってしまった。

見知らぬ場所に連れてこられたことに対する恐怖と

町から発せられる異様な雰囲気に、彼女の精神は容赦なく蝕まれてゆく。

 

「そ、そもそも何で私、こんな場所に……?た、確か裏路地に入って……」

 

……少しでも精神を落ち着けるためか、必死でその時のことを思い出そうとする。

だが、裏路地に入り、奥の曲がり角を曲がったところで。

記憶に鍵がかかったようにぷっつりと景色が途切れる。

まるでそこに思い出してはならない[何か]がいた、とでも言うかのように……

 

「……う、うぅ、なんで、なんでこんな」

 

うずくまるセリカの声にかすかな嗚咽が混じる。

普段はツンケンして真面目な性格のセリカだが、それでも普通の女子高生であることには変わりない。見知らぬ場所に連れてこられて、不安にならないわけが無いだろう。

……しかし、そんな彼女のもとに物音が聞こえてきた。

 

「……足音?」

 

そう足音だ。それも複数人が集まってぞろぞろ歩いているような音だった。

その足音を聞いたセリカの脳裏で、思考がひらめいた。

 

「……そうよ。どこかはわからないけどここは街なんだから……人がいるに決まってるわ。

決して捕まえられたわけじゃないんだから。ちょっと電話を貸してもらってみんなに連絡を取れば……!」

 

そう口に出してみると、案外何とかなるような気がしてきた。

セリカは一つ息をついてから立ち上がると、物陰から足音がする方へ出た。

そこにいたのは……

 

「……大人?」

 

セリカが呆然とした声を上げる。

そこにいたのはまがうことなき大人だった。しかも、髭を生やした男性の。

そして何より、彼らにはヘイローがなかった。

キヴォトスのいわゆる人とよべる住民は総じて子供であり、高校生以下の少女である。

それに、誰もが必ず驚異的な肉体強度を保証するヘイローというものを浮かべていた。

しかし、目の前にはその何にも当てはまらない大人。

それも複数人。

顔色がやけに悪く松明や教科書でしか見ないような古めかしい農具を手に持っており、

服もボロボロ。何やら物々しい雰囲気だが、

あちら側も突然現れた自分に驚いているようだった。

 

……もしかして、キヴォトスの外まで連れ去られてしまったのだろうか?

 

そんな言葉が脳裏をよぎるが、セリカは慌ててその言葉を振り払った。

もしそうだったとしても今はそれより重要なことがある。

 

「あ、あの。ここがどこだかわかりませんか?私っ

 

連れ去られちゃったみたいで……

 

そう言って助けを求めようとしたセリカ。

しかし、その言葉は最後まで続くことはなかった。

 

突然先頭の男から突き出された鍬が、彼女の胸を穿った。

 

「がっ!?」

 

その衝撃故、セリカは勢いよく後方に倒れ込む。

ヘイローの存在故貫かれることこそなかったが、衣服に穴が開き、

わずかながら血がにじむ。

 

「な、何をいぎっ!?」

 

突然攻撃され、セリカは思わず声を上げるが、

その声は己の腹に振り下ろされた斧により苦悶の声に変わる。

息が上手くできない、鈍い痛みが走り、生暖かい感触がする。

感じたこともない皮膚を切り付ける痛み。

それを何とか押し殺し、セリカはキッと怒りを込めた視線を襲撃者に向ける……が、

 

「この獣がっ!!!」

「……え?」

 

その、感じたこともない身の毛もよだつ憎悪のこもった声にその感情は霧散した。

男の一人と視線が合う。

雑に整えられた長い髪の奥には、殺意と怨念がごちゃ混ぜになった

ある種の執着ともとれる粘ついた視線が見える。

……いや、その一人だけではない。いつの間にか彼女を取り囲んでいる

全ての人から、身に覚えのない憎悪を向けられる。

その異常に、セリカの身は凍てつく。凍るような恐怖が、全身をなめる。

 

「……ひっ」

 

結局、彼女からこぼれたのは掠れるほど小さな、おびえた声だった。

瞬間、群衆の凶刃が、憎悪の炎が、少女目がけて襲い掛かった。

 

「殺せ!!友人の敵……!」

「穢れた獣がっ、燃えてしまえっ!!」

「やめっ痛い痛いいだい痛い痛い!?」

 

全身が切り刻まれ、松明の炎が押し付けられる。

苦痛から逃れるために手を伸ばせば、その手は踏みつけられ刃物で突かれる。

逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……!!

