ゲールマンさん、私はあなたの遺志を継ぎます。
どうか、安らかにお眠りください……
ここで一つご報告が。今立ててるプロットで行くと序盤の話と
決定的な矛盾が生まれてしまうんですね。
それもこれもあんまりストーリー進めてないうちに話を書き進めた
自分の責任なんですが……
あんまり改変はしたくないのでどうにかごまかせないか思案してたんですが
無理そうなのでちょっと一部修正します。
修正内容は……現代編セリカの頭につけているリボンが、
ツインテールをどちらも白リボンでとめていたのが、
片方だけ白リボンでもう片方はいつもの水色リボンに変更されます。
わかる人ならわかると思いますが、そういうことです。
「……ん」
微かなうめき声と共にセリカは目を覚ます。
ふと辺りを見回してみれば、見覚えのある石畳にかすかに漂ってくる血と獣の香り……
……時刻は宵、日も暮れかけており辺りがだんだんと暗くなり始めていた。
立ち上がりもう一度辺りの景色を見る。
「……本当に戻って来たんだ」
セリカはぽつりとつぶやいた。
墓石の使者たちに手を差し伸べた瞬間、
言葉にならないイメージのようなものが脳に流れ込んできて、
それに導かれるようにヤーナムの景色を思い浮かべた瞬間、気が付くとここにいた。
ふと足元を見れば、歪んだ灯りの下で使者たちがゆらゆらと揺れている。
……恐らく、夢に戻るときはここに行けば良いのだろう。
「……よし」
セリカは自分にそう一声かけると、
ヤーナムの町の奥に向けて歩き始めた。
立体的に、複雑に入り組んだ土地ではあるがセリカの歩みに不思議と迷いはない。
要所要所で群衆に見つかることを避けながら大通りを進んでゆく。
実のところ、セリカにはある程度ガスコイン神父の家がある場所に目星をつけていた。
もうかなり前のことに感じられるが、
逃げ場を求めて街をさまよっていた時セリカは何件もの家を尋ね歩いていた。
そのすべてが徒労に終わったとはいえ、収穫がなかったわけではない。
……話から推測するに、ガスコイン神父とヴィオラは、娘との3人暮らしのはず。
しかし、今までセリカと扉越しに応対した人々はどの人も少女の声ではなかった。
つまり、それらの家々は除外される。
……となれば、
「……あの、ずっと笑ってるおばあさん。あの奥が怪しい」
セリカはそう呟くと、市街の奥へと足を進めた。
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「……まだ、笑ってる」
件の老婆の家が近くにある噴水広場。そこには未だ狂った老婆の哄笑が響き渡っていた。
幸いなことに獣や群衆は集まっていない様子だが、急ぐに越したことはない。
セリカは足早に広場を通り過ぎる。
そんな彼女が、丁度道端に捨て置かれた棺桶のそばを通りかかったときのことだった。
……セリカは知らぬことだったが、元々ここ周辺にいた獣は未だ陰で息をひそめ、
獲物が通りかかる時を虎視眈々と狙っていたのだ。
「ギャアアアッ!!」
「え?きゃあああああっ!?」
瞬間、黒い何かがバサバサと羽音を立ててセリカの顔目がけてとびかかってきた。
鋭い爪が、硬いくちばしが、セリカの肉を啄もうと何度も何度も伸ばされる。
……幸いなことに攻撃力自体はヘイローの加護で受けきれる程度のもので、
咄嗟に顔を腕でかばったため傷だらけになることはなかったが痛いものは痛い。
「やめ、て、やめてっ!!!」
攻撃が止んだ一瞬、
セリカは反射的に
滅茶苦茶に振り回した。
一撃、二撃、そして……
「ギャッ!?」
三撃目。肉を切り裂く感触がセリカの手を伝う。
血しぶきが飛び散り、その一部がセリカの身体にかかった。
「ひっ!?」
その気味の悪い感触に思わず剣を取り落としそうになったセリカだったが、
何とかこらえる。
恐る恐る目を開けると、そこにいたのは……
