最近、私の夢からスタマイという概念が消えてるみたいなんですね……ふふ、理論愚者だったモノが転がっているだろう(ry
コツ、コツ、コツ、コツ……
喧騒に塗れたブラックマーケットに、硬い足音が響く。
道行く先の誰もがその足音を聞き、そしてその足音の主を見取ると、何も言わず慌ててそれを避ける。
……それは、ブラックマーケットにおいても異様な存在だった。
全身を包む翼の様な漆黒のマント。
そして、全身の黒とは全く対照的な、銀の兜。
手に持つのは装飾の施された日本刀と、大口径のマグナム。
赤黒いヘイローが浮かんでいる為辛うじて生徒であるとわかるものの、逆に言えばそれだけしかわからない。
昨今のブラックマーケットの中で噂になりつつある謎の傭兵、
[銀鴉]、その人である。
あまり人と関わろうとせず、刀を用いた高速近接戦闘というキヴォトスでも類をみない方法で戦いながら、その存在が現れて然程時間が経っていないにも関わらず難易度の高い依頼を次々と成し遂げてきた異端者である。
始めこそケンカを売る者も絶えなかったが、誰もが死んでいないのみで完膚無きまでに斬り刻まれて敗北。
その為今では誰もがその存在を避け続けているのが実情である。
……一説によると、その正体は少し前にブラックマーケットの銀行を単騎で壊滅させた黒猫のような生徒だというが、その噂が真実であることを知るものは少ない。
(……よし、大丈夫そう……かな?)
その兜の奥で、銀鴉もといセリカは心の中でそう呟く。
これが、セリカが先生らと行動を別にした理由である。
単純に色々バレることを防ぐというのもそうだが、
この姿はブラックマーケットで情報収集に動くのには都合がいい。
……因みに、これとは別にセリカは狩装束で顔を隠せるものを知っているが、
見た目が奇抜すぎるのが大半。
そして、思い入れ深いが装備する気は一切無いものが1つ。
……あれは少なくとも、血に呑まれた自分が装備していいものではない。
まあ、この兜も思い入れ……というか因縁深いものではあったりする。
その目的は違うとはいえ、鮮血に昏い歓びを見出している辺り
ある意味似た者同士といったところか。
あの狩りは、実に堪らないものだった。
因みに、武器もその相手に近いものにそろえているが、
これに関しては単なるセリカの気まぐれである。
セリカが向かう先……
それはブラックマーケット内にある中でも特に大きな闇銀行である。
一度実力を示した(物理)場所である為セリカの正体をある程度知ってはいるものの、
その分、口座はここで開設し、
主要な金貨の取引場所兼ブラックマーケットの情報収集場所として
利用しているため何だかんだお互い信頼しあっている奇妙な関係である。
さて、そのような間にセリカは件の銀行へ到着した。
警備のオートマタがセリカの存在を察知して身を固くする中、
セリカは特に気にせず中に入る。
ブラックマーケットといえど銀行の内部はしっかりとしており、
清潔感がある。
……いや、ブラックマーケットだからこそか。
取り敢えず窓口に向かおうとするセリカだったが、
その時、
「えっ、えーっ!?」
……妙に聞き覚えのある叫びが聞こえた。
見れば、銀行員と……確か、便利屋68の社長だか言うのが話し合っていた。
白目を剥く彼女に銀行員のオートマタはもはやさわやかとすら言える笑顔で
アルにその旨を告げる。
「ですから、このままではこちらとしても融資は難しいのです、アル様。
先ずはより堅実な職に就いてみてはいかがでしょうか?」
どうも、先の襲撃で資金を使い果たして融資を受けようとしていたようだ。
あの様子だと、闇銀行ですら融資をためらうほどの財政状況だったようだが。
とはいえ、セリカとしては都合がいいので何もしない。
寧ろ闇討ちしてここで消してしまおうかとも考えていたが、
流石にそれはやめておこうと考えなおした。
レイテルパラッシュほど使い慣れていない刀……千景では便利屋相手は面倒だし、
闇銀行で戦闘して信用をわざわざ落とすわけにはいかない。
とはいえ、他の窓口は埋まっているのでセリカがその場で待機しようと決めたその時。
アルに正論の刃をブズブスと突き立てていた銀行員がセリカの存在に気が付いた。
銀行員はアルに一言断りをいれると、
何か言いたそうな彼女をさておいてカウンターから出て、
こちらに近づいてきた。
「銀鴉様。来られていたのに気が付かないとは申し訳ありません」
「別に、急ぎでもなかったし」
「え、は、ぎ、銀鴉っ!?」
そう言って礼をする銀行員に、
セリカが淡々とそう答える中、アルの方からそんな声が上がる。
「あ、ホントだ。依頼達成率脅威の100%。
寡黙な謎の傭兵……こうして実際に見るのは初めてだね、アルちゃん」
「しょ、正直サイン欲し……い、いやそれより私の融資の話は!?」
「……って、言ってるけど」
何やら騒がしい便利屋を見て、セリカが銀行員にそう尋ねる。
しかし、それに相手はほんの少しだけ考える素振りを見せるのみで直ぐに結論を出したようだ。
「いえいえ、元々あちらのお客様との取り引きはほとんど完了したも同然でしたので。
ということでアル様、今回の融資のお話はなかったということでよろしいですね」
「な、ななんでっ!?いくら何でも急すぎるわよ!?」
またもや白目を剥くアルだが、そんな彼女の言葉サラリと流して銀行員はセリカに向き直る。
「それでは銀鴉様、今回のご要件は何でしょうか?
