……そして誤字が、余りにも多い。
気を付けてるつもりなのに毎回なんかしょうもないところでやってる。
いつも誤字報告してくれる皆様、本当にありがとうございます……
さて、今回、グロ、精神ダイレクトアタック注意です。
割と盛大にやったので苦手な人はブラウザバックを推奨します。
しばらく時間は経ち、
無事、エレベーターを使ったセリカとリリーは、
オドン教会に程近い橋の上まで来ていた。
リリーはセリカに背負われたままで、安心したのかすうすうと小さな寝息を立てている。
……寝ていてくれてよかったとセリカは切に思う。
橋の上は、原形が分からないほどぐちゃぐちゃに焼け焦げ、引きつぶされた死体で
あふれかえっていた。
その服の中に、見知ったものが混じっていた時、
死体にある程度慣れていたセリカでも思わず嘔吐いた。
[せめて、あんたら家族とそこの人だけでも無事生き残ってくれ]
今はもう、遠い昔のように思える記憶が、蘇る。
……ほんの短い時間会っただけだったとしても、
見知った人の遺体などとてもではないが平坦な気持ちで見ることはできない。
幸いなことといえば、リリーが未だ眠ったままであったことだろうか?
彼女が起きる前にセリカはその場を足早に通り抜けた。
コツ、コツ、と、狭い石畳の路地にセリカの足音が反響する。
……路地に入り、道を進むにつれ辺りはどんどん暗くなってゆく。
それは、セリカ自身の心のありようを示しているようだった。
もうすぐ、オドン教会のすぐそばにあるという墓地へたどり着く。
そこを抜ければ、オドン教会。
リリーのことを待っている家族がいる
リリーは今も、家族がそこで自分達を温かく出迎えてくれると信じているのだろう。
……セリカが、嘘をついたから。
ガスコインさんの方はまだ、狩りに出ているからと言えば良いかもしれない。
しかし、ヴィオラさんの方は、誤魔化しが効くとは到底思えない。
オドン教会についてしまったらリリーは知ることになる。
自分の家族に、もう2度と会えないことに。
きっと、自分とは比較にならないほど打ちのめされる。
もしかしたら、嘘をついた私を責めるかもしれない。
……そのことが、堪らなく恐ろしい。
リリーが絶望する姿を見たくない。
リリーに、責められたくない。
……結局、あれだけ意気込んでいながら遺品の1つも渡せていない。
そんな自分の弱さが嫌になる。でも……
「でも、それじゃあ……どうしたらよかったの」
セリカの口から、かすれた声が洩れる。
……あぁ、いっそのこと。
このまま時間が止まってくれれば、どれほどよかっただろうか?どれほど……
けれど、足を止めるわけにもゆかず、
気が付けばセリカは墓地の入り口にたどり着いていた。
薄暗い墓地には、未だに戦闘の跡が色濃く残っている。
砕けた墓石、あちこちに飛び散った血……
「……っ」
光景が、フラッシュバックする。
セリカはその戦闘痕から目を背け、足早にオドン教会への道を目指そうとした。
……その時、
「ギャア、ギャア」
何かの鳴き声が耳朶を打った。
……どうも、何か生き物がこの墓地にいるらしい。
恐らくは今までもたびたび見かけた太ったカラスだろう。
動きは鈍重で、攻撃もヘイローの加護の前には無力だが、やたらと奇襲性が高い。
今はリリーを背負っている以上、気を付けておくに越したことはないだろう。
セリカは一旦、辺りを見回すと、手頃な木の下に移動すると、
そこに小さな寝息を立てているリリーを降ろし、
木の幹にもたれかからせた。
「……いい子にしててね」
眠る彼女に、セリカは意味もなくそんな声をかけると、
物音が聞こえた方へそろりそろりと移動する。
近づくにつれ、物音の大きさ、そして数も多くなる。
……どうも、相手は複数いるようだ。
といってもあのカラスは基本的に集団でいるイメージが大きい。
これもごく想定されたことにすぎない。
そして……
ぐちゅり
その音に、生々しい水音のようなものが混じった。
それが聞こえた瞬間、セリカはほとんど反射的に物陰から飛び出していた。
