極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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Q.筆が乗るとどうなる?

A.話がどんどん長引く。


side present 狩人、又は血に酔った狩人(2)

 

「ターゲット、命中しましたが……」

 

少し離れた場所に展開された迫撃砲の砲撃陣。

その丁度真ん中あたりで、赤毛の眼鏡をかけた少女、チナツはそう呟く。

 

「よし。歩兵、第2小隊まで突入……チナツ、どうした?」

 

そのすぐ横にいる小柄な銀髪の少女、イオリが言い淀む相方にそう声をかける。

 

「……いえ、迫撃砲で砲撃したにしては随分爆発が大きかった上に、そもそも便利屋だけでなくこの地区の生徒を巻き込んでしまったので」

「……ん?ああ。確か、アビドスだったか?」

 

イオリはチナツの言葉に、事前資料に書いてあったことをほんの少しだけ思い返すと、

すぐにそれを打ち消す。

 

「うちの校則違反者を捕まえる労力が惜しい。そもそも、便利屋どもと一緒にいるあたり協力関係にあるんじゃないのか?公務の執行を妨害する輩は全員敵だ」

「……しかし、それを差し引いてもアビドスへこちらの事情を説明するのが先かと……」

 

チナツのたしなめるような言葉に、イオリは心底不思議そうな表情をした。

 

「説明? 必要か、それ?」

「…………」

 

その言葉にチナツは閉口する。

どうにも彼女にはひたすら正面に突っ走る悪癖がある。

……願わくば、面倒なことにならないといいのだが。

そんな彼女の願いとは裏腹に、事態は刻一刻と最悪へ近づきつつあった。

 

________________________

 

「……ぐっ」

 

 

瓦礫と燻る炎の中、倒れ伏していたセリカはそんなうめき声を漏らした。

 

……全身が痛い。至近距離であれだけの衝撃を食らえばそうもなる、か。

 

セリカは狩人であるが故に、

普通なら意識が途絶してもおかしくない攻撃を食らっても

この身の命が完全に朽ちるまでは動くことができた。

セリカは鈍い痛みをこらえて立ち上がる。

その身体には決して少なくない量の傷が刻まれており、

肌が露出している箇所は流血している部分もある。

顔の古傷も、化粧が残さず取れて完全に露わになっていた。

ふと近くを見渡せば、アルとハルカが倒れている。

……ヘイローが消えている様子から見るに、気絶してしまったのだろう。

 

「……何が、起こった?」

 

聞こえてきたのは風切り音。

それが聞こえたと思った瞬間、辺りが爆発して……

……爆発?

 

「っ!!!」

 

そう、爆発だ。

あれだけの規模、あれだけの至近距離、柴関は……柴大将は……!

そこまで思考が至った瞬間、セリカは反射的に柴関ラーメンがあった方を見た。

……見てしまった。

 

 

「……あ」

 

 

そこには、何もなかった。

 

先程の爆発がガスボンベにも届いてしまったのだろうか、

辺りにあるのは瓦礫と、燻り続ける火種だけで。

誰かがいた痕跡も、柴大将が店を営んでいたという痕跡も、

何も、何も……

 

 

「あああぁぁあぁあああああああぁああっ!!!???」

 

 

瞬間、辺り一帯に少女の絶叫が響く。

セリカは、わき目も降らず柴関ラーメンがあった場所に向けて駆けだしていた。

 

「大将?大将!!?」

 

廃墟の中でセリカが必死に呼びかける声が響く。

普段の冷徹な様子からは考えられないほど表情も、声色も、取り乱していた。

脳裏で、光景が瞬く、瞬く、瞬く。

トラウマのフラッシュバックが、尚もセリカの精神を削り、焦らせる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

大将が見つからない。呼吸が上手くできない。最悪が頭を過る。

セリカの表情が、瞬く間に壊れかけのそれへと移ろってゆく。

……その時、

 

「う……痛てて」

 

元々カウンターがあったらしい場所から、そんな声が聞こえた。

 

「大将っ!!!」

 

ほとんど反射的にセリカはその場所に飛び込んだ。

そこでは、大将が倒れていた。

片腕は折れているのかおかしな方向に曲がり、額から血を流している。

意識はあるようだが、到底無事とは思えない。

……フラッシュバックが、更に酷くなる。

 

