それはさておき高評価、コメント、誤字報告ありがとう御座います!まじで助かってます……
「うっ……」
小さなうめき声をもらして、セリカは目覚めた。
全身を包むのは神父を思わせる狩装束。手にはレイテルパラッシュとシンシアリティが握られている。
そんな彼女が目覚めた場所は、辺りを壁に囲まれた薄暗い空き地だった。
空は微かにオレンジ色に染まり、夕暮れ時を示している。
セリカは小さく身動ぎして起き上がると、空き地の奥にある大門に向けて歩き出した。
大門の奥は廃墟と化した市街だった。
辺りに落ちた枯れ葉を踏みしめながら、セリカはその中を進んでゆく。
ちょうどT字路に差し掛かった頃、セリカはその片側を息を潜めて覗き込んだ。
「グルルル……」
「グウッ」
そこにいたのは二匹の大型の獣だった。その場をゆっくりとうろつきながら獲物を探しているようだ。
幸いなことに、自分の方に気がついている様子はない。
セリカはそれを確認すると、向こうの方へと移動する。
レンガの階段を上り、柱の立ち並ぶ石畳を進む。
その時、
「……ガウ?」
セリカの背後で、小さな鳴き声が聞こえた。
彼女がゆっくりと振り返ると、小柄な人間をそのまま獣にしたような生き物が、ゆっくり起き上がるところだった。
寝ていたのだろうか?その場に少しの間固まった後、ようやくセリカの存在に気がついた。
「……!」
……血肉。生きた血肉。
両手の爪を振りかざし、セリカに駆け寄る獣。
それに対し彼女が取った行動は簡潔だった。
シンシアリティをしまい、代わりに何処からともなく火のついた松明を取り出したのだ。
「ウゥッ!?」
獣の動きが変わる。セリカが左手に持った松明を恐れるように、腕で顔を隠し、光が届くか、届かないかのギリギリの場所で立ちすくむ。
「……そう、それでいいのよ」
セリカは小さく呟くと、そのまま反転し、駆け出した。
獣は慌てて追いかけたものの、彼女の走る速度の方が遥かに速かった。
セリカはそのまま曲がり角をいくつか曲がり、中に梯子が取り付けられた小さな塔の前で立ち止まると、武器と松明をしまい、梯子を上がり始めた。
然程経たぬうちに頂上にたどり着くと、セリカは一息ついて改めて武器を取り出す。その時、
「……何者……?ああ、なんだ。君か」
しわがれた男性の声が響いた。
セリカが声がしたほうを向くと、手に折りたたまれたノコギリ槍と短銃を持った背の高い男が少し高い場所からセリカの方を見ていた。セリカは軽く手を上げてその声に応える。
「どうも。デュラさんいる?」
「いつもの場所にな。良かったな、丁度帰ったところだ」
「そう、ありがとう」
セリカは短く礼を言うと、すぐ近くの、時計塔の上へと伸びる梯子に取り付いた。
カツン、カツンと音を立ててセリカは先程より更に長い梯子を登る。
そして、頂上まで登り終えたところでセリカは正面に声をかけた。
「こんばんは、デュラさん」
「……誰かと思えば、また貴公か」
そこにいたのは、煤けた狩装束を纏った男だった。
右腕には複雑な機構を組み込まれた刺突杭を装着しており、左手には大型の散弾銃を持っていた。
背後に設置されているのは、大型の旋回可能なガトリング砲だろう。
セリカはデュラの言葉にふっと小さな笑みをつくる。
「そう、また貴公だよ。横、座るね」
セリカは軽くそう返すと、相手の返答を待たず砲台の側の瓦礫に腰掛ける。そして、懐から何かを取り出した。
……薄汚れた酒瓶だった。
中には並々と血に似た液体が入っている。
次に木製の古びたコップを取り出すセリカを見て、デュラは顔を顰めた。
「まだ飲んでいるのか?」
「いいでしょ?流石にここから流れる匂いを嗅ぎつけれる獣はいないし、あっちだと下手に飲めないのよ」
セリカはそう言うと、瓶のコルクを取った。
時計塔の頂上に、嗅いだだけで酩酊してしまいそうなほど濃いアルコールと、血の匂いが立ち込める。
デュラが素早く口元を布で覆う中、
セリカは蕩けた表情になると瓶をコップに傾けた。
トクトクと、真紅の液体が容器の中に注がれる。
液体が今にも溢れそうになるまで注ぐと、セリカは酒瓶を置き、それにゆっくり口をつけた。
