極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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高評価、コメント、ここすき、いいね、誤字報告ありがとうございます!

いよいよセリカちゃんの過去編も終幕が近づいてまいりましたね……
……正直、小説をここまで書き続けられたの初めてなので感慨深い。









side past 黒見セリカ、又は狩人狩り(1)

 

 

赤い、赤い、月の夜。

 

 

レンガ造りの街並みを、血の色に照らし出す。

その中、建物に囲われ薄暗い墓地の中で1人の狩人がしゃがみ込んでいた。

 

 

「……」

 

 

虚ろな赤く蕩けた瞳の視線の先にあるのは、

薄く盛り上がったいくつかの土の山。

その上に、どこからか拾ってきた木を十字に組み立てて置いてある。

周囲にある墓石のよこにひっそりと存在するそれらの墓を、

セリカは静かに見つめていた。

 

 

「……」

 

 

片方の髪を止めてある血に汚れた白いリボンが、

神父を思わせる少し大きめの狩装束が、

背中に下げてある真っ赤な宝石のねじ込まれたレイテルパラッシュが揺れる。

 

 

「……」

 

 

過去にもらったままの化粧入れが、

棄てられずにいる空の鎮静剤が、

切り裂かれた赤い布の破片が、

自分の懐で鳴っているような気がする……

 

 

「……また、来るから」

 

 

セリカは彼らにそう呼びかけると、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

________________________

 

 

カツン

 

 

小さな教会の中に硬い靴音が響く。

 

 

「……ただいま」

 

 

墓地から帰ってきたセリカは、何気なくその中に向けて声をかける。

 

 

ただいま……ただ…ま………だ…ま……………ま………………

 

 

……けれど、その声は空しく反響するばかりで、

今はもう誰一人として彼女の声に答える者はいない。

ただ、人がいたという血の痕跡のみが残るばかりだ。

 

 

「……」

 

 

セリカはただ立ち尽くす。

その静寂の余韻にしばらく浸った後、セリカは再び歩き出した。

 

 

カツン、カツン、カツン、カツン、

 

 

静寂のみが立ち込める教会の中を、セリカはただ一人歩いてゆく。

もう守るべきものを失ったこの場所に、もう何の意味もないのだから……

 

 

……青ざめた月の夜、血のような赤がヤーナムを染め上げる夜。

 

 

聖堂街の中をただ一人、セリカは彷徨うように歩き続ける。

往く当ては既になく、目的も既になく、ただ歩き続ける。

 

 

「ゴアアアァ!!」

 

 

その時、ちょうど曲がり角から狼のような見た目の大柄な獣が

不意打ち気味に飛び出してきた。

その凶刃が、歪に並んだ牙が、少女をかみ砕かんと迫る……が

次の瞬間、セリカの左腕が跳ね上がるように動いた。

 

 

マズルフラッシュ

 

 

頭部に、腕に、肩口に、的確に着弾した水銀弾が血の花を咲かせる。

それにより獣の体勢が大きく崩れた。

セリカはいつも通りそれの内臓を直接貫くべく右手を腰だめ……

したところで動作を止めた。

 

「……」

「グ、グウゥ……!」

 

そうしている間に獣が起き上がってきた。

頭部が打ち砕かれ、前面から血をダラダラと流して尚、

セリカを見る爛々とした瞳は変わらず存在する。

 

「……狩りに浸る、ね」

 

その時、ポツリとセリカが呟いた。

興味が無さげな、それでいて何かを追い求めるような、そんな響きだった

 

 

「ガアアァアアッ!!」

 

 

獣が再び、咆哮をあげてセリカに向けて突っ込んできた。

……迎撃しようと思えば十分にできる動き。

けれど、今度はセリカは斜め前方向へ相手の横をすり抜けるようにして

回避することを選択した。

目標を見失い、獣の攻撃は大きく空を切る。

その攻撃によりできた後隙に、セリカはレイテルパラッシュを突き込んだ。

 

 

鮮血が舞う

 

 

「ギャアッ!?」

 

 

獣は悲鳴を上げて飛び退ろうとするも、セリカはそれを許さない。

即座に変形させたレイテルパラッシュの銃口で敵の足を破壊。

激痛にのけぞった獣に再び変形させたレイテルパラッシュの切っ先を、

頭部目がけて勢いよく突き入れた。

 

 

ぐしゃっ

 

 

何かが潰れ、貫かれるような感触と共に血と脳漿が飛び散り、

獣の後頭部から銀色のそれが生える。

 

「……」

 

