極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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突然ですが私はマリーさんはえっちだと思います。


side another 伊落マリー、又は聖職者の獣(2)

 

……不味いな。

患者達と交流していたら師匠とはぐれてしまった。

うむむ、やはり医療棟にしてはいかんせん構造が……

 

…………?

 

 

っ!?誰だっ!?

 

 

…………!

 

 

あ、あぁ怖がらせてしまってすまない。職業柄でね……貴公はここのシスターだったのか。

 

 

…………

 

 

おや、それは本当かい?……助かるよ。

全く、ヤーナムというのはどうしてこう、どこもかしこも奇妙な地形が多いのやら……

 

 

…………

 

 

……変な人だね、貴公は。私としてはもっとまともな構造の建物や街を作ってくれと何度思ったことか……。

……そう言えば、その獣の耳と光輪から察するに、貴公が噂のロ■■ン■様の手伝いをしているという異国のシスターなのかい?

 

 

…………

 

 

やはりか。私はマリ■。■ール■■師匠の下で獣狩りの鍛錬をつけてもらっているものだ。マリー、はじめましてだね。

 

 

…………//

 

 

……?いや、これは……私の実家で身に付けさせられた作法でね。身体に染み付いてしまっていて……

 

 

…………!

 

 

……綺麗、か……そう言ってもらえたのは初めてだ。

……ふふ、ありがとう。あまり実家は好きではないのだがね。

貴公に賞賛してもらえると何だか誇らしいよ。

 

 

…………

 

 

そうか……貴公はロ■■ン■様にここの手伝いにね。

私も今日、師匠と共にここの見学に来たんだ。

この医療棟は素晴らしい場所だよ。

獣の病を根絶するため、そして人を癒すための拠点。

……それに、貴公のような優しいシスターまでいるのだからね。

 

 

…………//

 

 

恥ずかしがらずとも良いさ。これは間違いなく、私の本心だからね。

 

 

…………?

 

 

……私かい?

そうだね……貴公達が獣の病を根本的に根絶するのが目的なら、私達狩人はこれ以上獣が増えぬようにするのが仕事なんだ。

……要は、獣に完全になってしまって、手遅れとなった人を狩るんだ。

 

 

…………?

 

 

……心配しなくともいいさ。私は自らこの職に就いたのだから。

市井の人々を救い、これ以上犠牲者が出ぬよう、せめて葬送の祈りを込めて獣を弔う。

そんな師匠の信念に感動したんだ。

……まだまだ半人前だけどね。

 

 

…………!

 

 

……いやいや、まだまだ師匠に比べれば技術も、狩りに臨む心も及ばぬばかりさ。

それに、いつかはロ■■ン■様が獣の病を克服する方法を見つけてくださる。

そうなれば狩人も役目を終える。

その時まで、私は人々を救う狩人であり続けるんだ。

だから、貴公も頑張っていてくれ、マリー。

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

「はむっ」

 

 

ある日の、正午を十数分過ぎたころ。

マリーは食堂で少し遅めの昼食を取っていた。

……エデン条約会場襲撃という1大事件があり、その後処理でトリニティはキリキリ舞いだった。

無論、マリーの所属するシスターフッドとてそれは変わらない。

寧ろ、今まで政治と縁遠い場所にいたものの、

クーデター、襲撃事件と様々な要因が重なった結果、本来の生徒会的な立ち位置であるティーパーティーの権威が前に比べ失墜。それを支える形で政治の表舞台に登らなければならない事態になったので、普段以上に忙しい事態となっていた。

 

 

「魔女、聖園ミカに断罪を!!」

「聖剣の英雄、セイア様による断罪をっ!!」

「……っ」

 

 

……嫌なものを見てしまった。

 

マリーは声のする方から目を背け、目の前の料理を食べることに集中する。

……クーデターを引き起こし、同じティーパーティーのメンバーを襲撃。更には、エデン条約会場襲撃事件の遠縁となったミカを責める声は日増しに増すばかりだ。

話に聞く限りナギサ、ミネ、サクラコ……

そして、クーデター事件の被害者であり、

エデン条約の場においてトリニティ、ゲヘナ双方に一定数の信者がいるほどの存在感と圧倒的な力を見せつけた英雄、セイア本人までもそのデモをやめさせようとしているらしいが、状況は芳しくない。

……寧ろ、セイアにミカの断罪を求める声まで出てくるほどだった。

 

……1つの大きな障害を乗り越えたとしても、全てが元通りにはならない。

 

その事が何よりもマリーにとって気がかりだった。

 

「……ふぅ」

 

マリーは1つ、溜息をつくとサイコロステーキにフォークを刺す。その時、

 

