極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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高評価、コメント、ここすき、いいね、誤字報告ありがとうございます!

……ノリと勢いで全盛りローランを作ったはいいが骨獣に勝てねぇ……
当たり判定をもう少し広くして出直してきて(懇願)


side present 狩人、又は血に酔った狩人(1)

 

「……はぁ」

 

 

寂れたアビドスの街並みの中、セリカはため息をついた。

その表情はいつもの無表情とは少し違い、不機嫌そうに歪んでいた。

……そう、セリカは不機嫌だった。

 

別に先日の銀行強盗の件が原因ではない。

寧ろ、あの件は襲撃の背後にカイザーという企業の陰があることを察知できたし、

どこまで使えるかは正直微妙だがトリニティとの関係も持てた。

過程は意味不明極まるものだったがそれは別にいい。

 

原因はそれとは別。

朝、ふとセリカがスマホを開いた時に

図ったようなタイミングで黒服のメールが届いたためである。

何やら身体検査がしたいなどと書かれたその文章。

その報酬金を確かめる前にセリカはそのメールをゴミ箱に入れ、速攻で空にした。

ついでにそのアドレスをブロックした。

だと言うのに別のアドレスから次々と同じようなメールが届く。

一度、わざと指定箇所に行ってその原因を殺害しようかと考える程度には届いた。

結局、セリカはそれの対処を5分程度で諦め通知を切って無視することにした。

とは言え、朝からそんな事があったためセリカは現在かなり不機嫌だった。

 

「……はぁ」

 

セリカはもう一度ため息をついた、

先程、輸血液を打ち、鎮静剤を飲んだ。

しかし、酩酊感と血の香りが一瞬その不愉快を消し去るが、

結局その感覚は戻ってきて今に至る。

 

……どうして、学者や研究者というものはああもどうしようもない奴が多いのか。

 

セリカは血の影響でぼんやりとした意識の中でそう思った。

その時、セリカはふと自分が柴関ラーメンの側を通りかかっていることに気がついた。

……丁度いい。

味はしなくても、大将と話しながらラーメンを食べれば気が紛れるかもしれない。

セリカはそう思い立つと、柴関の扉に手をかけた。

ガラガラと店の扉を開ければ、朝方であるためか他に客足はない。

ふとカウンターを見れば、器を洗っていた柴大将が音に気がついてこちらに振り向くところだった。

 

「お、セリカちゃん。どうしたんだい、今日はバイトはないよ?」

「……今日は客としてきたの」

 

セリカは大将の言葉にそう答えると、カウンター席に腰かけた。

そっけない返答であるが、もう慣れたのか気にしていないのか。

……おそらく後者であろうが。

ともあれ大将は朗らかに笑うとセリカの言葉にうんうんと頷いた。

 

「そうかいそうかい。

それじゃ、いつもより腕によりをかけて作ってあげようじゃないか。

それで、注文は?」

「……そうね」

 

セリカはそう呟くと、記憶からメニューを思い起こす。

 

「……それじゃあ、豚骨ラーメンをお願い。追加のトッピングでチャーシューも」

「あいよ」

 

セリカは大将の言葉に短くそう答えると、手際よくラーメンを作り始めた。

その時、ガラリと音を立ててセリカから見て左正面にある店の扉が開く。

 

「……そういえばカヨコ、銀鴉……いや、あの子の情報収集はどう?」

「正直、かなり行き詰ってる。

あれだけ特徴的なうえに風紀委員長並みに強いんだから

少しは出てくるだろうと思ってたけど……精々少し前まで昏睡してたってぐらい」

「まあまあ2人とも。折角、ラーメン食べに来たんだし、

この時ぐらいは依頼のことなんて忘れちゃおうよ。

特にアルちゃんなんてそのこと考えすぎてしおしおになって……ってあり?」

 

……聞き覚えのある声。

しかも、セリカの中でその声に決していい印象はない。

その声のうちの1人もこちらに気が付いたらしい。

セリカも、今にもレイテルパラッシュへ手を伸ばそうとする己の衝動を抑えて

そちらの方へとちらりと視線を向けた。

 

「ん?ムツキいった……い」

「どうしたの?2人とも急にってえええぇえええええっ!?」

 

