極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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……セリカちゃんの過去編はこれと、次で最後となります。
いよいよ夜の終わり、夢の終わりです。










side past 黒見セリカ、又は遺志を継ぐ者(1)

 

 

 

悪夢、悪夢……何処までも、どこまでも続いてゆく。

 

 

 

「はぁ、ああ、何処、どこへ行った……!」

 

 

 

霧がかった高楼。

何処まで続くかに思える悪夢の中を、1人の狩人が……セリカが走り続ける。

 

 

その時、視界の端にあった骨ばかりの死体が、

無数の糸で吊られるようにして起き上がった。

さながら、操り人形のそれと同じように……

 

「邪魔っ!!」

 

けれど、それは速射されたシンシアリティの弾丸より打ち砕かれ、

二度と動けぬ骸の破片へと変えられる。

……だが、その存在のことは既に彼女の意識の外にあった。

セリカは3方向へと延びる道の先を、鬼気迫る表情で見まわし、それを探す。

 

 

その時、

 

 

「アッハハハハハハハハッ!!ハハハ、ハハハハハハハハッッ!!!!!」

 

 

高楼に響く哄笑。

心底楽しそうなその笑い声。

……声が聞こえてきたのは右方向。

その方向へ、セリカは身の毛もよだつような憎悪の矛先を向ける。

 

 

「見つけた……!」

 

 

セリカはそう呟く否や、己の持ちうる全ての力をもって回廊へと駆けだした。

 

 

「狩人か?君は真に狩人か?己ですらわからぬのだろう?」

 

 

何者かの声が響く中、古ぼけた図書館にも似たその場所をセリカは進む。

積み上げられ、湿り朽ちた古本が、目玉のような淀んだ何かの卵が、

黒く走るその姿を見送る。

 

 

「結局、血に酔い、獣じみた者どもと…何が違うというのか……!

そのようなものに、我らを止めることは叶わぬ!」

「……!」

 

 

捉えた。

 

 

階段を上った先、鏡の前に長い円筒の檻をかぶった人影。

それに向けてセリカはシンシアリティを構える。

 

 

マズルフラッシュ

 

 

霧を切り裂き、水銀の弾丸が学徒の制服に包まれたその身体を食い破らんと迫る。

……けれど、その人物はにたりと笑うと背後の鏡の中に飛び込んで、どこかに消えてしまった。

水銀弾が鏡に打ち付けるも、それは砕けることなく静かに佇んだまま。

 

「……っ!また逃した」

 

着弾からわずかに遅れてその場にたどり着いたセリカだったが、そう小さく舌打ちをするとサッと辺りを見回す……と、

 

 

「ああ、ゴース、あるいはゴスム」

 

 

「我らの祈りが聞こえぬか」

 

 

声が、聞こえる。

ため息のような、祈りの声が聞こえてくる。

 

……その声が、セリカの精神をがりがりと削ってゆく。

 

 

「白痴のロマにそうしたように……我らに瞳を授けたまえ」

 

 

「……ふざ、けるな」

 

 

俯いたセリカから、憎悪が吐き出される。

 

 

「我らの脳に瞳を与え、獣の愚かを克させたまえ」

 

 

「ふざけるなッ!!!!」

 

 

叫びにも似た咆哮が、悪夢の回廊を揺るがす。

 

 

「お前らのくだらない妄言のせいで、一体何人苦しめられた何人死んだっ!?」

 

 

セリカは再び、悪夢の回廊の中へ身を投じる。

方向すらわからぬまま、闇雲に。

悪夢に惑いながら、ただ声のする方へと、獲物のいる方へと走り続ける。

 

 

「泥に浸かり、もはや見えぬ湖……宇宙よ!」

 

 

「……うるさい」

 

 

螺旋階段を駆け上る。

道中にいる骸を、メルゴーの従者を貫き、切り刻みながら進み続ける。

……その合間にも、瞳を求める狂人の響きは聞こえてくる。

 

 

「やがてこそ、舌を噛み、語り明かそう明かし語ろう……新しい思索、超次元を!」

 

 

「うるさい……!!」

 

 

悪夢に響き、回廊に鳴り続ける声を、

掻き消すように、セリカは声を上げる。

その声が聞こえない……いや、実際に聞こえていないのだろう。

 

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

「……っ!」

 

 

発狂とも、歓喜とも似つかぬ叫びが、響く。

セリカは思わず帽子の中にある耳を押さえるも一瞬、

その叫びを導として回廊を進む。

十字路、声は右方向

階段、声はその上

T字路、声は左方向……足音も聞こえてくる。

 

「……漸く」

 

セリカは短くそう口走ると、迷いなく左方向へと進む。

……檻をかぶった人影は、確かにその回廊の奥にいた。

 

 

「アアアアアアアアアアアア……アッ」

 

 

まるで祈るように、懇願するように高楼の彼方へ叫んでいた男だったが、

自分を追ってきた狩人の姿を見取るとその動作を停止する。

そして、まるでお辞儀するように身体をかがめてからにたりと笑った。

 

 

「……っ!」

 

 

セリカから発せられる殺気が泡立つ。

獣性が今にも体外にこぼれだしそうなほど沸騰する。

それに身を任せるままに、セリカはレイテルパラッシュを抜き放つと男に向けて恐ろしい速度で距離を詰める。

対する相手も彼女からくるりと背を向けて逃げだすが、

並みの人以上の身体能力を元々持ち合わせており、更には狩人となっているセリカと比べればそれははるかに遅い。

……そして、行く先に先ほどのような鏡があるわけでもない。

 

 

「……」

 

 

あと少し、あと少し……!

