極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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マリア様、結局ノコ鉈ノコノコモツぶっこで勝ちました。
ごめんね丸鋸。でもね、俺がマリア様に反撃で差し込む
君のステップR1を悉くスカるのがいけないんだよ。

ああずっと、ずっと側にいてくれたのか。我が師、導きのノコ鉈よ…


side past 黒見セリカ、又は狩人の少女(1)

月明かりの照らす神秘の霧。

その中に浮かぶ孤島のような場所に、小さな神秘の庭園は広がっていた。

立ち並ぶ墓標。教会を思わせる小さな工房。

その中央の広場の奥に置かれた水盆のすぐ下に、

隠れるように少女が1人、うずくまっていた。

……セリカだ。

 

「……!……!!」

 

水盆の主である使者たちが水盆からひょこりと身を乗り出して

心配そうなうめき声をかけたり、ランタンを揺らしたり、

ちょうど手の届く位置にある猫耳をちょいちょいと引っ張るが、

彼女は時折身じろぎするのみで反応は薄い。

抱きかかえられた膝の奥に見える瞳には、もはや光と呼ぶべきものは失せて等しかった。

その時、辺りにふわりと月の香りが舞った。

 

「少し、失礼するよ」

 

狩人とはまた違う、年老いた、穏やかな声が響いた。

その声にようやくセリカは反応を見せた。

少しだけ、ほんの少しだけ声がした方向に視線を向ける。

そこには、古ぼけた車椅子に乗った義足の老人がいつの間にかいた。

老人は、水盆の下から覗く赤い瞳に目を合わせると、何も言わずその視線を見返す。

……先に口を開いたのはセリカだった。

 

「……誰だか知らないけど、1人にして」

「ふふ、君たちの助言者として、そういうわけにもいかなくてね」

 

そう言う老人の声は、相変わらず穏やかだった。

それっきり黙りこくるセリカに、老人は話しかける。

 

「どうして、狩りにいかないのかね?」

 

そのゆったりとした問いかけは、どこかセリカを案じるような響きがあった。

……その問いに、しばらくセリカは何も答えなかった。

どれほどの時が流れたであろうか。

不意にセリカが絞り出すように言った。

 

「もう、いやなの……」

 

……老人は何も言わない。ただ、セリカの言葉に静かに耳を傾ける。

 

「何も聞きたくない、何も見たくない……もう、何もしたくない」

 

かすれた声が自身からこぼれるたび、

セリカは深く深く自分の膝に顔をうずめた。

 

______________________________

 

「ここは狩人の夢、一時の間、ここが君の家となる」

 

……過去、狩人にそう言われたセリカが次に取った行動は至極簡単だった。

ふらふらと後退った拍子に偶々見つけた慈悲の刃を、

手に取るが早いか躊躇なく自分の心臓に突き立てたのだ。

絶望し、壊れた少女は死に救済を見出した。

抱いていたささやかな願いよりも、暗い安寧の眠りの中に逃げることを選んだ。

焼けつくような痛みに悶えたセリカだったが、すぐに意識が真っ暗になる。

そして……

 

「……え?」

 

次の瞬間にはセリカの意識は復活し、幻想的な庭園の中に戻っていた。

 

 

「……無駄だよ。夢に囚われた君は、もう死ぬことはできない」

 

 

呆然として座り込むセリカの下に、

いつの間にか工房の外に出てきていた狩人がそう言う。

……彼の言うことが信じたくなかった。頭が、理解を拒んだ。

だからセリカは、偶々目に入った狩人が腰に下げているノコギリ鉈に

よろよろと手を伸ばした。

……狩人も、それを止めることはしなかった。

ただじっと、目の前の少女を見ていた。

震える手でセリカはノコギリ鉈を手に取る。

血に汚れたそれは刃の部分だけ異様なほど鋭く研がれており、

全てを切り裂いてしまいそうな鈍い輝きを放っていた。

セリカには、それがたまらなく甘い死の誘惑に見えた。

 

「っ……!」

 

セリカはごくりと息をのむと、ゆっくりとそれを自分の喉に押し当てる。

細かな刃の先端が、ぷつぷつと少女の首の皮を切断し、赤い血をあふれさせる。

セリカはその痛みに任せて、ノコギリ鉈を自分の喉を切り裂くように引いた。

石畳に鮮血が散る。

激痛の中で、セリカは確かに自分の視界が暗くなってゆくのを感じた。

そして……

 