いつもの貴金属取引でしたら少々準備にお時間をいただかなくてはならないのですが……」
「……生憎、それとは別件のちょっとした情報収集」
「おや、そうでしたか」
銀行員は残念そうな声色も、表情も全く出さずそう答える。
後ろの方では、アルがすごすごと退散する用意をしているが、
それを気にするセリカと銀行員ではない。
セリカはスマホを少しいじると、
アヤネが調べ上げた戦車のデータを見せる。
「この戦車、生産が終了した奴なんだけど何か知らない?
どうせ違法な品を取引してるんでしょ?」
「なるほど……戦車ですか。残念ながら私達ではお力になれそうにはありませんね」
「そう」
セリカの問に対し、銀行員は即答した。
けれど、申し訳なさそうにしてはいるし、特に何か企んでいる様子はないので
セリカも気にする様子はない。
「私共が取り扱っているのはあくまで美術品全般ですので……
軍事物資のブローカーの仲介なら可能ですがいかがでしょう?」
「じゃあお願い。手数料は?」
「いえいえ、銀鴉様にはご贔屓にしてもらってるので、
この程度のことでしたら手数料はいただきませんよ」
「そう、わかった」
……そう言えば先程からカヨコと呼ばれていた少女から視線を感じる。
何でこう、自分のまわりには感の妙にいいやつが多いのか。
面倒ごとに巻き込まれる前に
さっさとブローカーの場所を聞いて撤退しようとセリカは決意する。
……しかし、そんな彼女の思いとは裏腹に、
面倒ごとはすぐ傍まで差し迫っていたのである。
バツン
大型のスイッチが落ちるような音がしたかと思うと銀行内が暗闇で満たされる。
「な、何事ですか?停電!?」
銀行員が慌てる中、常人より夜目が利くセリカはさっと周囲の状況を見渡す。
……銀行内に敵影はなし。
しかし、入り口周辺が騒がしい。
瞬間、銃声が連続する。
「うわっ!ああああっ!」
「なっ、何が起きて……うああっ!!?」
それと同時に警備のオートマタのものと思われる悲鳴も聞こえてくる。
……一瞬で壊滅させられたらしい。どうも、相手は相当な手練れのようだ。
「……はぁ」
セリカは千景を抜き放つと入り口方面へ移動を開始。
因みにこの刀本来の姿は使わない。危険性もそうだが、
普段から運用している武器の問題で片手に銃がないと落ち着かないのである。
丁度セリカがたどり着いたころ、下手人もホールへ飛び込んできた。
……数は4、シルエット的にご丁寧に目出し帽を被った銀行強盗のようだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
セリカは経験則と条件反射で先頭の一人に向けて刈り取るような横一文字の斬撃、
「っ!!」
しかし、相手の反射神経も相当なものだったらしい、
それを受け身で紙一重で回避するとこちらに銃口を向けようとした。
だが、セリカはその回避を狩るようにマグナムの弾丸を偏差撃ち……
しようとしたところで背後から回り込む影に気が付きその動作を中断、
フレンドリーファイアを狙うためにステップで
空色のヘイローを持った正面の相手と距離を詰め……
「は?」
セリカが
パッ
電灯が光をとり戻す。
セリカの視線の先ではアサルトライフルの銃口をこちらに向けた、
青色の目出し帽を被った……シロコ。
その背後にセリカに向けてショットガンを構え、
ピンク色の目出し帽を被った……ホシノ。
暗闇で状況がわかっていなかったのか取り敢えずといった様子でミニガンを構えた、
緑色の目出し帽を被った……ノノミ。
あと謎の紙袋、以上。
「は、ええぇっ!?シロ……じゃないブルーさん大丈夫ですか!?」
「ん、大丈夫。ピンクがカバーに入ってくれた」
紙袋が心配そうな声を上げる中、
シロコはがちりと動きを止めたセリカに危険性なしと判断したのかそのまま立ち上がる。
……対するセリカが理解したことといえば、
シロコ達が謎のコードネームを使っていることぐらいである。
本来ならこの時点でセリカのトラウマスイッチが入っているところだが、
幸いなことに(?)状況が意味不明すぎて
セリカの脳がキャパシティーオーバーしていたためフリーズするにとどまっていた。