あっけなく絶命したそれをセリカはしばらく見つめていたが、

やがてため息をつくとレイテルパラッシュを大きく振るい、

獣の死体を叩きつけるようにして打ち捨てた。

 

「……わからない」

 

セリカはぽつりとつぶやくと、また聖堂街を彷徨い始めた。

 

 

 

 

……あの時、獣と化して、介錯されて、そして生き長らえて。

しばらくの間感情のままに泣き続けたものの、結局何も変わることはなかった。

 

デュラさん達にはあの後すぐに会った。というより、会わなければいけなかった。

回収されたレイテルパラッシュとシンシアリティを

返してもらわなければいけなかったから。

先輩が付いてきてくれたため、ことがこじれることこそなかった。

けれど、それ以上にとても、とても心配してくれた。

 

……殺されそうだったのに、あれだけ追い詰められたのに、それでも尚……

 

……その善意が温かくて、苦しくて、

結局、謝ることすらできず逃げるように夢へと帰っていた。

 

夢へ帰って、人形さんと軽い会話をして、先輩と一緒にオドン教会へ向かう。

目に入ってくるのは、私が作り出した罪の証。

 

何度も嘔吐きながら、

けれどそれを溢さないようにこらえながら、

一人一人、先輩と一緒にみんなを大切に墓地へ埋葬する。

 

……それが終わって、夢に帰った後は、

狩りへの準備を惰性に近いそれのままする。

そうして墓石に触れようとしたところで……手が止まった。

 

 

……何故、自分は狩りに出ようとしているのだろう。

もう守るべき人も、何もないというのに。

ただここに存在するのは、人の皮をかぶった獣だというのに。

 

 

そんな自分に先輩はこう言った。

 

何か悩むより、一層狩りに浸り一旦全て忘れてしまうのもいい。

忘れることでまた何か得ることがあるかも知れない、と……

 

……だからこうして、狩りに浸る。

けれど、血を浴びれば奥底に隠された獣性が満たされこそするものの、

ぽかりと空いた空っぽが埋まることはない。

どれだけどれだけ血を浴びても、その空っぽに満たされることはない。

 

どれだけどれだけどれだけどれだけどれだけどれだけ……

 

 

「……?」

 

 

道行く先でただ無心で獣を、

時折現れる正気を失った聖職者を狩り殺していたセリカだったが、

ふと気が付くと自分が大きな階段を歩いていることに気が付いた。

 

「……ここは?」

 

セリカは今の今まで先輩ほど狩りに積極的に出ることはなく、

出る時は決まって先輩から依頼された辺境にばかり赴いていた。

その為、聖堂街をこれまで全くと言っていいほど探索したことが無かったのだ。

 

遠く、上へ上へと続く石造りの大階段は、一際豪華な建物へと続いている。

 

……昔、何かの写真で似たようなものを見た。

あれは確か……トリニティの大聖堂だったか。

 

 

「……」

 

 

しばらく階段の続く先を見つめたのち、セリカはゆっくりと歩き出す。

 

……どうせ彷徨っているだけなのだ。

ならば、少しだけ自分の興味が行く先に行ってみてもいいだろう。

 

 

諦観にも近い思いを胸に、セリカは大聖堂へと続く道を上っていった。

 

 

_____________________________

 

 

 

大階段は長い、といっても狩人となったセリカにとって

苦になるような長さでもなかった。

それに、階段の周辺にそれらしい踊り場がいくつもあるにもかかわらず、

不思議なほど敵の姿は見られなかったため、

さほどしないうちに終点と思しき大きな扉が見えてきた。

 

 

「……半開きになってる」

 

 

……セリカがぽつりとつぶやく。

その言葉通り、大聖堂の内部へと続く扉は、

丁度人ひとりが通れるだけの最低限の広さ分だけ中途半端に空いていた。

十中八九、先輩が探索したのだろう。あの人はそう言う人だ。

ぼんやりとそう考えながら一先ずその中に入ってみようかと思い、

セリカは視線を少しだけ下に向けた。

 

 

「……?」

 

 

……誰かがいる。

黒い……真っ黒な服を着た誰か。

それが、門のすぐ脇で寝そべっている。

 

……見覚えがある。

 

だからだろう。セリカは一歩一歩、その黒い誰かへと近づいてゆく。

丁度その輪郭がはっきりとしてききた時、

相手の方もセリカの足音に気が付いたのかゆっくりと顔を上げた。

それを見たセリカの動きが固まった。

 

 

「……え」

「……たく、誰だい。年寄りが寝ている時、に……」

 

 