また聞こえてくる聞き覚えのある声、

セリカが視線を向けた先には、やはり、つい最近会ったばかりの敵……便利屋68がいた。

とはいえ、あちらの方もセリカがいることは予想外だったらしく、

非常に驚いている様子である。

 

「ア、アル様!ど、どうしましょう消しますか!?それともいっそ私もろとも……!」

「……へぇ。大人しくしてるなら見逃すつもりだったけど、

そっちがその気なら仕方ないわね」

 

大慌てでショットガンを構え、

更にはポケットから起爆スイッチのようなものまで取り出すハルカ。

それを見たセリカがすっと目を細めたかと思うと、

凍てつくような殺気を発しながらレイテルパラッシュを抜き放つ。

それに慌てたのはアルと大将である。

 

「ちょ、ちょっとハルカっ!?そんなことしなくていいからいったん落ち着いて!?」

「おいおい待ってくれ!いくらなんでも店の中で喧嘩は困るぞ!?」

 

それらの言葉で、ハルカはこれまた慌てた様子で、

セリカの方は便利屋68と大将との間で視線を行き来させた後、

ハルカが武器をしまうのを見てようやく武器を収めた。

 

「す、すいませんすいませんすいませんまた私のせいで……!」

「……ごめんなさい、大将」

「いや、わかってくれたならいいんだよ。

ほら、そっちの紫の子もそんなに謝らなくていいから」

 

大将がそう言ったことで、漸く一触即発の雰囲気はなくなった。

といっても双方に妙な緊張感が漂っていることに変わりはないが……

けれど、そんな空気お構いなしに再び席に着いたセリカにムツキが話しかける。

 

「そういえば、バイトちゃん。

今日はバイトじゃないはずなのにどうしているの?」

「……何でシフトを知ってるかはこの際不問にしておく」

 

ムツキの言葉にセリカはそう言ってため息をつくと、話し始める。

 

「別にバイト先に客としてきてはいけないなんて言うルールはないでしょ。

それより、あなた達こそ何でここにきたの?」

「んー、うちのアルちゃんのメンタル回復のためかな。

あの通りさっきからずっと何か悩んでるっぽいからさ」

 

ムツキはわざとらしく考え込むしぐさを見せてからそう言うと、

ほら、とアルの方を手で示した。

……言われてみれば、何か悩んでいるように見えなくもない。

けれど、彼女は悩んでいると思われることは嫌なようである。

 

「う、うるさいわね!別に何も悩んでなんかないわよ!

ただ、少し何か引っかかるってだけで……」

「……はぁ。それを悩んでるって言うんじゃないの?

それはさておき大将、紫関ラーメンを人数分お願い」

 

アルがかなり苦しい言い訳をする中、

その横でカヨコがため息をついてツッコミを入れる。

その後、なおもワイワイといいながら注文すると、

彼女たちはセリカのすぐ近くのテーブル席に着いた。……そう、すぐ近くに、である。

セリカはそれに呆れたような表情になった。

 

「……なんでわざわざ私の近くに座るわけ?」

 

セリカの引き気味の問いかけ。

それに答えたのは、彼女らをここに誘導した張本人であるムツキだった。

 

「くふふ……いやー、私達まだあの依頼を受けててね?

でも今のままだとバイトちゃんに勝てそうにないから、

近くで観察して弱点の1つ位わかればなーってね」

「……それをわざわざ本人の前で言う?」

 

その言葉にセリカは余計に呆れたようにそう言う。

……改めて面と向かって話してみると、

どうにもこのムツキという少女の距離感がつかめない。

こちらをからかっているのだろうが、それにしては何か含みがあるように思える。

 

苦手だ……

もう面倒だし、明確にまた襲撃すると宣言したし、

ラーメン屋を出たらさっさと処しておこうか。

 

セリカはいよいよそんなことを真剣に考え始めた。

そんな彼女に、ムツキは何か思いついたのか、

にまにまと笑うとまた話しかけてきた。

 

「そうだ!ねえねえバイトちゃん、

うちの社長の弱点と交換条件ってことでどうかな?