「……カラ、ス?」
数羽のカラスだった。
どれもセリカのよく知るカラスとは違いでっぷりと太っており、
自分の足で立つことすらままならないようだ。
先頭の1羽は、首筋が先程の一撃で深々と切り裂かれ絶命しているが、
残りの2羽は重たい身体を翼でずりずりと引きずりながらセリカの近くに寄ってくる。
……生理的嫌悪すら抱かせるその醜悪な見た目に、
セリカは反射的に
タタタタタッ
銃声が一帯に響き渡る。黒い羽毛と血しぶきが一面に飛び散る。
それが止んだ頃には、先程までカラスがいた場所には
血みどろの肉塊しか残っていなかった。
「……はあ、何なのよホントに」
そう言ってセリカはため息をついた。
よくわからないカラスモドキのような生き物に襲われたのも嫌だが、
それ以上にこの鮮血と肉片で彩られた地獄に何の感情もわかないどころか
心地よさすら感じている自分が一番嫌になる。
……これ以上おかしくならないうちに先に進んでしまおう。
そう思い、セリカは今度こそその場を後にした。
因みに、セリカは右手に獣狩りの銃器を、
左手に仕掛け武器を持つという他の狩人とは真逆の持ち方をしているが、
これは単純にセリカ自身が近接武器に不慣れなため使い慣れたシンシアリティを
咄嗟に使えるようにと持ち替えているためである。
それはさておき場面は戻る。
噴水広場からちょっとした階段を上り、
少しだけ離れた場所にセリカは一軒の家があるのを確認した。
大きな鉄の門がまるで関所の如く併設されており、
近くまで来てようやく気が付いた形だ。
……その、門の奥の窓に明かりがともっているのをセリカは見た。
「……よし、まずはここから」
セリカは小さくつぶやくと、一度辺りを見回して索敵してから窓に近づく。
幸いなことに門は既に開いており、何の障害もなく窓に近づくことができた。
セリカは、窓のすぐ目の前に立つと一つ息をついた。
……大丈夫、大丈夫。
セリカはそう、自分に言い聞かせた。
いざ、声をかけようとするとどうしても声が出ない。
恐らく、自分の心のどこかが、
見ず知らずの少女に現実を伝えることを恐れているのだろう。
けれど、いつかその時はくる。
だから、その時に耐えられるように、強く自分に言い聞かせる。
意を決したセリカは、窓に向けて恐る恐る声をかけた。
「えっと……ごめんください?」
「……お姉さん、だあれ?」
……その耳朶を打ったのは、年端も行かない少女の声だった。
セリカの意識が、凍る。
そんな彼女をよそに、いつの間にやってきていたのか窓辺で小さな影が揺れた。
「獣狩りさんかと思ってたけど、違ったみたい……
あ、そうだ。お姉さん、獣狩りさん、見てないかな?」
かわいらしい声が、セリカに問いかける。
……いや、まだ確定したわけではない。
「……獣狩りさんって?」
セリカは辛うじて少女にそう聞き返した。
その声に、少女はうれしそうに答える。
「あのね、お姉さんの少し前に獣狩りさんにお父さんを探しに行った
お母さんを探してほしいってお願いしたの。
お母さん、おっちょこちょいだから思い出のオルゴールを家に忘れちゃってね、
だから渡してほしいって……」
……オルゴール、その言葉で確信した。
間違いなくこの少女は、探していたその人だ。
「……どうしたの?お姉さん」
「あ、ああいや、何でもない、わよ。それで、その……」
そこまで言いかけたところで、セリカの声は出なくなった。
……あれ?
自分でも自覚するのに少し間があいてしまった。
……もう一度、もう一度だ。
セリカは自分にそう言い聞かせると、もう一度口を開いた。
「……実は、その獣狩りの人と知り合いでね、
お父さんとお母さんが見つかったからあなたを迎えに来てほしいって言われたの」
しかし、そこから紡ぎだされた言葉は、
セリカ自身が言おうとしていた言葉とは真逆の物だった。
何を、言ってるの?