……白いペストマスクに、年老いた声。

その人物に、セリカは確かに覚えがあった。……いや、忘れられるはずもない。

黒い翼を思わせるような狩装束は夥しい量の血に濡れて

力なく地面に張り付き、確かな力強さのあったはずの声は

放っておけば今にも消えてしまいそうなほど弱々しい。

けれど、その人は確かに、在りし日にセリカに稽古をつけてくれて、

リリーとも遊んでくれていた人で……

 

相手も彼女が誰か気が付いたらしい。その声が止まる。

 

しばらくの間、両者の間に静寂が下りる。

最初に口を開いたのはセリカの方だった。

 

 

「……アイ「なんだい……セリカ、あんたも血に呑まれたのかい?」」

 

 

けれど、セリカの声はその人、アイリーンの発した声によってかき消された。

……その声は、とても、とても寂しそうだった。

アイリーンは言葉を続ける。

 

「……全く、本当に今夜はとんでもないね……どこもかしこも狩人が狂ってる。

ババア1人には荷が重いってもんさね……」

 

独り言のそれに近い悪態を小さくつくと、

アイリーンは腕に力を籠める。

 

「……ぁ」

 

……アイリーンはよろめきながらも立ち上がった。

無理に動いたためだろうか、身体から先程にも増して血が滴る。

本来獣狩りの銃器が握られているべき左手は、未だ傷口を押さえたまま動かない。

けれど、それでも尚彼女は連結した慈悲の刃を目の前の少女に向けて構える。

 

 

「……安心しな。あんたの悪夢はここで終わる」

「……」

 

 

アイリーンがそうセリカに呼びかけた。とても、とても優しい声だった。

それに対し、セリカはただ立ち尽くすのみ。

……また2人の間に静寂が満ちる。

 

 

瞬間、

 

 

キィンッ!!!

 

 

青白い閃光と共に凄まじい速度でアイリーンがセリカの懐に飛び込む。

大怪我をしているとは到底思えないような、

慈悲の刃特有の高速を載せた斬撃。

セリカに襲い掛かる。

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……かひゅっ」

 

 

その一撃は、なんの障害もなくセリカの鳩尾に突き刺さった。

口から奇妙な吐息と共にセリカの口から血が零れる。

けれど、それっきりだ。

次に来るべき連撃が、いつまで経っても訪れない。

……セリカは、自分の身体に慈悲の刃を突き立てたまま動かない

アイリーンにそっと声をかける。

 

「……威力がない。こんなのじゃ、私を殺せないよ?

……無理はよくないって言ったのは、アイリーンさん、でしょ?」

「…………」

 

セリカから発せられた明確な言葉。

アイリーンは未だ動かないままだ。そして……

 

「……セリカ、あんた、まだ自分がわかるのかい?」

 

仮面の奥から短く紡がれた言葉に、セリカは微笑む。

 

「……何も」

「……そうかい」

 

アイリーンは短く答えると、やがて慈悲の刃から手を放し、

その場に崩れ込むように座り込んだ。

それと同時、先端の少ししか刺さっていなかった慈悲の刃が

からりと音を立てて地面に転がる

 

「……その様子だと、一度は正気を失ったんだろう……?

あたしとしては、あんたが辛うじて人に戻ってこれたことを喜ぶべきか……

それとも……素直でかわいげのあるあんたと会うことができなくて悲しむべきなのか……

……どうすればいいんだろうさね」

「……」

 

アイリーンのつぶやきにも似た問いかけには答えず、

セリカは輸血液を投与して刺し傷を癒す。

……その傷は輸血液一個で十分事足りた。

それを確認すると、セリカはちらりとアイリーンに視線を向ける。

 

「その傷どうしたの?」

「……あたしとしたことが、しくじっちまってね……しばらく、休んでるのさ」

 

一瞬、セリカに何と答えるべきか迷った様子だったが、

結局アイリーンはそのことを言うことにしたようだ。

そこまで言ったところで一度言葉を区切ると、

老いた狩人は近くの階段に座り込むようにして目線を合わせたセリカの方を見る。

 

「なあに、血は入れたんだ……ババアだって、何とかなろうさ」

「……輸血液、本当に使った?」

 

安心させるような声色のアイリーンの言葉に、セリカはそう問いかける。

……彼女の言葉通り、アイリーンの傷は輸血液で回復したとは到底思えないほど深い。

先程から見る限りろくに血も止まっていないように見える。

その言葉に、アイリーンは短く、力ない笑いを溢すと、懐に手をいれた。

……そこから出てきたのは、大量の空の輸血液の小瓶。

 

「この通り、手持ちのは全部使っちまってね……後は治るのを待つだけさね」

「……」

 

