極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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明けましておめでとうございます。
……新年一発目からこのフルスロットル具合である。


side present 狩人、又は獣狩りの夜(3)

 

 

暗い暗い、まるで夜のように立ち込める暗雲の中、アビドス市街で砲火の音が鳴り響く……

 

 

「"ムツキ、ノノミ!シロコとハルカのカバーを!!

アル、射線が開けた瞬間に迫撃砲に榴弾!!"」

「了解ですよ〜!」

「任せなさい!!」

 

先生が素早く指示を出すと同時、ノノミとシロコ……それに便利屋68を加えた部隊は、弾かれたように動き出す。

 

……あの時、カイザー理事の言葉が終わるが早いか後方から爆発。その爆発はカイザーPMCを大きく巻き込み、多大な損害を与えた。

それと同時に現れた便利屋68の姿に、思わず泣きそうになったのがつい先程のこと。

けれど、依然として状況は厳しかった。

 

「第2歩兵部隊壊滅、第7砲撃隊半壊!敵部隊が突っ込んできます」

「すぐに下がらせて無傷な部隊を前面に出せ。

……ちっ、黒服の助言で当初予定していた動員部隊を50%増しにしていたのが本当に役立つとはな」

 

後方に位置する装甲車の上、

そこに立つカイザー理事は部下に指示を出すと短く舌打ちをした。

……余りスポンサーが役立つといざ黒見セリカを手に入れた時に余計な口出しをされかねない。

それに不服を覚え、戦力を出し惜しみするカイザー理事だったが、そうするだけの余裕が理事にはあり、事実そうしていたとしてもアビドスと便利屋の部隊をカイザーは押していた。

 

「……それより、アビドスの校舎内に突入させた特殊部隊からの報告はどうなっている!黒見セリカと接敵したら報告しろと命令しているにも関わらず全く報告が来ないではないかっ!!」

「そ、それが依然通信不可能な状況が続いていて……」

「クソッ、タダでさえスポンサーに恩を売られているんだ。

連中の寄越した秘密兵器なぞ使った暁には明確にこちらが交渉で不利な位置に……!」

 

理事がそう、苛立ち紛れに装甲車に拳を叩きつける……瞬間、

 

 

轟音

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

その身体を大口径の弾丸が掠め飛んだ。

慌ててそちらの方に視線を向け、自分のカメラセンサーの倍率を拡大すれば赤い髪の少女が左手で掲げ持ったスナイパーライフルから硝煙が上がっているのが見える。

 

「クソッ、便利屋……飼い犬の分際でっ!!」

 

その姿に理事は益々苛立ちを募らせる。

 

「くっ、外した……!」

「社長、早く隠れて!」

「わかってるわ!カヨコおおおっ!?」

 

アルがそう言って腰を落とすようにして瓦礫の影に隠れた次の瞬間、大量の弾幕が先程までアルがいた場所を駆け抜けた。

その光景に彼女は冷や汗をかく。

 

「は、は、あ、あぶないっ……」

「あそこで指揮官を潰せれば良かったんだけど、やっぱりそう簡単には……」

「"アル、カヨコ!!退避してっ!!"」

 

その時、先生から声が掛かった。

それに押されるようにして、ほとんど反射的にアル達は後方に飛んだ。

 

瞬間、

 

 

ドゴオオオン!!

 

 

つい先程まで彼女らが隠れていた遮蔽物を、飛んできたロケット弾が粉微塵に吹き飛ばした。

先生の指示が少しでも遅れていたら、今頃爆発に巻き込まれていただろう。

 

「っ!?よくも、よくもアル様を……!!」

「ハルカ、堪えて。今突っ込んだら確実にやられる」

 

最前線で戦闘している最中、アルが攻撃されたのを視認したハルカが思わず突っ込んで行きそうになったのをシロコが冷静に制する。

……けれど、だからと言って事態が好転するわけでもない。

 

「"くうっ……ノノミ!シロコ達を攻撃している敵部隊に掃射!!そのまきゃあっ!?"」

 

状況を何とか好転させるべく先生が指示を出そうとするも、その声は至近距離に着弾した流れ弾の砲弾により掻き消される。

 

「先生っ!?」

 

誰のものか、その光景に声が上がる……が、

爆煙が晴れると、不可知なバリアのようなもので覆われた先生が、なんてことない、とでもいうかのように腕を掲げた。

 

 

「"わ、私は大丈夫!!みんなはカイザーをっ!!"」

 

 

オーパーツ、シッテムの箱のバリア。

それがなければ、よくて瀕死、十中八九即死していただろう。

……最早、カイザーは何としてでもアビドスを、そしてセリカを手に入れるつもりらしい。

先生は唇を噛みしめる。

今のままでは、持ちこたえることしかできない。

そして、そのままでは……

 

……最悪が、最悪が頭をよぎる。

 

アヤネにあんなことを言っておきながら、自分は所詮この程度か?