 

「……気は済んだか?」

 

 

次の瞬間には倒れ込んだ自分を見る狩人の姿を見た。

慌ててセリカが身を起こせば、そこには誰かがとり落としたノコギリ鉈と、

誰かがまき散らした夥しい量の血が確かにあった。

 

「あ、ぁ……」

 

セリカはその場にうずくまった。

とめどなく瞳から涙があふれ続ける。

 

死ねない、死ねないのだ。

どんなに苦しくても、死んで楽になれない。

 

そのことをセリカは理解した。理解してしまった。

 

「殺して……誰か、お願いだから誰か殺して……」

 

……しかし、その声に答えるものは誰もいない。

静かな庭園の中に、ただ少女の泣きじゃくる声が響き渡った。

 

______________________________

 

しばらく石畳の上で泣いていたセリカだったが、

時間が経つといつの間にか件の水盆の下でうずくまっていた。

……ここだと、邪魔になるかもしれない。酷く冷静になった彼女の思考が、そうさせた。

もっとも、彼女は知らぬことだったがここは水盆の使者と血の遺志を対価に取引をする

商店のような場所だったのだが。

死ねないことを理解した彼女は閉じこもることを選んだ。

邪魔にならない場所でひっそりと、静かに。

狩人はそんな彼女をそっとしておくことにしたようだ。

 

……だが、そんな彼女に話しかけてくるものは少なからずいる。

というかそちらの方が多い。

それは使者であり、人形であり、

そして、今まさに話しかけている助言者を名乗る老人である。

老人はセリカの言葉に頷くと、口を開く。

 

「……しかし、獣を狩ることこそが、巡り巡って君の望むことにつながる。

すなわち、目覚めであり、永遠の眠りにね」

「永遠の、眠り……」

 

その言葉にセリカが反応してゆるゆると顔を上げる。

その時、セリカの脳裏にいつかの狩人と人形の会話が浮かんだ。

……あそこで、1人だけ知らない人物名が出てきたはずだ。

 

「……もしかして、あなたがゲールマン、さん?」

「如何にも。私が、ゲールマンと呼ばれているものだ」

 

予想は当たっていた。目の前の車椅子の老人が、ここの主……

もしかしたら、この人なら……!

セリカの心に、薄暗い希望が宿った。

 

「ゲールマンさん。あなたなら、私を……殺してくれますか?」

「……すまないが、それはできない」

 

しかし、その希望は一拍おいて首を振ったゲールマンによって

直ぐに打ち砕かれることとなった。

かちりと動きを止めたセリカに、ゲールマンは言う。

 

「どうも、君の先輩は何か勘違いしている様子なのだがね。

私は助言者であって、この夢の主ではない。

時が来なければ、君たちを葬送することはかなわないのだ」

「……そう、ですか」

 

セリカは辛うじてそう答えると、再び顔を膝の中にうずめてしまった。

そんな彼女の姿にゲールマンは目を逸らすと、

[あれ]に対して深いため息をつく。

 

あれが何を考えているかわからないことは今に始まったことではないが、

今回ばかりは本当に理解に苦しむ。

少し自分たちと姿が違うだけで、話してみれば年頃の少女でしかない。

そんな少女に狩りが全うできるかといわれれば……答えは否だ。

そもそも、自分は助言者、人形は道具、使者は使者であり、

メンタルケアなどできるわけがないのだ。

……そもそも、辛うじて人間であろうとしているだけのこの老骨に、

一体何を求めているというのか。

 

ゲールマンはそう思い、[あれ]と、自分に対しもう一度、深くため息をつく。

……その時、

 

「……ホシノ、先輩。ノノミ、先輩……シロコ、先輩……アヤネちゃん……」

 

少女から、うわ言のような言葉がこぼれた。

……誰かの名前だろうか。

そう思った矢先、少女の一際か細い声が聞こえた。

 

「……ごめん、ね」

「……」

 