セリカは、アイリーンの仮面の奥にあるであろう顔をじっと見つめる。

その手が懐へと伸びる……が、

それは自分の血に濡れたアイリーンの手にやんわりと押さえられる。

 

「……わざわざ恵んでもらわなくったって、あたしにはもう十分(・・)さね。

自分のことは、自分が一番よくわかってる」

「……っ」

 

もう、十分。

 

……その言葉の意味がわからぬセリカではない。

赤くとろけた瞳が、小さな肩が不安に揺れる。

そんな彼女に、アイリーンがくつくつと笑った。

 

「クク、いやあ、年を取ると妙な薬も思った以上に効いちまってね……困ったもんだよ。

何事も、若いって言うものはいいものさね……そうは思わないかい?」

「……そんな、こと……」

 

アイリーンの言葉にしばらく顔を伏せて、何かこらえていた様子のセリカ。

けれど、やがてその震えは止まる。

再び顔を上げたセリカには、仄暗い感情が宿っていた。

 

「……誰が、やったの?」

「やめときな」

 

今度は、迷いの一切ない即答だった。

息を吞むセリカに、アイリーンは言葉を発する間も与えず言葉を続ける。

 

「あいつはあたしの獲物さね……手を出すんじゃないよ」

「……無抵抗な小娘一人、殺せないぐらい弱ってるのに?」

「何、言ってるんだい。この傷が治ってからに決まってるだろう……?」

 

アイリーンはまた笑った。

そんな彼女のことをセリカはまたじっと見つめていたが、

やがてゆっくりと立ち上がると、

大聖堂の入り口へと歩いてゆく。

 

「……行くって言うなら、止めはしないさね」

 

……そんな声が聞こえた気がした。

けれど、それにセリカが振り返ることはなかった。

 

 

_____________________

 

 

聖堂の門へと入ると、更に上へと階段が続いていた。

壁にはアメンドーズの小さな像が置かれ、それらがそれぞれランタンを持っている。

聖堂というには余りにも不気味なそれの中、セリカはゆっくりと階段を登ってゆく。

それが終わると、ただ広いだけの空間がそこには広がっていた。

豪華な装飾、壮大なステンドグラス。

けれどその空間には長椅子の1つもなく、ただ広いだけ。

奥には豪華な祭壇が置かれており、医療教会の過去の栄華を物語っているようだった。

 

……その手前に、1人の人影がぽつり。

 

「……!」

 

聖堂の中では足音がよく響く。

相手もセリカに気がついたのか、こちらに視線を傾ける。

薄暗い聖堂の中でも容易に分かる程の流麗な装飾の施された銀色の軽装鎧。

胴体のみ、アイリーンのものと同じ鴉を思わせる狩装束を着けている。

そして、それは真新しい血に濡れていて……

 

「……あなた、アイリーン、って言う狩人、知らない?」

 

その距離が水銀弾が届くほどに近づいた時、

ふと思いついたようにセリカが目の前の狩人にそう声をかけた。

それに対し、その狩人は何も答えず、ただ装飾の施された刀を抜き放つ。

 

「……そう、なら十分」

 

セリカはその返答に答えると、レイテルパラッシュを抜き放つ。

その小さな身体から、今の今まで押し殺していた並々ならぬ憎悪を発せられる。

 

「お前が……お前がアイリーンさんを……!」

 

瞬間、セリカの身体が凄まじい速度で正面へとステップ。

視認困難な速度で敵の身体を穿とうとレイテルパラッシュが突き出される。

けれど、それを敵の狩人はあっさりと身を躱すと

そのまま素早く刀を振るう。

 

「っ!!」

 

だが、セリカもそれを懐に潜り込むように回避するとレイテルパラッシュを短く突き出す。

 

 

鮮血

 

 

相手の胴体を掠めたレイテルパラッシュが僅かにその皮膚を裂く。けれど、それはあくまで掠めただけだった。

 

「っ、浅い」

 

セリカは短く舌打ちすると仕切り直しを兼ねて一度後方に飛び退る……が、その動きを敵の狩人は恐ろしい反応速度で捉えた。相手は懐から何かを取り出したかと思うとそれをセリカに向けて投擲した。

 

「!?」

 

それは小さなガラス容器だった。

それはセリカが晒したステップの僅かな後隙を突き、命中すると粉々に砕け、中の薬品を振りかける。

 

「何、これ……」

 

……ほんの少ししかかかっていないはずなのに、

妙に気色が悪い。

なんというか、悍ましい物を見たから気持ち悪いわけでもなく、身体の芯から来る妙な気色悪さだ。

一瞬、ほんの一瞬だけセリカが固まった。

その間に狩人はまた懐から何かを取り出す。

 

