それはさておき今回の過去回はフロム脳マシマシでお送りします。
……それはいつものことか。
以下どうでもいい話
……ところで私、リアルでロボット作ってるんですね。
つい最近、超小規模なロボコンがありまして、
そこに腕試しを兼ねて個人出場しようとしたんですよ。
……大会前日にインフルにかかりました(血涙)
「……ようやく、か」
獣が蠢く禁域の深い森。
その古びた風車小屋の中で、先輩はぽつりと呟いた。
一度目は、悪夢から逃れることに必死になって気がつかなかった。
二度目は、その人に限らずほぼ全員を、あの診療所に導いたため最悪の結末を迎えた。
……偏屈な男だけはその性格故に助かったのだが。
だが、今回は……
アリアンナ、孤独な老婆、アデーラ、偏屈な男……そして、リリーとセリカ。
今の所救える人は、皆救ってきた。
「……いや、リリーに関してはセリカのおかげか」
そんな独り言を言って、先輩は布の奥で笑みをもらしたものの、すぐにそれを消す。
……ともあれ、今から行く場所にいるのが最後の1人だ。
例えこれが偽善であったとしても、自分の自己満足だとしても、
これで救える人が全て救われる。
……回顧にふけるのもこの位にしておこう。
先輩は意を決すると、小屋の外に出た。
視界の端に映るのは、無数の死体の中にうずくまるように隠れている包帯頭の男。
「君、」
先輩はそう、声をかけた。
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「ただい、ま……」
「あ、お姉さんお帰り……って大丈夫!?」
オドン教会にて、明らかに疲れ果てた様子で帰ってきたセリカにリリーが慌ててそう声をかける。
そんな彼女の声にセリカは僅かに反応したものの、
余程精神的に疲れているのかセリカは直ぐ側の大きな壺に寄りかかるように倒れる。
「……あんまり大丈夫じゃない」
……どうもあんまり大丈夫ではなかったようだ。
因みにどうしてセリカがこうなったかと言うと、先輩の依頼で教室棟と悪夢の辺境を攻略していたからである。
そこに行くために変な化け物に掴まれて宇宙的思考を流し込まれて発狂したあたりから
既に帰りたかったのは内緒である。
さて、壺に寄りかかっている内に記憶が蘇ってきたのかセリカの愚痴がはじまる。
「何よ毒沼って何よ大岩って変な蜘蛛は突き落としてくるし
地形は複雑で面倒くさいし鐘の音が聞こえたと思ったら赤黒い上にめちゃくちゃ強い狩人には襲われるし
おまけに歌声……歌声……ううっ」
「……その、大変だったのね」
「お、お姉さんよしよし……」
思い出しただけで幻聴が聞こえてきたのか頭を抱えるセリカ。
そんな彼女をアリアンナとリリーが労る。
それで少しだけセリカは元気になってきたようだ。
「……ま、まあ、奥にいたアメンドーズだか言うのは倒したし、先輩の依頼は達成ね。
もう二度と行きたくないけど」
そう言うとセリカは懐から杯の中に直接髑髏が突っ込まれたような奇妙な聖杯を取り出した。
確か、病めるローランの聖杯だかなんとか。
因みに、聖杯に関しては先輩に腕試しがてら行ってこい。あと血晶石はいいぞ。とは言われているが
セリカ自身は行くつもりは毛ほどもなかったりする。
この間、また理論値愚者が全マイになったとか言って、
何を思ったかパンイチに金の三角を被り、車輪と大砲片手に聖杯に潜り始めた先輩を見ていたら
そう思わないのは当然だろう。
今は聖杯ではなく禁域に行っているらしく、狩人の夢に帰った拍子に奇行の数々をみることはなかったため、
疲れ果てたセリカが更に疲れることがなかったのは幸いか……
一通り言いたいことは言い尽くしてスッキリしたのか、セリカはふぅ、と大きく息をつくとリリーに話しかける。
「それじゃ、先輩の用事はこれで終わったし、何かする?」
「私、この前の続きがいい!外でまた色んな遊びを教えて!