 

「あ、マリーさん」

「ひゃあっ!?」

 

 

突然話しかけられた為マリーはビクリと肩を震わせた。

慌ててそちらの方を向くと、何人かの少女達がトレーを持ってこちらに歩いて来ているところだった。

……彼女達とは、マリーも縁がある。

確か……

 

「補習授業部の皆さ……あ、いや、今はもう卒業されたんでしたね」

「あ、あはは……卒業できたら良かったんですけどね」

 

マリーの言葉に苦笑いするのはクリーム色の髪をツインテールに纏めた少女、阿慈谷ヒフミだ。

 

「私としてはヒフミと一緒にいられるからむしろ嬉しいな」

「ちょ、ちょっとアズサちゃん!?」

 

そんな彼女にともすれば告白のそれに近い台詞を何の躊躇もなく言い放つのは銀髪のクールな少女、白洲アズサだ。

そんな彼女の言葉に寧ろ言われたヒフミの方が恥ずかしそうである。

そんな少女達のやり取りをニコニコと見守るピンク色の長い髪の少女が1人……と、突然、その視線がマリーの方へと向いた。

 

「それにしてもマリーちゃん……どうしたんですかその料理は……!」

「へっ、あ、その、これは……」

 

話しかけてきた少女、ハナコからの言葉にマリーは慌てるも既に遅い。

サッと素早い身のこなしで、ニンマリと笑いながらハナコはマリーのトレイを覗き込んだ。

 

「……ふふ、マリーちゃん、いつの間にこんなにお肉が好きになったんですか?野菜もほとんどなくお肉一色、いつもならバランスよく質素な食事を心がけているのにこんなにたくさん……」

「う、うぅ、見ないでください……」

 

ハナコの言葉に恥ずかしそうに俯くマリー。

そんな彼女に、ハナコは尚も言葉を続ける。

 

「わかりますよ……時々シスターさんだって……いや、禁欲を是とするシスターだからこそ、欲望に忠実になりたい時がありますからね!人の少ない時間帯に、他の人に見られにくい食堂の隅で1人ひっそりとヒミツのコトを……」

「ちょ、ちょっとハナコ、マリーが困ってるじゃないの!

それにい、言い方がなんか卑猥っ!」

 

そんな彼女の暴走を止めたのは、正義実現委員会の制服を着た同じピンク色の髪の少女、下江コハルであった。

けれど、そう言う彼女の方も顔が真っ赤である。

 

「でもですよコハルちゃん、何も知らない純粋無垢な子が、実はこんな一面を……というのはとてもそそる物がありませんか?ナニがとは言いませんが」

「は、はぁっ!?ナニって何言ってるのよ!??エッチなのはダメ、死刑!!!」

 

……結果、からかう標的を即座に入れ替えたハナコに、手痛い反撃を貰ったコハルであった。

……ハナコの言う言葉をしっかりと理解している辺り、割と根っこのところは変わらないのではないだろうか?

そんな中、しっちゃかめちゃっかになりつつあった場の空気ををヒフミが仕切り直す。

 

「と、ともかくそれはさておきですね!?

その、できればマリーさんとも一緒に食べたいなー、なんて思ってまして……」

「そ、そうですか……」

 

ヒフミの言葉に、マリーは辛うじてそう答えると、少し考え込む。

……別に、断る理由はない。

シスターフッドの仲間内では、既に自分が肉ばかり、それも大量に食べるようになったことはかなり有名になっている。

それでも尚、体型が大きく変わらないので羨望やら嫉妬やらの視線を多少なりとも浴びたりする。

だから、今更彼女達にそれを知られたからといって特段問題はない。

……けれど、何か心の中でひっかかる。

 

「……確かに、皆さんと大勢で食べたほうがおいしいですからね」

 

だが、結局マリーはその僅かな引っかかりを無視することにした。

……別に、自分が肉をたくさん食べているという行為は奇妙ではあれど何の問題もないはずなのだから、何も……

マリーは心の中で、僅かに何かと葛藤していたものの、

表情に出るほどのものでもなかったのと、どんな時でも笑顔できることに慣れている為か、それにヒフミ達が気がつくことはなかった。

 

「ありがとうございます!