そして、見た。見てしまった。
「……あ」
3羽の黒いカラスが、墓石の陰から飛び出してきたセリカの存在を気にも留めず、
血だまりの中心に群がっていた。
ぐちゃっ、ぐちゅっ
カラスは、水音を立てながら一心不乱にそれを啄んでいた。
カラスがそれの腹にくちばしを突っ込む度、反動でそれの頭が力なく揺れる。
……彼女の、ヴィオラの遺体が。
瞬間、セリカの理性が消し飛んだ。
人の声とは思えぬ獣の咆哮のような悲鳴が、墓地に響き渡った。
その声を聞いたカラスがずりずりと重い身体を引きずりながら振り向こうとしたが、
あまりにも遅い。
まず、つい先ほどまで遺体を啄んでいた一匹が尾羽を思いっ切り引っ張られて
その身体を墓地の開けた場所へと無防備にさらけ出す。
瞬間、
「……近づくな」
カラスの頭蓋に目がけて、
セリカはレイテルパラッシュを両手で握り締めると一気に振り下ろす。
全力で振り下ろされたレイテルパラッシュの先端が
頭蓋を砕きながら貫通、それを地面に縫い付ける。
そのカラスは事態を理解する間もなく絶命した。
「近づくな」
次のカラスは新たに現れた新鮮な肉にありつこうとセリカにずりずりと近寄ったが、
その反応が追いつかない速度でセリカはレイテルパラッシュを引き抜き、
カラスの背後に回ると、そのでっぷりとした胴体を踏みつけた。
「ギャッ!?」
カラスが悲鳴を上げる。
しかし、セリカはそれを意にも介さずミチミチと足に力を籠める。
「ア!アア!?」
カラスはじたばたと藻掻くが、
その抵抗がどんどんギクシャクしたものに変わってゆく。
何かがつぶれる感触、何かがへし折れる感触が連続する。
そして、セリカが更に足に力を込めたその瞬間、
カラスの胴体にその靴が大きく沈み込んだ。
ドチャッ!
カラスは口から内臓の中身、内臓そのもの、
そして夥しい量の血を勢いよく吐いた。
……カラスはほとんど死んでいるようなものだったが、
本能によるものか、それとも末後の痙攣か、そのくちばしがパクパク動く。
しかし、セリカはそれすらも見逃しはしなかった。
シンシアリティの銃口が、その後頭部に押し付けられる。
「ヴィオラさんに……近づくな……!」
憎悪のこもった声と共に、シンシアリティの引き金が引かれる。
ぱっと、花火のように、脳漿と粉々になった骨が辺りに散らばった。
セリカがそれを見届けた瞬間、
「ギャア、ギャア!!」
背後から、残った1匹がセリカに向けてとびかかった。
セリカはその攻撃を防ぐことすらせず、
振り向きざまにカラスをレイテルパラッシュで切りつけた。
______________________________
「へうっ!?」
かわいらしい小さな声が木の根元から聞こえた。……リリーだ。
何か、大きな声が聞こえてきたせいで彼女は眠りから意識を現実に引き戻されたのだ。
セリカの背中で眠っていたはずなのにいつの間にか彼女はいない。
「……もしかして、獣が出たのかな?だから、セリカお姉さんは……」
……自分を安全な場所に置いて、狩りに行った。
リリーは恐らくそうであろうと予想を立てて木の下で小さくうずくまることを選択する。
静かにしていると、墓地の奥から何かの物音が断続的に響いてくる。
きっと、セリカが戦っているのだろう。
リリーは、早くセリカが戻ってくることを願い、祈った。
……しかし、
「……どうしよう」
それも長くは続かなかった。彼女とて幼い少女だ。
ひとりぼっちで薄暗い墓地で待たされていれば、不安にもなる。
「……少しだけなら、いいよね?」
リリーはそう自分に言い聞かせた。
幸いなことにセリカが戦っている場所はすぐ傍だ。
少し覗き見るだけだ。少しだけ、少しだけ……
そう思い立つとリリーはそろりそろりと音のする場所へしゃがんで移動すると
墓石の裏からそっと顔を覗かせた。
……覗かせて、しまった。
「ひっ……!」
リリーは思わず尻餅をついた。
……そこには正しく地獄絵図が広がっていた。
