極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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……なんか書いてる内にデュラさんに結構酷いことさせてない?
と思い始めたこの常日頃。
あ、後ヤーナム石ゲットしました、やったぜ。




side past 黒見セリカ、又は旧市街(1)

旧市街。

 

そこは、ヤーナムに存在する焼き払われ、

捨て去られた土地である。

かつて、獣の病が大規模に蔓延し見限られたその土地は、

今は獣と化した罹患者のみが存在している獣の街……らしい。

 

セリカは先輩からそう説明されただけなので

それ以上の情報は知らない。

 

「辺境の探索まで中々手が回らなくてな。

今後も時々こういった事を頼むが、その一環と思ってくれていい」

 

狩りにまつわる話ということでオドン教会内から外へと移動したところで、

先輩はそうセリカに告げた。

そこから少し離れた場所では、アイリーンも先輩とセリカの会話に耳を傾けていた。

 

……改めて自分が正常な状態で先輩と会話した時に、

2人はお互いの目的についても話し合っていた。

セリカは、キヴォトスへの帰還。先輩は、この夢からの脱出。

詰まる所、目指す場所は同じ、自分たちの居場所に帰ることである。

わざわざ自分に頼むということは、それにつながることなのだろう。

……が、

先輩からの言葉にセリカは少し考え込んだ後、彼に尋ねる。

 

「でも、それだと教会を守る人がいなくならない?

アイリーンさんも近々出てくって言ってたし……ですよね?」

「……あんた、ババアの小言で悪いんだがね。

もう少しお嬢ちゃんに色々説明したらどうだい?」

 

セリカに声をかけられたアイリーンだったが、

少しの沈黙の後、その問いには答えず先輩に話しかける。

……表情はうかがえないが、どことなく呆れたような声色だった。

その言葉に目元が困ったようなものに変わる先輩。

 

「む……いや、必要ないだろうと思っていたもので」

「あんたほど察しの良いやつはなかなかいないんだよ

……まあいいさ。説明していなかったのはあたしも同じことさね」

「え、ちょ、ちょっと何の話?」

 

自分を置いて勝手に進む会話にセリカが慌てふためく中、

そんな彼女にアイリーンが向き直った。

 

「お嬢ちゃん。正直、あんたがここを空けて出ることが不安なのはわかる。

実際、獣が襲ってきたらひとたまりもないだろうしね」

「そ、そうでしょ?だから誰かが守らないと……」

「ところがね、その必要はないんだよ」

「……え?」

 

……守る必要がない。

 

アイリーンから発された言葉はセリカにとってあまりにも意味不明であった。

困惑するセリカに、アイリーンは説明する。

 

「ほら、教会の奥に大量の香壺があったろう?」

「あった……けど、あれがどうかしたの?」

 

確かに、教会の奥では不思議な香りを発する壺がたくさん置いてあった。

置きすぎて教会の外でも若干漂ってくるほどである。

けれど、その用途をセリカはよく知らない

……と、

 

「……待って、お香……?」

 

ここでセリカの脳裏につい先ほどアリアンナから聞いたばかりの言葉がよみがえる。

 

「もしかして、あれが獣除けのお香だったり……?」

「おや?知ってたのかい?」

 

その言葉にアイリーンは意外そうな声色でそう言った。

セリカの予測は当たっていたようだ。

 

「お察しの通り、あれが獣除けの香だよ。

たかが香といって侮るんじゃないよ、

家にこもる分にはあれさえ切らさなきゃよほどのことがない限り

獣に襲われないぐらい便利な代物さね」

「え、あのお香そんなに強力な奴なのっ!?」

 

……とはいえ、流石にセリカもそのお香が

そこまで重要なものだとは思っても見なかったようだ。

そもそもセリカの中でお香と言えば辛うじて山海経辺り発祥の燃やすと

なんか健康に良くていい匂いがするやつ程度の認識しかない。

自身の知らぬ世界をまた一つ知って驚くセリカ。

そんな彼女に先輩がさらに補足する。

 