気がつけば、セリカの脳裏はその言葉で支配されていた。

早く、この場所から一刻も早く……!

 

カチャ

 

その時、セリカの手が何かひんやりとしたものに触れた。

……自分の愛銃、シンシアリティ。

それに触れたことで、激痛でぐちゃぐちゃになっていたセリカの意識が覚醒した。

 

「にげ、なきゃ」

 

並々ならぬ死の気配に、セリカの身体がはじかれたように動き出す。

キヴォトス人の身体能力はもともと並外れたものがある。

それに火事場の馬鹿力が加わるのだ。

セリカは跳ねるように起き上がると、振り下ろされた斧と大鉈を無理矢理振り払い

正面に闇雲に走り出した。

 

「獣が逃げたぞっ!!」

「くそっ、逃がすな、追え!!」

「やめろ、深追いするな!」

 

先程の群衆が何か喚く。ふと背後に目をやれば、数人は逃げる彼女を見逃したようだが、ほとんどの人間がセリカのことを追いかけてきていた。

 

「あ、ああっ……!」

 

恐怖に突き動かされるようにセリカは市街を逃げ惑う。

その姿を見た他の市民も、何か声を上げるが、それはもうセリカに聞こえてはいなかった。

必死に、必死に足を動かし続ける。

ふと目をやれば血にまみれ動かなくなった人の死体が、

皮をはがれ、磔にされて焼かれる獣の死体が、彼女の視界に飛び込んでくる。

見るだけで精神を削るような非日常が、彼女の記憶に嫌でも刻まれてゆく。

 

「だれか、誰か助けて、助けて……!」

 

掠れた悲鳴がこぼれる。しかし、その言葉に答える正常な人間は、ここにはいないのだ。

 

ダァン!

 

「あぐっ!」

 

銃声と共に背中に走る鈍い衝撃。

銃弾はあまりキヴォトス人に効果がないはずなのに、何故か身体に食い込むような痛みが走る。

それに体勢を崩したところでもう一射。しかし、それは辛うじて足元に着弾する。

セリカは血で滑る石畳に足を取られながら、再び駆け出した。

 

大通りじゃだめだ、裏路地……裏路地なら、

 

セリカの脳裏をそんな言葉が駆け巡る。

ふと辺りを見渡せば、不気味な裏路地が視界に飛び込んできた。

正常な判断ができるなら、見知らぬ土地で

どのような地形になっているかもわからない裏路地に入ろうとは思うまい。

しかし、今の彼女にそう判断できるだけの理性は残っていなかった。

セリカは脇目も降らず裏路地に飛び込んだ。

 

「裏路地に入ったぞ!」

「お前らはそのまま追え、私はあちらから回り込む!」

 

背後からそんな声が聞こえてくる。

 

……失敗した?

 

一瞬、そう考えたセリカだったが、次の瞬間、その言葉は霧散することとなる。

 

ぐちゅっ……

 

「きゃあっ!?」

 

足を、何か滑るものが踏み抜いた。

暗がりの裏路地で、そもそもろくに足元を見ずに走っていたため、それに気が付かなかったのだ。

勢いよく地面に倒れ伏すセリカ。

傷を通して鈍い痛みが全身に走るが、それを何とかこらえて彼女は起き上がる。

その時、揺れるセリカの視界が自分の踏み抜いたものを見た……見てしまった。

 

「!!あ、ぁあ……」

 

血塗れのまま地面に仰向けに横たわった、人だったもの。

その腹の辺り、そこには本来あるべき服も、皮膚もなかった。

ただ、食い破られたように開かれた腹の中から、ボロボロのそれが、

それを踏みぬいた自分の足に巻き付いて……

 

かくん

 

死体の首が先程の衝撃で横になった。その濁った視線がセリカを射抜いた。

 