 

「"……カヨコ、今から3秒後に敵の右翼に威圧、その後シロコがミサイル攻撃、そこから一気に……"」

 

それでも尚、先生が指示を出そうとしたその時だった。

 

 

[先生っ!!]

 

 

飛び込んでくる通信……アヤネだ。

その声は、余りにも、悲痛なほど切迫していて……

 

「"アヤネ!?一体何が……"」

[セリカちゃんが……セリカちゃんが……!]

 

そこまで言ったところで、アヤネの言葉が一度止まる。

 

[違っ、セリカちゃんを、止めてください……!]

「"……え"」

 

瞬間、

 

 

 

 

 

咆哮が、響き渡った。

 

 

 

________________________

 

 

「……」

 

 

カイザーの部隊の間を、

堂々と、しかし、すり抜けるようにセリカは歩く。

確かに幾人かの目の前を通っている筈なのに、セリカの存在そのものが薄れているかのように誰にも気付かれることはない。

 

ふと視線を向ければ、先生達が必死に戦っている光景が蕩けたセリカの瞳に映る。

……そこに混じる、便利屋達の姿も……

 

「……」

 

大丈夫、まだ、まだ見分けはついてる。

 

セリカは再び正面に視線を向ける。

自分の周りで作戦行動を続けるカイザーの軍勢……

けれど、セリカの瞳には、何処までも何処までも、先生らに群がる獣しか映っていなかった。

カイザーのオートマタと、雇われの生徒。

彼らを獣と幻視していることをセリカはしっかりと理解している。

……けれど、大切を奪った獣と、カイザーと。そこに何の違いがあろうか?

……セリカにとっては、何の違いもありはしなかった。

 

「……ごめんね、アヤネちゃん」

 

セリカはぽつりと呟く。

青の秘薬の隠密は到底完璧とは言えない。

しかし、それでもセリカはあの時伝えることのできなかった謝罪をアヤネに送る。

 

……酷い光景を、見せてしまった。

 

アビドスの校内は今、破壊されたオートマタと血に沈んだ雇われの少女で溢れている。

全員、セリカがこの手で狩ったから。

……一応、辛うじて残った理性で瀕死程度に留めているつもりだが、果たして本当に生きているかは自分でも分からない。

けれど、このキヴォトスで殺人を犯すことになってしまったとしても、もう止まれない。止まるつもりもない。

所詮、自分はみんなといることはできない。

何処までも血塗れの、狩人なのだから……

 

……さぁ

 

セリカは嗤う。

どうしようもなく、嗤う。

その手には忌まわしき黒い獣の手。

そこに己の血を、触媒を込める。

己の中に眠る獣性が呼び起こされ、今にも外にこぼれそうになってゆく。

セリカはその獣性に身を任せ、大きく息を吸い込んだ。

それとほぼ同時、青い秘薬の効力が途切れる。

目の前に突然現れた黒尽くめの少女。

それに周囲にいた幾人かが驚愕するも、全ては既に遅かった。

 

 

「ゴアァアアァアアアアアアッッ!!!!」

 

 

辺り一帯をつんざくような悲鳴が駆け巡る。

その音圧で、周囲にいたPMC兵が大きく吹き飛ばされた。

 

「ああっ!?」

「があっ!?マイクがイカれぎゃあっ!?」

 

その内のセリカの近くに倒れ伏したオートマタ、その機関部にレイテルパラッシュが突き立てられる。

……未強化のものと違い、獣を確実に殺すべく血石を打ち込まれ、窪みに血晶石の捻り込まれたそれ。更に、使用者自身に手加減の意思が一切存在しないその一撃は容易く装甲を貫通し、内部機関に致命傷を与える。

レイテルパラッシュを素早く引き抜けば、血飛沫の代わりにスパークがまるでススキ花火のように迸る。

配線がショートしてガクガクと震えるそれを一瞥すらすることなく、セリカは他の倒れている兵へと襲いかかった。

 