アルコールが喉を、食道を焼き、匂いたつ血の香りが肺をいっぱいに満たす。
「……けぷ」
小さく吐息を洩らしたセリカは明らかに酩酊しており、ただでさえ蕩けた瞳は潤んでぼんやりとしている。
官能的な雰囲気を纏ううら若き少女が目の前にいるが、それでデュラが何か反応をすることはなかった。
寧ろ、少し心配した様子である。
セリカはしばらくふらふらとしていたが、やがて気がついたかのようにデュラの方を向くと、のろのろと酒瓶を掲げた。
「デュラさんも、のむぅ……?」
「いつも通り、遠慮しておこう。老いた身体に血の酒は毒だ。
……寧ろ、貴公が飲んでいることの方が私は心配なのだがな」
……匂いたつ血の酒。酒ではあるが、飲料として用いられることはまずなく、基本的に狩り道具として使用される。
離れた場所にいる獣でも惹きつける熟成された血の香り。一度舐めただけでも大型の獣が酩酊し、その強い血の香りがする場所を
闇雲に攻撃し続けるような強烈なアルコール度数。
まともな人間が飲む代物ではない。
しかし、心配するデュラにセリカはゆっくりと首を振った。
「いいの。それに……これをたーくさん、のんでれば……ねむってるきぶんに、なれる、から……うにゅ」
「……そうか。貴公は夜が明けてまだ、夢を見ているか」
デュラはセリカの言葉に小さくそう呟く。
その後、しばらく何か考えている様子だったが、それを振り払うと改めてセリカに話しかける。
「時に、何故私のところへ?いつものように話し相手になればいいか?」
「んぁ、そうだった……」
その言葉にセリカは僅かに身動ぎすると、微かに、笑っているような表情を作った。
「……だいぶまえに、わたしは、べつのせかいからきたって、
いったでしょ……?」
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セリカは、キヴォトスの色々なことを語った。
空が青いこと、学校のこと、そして……友達のこと。
気がつけば酔いはある程度覚めていた。
それらをデュラは時折相槌を打ちながら静かに聴いていた。
「……それで、あっちに帰ってもみんな変わってなくて、
退院した私を心配してくれて、ちょっとしたパーティーもしてくれて……」
そこで言葉を区切ると、セリカは少し寂しそうに言った。
「……一度でいいから、笑いたかったな」
「……そうか」
その言葉に、デュラは短く相槌を打つと、少し考え込んだ。
「……気休めでしかないが、きっと良くなるとも。
話に聞く限り良い友人ではないか。
ここでの出来ごとも、いつか一夜の夢となる」
「……ふふ、ありがとう」
セリカはそこまで行った所で先程まで酔って忘れていた用事を思い出した。
「そうだ。デュラさん、ヤーナム硬貨持ってない?出来れは譲って欲しいんだけど……」
「ヤーナム硬貨?あれならいくらでも余っているぞ。先の夜で聖堂街までも壊滅的な被害を受けたせいで余計に使い道がなくなったしな。今度、倉庫からもう少し持ってくるとしよう」
そう言うが早いかデュラは懐をしばらく漁ると、20枚ほどの硬貨を取り出すと、セリカに手渡す。
「……しかし、どうして硬貨が?貴公も使い道など無いだろうに……」
「あぁ、それはね……」
デュラの問いかけにセリカは答える。
「うちの学校、大量に借金があるの。でもこの硬貨、元の世界で売ったら結構なお金になるのよね。だからたくさん集めて売ってるの」
「借金、か……ヤーナムでは既に形骸化してるな」
「……そうね」
その言葉にセリカは小さく応えると、懐に硬貨をしまい込んで、時計台の下に広がる景色に目を落とすと、もう一度コップに酒瓶を傾けた。
然程経たぬうちに再びゆらゆらとし始めるセリカ。
そんな彼女に、デュラは話しかけた。
「……話は変わるが、あれ以降、嗜好以外に変わりはないか?」
瞬間、ゆらゆらと揺れていたセリカの動作がピタリと止まった。
一時の静寂が辺りを満たす。
「……精々、戦い過ぎたら血を浴びたくなるぐらい。
獣の爪やカレル文字、その上で丸薬を使って意図的に獣性を導かなければあんな状態になることはもうないわ」
