極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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side present 狩人、又はカイザーPMC(2)

 

「……ふぅっ」

 

 

獣血の丸薬を咀嚼し、溢れ出す獣性を押さえつけた後、

セリカは鋭く息をつくと展開する敵部隊に向けて前傾姿勢を取る。

 

「"……セリカとホシノで陽動をお願い。

敵の注意が逸らされたのを確認し次第ノノミとシロコは最大火力で畳みかけて!"」

 

先生が鋭く指示を出すが早いか、少女たちは弾かれたように動き出した。

遮蔽物から弾丸の如く左右に分かれて飛び出したセリカとホシノは、

挟み込むように両側から敵に吶喊する。

当然、敵はそれに反応した。

……が、それは先生らの予想とは大きく異なった。

 

 

「要警戒対象の行動開始を確認!」

「攻撃を集中!近づけるなっ!」

 

「……?」

 

……要警戒対象?

セリカに妙な声が聞こえた。

それと同時、

 

「っ!?」

 

敵の大半の銃口がセリカの方に向けられたのだ。

明らかにホシノの対処よりセリカの撃破を優先しているように。

瞬間、一帯を弾丸の嵐が薙ぎ払う。

セリカは己の経験と勘だけを頼りにその弾幕をくぐり抜けながら接近するも、

被弾は避けられない。

セリカの腕にライフルの弾丸が当たる。

ヤーナムのように血が零れるような威力はないが、鈍い痛みが走る。

 

「面倒……!」

 

セリカは小さく悪態をつくとステップを織り交ぜながら

シンシアリティのトリガーを引く。

けれど、それを確認した敵のシールドを持ったオートマタがそれを即座に防いだ。

……今までキヴォトスで戦ってきた相手の中で、格段に反応がいい。

 

「"シロコっ!!"」

「わかってる、支援攻撃!」

 

その姿を見取った先生がシロコに指示を出すとほぼ同時、既に動いていた彼女がドローンについたミサイルコンテナのトリガーを引いた。

大量のミサイルが正面に展開する

シールド持ちのオートマタごとすべてを吹き飛ばさんと自走するが、

敵部隊はそれを確認する否や素早く後退をする。

間に合わず何人かが吹き飛ばされるが、被害は本来想定していたものより少ない。

……しかし、ミサイル攻撃により、確実に敵の陣形にほころびができた。

更に、

 

「ほらほら、おじさんのことも忘れないでよー?」

 

シールドを持っており元々突破力が高い上、

敵の注意がほとんどセリカに引き付けられていたことにより

比較的容易に接近したホシノがシールドを展開してショットガンを連射しながら前進、

 

「ぐあっ!?」

「くそっ、後退しつつ陣形を立て直せ!!」

 

敵は素早く陣形を再編しようとするも、

先ほどのことで陣形のほころびが穴へと転じた。

それを見逃さぬセリカではない。

 

まず、ステップで急激に距離を詰めると、

シールドを前面に構えたオートマタの背後に素早く回り込む。

敵がその異常に気が付くよりも早くセリカは、

オートマタの首元の装甲の隙間にレイテルパラッシュを突き入れる。

 

「がっ!?ガガガがっ!?!?」

 

スパークが迸る。

このレイテルパラッシュは強化されていないものとは言え、

比較的脆い箇所にセリカの全力をもって突き入れられたそれはたやすくそれを貫通、

オートマタは完全に壊れこそしないものの、

センサーなど重要な部分と胴体への配線が完全にショートして行動不能になった。

どのような見た目をしていても、人型の者は大抵の場合首元は弱点だ。

セリカはそれが倒れ込むことを確認することすら惜しいと続けざまに

近くにいた少女へと切りかかる。

 

「ひっ!?」

 