「ぅあああぁあああっ!!?」

 

もはや声にならない絶叫が少女の口から発せられる。

セリカは血みどろの肉を振り払うように、裏路地の奥へ、奥へと突き進む。

 

夢、夢、これは悪い夢。覚めればきっとそこはいつもの教室で、

みんながこの悪夢を見た私を慰めてくれる。

 

「だから、だから、早く覚めて……!」

 

悲痛な声が彼女の口からこぼれる。けれど、この現実の悪夢は覚めることはないのだ。

 

「いたぞ!!獣め……!!」

「あっ……!」

 

正面から松明と木の板を手に持った男が迫ってくる。

慌てて引き返そうとすれば、鉈を持った男と、鋤を持った男が彼女を追いかけてきていた。

 

挟まれた……!

 

セリカがそれを理解した時には、もう手遅れだった。

 

「ようやく追い詰めたぞ……」

「俺の息子を、妻をよくも……同じように八つ裂きにしてやる」

 

憎悪の声が、少しずつ、少しずつ彼女を裏路地の隅へ追い詰める。

 

「いや、来ないで……来ないで……」

 

セリカは嗚咽交じりの声を漏らすしながら、身体を縮めて震える。

あと少しで、相手の間合い。そうなればおしまいだ。

あの時と同じように、また一方的に嬲られる。四方八方から切り付けられ、

きっと、きっと道中で見た獣と同じように全身の皮をはがされ、生きたまま焼かれる。

 

いやだ、いやだ、いやだ、いやだ……

 

「いやっ、来ないでえぇぇえ!!!」

 

セリカの絶叫が、あたりに響き渡った。

 

 

 

何が起こったか。きっと自身も病に侵され、

狩るはずの獣となりかけている市民は理解することはないだろう。

目の前の獣が急に甲高い咆哮を上げたかと思うと、先ほどから肩にかけていた何かの先端を、

こちらに向けた意味など。

 

 

タタタタタタタッ

 

 

小気味よい音と共に裏路地を照らすマズルフラッシュ。

全身を無数の衝撃と熱が犯したかと思うと、次の瞬間には意識が、命の灯火が消し飛んだ。

 

 

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

セリカは粗く息をつく。

何が起こったかわからない。ただ、嗅ぎなれた煙の香りが、辺りを満たしている。

恐る恐る、彼女が自分の腕の中を覗く。

 

「……あれ?私なんで」

 

そこには、知らず知らずのうちに自身の愛銃が握られていた。

その先端からは、硝煙が立ち上っている。

そして、銃口が向けられた先は……

 

「……え?」

 

血の海だった。先程まで自身に襲い掛かろうとしていた人間が、変わり果てた姿で紅に沈んでいた。

そのうちの2人は、うつぶせに倒れ伏し、その身体からだくだくと鮮血を流していた。

何発か貫通したのか、背中に赤黒い穴がぽっかりと開いている。

時折、痙攣を繰り返しては血の海に波紋を広げる。生きているのか、死んでいるのか、わからない。

そして、1人は、頭部が打ち砕かれていた。

割れ落ちたその中から、ピンク色がこぼれる、こぼれる、こぼれる。

その光のない瞳が、セリカを見た。

その視線が、先程自分が踏みぬいたそれと重なった。

 

 

その時、セリカの心の中で辛うじて保っていた何かが、音を立てて壊れた。

 

 

______________________________

 

 

……どれだけ走ったかわからない。何度も、何度も転んだ。

気がつけば、背後には何もいなかった。

いや、もしかしたら気がつかなかっただけで何かいるのかもしれない。

整えた髪は乱れ、いつの間にほどけたのかリボンが片方ない。

制服は誰のものかもわからない血でいっぱいで、全身がじくじくと痛む。

でも、そんなことはどうでもよかった。

 

セリカは、ゆるゆると自分の両手を掲げた。

手のひらはぬるりとした血液で覆われ、右手の手首あたりに、赤黒い塊が……

 

「……っ、うぶっ」

 

胃の中身がせりあがってくる。

ほとんど反射的にセリカは立ち上がると、近くの水路の方へ歩いて吐しゃ物を吐き出した。

そのまま、彼女はその場に崩れ落ちるように座り込む。

 