それは……一本の古びた骨だった。

 

狩人はそれを軽く振ると懐にしまい、改めてセリカの方へ向く。

それに対し、セリカが取った行動は至って単純だった。

レイテルパラッシュを変形させ、銃口を露出させると同時、シンシアリティの照準も向ける。

 

「外さない」

 

銃声が連続する。

大量の弾丸がばら撒かれるように放たれたはずなのに、それは寸分の狂いもなく敵に向けて突き進む。

そして、先頭の1発が敵に着弾し……

 

 

タンッ

 

 

「……え?」

 

瞬間、短い音と共にセリカの視界から狩人の姿が文字通り消失した。速すぎて視界に捉えきれなかったわけではない。

文字通り消えたのだ。

セリカの蕩けた瞳が驚愕に見開かける……瞬間、

 

 

ズシャッ!!

 

 

鮮血が舞った。

左半身の感覚が消える。

セリカが反射的にそちらに視線を向ければ、

彼女の左側に文字通り瞬間移動した狩人が、刀を大きく振り抜いていた。

 

「あがっ……!」

 

セリカは崩れ落ちそうになる膝を何とか黙らせると連撃を狙う狩人の脇をすり抜けるようにステップ。

辛うじてそれを回避すると、カウンター気味にレイテルパラッシュを突き込む。

今度こそそれは確実に敵の胴体に入った。

よろめく狩人に素早い連撃を浴びせる。その返り血が身体に降りかかる。

……けれど、何故かいつものようにそれを浴びても心地よい感触が降りかからない。

傷は未だ激痛を発するばかりで一向に癒える様子はない。

 

セリカの心に僅かな焦りが湧き立つ。

だからだろう。セリカは攻撃をし過ぎた。

 

「あっ」

 

がくり、と。体力の切れた身体がうごかなくなる。

瞬間、再び狩人の身体が目の前から掻き消えるそして……

 

 

タン

 

 

その背後で何かが降り立つ音がした。

 

 

 

 

次の瞬間、背後から大きく力を込めた斬撃がセリカに降りかかる。

肩口から身体が大きく引き裂かれ、辺り一帯に鮮血が撒き散らされる。

その時点でセリカは既に最早回復不能な致命傷を負っていた。

だと言うのに、その狩人は更なる血の喜びを求める。

刀が右腕に溶けこんだ。

 

貫通

 

「ごふっ……!」

 

背中の切り傷の隙間から体内へと腕がねじ込まれる。

内臓がぐちゃぐちゃに掻き乱される。

口からも夥しい量の血が吐き出される。

視界が、白に溶けてゆく。

 

……気がつけば、セリカの身体は地面に投げ出されていた。

薄れゆく視界の中では、自分の鮮血を全身に浴びた狩人がこちらを見ている。

 

 

「……  (次は、必ず)

 

 

セリカは、狩人に向けて何か言った。

けれど、その声は結局発されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……目が覚める。 

 

 

辺りを見回す。

……てっきりオドン教会からだとばかり思っていたが、

どういうわけか大聖堂内の階段の前に自分はいるらしい。

 

 

武器、問題なし。

 

 

輸血液も水銀弾も補充されてる。

 

 

……警戒すべきはあの薬品。恐らくは回復阻害効果がある。

 

 

そして、どうかしているとしか思えない攻撃力。

恐らく当たりどころが悪ければ狩人の肉体も、ヘイローの加護すら貫通して即死する。

 

 

……ならば、今の今までと同じ様に相手の攻撃を全て読み切る。何度も何度も何度も死んでも、どうせ自分は生き返るのだから。

 

 

……今の今までの狩りと違うのは、これが人から言付けられたものか、それとも自分が願うままに行っているか、それだけだ。

 

 

「……夜はまだ長い。

これで終わりじゃない。そうでしょ?」

 

 

ランタンの薄暗い光が照らす中、セリカはただ1人、

獰猛に、狂的に笑った。

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品は如何だったでしょうか?


ということでセリカちゃん過去編です。
番外編も挟んでたから前回の過去編からかなり間が空いたように感じてしまう不思議。
それはさておき、獣になった後のセリカちゃんの話です。
前回のあれでまた自分を見失ってしまったので自分探しの旅をしている最中です。その過程でカインの流血鴉(みんなのトラウマ)にケンカ売ってるみたいですが……結果的にいい自分を見つけられるといいですね()



因みにこの間先輩が何をしているのかと言うと悪夢の方に行ってます。
ようやく……ようやく番外編と時系列がリンクした……
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