「……セリカちゃん、その傷は……!」

「動かないでっ!!」

 

大将もセリカの姿を視認したのだろう。その傷だらけの姿を見てそんな声を上げるが、

セリカの叫びがそれを掻き消した。

その迫力に、そして今にも壊れてしまいそうな表情に大将は言葉を失った。

セリカは急いで大将に駆け寄ると、その状態を一瞬すら惜しいと言わんばかりの速度で確認してゆく。

錯乱している筈なのに、その動作はとても手慣れていて、淀みがなかった。

少しの時間が経ち、一通り調べ終わったのかセリカの手が大将から離れる。

その手が、一瞬懐に伸びるが、セリカは何か思い出したかのように手を止めると、改めて大将の方を見た。

 

「私は見える?身体の感覚はある??霞んだり、見えなくなったりしてない?してないよね???」

 

一呼吸も置かず一気にセリカがそうまくし立てるように大将に尋ねる。

蕩けた瞳が、不安気に……いや、ある種の恐怖すら伴って揺れる。

……彼女に何があったのかはわからない。けれど、せめて安心させる為に、大将は精一杯笑った。

 

「大丈夫だよセリカちゃん。身体中痛むけど意識ははっきりしてる」

「……あ、ぁああ」

 

その言葉を聞いたセリカの口から、一拍置いて嗚咽が溢れる。

セリカ、ゆっくり、そっと大将を抱き起こすと、そっとその身体を抱きしめた。

 

「……大将、生きてる。生きてる……う、うぅう……」

「はは、大袈裟だなぁ。この通りしっかり五体満足だよ。だから安心してくれ」

 

胸元で泣きじゃくる少女の背中を、柴大将は優しく撫でた。

……その時、

 

「た、大将!大丈夫……ってセリカ!?」

 

瓦礫の奥から無数の人影が現れる。便利屋達だ。

セリカほどではないもののかなりの至近距離で爆発を喰らったアルとハルカは傷だらけなものの、意識は取り戻したようで元気そうだ。

カヨコとムツキに関しては、ほとんど万全な状態だ。

 

「いやー、セリカちゃんをよっぽど心配させちゃったらしくてね」

「で、でもその傷は……ねぇ大将、シェルターの場所は?」

「あ、あぁ。一応店の奥に簡易シェルターがある」

「わかった。じゃあ……」

「社長、」

 

大将。そしてセリカの状態を見て、一瞬言葉を詰まらせたアル。

しかし、その顔に覚悟が宿ったかと思うと、鋭く大将にそう尋ねる。

そんなアルに、カヨコが何処か焦ったように声をかけた。

 

「あれは間違いなくうちの風紀委員の迫撃砲、今逃げなきゃ間に合わなくな「だから何」」

 

カヨコの言葉に、アルはピシャリとそう言った。

 

「……便利屋68として、アウトローとして。私は逃げない。

すぐに大将を安全な場所まで運ぶわよ、話はそれから」

 

そう淀みなく言う姿は、先程までとは打って変わって、

間違いなく1組織の社長と呼ぶに相応しい姿だった。

 

「わ、私はアル様の指示に従います」

「あはー……まあ、爆発の規模から見るにうちの責任でもありそうだしね。私も異論はなし!」

 

ハルカはあくまでアルの意志に従い、

ムツキも少し頬をかいたものの、アルの言葉に異論はないようだ。

そして、そんな仲間たちの姿を見て、カヨコはため息をつくと顔をあげた。

 

「……社長の決定なら私も異論はない。いつも通り、サポートは任せておいて」

 

目標は固まった。

便利屋の少女達はお互いに頷き合うと、大将を避難させるべく行動を開始しようとした。

……その時、

 

「……セリカ、ちゃん?」

 

大将の、そんな声が聞こえた。

心配する響きももちろんある。

しかし、それとは別の感情も、そこには込められているようだった。

便利屋達もそれに釣られるように改めて大将の方を見た。

……つい先程まで、大将の胸元で泣いていたセリカは何事もなかったかのように立ち上がっていた。

彼女がゆっくりと振り返る。

 

「……っ!」

 