それじゃあ、私は向かい側の席に座らせてもらいますね」

「じゃあ、私はヒフミの隣に」

「私はマリーちゃんの隣に座らせてもらいます。

さあ、コハルちゃんも私の隣に……」

「だ、誰がアンタの隣に座るなんて言ったの、ヘンタイ!!」

「………♡」

「う、そ、それはその、座らないとも言ってない、けど……」

 

一悶着ありつつも、マリーの周りに少女達が次々と腰掛けてゆく。

……彼女達のトレーは至って普通な食事の内容だったこともあり、尚のことマリーのトレーの異質さが際立っていた。

サイコロステーキにハンバーグ、豚肉のソテーにフライドチキン、ソーセージにハム……しかも、野菜などの付け合わせがないどころかケチャップなどの調味料も一切かかっていない。

茶色と鮮やかな肉の桃色だけの皿の中に、水の入ったグラスがポツンと置かれていた。

 

「……さっきはよく見えなかったですけど、

こうしてみるとマリーさんって、お肉大好きなんですね……」

「い、いえ、実のところこんなに食べるようになったのはつい最近のことで……」

 

ヒフミの言葉にマリーがそう弁明するが、

そんな彼女の言葉にアズサが素早く反応した。

 

「うん、確かに身体づくりにタンパク質は最適。

でも、流石にこれは肉の割合が多すぎる。炭水化物も取ってその分運動しないと上手く筋肉はつかない」

「あらあら、もしかしてマリーちゃん、実は筋肉に興味が……?」

 

どうも、アズサはマリーが何かスポーツ大会に出るために身体づくりに励んでいると思ったらしい。その言葉に更にハナコも乗っかる。

けれど、マリーは少し考え込んだ後、首を振った。

 

「いや……そういったことではないんです」

「?違ったのか?」

 

アズサが不思議そうな表情になる中、マリーは軽く説明した。

 

「その……実は最近、お肉を食べないと落ち着かない、といいますか。寧ろこれ以外の食べ物を食べても何だか食べた気がしなくて……」

「……え?」

 

思わぬマリーの言葉に、少女達の表情が固まる。

……何処か陰りを帯びた、そんな言葉だった。

 

「ご、ごめんなさい。まさかそんなデリケートな事があったとは知らずに……」

「いえ、いいんです。私もあまり気にしてませんし、何回か救護騎士団に行きましたけど、特に体調に問題はないらしいので」

 

慌てて謝るヒフミ。彼女に続いて他少女達も謝ろうとしたものの、その前にマリーがそう言ってそれを押し留めた。

 

……これら普通の肉料理ですら、最近これだけ食べないと物足りなくなってきたのだが。

一体、自分はどうしてしまったというのだろう。

 

思わず出てしまいそうになったため息をなんとか押し留め、マリーは改めて料理の方へと視線を戻そうとした。

……その時、

 

 

「……?」

 

 

ふと、視界に大きな物が映った。

 

「……マリーちゃん?」

 

ハナコの胸元の、

同年代の中では一際大きな、温かく、柔らかそうなそれ。

それが、何故かとても……

 

「はっ!?」

 

その時、ハッとマリーは我に返えると慌ててブンブンと頭を振ってその邪な感情を振り払う。

お腹が空きすぎておかしくなっていたかもしれない。

まさか、食欲が色欲に近いものに……

 

……いや、本当に色欲だったのだろうか?

 

その時、

 

「……ふふ、マリーちゃん。とっても情熱的な視線でしたね。意外とえっちなこと、考えちゃったり……」

「へうっ、その……ち、違うんです!

……あ、だ、だからってむ、胸を抱えて近づいてこないでくださいー!!」

「しけぇっっ!!きょっけぇえええっ!!!」

「あ、あうう、み、皆さん一回落ち着いてくださいよー!?」

 

慌てるマリーに少しずつ、少しずつにじり寄るハナコをコハルが今にも爆発してしまいそうなほど顔を真っ赤にしてポカポカ叩く。その様子に慌てて止めに入るヒフミに、色々よく分かっていなさそうなアズサ。

 

……今日も、トリニティの一画は何だかんだ平和である。

 

 

________________________

 

 

…………

 

 

ん、あぁ。よく戻ったね、シスターマリー。

医療棟での仕事と、市井での医療活動はどうだったかな?

 

 

…………!

 

 

そうか、それは本当に良かったよ。

実際のところ、ヤーナムはそこまで異邦人に優しくない人が多いからね。

でも、それでも君がそうして心から笑って、

医療の成果を誇れるということは、君の善性で市民たちの心も解きほぐされているんだろう。

 

 

…………//

 

 

謙遜しなくてもいいさ。

実際、君が来てくれたことで私達の活動の広がりも少しずつ大きくなっている。君のおかげだよ。

 

 

…………?

 

 

ん?あぁ。この手紙かい?