それにだるまさんが……コケた?も、もう一回したい!」
リリーは満面の笑みでそう言う。
悪夢の辺境にセリカが出かける前、
教会の外で時折アイリーンも交えながらセリカが子供の頃の外遊びをしていたのだが、
それが余程気に入ったらしい。
……できれば今もアイリーンもいてくれればよかったのだが、
生憎彼女はセリカが出発したタイミングでオドン教会から去ってしまった。
まあ、それはさておき、だ。
セリカはリリーの提案に頷く。
「それじゃあそうしよっか」
「ふふ、2人ともいってらっしゃい。でも、くれぐれも気を付けてね」
「ありがと。でも、教会が近いしすぐ近場ぐらいなら大丈夫よ。
万が一の時は私もいるし」
「そうそう、セリカお姉さんがいるもん」
そんな会話もそこそこに、セリカは背を預けていた壺から立ち上がると、
アリアンナに軽く手を振ってからリリーと一緒に教会の外に向かう。
……この教会の様相も大分変わった。
と言ってもセリカ達にとっていい方向の変化は全くと言っていいほどないのだが。
「おや、何処かに遊びに行くのかい?」
「……うん。すぐ近くだから大丈夫」
……セリカの中でその変化の象徴たる老婆が話しかけてきた。
老婆の優しげな……初めの刺々しさが嘘のような問いかけ。
それにセリカは淡々と、しかし迷ったように答えた。
この、狂ってしまった老婆に対するセリカの心情は複雑だ。
前まで目を合わせれば小言、嫌味ばかりだった彼女がセリカは決して好きではない。
今もそうだ。
けれど今も嫌いかと言われれば、そうとも言えない。
……あんな人でも、優しさは確かにあって、
リリーから聞く限り、非常に不器用ながらそれはセリカにも向けられていた。
それが、狂気に侵され、捻じ曲げられてしまったのを見ていると、何とも言い難い気持ちになる。
「そうかい、それは良かった。お父さんに似てあなた達もいい子だねぇ……ヒヒッ」
「……そっちも、気をつけてね」
セリカはそう返答すると、
老婆とのやり取りもそこそこに教会の入口へと視線を戻す。
すると自然と、その付近にある奥まった場所に座っている男が嫌でも視線に入ってくる。
男の方はセリカ達の方をみようともしない。
セリカ達も、できるだけその男と関わらないように視線を可能な限り外す。
……この男は、老婆が狂ってしまって少し後にここに避難してきた
この男を表すなら、狂う前の老婆から僅かな優しさすら全て抜き取って、
そこに代わりに悪意と疑心を充填したらこうなるだろうというぐらい性格が捻じ曲がっている。
声を聞いたのも2度しかなく、1度はここに来た時に散々悪態をついていた事、
2度目は急にセリカを呼びつけたと思えば赤ローブの男の悪口を言ったため、
キレた彼女が思いっ切り頬を張り飛ばした。
それ以来お互いに一切口をきいていない。
そしてその視界の端、像の陰でひっそりと座り込んでいる物静かな黒髪の女性。
来ている服からして恐らく話に聞く医療教会の人である。名前は確かアデーラだったか。
先輩が時折話しかけては心なしかうれしそうに応対している。
あと、アリアンナと同じく特別な血があるらしく先輩に施しをしているのも見えた。
……それだけなら別にいいのだが、
セリカやアリアンナが先輩と話していると彼女の方から視線を感じるのだ。
決して友好的ではない、ひりつくような視線が。
それがあるため、セリカは彼女のことがどうにも苦手だった。
あとは教会の開かずの扉が開くようになっていたことぐらいか。
……先輩にデュラさんに手っ取り早く会いに行ける裏道を教えてもらって、
なんとなく会いに行ってみた時に妙にピリピリしていたのと何か関係があるのだろうか。
まあそれはさておき、だ。
「リリーちゃん、少し待っててね」
「うん、わかってるよ」
特に何事もなく外に出てから、セリカは一旦リリーにそう言うと、
獣狩りの松明を取り出して軽く周囲を見て回る。
新たに何羽かカラスがいたのでサクッと刺し殺して死骸を近くの奈落に投げ落とす。
「……よし」
最後の死骸を投げ落としてからセリカはそう呟くと
入り口で待つリリーのところに戻る。
「お姉さん大丈夫だった?」
「もちろん、それじゃあ先ずはだるまさんがころんだでもする?」
「えっと、それじゃあ……」
そう言ってセリカはリリーに笑いかける。
リリーもほんの少しだけ考えこむと、その問いかけに答えようとした。
……その時、
「……あれ?セリカお姉さんあれって……」
リリーが何かに気が付いたのか、そう言ってセリカの背後を指さした。
声色からして、別に獣が出たというわけでもなさそうだ。
セリカがそちらの方に振り向くと、聖堂街の上の方へ続いている階段の方から、
1人の男がキョロキョロと辺りを見回しながら降りてきていた。
ボロボロのズボンを履いており上半身は裸。頭には薄汚れた包帯をまるで帽子のようにつけていた。
少なくとも狩人のような様相ではないし、理性を失った罹患者のように明らかに異様な雰囲気を纏ってもいない。
……また、先輩がここに避難誘導したのだろうか?