カラスの、形容することすらためらわれる無残な死体が3つ。
そして、その内の1つは……
「なんで、なんで、なんで、なんでこんなことになるの……」
今まさに、自分を守ってくれていた優しい狩人が作り出していた。
セリカは聞き取れないほど小さな声を呟きながら
ひたすら、ひたすらレイテルパラッシュの
切っ先をほとんど真っ二つになったカラスの遺体に突き立て続けている。
突き立てるたびに返り血が、彼女の身体にかかる。
ちらりと見えたセリカの表情は、憎悪がこもっていながら今にも泣きだしそうだった。
その様子を、リリーは声を上げることもできず。ただ、見ていた。
……ひたすらにカラスを切り刻み続けていたセリカだったが、
その遺体から血があふれなくなると、ようやく彼女は立ち上がった。
そして、その後ろにくるりと振り返るとその背後にあるらしい何かに近寄る。
生憎、角度の問題でそれはセリカの背中にすっぽりと隠れており、
リリーの方から姿を窺うことはできない。
……しかし、リリーの心の中で、猛烈な嫌な予感がよぎる。
セリカはそれの前でしゃがみ込むと、すっと手を差し伸べた。
「……よかった。顔はきれいなまま」
先程とは打って変わって、優しい声色でそれに語りかけるセリカ。
そして……
「……リリーちゃんを送ったら、絶対に早く埋葬するから。ヴィオラさん」
「……え?」
……何が聞こえたか、理解できなかった。
ヴィオラ……お母さんの名前だ。埋葬……?何でそんなことしないといけないの?
お母さんは、だって、だって……
気がつけば、リリーは物陰から飛び出していた。
「っ!?リリーちゃん!?」
セリカが物音に気が付き振り向くも、その姿に驚愕の表情を浮かべる。
……しかし、もう遅い。
リリーは、セリカで隠れていたそれを、見てしまった。
血の中に力なく沈み、腹部は裂け、赤黒い何かがのぞいている。
けれど、その服も、生気のない顔も、
確かに、確かに、いつも笑っていた大切な母、そのものだった。
「おかあ、さん?」
よたよたと、力ない足取りでリリーはヴィオラに近づく。
……セリカはその後姿に声をかけようと手を伸ばすも、結局その手は止まる。
リリーは、自分のスカートが血に汚れることすらいとわずその場に膝をつくと、
ヴィオラの頬に手を伸ばす。
その肌は、驚くほどひんやりとして、冷たかった。
「嘘……そんな、そんな……」
リリーからこぼれる言葉に、嗚咽が混じってゆく。
ゆるゆると振り向いた彼女の瞳には大粒の涙が浮かび、
ぽたぽたと絶えず流れ落ちている。
「お姉、さん……嘘、だよね?だって……だって、
お母さんは教会で待ってるって……言ってた、よね?そう、だよね?」
「……私、は」
そこまで言ったところで、セリカは言葉に詰まる。
しばらくの静寂の間、セリカは視線を彷徨わせると、俯いた。
「……ごめん」
「……じゃ、じゃぁ、お父さんは?お父さんは……いるよね?そう、だよね?」
少女が必死に、セリカにそう呼びかける。
せめてもの希望を込めて。
……いや、リリーとてどこかでは理解はしているのだろう。
けれど、信じられない。信じたくない。だから、セリカに呼びかける。
だが、現実とはどこまでも残酷だ。
セリカは苦しそうに、かすれた声でただ一言言った。
「ごめん、なさい」
「……あ、ぁあ……」
リリーの声が、表情が、絶望の色に濡れる。
少女は、もう一度母に向き直ると。その冷たい身体を力なく抱きしめる。
「おとうさん……おかあ、さん……やだ、ひとりぼっちは、いやだよぉ……
えぅっ……う、うぅぅぅ……」
……薄暗い墓地に、少女の泣きじゃくる声が響く。
ヴィオラの遺体に縋りつき、ただ泣き続けるリリーに、
セリカは何も出来ず、ただ立ち竦んでいた。
「……どうしたら、良かったんだろう」
誰にも聞こえないほど小さな声で、セリカが呟く。
……これは罰なのだろうか?少女に真実を伝えなかった自分に対する。
それとも、この街が、どうしようもなく悲劇に満ちているのだろうか?