「……あれー?動かなくなっちゃった。
……というかよく見たらセリカちゃんだよね?おーい」
背後からホシノが何やら声をかけてくるがセリカは固まったままである。
「ん、まあそれは後。事態は一刻を争う」
シロコはその様子をちらりと見た後直ぐに視線を戻すと、
突然の事態にセリカと同じように固まっている客や
銀行員に向けてアサルトライフルを構える。
「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
妙に手慣れているシロコに続いて、
取り敢えずセリカの事はいったん解決したと見たのか
ノノミが追従、ミニガンが唸りを上げて回転し始める。
「ほらほらー、セリカちゃんも武器を置いて置いて」
「え、てっ!?その姿……まさかぎ、銀鴉さんっ!?
というよりみなさん知り合いなんですか!?」
「うへ、それって前に話してくれた噂の傭兵のー?」
そう言って、呆然としたままのセリカの肩をポンポンと叩くホシノ。
それを見てようやくセリカの姿に気が付いたのか、
途轍もなく驚く紙袋。
……どうも、オドオドしている割には
ブラックマーケットの情報にある程度精通している様子。
「ひ、非常事態発生!非常事態発生!」
「うへ~無駄無駄ー。
外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー」
……そこまで言われたところでようやくセリカの思考が事態に追いついてきた。
なるほど、どうも先輩方と謎の紙袋は銀行強盗をしているらしい。
理由は一切不明だが。
そんな彼女に、警備システムの電源が落とされたことに
慌てふためく銀行員が慌てて声をかける。
「ぎ、銀鴉様!後で報酬金は支払うので事態の収束を……」
「……そこの紙袋の銀行強盗、目的は何?」
「え、えええぇっ!?私ですかっ!!?」
もういろいろめんどくさくなってきたセリカは
取り敢えず紙袋に目的を尋ねる。
紙袋……もとい阿慈谷ヒフミが首謀者だった場合、
セリカは彼女を軽くひねって事態の収束を図るつもりである。
「お、ほらほらリーダーのファウストさん!
今トレンドの天才傭兵さんから質問だよー!」
「えっ!?えっ!?ファウストって、わ、私ですか?リーダーですか?私が!?」
「リーダーです!ボスです!因みに私は……覆面水着団のクリスティーナだお♧」
「……」
最も手っ取り早い解決手段は直後に行われた即興の茶番の中に消えた。
この様子から見るに首謀者はよりにもよって
……というかブラックマーケットに来ていたことがばれた。
どう言い訳しようか……当たり障りのない、できるだけ自然な、自然な……
「……というよりその、銀行強盗の制服……
ま、まさか、銀鴉、いやくrパアンのわあっ!?」
余計なことを口走った銀行員の足元にセリカの八つ当たりの意味も
多分に込められたマグナムが着弾。
そのセリフを強制的に中断させる。
便利屋のいる方向から飛んでくる尊敬の眼差しも正直邪魔である。
……この際、いったん言い訳はあとだ。
この状況をどうにかする最適解、最適解……
「……さっさと目的を言いなさい。
ファウストだか覆面水着団だか知らないけど、回答次第じゃ切り捨てる」
「あ、あう、リーダーになっちゃいました……どうしましょう」
結局、セリカは目の前の茶番に乗っかりつつ流れに身を任せることを選択した。
遂に目の前にいる相手からも[ファウスト]認定されたヒフミは、
そんなことを言っている割に諦めつつも受け入れている様子である。
……とはいえ、成り行きで銀行強盗に参加させられた少女が
知っている知っていないに関わらず目的を言うのは少し難しいだろう。
「ん、私たちの目標はついさっき到着した現金輸送車の集金記録。
言っておくけど、監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、
すべて頭に入ってる。無駄な抵抗はしないこと」
「……わかった」
そう言うとセリカは武器を一度手放し、未だ腰を抜かしている銀行員のところへ向かう。
背後からは銃口を突きつけたシロコが追従してきている気配がする。