凄まじい速度で変容する戦場に呆然としていた少女。

彼女が迫りくるセリカに気が付き、

恐怖からアサルトライフルを向けようとしたときにはすべてが遅かった。

獣血の丸薬からもたらされる獣性で力を得た横なぎの斬撃が少女の胴体に直撃し、

その意識を一撃で狩り取った。

 

返す刀で更に1人、1台、もう1人と撤退が僅かに遅れた生徒を、オートマタを続けざまに撃破してゆく。

けれど、これら一連の動作を続けざまに行ったセリカの体力もそれなりに消耗していた。

彼女は近くに倒れ伏した大柄なオートマタの陰に素早く隠れると、

そのまま体力の回復を図ろうとした……が、

 

 

ヒュオッ

 

 

そこに届く僅かな……だが確かな風切り音。

セリカが反射的に上空を見上げれば、自分に向けて飛来する大口径の榴弾が……

 

 

「セリカちゃんっ!!」

 

 

着弾する寸前、横から滑り込むようにセリカの視界の中に飛び込んできたホシノが、

そのシールドを上空に構える。

 

 

轟音、

 

 

至近距離で着弾した炸薬がはじけ、シールド越しにもその振動が伝わってくる。

けれど、それを構えるホシノの体幹に一切揺らぎはない。

この光景を見ると、盾に意味はないというヤーナムの言葉が嘘のように思えてくる。

……まあ、あちらに転がる木の盾とホシノのそれを比べるのは

流石に失礼というものか。

 

「ありがと、助かった」

「いいのいいの。それにしてもこの相手……」

 

そう、ホシノが何か言いかけたその時、

 

「総員、一斉射撃!!」

 

そんな声が響き渡った。

瞬間、爆炎を裂くようにして周辺から大量の銃弾が、

ロケットランチャーの自走榴弾が放たれる。

 

「おっと、かわいい後輩ちゃんに集中砲火はどうなのよ」

 

しかし、そんな中でもホシノはあくまでいつも通りに笑いながら、だが冷静に敵の攻撃を受け止め、受け流しながら反撃する。

その姿を横目に、体力が完全に回復したセリカは遮蔽物越しに敵を見る。

……敵は自分達を囲うように円弧状に展開し、その距離はかなり近い。

……これならば十分な効果が見込めるだろう。

そう考えたセリカは懐に手を入れると筋張った獣の手を取り出す。

 

「先輩、耳を塞いでおいて」

「え?」

 

急にそう言われてホシノは思わずそんな声を零したものの、セリカの指示に従い体勢を低くすると耳を塞いだ。

それを確認する否や、セリカは手の中のそれに緊急補充分の弾丸を触媒に神秘をこめる。

 

 

「ゴアァァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

瞬間、音圧を伴った凄まじい獣の咆哮が辺り一帯に響き渡った。

その咆哮に押され、敵部隊が大きく怯む。

それを確認する否や、セリカは敵陣に瞬時に斬り込んだ。

ホシノも驚いてこそいたものの、彼女の意図を察したのか別方向から敵を強襲する。

……一度敵の懐に入り込んでさえしまえれば、後は狩人であるセリカの独壇場だった。

風紀委員会の時のように血に呑まれてこそいないものの、獣性で力を得たレイテルパラッシュの斬撃は生徒の意識を刈り取るには十分で、オートマタに関してもそれは変わらない。

銃は外してしまえば味方に当たる可能性がある都合上、常に敵の誰かを盾にするように立ち回れば群れた獣を相手にしているより格段に戦いやすい。

更に……

 

「くそっ……こうなれば味方に当たることも気にするな!!高射砲部隊、最悪俺たちもろとも……」

「ん、それはどうかと思う」

「無理心中なんてごめんですよー、それー!!」

 

後方から追いついてきたシロコとノノミが更に追撃、

ミニガンの掃射で正面の敵が薙ぎ払われ、それにより露わになった射線にシロコがミサイルを追撃、後方に展開する高射砲部隊を壊滅させる。

 