「仮に、香が通じぬ獣が現れるならそれは夜が相当深まったときしかあるまい。

とすれば現れるそれもより恐ろしいものになる。

そうならぬうちに、実際の狩りにある程度慣れておくのもよいとは思わないかね?」

「……確かに」

 

セリカもそう言われてみればそんな気がしてきた。

それに、ヤーナムについてのことも、狩人についてのことも、

少なくとも自分よりは2人の方が詳しい。

ここはアドバイスに従った方が無難だろう。

 

「……わかった、頑張ってみる。それでどこに行けばいいの?」

「予めすぐ手前の明かりはつけてある。

墓石で旧市街という名を思い浮かべれば行けるはずだ」

「りょーかい。じゃ、行ってくるね」

 

セリカは先輩にそう軽く言うと、狩人の夢へ戻るべく教会の中に入っていった。

……しかし、事態はそう単純には行かなかった。

_____________________________

 

 

 

「だめ」

 

 

教会に入り、灯りへと向かうセリカ。

無論、途中でリリーにこれから少し外へ出かけることを伝えた。

しかし、その瞬間、ほとんど間を置かずにリリーはそう返答したかと思うと、

その服の袖をぎゅっと掴んだ。

 

「……えと、リリー、ちゃん……?」

「だめったらだめ。お姉さんは私とずっとここにいるの」

 

……今までの彼女からは考えられないほど、暗い声だった。

明らかに異質なリリーの様子にセリカは慌てふためいた。

 

「い、いやいや心配しなくても大丈夫だよ。

ちょっとした用事みたいなものだし、腕にはそこそこ自信が付いてきたし」

 

何にせよ死んでもすぐになかったことになるし……

 

そう、狩人の夢に囚われているセリカはそもそも死んでもすぐに蘇る。

だからといって死は気分が良いものではないが……

一時は疎ましく思っていた力ではあるが、

少なくとも、そのおかげでリリーを悲しませる結果にだけはなる事がないのだ。

 

「……リリーちゃん。

セリカさんもああ言ってるし、狩人さんはお仕事があるから……

それに、私でもお話の相手ぐらいならできるわ」

 

2人の様子を見ていたアリアンナがリリーにそう声をかける。

……が、

 

 

「だめっ!!」

 

 

涙交じりの、悲鳴のような声が教会に響いた。

その反響が消えぬ間に、リリーの言葉が矢次に紡がれる。

 

「お父さんもお母さんもそう言ったのに……

絶対帰ってくるって言ったのに帰ってこなかった。

ふたりとも、いなくなっちゃった……

それなのに、お姉さんまでいなくなったら、私……私」

「……リリーちゃん」

 

……元気そうに振る舞ってはいたものの、

あの出来事は確実にリリーの心に暗い影を落としていた。

けれど、無理もない。

だから、セリカは軽く屈んで目線を合わせると、

リリーの頬を優しくなでた。

手を通してその柔らかな感触と温かな体温が伝わってくる。

少しだけ涙が滲んた彼女に、セリカは安心させるように笑いかけた。

 

「大丈夫、絶対に帰ってくる。リリーちゃんを1人になんてしないから」

 

リリーはしばらくの間、

何も言わずセリカを見つめていた。

そして、一言だけ言葉を紡ぐ。

 

「お姉さん、ぎゅってして」

「もちろん。はい」

 

リリーの言葉に、セリカはすぐに答えるとその身体をぎゅと抱きしめた……が、

 

……?

 

いつまで経ってもリリーが

こちらに腕をまわしてくる感触がない。

不思議に思うのも束の間、帽子が外される。

セリカがそれに気がついた時にはもう何もかもが遅かった。

 

「えいっ」

「ひゃに゛ゃっっ!!?!?」

 

虎視眈々と獲物(ケモミミ)を狙っていたリリーがそれを勢いよく触ったのだ。

耳に走るゾワゾワっとした妙な感触に

セリカは敢え無く悲鳴を上げることとなった。

セリカはキヴォトスパワーを全力で駆使し反射的に飛び退ると、

顔を真っ赤にして耳を両手で押さえつけるように防御。

対するリリーはと言うと、先程触ったケモミミの感触に浸るように手を見つめていた。

 