さながら自分が人質といったところか。
……余りにも手馴れている辺り本当に初めてのことなのかセリカは問いたくなったが、
辛うじてそれを飲み込んで足元の銀行員に話しかける。
「……聞いての通り。ただの紙切れ一枚に私が暴れて被害を拡大させるより、
大人しく言う事を聞いた方がいいと思うけど」
そこまで言ったところで言葉を区切ると、
セリカはしゃがみ込んで、銀行員の眼前に兜で覆われた顔を近づけると、
小声でささやいた。
「正直、これは先輩達の独断で私の本意じゃない。
次の取引に色をつけるから見逃してくれると助かる」
「……わ、わかりました、すぐに用意します」
……説得が通じたのか、はたまた若干疲れたような声から何かを察したのだろうか、
銀行員は起き上がるとパタパタとカウンターの方へと走っていった。
そして、さほど時間のたたぬうちに銀行員は紙束をもってこちらに帰ってきた。
「こ、ここ一日の集金記録です」
「私が受け取る。渡して」
差し出されたそれを見たシロコがそう言って、
セリカに銃を突きつけたままそれを受け取り、
簡単にとはいえ器用に片手でそれを確認するとこくりと頷いた。
「……ん、目標確保。任務は達成」
「それじゃ逃げるよー!全員撤収!!」
ホシノがそう宣言するが早いか、シロコがセリカを背後から拘束。
そのまま走り寄ってきたノノミが担ぎ上げ……ん?
「あれ?鎧を着てるからちょっと大変かと思ってましたけど、そこまで……」
「え、ちょ、何を……?」
困惑するセリカに、シロコは覆面越しでもわかる程度にはキリっとした顔で告げた。
「ん、あなたは人質。私たちが安全圏に退避するまで付き合ってもらう」
「こっちも武器も持ったよー、準備万端!」
「あ、あはは……」
視界の外からそんな声が聞こえてくる。
……これが終わったら素知らぬふりをして帰って
しらばっくれるつもりだったがそうもいかないようだ。
「それじゃあ、アディオ~ス☆」
ノノミがそう言うが早いか、覆面水着団は一瞬にして銀行の外へと逃げて行った。
_____________________________________________
[……追撃はないみたいですね。作戦、成功です]
「"みんな、お疲れ様"」
しばらくの間走り続けて、
丁度ブラックマーケットの外縁部に位置する橋へさしかかった頃だった。
そこで先生が手を振るのが見えたところで、ようやく逃走は終わった。
ノノミに抱えられていたセリカも久方ぶりに地面に降ろされる。
……さて、そんな彼女に周囲から視線が集中する。
通信先にも情報は伝わっているだろうし、隠しておくのは無理だろう。
[……今回の件に関していろいろ言いたいことはあるのですが、
取り敢えずセリカちゃん]
「……これ以上は無駄みたいね」
セリカはそう言ってため息をつくと、兜を取った。
そこから現れる顔に、ヒフミ以外の
少女たちの表情がやっぱり……と言いたげなものに変わる。
「こ、この人が銀鴉さん……」
「やっぱりセリカちゃんですね☆」
「持ってる武器とか格好を変えてたけど、
仕草とかいつもとあんまり変わんなかったからねー」
「……正直、鉢合わせることなんて想定してなかったから」
ノノミとホシノの言葉にセリカはそう答えると、
改めて仲間たちの方を見る。
そして、改めてもう一度、自分でまとめた言い訳の内容を思い返すと説明を始めた。
「……さて、話は変わるようで悪いけど、これが[幸運]の正体ってところね。
ブラックマーケットみたいな所の依頼は身の入りがいいの」
「"……なるほど"」
おどけたようにそう言うセリカに、先生がそう、短く相槌を打つ。
……が、
「……でも、ヒフミが言うには銀鴉の名前が知れ始めたのは少なくとも5日前から。
いくらブラックマーケットの依頼の稼ぎがよくても、
いくらセリカが強くてもそんな短期間で数千万単位のお金を稼げるとは思えない」
そんなセリカにシロコが推測を突きつけた。
……よく裏打ちされて、的確な推測だ。
セリカの表情に、僅かに動揺が走る。
「……それで?」
……そう聞き返す自分の声は、震えていなかっただろうか?