考えても答えは出ない。
その時、セリカの視界の端で、何かがきらりと光った。
セリカの背筋に、悪寒が走る。
「だめ、避けてっ!!!」
セリカがリリーに向けて叫ぶ。
しかし、絶望に沈んだ彼女に、その声が届くことはなかった。
ヒュッ
風切り音を立てて何かが視界を横切る。
そしてそれが、少女の背中にドスリと、鈍い音を立てて突き刺さった。
「あぐっ」
リリーは、小さな悲鳴を上げて地面に倒れ伏すと、そのまま動かなくなった。
「……リリー、ちゃん?」
呼びかけても返事はない。
……その背中に、突き刺さった小ぶりなナイフを中心に、
じんわりと新しい血が広がってゆく。
その光景が、セリカのトラウマに重なった。
「……!!!リリーちゃん!!!」
……幸いなことというべきか、セリカは前回ほど錯乱してはいなかった。
倒れたリリーに駆け寄ると、いつか見たドラマの見様見真似で口元に手を当てる。
「……息はある!」
幸運なことにリリーは気絶しているのみで、息はあった。
そのことにセリカはほっと胸をなでおろすも、
未だ敵が迫っていることを失念していた。
セリカの背後に回り込んだ何者かは、
その無防備な背中目がけて仕掛け武器を勢いよく振り下ろした。
「がっ!?」
背中がノコギリのようなもので深々と切り裂かれる。
その激痛と衝撃に、セリカの体勢が大きく崩れた。瞬間、
ドチャッ
背中の傷口に再び激痛が走ったかと思うと、
何かがそこから無理やりねじ込まれ、
腹部の臓物を引き裂きながらセリカの腹を食い破った。
……痛みとも呼べぬ鈍い衝撃が体内から全身を駆け巡る。
呆然とセリカが下を見ると、
自分の腹から鮮血と共に赤黒いものを張り付けた腕が飛び出していた。
次の瞬間、その腕が勢いよく引き抜かれた。
セリカの身体が夥しい量の血を散らしながら地面を転がる。
「うげっ……ごほっ、ごふっ」
今まで感じたこともないような激痛がセリカを襲う。
痛みのあまり全身に力が入らない。
スカスカの内臓から何かがせり上がる感覚がしたかと思うと、
セリカは自分の口から何度も何度も血を吐いた。
けれど、セリカの意識は何故か嫌というほどはっきりしていた。
血に濡れる視界の中、セリカは襲撃者の方向を見る。
襲撃者はノコギリ鉈と短銃を持ち、黄色がかった狩装束を着た狩人だった。
風体こそ普通の狩人だが、その目が明らかに普通ではない。
焦点があっておらず、その瞳はグズグズに蕩けているようだった。
その右手のノコギリ鉈が、倒れ伏したリリーに向けて大きく振り上げられる。
「っ……!!」
セリカは全身の痛みを無理やり押さえつけると、
シンシアリティの銃口を狩人へと向けた。
銃声が連続する。
放たれた弾丸は狩人の腕を、側頭部を、胸部を撃ち抜き、
その体勢を大きくよろめかせた。
その隙に、セリカは弾かれたように起き上がると、
狩人の目の前からリリーの身体を掬い上げるようにかっさらった。
「ぜぇ……ぜぇ……うぐっ」
重傷を負っていながら無理やり動いたせいで
身体が鉛のように重くなるとともに悲鳴のような痛みを発し始める。
セリカは震える手で懐に手を入れると、輸血液の小瓶を1つ取り出す。
しかし、それを自身に投与しようとはしない。
視線の先にあるのは、意識がないまま苦しそう呻くリリーの姿だった。