「ごめん、後ろからも敵が来てて対処に手間取ってた」

「いいのいいの〜、こっちも一旦は終わりかけだったし」

 

シロコの言葉にホシノは軽くそう返しつつ、

近くにいた辛うじて残っていた敵にショットガンを撃ち込むと、

もう一度シロコ達の方を見た。

彼女らの方も周囲の敵を掃討しつつホシノとセリカのいる方に駆け寄ってきていた。

 

「それで先生は今どうしてるのかな?」

[先生は只今門に降りた防護壁のハッキング作業のほうに注力してもらっています。

それより、現在攻撃を仕掛けてきた組織が判明しました!]

 

ホシノがそう、シロコとノノミに訊ねるも、

彼女らの代わりに答えたのはアヤネだった。

その言葉は先程よりも切迫しているように聞こえる。

それが聞こえるとほぼ同時、周囲に展開していた部隊の

最後の一人を気絶させたセリカも彼女らに合流するとアヤネに声をかける。

 

「……それで、敵組織はカイザー?」

[そうです。それも、関連企業のカイザーPMCです]

「……PMC!」

 

その言葉に真っ先に驚愕の声を上げたのはノノミだった。

シロコとホシノも驚いている様子だった。

その中で唯一冷静……というか、

言葉の意味がよくわからず首をかしげているのはセリカ1人である。

 

「……カイザーの系列企業だって言うのはわかったけど、PMCって?」

「あれ、セリカちゃん意外と知らなかったんですか?」

 

ノノミが意外そうにそう言う。

それに対し、セリカは少し目を逸らす。

 

「……勉強とかの物覚えはかなり良くなったけど知らないものは知らないままだし、

そもそもあっちで知ったことといえばろくでもない知識ばっかりだから」

「あ……そ、そうですか……それじゃあ改めて」

 

セリカの言葉に気まずそうな表情になったものの、

ノノミはコホンと咳ばらいをすると説明する。

 

「PMCというのは民間軍事会社のことです。

ヘルメット団とは違って文字通り組織化された民営の軍隊のようなものなんです」

「……道理で今までの奴らに比べて動きがいい……

というか面倒だとは思ってたけどそう言うことね」

「それに連中、セリカちゃんのこと知ってたみたいだよね」

 

説明を聞いたセリカがそう言って一つ息をつく中、

ホシノがそう口をはさむ。

確かに、その点に関する敵の対応は最早異常ともいえた。

陣形を歪ませてまでもセリカの撃破に注力しているのだ。

まるで、その脅威度を知っているかのように……

 

少女たちの間に短い沈黙が下りる中、通信機から再びアヤネの声が聞こえてくる。

 

[……現在も兵器を含めた敵の大部隊がこちらを包囲しつつあります。

気になることはまだたくさんありますが、今は脱出を……!]

「"みんな!ハッキング完了、いつでも出られるよ!!"」

 

その時、アヤネが言い終わるとほぼ同時に先生が大きく手を振りながら駆け寄ってきた。

その背後では、門が重々しい音を立ててゆっくりとではあるが開きつつある。

ホシノ達は短く頷き合うと、そちらの方へ全速力で駆け出した。

先生は途中でシロコが抱え上げ、そのまま出口の方へ一直線に向かう。

 

そして……

 

 

 

「……あちゃ~、これはキリがないなー」

 

 

門を出たすぐ正面では、既にカイザーPMCの部隊が展開。

こちらを包囲して銃口を向けていた。

セリカは後方に視線を向けるが、

そちらの方にも既に敵部隊が展開しているのが確認できる。

 

「"……今ざっと確認してみたけど戦車に高射砲、戦闘ヘリまで展開してる"」

「絶体絶命、かな?」

 

更に、シッテムの箱で索敵をしていた先生からもそんな報告が飛び込んできた。

……今こそこちらに銃口を向けるばかりで撃ってきてはいないものの、

シロコの呟いた通りこのままではひとたまりもないだろう。

セリカといえど、この遮蔽物もなく広い砂漠の中で

数的不利をとられていながら勝つことなど不可能だ。

 

