……なんか最近いっつも長引いてるな
11/18 セイアちゃん編第3話、更新されてるので是非是非
……セリカの居場所を知っているかもしれない。
まだ、誰にも言っていない。
セリカの隠していたもう一つの秘密。
そう説明しながらホシノが案内したのは、
セリカの位置座標が最後に途切れたアビドス高校の校舎、
……その屋上だった。
「ここに、セリカちゃんのいる場所に関する手掛かりが?」
「おじさんも確証はないけどね〜……確か、ここだったはずなんだけど」
そう言いながら、ホシノは何かを探して屋上の隅の方を見渡す。
そして……
「あっ、いたいた。おーい、みんなこっちこっち〜」
然程時間が経たぬうちに、ホシノは目的の存在を見つけた。
あの日の夜、セリカと共にいた幾人かの謎の小人……
それと、彼らが集結する歪んだ灯りが確かに、そこにあった。
ホシノの言葉を受け、後輩や先生達も、その場に集まってくる。
そして……
「……何も、見えないけど」
「うへ、やっぱり……?」
そんなシロコの言葉に、ホシノが先生や、他の後輩達の方を確認するが、
ホシノの言う何かを探しているか、
何も見つけられないのか呆然としているかのどちらかだった。
……あの時、セリカが言っていた「普通は見えない」
という言葉は本当だったようだ。
「"確か、セリカの友達……?みたいな存在なんだっけ"」
「うん、セリカちゃんはそう言ってたんだけどねー……ってん?」
その時、ホシノは何かに気が付いた。
あの時以来、偶にであっても幾人かが
トップハットを掲げてあいさつするだけだった彼らが、
何故かゆらゆらとホシノに向かって手招きをしている。
「……」
「"え、ちょ、ホシノ?"」
その誘うような動きに、気がつけばホシノは彼らに歩み寄っていた。
近づいてきたホシノに、彼らはスッと手を差し伸べる。
ホシノは、その白い筋張った手に向けて自身もまた、恐る恐る手を伸ばす。
「ホシノ先輩……?」
「ねえ、そこにその友達がいるの?……先輩?ホシノ先輩!?」
背後からそんな声がかかるが、既にホシノには聞こえていなかった。
そして……両者の手が触れた次の瞬間、
とぷん
使者たちの姿が、まるで水面に呑まれるように消えた。
……それと同時に、ホシノの金縛りも解ける。
「ん……え、あ、あれ?」
「ホシノ先輩っ!?」
そんな彼女に、先生らが慌てて駆け寄る。
「急にどうしたんですか!?」
「そうですよ、まるで操られてるみたいに歩きだしちゃって……」
「何があったの?」
「え、いやぁ……それが、おじさんにもよくわかんなくて」
そんな彼女たちの呼びかけに、ホシノは困ったようにそう言うと
足元に目を落とした。
灯りは未だにあるものの、使者たちはどこかへと消えてしまった。
……後変わったこととすれば、赤黒いしみが……
「……え?」
ホシノは、思わずそんな声をだした。
そう、足元で、謎の赤黒いしみ……
いや、どろりと濁った血溜まりが見る見るうちに広がってゆく。
その異常にさほど経たぬうちに
シロコも、アヤネも、ノノミも、そして先生も気が付く。
「……何、これ」
「ちょ、ちょっとこれ、足が動かないです……!」
「な、何が、起こって……?」
余りにも非現実的で異常な光景が、彼女たちの目の前に広がる。
血溜まりは5人を容易く呑み込めるほどに大きくなると、
黒く、黒く変色し始める。
それが奈落のような黒に染まったとき、それは始まった。
ひたっ
シロコの足首を、奈落から湧き出てきた青白い、小さな手がつかむ。
「っ!?」
全く体温というものが感じられない、
不気味なそれの感触にシロコが身を震わせるのも一瞬、
奈落から、悍ましい姿をした小人……使者がぺたり、ぺたりとその身体を這い上る。
その姿は、シロコにもハッキリと視認できた。
シロコの全身の毛が、得体のしれない恐怖で逆立つ。
それと同時、彼女の身体が奈落の中に呑まれ始めた。
「へ、あっ……ひ、いやああぁぁあああぁああ!?」
背後で使者の姿を目撃したアヤネの悲鳴が上がる。
どうも彼らを振り落とそうとしているようだが、足は固定されており、
更に着々とその姿を増やす彼らに対処が追いつかない。
「あ……ぁあ、あ」
ノノミは完全に固まったまま、
ただ身を震わせて自分が奈落に飲み込まれ、
使者たちが身体をよじ登ってくるのを見ていた。
……彼らの青白い手が、遂に彼女の頬に触れる。
「だ、大丈夫だよ、みんな……大丈夫、大丈夫……」
ホシノの方からそんな声が聞こえてくる。
背丈の小さい彼女は、既に腰まで奈落の中に呑まれていた。
使者の姿を知っている彼女は、
後輩たちを安心させようとそう呼びかけたのだろう。
しかし、その言葉は掠れて、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。
「"アヤネ、ノノミ。ホシノもああ言ってるし
きっと大丈夫だから……だから目を閉じて、そうすればすぐに終わるから……!