 

「ひっ!?待」

 

 

一匹、先程と同じ様にすれば火花と共に動かなくなる。

それと同時、背後から銃撃音。

何発か被弾したが大したダメージではない。

ステップを織り交ぜて回避すれば、他の獣にそれは被弾。

敵の集団の混乱が広がる。

 

「あ、新手、新手ですっ!!要警戒対象が第5小隊の中心にっ!?」

「何っ、黒見セリカだと!?何故奴の接近を許したっ!!」

 

その隙に背を向けていた獣に向けて一撃。

引き裂かれたそこからは、今度は鮮血が溢れ出した。

痛みに倒れたそれを地面に縫い付けるように中心……から、少しだけズレた場所を一突き。

吹き出す血潮に浸りつつ、体力回復の合間を使ってシンシアリティの薬室に灰を流し込む。

 

「……は、え?」

「何をぼさっとしてるんだっ!?とっとと味方を回収して後退しろ!!あいつ、俺たちを殺す気だっ……!」

 

特に声がする方向へ照準。

目標は動かなくなった獣を引きずって動きが鈍くなってる獣。

 

 

マズルフラッシュ

 

 

「がっ!?」

 

 

骨髄の灰が混ざり合い、爆発的に威力を高めた水銀弾はオートマタの装甲を粉砕、あっという間に機能停止に追いやる。

それを視認したセリカはもう一度骨髄の灰をシンシアリティに込めると顔を上げる。

……いつの間にか、自分がすぐ手に届く位置の獣は居なくなっていた。

 

 

「そこまでだ、黒見セリカ……!」

「……?」

 

 

……声が、聞こえる。

セリカがそちらの方を見れば、一際醜悪な見てくれの獣がこちらを睨みつけていた。

けれど、その視線には何処か恐怖も混じっているようだった。

 

「……散々我が社の社員を痛めつけてくれたようだが、それもここまでだ。

これ以上暴れるようなら、ゲマトリアに連絡して小鳥遊ホシノにより強度の強い実験を行ってもらうことになる」

「……っ」

 

その言葉を聞いたセリカは、一度だけ武器を下した。

けれど、その身からは依然、凄まじい重圧が放たれている。

対する獣はそんなセリカの殺気には気が付かず、純粋に彼女の攻撃を止められたことに少し気を良くしたのか、強い口調で彼女に言葉を放つ。

 

「そうだ……そのまま君が武装を解除してここまで来れば、全てが丸く収まる。このまま親しい人が平穏な学園生活を望むことは、君のほんも

 

 

ダァン!!!

 

 

だが、その言葉は次の瞬間装甲を掠め飛んだレイテルパラッシュの水銀弾によりかき消された。獣は暫くの間、呆然と弾丸が掠めた方向を向いてへたり込んでいたが、

やがてがばりと跳ね起きるとセリカに怒りの矛先を向ける。

 

「貴様……!!自分が何をしているのかわかっているのか!?」

「……あなた達が見たがってた秘密。

その真髄が漸く見れたのにうれしくないの?」

 

あぁ、これではっきりした。

 

これは、確かに獣だ。

 

私から大切を奪おうとする、獣だ。

 

カイザー理事の言葉にセリカは笑う。

その白い肌に、黒装束に付着した返り血が、曇天の中で降る微かな光に照らされ、悍ましい煌めきを帯びる。

 

「ふざけているのかっ!?貴様のやっていることは明確な殺人行為……!これが公になれば……」

「それが何?」

 

セリカは笑う。

……そこに明確に宿る狂気に、理事は思わずたじろいだ。

 

「所詮、人の言葉も解さぬ獣共。それを狩ったところで何?」

「……この狂人がっ……!」

 

目の前の狩人に向けて理事は辛うじてそう言葉を発する。

それに対し、セリカは何も言わずただ一礼した。

……狩人がただ人であろうとする故に行う、狩人の礼。

それは今起こり、そして続いてゆく惨劇に向けての合図でもあった。

 

「撃てっ!!アビドスに対処している部隊以外全て奴に回せ!!」

 

瞬間、セリカの身体が再びカイザーの部隊に向けて急接近する。

弾幕が彼女に襲いかかり、避けきれなかった一部のそれが身体に打ち付けるが、セリカは止まらない。

動きが遅く、接近するセリカから逃げ損ねた数機のシールド持った大柄の獣に向けて、セリカはレイテルパラッシュを構える。

 