セリカは彼女の背中に突き刺さったナイフの持ち手に手をかける。
「……ごめ、ん!」
セリカは短く謝ると、少女の背中からナイフを一息に引き抜いた。
「あぐうっ……!」
リリーの身体が痛みで跳ねる。背中の傷から鮮血がだくだくと溢れ出す。
セリカはその光景から目を背けそうになる心を必死で押さえつけながら、
彼女の太ももに輸血液の針を突き刺した。
ブラッドオレンジの液体が、リリーの身体の中に滑り込むのを見計らって、
素早く針を抜き、投げ捨てる。
その動作が終わるや否や、リリーの傷は流れ出た血を残すのみで、
跡形もなくふさがっていた。
「……よかった」
そのことに、セリカは自分の腹の貫通痕のことも忘れて、安堵の声を漏らす。
しかし、その時間は狩人が再び体勢を立て直すのに余りにも十分過ぎた。
その短銃の銃口が、セリカ達の方を向く。
「っ!!」
銃声
間一髪でセリカは墓石の陰にステップで滑り込んだ。
その衝撃で、体内に直接火箸を突っ込まれたかのような鈍痛が響く。
セリカは辛うじてそれを堪えると、今度こそ自分の太腿に新たに取り出した輸血液の小瓶を突き立てた。
明らかな致命傷が、それ1本で急激に閉じてゆく。
……が、流石の輸血液と言えども、その全てを再生するには至らなかった。
未だ、貫かれた内臓に痛みと違和感がある。
「……でも、これで動ける」
……残る輸血液は1本。
しかし、セリカは万が一に備えてそれを残す事を選択した。
ふと墓石の隙間から見やれば、敵がゆらりゆらりと近づいてくるのが見える。
セリカは意を決すると、墓石の陰から踏み出そうとした。
その時、
「おねえ、さん?」
背後から声がかかった。
思わずセリカが振り返ると、丁度、意識を取り戻したらしいリリーと目が合った。
……まだ、視界は朦朧としているのだろう。
けれど、その視線は確かにセリカのことを見ていた。
セリカは一瞬、動きを止めた。
「……ごめんなさい」
気がつけば、セリカはリリーにそう言っていた。
けれど、今度は視線をそらさない。
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
「でも、あなただけは絶対に助けるから」
「……!待っ、て」
そう言うが早いか、セリカはリリーの返答を待たず今度こそ墓石の陰から飛び出した。
……相対するは、狂ってしまったらしい狩人。
セリカのことを警戒しているのか、ノコギリ鉈を構え、様子を窺っている。
……まあ、何にせよ都合はいい。
セリカは一つ息をつくと、
レイテルパラッシュを右手に、シンシアリティを左手に持ち替えた。
どの道シンシアリティの弾薬は残り少ない。
それならば、レイテルパラッシュを利き手に持った方がいい。
……正直なところ、勝てるかどうかはわからない。
「……でも、諦めるわけにはいかない」
セリカがそう口走った瞬間、敵がこちらに向けて駆けだした。
その勢いに任せた、横一文字の斬撃。
セリカはその一撃をバックステップで回避するが、
相手はそんな彼女に一歩ずつ踏み込みながら連撃を浴びせる。
「くぅ……!」
絶え間ない連撃、ひたすら後ろへ、後ろへ間一髪で回避し続ける
セリカにも一時的な疲労の色が見えてきた。
と、突然敵の斬撃の嵐が止んだ。
相手も体力を使いすぎたのだろうか?