……シロコ、ホシノ、大丈夫!?"」
自身も動揺しているだろうに、
無数の使者によじ登られながらも先生が生徒たちに必死で声をかける。
けれど、その声に答える者は結局いなかった。
とぷん
小さな水音を立てて、奈落が閉じる。
……アビドス高校の屋上には、誰もいなくなった。
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「"……う、うぅ"」
小さなうめき声が聞こえてくる。……先生だ。
石畳の上に倒れ込んでいた彼女は何度か身じろぎすると、漸く上半身を起こした。
「"……いてて、一体何が"」
頭が少し痛む。記憶が混濁している。
訳も分からず、ただ起き上がった先生はようやくその目を開いた。
「"……え"」
そこは、小さな庭園だった。
神秘の霧に包まれたそこは、青白い月明かりが差しており、
視界の中にはいくつもの墓石と、小さな教会のような場所があるのが見える。
その教会へ続く階段には、
少し前まで誰かがいたような痕跡が残っている気がする。
……明らかにアビドスではない、幻想的な空間……
その時、先生の記憶がようやく完全によみがえった。
「"……そうだ、みんなは!"」
自分と共に、謎の存在に連れ去られた生徒たち。
そのことを思い出した先生は、慌てて辺りを見渡した。
幸いなことに、生徒たちはすぐ後ろで眠るように倒れていた。
「"みんな大丈夫っ!?目を覚まして……!"」
「……ん、ん……んっ!!!?」
「"みぎゃっ!?"」
その言葉で真っ先に目を覚ましたのはシロコ、
周囲の景色の異常に真っ先に気が付いたのかすさまじい速度ではね起きる。
その額が彼女を覗き込んでいた先生に直撃したのは言うまでもないだろう。
「あ、せ、先生、大丈夫?」
「"だ、大丈夫……"」
自分のしたことに気が付いたのか、
慌ててそう声をかけるシロコに先生は力なく答える。
……その物音でホシノとノノミが目覚めたようだ。
「……う、ぅ……?」
「ぅへ……ちょっと頭が痛むかも」
そんなことを言いながら2人が起き上がる。
……2人とも、大丈夫そうだ。
やはり少し頭が痛むのか、軽く頭を振る中、アヤネはというと……
「……や、やめて……来ないで……ぅ、う」
どうも、先ほどの出来事がよほど怖かったのか、うなされている様子だった。
そんな彼女を見かねた先生は、静かに彼女に近寄る。
「"アヤネ、大丈夫だよ。もう怖いお化けはいないから……"」
「う……あ、あれ、先生?」
先生にそう声をかけられて、漸くアヤネも気が付いたようだ。
誰もが少しの頭痛を訴えてはいるものの、それ以外に変わった様子はない。
……さて、
「それにしても、ここはどこなんでしょうか?」
ノノミがそう言って辺りを見渡す。
アビドス……いや、キヴォトス中見ても存在しえない
奇妙で、そして幻想的な光景にそんな感想がこぼれるのはおかしくはないだろう。
そんな中、アヤネはしばらくタブレットを操作していたが
やがて諦めたように息をつくとそれを閉じる。
「……ダメです、インターネット回線も何もつながりません」
「となると、やっぱりセリカはここにいる」
「"……少なくともそうなるね"」
シロコの言葉に先生も頷いた。
セリカの位置座標の不可解な消失。
それも、この別世界と思われる場所へ移動したのなら説明できる。
先生はもう一度辺りを見回した。
……しかし、辺りにそれらしい人影はなく、
庭園に満ちる静寂は誰かがいる痕跡すら隠してしまいそうだった。
その時、
「ひうっ!?」