そう言うと、セリカは今度は酒瓶に直接口をつけ、中身を体内に注ぎ込んだ。何かを、抑え込むように。
……先程にもまして、セリカは酷く酩酊した。
平衡感覚ももうほとんどないのか、近くの瓦礫にぽすりと音を立ててもたれかかる。
「……あのとき、は……めいわく、かけたわね……」
「構わないさ。寧ろ、盟友を助けられてよかった」
セリカの掠れた小さな声、それにデュラはふっと笑って答える。
その言葉に、セリカはゆっくりと目を閉じて、「そう……」と、一言だけ言った。
再び辺りを静寂が満たす。いつの間にか辺りは夜になっており、青白い月明かりと所々に立ち上る炎のみが、廃墟となった市街を照らしている。
「……ねえ……デュラ、さん」
ポツリと、セリカがそう呟く。
その言葉に対し、デュラは何も言わずセリカを見る。
「……わたし、いい、かりゅうど……?」
「……それは」
デュラが何か言いかけたその時、セリカの身体が淡い燐光に包まれる。次の瞬間には、その小さな後ろ姿は消えていた。
……きっと、眠ってしまったのだろう。
狩人は眠ることはない。眠ると、目覚めを繰り返し、狩人の夢に戻る故。
「……セリカ、貴公は……」
……貴公はもう、血に呑まれてしまった。
貴公は、獣だ。取り返しのつかないほど、狂っている。
彼女の状況を表すなら、この言葉が適当だろう。
けれど、どうしてそのことを伝えられようか。
会話を交わした当初、銃砲を向けたことにこちらを取り殺さん勢いで文句を言ってた少女の心は、余りにも優しく、そして脆かった。
それ故に壊れた少女に、何と声をかけたものか……
________________
朝……
セリカは人通りの寂しいアビドスの道を1人、歩いていた。
目指す先は学校ではなく駅。
スポーツバッグの中には大量の硬貨がぎっしりと詰まっており、これをD.U.中の質屋やら何やらで売り捌くつもりである。
一体これがいくらになるか……
そう思うと、少しだけ心が動いた気がした。
その時、
「"あ、おはよう。セリカ"」
背後から声がかかった。
つい最近聞いたばかりのおだやかな女性の声……
振り向くと、案の上そこにいたのは先生だった。
「どうも、先生。じゃあ、私は用事があるから」
「"え、ちょ、ちょっと待って!?学校はっ!?"」
挨拶するや否や直ぐに反転して学校とは明らかに別方向へ行こうとするセリカに、先生は慌てて声をかける。
それに対し、セリカは軽く顔をそちらに向けた。
「……今日は自由登校日なの。だからバイトに行く、それだけよ」
「"そ、そうなんだね……"」
セリカの端的な説明に頷く先生。
完全にとは言い難いが、なにはともあれ納得はしたようだ。
視線を戻し、セリカは再び駅を目指して歩き始める。
…………
「……何でついて来てるの?」
十歩も歩いていないところでセリカは再び振り返った。
原因は明らかに自分に追従して歩く先生の足音である。
ここまで鬱陶しいと、いくらセリカと言えど目に見えてわかるぐらいには不機嫌になってきた。
しどろもどろになる先生。
「"え、ええと。ど、どこでバイトしてるのかな、って……"」
「……ふーん」
セリカは先生の表情をじっと見つめる。
そこに浮かぶ感情は狼狽、不安……心配。
……そういえば、教室に集合写真があった、とセリカは思い出す。
在りし日の「黒見セリカ」が写った最後の写真が……
セリカは心の中で先生への認識を、脅威に値しない他人から優しい人へと改める。
「……あの集合写真、見たんでしょ?」
「"……!"」
先生の表情に驚愕が加わる。
……図星か。
セリカは続ける。
「あの写真を見て、私の変わりようが心配になって思わず声をかけた……そんなところ?」
「"う……ごめんね、どうしても心配で……"」
「いいのよ、別に」
申し訳無さそうな表情になる先生に対して、
セリカはそう言った。
……昨日、アビドスに借金があると知る否や協力を申し出たことと言い、
今、会って日の浅い自分を心配していることと言い、
この大人は相当お人好しらしい。
……ヤーナムに行ったら、直ぐに死んでしまうだろう。
そんなことを思いながらセリカは口を開く。