「何にせよ……今度はこっちの番っ!!」
セリカは鋭く吠えると、正面に勢い良くレイテルパラッシュを突き出した。
……が、
「あっ」
その一撃は側面へ回り込むような相手のステップにより空しく空を切った。
相手はセリカの反撃を見越して、あらかじめ体力を残していたのだ。
相手がノコギリ鉈を大きく振り上げる。
体力の切れたセリカは動くことができない。
自身に迫るそれを、ただ見ることしかできなかった。
ズシャッ
セリカの身体を、凶悪な刃物が引き裂く。
怯んだ彼女に、狩人はノコギリ鉈を遠心力で変形させながら更なる斬撃を加える。
「がはっ!?」
先の内臓攻撃ほどではないものの、展開された刃先により、
セリカの胸に深々とした切り傷が刻まれる。
そこでようやく体力が回復したセリカは、全力で後方へ飛び退る。
それに対し、狩人は懐からスローイングナイフを取り出すと、
その回避のわずかな硬直を突いてそれを投擲する。
ギザ刃のついたそれは、セリカの膝関節に突き刺さった。
「ぐっ……まずっ」
いくらヘイローの加護により普通よりは浅く済んでいるとはいえど
関節に異物が入っているのは致命的だ。
セリカはナイフをすぐに引き抜くと、最後の輸血液を自身に投与した。
傷がある程度までふさがり、痛みが引いてゆく。
……が、状況は以前にも増して非常に悪い。
今のままだと、確実に負ける……
「……考えろ、考えるのよ」
セリカは思わずそう口走っていた。
静止の狭間の中で、思考が加速する。
脳裏によぎるのは、先輩狩人とガスコイン神父の死闘。
記憶の窓を閉じたくなるような脳裏に焼き付いたトラウマを、セリカは必死に思い返す。
しかし、相手がそれを悠長に待っているわけがない。
銃撃、
相手の短銃から放たれた弾丸が、セリカに迫る。
セリカは、それを回避するが、その回避先に相手は攻撃を仕掛ける。
そして……
セリカはその斬撃を相手の横すれすれをすり抜けるように回避した。
敵狩人の攻撃が空を切る。
セリカはその隙に、すかさずレイテルパラッシュを突き込む。
血しぶきが舞う。
相手の狩装束に、刺突痕と鮮血が刻まれてゆく。
……記憶を思い返せば、
出会ったどの人もひたすら正面に攻め立て続ける攻撃が目立っていた。
そしてそれゆえに、逆に懐をすり抜けられると攻撃の機会が大幅に減る。
ようやくつかんだ隙を逃すまいとセリカは必死に
レイテルパラッシュを突き込み続ける。
それは、回避の隙も無い連撃となって相手に襲い掛かった。
……が、
ガクン
急激な運動をしすぎたせいで、再びセリカの体力が枯渇する。
動きの止まったセリカに、
狩人は先ほどまでのお返しといわんばかりにノコギリ鉈の連撃を浴びせる。
「っああぁあああっ!!!!」
だが、その激痛をセリカは咆哮に近い声で押さえつけると、
幾ばくか回復した体力で、左腕を動かすと
袈裟斬りに振り下ろされたノコギリ鉈を受け止める。
ゴリッ
肉を断ち、その奥の硬いものにノコギリの刃が接触する。
えも言えぬ不快感が走るが、
セリカはそのままレイテルパラッシュを敵に向かって突き出した。
敵の攻撃を無理矢理とはいえ受け止めて、その隙に攻撃したからか、
その刺突が相手にさらに深々と突き刺さる。
鮮血があふれる。
その一部が、たった今敵につけられたギザギザの切断痕に降りかかった。
……敵の血を浴びた傷跡が、輸血液には及ばぬとはいえ
みるみるうちに止血され、そして閉じてゆく。
しかし、その異常を死闘に対抗するセリカは気がつかなかったようだ。
敵への追撃もそこそこに、セリカは今度こそ体力が残っているうちに
バックステップで敵から距離をとる。
「っ……はぁはぁ」
荒く息をつくセリカ。
だが、敵はその一瞬の隙に反撃を試みた。
反応するのが困難なほど早い前方向へのステップ。
セリカの体力が回復するよりも早く、狩人はノコギリ鉈をその勢いのまま振りかぶる。
……セリカがそこで取った行動はほとんど条件反射に近いものだった。
銃が当たり前に普及し、戦闘が日常なキヴォトスだからこその行動。
即ち、シンシアリティの銃口が跳ね上がり、
丁度ノコギリ鉈が振り下ろされるタイミングで引き金が引かれた。
ガキンッ!!!