言ってしまってから、そんな言葉が脳裏をよぎる。
もし、輝く硬貨のことが知られてしまったら……
もし、それを入手した場所について知られてしまったら……
今度こそ、自分は……
「いや、それだけ」
「……え?」
しかし、そんなセリカに告げられた言葉は予想外の言葉だった。
呆然とする彼女に、アヤネの声が聞こえてくる。
[……多分、シロコ先輩が言うように、
まだセリカちゃんは何か隠してるんだよね?
でも、セリカちゃんが話したくないなら、私たちもそれ以上聞かないよ]
そう宣言されて尚、セリカはしばらく何も言えず、
ただただ立ち尽くしていた。
そして、少なくない時間が経った所で、ようやく口を開く。
「……本当に、本当に聞かないの?」
その言葉は、確かめるような……それでいてその答えに安心を求めているようだった。
いつも冷徹だった彼女の表情が、僅かに崩れる。
それに対して、
先生が、ホシノが、シロコが、ノノミが、お互いに頷き合う。
通信先のアヤネも、それに応じる
「もちろん」
誰でもなく、みんなが、そう言った。
「でも、セリカちゃんが辛そうにしてたら、
その時はしっかり聞かせてもらって、
そしてみんなで助けてあげますからね?」
その言葉に付け加えるようにノノミが言った。
セリカは、その言葉の意味を、想いを、転がすように噛み締めていた。
……そして、その末にフッと、笑った。
作り笑いではない。微かな、穏やかな笑みだった。
「……ありがとう。大分、気が楽になった」
「ん、それは良かった」
「"やっぱり、セリカには笑顔が似合うね"」
少し前の張り詰めた空気に対して、今は穏やかな時間が流れている。
誰もが、穏やかに笑っている。
そして、その様子を一歩離れたところで見ていたヒフミが声をかける
「……皆さんの事情はよくわかりませんけど、
何だかんだ、笑っていられるのが一番ですよね」
[……ですね、ヒフミさん。
というか遅くなりましたがこんな事に巻きこんでしまいすいません……]
「い、いえいえいいんですよ!?既に過ぎた事ですし……」
ヒフミがそう言ってパタパタと手を振る。
……その時、通信先のアヤネが何かに気がついたのか、
鋭く息をのむ。
[待ってください! 何者かがそちらに接近しています!]
「……!追手のマーケットガード!?」
「いや、それはあり得ない。銀行には私から話をつけてある」
アヤネの言葉に即座に反応し、場の空気が一瞬で張り詰める。
シロコがセーフティを外しながらアヤネに問いかけるが、
ホシノから千景とマグナムを返してもらったセリカが即座にそれを否定する。
……その実、その言葉は正しかったようだ。
[……い、いえ。敵意はない様子です。調べますね……]
「"というか話をつけたって……"」
「私、あそこの上客だから」
「"あ、なるほど"」
セリカと先生があまり関係ない会話に興じる中、
然程時間が経たぬ内にアヤネの検索結果が出た。
[あれは……べ、便利屋のアルさん!?]
その言葉を聞いた瞬間、誰もが即座に覆面をかぶる。
念の為とはいえ情報の秘匿は大切である。
……2名ほど覆面じゃなかったり1人に至っては覆面がなかったりするがそれはさておき。
因みに覆面がない1名である先生はささっと死角に隠れた。
それから程なくして、アルが橋の向こうからやってきた。
「はあ、ふう……ま、待って!!」
「……!」
「あ、落ち着いて、私は敵じゃないから……って」
そこまで言いかけた所でその動きがシロコ達……即ち、銀行強盗と並び立つ銀鴉の姿を見て固まる。
そして……その表情がキラキラとした尊敬の眼差しで染まる。
「なるほど、そう言うことだったのね!