……人を、殺した。

 

そのことが、身体の内を這い上り、心をギリギリと締め付ける。

理性が呼びかける。

仕方がなかった。ああしなければ自分が死んでいた。相手は正気じゃなかった。あれは正当防衛だ。

だが、心が叫ぶ。

そんなもので取り繕って何になる。私は人を殺した。道端に転がっていたあの遺体と同じように。

人を……

 

「ひとを、ころした……」

 

嗚咽交じりのかすれた声がでた。

見えないように閉じていた光景がフラッシュバックする。

飛び散る鮮血と肉片が、同じ人から出るとは思えない断末魔の声が。それは、全部、全部自分が作り出したもので……

 

「いや、いやだ。いやだよう……」

 

自分の顔が血塗れになることも厭わず、セリカは顔に爪を突き立てるように覆うと蹲った。

 

「これは、悪い夢。悪い夢なの。だから、お願い。早く、早く、早く……」

 

早く覚めて……

 

一人ぼっちで、セリカが慟哭する。しばらくの間、裏路地の門を少女の泣く声だけが満たす。

……しかし、そこに近づく影があった。

 

「グルルル……」

 

唸り声をあげて、裏路地をそれが闊歩する。

成人男性をゆうに越す体躯。

黒い毛並み、爛々と輝く金色の瞳。異常に盛り上がった筋肉。

そして、半開きになった口から絶えず溢れる唾液。

……獣。動物とも生き物とすら言うことが拒まれる、血肉に飢えたただの獣。

それがここに来た理由はいたって単純だ。

心が壊れ、泣き崩れる少女が発する、甘い甘い血の匂い。それに誘われたのだ。

獣はゆっくり、ゆっくりと匂いを辿って歩く。

そして、見つけた。

息が上気する。肉だ。新鮮な、生きた血肉だ。

あれの肉を喰らえば、血を啜れば、どれほど満たされるだろう。

獣が少女に忍び寄る。そのたびに爪が地面に擦れ、音を立てる。

 

「……何なのよ今度は。もういい加減、に……?」

 

セリカが音源に向けてどうしようもない感情をぶつけようと顔を上げるのと、獣が彼女に飛びかかるのはほぼ同時だった。

視界に映るのは悍ましい獣の乱杭歯と、鋭利な刃物を思わせる凶爪。ただ、それに刈り取られることを悟ることもできず見つめることしか出来なかった。

そして……

 

ダァン!!

 

今まさに自分を喰らわんとしていた獣の姿が、突如身体の側面に突き刺さった散弾により吹き飛ばされた。

 

「え?」

 

何が起こったか分からず、呆けた声を上げるセリカ。その視界に、獣とも、狂った市民とも違う人間が映り込んだ。

 

「また、獣か……匂い立つなぁ、今夜の獣狩りは特に」

 

渋い、落ち着いているようで体内の何かを抑え込んでいるように不安定な男性の声だった。

がっしりとした体躯、2mに届くような背丈。

そして、血に汚れていながらどこか神父のようなイメージを持つ服装。その人物はセリカには目もくれず、体勢を起こした獣を見据える。

獣は散弾で身体が抉れているにも関わらず、突然現れたその男に飛びかからんと体勢を低くする。

しかし、その身体が相手に届くことはついぞなかった。

男が左手に持つ短銃を速射、放たれた散弾で獣がまた怯む。

そのほんの一瞬の隙に男が獣の間合いに踏み込んだ。

その右手に握られるのは、処刑人を思わせる手斧。

 

「オオオオオッ!!」

 

地面と擦れる手斧から火花が飛び散る。

獣のような咆哮と共に、男はそれを勢い良く振り抜いた。

直撃した獣の顎が砕け、すくい上げるようなその一撃により決して小さくないその身体が、跳ね上げられ、宙を舞う。

鮮血が飛び散る。

それを被った男は、獰猛に笑った。

しかし、獣はまだまだ息絶えない。顔の下半分が無惨に破壊されても、まだその瞳から血に飢えた渇望は消えていない。

だが、短期間で多大なダメージを負ったからか、動きが鈍い。

それに対し、男は手斧の持ち手に手を掛けた。

 