……それは、少女が過去、もう一度会うことを願った誰かに対する贖罪だった。

そこに、いつの間にかゲールマンは不思議と自分の包み隠している深層を重ねていた。

ゲールマンの姿が消える。

その場に残るのは、再びセリカと水盆の使者達のみとなった。

再び、無為な時間が流れてゆく。

死ぬことも、完全な眠りに落ちることも出来ぬこの夢の中で、

セリカはただ、閉じこもり続けた。

……それに終止符を打ったのは、一つの足音だった。

しゃく、しゃくと草花を踏みしめる音がセリカの耳に届く。

しかし、セリカがそれに顔を上げることはない。

足音は段々と近づいてきたかと思うと、セリカの目の前で足を止めた。

 

「……何で、来るの」

 

かすれた声でセリカが足音の主にそう声をかける。

足音の主、狩人はその声に静かに答える。

 

「君は知らぬだろうが、ここは商店のような場所だ。

私が利用するのも当然だろう?」

「……そう」

 

セリカは辛うじてそう言葉を返すと、ゆっくりと水盆の下から出てきた。

そのままどこかに去っていこうとする少女の後姿に、狩人は声をかける。

 

「どこへ行くつもりだ?」

「……どこでも。誰の邪魔にもならない場所に」

 

狩人の言葉にセリカはただ、そう返す。

狩人自身も、それについてとやかく言うつもりはないようで、

庭園の奥へ進んで行こうとするセリカから水盆の使者へと視線を戻す。

その時、狩人は何か思いついたこのように顔を上げると、懐に手を入れた。

 

「……君、少し待ちたまえ」

 

セリカは狩人に呼び止められた。

……別に、留まる必要はない、このまま行ってしまえ。

自分の心にそんな声が響く。しかし、何故かセリカの足は止まったままだった。

その場に立ち尽くすセリカの正面に狩人は回り込むと、

彼女の視線の先に何かを差し出した。

……それは、血の付着した真っ赤な宝石のブローチと、小さなオルゴールの箱だった。

セリカの脳裏に、これらの持ち主の姿が鮮明によみがえる。

 

「あ、ぁ……」

「私が持っているより、君が持っていたほうが彼らにとっても良いだろう」

 

狩人からヴィオラとガスコイン神父の遺品を受け取ったセリカは、

それを強く強く抱きしめるように抱え込んだ。

 

「……ヴィオラさん……ガスコイン、さん……う、うぅぅ」

 

屈みこんで、嗚咽を漏らす少女を狩人はしばらく見守っていたが、

やがて背を向けるとその場から去る。

 

「……これでいい。例え自己満足であろうと、これでいいんだ」

 

その、言い聞かせるような小さなつぶやきは、誰の耳にも止まることはなかった。

 

______________________________

 

しばらく時間は流れる。

当に狩人は去り、墓石の手入れをしていた人形も定位置に戻っていたころ。

遺品を抱いていたセリカの脳裏に、ふとあることがフラッシュバックした。

 

目を背けたくような血塗れの景色。

その血だまりに沈んだヴィオラさん。

その中で、彼女はセリカに確かに言った。

 

[2人を、よろしくね]

 

そう、言っていた。

……2人。

片方はガスコインさんだ、間違いない。

ならば、もう1人は……

 

 

「……むす、め……」

 

 

その単語を、セリカは無意識に呟いていた。

……そうだ。2人には確か、娘がいるはずだ。

安全のために家で留守番させているという娘が。

そのことを思い出した瞬間、絶望に霞んでいたセリカの思考が一気に鮮明になり始める。

 

「そう、だ……その子って、今は」

 

2人は、死んでしまった。だから、その子は今も2人の帰りを待ち続けているはずだ。

今も、きっと……

セリカは、もう一度手元の2つの遺品を見る。

 

ズキリ

 

心が痛みを発する。

……きっと、2人の大切な人にとても酷なことを告げることになる。

けれど、これは自分が持っているべきものではない。

それに、どんなに辛くても、真実は、言わなければならない。そう思うから……

セリカは、2人の遺品を握りしめると、前を向いた。

その瞳には、確かな決意が宿っていた。

セリカは立ち上がると、階段の近くで静かに佇んでいる人形の方へと向いた。

 

「あの……えと、人形さん?」

 

セリカに話しかけられた人形は、パチパチと目を瞬かせた。まるで人間のように。

 

「狩人様、もう容体はよろしいのでしょうか?」

「う、良くは……ないかな。でも……動けるから大丈夫」

「……わかりました」

 