アルは、思わず息を飲んだ。

セリカの表情は何も映しておらず、ただ凪いでいた。

それだけならいつもと余り変わらない。

しかし、見開かれた蕩けた瞳が、いつの間にか現れた古傷が、そして……先程発された以上の凍てつく殺気がその異質を強調する。

 

「……敵は風紀委員?」

 

極短く、セリカがアルに問いかける。

 

「へっ!?た、多分そうだと思う、けど……」

「そう。大将をお願い」

 

先程までの様子は何処へやら、その気配に気圧されてアルがそう答える。それに対して、セリカはやはり短く返答すると

コツ、コツと規則的な足音を立てて外に向かって歩いてゆく。

しばらく固まっていたアルであったが、やがてハッとした表情になると慌ててその後ろ姿に声をかけた。

 

「ちょ、ちょっと!

私が言えた口でもないけどあなたも結構怪我してるし、

それにあくまであいつらが狙ってるのは私達で……」

「だから何?」

 

ゾッとするような声色でセリカが返答した。

少しだけ振り向いた彼女の視線が、アルを射抜く。

……何の色も映していない。純粋な殺意のみを充填した視線が。

 

「誰であろうと、私から大切な人を奪うやつは許さない」

 

セリカはそう言うと、視線を戻すと同時、懐から小さな小瓶を取り出すと、その蓋のコルクを撫でた。

 

カチン! 

 

鈍色の鋭く、太い針が飛び出す。

それをセリカは躊躇なく自分の太腿に突き立てた。

明るい赤の液体が、その身体に吸い込まれる。

それを引き抜き、セリカが投げ捨てた頃には、

彼女の傷は顔の古傷を残して何もなかったかのように消えていた。

その非現実的な光景を、アルは声を出すこともできず見ていた。

そんな彼女の事は既に目に入っていないのか、

セリカは今度こそ廃墟の外へと進んでいった。

 

________________________

 

セリカが廃墟から出るのと、丁度イオリが率いる部隊がその付近まで辿り着いたのはほぼ同時だった。

廃墟から出てきた見覚えのない少女の姿に、イオリは訝しげな表情になったものの、すぐにライフルの銃口を向ける。

 

「そこのお前、止まれ」

 

セリカはその言葉を受けてゆっくりと立ち止まると、

ちらりとそちらの方を見た。

 

「……あなた達がゲヘナの風紀委員会?」

「……そうだ、そっちも所属位名乗ったらどうだ?」

 

明らかに友好的とは言い難い言葉の響きに、イオリが身を硬くする。

しかし、セリカがその言葉に答えることはなかった。

 

「……そう」

 

ただ、そう言うと懐から丸薬を取り出す。

そして、それを一息に噛み砕いた。

その身体から、身の毛もよだつような殺気が溢れ出す。

 

「……っ!!総員、戦闘……」

 

それに一瞬気圧されたイオリが急いで他の委員に指示を出すものの、遅い。

セリカはレイテルパラッシュを抜き放つと、イオリに向けてステップ。

その急激な踏み込みは、彼女とイオリとの間にあった距離を一瞬でないものにした。

 

ガキィン!!

 

それでも対応できたのはやはり風紀委員として普段から戦闘をこなしているためか。

イオリは奇跡的にセリカの攻撃を受け止めた。

 

「は、剣っ!?」

 

レイテルパラッシュの切先が眼前に迫っているのを見て、イオリが驚愕する。

その時、彼女の視界の端に自身に攻撃を加えてきたセリカの顔が映った。

そのグズグズに蕩けた瞳が、奇妙な、壊れた笑みを浮かべた威容が間近に迫る。

 

「あっははは!!他校の自治区で砲撃、しかも民間人にも被害を出すなんて、風紀委員会だと何でも許されるわけっ!?」

「なっ!?」

 

憎悪と、ある種の狂気すら感じる声が耳朶を打つ。

その言葉で、イオリの力がほんの少し、少しだけゆるんだ。

……瞬間、

 

「邪魔っ!!!」

 

勢いよく彼女の銃が跳ね上げられる。

大きく体勢を崩した彼女の胴体に向けて、セリカのシンシアリティの銃口が向けられる。

 

銃声

 

きっかり3発放たれた水銀弾は、急所にこそ当たらなかったものの、少女の肌を喰い破り、激痛をもたらす。

 