銀鴉とは初めから裏を合わせていて、あれだけ自然な演技を織り交ぜて銀行の襲撃、ブラックマーケットの銀行をものの五分で攻略して見事に撤収……稀に見るアウトローっぷりだったわ」
「……!?」
その場にいる全員がその言葉の意味不明さに硬直した。
そもそも最初の戦闘に関しては完全に事故である。
しかし、アルの言葉は止まらない。
「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて……感動的というか。
わ、私も頑張るわ! 法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」
「……理解できない」
セリカが兜の奥でそう呟いた。
アウトロー……つまり外道。
結果的にそう呼べる域の底も底まで堕ちてしまった自分から言わせればそうなった所で何一ついいことはない。
むしろ、壊れるほど苦しいのみである。
だからといって何か言うわけでもないが……
そうセリカが思っているとは露知らず、アルは少し緊張した様子でこう切り出した。
「そ、そういうことだから……銀鴉、より一層その名前を心に刻むわ。それとあなた達……な、名前を教えて!」
「名前……!?」
「その、組織っていうか、チーム名とかあるでしょ? 正式な名称じゃなくてもいいから……私が今日の雄姿を心に深く刻んでおけるように!」
……もうほとんどのこの場にいる全員が困惑しまくっている。
シロコですら何と答えていいか分からないようだ。
「うへ……なんか盛大に勘違いしてるみたいだね……」
「……面倒くさい。斬り伏せていい?」
「セリカ、ステイ」
もういよいよ構っているのが面倒になってきたセリカが千景で斬りかかろうと提案するがそれを普段制止される側のシロコが制止する。奇妙な光景が繰り広げられる。
……その時、
「……はいっ! おっしゃることは、よーくわかりましたっ!」
「!?」
ノノミが大きな声で、覆面越しでもわかる満面の笑みでアルの言葉に答えたのだ。
セリカの狩人の感に強烈な嫌な予感が走る。
……そして、残念ながらそれは的中する。
「私たちは、人呼んで……覆面水着団!」
その言葉を聞いた瞬間、セリカは青い秘薬を飲んで姿を消し、
そのまま全身体能力を駆使し先生のいる後方まで高速撤退していた。
面倒事からは逃げるに限る。
「……覆面水着団!? や、ヤバい……!! 超クール!! カッコ良すぎるわ!」
「"????"」
撤退した先では先生が頭に概念的宇宙を流し込まれたかのように固まっていた。
セリカもその横で鎮静剤を飲んだ。
用途が適切だったので酔わなかった。
「うへ〜本来スクール水着に覆面が正装なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだー」
「そうなんです! 普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!
銀鴉さんとは過去に戦い、そして友情を交わした盟友です!」
「"それ露出狂じゃ……"」
「……巻き込まれた」
……おまけにホシノが悪ノリを始めた。
セリカは一時期聖杯に籠もりすぎて気の狂った先輩がパン1アルデオをやっていたことを思い出して頭を抱えた。
先生もその横で頭を抱えた。
しかし尚もノノミとホシノの悪ノリは続く。
巻き込まれているヒフミとシロコがただただ不憫である。
ついでと言わんばかりに、エグい角度から流れ弾が飛んできたセリカもかなりあれである。
「そして私はクリスティーナだお♧」
「[だ、だお♧]……!? きゃ、キャラも立ってる……!?」
「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!」
「な、なんですってー!!」
「"そ、そうはならない……ってうわっ!?セリカいつの間に!?"」
「さっきの間に……あれに巻き込まれたくなかったから。
手遅れだけど……ふふ」
先生の言葉にセリカは疲れ果てたと言った様子で笑った。
というか何で尽くイカれた設定がアルの琴線に触れているのかもわからない。
アウトローだからという理由であるならば
そんな目標捨てちまえと声を大にして叫びたい。
ふと橋の向こう側を見れば、
他の便利屋のメンバーも追いついて来ていた様子だった。
ムツキは心底楽しそうに、カヨコは困惑した様子で、
ハルカはアルがうれしそうなら何でもいいと言った様子で見ている。
「それじゃあ、アディオ〜ス☆」
「行こう、夕日に向かって!!」
その末、ようやく満足したのかノノミ達が撤退を開始、
先生とセリカもよろよろとそれに合流する。