「……お姉さんの耳、とってもふかふかしてた」

「〜っ…!さ、触るなら先に言って、

いきなり触られたらビックリするから……」

 

怒るに怒れず、辛うじてリリーにそう言うセリカ。

……けれど、混乱していたためか彼女は自分の失言に気がついていなかったのだ。

 

「え、これから触るよって言ったら好きなだけ触ってもいいの!?」

「……あ」

 

目を輝かせてそんな事を言うリリーを見て、

セリカはようやく自分が何を言ってしまったか気がついた。

 

「え、そ、それはその……」

「えへへ、やったぁ……でも、今回はこれで満足」

 

……けれど、

うれしそうなリリーの様子を見ていると否定することもできず、

セリカの耳はこれ以降リリーに弄ばれる事が決定した。

……嬌声だけは出すまいと心に固く誓うセリカ。

そんな彼女に、リリーは直ぐ側に近寄ると話しかける。

 

「セリカお姉さん」

「わっ!?な、何!?」

 

急に話しかけられて驚くセリカに、

リリーはクスリと笑うとふと表情を真面目なものにする。

 

「……絶対、帰ってきてね。約束だからね」

 

その言葉に、セリカは一瞬呆気を取られていたが、

やがてその言葉を理解すると、力強く頷いた。

 

「うん。約束、絶対守るからね」

 

セリカがそう答えたその時、

横から声がかかった。

 

「セリカさん、少し渡したいものがあるのだけど」

 

……アリアンナだ。

セリカがきょとんとしてそちらを向く中、

そんな彼女にアリアンナは何かを差し出した。

1つは、セリカが使って貰った化粧のケース。

もう1つは……シルクで包まれた試験管のようなガラス容器だった。

 

「え、ちょっとその化粧はアリアンナさんのでしょ?わざわざ貰えませんって」

 

セリカがそう言ってパタパタと手を振るが、

アリアンナはそれらを有無を言わせずセリカの手に握らせる。

 

「いいのよ、どの道私は使う用事がないし、

それぐらいならセリカさんに使ってもらった方がずっといいから。

……まあ、あなたの役に立つのはどちらかと言うとこれの方だとは思うけど」

 

そう言うアリアンナの視線の先には、件の試験管があった。

 

「……これって?」

「私の血よ」

「……へ?」

 

アリアンナの言葉にフリーズするセリカ。

……血、血。

試験管のシルクを掲げて、少し揺らしてみれば、

なるほど確かに色鮮やかな赤い血が……

 

「え、えぇぇええっ!?」

 

ようやくその事を理解して驚くセリカ。

そんな彼女を見てアリアンナは

そういえばセリカは狩人になったばかりだと

話していた事を思い出した。

 

「もしかしてセリカさん、血の聖女って聞いたことない?」

「そりゃそうよ、そもそもヤーナムに来たばっかりだし……」

 

その言葉で納得がいった、という様子でアリアンナは頷く。

血の医療という概念自体外にはないと聞く。

それならばセリカが知らないのも無理もないだろう。

 

「血の聖女というのは、血に特別な効能が出る女性なの。

こう見えて私もその1人でね。狩人のお客さんからは寧ろ、血の施しを目当てに来る人が多かったかしらね……」

「な、なるほど……?」

 

その説明を、セリカは完全には理解できなかったが、

最終的に文化の違い、そういうものと片づけると改めて試験管を見た。

……シルクで蓋をされているように見えたが、

よく確認するとコルクで止めてあるものにシルクを被せているだけらしい。

恐らく、使い方は輸血液と変わらないだろう。

 

「……ありがとう。いざというときに取っておきますね」

「ふふ、いいのよ。私に出来ることはこの位だから」

 

セリカからの礼の言葉に、アリアンナはそう答える。

そんな親しげな2人の様子を少しムッとした表情で

見ていたリリーだが、やがて何か思いついたのかパッと顔を明るくした。

 

「ねえねえアリアンナさん!私もセリカお姉さんに血の施ししたい!」

「え、リリーちゃん!?」

 