「……っ」

 

けれど、それでもセリカは、手の中の武器を握りしめる。

それは他の少女達も同じだった。

緊張感が高まる。

そして……

 

 

「……ん?」

 

 

突然、基地側に展開していた敵部隊の一部が

ちょうど真ん中で真っ二つに分かれるように左右に退いたのだ。

 

 

「"あれ?何で急に……"」

「……戦闘状態を解除したというわけでもなさそうだけど」

「……」

 

少女たちが緊張に身を固くする中、

戦列の奥の方からこの場所にいるにはあまりにも不釣り合いな、

黒塗りの高級車が走ってきたかと思うと、少女たちの目の前で停車する。

そして、その扉を近くにいた一般兵のオートマタが恭しく開く。

 

 

「アビドス……まさか、ここまでやすやすと事が運ぶとは」

 

 

その奥から出てきたのは、

赤いアクセントの入った黒いスーツを着た大柄なオートマタだった。

少なくとも兵士ではない。しかし、それとは別種の傲慢な威圧感がそこにはあった。

そのオートマタは先生を、生徒を……

そして、セリカを見下ろしたのち、独り言のように話し始めた。

 

「勝手に人の私有地に入り、暴れたことによるこれらの被害額。

しっかりと君たちの学校の借金に加えるとしよう。

近頃、随分と金回りの事情がいいようだしな」

「え?」

「!?」

 

目の前のオートマタは、何でもないことのように、

ちょっとした思い付きのようにそう言った。

そのことに少女たちが驚愕する。

 

「あ、あなたは誰なんですか!?どうして私たちの借金を……」

 

真っ先にノノミが、スーツのオートマタに言い放つ。

けれど、その声はどこか震えていた。

それに対し、相手はこれは驚いた、とでも言いたげに軽く肩をすくめる。

 

「まさか私のことを知らないとは。

アビドス、君たちならよく知っている相手だと思うがね?」

 

そう言ってやれやれとわざとらしく首を振って

息をつくように蒸気音を発すると、相手は彼女たちを傲慢に見下ろした。

 

 

「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めているものだ。

そして君たち、アビドスが借金をしている相手でもある」

 

 

そのオートマタ……カイザー理事の言葉に、アビドスの生徒たちは目を見開いた。

 

「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、

そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」

 

驚愕で言葉を失う彼女らに、尚も理事は肩書を名乗る。

ここまで律義に解説するのは職業柄か、それともただ単純な性格によるものか……

そんな理事に、シロコが剣吞な視線を向けた。

 

「……要はあなたがアビドス高校を騙して土地を奪って、

搾取した張本人ってことで良い?」

「……ほう」

 

シロコの糾弾に、理事はそう興味深そうに声を漏らした。

それにセリカが追従する。

 

「ヘルメット団に便利屋……うちを襲撃してきた連中。

まさか無関係だとか面白いことは言わないわよね、理事さん?」

 

見られるだけで思わず竦んでしまうような殺気の宿った視線。

けれど、理事は動じない。

それどころかほとほと呆れ果てた、という風に首を振るばかりだ。

 

「やれやれ……最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃しておいて……だが、口の利き方には気を付けた方が良い」

 

そう前置きすると、理事は淡々と状況の説明をし始めた。

 

「ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所。まず君たちは今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだということを理解するべきだ」

「"それについてだけど、この子達は連邦捜査部シャーレの権限に基づいて

建設された記録のない不明な施設の調査をしただけ。

それに、退去を促せばいいものをわざわざ私たちが施設の中に入ってから門を閉じて、問答無用で攻撃してきたのはそっちだと思うけど"」

 