セリカ達がそちらの方を見ていると、男もそれに気が付いたらしく、
一瞬驚いたように身体を震わせた。
その後、しばらく彼女らの様子を窺っていたが、
やがて警戒する必要はないと思ったのか階段のふもとまで一気に駆け下りてきた。
「やあ、お嬢ちゃん達。突然だけど、オドン教会はここであってるかい?」
階段を下りた男は、軽く手を上げると、そうセリカ達に話しかけてきた。
言葉だけ聞けば少しなれなれしい印象を受けるが、
緊張しているのか若干挙動不審気味である。
セリカは一瞬リリーと顔を見合わせると、その言葉に答える。
「えぇ、ここがオドン教会よ。
……あなたも先輩、じゃないや。モノクルをかけた狩人に言われてきたの?」
セリカのその問いかけを聞いた男は、目元こそ隠れて見えないもののうれしそうな表情になった。
「あぁ、そうだとも!いやぁ、よかったよかった。
せっかくここまで命からがら逃げ延びてきたのに場所を間違えたらどうしようかと……!」
そう心底ほっとしたような口調で言いながら男はセリカ達に近づいてきた、
しかし、丁度お互いの距離が1mほどの距離まで近づいたときだろうか、
男の言葉が不自然に止まった。
その視線は、セリカの顔の大きな古傷、
そして右手に握られたレイテルパラッシュを射抜いていた。
「……なぁ、黒い方のお嬢ちゃん。もしかしてあんたも狩人なのかい?」
「?」
何気ない言葉だ。
会う人会う人、大抵の場合自分が狩人をしていることについて聞いてくる。
しかし、目の前の男からは、どこか疑問以外の言葉の響きが聞き取れるようで……
「そうだよ!セリカお姉さんは私を助けてくれたし、
この教会をずっと守ってくれてるすごい獣狩りさんなんだよ!」
けれど、そのわずかな疑問はセリカの代わりに満面のかわいらしい笑みで、
とてもうれしそうに男の質問に答えたリリーの言葉によってかき消された。
「んえ!?ま、まあまだ半人前だけどね……アイリーンさんに比べればまだまだ」
……多分、強さで言えば先輩が一番だろうが、
最近人間性に物凄く
素直に尊敬できるかと言われれば疑問が残る。
その為こういった時にセリカが真っ先に思い浮かべるのはアイリーンである。
男はそんなセリカの言葉を聞いて、何か考えているような様子だったが、
やがてもう一度、笑みの表情を作った。
「……それはますます安心だね。ここまで来たかいがあったってもんだ」
そう言う男の口調と、表情はどこか強張っているようにも聞こえる。
そのことがほんの少しだけ引っかかったセリカだが、
すぐにその考えを振り払った。
第一、あの偏屈な男らに比べれば気さくで話しやすく、遥かにいい人そうだ。
何を一体そんなに警戒しているのか……
「……はぁ」
ここに来てから、
順調に常識が変質しつつある自分の事を改めて振り返ってみると嫌になる。
そのことでセリカは小さくため息をついた。
「……?お姉さんどうしたの?」
「あ、うーん……何でもない」
小さく首をかしげるリリーにセリカはそう言うと、改めて目の前の男の方へ向き直った。
「それじゃあ、一応この教会の管理者の人がいるんだけど会ってくる?」
「あーいや、俺は遠慮しておくよ」
男はそう言って軽く肩をすくめると自嘲した。
「ほら、俺ってこの通り乞食だから、教会の中に入っても迷惑なだけだろ?