因みにアルちゃんはこちょこちょにとっても弱いよ、特に脇腹」

「ちょ、ちょっとムツキ!?」

 

突然、仲間であり幼馴染である少女に

自分の弱点をバラされたアルが白目を剥いたかと思えば、

次の瞬間羞恥で顔が真っ赤になる。

そんな彼女らの繰り広げる漫才に、セリカはまたため息をついた。

……ここで答えなかったら恐らく以降も絡まれる。

しかし、どう返答したものか……そこまで考えたところで、

セリカの脳裏にふとひらめくものがあった。

 

「わかった、しょうがないから私の弱点も教えてあげる」

「……おっと、これは予想外だったかも」

 

突然そう言ったセリカに、ムツキは少なからず驚いた様子だった。

因みにアルはセリカの言葉に更なる衝撃を受けてほとんど放心していた。

それはさておき、セリカはその、「自分の弱点」について語り始めた。

 

「先ず胸の中心、脊髄、首、そして頭、できれば後頭部」

「……あり?」

 

……明らかに雲行きが怪しくなり始めたセリカの説明にムツキが首をかしげる。

そんな彼女に対し、セリカはそこで言葉を区切ると、こう告げた。

 

「ここに致命傷を与えれば人は死ぬ。

そうでなくとも一時的に行動不能にはできる。もちろん、私も例外なくね」

「え、あ……うん。そうだけど、そうだけど、ね?」

 

至極真面目に、当たり前のことのように語るセリカに

あのムツキすら反応に困った。いや……あってはいる。間違ってもない。

しかし何というか……うん。

 

「……まるで、実際に人を殺したことがあるみたいな言い方だね」

「まさか、ただの冗談」

 

セリカの言葉にどこか試すようにカヨコがそう言うが、

彼女はそれに、軽く肩をすくめた。

……明らかにセリカの言葉には冗談以上のものが含まれていたが、

カヨコはそれ以上その話題について追及しなかった。

 

「……あ、そうだ。

アルちゃんアルちゃん、折角憧れの銀鴉さんがいるんだから

アウトローの何たるかを聞いてみたら?」

「え、ええっ!?私っ!?」

 

なんとか話題の転換を図ろうとしたのか、

いきなりムツキがアルに話題を振った。

余りにも急のことにアルは一瞬で我に返って、慌てふためいた末に、

大真面目にどうしようかとうんうんと考え始めた。

……けれど、今の彼女の中では銀鴉に対する憧憬より

抱いている悩みの強さの方が勝ったらしい。

 

「……いや、今はちょっといいかも」

「あり、思ったよりこれは重傷だねぇ……

じゃあ私が代わりに、バイトちゃん改め銀鴉ちゃんに質問を」

「黒見セリカ。ここでその名前は使わないで」

「くふふ、了解了解。じゃあセリカちゃん、

アウトローになるには、どうすればいいと思う?」

 

ムツキが傷心中のアルに代わって、セリカにそう尋ねてきた。

……そんなもの知らない。なっていいものじゃない。人の1人でも、殺してみれば?

そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

……けれど、あの時憧憬をもってこちらを見つめてきたアルのことを思うと、

セリカは何故か、そう言うこともできなかった。

 

「……具体的なことは私も知らない。

でも、目的をもって進み続ければ、いつか何者かにはなってる」

「……そ、そっか」

 

……自分が、良い狩人を目指して進み続けていたら、

気がつけば血に呑まれ、獣性に堕ちた半端な狩人になっていたように。

夜明けを、目覚めを目指し続けた先輩が、

いつの間にか夜そのものを司る存在に転じていたように。

進み続ければ何か(・・)にはなる。それがよいものであるとは限らないが……

どこか陰りを帯びたセリカの言葉に、ムツキも反応に困ってしまったのか

そう答えて頷くにとどまる。

……再び、妙な空気が両者の間に漂い始めたその時、

 

「はい、セリカちゃん。お待ちどうさま」

 

そんな大将の声が聞こえた。それと同時に漂ってくる出来立てのラーメンの香り。

どうもラーメンが完成したらしい。

目の前にチャーシューがたくさん乗ったラーメンが音を立てておかれる。

 

「あ、先に食べるなんてずるい!」

「……注文は私の方が先。先に来るのは当たり前でしょ?」

「まあまあ、お嬢ちゃん達のもしっかり作ってるから安心しな」

「おぉ、ホントじゃん、わーい!」

 