昔、私はビルゲンワースという学び舎に通っていてね。

今でこそ袂は分かっているもののこうして時折、文通するんだ。

それに、ちょうど良かった。

君にもこのことを伝えようと思っていたところだ。

……とても重要なことだから、心して聞いてくれ。

 

 

…………

 

 

……それでは、本題に移ろうか。

つい最近、ヤーナムの外れにあるとある漁村で特異な獣の病が流行っているという情報を掴んだらしい。

 

 

…………!

 

 

……そう、普通の獣の病とは何かが違う、とても奇妙なものだ。

住民の半数以上がそれに感染し、辛うじて意識は保っているようだか行動がおかしいらしい。

それに、それ以外にも奇妙な出来事が起こるようになった……とね。

 

 

…………

 

 

明日の早朝から、私達はその漁村へ向かう。

……そこで何が起こっているのか調べ、獣の病につながる何かを持ちかえるため。そして、その末に人々を救うためにね。

 

 

…………

 

 

……まだ、君はヤーナムの薄暗い一面の一端を聞いているだけだと思う。これについてくれば、もしかすれば予想外の恐ろしい事が起こるかもしれないだが、それでもついてきてくれるかい?

 

 

…………!

 

 

そうか、それは良かった。

……あぁ、もちろん。彼らはきっと君のその心に救われるとも。

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「……買ってしまいました」

 

 

ある日の夜。

スーパーから自室に帰る道のりで、

マリーはそう呟くとため息をついた。

その手に下がったビニール袋にぎゅうぎゅうと詰まっているのは、

種類も、部位も不揃いな生肉のパック。

無論、肉を食べることが中心になってからというもの

これまでも足りない分を自分で買って補うことはあった。

けれど……今現在、マリーの身体にはこれまで以上の異常が起こっていた。

 

……足りないのだ。

 

どれだけ学園の食堂の調理された肉料理を食べても満たされない。

自分の奥底にある得体の知れない渇望が満たされないのだ。

 

 

……肉が欲しい。調理などされていない、新鮮で、柔らかい肉が。

 

 

渇望はずっと、ずっとそう叫び続けている。

それは日増しに大きく、そしてはっきりとしてくるのだ。

……思い浮かぶのは、自身が眠り続けていた一週間のうちに起こった出来事。

断片的に、不定期ではあるが、それは夢として、

徐々に、徐々に記憶からよみがえってくる。

ヤーナム、おぼろげな教区長、おぼろげな狩人の女性……

 

そして、つい最近見た夢に出てきた漁村という単語。

 

そこに、今の自分を決定づけた何かがある……そんな気がするのだ。

 

 

「……っ」

 

 

マリーは空いている方の腕で自分のことを抱きしめる。

 

……怖い。

 

自分の身に何が起こっているのか、知るのが怖い。

あの場所で自分は、

何かの病気になった人々のために奔走していたような気がする。

……もしかすると、今の自分も何かの病気なのだろうか?

そして、漁村という単語も何故か恐ろしい。

自分のみに何が起こったか、知りたいという欲求は確かにあるのに、

それ以上に底知れぬ恐怖の方が強い。

 

……怖い、とても怖い。

 

 

「……私、は」

 

 

ポツリと、マリーがつぶやく。

 

 

その時、

 

 

「おや、奇遇だね。伊落マリー」

 

 

自分しかいないはずの夜のトリニティの一画。

そこに、いるはずのない人物の声が響いた。

その人と、マリーは会話したことは一度もない。

けれど、その声の主を彼女は確かに知っていた。

 

 

「セイア、様……?」

 

 

静まり返った月光の差すトリニティの庭園。

その中に、そよ風に金髪をなびかせた英雄の少女が1人、佇んでいた。

呆然とするマリーの様子を見て、

セイアは少しの間だけ考え込む。

 

「……奇遇、という言葉を使うにはいささか無理があったかな?

英雄と呼ばれる存在となってしまった私が、

偶然にただ1人ここにいて、偶然に君という人と出会い、

偶然に君が私の友人が心配している人だというのはね」

「え、え……?」

 

セイアの言葉に訳も分からずオロオロとするマリー。

そんな彼女に、セイアは静かに微笑みをかける。

 

「……実のところ。

マリー、君の様子がおかしいとハナコから相談を受けていてね。

何故私などに相談したのか不思議に思っていたが……」

 

そう言うと、セイアはゆっくりとマリーの下へ歩み寄ると、

マリーの瞳の中を覗き込んだ。

 

「……なるほどね。

秘匿を知らぬ彼女にそのつもりはないのだろうが、

このことは私に相談するのが最も正しいね」

「……お、おっしゃられている意味がよくわからないのですが……?」

 