トリガーが短く引かれた故、放たれた弾丸は2発。
一発はノコギリ鉈を大きく跳ね上げ、もう1発は相手の胴体に着弾。
その衝撃で相手の体勢が大きく崩れた。
「っ!!!」
それを遅れて視認したセリカは無我夢中で右腕を大きく引き、突き出す。
……セリカの中ではレイテルパラッシュを全力で突きだしたつもりなのだろう。
しかし、実際はその剣はいつの間にかセリカの腕の中に溶け込んでいた。
ドチャッ
セリカの腕が、相手の腹を食い破る。
それは、内臓を突き破り、背中を貫通する。
「……へ?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
ただ、伝わってくるのは腕を圧迫する生暖かい感触と貫通した手の平の中にある手袋越しでも感じられるぬるりとした感触。
……セリカはようやく、自分が何をしたのかを自覚した。
「ひ、ひゃあああぁっ!!??」
未知の感触に混乱したセリカは反射的に腕を引き抜いた。
内臓を貫かれた敵の傷口から鮮血が噴き出し、豪雨となって彼女の身体に降り注ぐ。
敵の狩人は、ごろごろと地面を転がるとそのまま倒れ伏した。
先程までの苛烈な攻めが嘘のように動かなくなる狩人。
それをセリカは粗い息をついて見ていた。
恐る恐る自分の右手を見る。
先程までなかったはずのレイテルパラッシュはいつの間にか戻っていた。
しかし、大量の血を吸って湿った手袋と右袖。
そしてこびりついた肉片は自分が何をしたかを確かに物語っていた。
けれど、あれだけ嫌だった血の香りが、肉の感触が、何処か心地良いと感じる自分がいる。
「……私、どうしちゃったの?」
セリカは、掠れた声で呆然と呟いた。
その時、視界の端で何かが動いた。
「……嘘」
あの狩人がゆっくりと、だが確かに起き上がっていた。
……確かに自分も内臓を貫かれても生きていた。
けれど、それを改めて見せつけられると形容しがたい感情が這い上がってるくる。
傷口から血を、そして内臓をこぼしながらもまだ動いている。
……ほとんど化け物のそれだ。
「……っ!」
水銀弾はもう尽きた。
もう一度あれをできる見込みはほとんどない。
けれど、相手が起き上がったからには応戦するしか道はないだろう。
セリカはレイテルパラッシュを正面に構える。
瞬間、
「あとは任せな、お嬢ちゃん」
年老いた、それでいながら芯の籠もった老婆の声が聞こえた。
その時、セリカは敵の背後に、鴉を思わせる狩装束が広がるのを見た。
醜悪な人喰いカラスなどではない。
死を告げる、漆黒の鴉。
キィン!!
青白い火花が弾けた。
相手の狩人が振り向こうとするも、遅い。
瞬間、夕立のような鋭い斬撃の嵐が襲いかかった。
鮮血が弾け、その中に甲高い金属音が幾重にも連続する。
反撃の暇すら与えぬ連撃。
然程時間の経たぬ間に、狩人が膝をついて倒れる。
そして、その姿は立ち込める霧に溶け込むように、消えていった。
「……はえ?」
セリカが呆けた声を発する。
……訳がわからなかった。
突然、声が聞こえたかと思うと瞬く間に敵の狩人が、
何もできぬ間に倒されていた。
そして、敵が先程までいた場所には、
1対の不揃いな短剣を持ったペストマスクの人物がいた。
その人物は、短剣についた血を払うと、セリカの方を見た。
「あんた、災難だったね。よりにも寄ってヘンリックに絡まれるなんてね」
「へっ!?あ、は、はい!ありがとう、ございます……?」
突然謎の老婆(?)に話しかけられ、テンパったセリカは慌ててそう礼を言う。その様子を見て、相手はくつくつと笑った。
「ククッ、若いね……ま、礼には及ばないよ。
ああいう正気を失った狩人を狩るのが、私の仕事さね」
老婆はそう言うと、短剣を手慣れた手つきで組み合わせる。
甲高い音を立てて双剣は1つの剣となった。
それを終えると、老婆はセリカの元に近づく。
……さっきの狩人と言い、会う人会う人セリカよりかなり背が高い。
「狩人狩りのアイリーンと呼ばれてるしがないババアだよ。