嫉妬したのかそれとも単に絡みたいだけなのか、

セリカにそう言って絡みつくムツキだったが大将の言葉で跳ね起きるや否や、

その手に人数分のラーメンの器があるのを見て歓喜する。

そんな歓声をBGMに、セリカは割り箸を割ってレンゲを持つと

つゆごと麺を掬い上げ、口に運ぶ。

 

……味はしない(鮮血が欲しい)

 

次にセリカはチャーシューをつまむと一息にそれを食べた。

 

……味はしない(鮮血が欲しい)

 

セリカの表情が変わる。

その表情は、とても、とても寂しそうだった。

……わかってはいたのだ。そもそも、この前来た時だって同じだった。

味覚が歪んだ自分に、普通の料理はもうおいしいと感じられなくなっていた。

 

「まあ、何か事情はあるんだろうが、

俺からしたら君たちはアビドスさんとこのお友達に変わりはないからね。

替え玉が欲しけりゃ気軽にいいな」

「よっ、大将太っ腹!」

「……こんなにおいしいんだから行列ができてもおかしくないのに」

 

……テーブル席の方からは、

うれしそうに大将のラーメンを食べる便利屋68の声が聞こえてくる。

その声が、とても羨ましい……

セリカは誰にも聞こえないよう小さく息をつくと、

残りを食べ進めるべく箸を伸ばした。

 

 

その時、

 

 

「友達なんかじゃないわよぉーーーー!!!」

 

 

背後から、突然アルの意味不明な叫びが聞こえてきた。

続けて、テーブルに拳を打ち付けたような鈍い音が聞こえる。

 

……嫌な予感がする。

 

セリカが振り返ると、立ち上がったアルが何やら意味不明なことを話していた。

 

「わかった!!何が引っかかってたのかわかったわ!問題はこの店、この店よっ!」

「!?」

「どゆこと!?」

「……は?」

 

周りにいた人たちがそれぞれ思い思いの意味不明、

といった反応を示す中、アルの言葉はなおも続く。

 

「私達は仕事しにこの辺りに来てるの!ハードボイルドに!!アウトローっぽく!!なのに何なのよ、この店は!お腹いっぱい食べられるし!!あったかくて親切で!話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気!ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」

「……それに何か問題ある?」

 

ほめてるのかけなしてるのかすら不明な、

余りにも無茶苦茶な主張に普段みんなを振り回している側のムツキですら

困惑した様子である。

それに、アルはさらに熱がこもった様子で言い放った。

 

「ダメでしょ!!メチャクチャでグダグダよ!

私が一人前の悪党になるには、こんな店は要らないのよっ!!

私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!!」

「いや、それは考えすぎなんじゃ……」

 

横でムツキがアルを諌めようとしており、

カヨコはというと社長のご乱心に大きなため息をつく。

大将はというとそれに怒るでもなくただただ困ったように苦笑いしていたが……

セリカはというとその言葉にすっと目を細めた。

その手がレイテルパラッシュへと伸びる。

 

「……言わせておけば」

「ま、まあまあセリカちゃん。誰だってああいう時はあるさ。

昔のセリカちゃんだって似たようなことはあっただろう?」

「……それは」

 

大将の言葉で若干セリカの覇気が霧散する。

……それを言われると痛い。

アルのそれとは違い照れ隠しではあるがかなりの暴言を言ってきた記憶はある。

セリカが言いよどんだその時だった。

 

 

「それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」

 

 

そんな声が、店に響いた。

そこか不気味な響きすらあるその声に、場の空気が凍り付く。

 

「……へ?」

 

先程までの勢いはどこへやら。

間抜けな声を発したアルの前で、

その言葉を発した本人であるハルカが懐から何かを取り出す。

 

「良かった、ついにアル様のお力になれます」

 

それは、先程もちらりと見せた爆弾の起爆装置だった。

ハルカはそれの頂点についた、赤いボタンに手をかける。

 

「起爆装置……!?」

「ハルカ、ちょ、ちょっと待っ……」

 

カヨコの静止も虚しく、もはやある種のさわやかさすらある笑みで

ハルカはそのボタンを押しこ……

 

 

ガキィン!!!