「夕日、まだですけどね……」
そう力なくツッコミを入れるヒフミに、セリカは心から同情するのだった。
<おまけ短編>
side past 黒見セリカ、又はパイルハンマー
セリカは困惑した。
必ず、この意味不明な武器の用途なんたるかを問いたださねばならぬと思った。
セリカに火薬庫はわからぬ。
セリカは、新人の狩人である。
狩りにおいてもまだまだ知らぬことだらけである。
けれども、「つまらない物はそれだけでよい武器ではありえない」という理念だけは今後一切理解できる気がしなかった。
……そんな前置きはさておき、何がいいたいかと言うとだ。
「な、なんなのよこの武器……」
狩人の夢の広場にて、ただただ困惑した様子のセリカの声が響いた。
彼女が見つめる先にあるのは
自分の右手に装備された短い金属製の刺突杭である。
尤も、それには複雑な機構が付随しているのだが。
さて、説明のために少し時間を遡るとしよう。
デュラから火薬庫の狩人証を貰ったセリカだが、
ふと、新しく買えるようになった武器が気になった。
そこでリリーに一言断って狩人の夢に一時帰還。
どの武器が新しく買えるようになったか確認した後、
それを倉庫から取り出して試しに広場で使っていたのである。
銃槍はいい、自分も似たような武器を使っているし槍というのも新鮮だった。
この武器……パイルハンマーも最初はリーチの短さが気になるぐらいだった。
問題は変形後である。
変形させると更にリーチが短くなったせいで何の意味があるのやらと首を傾げていたセリカだが、ふと、何気なく変形後に現れた小型のトリガーを引いた時それは起こった。
ヴヴンッ
「え?」
唐突にパイルハンマーが唸りをあげ、
何かを溜めるように激しく振動し始める。
慌ててセリカがそれを正面に向けた数秒後、
ガアアァァンッ!!
凄まじい轟音と衝撃と共に杭が射出された。
……と言っても固定されているため変形前の位置に戻っただけだが。
明らかな高威力……しかし、それ以上にセリカの脳裏にはこの言葉が渦巻いていた。
まず、相変わらずリーチが短い。いくら高威力でもこれは致命的すぎる。
次に、反動がとてつもない。その制御でスタミナを持ってかれて隙を晒す。狩りにおいてはこれも致命的である。
最後に……機構のエンジンの立ち上がりが遅すぎてどう頑張っても数秒間の大隙を晒す。
更にセリカの困惑を加速させたのが、
この武器の構造をみるに、明らかに上記の溜め攻撃に重きをおいて設計されていることである。
扱いにくさ満点で威力ぐらいしか取り柄のないこれに、だ。
そして冒頭のセリフに戻る。
「何だとは何だ。それは由緒正しき火薬庫の化身、パイルハンマーだぞ」
「いや、それはわかってるの……
って違う私が言いたいのはこの武器の構造よ!
新人の私が言うのも何だけど明らかに使いにくすぎるでしょ!」
そんなセリカの言葉に、見守りついでに近くで血晶石を仕分けていた先輩がそう言う。
それに対してセリカがそう噛み付いた。
彼女の言う事は尤もだろう。
しかし、それに対して先輩はわかってないな……と首を振った。
「セリカ。確かにパイルハンマーは一撃の火力と機構に全てを振り、それ以外を取り払った。しかし、その圧倒的かつ至高の一撃に比べたら他は不要なものだろう?」
「じゃあ、なんで使わないの?」
ジト目で先輩にそう言うセリカ。
それに対し、先輩はスッと顔を逸らした。そして……
「……私はまだそれを使いこなせる域に達していないからな」
そう、セリカに言った。
「やっぱりダメじゃん!」
「……使いにくさに関しては否定しないがロマンというものは何物にも代え難い。そういうことだ」
セリカのツッコミに対して、苦し紛れにそう答える先輩。
それに対してため息をつくと、セリカはもう一度右手のそれを見た。
「……私には多分、ロマンは一生わからないわ……」
……この出来事を持って、
セリカの脳内で火薬庫=ヤベーやつという等式が完成した。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
セリカちゃんの格好はあれですね。
みんなのトラウマ、カインの流血鴉の持ってる連装銃をキヴォトス産マグナムに取り替えた感じです。
あと名前をレイヴンにしようか最後まで迷ってました……
次回はまたまたオドン教会編です。
ただし、ようやっと曇らせタグが再稼働し始めます。
ヨシ!
話は変わりますがうちの先輩、
一週目は余裕がなくてヤーナム各地の皆さんを全員助けれず、
二週目はヨセフカさんのほうが安全やろで行ったんですね。
つまり……禁域の森のあの人が今も助けを持ってるんですね()