けれど、理事の言葉に先生がそう言い返す。

連邦捜査部シャーレ……あらゆる条約や法律が免除となる文字通りの超法規的機関。

先生はその肩書を咄嗟に盾にしつつカイザーPMCの行為を糾弾する。

だが、その言葉にも理事は動じず、寧ろ不敵な笑みを溢すばかりだ。

 

「一体何を言っているのかな?シャーレの先生。

丁度正門の開閉器が故障して半開きになっていて、

漸く治ったと思った矢先に君たちが侵入してきていただけじゃないか。

私達がどうして不正をしたのか是非とも証明してもらえると助かるなぁ」

「"……っ!"」

 

……何も言い返すことができない。

そう、この状況自体が不利な状態で相手の詭弁を覆しうるだけの証拠を持った手札をこちらは何一つ持ち合わせていないのだ。

今、この状態で何を言っても証拠不十分ですり潰されるだけだ。

唇をかみしめる先生に、笑いをかみ殺しながら理事は続ける。

 

「君達こそ、ここへ来たのはシャーレの監査などは建前で

純粋に私達が何をしているのか知りたくなったからではないかね?

どうしてアビドスの土地を買ったのか……いいだろう教えてやろう」

 

少女たちをいたぶるように理事は言葉を続ける。

楽しくて仕方がないといった様子で続ける。

 

「私達はアビドスのどこかに埋められているという宝物を探しているのだ」

[……!?]

 

宝探し。まるで冗談のような言葉を理事はさらりと口にした。

それに対し、噛みついたのはセリカとシロコだ。

 

「……へえ、随分と子供じみた噓をつくのね。下らない」

「この兵力は私達の自治区を武力で占拠するため、違う?」

 

セリカは吐き捨てるように、シロコは糾弾するように理事にそう言う。

理事はその言葉に少しだけ考え込む……が、

 

「……数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち。数百トンもの火薬に弾薬。

たった5人しかいない学校のためにこれ程の用意をするとでも?

冗談じゃない。あくまでこれはどこかの集団に宝探しを妨害されたときのためのもの。

……まあ、今となっては君たちにこれらを使うのも悪くないと思ってはいるがね」

 

そう言うと、カイザー理事はセリカのことを舐るように見つめた。

わざとらしいわかりやすいその視線に、

先生達……そしてセリカが気が付かないわけがない。

 

「……うちの後輩ちゃんに何をするつもり?」

「"生徒に手を出すんだったらただじゃ置かないよ……!"」

 

先生たちが反射的にセリカのことを庇うが、カイザー理事は笑うだけだ。

 

「いいや、何もしないさ。ただ、カイザーとしては君のことを非常に高く評価していると覚えておいてくれたまえ、黒見セリカ?」

「……気色悪い」

 

理事の言葉にセリカはただ一言、

明らかな嫌悪の籠った声で吐き捨てるように言った。

それに対し、相手は軽く肩をすくめる。

 

「……いつまでその強情が続くか見ものだな。

まあいい。君達程度、いつでもどうとでもできるのだよ」

 

そう言いながら理事は懐からスマートフォンを取り出すと

わざとらしく顔に当てる。

 

「例えばそう、こういう風にな。私だ……ああ、そうだ、進めろ」

「……何する気?」

 

……どこか不吉な響きのあるその言葉。

それに、セリカが殺気を込めて問いかける中、

電話を終えた理事はそれを懐にしまうと先生らに向き直った。

 

 

「残念なお知らせだ。どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ」

「……は?」

 

 

理事がそう告げたと同時、通信機から電話の音が鳴り響いた。

通信先のアビドスの電話をとったアヤネがスピーカーに切り替えたのか、

電話の声が聞こえてくる。

 

[こちらカイザーローンです。現時点を以ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます]

[えっ……!]

[変動金利を6000%上昇させる形で調整。更に、今回のカイザーPMCに対する戦闘行為の損害賠償、それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は2億1560万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします]

[はい!? ちょ、ちょっとそんな急にどうして!?]