突然、背後でアヤネの押し殺した悲鳴が上がった。
慌てて少女たちが彼女の方を向く。
「アヤネちゃん、どうしましたか!?」
「み、皆さん……先生の足元に、そ、その……!」
「"えっ、私!?"」
ぶるぶると震えながら[それ]のいる方向を指し示すアヤネ。
先生らが慌ててそちらの方を向くと、そこには……
「きゃっ……!」
「……これ、さっきの」
いつの間にか現れた幾人かの使者が、先生の足元付近でゆらゆらと揺れていたのだ。
ノノミもその姿を視認した瞬間、
先ほどの出来事を思い出してしまったのかアヤネと抱き合って縮こまる。
対するシロコは、スッと目を細めるとアサルトライフルの銃口を向け……
ようとしたところでそう言えば教室に置いてきてしまったことを思い出す。
なればと彼女が足に力を込めたところで、ホシノがそれを制した。
「待って、シロコちゃん。
あいつら、さっきみたいなことはするつもりはないみたいだし何か持ってる」
「……ホントだ」
その言葉通り、
使者たちは数匹が力を合わせ巻紙を抱え持っていた。
そして、一番近い距離にいるためか先生のことをじっと見ていた。
しばらくの間、両者の間に緊張感のある沈黙が流れる。
「"……え、えと……それを見せてもらえばいいのかな?"」
先に動いたのは先生だった。
恐る恐る彼らに向けて屈みこむ。
そして、使者たちはそれに応えるように抱え持った巻紙を広げる。
そこには、流麗な文字が書かれていた。
[この先に友人が待っているんだ……]
紙には、ただそうとだけ書かれていた。
……とても奇妙な言い回しではあるが、この状況から見るに……
「"友人って……もしかして、セリカのこと!?"」
先生が思わずそう問いかける。
それに対し、使者たちは微かな呻き声を残してとぷんと音を立てて地面に潜ると、
少し離れた場所にある、教会へと続く階段とスロープのうち、
スロープの手前辺りで再び姿を現して紙を広げた。
先生らは、その行動に一度顔を見合わせたものの、
やがて意を決して頷き合い、彼らの下に歩み寄った。
[君は正しく、そして幸運だ]
やはりそこには、奇妙な言い回しの言葉が書かれていた。
けれど、どうも先生の言葉は正しかったらしい。
その手紙をみて、ノノミがぽつりとつぶやいた。
「……案内、してくれてるんですかね?」
「"……だね。もしかして、ホシノが言ってたセリカの夢の世界の友達って……"」
「う、うん。この子達なんだけど……如何せん見た目がねー」
先生の言葉にホシノはそう言って頬をかいた。
その言葉通り、彼らの見た目は正直かなりおどろおどろしい。
あれがいきなり出てきたら正直誰だって驚くと思う。
「もしかしたら、さっきのも私達をここに連れてきたかったのかも」
「しょ、正直ものすごく心臓に悪いのでできることならもっと穏便な方法で……
って、あれ、何か新しい紙を……」
害はないとわかって、漸くある程度慣れてきたのか
使者たちに視線を戻したアヤネが、
彼らが何やら別の紙を取り出したことに気が付く。
先生らは、先ほどと同じように何気なくそれを覗き込んだ。そこには……
[しかし、知らぬ者よ、恐れたまえ]
ただ一言、そう書かれていた。
……先程とは毛色の違う、不気味な一文。
「……恐れたまえ、って」
誰かが発したその言葉。
しかし、やはりそれに対し使者たちは呻き声を一つ漏らすのみで何も答えず
少し離れた場所で手紙を広げる。
[憐れな少女、あるいは憐れな血に酔った狩人]
[嘆きを受け入れたまえよ……あんたも分かっているんだろう?]