 

 

「へあっ!?」

 

瞬間、凄まじい音を立てて起爆装置のボタン部分がはじけ飛ぶ。

それとほぼ同時に、1mmずれただけでハルカの頬を切り裂いてしまいそうな位置に

投げナイフが音を立てて突き刺さった。

その、余りにも非現実的な光景に、誰もが動くことも、声を出すこともできずに固まる。

そんな彼女達の机に、人影が近寄る。

 

「あ、ははは……ほんっとうに、ふざけたことをしてくれるわね」

 

そう言って、人影は、セリカは壊れたように笑った。

しかし、それは声色だけで、その表情は到底笑っているとは言い難い

歪な笑みが浮かべられており、

その蕩けた瞳はただ、じっとハルカのことを射抜いていた。

……おぞましい殺気が彼女からあふれ出る。

誰も、その迫力に動くことができない。

セリカはそのまま、固まったままのハルカにずいっと顔を近づけた。

その喉元に、レイテルパラッシュの先端が突きつけられる。

 

「ねぇ、その様子から見てここを爆破しようとしたんでしょ?

いつの間に爆弾なんて仕掛けたの?

答えなさいよ、ねぇ、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ???」

 

真っ赤な蕩けた瞳が、何の光も写さぬ濁った鏡面のような瞳が、

ハルカをじっと射抜く。

 

「……ひ、ひっ……」

 

……それに対し、ハルカはただ、掠れた悲鳴を溢すのみだった。

そんな彼女をしばらくジッと見つめていたセリカだったが、

やがてつまらなそうに、心底つまらなそうに顔を上げた。

次にその視線が、未だに呆然としているアルの方を射抜く。

 

「……社長が聞いて呆れる。

あなたが妙なことを吐き散らしたせいで、

あなたが社員を止めなかったせいで、

危うく大将が爆発に巻き込まれるとこだった……わかってる?」

「そ、それ、は……」

 

セリカはアルを糾弾する。

その言葉に、アルは何も言い返すことができなかった。

すっかりしおらしくなった少女をセリカは一瞥した後、

再びハルカに向き直るとレイテルパラッシュをしまう。

そして、その頭辺りへとすっと手を伸ばす。

辺りの空気が凍る、けれど、誰も動くことができない。

そして……

 

「……」

 

セリカはその背後に突き刺さっていた投げナイフを素早く引っこ抜いた。

誰もがあっけをとられた様子でそれを見る中、

彼女は大将の方を見た。

 

「……ごめん大将。店の備品、傷つけた」

「あ、ああ……大丈夫だよ、このぐらい」

 

先程とは打って変わって小さく、

そして表情に影を落としてそう言うセリカに、大将は慌ててそう言った。

その言葉に、セリカはしばらく動きを止めていたが、

やがてハルカの首根っこを掴んだ。

それに誰かが何か言うよりも早くセリカはそこに力を籠めると、

ハルカを席から引きずり出すとそのまま店の出口へ向かう。

 

「え、あ、?ちょ、ハルカっ!?」

 

慌ててそれをアルたちが声を上げる。

それに対し、セリカは本当に、

心底めんどくさそうに視線だけそちらへ向ける。

 

「爆弾を撤去してくる。どうせあなたたちは場所も知らないでしょ?」

 

セリカはただ淡々とそう言うと、そのまま店の外へ出ようと扉へ手をかける。

……その時、

 

「ま、待って!!」

 

背後からそんな声がかかった。

……アルだ。

セリカはそれを無視してラーメン屋から出ようとしたが、

そんな彼女にアルは駆け寄る。

 

「わ、私も一緒に手伝う!