 

耳を疑うような言葉にアヤネが抗議の声を上げるが、無慈悲に電話はプツリと切れた。

……少女たちの間に、重い沈黙が下りる。

 

「くっくっくっ。これで分かったかな。

君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか」

 

その言葉に対し、ノノミと先生はショックが抜けきっていないのかただ呆然とし、

セリカ、ホシノ、シロコは理事のことをキッと睨む。

……けれど、それだけだ。

そんな彼女たちに更に追い打ちをかけるように

 

「しかしこれだけでは面白みに欠けるか……そうだな、既に10億以上まで膨れ上がった借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに5億円を預託してもらおうか。この利率でも借金返済ができるということを、証明してもらわねばな」

「"横暴だ!!いくら何でも、そんな滅茶苦茶なことができるわけが……!!"」

「先生はここに来てまだ日が浅いから知らぬだろうが、これがカイザーローンだ。

少し探ればこれ以上の実例などいくらでも出てくる」

 

先生の言葉を理事は即座に打ち払う。

彼女は尚も言い返そうとしたものの、結局何も言えず俯くばかりだった。

 

[そんなお金、用意できるはずが……

いくらセリカちゃんの助けがあってもこれじゃあ……]

「そうだろう、返せないだろうな」

「……っ!!」

 

通信からこぼれるアヤネの今にも泣きそうな声。それを理事はせせら笑った。

セリカの腕がほとんど反射的に持ち上がりかける。

けれど、彼女はそれを辛うじて理性で封じ込めた。

……ここであれを殺したとしてなんになる。

ただ状況が更に悪くなるだけだ。

 

その時、カイザー理事が先生らに告げた。

 

 

「そこで、だ……私達カイザーから君達アビドスに向けて素晴らしい提案がある」

「……提案?」

 

 

突然の言葉にホシノがそう聞き返す中、理事は大仰に頷いた。

 

「そうだ、とても簡単な提案だ。

これさえ飲んでくれれば君たちの借金を元の状態……

いや、元からなかったことにして、

その上で不要となった土地を返還することすら私は許容しよう」

「!?」

 

……先程までの態度が嘘に見えるほどの、文字通りの破格の条件だった。

少なくとも、その条件が果たされればアビドスの復興という願いが

マイナスからゼロへ大きく進歩するであろう。

 

「……そんな都合の良すぎる条件、信じられるわけがない。

一体何を企んでるの?」

「なにも企んではいないとも。

君たちが今から私が提示する条件を飲めば、今すぐにでもそうするさ」

 

シロコの言葉に理事はそう言うと、その[条件]を告げた。

……もし、このオートマタに表情を作る機能があれば、薄笑いすら浮かべていただろう。

 

 

「黒見セリカが一切の自身に関する権限を我がカイザーコーポレーションに譲り渡し、

我が社のために尽くすこと、それが条件だ」

 

 

……時が、止まった。

 

 

「件の風紀委員会との戦闘は見させてもらったよ。

実に素晴らしいものだった……

実のところ、本社の連中も、そして我々と協力関係にあるスポンサーも

君という存在を欲しがっていてね」

「……覗き見?変質者なの?あなた達」

「いやいや、あそこはあくまで我が社の土地だ。

その土地の中で起こった戦闘行為、

何かあったときのために監視しておくのは当然だろう?」

 

 

……つまり、奴らはこう言っているのだ。

セリカに奴隷……いや、物になれと。

人権も何もかも剥奪され、苦痛を強いられるだけの物になれと。

 

 

「即時治癒……いや、再生効果のある薬品。

幻とすら言われた水銀弾の再現に、それと同等の威力を発揮する即席の血の弾丸。

通信越しの相手にすら多大なダメージを与える音響兵器。

そして極めつけは……これだ」

 

そう言うと理事は懐から何かを取り出した。

……それは、燦々と輝く一枚の小さな金貨だった。

 