「がっ!?」

 

倒れ伏すイオリ。そのヘイローが明滅する。

しかし、そのことも目に入らないのかセリカは次の目標に向けて駆け出していた。

その出来事を見て、ようやく他の委員も意識が追いついたらしい。

 

「う、撃て、撃てっ!!」

「な、なんで接近してきてるのに当たらガハッ!?」

「く、来るなっ!!」

 

慌てて応戦し始めるが、

その弾幕は遮蔽を駆使しながら戦場を駆け抜けるセリカに一発も当たらない。

 

鳩尾にレイテルパラッシュを突き込み、一撃で昏倒させて前方にステップ。

弾丸をすり抜けつつその勢いも載せて一撃。

また1人、1人と少女が倒れ伏す。

スタミナ回復の合間で放つレイテルパラッシュとシンシアリティの水銀弾は、

その全てが寸分の狂いもなく相手の腕に、肩に、足に着弾し、戦闘不能にする。

そして動けなくなった相手にも容赦なく斬撃を加え、意識を刈り取る。

 

たったの数分、数分だ。

 

その間にセリカは、

イオリと彼女が率いていた決して少なくない数の風紀委員を壊滅させた。

反撃の暇すら与えぬ一方的な蹂躙。

その光景を見たチナツは、

何もできず、ただ驚愕と、身を焦がす恐怖に立ちすくんでいた。

 

「ふふ、あははっ」

 

セリカが笑う。楽しそうに、憎悪を込めて、狂的に笑う。

 

「これだけ?これが風紀委員会?……くだらない」

 

セリカはそう吐き捨てると、

倒れ伏して痛みに呻いているイオリの近くまで近寄ると、

左手でその胸倉を掴み上げた。

 

「ねぇ、これだけ?これだけなの?私はまだまだ戦えるわよ」

「う、ぐっ……」

 

イオリは再び、セリカと目が合った。

先程と変わらないその蕩けた赤の瞳が、じっと、じっとイオリのことを見る。

それに宿る狂気が、イオリの戦意を、心を焼いてゆく。

 

「ふふっ……ねぇ、動きなさいよ。目の前に敵がいるのよ?

あなた達が正義を執行しなければならない敵がいるのよ。ねぇ、ねぇ、ねぇ」

「ま、待って……痛っ……!」

 

乱雑にセリカが笑いながらイオリを揺する。

その振動が傷に障ったのか、彼女は痛みで呻く。

……瞬間、

 

「……待って?よくもそんな事が言えたものね。大将を傷つけたあなた達が」

 

カクンと、セリカの表情が狂的な笑みから真っさらな無表情に落ち込んだ。

 

……まずい、

 

そんな思考がイオリの脳裏を駆け巡るも、既に手遅れだった。

 

「……もういい、面倒」

 

セリカはただそれだけ呟くと、

レイテルパラッシュの切っ先をイオリの喉へと向けた。

その動作はどこか作業じみていて、淡々としていた。

 

……殺される

 

「……こんなことになるんだったら、

いつも使ってる方を持ってきてればよかった」

 

セリカはポツリとそう呟くと、

レイテルパラッシュを力を込めて大きく引いた。そして……

 

 

「"セリカっ!!!!"」

 

 

それが突き出される寸前、聞き覚えのある声がセリカの耳朶を打った。

レイテルパラッシュが辛うじてイオリの喉を貫く前に止まる。

セリカが視線を向ければ、

道の向こうから先生と、ホシノを除いた対策委員会の仲間たちが

こちらに駆け寄ってくるところだった。

 

「……みんな」

 

セリカはポツリと呟く。

それと同時に彼女に掴みあげられていたイオリは

その手に力が入らなくなったことによって地面に滑り落ちた。

 

「かふっ、ごほっごほっ」

 

足元で激しくせき込むイオリ。

けれど、それすらもう意識の外にあるのか、

気がつけばセリカは仲間の方へと駆け寄っていた。

……どうも、辛うじて先程のことは気づかれなかったようだ。

というか、もう少しで取り返しのつかないことをするところだった。

仲間たちの姿を見て、漸く少し冷静になったセリカはそのことで心の中でほっと息をつく。

そんな彼女に最初に話しかけたのはシロコだった。

 