「え、本当なの?」
「えぇ、もちろん。その証拠に……ほら」
……純粋なのだろう。窓越しに聞こえる少女の声は疑心の色は一切見えず、
ただセリカの言葉に心を躍らせている様子だった。
セリカはそんな少女の言葉に答えると、懐からオルゴールを取り出した。
オルゴールの、優しい音色が辺りにあふれだす。
「これを使えばわかってもらえるはずだって言われて、どう?」
「ほんとだ、お母さんのオルゴールの音だ!」
少女のうれしそうな声が聞こえる。
……今の自分の顔は、一体どんな風になっているのだろうか。
きっと、きっととても歪な笑みが浮かんでいることだろう。
セリカは少女に言う。
「それで、日が暮れる前にみんながいる
オドン教会って場所まで案内したいんだけど……いいかな?」
「うん、わかったよ、お姉さん。すぐに支度するから待っててね!」
そんな声を残して、少女の影が窓辺から消えた。
その場に残されたセリカは、ただポツンと立ち尽くす。
……言えない。
「言えるわけが、ない」
誰にも聞こえないほど小さな声で、セリカはそう呟く。
一体何といえばいいのだ?声から判断するに、自分よりはるかに幼い少女に、
両親がすでに死んでしまったなどと……
……でも、せめて、この子だけは、この子だけは。絶対に、絶対に……
セリカは、ただ1人ヤーナム市街の石畳の上で、そう思い続けた。
数分後、パタパタとした物音がしたかと思うと、家の左側から小さな物音がした。
物思いにふけっていたセリカは、その音に気が付くと、
慌ててそちらの方へ向かった。
音源は家の扉、そこが半開きになっており、
隙間から1人の少女の顔がちらりとのぞいていた。
少女とセリカの目が合う。
「……もしかして、お姉さん?」
「そうよ。こうして顔を合わせるのは、初めてね」
少女はまじまじとセリカのことを見ると、恐る恐る扉から出てきた。
その姿が、露わになる。
「……!」
そこから出てきたのは白い大きなリボンを付けた
10歳に至っているかどうかというあどけない少女だった。
けれど、その流れるような金髪と顔立ちは、
セリカが彼女の母親を想起するには十分すぎるものだった。
「どうしたの?お姉さん、どこか悪いの?」
「あ、あーいやいや!?あんまりかわいいからびっくりしちゃって……」
「そうかな?……えへへ」
セリカの言葉に少女はにこりと笑った。
その邪気のない笑顔に、セリカの心がずきりと痛む。
「でも、お姉さんもきれいだよ。帽子の上の輪っかもおしゃれだし」
「あ、ありがとう……そういえば、名前は何て言うの?」
その痛みを振り払うようにセリカは少女に尋ねる。
それに彼女は笑顔で答えた。
「私はリリーって言うの。よろしくね」
「私はセリカよ、こちらこそよろしく」
お互いの自己紹介が終わったところで、
リリーがセリカの姿を見て何か気になったのか彼女に尋ねる。
「ねえ、セリカお姉さんも獣狩りさんなの?」
「え?あ、うん。一応ね……まだ、なったばっかりだけど」
リリーの言葉にセリカは頷く。
どうも、今まであってきた人たちから見るに
狩人というのは近接武器となんらかの銃を持っているのが余程一般的なのだろう。
セリカの言葉に彼女はやっぱり、と嬉しそうに手を合わせる。
「それじゃあ、お父さんと同じ服だから、きっと、
セリカお姉さんは医療教会の獣狩りさんなんだね」
「……う、うん。イリョウキョウカイの狩人なの」
なにそれ知らないんだけど!?
セリカは辛うじてごまかしたものの心の中でそう叫んだ。
……話を聞く限りだと医療って銘打ってるだけに
獣の病を治すための活動をしているのだろうか?
だとすれば何故そこに患者の殺害を目的とする狩人が所属しているのか
気にならなくもないがまあいい。
取り敢えずその場しのぎでごまかすことはできた。
セリカはほっと一息つくとリリーに改めて声をかける。
「それじゃあ、そろそろオドン教会に行こっか」
「うん!お父さんもお母さんも待ってるし」
セリカの言葉に、リリーも元気よく答えると、
お互いに
即ち、リリーは下水道の方向へ、セリカは大通りの方向へ行こうとしたのである。
「「……あれ?」」
彼女らは少し進んだところで、お互いにきょとんとした表情で振り返ることとなった。
まず最初におずおずと話を切り出したのはリリーである。
「ええと、セリカお姉さん。何でそっちに行こうとしてるの?」
「いや、リリーちゃんこそ、そっち下水道だよね?