突拍子もないことを言い始めたリリーに

セリカがこんな声を上げる中、

アリアンナは静かに首を振った。

 

「リリーちゃんにはまだ早いわね。

施しはかなり体力を使うもの。

それに、適性もないといけないから」

「……むぅ」

 

その言葉にリリーは不満そうではあったが、

大人しく引き下がった。

セリカとしてはリリーの血を自身に入れるのは

気が引けるので少し安堵していたのは内緒である。

……さて、一通り会話も終わっただろうか。

セリカは懐にケースと試験管を入れると改めて2人に向き直る。

 

「それじゃ、行ってきます」

「絶対帰ってきてね、お姉さん」

「私達もここで狩りの成就を祈ってるわ」

 

その言葉に、リリーとアリアンナも言葉を返す。

 

「お、俺からも……がんばってくれ、としか言えないけど……」

「……ふふ、ありがと」

 

教会の奥の方から、

赤ローブの男も恐る恐ると言った様子でセリカに声をかける。

セリカは、そんな彼に言葉を返すと、今度こそ足元の灯りに手を差し伸べた。

 

________________________

 

場面は、大きく移動する。

鍛錬の木刀代わりに使って耐久力の減った

獣狩りの松明を修復し、セリカは墓石に手を差し伸べる。

 

……背後ではいつの間にか狩人の夢に戻っていた先輩が

死んだ目で変なコップ(聖杯)の置かれた墓石に

出たり入ったりを繰り返しているが気にしないでおく。

シンプルに関わりたくない。

 

墓石に触れると様々な風景のイメージが頭に流れ込んでくる。

その中から、セリカは研ぎ澄ますようにある言葉だけを思い浮かべる。

 

「ええと、旧市街旧市街……」

 

そう呟くことで段々とその光景が鮮明になってゆく。

そして、薄暗い室内の向こうに、

月明かりと火で照らされる

石畳が覗く扉の置かれた光景が見えた。

瞬間、ふわりと身が軽くなったかと思うと、

辺りを夜の静けさが満たした。

セリカのいる場所は、先程思い浮かべた風景の場所に移動していた。

 

「……よし」

 

セリカは小さく呟くと、シンシアリティをしまい、

獣狩りの松明を手に持つ。

不思議なことに、その松明にはいつの間にか火がついていたが、

その手の不思議現象に慣れ始めたセリカは気にしない。

そのまま正面の扉をくぐると、一気に景色が開けた。

そこには……

 

「うわっ……」

 

そこら中で焚かれた炎、炎、炎。

そのどれもに木製の十字架に内臓を切り開かれれた獣の遺体がつり下げられ、炙られて、

腐った肉の焼ける匂いを発していた。

ヤーナム市街のほうでも時折見たが、

セリカにはこの行為の意味が到底理解できなかった。

 

「……というか、いつのやつなのこれ。

ここが捨てられたのって大分前だよね……?」

 

そう疑問を口に出してみると余計に不気味に思えてきた。

セリカは足早にその獣の油で燃える篝火から離れた。

 

とりあえず正面下に見える尖塔へ向かおうとしたが、

生憎そちらの方向には手すりの壊れた展望デッキのような場所しかなかった。

一応、下は飛び降りれそうな場所はあったし、

頭蓋骨がたくさん集まった何かに手足を生やしたような

小さい変な化け物がこちらを見るや否やてけてけとそちら方面に逃げて行ったのは

気になったものの、セリカは結局近づかないことにした。

ヤーナムにおけるセリカの座右の銘は、

去るもの追わず。危うきに近寄らず。である。(尚、「できる限り」という副詞が付く)

ということでセリカはもう1つの道である橋へと向かう。

……その時だった。

 

 

「狩人よ、警告は読まなかったのか?引き返したまえ!」

「ひゃあっ!?」

 

 

どこからともなく拡声器を通した壮年の男性の声が、

セリカに向けて突然、大音量で響き渡った。

突然の出来事にセリカは飛び上がらんばかりに驚いて慌てて周囲を見渡す。

その間も声は続く。

 

「旧市街は獣の街、焼き棄てられて後、ただ籠って生きているだけ。

上の人々に、何の被害があろうものか」

「え、え……?」

 