「くそっ……だが、散弾ならばっ!!」

「撃ちまくれっ!!剣の間合いに近づかれなければまだどうにかっ!?」

 

……獣の癖に、盾を使うのか。

 

セリカの脳裏をそんな思考が駆ける中、獣がトリガーを引く動作が見える。

その瞬間、セリカは体勢を低くして急激にステップ。

三角錐に広がる散弾、それが放たれた銃口側に潜り込むことで強引にそれを回避した。

 

「は……?」

 

敵は射撃姿勢から防御姿勢へ移行しきれていない。

セリカはそのまま敵の足元に潜り込むと、掬い上げるようにレイテルパラッシュを突き上げた。

 

「ガッ!?!?」

 

その一撃はその装甲を切り裂きながら頭部を貫通。

セリカはそれを引き抜く暇も惜しいと慌ててこちらにシールドを向けようとしている獣の胴体めがけ無理矢理シンシアリティを突き入れた。

 

 

タタタタタッ!!

 

 

骨髄の灰の込められた弾丸を至近距離で浴び、獣は大きく体勢を崩した。

セリカはそれにトドメを刺そうとレイテルパラッシュを引き抜くが、そこで敵の援護射撃がその邪魔をした。

 

「り、理事……!後退の指示を!アビドスとあれへの対処を並行して行うのは不可能です!」

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

 

また獣の声が聞こえてくるが、最早それはセリカの眼中にない。

いつの間にか回り込むように、そして獣の咆哮の被害を最小限に抑えられるよう付かず離れずの距離を保って展開した獣の群れを見て、セリカは狂喜を零すと懐から半透明の軟体を取り出した。

 

「戦車、戦闘ヘリの全てをやつの前面に展開して押し込めろ!!アビドスなぞ残った戦力で十分だっ!!」

「し、しかし……!」

「つべこべ言わずさっさとしろっ!!」

 

セリカはその軟体に大量の水銀の触媒を込めると、頭上でそれを握りつぶすように掲げ持つ。

大仰かつ、その場に静止した彼女に向けて、待ちわびたと言わんばかりに、目の前の死の恐怖を撃滅せんと弾丸が殺到する。

だが、彼女が対峙してきた本来の獣、あるいは理解できぬ者の一撃に遠く及ばぬそれではセリカの行動を止めるに至らない。

 

「……天上の彼方、遥かなる宇宙よ」

 

セリカの口から、静かな詠唱が流れ出す。

至近距離に榴弾が着弾。

爆風でよろけそうになるのを辛うじてこらえる。

それと同時、彼女の手の中に宇宙が、星々が宿る。

 

「我が呼びかけに、応えたまえ」

 

……彼方への呼びかけ。

セリカが行使したのは遥か彼方、上位者との交信を夢見た聖歌隊の秘儀、その真髄。

その星々へのセリカの呼びかけは……

 

 

パキンッ!!

 

 

甲高い音を立てて、失敗(・・)した。

 

「光がっ……!!ああぁあああっ!?!?」

 

爆発し、飛び散った星々の欠片が流星となって辺り一帯に降り注ぐ。

その美しく煌めく白い破片に触れれば、それは一瞬で弾け、重篤な傷となって現れる。

先行していた戦車1両が、その流星群をもろに喰らい、一瞬で爆発した。

多大な損害をたった一撃で与えられ、カイザーPMCは更なる混乱に陥る。

それを確認したセリカは太腿に輸血液を打ち込み、先ほど受けた傷を回復すると、防備が手薄になった元凶たる獣……カイザー理事に向けて駆け出した。

 

「ふざけ、るな……ふざけるなっ!!!?

何だそのふざけた戦闘力は、何だその攻撃は!?魔法とでもいうのかっ!?!?」

「理事!!対処が手薄になったことでアビドスと便利屋が戦線を突破、突っ込んできます!!」

 

1匹、1匹、また1匹。

レイテルパラッシュで、シンシアリティで、正面にいる者は悉く狩り尽くす。

 

「………っっっ!!!どいつもこいつも、この私を愚弄する……!!ゴリアテを出せっ!!奴ら全員私自ら捻り潰してくれる!!!」

 

いよいよ部隊は混乱に陥り、それと共に、命令の重要性より命の危機が上回ったためか、セリカの周りから獣が少しずつ姿を消してゆく。

……その時、セリカの目に、何処かへ去ってゆく醜悪な獣の姿が映った。

 

 

逃げられる……!