[折れぬ心が有効だ、しかし秘密を大切にな]
最早、言葉ともとれぬ抽象的で、そしてどこか物悲しい文章の数々が、
進む度進む度に現れては消え、現れては消える。
ふと背後を振り返れば、奇妙な杯が置かれた墓石から、
無数の青白い小人たちが、静かに彼女らを見守っている。
少女たちが交わす言葉の数も少なくなり、いつしかそれは消えていた。
そして……
[血を恐れよ、血の加護がありますように]
……どこか矛盾した言葉を最後に、使者たちは今度こそどこかへ消えて行った。
その手紙が最後に記されていたのは、
教会の脇に咲く花々がひっそりと隠したような、
舗装されていない庭園の奥へと続く道だった。
先生らは、ゆっくりそこへと足を踏み入れた。
そこから、微かな音楽が流れてくる。
「……オルゴール?」
シロコが、小さくそう呟く。……そう、オルゴールだ。
その優しく、儚く、物悲しい音色がその小さな花畑に響く。
先生、ホシノ、ノノミ、シロコ、アヤネはその音に誘われるように、
奥へ、奥へと進む。
その音源は、さほどしないうちに見つかった。
……庭園の外の雲海を、そして月を望む古びた木製の車椅子。
そして、その上には、赤黒い瞳のようなヘイローが輝いていた。
……セリカだ。
「……ねぇ、ガスコインさん、アイリーンさん、ゲールマンさん」
車椅子から、少女のかすれた声が聞こえる。
そこから紡がれるのは、誰かの名前であろうか。
「私、やっぱりダメな狩人だよ」
その声色にはどこか、泣いたような跡があった。
「どうすれば……よかったのかな」
……どう、すれば……
声が、少しずつ掠れてゆく。
居ても立っても居られず、そのまま駆け出しそうになる。
しかし、その衝動を何とか抑えて、静かに、丁度その横辺りまで近づく。
……最初に話しかけたのは、アヤネだった。
「……セリカちゃん?」
その言葉で、先程まで虚ろにオルゴールを見下ろしていたセリカが
ハッと顔を上げた。古傷の走ったその頬には、涙が伝った跡が見える。
その表情が驚愕に染まり、そして恐怖に揺れ始める。
「どう、して……」
そう呟くセリカに、
アヤネは今にも泣きだしそうな心を押し殺し、
いつものように笑いかけると、そっと手を差し出す。
「……もぅ、セリカちゃんったら……探したんですよ。ほら、早く……」
「来ないでっ!!!!」
しかし、次の瞬間彼女から発せられたのは純粋な拒絶だった。
オルゴールが途切れる。それと同時にアヤネの手が止まる。
セリカは自分には大きいその車椅子の端までめいっぱい後退ると、
小さく小さくうずくまった。
……その隙間から、小さな声があふれ出る。
「……みんな、見たでしょ……?あの時の私を。
獣みたいに人を斬って、撃って、殺そうとした私を。
わかるでしょ……?
もう私は、みんなと一緒にいてもいい人じゃなくなったって」
嗚咽を、今にも泣きだしそうなことを押し殺した声。
そんな彼女にアヤネの代わりに話しかけたのは、ホシノだった。
「大丈夫だよ、セリカちゃん。
おじさんは後から来たから何があったのか詳しくは知らないけど、
あっちの人達ともさっきのこと穏便に解決できたし、
みんなも全然気にしてない。だから……」
「それだけじゃない!!」
しかし、その言葉をセリカはにべもなく打ち払った。
「……輸血液のことは?獣血の丸薬のことは??
水銀弾に獣の咆哮、狂人の智慧、ここそのもの。それに血に飲まれた姿……!
知っちゃいけなかったの……知られちゃいけなかった。
なのに、私は……私は……!」
ガチンッ!!!
瞬間、セリカは突然車椅子から跳ね起きると、
どこからともなく取り出したレイテルパラッシュの切っ先を彼女らに向ける。
……その窪みには、真っ赤な血晶石がはまっていた。
「……出て行って。もう、私のことなんて忘れて……!」
「セリカ、ちゃん」
押し殺した慟哭のような言葉だった。
……セリカと目が合う。
とめどなく涙がぽたぽたと溢れ出るその顔は、
悲壮な決意で塗り固められていた。
「……セリカ、そんなことしないで。自分を傷つけるだけ」
「シロコ先輩も黙っててよ!!!」
セリカにシロコがそう声をかける。
けれど、彼女は必死でその言葉を打ち払った。
「……みんなだからって攻撃しないと思わないほうがいい。
1人1人首を串刺しにして殺しても、
みんながどんなに泣き叫んでも、私は何も思わないんだから」
セリカはそう言って、歪に、歪に笑う。
……けれど、そこにあの時のような殺気も、憎悪もなく。
ただ、壊れかけの少女がそこにいた。
その直剣の切っ先が、かたかたと小刻みに震える。
「……あはは、やっぱり、[先輩]の言ってたことは正しかった。
私なんかが、まともなふりをしたから……そのせいで、そのせいで……」
その言葉が、一体何を指し示しているのかはわからない。
けれど、どこか自分に言い聞かせる……いや、責めるような言葉。
それを最後に、辺りが一度、しんと静まり返る。
……瞬間、
さくっ
足元の枯葉を踏みしめて、アヤネがセリカに向けて一歩踏み出した。
セリカの瞳が見開かれる。
レイテルパラッシュが、揺れる。
その足が、気圧されるように後退った。
「な、何をしてるの、アヤネちゃん……?」
……しかし、その問いにアヤネは答えない。
ただ何も言わず、もう一歩足を踏み出す。
セリカはやはり一歩、後退る。
「アヤネちゃんそれ以上近づいたら……ホントに、殺しちゃうよ?