「セリカ、一体何が……」

「ゲヘナ風紀委員会の襲撃。あいつらのせいで大将が大怪我した」

 

セリカのその言葉に、その場にいた全員の目が驚愕で見開かれる。

 

「そんな!?」

「……!」

「嘘……」

 

アヤネは思わず悲鳴にも近い声を上げ、

ノノミはただ、絶句する。

シロコは何も言わなかったものの、

次の瞬間にはその眼が背後の風紀委員に向けてすっと細められた。

そして先生は、真剣な面持ちでセリカに問いかける。

 

「"セリカ、それで大将は今どこに……"」

「偶々居合わせた便利屋68に安全なところに退避させてもらってる。

意識は一応あるから取りあえずは無事だと思う」

「"そっか……それなら本当に良かった"」

 

セリカの言葉に先生がほっと胸をなでおろした。

 

「……ところでセリカちゃん、その……顔に」

「……え?」

 

アヤネから、恐る恐るそう声をかけられ、セリカの表情が固まる。

ぺた、ぺたとその言葉につられて顔を触れば、そこには確かに……

 

「"あ、あー!?セリカ、また煤が変な感じに!?"」

 

その時、先生が上擦っていた声でそんな声をあげた。

……正直、非常に無理がある誤魔化し方で、ホシノ以外にこの事が知られていないと思っていたセリカに先生も知っていると知られるだけであった……が、不思議と、その言葉を聞いたセリカは、立ち上りつつあった恐怖の動悸が収まっていくのを感じた。

 

「……もういいの、先生」

 

セリカは、ぽつりとそう言った。

何処か諦めたように、けれど何処か安心したように。

 

「"……セリカ"」

「セリカちゃん……」

「……説明は後で必ずするから。今は何も言わないで」

 

セリカが先生らにそう答えたその時、

 

「……待って、相手が近づいてくる」

 

シロコが鋭くそう言った。その言葉が聞こえた瞬間、全員が一斉に身構える。

……シロコが視線を向ける方向に目をやれば、

確かにチナツと、取りあえず応急処置を施されたらしいイオリ。

そして幾人かの風紀委員がこちらに近づいてきていた。

……共通しているのは、全員が両手を上げているところか。

 

「"あ、チナツだ"」

「……敵対する意思はないようです」

 

……知り合いがいたのだろうか。先生があっ、と声を上げる。

更に、彼女らの様子を見て、アヤネが呟くようにそう言ったことで

彼女らは一旦戦闘態勢を解いた……ただ1人、セリカを除いて、だが。

彼女だけが、敵意を込めて近づく風紀委員にシンシアリティの銃口を向けていた。

 

「"……あ、あれ、セリカ?"」

「……やっぱり、歓迎はされませんか」

 

そんな彼女を見て、先生が混乱してそんな声を上げる中、

チナツはそう言って自嘲気味にため息をついた。

イオリはというと、ある程度動けるようになっているらしかったが、

セリカと視線を合わせまいと必死でそちらから目を逸らしていた。

そして、チナツは改めて1つ咳ばらいをすると、アビドス、そして先生に話しかけた。

 

「改めまして、ゲヘナ学園風紀委員会所属、火宮チナツです。

……まさか、こういった形でお会いすることになるとは」

「"あはは……私もこれは想定外かな"」

 

チナツの言葉に、先生も苦笑いでそれに応じる。

知り合い同士、しかも特に仲が悪いわけでもなく寧ろ仲がいいとすら言える。

2人からすれば、こういった場で会うことは本当に気まずいだろう。

 

「"それで、何があったの?"」

「私達はアビドスにて目撃情報が確認された手配中の不良グループ、

便利屋68を拘束するために来ていたのですが……

その過程で民間の方に被害が出てしまい、そちらの……セリカさん、でしたか?」

 

チナツの恐る恐る、といった問いかけ。

それに対し、セリカは何も答えず、ただ銃口を向けるのみ。

 

「セ、セリカちゃん。気持ちはわかるけど今は少し我慢して……ね?」

「……わかった」

 

その様子を見かねたアヤネに声をかけられて、漸くセリカは銃を下ろした。

とはいえ、チナツの声に答えることは終ぞなかったが。

 