ハルカは私の言うことならよく聞いてくれるし、だから……」

「……好きにすれば?」

 

セリカはただそう言うと、そのまま店の外に出た。

 

________________________________________

 

セリカは興味なさそうにしていたが、アルの存在は思ったより役に立った。

やはりそれには、

ハルカとのコミュニケーションが非常に円滑になったのが大きい。

アルがハルカから爆弾の場所を聞き出し、

それを3人で手分けをして見つけ出し、片付ける。

……その過程で、

2人は下手に取り外そうとしたら爆発するように細工してある爆弾を見つけたり、

ガスボンベ付近に重点的に取り付けられている爆弾を見る等処理に困るそれを見るたびにセリカが

更に不機嫌になってゆくのを見せつけられる羽目になったが。

 

「……これで全部?」

「は、はい……こ、この数で間違いありません」

「そう、ならよかった」

 

セリカが短くそう答えた時、漸く彼女から発せられていた重圧が幾分か軽くなった。

その言葉に、さっきからがくがくと危なっかしい手つきで爆弾を

回収しては目の届く場所にまとめていたアルがほっと一つ息をついた。

 

「よ、よかった……途中で爆発したらどうしようかと……」

「すいませんすいませんすいません私が早とちりしたばっかりに……」

「……うるさい。もうあなたのは飽きるほど聞いた」

 

セリカはぺこぺことアルと自分に交互に、

深々と頭を下げ続けるハルカに対し、煩わしそうにそう言った。

その言葉に、アルは何か思うところがあったようで、言葉を詰まらせた。

 

「……その、ごめんなさい。勢い余ってあんなこと言っちゃって」

「謝るのは私じゃない。大将の方」

 

アルの言葉にセリカは淡々とそう告げる.

その言葉に、アルはぐっと言葉を詰まらせたものの、

それはその通りね、と呟いた。

そんな彼女を一瞥した後、セリカは改めて紫関ラーメンの方を見た。

 

……大将には悪いことをした。

ラーメンも今頃伸び切ってしまっていることだろう。

それに、ほとんど獣性に呑まれる一歩手前まで我を忘れてしまった。

次はこのような失態はしないようにせねば……

 

そう思い、セリカはため息をつく。

そんな彼女にアルが恐る恐る話しかける。

 

「そ、それで……爆弾はどうしようかしら?

ずっと置いているわけにもいかないし……」

「……お詫びもかねてうちの兵器として使わせてもらうわ。

じゃあ、私はそれをアビドスまで持って行くから、

あなたはさっさと大将に謝ってきなさい」

「わ、わかったわ」

 

アルはセリカの言葉に素直にそう言って頷いた。

……こうして見てみると、

何故あんな発言をしたのか理解できない程度にはアルは善人だ。

先程も、爆弾解除のためとは言いつつ

仲間が心配だったのと罪悪感が勝りこちらに来たのだろう。

それがどうしてアウトローなどを目指しているのか……

その時、セリカはあることを思いついた。

……そう、これはちょっとした嫌がらせだ。

彼女の目指すアウトローに、二度とたどり着けなくするためのおまじないだ。

 

「……そう言えば、あなた、アウトローを目指してるんでしょ?」

「えっ?え、えぇ……そ、そうだけどどうして急に」

 

突然セリカからそう問いかけられ、挙動不審になるアル。

そんな彼女に、セリカは言った。

 

「だったら、仲間を、そして恩人を大切にして、守り抜いて見せなさい。

それが最高のアウトローになる近道、今回のことなんて以ての外」

「え?あ、は、はい!?わかり、ました……?」

 

唐突にセリカからそんな言葉をかけられ、

挙動不審気味に、直立不動になってそう答えるアル。

それを見て、セリカはくすりと笑った。

 

……さて、ちょっとした仕込みも済んだことだ。

さっさと危険物を運んでしまおう。

 

そう思い、セリカが店の隅に集められた爆弾に近づいた。

 

 

……瞬間、

 

 

ヒュー……

 

 

上空から聞こえる無数の風切り音。

 

「っ!?」

 

セリカが反射的に空を見上げるも、既に事態は遅すぎた。

 

コンマ1秒後、迫撃砲の榴弾が着弾。

 

近くに置いてあった爆弾は残らず誘爆し、その姿を爆炎に変えた。

 

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

セリカちゃんブチ切れ回です。
まだギリギリ被害が出なかったんで大丈夫でしたけど
今現在大丈夫じゃなくなりました。
殺してやるぞ陸八魔アル。

次回はセリカちゃんの理性がギリギリまで擦り切れるか飛びます。
飛ぶとどうなるのかって……?どうなるんでしょうね(^^)
そして我に返ったとき……
自分のもたらした被害を見てセリカちゃんは何を思うのでしょうね?
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