とっても痛いんだよ?段々血が流れ出て、身体が冷たくなってくんだよ?
全部終わりになっちゃうんだよ?」
まるで、本当に死を知っているかのように、
恐怖に震えながらセリカがそう言葉を紡ぐ。
……けれど、
「……止まらないよ、セリカちゃん」
アヤネは、明確にそう言った。
彼女もまた、泣いていた。
一歩、一歩とセリカは壁際へと追い詰められてゆく。
そして、ついにその背中が草木に覆われた壁へと突き当たった。
「……いや、いやだ。来ないで……!」
「セリカちゃんのお願いでも、それだけは……今は、聞けません」
もはや悲鳴に近い声を上げるセリカ。
しかし、そんな彼女に……レイテルパラッシュの間合いの中に、
アヤネは足を踏み入れた。
セリカの息が、詰まる。
「っ、あ、ぁああああああっ!!!!」
慟哭、
瞬間、レイテルパラッシュが風切り音を伴って
目の前の少女の首筋に向かって振るわれた。
けれど、アヤネは逃げるそぶりすら見せず、セリカに向けて両手を広げる。
その首筋に、鋭い刃が触れる。
ぷつりと、赤い筋ができる
……けれど、それだけだった。
レイテルパラッシュはアヤネの皮膚を僅かに切り裂くのみで、止まった。
その代わりに、セリカの身体がアヤネに力強く抱き寄せられた。
……彼女の切り傷から、薄く血が流れる。
セリカの身体が、揺れる。
「……だめ、だめ」
掠れた、吐息のような声がこぼれた。
大切な人の暖かな体温が、セリカのことを包み込む。
セリカのレイテルパラッシュを握る手が力なく垂れさがると同時、
その場に崩れ落ちるように膝をついた。
けれど、アヤネは決してセリカのことを放そうとはしなかった。
「……何も違わない、今も昔も、何も……!」
そんな、嗚咽交じりの声が、セリカの耳を打つ。
「私の中で、セリカちゃんは今もセリカちゃんのまま。
優しくて、抱え込みがちな一番の友達のままだよ……!」
「……違う、違うよアヤネちゃん。
私はもう、昔の私じゃなくなっちゃったんだよ……?」
アヤネから紡がれた言葉を、セリカが否定する。
けれどもう、その表情にあの壊れかけの笑みは浮かんでおらず、
ただ、年相応に涙を流すのみ。
その時、彼女の背後から誰かが抱きついてきた。
セリカを包む体温が増える。
「……例え、セリカちゃんがどれだけ変わっちゃったとしても、
おじさんたちはセリカちゃんの味方だよ。今までも、そしてこれからもね」
「……ホシノ先輩、やめて……そんなこと、言わないで」
ホシノから紡がれた言葉を、セリカが拒絶する。
まるで、彼女たちから向けられる言葉が
決して聞いてはならないものであるかのように、拒絶する。
そんな彼女を、ノノミが、そしてシロコが抱擁する。
全身を、温かさが包み込む。
「セリカちゃんは何も悪くないんです。
私たちがここに来たのも、セリカちゃんを助けたいのも、私達のエゴです。
だから、そんなに自分を責めないでください」
「私達は5人でアビドス対策委員会。
セリカが苦しんでいるなら、今も、これからも、何度でも助けるから」
「やめて……やめ、て……そんなこと言われたら、私……私……」
……セリカの声が、涙で掠れてゆく。その声に籠るのは、変わらない拒絶。
けれど、それはとても弱々しいもので……
「みんなに……あまえちゃう……」
……甘えては駄目なのに。
自分の甘さが、弱さがあの惨劇を生んだというのに。
けれど、セリカに既に彼女らを振りほどくだけの力は残っていない。
静かな庭園の中に、ただ、1人の少女の泣く声だけが響き渡った。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
ついに狩人の夢に来てしまいました。にしても前後の温度差ひどすぎやしないか?
……対策委員会のみんなの中では、
あそこまで変わり果てた姿を見てしまったとしても、
セリカちゃんはあくまでセリカちゃん。
だから苦しんでいる彼女を、純粋に助けたいのです。
けれど、セリカのトラウマは別に理性が飛んで狩りをしている姿を
見られることではないのです。
あくまでそれは根幹部分から派生した一つの側面。
根本にあるのは……
……それが次回過去編にてかける予定だったんですけどねぇ、
ものの見事に長引きましたねえ