人形の言葉に、セリカはそう答える。

……正直、本調子かといわれれば全然そんなことはないし、

今でも気を抜いたらまたへたり込んでしまいそうだ。

けれど、心に新たな目標(支え)ができたことで、

カラ元気とはいえセリカは動くことができていた。

 

「ちょっと外……?に出たいんだけど、どうすればいいの?」

「……狩りに行かれるのですか?」

「うーん……狩りとはちょっと違うけど、そうなるのかな?」

 

セリカの言葉に、人形が聞き返す。

その言葉に対し、セリカは歯切れ悪く答えた。

……外に出ること自体を狩りと呼ぶならセリカは狩りに行くことになる。

正直、殺しという意味での狩りはする気は微塵もないが。

セリカの言葉を受けて人形は、静かに使者達が祈りをささげている墓石を手で示す。

 

「そちらの墓石に触れていただくと、外で目覚めます。

……でも、その前に、貴方には狩道具と狩装束を授けるようにと、

先の狩人様から仰せつかっています」

「……狩道具と狩装束?」

 

……狩道具はあの武器のことだろうか?狩装束は……多分服のことだ。にしたって何故服を……

そう聞き返したところではたと気が付いたようにセリカは自分の服装を見た。

……全体的に切り裂かれてボロボロで、大きな古傷と辛うじて残っている白い肌が露出している。割とギリギリな感じで制服の残骸が残っているお陰で辛うじて隠れているが、正直並みの水着より危うい。

 

「……ひ、ひやあああああっ!???」

 

……ようやくその事を自覚したセリカは、羞恥の悲鳴をあげて慌てて自分の胸を隠す。

しかし、人形は特に気にしていない様子で工房への階段を登る。

 

「どうぞこちらです狩人様。……どうか、されましたか?」

「〜っ!!べ、別になんでもないわよ!!」

 

てっきりセリカが自分の後ろをついてきていると思っていたのだろうか。未だ階段の下にいる彼女にまた首をかしげる人形に、セリカは顔を真っ赤にして答えると、階段を1段飛ばしで駆け上がって人形のところまで行った。

それを確認して小さく頷くと、工房の中へ入ろうとする人形。

そんな彼女に、セリカは話しかけた。

 

「……そう言えば、その狩人様って言う呼び方やめて」

「……?何か、気に障られましたか?」

 

またまた首を傾げる人形。

……恐らく、表情が変わらない彼女なりの感情表現なのだろう。

それはさておき、人形の発言はセリカの心情から当たらずも遠からずといったところだが、それをそのままいうわけにもいかない。セリカはなんというべきか迷った。

 

「そ、そう言うわけじゃないの。えぇと、ほら、もう1人の人も狩人でしょ?

だから呼ばれたときややこしいから……私のことはセリカって呼んで」

「では、セリカ様とお呼びします」

「……わかったわ」

 

頑なに敬語を崩さない人形に、セリカはそれ以上何か言うことを諦めた。

人形は工房に入ると、すぐそばにある横に長い木箱に近づくと、一度セリカの方へと振り返った。

 

「セリカ様、狩道具と狩装束はどちらからお渡しした方がよろしいでしょうか?」

「じゃあ、服からお願い。正直、かなり落ち着かないし……」

「かしこまりました」

 

人形はそう言うと、木箱の蓋を開いた。

次の瞬間、そこから明らかに内部の容量を無視して丁寧に整えられた服が大量に表れた。

呆然とするセリカに人形が言う。

 

「狩人様からは、ここにあるものならどれでも選んでいいと仰せつかっております。

どうぞご自由に……」

「い、いやいやちょっと待って、明らかに入らないってこの量は!?