あのめちゃくちゃ危ない場所……」
「そ、そうだけど獣狩りの夜が長いときはエレベーターが封鎖されちゃうから、
下水道を気を付けて通るしかないってお母さんが……」
「あー……なるほど」
リリーの言葉を受けセリカは事態を理解した。
実は、もう一度下水道鬼ごっこをしたくないセリカが僅かな望みをかけて密かにエレベーターの様子を確認しに行ったところ、何とエレベーターが動くようになっていたのである。それがわかったときセリカは思わず喜びで飛び上がりそうになった。
とはいえ、リリーがそれを知っているわけがないから仕方ない。
セリカがそのことをリリーに伝えたところ、彼女も喜びで目を輝かせた。
……が、すぐにこてんと首を傾げる。
「でも、それだったらどうしてセリカお姉さんは大通りの方に行こうとしたの?
エレベーターに行くなら大橋を通った方がずっと早いのに……」
「え、そうなの!?」
今度はセリカが驚く番だった。
と言ってもこれも仕方がない。
キヴォトスから来たばかりかつ必死で逃げ回ってばかりだったセリカに
道を覚えろという方が酷である。
驚くセリカにリリーはちょっと得意げな表情になった。
「ふふー、セリカお姉さんは聖堂街暮らしだから
ここのことがわからなかったんでしょー?」
「あ、あはは……まあ、そんな感じね」
……ごまかした手前、ヤーナムの外から来たなどと口が裂けても言えるわけがない。
幸いなことに、冷や汗を垂らすセリカの様子に
リリーは特に違和感を感じなかったようだ。
そのことに心の中でほっと安堵の息を漏らすと、
セリカはレイテルパラッシュをしまい、リリーに手を差し出す。
リリーも、差し出されたその手を繋ぐと、セリカの顔を見て笑った。
「……それじゃあ改めて」
「「オドン教会へ出発!」」
そう2人は言うと、大橋の階段へ向けて歩き始めた。
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「オ、オオ……」
うめき声を漏らして、全身に目玉を貼り付けた老婆が崩れ落ち、霧となり消える。
その様子を見届けた狩人はノコギリ鉈にべっとりと付いた血を振り払うと、
背後にいつの間にか現れた歪んだ灯火に歩み寄る。
「……やはり、多対一というものは骨が折れるな。
それに、改めて来てみたはいいが骨折り損か……」
そう呟きながら狩人は灯火に明かりをともすと、
沸き出てきた使者たちの手にそっと触れる。
次の瞬間、狩人の姿が光に包まれたかと思うと、
辺りの風景は狩人の夢の物へと入れ替わっていた。
「さて、次はどうしたものか……」
……
月から降り立った上位者を跳ねのける手段は見当はつけているが、
3本の3本目が全て見つかっていない以上さらに探索は念入りにしなければなるまい。
それにはさらなる力が不可欠。
異界の狩人達……の中でも地底人とよばれる類の者に教えを請ってみるか。
「……まあ、ひとまずは人形殿に血の遺志を力としてもらおう」
狩人は一旦思考を打ち切って静かに佇んでいる人形の下へ向かう。
……その時、あることに気が付いた。
水盆の下でうずくまっていた未だ名も知らぬ少女がいないのだ。
3度目で初めて見かけた上、今までの人々とは全く違う雰囲気をもつ少女のことを、狩人は彼なりに気にかけていた
……そういえば、件の少女は邪魔になるからと
別の場所へ移動しようとしていたことを狩人は思い出す。
とはいえ気になるものは気になる。
そこで、この場所でずっと彼女のことを見ていたであろう人形に聞いてみることにした。
「人形殿、件の少女の姿が見えぬようだが……」
「セリカ様でしたら、狩道具を受け取ってヤーナム市街へと向かわれました」
「……ほう、セリカというのか。あの少女は」
人形の言葉に狩人は驚いた様子で目を瞬かせた。
……正直、あのまま壊れたままだとばかり思っていただけにとても意外だった。
それに名前まで聞けるとは思わなかった。
「……ふむ、立ち直ったならばよかった。
時に人形殿、彼女がどうしてヤーナム市街へ向かったか知っていますか?」
「いえ、そこまではお聞きしませんでした」
「そうですか」
まあ、正直予想していたことではある。人形の行動原理は基本受け身だ。
あまり自発的に行動しているところを狩人自身も見たことはない。
ともかく、先輩として1つ様子見にでも向かおうかと狩人が考えていたその時だった。
「……そう言えば、セリカ様は狩道具以外にも何か……
そう、たしかブローチとオルゴールを持って行かれていたように思います」
「であろうな。何せ、私が渡し……」
そこまで言ったところで、狩人の言葉が止まった。
……そうだ。自分はセリカにブローチとオルゴールを渡した。
自分の自己満足によるものが一番大きいのは理解している。
しかし、それは何もセリカのことだけではない、
セリカに渡したらブローチとオルゴールはもう2度とヤーナムへと出ることはない。
だから渡したのだ。
だが、もし……もし、セリカが
少女との接触を試みているのだとしたら?