 

 

セリカの心に焦燥が宿った……その時、

 

「セリカっ!!!」

 

横合いから、声が聞こえた。

……よく見知った声。

 

大丈夫。まだわかる。

 

セリカが声が聞こえた方へと振り向くと同時、声の主がセリカの右腕を掴み上げた。

……シロコだ。

最前線で戦闘をしていた故に、たどり着くのも一番早かったのだろう。

ふと後方を見れば、同じ最前線に展開していたハルカは敵陣に更に突撃しようとしたのを追いついてきたアルたちに諫められている。

……その後方から、先生とノノミも駆けてくるのも見える。

セリカはもう一度、シロコの方へと視線を戻した。

……その表情は厳しく、そして今にも泣きそうだった。

 

「……」

「……シロコ先輩(・・・・・)。ごめん、遅れた」

 

そんなセリカのあくまでも何気ない、

代わり映えのしない言葉に、感情を必死で押し殺しているシロコの表情が、震える。

 

「セリカ、自分が何をしたかわかって……!」

「わかってるよ。でも、前みたいにシロコ先輩たちが見えなくなったわけじゃない。

しっかり、見えてる」

 

そう説明した後、セリカはシロコに向けて微笑む。

返り血に染まった頬が、緩む。

けれど、それに対するシロコの返答は、

より強く、血の染み込んだ神父の狩り装束の袖を、セリカの腕を握り締めることだった。

 

「……先輩、痛いんだけど」

「ふざけないで」

 

セリカの言葉をかき消すように、シロコは言う。

その言葉に、セリカは静かに目を伏せる。

 

「……みんなも聞こえたでしょ?

あの()共、ホシノ先輩を傷つけようとしてる」

「あれは獣じゃない、それにあんな奴らのためにセリカが手を汚す必要はない!」

 

シロコは声を荒げてそう言った。

 

……そんなこと、理屈ではわかっている。

キヴォトスで殺人は禁忌だということなど、理解していないわけがない。

……けれど、だからこそ突き放す。

 

「私とみんなは違う」

「っ、そんなこと……!」

 

シロコが何か言い返そうとした……

けれど、それは狩人の少女とは全く別の要因で遮られることとなる。

 

 

「"2人とも避けて!!!!"」

 

 

駆け寄ってきた先生から悲鳴に近い声が発せられた。

瞬間、ほとんど反射的にセリカは無理矢理シロコの拘束を振りほどくと、

その身体を抱きかかえて横方向に受け身をとった。

 

 

ゴオッ!!!

 

 

2人の至近距離を高出力のビームが駆け抜け、その肌を熱で焼く。

 

 

「くそっ、外したか……!」

 

 

それに悪態をつくのはカイザー理事。

だが、先程までと違いその身体は黒色の、大型人型兵器に接続されていた。

腕の先端には大口径のガトリング砲、肩には大量のミサイルを搭載したコンテナ、

そして頭部にはカメラセンターの代わりに先程放たれたビーム砲……

人型でありながら、どこか人とはかけ離れたその外見。

それが軋みを上げて先程の射撃を回避した2人……というより、セリカの方へと向く。

 

「だが、この我々の技術の粋を集め、

最高純度の素材で組成した装甲とアクチュエーターを搭載した、超強化外骨格……!

更にまだ兵力は残っているのだ、これさえあれば貴様など……!」

 

最早、怨念に近い声を発しながら両腕のガトリング砲が少女らに向けられ、

銃身が回転し始める。

それに対し、起き上がったセリカはただ、短く溜め息をつくと、

同じく起き上がろうとするシロコ、そしてこちらの方に視線を送る先生と、順に視線を送る。

 

 

「……ごめんね」

 

 

「……!」

 

ただ一言、そうとだけ告げると、

誰の返答も待たずセリカはそれへと向けて駆けだした。

 

 

「正面からくるとは……全軍攻撃、お望み通り叩き潰してやれぇぇぇええっ!!!」

 

 

瞬間、

 

 

 

ドパッ!!!!!!!

 

 

 

まるで洪水のような弾幕の嵐が、セリカに向けて迫る。

後方に展開し直した兵器群が、

目の前に迫る人型兵器が、たった1人に向けてすべての火力を集中する。

 

「           !!」

「      !     !?」

「"       !!"」

「         ……!!]