カシャン 

 

手斧が延長され、ある種の槍のような形状になる。

男はその最端部を両手で握りしめると、勢い良く獣に向けて振り下ろした。

 

グシャッ

 

血肉が砕ける音が辺りに響く。獣は、今度こそ完全に沈黙した。

 

セリカは、その狩りの一部始終をただ呆然と見つめていた。

何が起こったかわからない。ただ1つ確かなのは、自分を殺そうとしたものを、目の前の男が殺した。ただそれだけだ。

その時、手斧を元に戻した男がセリカの方を向いた。

息が、詰まるような気迫に、セリカは何もできず固まる。

男の目元は白い布で覆われ様子を伺うことは出来ない。

そんなセリカを男は油断なく見つめると、口を開いた。

 

「……姿も性質も妙な獣だ。血の匂いに釣られ、襲い掛かってこないとは」

「へ、あ?」

 

獣。確かに相手はそう言った。私のことを、獣だと言った。

つまり……

セリカは、目の前の男が再び殺気を纏ったことを感じ取った。

 

「ひっ、いや、いやだ。来ないで……!」

 

獣、つまり私が先程狩られたあれと同じものだと、この人も思っている。一歩一歩近づく相手に、セリカは逃げることもできずただ後退りする。

その様子に、男は一瞬歩みを止めると、小さく舌打ちした。

 

「獣患者か、それも理性のある……クソっ」

 

短くそう言ったものの、再び男はセリカに向けて歩き始める。

遂に、セリカは裏路地の奥まで追い詰められた。

 

「……余り動くな。せめて一撃で仕留めてやる」

「や、やだ。やめて、やめて……」

 

涙声でそう訴え、せめてものと両手で抵抗するが、緊張からか、疲労か。何故か力が入らない。左手一本で押し退けられる。

……不思議なほど、優しい手つきだった。

 

「その様子だと、お前は他所から来たのか……同情しよう。

こんな時に来たばかりにな」

「嫌、いやぁ……」

 

髪がまくりあげられ、少女らしい白い首筋が露わになる。

そこの中心めがけ、男は手斧を大きく振り上げた。そして……

 

「お願い……ホシノ先輩、ノノミ先輩、シロコ先輩……アヤネちゃん……」

「……!」

 

今まさに振り下ろされようとしていた手斧が、ピタリと止まった。髪がまくられた結果、隠れていたセリカの素顔が露わになる。

 

「誰か、誰か助けて……」

 

血がこびりつき、瞳からは絶えず涙がこぼれているが、その容貌は間違いなく歳幾ばくもない少女のものだった。

……身も心もボロボロの奇妙な少女の姿に、自身の愛娘の姿が重なる。

 

(お父さん……!)

 

幻聴だ。まやかしだ。ここで狩らなけれは、また被害が広がる。

男はそう自分に言い聞かせる。

……しかし、その手斧が振り下ろされることはついぞなかった。

 

 




どもー、時空未知です。
さて……有識者に質問です。どのぐらいが、R18Gですか?
中学生の時に断章のグリムとか小説初代ガンダム読んだ私は感覚マヒしててダメなんで教えてください。
どのぐらいがR18Gですか??ぼかして書きゃあいけるやろの精神で行けば大丈夫ですかね?
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
みんなのトラウマ、某神父と初エンカウントでした。
まだギリギリ正気なのでセリカちゃんをギリギリ仕留めませんでした。やったね!
因みに補足、一般通過ヤーナム猟友会の皆様は獣の病のせいで完全に正気を失っているためセリカを獣と判断しましたが、
神父はヘイローと猫耳から、これ、獣かな……?と判断しました。
ということでセリカちゃん精神耐久値、早速マイナスぶっちぎってますがまだまだこれでは終わりません。
次回、ガスコイン、死す。デュエルスタンバイ!

ヤーナム観光短編、どれがいい?

  • 脳に瞳を得かけたナギサ様
  • メンシス学派、柚鳥ナツ
  • 聖職者の獣、伊落マリー
  • 狩人の悪夢に囚われたセイア
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