「……1ヶ月ぐらい前、急性の病気でつい最近まで昏睡してたの。それ以来、ずっとこんな感じなの。それだけよ」
「"……そう、なんだ"」
辛うじてそう言葉を返したものの、それ以上何も言うことができず沈痛な面持ちとなる先生。
そんな彼女を見て、セリカは少し考え込むと、微笑みの表情をつくる。
「別に、不便はないから大丈夫よ。それより、みんなの方を気にしてあげて。あぁ見えて、私がこんなになって気が滅入ってるみたいだから……」
「"セリカ、本当に大丈夫?"」
「……え?」
先生から思わぬ言葉がかけられ、セリカはかくりと首を傾げた。
……先生は、彼女を気遣うように、声をかける。
「"……何だか、すごく辛そうだよ"」
そう言われ、セリカは恐る恐る自分の頬に手を伸ばした。
……彼女は知らぬことだったが、
微かな微笑みを作っているはずのその表情は、
無意識の苦痛で歪に引き攣って、歪んでいた。
セリカは自分の顔をぺた、ぺたと触ってその形を確かめる。
「……はは」
……セリカは、引き攣った笑みのまま、自嘲した。
こんなところを、皆に見られたらまた心配されてしまうだろう。
気がつけば、無意識のうちに鎮静剤の入った水筒に手が伸びかけていた。
……ダメだ。今は先生の前、迂闊に飲むわけには行かない。
「……このこと、みんなには内緒にしといて、先生」
そのため、セリカは辛うじてそう言うに留めた。
先生はその言葉に、ゆっくりと頷く。
セリカはそれに安心したように目を閉じると、口元に手を当てた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
自分にそう言い聞かせながら、ポケットの中に入ったハンカチを、もう片方の手でぎゅっと握りしめる。
……少し時間が経ち、セリカの手が降ろされる。
そこには、いつもの感情の色のない無表情があった。
「……それじゃあ、今度こそバイトに行くから」
「"うん、わかったよ"」
先生の言葉に頷くと、今度こそセリカは彼女に背を向け、駅に向けて歩き出した。
……が、またしても十歩も歩いていないところでセリカは振り返った。
「何でまだついて来てるの……?」
「"い、いやー。気になっちゃって……"」
そう言って頭をかく先生に、もはや不機嫌を通り越して呆れの表情になるセリカ。
……かと言って、大量の硬貨と質屋巡りのことを知られれば確実に面倒なことになる。
セリカは、今日硬貨を売りに行くことを諦めた。
……となれば、自分がよく知っており、尚且つ急にバイトに入っても許してくれそうな場所は……
「……こっちよ、ついてきて」
一軒だけ、条件に当てはまる場所があった。
セリカは、その場所に向けて歩き始めた。
かなり近所にその店はあるため、大体5分程でセリカ達はその場所にたどり着いた。
そこにあったのは……
「"……柴関ラーメン?"」
店主らしい柴犬の彫り込まれた木製の看板に、豪快な文字。
ごく普通のラーメン屋だ。
先生は知らぬことだが、この店はアビドス生徒の行きつけのラーメン屋であり、大将とも親交が深い。
「"こんな場所にラーメン屋が……"」
「味の保証はするわ。柴大将の腕は素人の私から見ても達人級だもの」
セリカはそう言うと、先生の方を見る。
「で、どうするの?入るの?入らないの?」
「"うーん……じゃあ、お昼にお邪魔させてもらうよ"」
「わかったわ」
セリカはそう答えると、店の扉に手をかけてから、先生の方へ手をあげた。
「じゃあ、また」
「"うん、バイト、頑張ってね!"」
そう声を掛け合って、先生とセリカは別れた。
その後姿を見送ったセリカは、正面の扉へと視線を向ける。
「……ふぅ」
1つ、深呼吸をした彼女は、一息に扉を引いた。
古びていながら、清潔に掃除された店内が露わになる。
朝と昼の丁度真ん中あたりという時間があってか、客足は少ない。
そんな中、カウンターの方から顔に古傷のある柴犬がひょこりと顔を出した。
「いらっしゃ……お、セリカちゃんじゃないか」
「おはよう、大将」
カウンターの柴大将に向けてセリカがそう挨拶する。