自分のよく理解せぬまま、

次々と進められてゆく会話にマリーは辛うじてその言葉を紡いだ。

 

……どういった関係かはわからないが、

恐らくハナコがセイアに自分の様子がおかしいことを相談した。

その結果、滅多に表に姿を現さず、

一度外に出ればたちまち人だかりに囲まれてしまう彼女がここにいる。

……自分、ただ一人のために。

 

その時点で既にマリーの脳のキャパシティーは

オーバーフローして碌に働かなくなっていた。

そんな彼女の言葉を受け、またセイアは少し考え込む。

 

「……ふむ。少し説明が回りくどかったね。

まあ、人払いしておける時間も少ない。だから単刀直入に聞くとしようか」

 

セイアはそう前置きをすると、マリーにただ一言尋ねた。

 

 

「マリー、君はヤーナムという街を知っているかい?」

 

 

……時が、止まった。

 

 

少なくともマリーはそう錯覚した。

 

 

……何故、何故彼女が自分の夢の中のことを知っている?

これがうわさに聞くセイアの予知夢によるもの?

 

わからない、わからない、わからない……

 

セイアは未だ、こちらのことをじっと見つめている。

何もかもを見透かすような、淡い赤色の瞳で……

 

 

……怖い

 

 

「……どうかな、もし知っているのなら、教えてくれると……」

 

 

「……せん」

 

 

気がつけば、マリーはそう言っていた。

けれど、その声は掠れていたためかセイアにはうまく聞き取れなかったようだ。

きょとんとする彼女に向けて、マリーはもう一度、震える声で言った。

 

 

「知りま、せん……!」

 

 

「っ!待ちたまえ!」

 

 

セイアを拒絶した次の瞬間、

マリーは夜の暗がりに向けて逃げるように駆け出していた。

 

 

「はぁはぁはぁはぁ……!!」

 

 

背後から、自分を呼び止める声が聞こえた気がする。

途中、何かを見張っているようなサンクトゥス派の生徒とすれ違った気がする。

けれど、マリーには既にそれらのことは思考に一切上らなかった。

 

 

「はぁはぁはぁはぁ……!!」

 

 

階段を駆け上がり、自分の部屋の前にぶつかるようにたどり着くと、

ドアを閉め、扉に鍵をかける。

 

 

「はあ、はぁ……はぁ…………」

 

 

……自分でも信じられないほど早く走った。

こんなに自分は足が速かっただろうか?

 

……考えてもわからない。

 

だが、少なくとも事実なのは、怖いものから自分は逃げたことだけだ。

 

 

「はぁ、あ、あぁ……」

 

 

……いや、本当に怖いものだったのだろうか?

考えても、わからない。

何故か、瞳から涙がこぼれてくる。

 

……わからない、何も、何も……

 

 

「……あ」

 

 

その時、マリーは自分の胸元で、

ビニール袋を強く抱きかかえていたことに漸く気が付いた。

力を籠めすぎたせいか、いくつかのパックが割れ、中から生肉が零れている。

……部屋の電気をつけておらず、灯りのない状態でも十分にわかるほどの状態だった。

 

 

「…………」

 

 

しばらくの間、マリーはその中身をじっと見つめていたが、

やがておもむろにその中身に手を伸ばした。

 

 

ぐちゅ……

 

 

マリーの白く、柔らかな手に、

生々しい音を立ててぬるりとした生肉の感触がまとわりつく。

けれど、マリーはそれを気に留める様子なくゆっくりと眼前に掲げる。

……肉片がだらりと垂れさがり、彼女の手を、服の袖を汚す。

そして……

 

 

「……んぐっ」

 

 

マリーはゆっくりと、それを口に含んだ。

……つい先ほどまで冷蔵されていたそれはひんやりとしていて、

しかし柔らかく、噛み切りにくい。

マリーはゆっくり、ゆっくりとそれを噛み千切り、咀嚼してゆく。

 

 

……彼女が気が付いたころには手が、

口元が肉の脂でドロドロで、袋の中には何も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

やけに更新が早いと思ったそこのあなた、
実はマリーさん編ちょっと短めかつプロットも出来上がってて書きやすいんで
サクサクかけちゃうんですよね……本編もしっかり書き進めているのでご安心ください

さて、話を戻すとマリーさんのメンタル状態と
セイアちゃんの口下手が災いしてかなり大変なことになってますね。
前回までの平和な雰囲気、どこ、ここ……?

そして出てきましたみんなのトラウマ漁村。
そう、漁村ですよ漁村。

……おや、そこのあなた、漁村をご存じでない?

ならば、BloodborneをDLC込みで買うのです……そして脳に瞳を宿すのです。

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