「                 !!」

 

無数の声が、セリカの背へと届く……

けれど、それは大量の砲撃音と着弾音、爆発音によりかき消され、

何より狩りにのめり込んでしまったセリカに届くことはない。

 

 

……狙うのは醜悪な獣(カイザー理事)の乗る兵器、その一点。

ならばその大きな機体を盾に、できる限り後方支援の射線を切る。

 

 

セリカは僅かな思考の後にそう判断すると、懐から取り出した丸薬をかみ砕き、敵の懐へと潜り込む。

たったそれだけで、あれだけ放たれていた支援攻撃はぱたりと止んでしまう。

……誤射という概念を気にしなければならないが故の、

ヤーナムより集団戦の危険性が少ない証だろう。

ともあれ、だ。

 

 

自分の身の丈を遥かに超す獣と戦闘する場合の定石は、兎に角死角に潜り込むこと。

大型の獣はそれ故に、足元へ入られるだけで行動が大幅に制限される。

 

 

「くそっ、ちょこまかと……!踏みつぶしてくれる!!」

 

 

兵器の脚部が大きく持ち上げられた。

けれど、あまりに隙だらけなその行動はセリカに回避の余地を作るのには十分だった。

彼女は即座にステップを繰り出し安全圏まで退避すると、

そのままもう片方の軸足の関節部に向けてレイテルパラッシュを突き出す。

 

 

一撃、二撃、三撃、四撃、

 

 

その硬質な装甲が破損する。

 

 

だが、ここで敵がセリカを射程圏内にとらえようと大きく後退。

再びその身体が砲火へ晒される。

セリカは即座に敵に追従しようとするも、

背後から迫る誘導ミサイルの存在に気が付かなかった。

 

 

「がっ!?」

 

 

爆発

 

 

その身体が、無数の衝撃波により宙を舞い、吹き飛ばされ、

砕けた道路の上をゴロゴロと転がる。

 

 

「そこだっ!!!」

 

 

獣血の丸薬により獣性を高めていたせいで、通常よりも傷が深い。

だが、セリカはその痛みを押し殺すと、

掛け声とともに追撃で足元のセリカを踏みつぶそうと振り下ろされた脚部を、間一髪で避ける。

そうして無防備に曝け出された先程損傷させた部位目がけ、セリカは更に連撃を加える。

 

 

一撃、二撃、三撃、

 

 

装甲が更にへし曲がる。

 

いくら手傷を負わせても敵は機械。

返り血が浴びられるわけではないため、

攻撃によりこちらの傷を回復できないのがかなり辛い。

 

そんな思考に浸るのもつかの間、先ほどの手法で味を占めたのか再び相手が後退する。

……だが、今度のセリカはその動きを予備動作の段階から完全に捉え切っていた。

セリカは瞬時にステップを連続して繰り出し、

足の動きに完全に追従しながら損傷した箇所に向けて骨髄の灰を込めたシンシアリティを照準。

 

装甲の一部が完全に破断し、いくらか衝撃が届いたためか損傷している内部機構が露わになる。

……ここで、漸く相手はセリカの狙いに気が付いたようだ。

 

 

「な、脚部負荷過大っ!?ま、まさか……!!」

「……今更?」

 

 

セリカは思わずそう嘆息した。

……まさか、体格で劣る相手が何を狙うか考えもしていなかったのだろうか?

だとすれば、それは愚かという他あるまい。

そう呆れる合間、敵の足が地面に着いた一瞬を見計らってセリカは露出した内部機構に抉るようにレイテルパラッシュを突き入れた。

 

 

脚部破損

 

 

「バ、バランサーがっ……!?おわっっ!!???」

 

 

片足を破壊されたことにより兵器が大きく体勢を崩し、

丁度土下座するように倒れたために首元にあるコクピットが無防備に曝け出される。

セリカはそれを見届けると、そこに存在する獣へと向けて一気に駆け出す。

……明確に迫る死の気配に、理事は震えあがった。

大慌てでPMCの全体チャンネルへと通信をつなげると、そこに向けて大声で呼びかける。

 

「き、貴様ら!!早く援護射撃を、早くッ!!!」

[む、無理です!!アビドスと便利屋に攻撃されこちらも壊滅状態です!

それに、唯一援護可能な提供された兵器では理事を巻き込んでしまいます!!]