善意からせめて両親の遺品を渡そうとしているのであれば?
「……人形殿、急用ができた」
「……?はい。わかりました」
狩人は人形に端的にそう告げると墓石の前へと急いだ。
使者たちに触れ、自身がどこに降り立つか選択する。
……予想が正しければ少女はまず間違いなく下水道を通ってオドン教会を目指すはずだ。
とすれば、自分は全速力でそれを遡る。一縷の望みにかけて……
「どうか、無事でいてくれ……!」
狩人の口からかすれ声がこぼれたかと思うと、次の瞬間にはその姿は消えていた。
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大橋。それはヤーナム市街と聖堂街を繋ぐ大動脈のようなものだ。
市街に獣の病が広がってからは門は封鎖されその機能を失って等しいが、
それでもヤーナム市街を広くつなぐ道であることには変わりない。
そんな大橋の中でも奥側の場、その横道の一か所から、
セリカは橋の上の様子を息をひそめて確認していた。
「グルル……」
「グウウッ」
……橋の上では、2匹の大型の獣が我が物顔でその場を闊歩していた。
そんな彼らに、セリカはシンシアリティの銃口を向けると、
その頭部をスコープに収める。
マズルフラッシュ
殺到する大量の水銀弾が先頭の1匹の頭蓋を粉みじんに打ち砕いた。
更に何発かは背後のもう1匹の腕を貫く。
「ギャアッ!?」
腕が一瞬で肉片と化した獣は悲鳴を上げると、
そのようなことをした下手人の方を向き牙をむき出しに走り寄る。
しかし、腕が一本かけたそれの速度に、セリカは十分対応できた。
「せあっ!!」
セリカは獣に向けて直剣となったレイテルパラッシュの切っ先を
腕をめいいっぱい伸ばす。
付け焼刃とはいえキヴォトス人の身体能力で突き出された鋭い直剣、
さらにそれなりの速度で獣が駆けていたということもあり、
獣は見事に頭蓋を刺し貫かれた。
「ガアッ!?」
獣は叫び声を一つ残して絶命した。
ビクリ、ビクリと末後の痙攣を起こすそれから、
セリカはおびえながら剣を抜き取ると、
辺りに他の敵がいないことにほっと一息ついて横道の方へと戻る。
「……セリカお姉さん、大丈夫だった?」
そこでは、リリーが物陰の奥で静かに隠れていた。
そんな彼女にセリカは笑いかける。
「ふふ、当たり前よ。それじゃあ、いいって言うまで目を閉じておくのよ」
「うん、わかった」
リリーはそう答えると、きゅっと目を瞑ってセリカのいる方に手を差し出す。
セリカはその手を握ると大橋の先へと向かって歩き始めた。
辺りには先程自分が殺した生き物だったものが転がっている。
間違ってもそういうものを少女に見せるわけにはいかない。
そして、丁度壊れた馬車を過ぎ、
例の血みどろの殺害現場が見えなくなったことを確認してから
セリカは辺りを見回す。
「……!!獣がっ!!」
憎悪のこもった人の声。
セリカが反射的に振り向くと左側の階段から
鎌を持った市民がセリカたちの方に向けて駆けてきていた。
しかし、セリカの行動の方が素早かった。
大きく振りかぶられた鎌の懐に素早く潜り込むと腹を銃床で強打。
……少し狙いがずれて股間辺りに思いっきりぶち当たったのは内緒である。
「!?!?!?!?!」
声にならない悲鳴をあげてうずくまる市民。
その頭部をセリカは思いっ切り蹴とばした。
市民は声すら上げずゴロゴロと階段を転がる。
……階段下の地面に叩きつけられて目を回している辺り、気絶してしまったようだ。
そのことにセリカは胸をなでおろすとリリーに声をかける。
「もう目を開けても大丈夫よ」