「……はい、その、セリカさんと戦闘状態に入り、1部隊を壊滅させられまして」

「さっきセリカが持ち上げてた人はそれで……」

「……っ」

 

シロコの小さなつぶやきが聞こえてしまったイオリが、小さく肩を跳ね上げる。

そんな同僚のことを心配そうに見るチナツだったが、

やがて視線を正面に戻す。

 

「と、まあ。こちら側の状況説明不足と短慮な火力投射が招いた結果ですので、

非は完全にこちら側にあります。ですので……」

「だから何?便利屋の捕縛に協力しろなんて言うのは願い下げ」

 

唐突に、チナツの言葉にかぶせるようにセリカがそう言い放った。

……似たようなことを言おうとしていたのだろう。

チナツがぐっと言葉に詰まる。

そんな彼女に対して、セリカはなおも言葉を続ける。

 

「今すぐ私たちの目の前から消えて。それがあなたたちにできる唯一のこと」

「……私もセリカと同じ意見。

そもそも、他の自治区へこれだけの戦力の介入は

一歩間違えれば宣戦布告と扱われてもおかしくない」

 

セリカの言葉に、シロコも同意する。

ノノミは何も言わないものの、未だ険しい表情をしている辺り意思は同じだろう。

 

「……アビドス高等学校側としては2人の主張と同じです。

自治区の観点からこれは明確な違反行為。今すぐお引き取り願います」

「……了解しま[それは困りましたね]!?」

 

その時、彼女らに、イオリでも、チナツでもない全く別の声が響いた。

それとほぼ同時、チナツの前にホログラムが展開され、1人の少女の映像が映し出される。

青い髪、青い瞳、そして大きな胸の横が露出した奇妙な服装。

その顔に張り付いた笑顔は、対外的で、何処か信用できないものだった。

 

「アコちゃん……?」

「アコ行政官?」

 

イオリとチナツがその少女の姿を見て、そんな声を発する。

アコ、そう呼ばれた少女は警戒する対策委員会の生徒たちに笑いかけた。

 

[こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について、改めて話し合いをしたいのですがよろしいでしょうか?]

 

あくまでにこやかに、あくまで友好的に、アコはそう自己紹介して、そう問いかけた。

 

「ア、アコちゃん……その」

[イオリ、反省文のテンプレートは私の机の左の引き出しにあります。ご存じですよね?]

 

イオリの言葉に、アコは笑顔のまま淡々とそう言う。

それだけで、イオリはすっかり小さくなると、スッと後ろに下がった。

 

「行政官ということは、風紀委員のナンバー2……そんな人がここに……」

[あら、実際は大したものではありません。あくまで内務の面で

委員長を補佐する秘書のようなものでして……まあ、それはさておき、ですね]

 

アコはそういうと、咳払いをして改めてアヤネの方を見た。

 

[さて、皆様は私達の即時撤退をもとめておられるようですが、こちら側としては、その提案は受け入れかねます]

「……!」

 

その言葉に一気に少女達の警戒が跳ね上がる。

特にセリカから殺気が再燃するがアコはどこ吹く風、と言った様子である。

 

[私たち風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則に違反した人達を逮捕するためにここに来ました。

余り好ましくない出来事もありましたが……]

「……余り好ましくない出来事?」

 

そうアコが言った瞬間、底冷えするような声が響いた。……セリカだ。

もし彼女の身体がこの場にあったなら、今すぐにでも襲いかかっていそうな雰囲気だった。

 

「あれが、大将が怪我したのが余り好ましくない出来事?

その上でまだ何かするつもり?本当に、本当に面白いことを言ってくれるわね……!!」

「ひっ……!」

 

殺意を剥き出しにアコに憎悪の籠もった声を放つセリカに、

先程の出来事がフラッシュバックしたのかイオリが小さく悲鳴をあげる。

そんなイオリの様子をちらりと見た後、アコはため息をつくとセリカに向けて言った。

 

[余りこちらの事を言えないと思いますけどね、セリカさん?

あなたの行った反撃も、ひょっとすれば過剰防衛とも取られかねないものですが……]

「それが何?」

 

アコの言葉に、心底不思議そうにセリカは即答した。

 

「敵を狩って何が悪いの?大切な人を守るのに躊躇なんて必要?