「少し前からブラックマーケットの金と銀の流通量が異常な増加傾向にあり、

調べてみればこれに行きついたというわけだ……そうだろう?銀鴉」

「……」

 

セリカは何も言わない。

けれど、そのことが何よりも真実を物語っていた。

 

「つまりだ、黒見セリカ。

君は私たちにとって金のなる木であり、

スポンサー風に言わせれば探求すべき未知だ。そのことがよくわかってくれたと思う」

 

理事はそう言うと金貨をしまい、懐から一枚の紙を取り出した。

それは一枚の契約書類だった。

 

「さあ、君はここにただサインするだけでいい。

そうするだけで、君の大切なものは残さず救われるんだ……そうするだけでな」

 

 

ジャコン

 

 

瞬間、一帯に金属のこすれる音が響き渡った。

音源はホシノ。

そのショットガンの銃口が、確かに理事に向けられていた。

 

「……お前ら、最初からセリカちゃんのことが狙いで……!」

「だとしたらどうする?私が話しかけているのはあくまでも彼女だ。君達には……」

 

 

ダァン!!!

 

 

瞬間、銃声が響き渡った。

 

 

けれど、その音源は今度はホシノではなかった。

ホシノのすぐ後ろ、みんなに守られるように囲われていたセリカの右腕が跳ね上がり、

変形したレイテルパラッシュの銃口から硝煙が立ち上っていた。

理事はゆっくりと手の中にあった契約書を見る。

べっとりとした何者かの血が滲んだそれには大きな穴が開いており、

少なくとももう使い物にならないだろう。

 

「……それが返答か?」

「逆に聞くけど、どうして私がそんな条件を飲むなんて思ったの?」

「……そうか」

 

既にセリカに殺気はない。

ただ、心底くだらなそうにそう言った。

理事はその言葉に少しだけ考え込むと、ゴミとなった契約書をパッと手放す。

そんな相手に、セリカは話しかけた。

 

「あと、あなたのスポンサー……ゲマトリアの黒服とかいうやつに伝言」

「っ!?」

 

セリカの言った言葉にホシノが驚愕の表情を浮かべ振り向くも、

彼女は揺らぐことなく理事のことを見る。

 

「警句は忘れた?以上よ」

「……伝えておこう」

 

どこか、あざ笑うような響きすらあるセリカの言葉に

理事は少しだけ窮したものの、短くそう答えると近くにいた部下に軽く耳打ちをして

改めて彼女らを見る。

 

「では、保証金と来月以降の返済についてはよろしく頼むよ。お客様」

 

理事がそう言うと同時、展開していたカイザーPMCの包囲が解かれる。

アビドスの生徒達と先生、そしてカイザー理事は

しばらくの間睨み合っていたものの、やがてアビドス側がゆっくりと踵を返す。

 

 

「ふふっ、ふははははは……!!」

 

 

……背後では、カイザー理事の勝ち誇ったような笑いが響いていた。

 

 

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?


……はい。セリカちゃんは敵からも味方からもモテモテです。
今回は少々過激なファンコールが届いたみたいですね()
まあ、陰のある女の子はかわいいからねしょうがないね。

冗談はさておき、セリカのヤーナム硬貨売り払いによる返済能力が高すぎるんでそれでも追いつかないほどの無理難題を連中は吹っ掛けてきました。
アビドスの侵入を直前まで知らなかった原作と違い、
今回はしっかりと罠にかけて嵌めてきましたね。
そこまでして狙うのはセリカの身体です。やっぱ研究者ってのはろくな奴いねえや。


次回はカイザー襲撃……ということはまあ、例のイベントがありますはい。
セリカちゃんは今回、
自分にしか被害が来ないようなことを相手方が言ったのでそこまで反応しませんでした。
つまり……そういうことです。


話は変わりますが、
私の作品からBloodborneを始めてくれた新たな狩人様がいるとのことで……


歓迎しよう。盛大にな



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