というか檻とか変な金色の三角形とかは何なのよ一体!?」

 

……似たようなものはセリカも既に見た。

しかし、それで驚かないかといわれれば話は別である。

というか所々に明らかに普通じゃないものが混じっている。

混乱するセリカに人形は何を思ったのか、何故か説明を始めた。

 

「前者はメンシスの檻、後者は金のアルデオという名前です。

メンシスの檻はメンシス学派に在籍するものが被った特殊な檻であり、

意志を律し、俗世に対する客観を得ると同時に……」

「やめて!?何なのそのアルミホイル理論みたいなやつ、絶対かぶらないわよ!!」

「わかりました……」

 

聞いてるだけで頭に何かが芽生えてきそうなトンデモ理論を聞くことを

セリカは全力で拒否した。

人形は説明をやめたものの、心なしか少し悲しそうである。

セリカはその表情に罪悪感を覚えたのか目を逸らすと、改めて狩装束選びに移った。

普通の服から骸骨仮面、軽装鎧に何故か汗臭い服。あとドレス。

 

……街に出るなら、安全な服のほうがいいだろう。

 

そう思ってセリカは軽装鎧に手を伸ばす。

その時、視界の端に一つの服が映った。

 

「……?」

 

黒い、大きな狩り装束だ。

ここにある服は全般的にセリカはより二回りほど大きいが、

その中でも特に大きい。

セリカはいつの間にか、それに向かって手を伸ばしていた。

そこにあったのは……

 

「……なんで、この服が」

 

その服は、セリカがこの世界に来て、鮮烈に記憶に焼き付いているものだった。

……何故、それがここにあるのかはわからない。

けれど、その服を手に取ったセリカからは、ほかの選択肢は一切消えていた。

 

「……この服でいい?」

 

気が付けばセリカは人形にそう尋ねていた。

 

______________________________

 

ボロボロの制服を脱いで、人形に手伝ってもらいながら胸にさらしを巻く。

元々服が着れたものではないほど大きかったので人形に仕立ててもらったものの、

それでもなお服はぶかぶかだった。

首元に薄汚れた聖布の巻かれた黒い、神父服を思わせる狩装束。

 

「……私にこんなこと言う資格なんてないかもしれないけど」

 

……どうか、力を貸してください。

 

セリカは、心の中で小さくつぶやいた。

 

「どうかされましたか?」

「……いや、何でも。それより、次は狩道具……だっけ?」

「はい。いくつかは既に狩人様が選んでくださっています」

 

セリカの言葉に人形は小さく頷くと、一体どのような手段を使ったのか他の狩装束を木箱に一瞬でしまうと(いい加減にセリカもツッコミを入れるのを諦めた)、

代わりにいくつかの小物や薬品、そして何より……

 

「……あれ、それ私の銃じゃない」

 

その中にはセリカの愛銃、シンシアリティがあった。

驚く彼女に人形が説明する。

 

「狩人様が獣に通用するように、

と水銀弾が装填できるようにと改造されていました」

「え、水銀弾?本物の??」

「……?はい。本物ですが……どうかされましたか?」

「……いや、なんでも」

 

何故、セリカがこんな反応をしたかというと、

ただ水銀弾が実現していないと思っていたからではなく、

昔、キヴォトスで最強の水銀弾なるものを通販サイトで買って

ものの見事に騙されて貴重なバイト代を巻き上げられたためである。

しかも、当の商品は重りと銀色の絵の具を解いた水を

プラスチックの弾丸に詰めただけだった。

因みにセリカは嬉々として一発1000円するものを10弾倉分買った。

何ならみんなに指摘されるまで本物だと信じていた。普通に泣いた。

過去の黒歴史について言いたくなかったのでセリカは適当にごまかす。

幸いなことに、人形は会話は受け身が基本なので深掘りされることはなかった。

シンシアリティをセリカに渡した人形は、他の道具も次々と渡してゆく。

 

「こちらが水銀弾補充用のシリンジ、それと獣狩りの松明に携帯ランタンです。

消耗品は必要に応じてその都度取り出していただければ。

水銀弾と輸血液は夢に帰ってこられたら補充させていただいてますが、

輸血液だけ在庫が不足しているのでセリカ様に渡せるのは3つのみになっています」

「わかった、ありがとう」

 

そうしてものを受け取ったセリカだったが、やはりかなりかさ張る。

シンシアリティは普通に持つとして他のものは……

そこで、セリカはあの時の見様見真似で松明を背中辺りにしまおうとしてみた。

……瞬間、

 

「……あれ?」

 

急に手から松明の感触が消えた。

手を戻してみるとかなり大きかったはずの松明が影も形もない。

……今度は松明出てこい、とそれっぽく念じながら手を背中に入れてみた。

すると、今度は手に硬い感触が現れた。

 

 

…………なにこれ。

 

 