正直、こうして入り口に座らせてもらってるだけ十分さ」
「……別に私達はそんなこと気にしな」
そこまで言ったところでセリカはよりにもよって教会の入り口付近に陣取っている
例の性格のねじ曲がった男のことを思い出した。
……あいつなら絶対何か言ってくるに違いない。
セリカは不思議とそう確信した。
「……いや、一人だけいる。めちゃくちゃ嫌な奴が」
「はは、まあ一人はいるだろうさ。そういうことなら俺は遠慮しておくよ」
そう言うと、
包帯頭の男はすぐ近くの壊れた荷馬車の近くに腰を下ろすとふぅ、と一息つく。
そんな相手のことを、セリカは何とも言えない表情で見つめていた。
「さぁ、さっきも言った通り俺はこのままで構わないから白いお嬢ちゃんは……」
「白いお嬢ちゃんじゃなくてリリーっていう名前だよ。
あと、こっちはセリカお姉さん」
男の呼び方が気になったのかリリーがそう言って自分を、次にセリカを軽く示す。
男はそれに、そうか、と軽く相槌を打って頷くと、改めて言葉を紡ぐ。
「まあともかく、リリーちゃんは気にせず教会に戻りな。
何か来ないか見張るにしろ、俺とあんただけで大丈夫だろ」
セリカにそう提案する包帯男、
……獣狩りの夜ならそうするのが一番いいだろう。いいのだろうが……
「いや、そう言うわけにもいかなくて……」
「ん?」
セリカの言葉に首をかしげる包帯男。それに代わりに答えたのはリリーだった。
「えっと、今からお姉さんと外で遊ぼうとしてたの」
「外で、遊ぶ……?」
「あ、でもでも、さすがにセリカお姉さんが近くの獣とかは狩ってくれてからだし、
教会のすぐ近くでしか遊ばないよ?」
「お、おう。いや、俺もとやかく言うつもりはないが……
中々肝が据わってるね、お嬢ちゃん達」
そうは言うものの包帯頭の男もリリーの言葉には大分困惑している様子だった。
いや、まあ、セリカ自身も中々危険なことをしているとは思うが
あの頃はアイリーンもいたし、
最近リリーがオドン教会の中だと過ごしづらそうにしているのをよく見るのだ。
アリアンナと話している時間すら、少しづつ短くなりつつある。
……まあ、彼の前に来た避難者が2人があれなので気持ちはわからなくもないが。
セリカがそんなことを考えていたその時だった。
何やら考え込んでいたリリーが、ふと思いついたといわんばかりに言ったのだ。
「そうだ!おじさんも一緒に遊ばない?」
「「え?」」
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その突拍子もない言葉に、
セリカは流石に迷惑じゃないかと心配し、
男の方も別に構わないけど……と言った及び腰だったが、
結局、「3人の方が楽しい!」というリリーの熱意に押し負けて、
なし崩し的に先ず、だるまさんがころんだが始まった。
簡単な説明のみされてほとんど巻き込まれた形での参加となった包帯頭の男だったが、
いざ参加してみると思うほど悪くなかったらしい。
気がつけば、終盤には2人と違和感なく会話できる程度には打ち解けていた。
「ハハ、いやぁ、こうして遊ぶの自体が初めてだったが、案外悪くないな」
いったん休憩しようという話になり、
改めて荷馬車の前に座り込んだ男はそう言って笑った。
そんな彼にリリーがぷくりと頬を膨らませる。
「むう、おじさん、全く手加減してくれないからちょっと嫌い。
セリカお姉さんみたいに歩いて逃げてくれればいいのに……」
「そうよ、リリーちゃんとあなただったらだいぶ歩幅に差があるし」
「いや、それを言うんだったらあんたも少しは手加減してくれよ。
俺にだけ狩人の身体能力全開で来るのはずるいぞ」
「うっ、そ、それは……そうね」
包帯頭の男からの指摘にぎくりと固まったのち、結局セリカはそれを認めた。
セリカは素直な少女である。
そんな彼女に2人からの何とも言えない視線が突き刺さる。
……それに耐えかねたセリカは強引な話題転換を試みた。
「……そ、そういえば、追いかける時、結構堂に入ってたわね。
なんか迫力があったというか……」
「……まあ、こんな格好だからな。今からでも上着が欲しくなってくるよ」
「あっ」
僅かに返答に間をおいて、男はそう言って軽く肩をすくめた。
セリカは奇行に走る先輩のせいで上半身裸程度では対して驚かなくなっていたことに
漸く気が付いた。
……だからといって今更羞恥に悶えるわけでもないが。
「……確か、先輩が古いけど普通のシャツを持ってたはずだし持ってこようか?
汗臭いけど」
「汗臭いのかよ」
「えぇ……獣狩りさんなんでそんなの持ってるの?」
「わかんない……というか先輩は変なもの集めすぎなのよ。
この前だって大きなカビの塊たくさん買ってたし」
セリカのその言葉で包帯頭の男とリリーはここにはいない先輩にドン引きした。
カビを買っている時点でかなりおかしいのに、
セリカの言葉振りからすればそれと同レベルの変な物を集めているということである。
その頃、黒い三人衆を倒して一旦帰還し、聖杯に潜っていた先輩は軽いくしゃみをした。
「……恩人にこう言うのもなんだが、狩人って変な奴だな」
「それだと私も一緒になるからやめて」
「おっと、すまない」
セリカのほぼ反射的に放たれた言葉に、包帯頭の男は軽く謝った。
……と、そういえば、と男がセリカの頭の上に浮かぶヘイローに視線を移す。
「そういえば、セリカの頭の上のそれは何なんだ?