大将はどうも皿を洗っていたらしく、一旦器と布巾をその場に置くと彼女の元へ行く。
「2日ぶりだねぇ……今日はひとりかい?」
「いや、ラーメンを食べに来たわけじゃないの。
ここでバイトをしたいんだけど……」
セリカの言葉に大将は黒い目を瞬かせた。
「別に構わないし、こちらとしては大助かりだけども……体調は大丈夫なのかい?」
「大丈夫。ただ、病気の後遺症でまだうまく笑えないから、裏方の仕事をさせてもらえるとうれしいかな?」
心配する大将に、セリカはそう言う。
少し無理のあるお願いかとセリカは思ったが、大将は快く頷いた。
「あいよ。それで、いつからシフトには入れるかい?」
「今日からじゃだめ?」
「今日からっ!?」
セリカの言葉に大将は驚いたものの、慌てて体勢を戻す。
「い、いや、大丈夫ではあるとも」
「……ありがとう」
セリカはその言葉に微笑みを作った。
________________
……2日前、ヘルメット団のアジトを掃討した後、みんなと柴関ラーメンを訪れた。
大きく変わった戦闘スタイルと、その異常なほどの強さにみんなが不安を覚えたのだと思う。
まるで、私という存在を繋ぎ止めるかのように思い出の店に行った。
大将も、常連さんも、私のことを心配していた。
……ラーメンは、前に食べた味と変わらなかった。
ただ、私が美味しいと感じれなくなっていただけ。
そんな取り留めのないことを考えながら、具を切り、暇があれば器を洗う。偶にお客さんから注文を受けて、やり取りを淡々とこなす。
……そろそろ時間か。
「あの~☆ 五人なんですけど~!」
そう思うとほぼ同時、タイミングよく扉が開いたかと思うと聞き慣れた声が聞こえる。
……先生だけかと思ったら、そうでもなかったらしい。
「お、アビドスの生徒さんか。そちらの人は?」
「"あ、どうも。この子たちの臨時顧問を務めているものです"」
遅れて、本来来る予定だった人物の声が聞こえる。
そんなことを考えながら器を拭いていると、正面に対策委員会の面々がやってきた。
「セリカちゃん、お疲れ」
「お疲れ」
「……みんなも来たんだ」
アヤネとシロコの言葉に、セリカが無表情のままポツリとそう呟く。それに慌てたのは先生だ。
「"い、いやー、どうせ来るならみんなも連れてきたほうがいいかなって……だめだったかな?"」
「大丈夫よ。ただ、私は基本裏方だから接客はできないけど」
そう言ってる間にもセリカは食器を洗う作業を続ける。
それに何とも言えない表情になる面々。その時、
「いや、セリカちゃん。一旦接客の方に回ってくれないかい?」
横合いからそんな声がかかった、柴大将だ。
キョトンとするセリカに、大将は笑顔で続ける。
「ほら、お友達相手ならうまく笑って接客できるかもしれないだろう?最初はぎこちないかもしれないけど、こう言うのは積み重ねが大事とも言うしな」
……そう言う単純な話でもないのだが。
まあ、大将なりに私に笑って欲しくてそんな提案をしたのだろう。
とはいえ、大将の好意を無碍に扱うわけにもいくまい。
「大将、わかったわ」
セリカはそう答えると、カウンターから出て目の前の少女達に向き直った。
「それでは、広いお席にご案内します。こちらへどうぞ」
あくまで接客。マニュアルと自分の記憶を頼りにテーブル席へ彼女らを案内する。先生が席に着く場所で一悶着あったものの、直ぐにそれも落ち着いた。
それを確認したところで、ノノミが話しかけてきた。
「そういえばセリカちゃん、バイトのユニフォームとってもカワイイです☆」
「いやぁ〜、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイトを決めちゃうタイプ?」
「別に、行きつけのお店だったから」
テキパキと水を並べながらホシノのからかうような問いにセリカは淡々と答える。
……私に、昔のように羞恥と怒りがごちゃ混ぜになった答えを言えるわけがない。
困ったような表情になるホシノ。そこに先生が会話に参加してきた。
「"ユニフォームで思い出したけど、セリカってみんなとは違うブレザー着てるよね。あれって……"」
「……いや、私達もよく知らないんです。前にも聞いたんですけどその……」