お嬢ちゃんは新人かい?」
「は、はい。セリカって言います。よろしく……」
差し出された手を、セリカは恐る恐る握り返した。
……その手は、ぽかぽかと温かかった。
そんなセリカを見てアイリーンは再びくつくつと笑うと、手を離して彼女に話しかける。
「にしたってなんだってこんな場所にいるんだい?ここは狩人でも滅多に近寄らない場所さね」
「あ、えぇと、それは……」
「セリカお姉さんっ!!」
その時、墓地に声が響いたかと思うとセリカの背中に誰かがぽすりと抱きついた。
……リリーだ。
「リリーちゃん!?」
「お姉さんのばかっ!!」
セリカの声は、背中に顔を埋めたまま発された、涙混じりのリリーの声でかき消された。
「ぐすっ、心配、したんだから……お姉さん、死んじゃうかもしれないって。私、今度こそひとりぼっちになっちゃうかもって……う、うぅ……」
「……リリーちゃん」
嗚咽の混じったその声に、セリカはなにも言えなくなる。
その様子を見ていたアイリーンが、ポツリと呟く。
「……誰かと思えばガスコインとこの娘じゃないかい。
……あぁ。なるほどね」
視界の端に映る遺体を見て、アイリーンは何か納得したようだった。視線を戻せば、セリカの背中から離れたリリーが、改めて正面からセリカを抱きしめている。
リリーはポロポロと涙を流しながら。
セリカは、何処か安堵した表情でそれに実を任せていた。
そんな彼女に、アイリーンは懐から輸血液を一瓶取り出すと話しかける。
「ほら、さっさと残りの傷も治してお嬢ちゃんを安心させてやりな」
「え、あ、ありがとうございます」
セリカはそれを受け取ると、自分の太腿にゆっくりと針を差し込んだ。
________________________
「……ごめんなさい」
しばらく時間が経ち、セリカは改めてリリーと向き合っていた。
そんな彼女に、リリーは首を振る。
「ううん、もういいんだよセリカお姉さん。
お姉さんは私を守ろうとしてくれたし、命も助けてくれた。
……私はそれで、もう十分だから」
リリーはそう言って、改めて足元で眠るヴィオラの遺体の前に座った。
「……でも、お母さんとお父さんのお墓はきちんと作りたいかな。簡単でいいから……ね」
「……もちろん」
そう言って、リリーはセリカの顔を見上げた。
セリカもそれに頷いた。
「話は済んだかい?」
2人の少女に、アイリーンが声をかける。
その言葉に、2人は一度顔を見合わせると笑いあって、こくりと頷いた。……その時、
「誰か、誰かいないのかっ!?」
墓地の入口から、声が響いた。
偶然なことにその声の主に誰もが聞き覚えがあった。
「……あっ」
「あっ……獣狩りさんだ!!」
「おや、誰かと思えばジジイの方の新人じゃないか」
三者三様、思い思いの反応を示す。
入口に立つ先輩狩人に、セリカとリリーが駆け寄る。
……そこには確かにこの地獄の中で、
一時の安寧の光景があった。
……そして、誰1人。
リリーの瞳が蕩け始めていることに気がついていなかった。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
……本当なら、少女にはここで退場してもらうつもりでした。
でも……悪い、やっぱつれえわ……
ということで少女生存ルート入りました。やったね!
あの豚畜生に殺された哀れな少女はここにはいないのです!
精神的にかなりキてますが今は同じ悩みを抱える優しいお姉さんもいます!
さあ、たっぷり共依存しろ!
……え?本編でも少女は豚に背後致命入れて逃げてるから生きてる?
そういやそうだった(錯乱)
……え?生存ルート入ったにしては描写が不穏?
そもそも生存ルート入ったなら何で現代セリカに白リボンがついてるのかって?
……君のような生きのいいカキはフライだよ。
ということで次回は現代編です。
定例会議はいったいどうなるのか。
そして、遂にやつらがやってきます!
???「な、なななななんですって~!!?」