「うん、わかったよ」
セリカの言葉を聞いたリリーは恐る恐る目を開けてきょろきょろと辺りを見回す。
どうも、自分の記憶と当たりの景色を照らし合わせているようだ。
さほどしないうちにその表情が笑顔に変わる。
「セリカお姉さん!エレベーターに行くには丁度ここで右の階段に行くの!」
「本当!?」
これはうれしい偶然だ。セリカ自身、正直行き過ぎていないか心配だったのだ。
リリーに案内されるがままにセリカがその通路へと移動する。
その時、
「ひゃっ!?」
先行して階段の方へと向かっていたリリーが、悲鳴をあげてしりもちをついたのだ。
「リリーちゃん、どうしたの!?」
「あ、階段、階段に……」
セリカは慌てて彼女に駆け寄ると、リリーが震える手で階段の方を指さす。
セリカはそちらの方向にシンシアリティを向けると警戒しながら近づく。
そこには……
「……階段が!」
何と、件の階段が崩れさっていたのだ。
本来あるはずの足場は瓦礫となって周囲に散乱している。
いや、それだけならまだよかった。
高さ的には気を付ければ怪我しない程度のものでしかない。
問題はその階段の下にあるものだった。
「……!」
……血塗れの人の死体だ。死んでかなり時間がたっているのか、
切り裂かれた腹のあたりの血が色濃く淀んでいる。
セリカはもう慣れてしまったが、リリーにはつらいものだろう。
「……よし、じゃあ、私がおんぶするから一緒に降りよっか。
その間リリーちゃんは、何か楽しいことでも考えて」
「う、うん。わかった」
リリーはその言葉にこくこくと頷くと、セリカの背中に負ぶさった。
少女の暖かな体温と、吐息が、セリカの耳朶を打つ。
「……~っ」
……自分の頬が赤くなっていることに気が付かれていないだろうか。
咄嗟にそんな考えが浮かんでしまう。
それをセリカは慌てて振り払うと、死体を踏んで滑らないように慎重に下に降りる。
幸いなことに、特に何事もなくそれはうまくいった。
……その時、
「セリカお姉さん。お父さんみたいな匂いがする」
とても柔らかい声で、少女がそう言った。
ズキリ
セリカの心が、また一つ軋みを上げる。
「……そう、それはよかったわ」
「えへへ、もう少しだけおんぶしてもらってもいいかな?」
……今の自分の声は、身体は、震えていなかっただろうか。
そんな思考が頭をよぎる。
……セリカはそれを押さえつけるように笑うと、少女の声に答えた。
「もちろんよ。
……よかったら、このままずっとこのままでもいいわよ」
……夜は、深くなってゆく。
セリカの白リボン
狩人の少女が付けている大きな白いリボン。
可憐なレースのついたそれは、しかし、所々赤黒く汚れている。
時折、彼女はこのリボンがまるで生きているかのような物言いをする。
そして、良く洗えば取れるであろうその汚れを、決して落とそうとしないのだ。
どもー、時空未知です。
割と最近にランキングの概念を知った時空未知です。
……乗ってたのマ?
まあそれはさておき今回の作品はいかがだったでしょうか?
セリカちゃんと幼女のほのぼの?ヤーナム観光記でした。
描写し忘れてましたがセリカちゃんのケモミミは帽子に隠れているで一見見えません。
とはいえまた長くなって話数を分けてしまった……
で、でも次回は確実にセリカちゃんを曇らせます!
……といっても次回の話は私含めて大多数の狩人様が巻き添え食らうんじゃないかな?
因みに、リリーという名前はイギリス圏で白を意味する名前ないかなーと探し回って白百合の意味を持つこの名前にさせていただきました。どうですかね?