先生の問いに答えたのはアヤネだ。しかし、回答は芳しくない。
以前に初めてこの服を着て登校した時、適当にはぐらかした記憶はセリカにもある。
……別に、服ならいいか。
「……知り合いのお気に入りの服を譲ってもらったの。大分前にね」
「え?」
唐突にそう言ったセリカに、全員の視線が向く。
……嘘は言っていない。大分前に先輩から譲ってもらった大切な人の形見を、それ以来着続けているだけだ。
突然のことに呆然とするお客様御一行。
ショックからいちばん先に立ち直ったのはホシノだった。
「……いやぁ〜、先生も隅に置けないねえ。いつの間にセリカちゃんと仲良くなったの?」
「"わ、私にもさっぱり……今朝少し会話しただけだし……"」
「……ただの気まぐれよ。他意はないわ」
セリカはほんの少し、目を逸らしてそう言う。
そんな彼女をシロコはじっと見た後、ポツリと言った。
「でも、セリカがあれ以来きちんと答えてくれたのはこれが初めて」
「……そうですね。やっと、やっと答えてくれました」
「……もういいでしょ?ご注文は?」
……しんみりした空気になってきたからか。それとも、自分の壊れてばらばらになった心の奥深くで、何かが跳ねるような感覚がしたからか。
それに突き動かされるように、気がつけばセリカはそう言っていた。
そんな彼女に、ホシノはいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「[ご注文はお決まりですか?]でしょー?セリカちゃーん、お客様には親切に……そして、」
そこまで言った所でホシノがテーブルから身を乗り出してセリカの頬に指を伸ばす。
ムニ
セリカの頬が笑みの形をつくる。
その様子に、ホシノは満足げに頷いた。
「そうそう。こんな風に笑顔で……」
その時、ホシノの言葉が途切れた。
……セリカの右頬に違和感がある。
妙に感触が硬く、ザラザラとしている。
「……ホひノへんぱい。いいはへんにひゅうもん」
「あ!?ごめんごめん、セリカちゃんのほっぺたがプニプニだったから」
無表情のまま文句を言われてホシノは慌てて指を離した。
……が、右頬に触れていた方の指に何かベージュの粉のような物がついていることにホシノは気がつく。
そして……
「あれ?セリカちゃん、ほっぺたに汚れがついてますよ?」
「本当?」
ノノミが不思議そうにそう言った。見れば、確かにこげ茶色のシミのようなものが、ちょうどホシノが触れたあたりに……
その時、ノノミの言葉を受けて頬の辺りを慎重に触っていたセリカの瞳が、驚愕で見開かれた。
「……ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」
「え、あちょっと、セリカちゃん!?」
そう言うが早いか、セリカはアヤネの静止を振り切り、逃げるように去っていった。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
デュラさんは狩人としては愚かで優しいので心が荒みきったセリカちゃんはよく酒瓶片手にダル絡みに行きます。狩人ので夢で飲むと人形ちゃん困っちゃうからねしょうがないね。
それにしてもまだまだセリカちゃんは秘密を抱えているようで……
次回も現代編です。
黒服出さなきゃ……
セイアちゃんの仕掛け武器はどれがいい?(上位2種)
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獣肉断ち
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教会の杭
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ゴースの寄生虫
-
瀉血の槌
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月光の聖剣
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爆発金槌