その調子で懐に小物を入れれば感触が消え、

必要なものを思い浮かべればそれが出てくる。

何かよくわからないがとりあえず謎収納術はできるようになった。

できるようになっても原理は全くよくわからないがセリカは理解を諦めた。

……まあ、取り敢えずこれで準備は終わりか。

 

「ありがとう。じゃあ私はこれで……」

「いえ、あともう1つだけお渡しするものが残っています」

「え?」

 

呆けた声を出すセリカに、人形は木箱に手を伸べると、

もう一度取り出すものの様相を大きく変えた。

 

「……狩人の象徴、仕掛け武器です」

 

そこには、大きさも、形も、種類も、すべて異なるたくさんの武器が収納されていた。

 

あるものは、先程の狩人が持っていたものを少し大ぶりにした折り畳み式のノコギリ。

あるものは、複雑な機構の組み込まれた短い杭。

あるものは、血を思わせる朱色の装飾の施された日本刀。

……何故か、車輪まであった。

 

それぞれが多種多様な異様を放つそれに、セリカは圧倒された。

 

「ある程度であれば私も武器の説明ができます。

お困りでしたら気兼ねなく尋ねてください」

「じゃ、じゃあ……銃が一体になった武器なんかは……流石にな」

「それでしたら、こちらの2つの仕掛け武器が……」

「あるのっ!?」

 

正直なところセリカは完全に適当な思い付きで言ったのだがあった。

しかも2つも。

セリカが驚く中、人形は言葉通り2つの武器を手に取った。

片方は無骨なごく短い槍、

もう片方は持ち手付近に様々な機構が組み込まれた直剣だった。

 

「こちらは銃槍という名前で、

変形により延長、及び先端から散弾が放てるようになります。

もう片方はレイテルパラッシュ、

銃槍とは反対に変形により折りたたまれ、通常弾を放つことが可能です。

大きな相違点としてはレイテルパラッシュの方が取り回しに優れ、

片手で十分に扱える点でしょうか」

「じゃ、じゃあレイテル……なんとかって言うのをお願い」

「かしこまりました」

 

人形から受け取ったレイテルパラッシュは

いつもアサルトライフルを抱えて駆けまわっているセリカにとってさほど重量はなく、

十分に取り回せそうだった。

……と言っても剣など扱える気がしないのでできる限り

シンシアリティと同時に使えそうなものを選んだ末のこれなのだが。

 

「ええと、その変形って……」

「付け根のレバーでロックが外れて自重で変形できます。

トリガーはその上部に取り付けてあるはずです」

「わかった。レバーレバー……あっ」

 

セリカが声を上げると同時、

レイテルパラッシュがカチリと金属音を立てて刃が落ちるように折りたたまれ、

銃口が露わになった。

それを確認してセリカは頷くと、改めて人形の方へと向き直った。

 

「ありがとう。とっても助かったわ」

「礼には及びません。私は狩人様に使われるために作られた人形にすぎませんから」

 

そう言うと、人形はセリカに言った。

 

 

「……どうか、貴方の目覚めが有意なものでありますように」

 

 

 




シンシアリティ

ヤーナムはおろか異国でも類を見ない奇妙な技術の使われた銃を、
水銀弾が使用できるよう改造したもの。
連射が可能でありながら十分な衝撃を持ち、
短銃などと同じように相手の体勢を崩すことができる。

誠実、正直の意味を持つこの銃は、持ち主である少女の狩人をよく表したものであろう。
しかし、変わり果て、[血酔いの獣]の異名を得るに至った彼女に、もうその言葉は届くことはない。



どもー、啓蒙が高まってブラボ風の説明文をかきたくなった時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
セリカちゃん、何とか立ち直れました。
その過程書くだけでめちゃくちゃ長くなってしまった……

ま、次回にはまたぶっ壊れるんですけどね。

それはさておき……前回伏線として書いた「ゆらぎ」の話あるじゃないですか?
僕としては違うことを想定して書いてたんですけどそれに関する感想で思いついてしまったことがありまして……


トリニティでぶっ壊れてほしい人、います?


これ投稿した後にアンケートで何人かかけそうな人ピックアップするんでよろしくです。
因みに、作者の性癖の問題で選択肢にケモミミが多くなる可能性がありますが他意はありません。いやマジで。

絡ませるなら過去ヤーナムかDLCを味わってもらうことになるかな……


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