 

けれど、そこから帰ってきた返答はあまりにも無情なもの。

理事との戦闘中、敵部隊に先生らがそれらを攻撃していたのだ。

 

「ふ、ふざけ……「漸くね」なぁっ!?!?」

 

それに思わず怒声を発しそうになる理事だったが、

その声は目の前から響いた少女の冷徹な声により中断される。

……その右手にレイテルパラッシュが溶け込む。

理事にその行動の意味はわからない。

けれど、自身の身が死に晒されていることだけは本能的に理解していた。

 

 

「ま、待て……!わかった、ホシノを開放すればいいんだろう!?

借金を無くせばいいんだろう!?!?だかraaaaあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

……ほとんど反射的に発せられた命乞い。

けれどそれは次の瞬間には壊れた音声となって発せられる。

 

兵器の装甲を突き破り、理事の丁度腹部辺りを抉ったセリカの右腕。

それは重要な機関を滅茶苦茶にかき乱し、

美しいスパークとなってセリカの肌を焼き、照らす。

 

 

「さようなら」

 

 

セリカの口から言葉が発せられると同時、

彼女は腕を一息に引き抜くと、後方へと飛び退った。

……瞬間、

 

 

カッ……!!

 

 

兵器が一瞬閃光に包まれたかと思うと、爆炎へと姿を変える。

搭乗席から理事が射出されこそしたものの、

大きく空いた腹の穴から精密機械を垂れ流すその様は、到底無事とは言えぬだろう。

 

 

 

YOU HUNTED

 

 

 

________________________________________

 

 

 

……まるで夜のような曇天。

いつ雨が降ってきてもおかしくない天気ではあったが、遂にそれが降り注ぎ始めた。

 

 

「は、ハあ、アあ、ああっ……!」

 

 

その中、雨粒に濡れてゆく地面をズタボロのカイザー理事は這いつくばりながら、

必死で逃げようとする。

……が、

 

 

パァン!!

 

 

「ぎャっ!?」

 

 

そのマニュピレーターは、後方から放たれた水銀弾により無残に打ち砕かれる。

 

 

[理事!これ以上の戦線形成はできません、後退します!今どちらに!?]

「た、タスケてくれ、タスケ、たすケ……!」

 

飛び込んでくる通信。それに向けて、理事は壊れかけの音声機器で必死に声を上げる。

 

「……生きてるならちょうどいい。

あなたには一応、たくさん聞きたいことがあるから」

 

……脱出装置のおかげでその距離ははるか遠く。

けれど、敵は健在、こちらは瀕死。

それを楽しむように、いたぶるように、[死]はゆっくりと近づいてくる。

 

[っ、確認しました!理事、スポンサーに提供された兵器の使用許可を!

今なら敵対存在のみを効果範囲に捉えられます!]

 

「……リカ、セリカ、止まってっ!!!」

 

声が、聞こえる。

理事がふと視線を向ければ、[死]の足が何故か止まっているのが見える。

……もう2度とないであろう千載一遇。

理事が声を上げるのは、今までにないほど早かった。

 

 

「ハやク使エっ!!!!あレを……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘイロー破壊爆弾ヲ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩の声に一瞬立ち止まる。

とは言え、ほんの一瞬だけ。

 

すぐに歩き出し、少し離れた場所で這いずるそれを目指す。

 

……この光景を見ていると、

ヤーナムで必死に彷徨う悪夢を追いかけまわしていたことを思い出す。

まあ、あれの方が幾分か小さい上に素早かったので、

その難易度たるや全く異なるものといって差し支えないだろう。

 

 

あと少し、あと少しで終わる。

 

 

 

あと、少し……

 

 

 

「セリカ、危ないっ……!」

 

 

「……え?」

 

 

声が、聞こえた。

 

 

背後には、私を庇うように手を広げるシロコ先輩の姿。

そのすぐ後ろ、異様な雰囲気を放つ、爆弾。

 

 

……ダメだ

 

 

狩人としての感が、狂ったようにそれに宿る狂気を知らせている。

 

 

「待っ

 

 

 

 

 

 

 

閃光

 

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

 

 

 

 

自分もろとも、発生した爆炎の中にのみ込まれてゆく。

けれど、その被害は想定以上に少ない。

その、代り、

 

 

 

「あ、ぁ」

 

 

 

……水色のヘイローが震え、揺れる。

自分とそう変わらない少女の身体が、焼かれてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……所詮、血塗れの手で。一体何が救えようか。

 

 

 

 

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