……あなたがその気なら何度でも同じように潰してやる」

「セリカちゃん……必要以上にするのはダメですよ?」

「ノノミの言う通り、流石にやり過ぎには気をつけて。精々格の違いをわからせる程度に」

「シロコ先輩は先輩で何言ってるんですか!?」

 

殺気立つセリカに、ノノミ、シロコがそれぞれある程度止めに入る。

……とは言え、彼女達もそれぞれ自分の武器をいつの間にか射撃態勢にしているのだが。

そんな彼女達を見て、アコはため息をついた。

 

[なるほど……これだけの兵力差があっても怯まない……

セリカさん1人で説明をつけるのも難しいですね。

それもひとえに信頼できる大人がいるから、でしょうか?]

 

アコは困ったように小さくつぶやくと、

何処か非友好的な視線をもって先生を見た

 

[先生は、この状況をどう考えておられるのですか?]

「"……私はみんなの意見を尊重する。だからアコ、今回は帰ってもらえると助かるんだけど"」

 

先生は少し考えた後、アコに毅然とした態度でそう答えた。

それを聞いたアコは、その意味を心得たのか小さく頷いた。

 

[なるほど…そちらの意見はよくわかりました]

 

アコはそう答えると、わざとらしく頬に手を当てて考えるようなしぐさをする。

 

[これは困りましたね……うーん……こうなったら仕方ありません。

本当は穏便に済ませたかったのですが……]

 

わざとらしい、焦らすようなアコの言葉。続く言葉を察して先生たちは身構える。

そんな彼女らに対し、アコはただにこりと笑いかけた。

 

[ヤるしかなさそうですね?]

「ちょ、ちょっとアコちゃん!?いくらなんでも私だけじゃあいつを抑え込むのは……!!」

 

そんな彼女の言葉に慌ててイオリがそういうも、アコがそれに答えることはない。

曲がりなりにも先程セリカがたった1人で自分達を蹂躙するのを観ていたはずなのに、何処か余裕そうですらあった。

レイテルパラッシュを抜き放ったセリカは、その事に僅かな違和感を覚える……その時、

 

 

「嘘をつかないで、天雨アコ」

 

 

突然、そんな声が響いた。

先生らが振り返れば、そこにはいつの間にか便利屋68がいた。

声を発したのはカヨコ。アコのことを鋭く睨みつけている。

 

「べ、便利屋68の……」

「大将はきちんとシェルターまで送り届けといた。応急処置もしといたし大丈夫だよ、メガネっ娘ちゃん?」

 

その姿にアヤネが何か言うよりも早く、ムツキが少しだけいたずらっぽくそう言うと、改めて正面へ視線を向ける。

 

「……でも、お礼をしてもらうのはまた後かな?」

「……ですね」

 

ムツキの言葉に、アヤネもそう答えると、何時でも状況に対応出来るようタブレットを起動する。

そうしている間にもカヨコとアコの会話は続いていた。

 

[……まあ、どうであれ目標を探し出す手間は省けましたね。

しかし、カヨコさん、嘘とは?]

「とぼけないで。最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」

 

カヨコがそう追及する。アコはなおも笑ったまま。しかし、その表情は凍り付いているようにも見えた。

 

[……面白い話をしますね、カヨコさん?]

「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。

風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って?」

 

アコの言葉を無視して、カヨコはそう語り始める。誰もそれに口をはさむことなく、その言葉を聞く。

 

「こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。

だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

[…………]

 

アコは何も言わない。そのことが、それが図星であると何より物語っていた。

 

「それに、私たちを相手するにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。

しかも、執行官まで動員するなんて…他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。

とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても五人しかいない……なら結論は一つ」

 

そこでいったん言葉を区切ると、カヨコは結論を言い放った。

 

 

 

 

 

「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」

 

 

 

 

 

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

久々の1万字超え……長引いてしまった。
さて、タダでさえ大将のことでほとんど、
というか完全にキレているセリカちゃん。
ここで更にアコの先生攫う発言です。
……大変そうですね(他人事)

次回は……まあ、お察しの通りのことになります。
こうなってくるとセリカちゃんの頭から隠す云々の話が完全に消し飛びます。
全部終わって、セリカちゃんが我に返った時何を思うのか。
私気になります。

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