驚きがある程度落ち着いてきて改めてセリカはその言葉を聞いてみたが、

何やら言っていることが変だ。

普通の言葉を話しているし、恐らく正常な人間だ。

けれど、その言葉は明らかにセリカのことを……狩人のことを拒絶していた。

セリカの中では、あくまで狩人というのは

人々を助けるヒーローのような存在でしかない。

事実、他の先輩狩人にセリカは何度か救われてきた。

だからこそ、この声の人物が狩人がくることを拒んでいることが

どうにも理解できなかった。

 

「……というか警告って……あっ」

 

そう呟いたところで、セリカはそう言えば開かれていたドアに何やら

真っ二つになった貼紙が付いていたことを思い出す。

セリカは良くも悪くも真面目な少女である。

その為,いったん引き返してそのドアの警告の張り紙を見に行った。

 

やはりセリカの記憶は正しく、

そこにはボロボロになった羊皮紙が確かに貼られていた。

一旦ドアを閉じ、辛うじて読み取れる程度まで掠れたその文字に

松明の光を当て、目を凝らす。

 

「ここより……捨てられた街、獣狩り不要、引き返せ……?」

 

確かに狩人は来るな。といった旨の文章が書かれている。

……理由はよくわからないが行かないほうがいいのだろうか?

けれど、この扉はそもそもつい最近まで開けられた形跡がない。

つまり、先輩がここに来た際開けたわけで……

位置的に貼紙が目に入らないわけもない。

ということはこの説明書きを踏まえてセリカに行ってくれといったわけである。

 

「……取り敢えず、何か言ってる人に話しかけてみよ」

 

セリカはそう思い立つと、改めて扉を開け、旧市街に入った。

 

「……貴公、また戻ってきたのか?もう一度言う、引き返したまえ!」

 

謎の声の主もセリカの姿をみとったのか、

もう一度こちらに声をかけてくる。

それに対し、セリカは大きく息を吸い込むと、口元に手を当て、

取り敢えず声が聞こえてきたであろう方向に声を張り上げる。

 

「あの!何で狩人はきちゃダメなのっ!!!説明しなさいよ説明!!」

 

……結構疲れた。

出したこともない声を張り上げてセリカは若干の疲労感を覚える。

そして、そんな彼女に声の主から返答。

 

「さもなくば、我々が君を狩るだろう」

「……えぇ」

 

どうも声が聞こえていなかったようだ。会話が成立していない。

……というより、円滑にこちらを殺すといわれた気がする。

 

「……でも、話してみないことにはわからないし」

 

何故、狩人が来ることを拒むのか。その理由も何も聞いていない。

それを聞いてから、改めて旧市街を探索するかしまいか決める。

最悪、先輩は謝れば許してくれるはず。多分……

 

……セリカは狩人足りうる身体能力と実力は持っていたが、

未だ性格上狩人に向いていない人物である。

 

とりあえず声の主と会話するため、

それらしい姿を探してセリカは橋を渡る。

……その中ほどに差し掛かった時だった。

 

「あ、」

 

目の前に小柄な獣が一匹。

紺色の毛皮に覆われたそれはセリカより少し小柄で、

……何より、元は人間であったことを示すように二足歩行で立ち、ボロキレのようなズボンを履き、所々に包帯を巻いていた。

 

……セリカは、未だ殺人に若干抵抗がある。

件の狂った狩人との戦いの時のように、

それ以外手段がない時は躊躇なく殺せるし、

最初に人を殺した時のようにトラウマで動けなくなることもない。

けれど、未だ人の形をしたものを狩るのには躊躇があった。

 

その時、相手もセリカのことに気がついた。

獣は奇妙な少女の姿を見る否や、

鋭い爪を剥き出しにして近寄ってくる。

セリカは僅かに顔を歪ませるも意を決し、レイテルパラッシュを変形させ、その銃口を向ける。

……その時、

 

「ギャアッ!!」

「……え?」

 