今まで見てきた狩人やら獣やらにそんなのをつけてた奴を見たことがないんだが……」
「あー……まあ、そのうち言おうとは思ってたんだけどね」
その言葉に、セリカは少し考え込んだものの、
どうせここにいる他の人は全員知っていることなので、まあいいかと帽子を取った。
その中から猫耳が露わになる。
「それは……!」
「あはは……まあ、驚くわよね。一応、私ここの外の出身だから。
頭の上の輪っかも耳も天然ものだから安心して」
「……そう、なのか」
その言葉に、男はしばらく呆然としていたが、
やがて自分を落ち着けるように息をつくと軽く頭をかいた。
「……まあ、そうだよな。そうそういるわけがない」
「……おじさん?」
何かを聞き取れないほど小さな声で短くつぶやく男。
それに、何か不穏な感じがしたのかセリカをかばうように移動するリリー。
その様子に、男ははっと気が付いたように顔を上げると慌てて手を振った。
「いやいや、そう言うつもりじゃないんだ。
ただ、俺もヤーナムの外になんて行ったことがないから驚いてしまってね」
「あれ、そうだったの?……そっか」
その言葉にリリーはほっとした様子で息をついた。
「よかった……ほとんどみんなお姉さんの耳を見たら酷いこと言ったりするんだもん。
おじさんがそんな人だったらどうしようって思って」
「まあ、それに関しては俺も……物乞いだからな。
そういうのに慣れてる分、それをやろうとは思わないさ」
そう言って、男は軽く笑って肩をすくめた。
……何と無く、微妙な空気が3人の間に流れる。
「……そ、それじゃあちょっと服とってくるから待っててね」
「あ、お姉さんいってらっしゃい」
「わかった。俺がリリーちゃんといるから安心して行ってくれ」
「うん、よろしく頼むわ」
そう言ってセリカは頷くと、灯りを使うべくオドン教会の中へと入っていった。
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……頭の中で、いつも自分に響いてくる渇望の声がする。
しかし今は、それがいつも以上に煩わしかった。
あの、狩人の少女を見送って、教会の入り口へと視線を向けている小さな少女。
その背中に手が伸びそうになるのを、己の理性すべてを込めて押さえつける。
今、手を出せば全ておしまいだ。機を窺え……それに、
最初こそ、隙をついて、いつものようにしてしまおうとした。
……けれど、存外自分にも人間らしいものが残っていたらしい。
「……?おじさん、どうかしたの?」
「……いや、何でもないさ。
それより、リリーちゃんは教会の中へは行かないのかい?」
「ふぇ!?え、えと、その……」
その言葉を聞くと、少女は一瞬、びくりと肩を震わせた。
そしてその後、何か迷っているように目を彷徨わせる。
その瞳が、元気な様子から一転して、暗く、伏せられる。
……目、その目。その瞳。
ああ、そういうことか。
「……あのね」
「いや、言いたくないなら言わなくていい。人は誰でも秘密を抱えているものだ」
リリーの言葉を、あえて遮る。
……この子は優しく、そしてとても聡いようだ。
何故、わざわざ外で遊んでいるのか。
いや、できる限り外にいたいのか……
……それが意味する自分の状態に少なからず感づいている。
少女より状態に近しい自分は、できればこの荷馬車からすら離れていたいほどだ。
それほどに、ここは香がきつい。
「……わかった。ありがとう、おじさん」
リリーはそう言うと、近くの段差にちょこんと腰かけた。
……ありがとう。
久しく、いや、もしかすれば一度も言われたことのない言葉かもしれない。
……あの狩人に会うことがあったら、感謝を伸べねばならないだろう。
それほどに、今は久しく気分が……
「……ふん、余所者のガキの狩人が」
その時、教会の入り口のすぐ近くから、そんな声が聞こえた。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
……あれ、おかしいな。
セイアちゃん編と続けて曇らせをやる予定だったのに結構平和だぞ?
本当だったら一話完結させる予定だったのに想像以上に伸びてしまった……
それもこれも全部上位者ってやつのせいなんだ!(ヤケクソ)
次回はやりたかったことをやります(血の遺志)。