突然、獣の動きが急停止した。

呆然とするセリカの前で、

獣は何かを恐れるように顔を手で覆っている。

セリカは腕の奥から僅かに覗く蕩けた瞳の視線を辿ってみる。

そこには、煌々と燃える松明があった。

 

「……えいっ」

「ギャアッ!?」

 

試しに松明の火を突き出してみれば効果覿面、

獣は慌てて飛び退った。

……そういえば、獣は炎を恐れるとかなんとか聞いた気がする。

まあともかく、

丁度いい追い払う方法が見つかったのには変わりない。

 

「ほらほら、早く逃げないと本当に押し付けるわよ!」

 

そう声を上げながらセリカはブンブンと松明を振り回す。

獣は逃げこそしないものの、相当攻めあぐねているようで、

うめき声を漏らしながらジリジリと後退してゆく。

その隙をついてセリカも前進してゆく。

 

……そして、少し時間が立ち。

 

 

「……どうしよこれ」

 

 

いつの間にかセリカは大量の獣にかごめかごめ()されていた。

……行く先は順調だった。

松明を振り回しておけば獣は近づいてこようとしないためである。

しかし、どいつもこいつも逃げない上、

セリカの想像以上にたくさんいた。結果、この有様である。

更に厄介なことに……

 

「ガアッ!」

「あぐっ!?」

 

背後から黄色いフードを被った獣がセリカの背に一撃、

セリカは思わずつんのめるがすぐに体勢を立て直し、

その隙をついて攻撃しようとしてきた獣に松明を振り回し追い払う。その背後に、更に追撃しようとしていたフードの獣。

 

「いったいじゃないのっ!!」

 

しかし、その凶刃が届くより早くセリカは

相手を思いっ切り蹴飛ばした。

キヴォトス人の本気の蹴りを前に冗談みたいに飛んでいく獣。

そのまま瓦礫に頭をぶつけて目を回している。

……他の何匹かは崖下に落としたつもりだが元気な遠吠えが聞こえてきたためおそらく無事である。

猫かお前らは。

……まあともあれ、フードを被っているからか

松明の光を恐れない獣がちらほら出てきたのである。

しかも、毒でも持っているのか切りつけられた場所がじくじくと痛む。

更に怖がっている奴も時折攻撃してくる。

幸いなことに攻撃力は大したことがないのとヘイローのお陰で、

引っ掻かれた箇所が少し裂けたり腫れている感触がするだけだが痛いものは痛い。

しかも、多勢に無勢でジリ貧。

セリカの状況は中々厳しい状態にあった。

 

「……貴公、何をしているのだ。獣狩りに来たのではないのか?」

 

終いには声の主からも困惑される始末である。

ばっと声のする方を見れば、

何やら時計台の上に誰がいるのが見える。

 

「うるさいわねっ!!そんなことどうでもいいからさっさとあの貼紙についてなんとか言いなさってうわわっ!?」

 

先程からの鬱憤を込めてセリカがそう叫ぶも、

それは脳震盪から復帰したフード獣により強制中断。

セリカはステップによって間一髪で回避するが、

いい加減にストレスが限界値に達しようとしていた。

 

「う、うう……気は進まないけど、やっぱり数は減らしておかないと……!」

 

そう呟くと、セリカはレイテルパラッシュを握りしめ、攻撃の後隙で背中を無防備に晒しているそれに向かって斬りかかる。

……その時、

 

「……そうだろうな。やはり、貴公も狩人だろう」

 

そんな声がセリカの耳に飛び込んできた。

瞬間、

 

セリカの身体が、

降り注ぐ大量の水銀弾で瞬く間に撃ち抜かれ、

その命を刈り取った。

 

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
……展開に四苦八苦して投稿遅れてしまった。

さて、デュラさんによるガトリングの洗礼回でした。
デュラさんいい人だけどあれだけは許せん。

因みに、デュラさんとセリカちゃんには物理的にかなり距離があるので
セリカの声が聞こえてない上、セリカを少し背が低い一般通過普通狩人だと勘違いしています。

更に余談ですが、
先輩は過去の周回中、デュラさんを一切の慈悲なく殺しています。先輩のモットーは見敵必殺慈悲はない。です。
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