 

 

踏み込みの間合いまで、あと3、2、1……

 

 

「………!!」

 

 

瞬間、恐ろしい速度でレイテルパラッシュが正面に突き出され、

男の背を穿ち抜かんと迫る。

その時、

 

 

ヒュオッ

 

 

風切り音。

 

 

刃先が一寸先と迫った、男の……この、悪夢の主の背。

その間に、黒色の硬質な鉄格子が降った。

 

「あっ」

 

それはレイテルパラッシュを握るセリカの腕を問答無用で叩き落とし、

石畳の地面との間で、押しつぶした。

 

「があっ!?」

 

セリカから獣のそれのような声が発せられる。

骨が砕け折れ、鮮血が溢れ出す。

ほとんど引きちぎられたようになった腕の先端は力なく地面に打ち付けられ、握られていたレイテルパラッシュもそれと同じように甲高い音を立てて石畳に転がる。

 

「……っ!抜けろっ、抜けろ……!!」

 

セリカは使い物にならなくなった右腕を必死に引き抜こうとするが、重量物に引き潰されたそれは一向に抜ける様子がない。

……対する男は、その様子をあくまで遠のきから薄笑いを浮かべて見つめている。

レイテルパラッシュを取り去ってしまえばセリカの戦力を確実に削げるだろうに、そうする様子はない。

 

「……あぁ、残念だ。夢の中でも獣とは。

その身に秘めたる神秘は素晴らしいというのに……」

「……っ!」

 

その言葉に、必死に拘束から抜けるべく格闘していたセリカの動きが、固まる……

瞬間、

 

「うるさいっ!!!」

 

左腕が跳ね上がるように動いたかと思うと、

格子の隙間からシンシアリティの銃口が無理矢理突き入れられる。

そしてそのまま、セリカは碌な狙いもつけぬまま男に向けてトリガーを引いた。

発射された弾丸は、ほとんどが見当違いの方向に着弾したものの、その内たったの一発が男の腕へと着弾した。

 

「ぐおっ?!」

 

着弾の衝撃と痛みに思わずのけぞる男。

それに向けてセリカは憎悪を発する。

 

「私が獣ならお前も獣だ……!自分の渇望しか見えていない醜い獣!!」

 

その言葉に、男はびくりと身を震わせた。

……その身体が、がくがくと震える。

けれど、それは決して怒りによるものではない。むしろ……

 

 

「アッハハハハハハハハ!!」

 

 

笑う、笑う、声高に笑う。

今にも大きさのあっていない頭にかぶる檻が、

その頭ごと折れ落ちてしまいそうなほど笑う。

そしてその末、セリカに向けてそれ示すように、男は腕を大きく広げて見せた。

 

 

「然り!人は弱い……我とてこの身では獣に堕ちよう。

だからこそ脳に瞳を求めるのだ、愚かを克し、思考を宇宙へと至らせるため!!

ハハ……ハハハハハッ、ハハハハハハハハ!!!」

 

 

狂気が、狂喜が、セリカの憎悪に返答する。

 

「……所詮、獣。人の言葉を介さないとはよく言ったものね」

 

セリカはぽつりとそう呟いた切り口を噤むと、

一度左手のシンシアリティを足元に置き、

格子の隙間からレイテルパラッシュへと手を伸ばす。

 

「っ……」

 

拉げた右腕の角度を変えることになったため

痛みが走ったものの、セリカはそれを堪える。

少々苦戦はしたものの、数分と立たずセリカはレイテルパラッシュを手にした。

……男の哄笑は今も続いている。

セリカがしようとしていることに気が付いていないのか、

それとも、気が付いていながら何もしてきていないのか……

 

……まあ、どうでもいい。

 

セリカはレイテルパラッシュを逆手に持つと、

未だ血の吹き出すそれに向けて大きく振り上げる。

 

……結局、死の痛みにももう慣れているのだ。

今更この程度、獣狩りの前では些細なことだ。

 

セリカは躊躇なく、それに向けて鋭く光る剣の先端を突き立てた。

 

鮮血が零れる量が多くなる。

 

セリカはそれを意に介さず、もう一度自分の血で濡れた刃を振り上げながら、男が閉じこもっている部屋の中を見回す。

……目的のものは然程しないうちに見つかった。

天井に空いた人ひとりが容易に通れるほど大きな穴。

 

「……見つけた」

 

セリカの口元が、キュッと裂けるような笑みに歪んだ。

 

 

 

 

……場面は歪むように移ろう

 

 

 

 

気がつけば、セリカは先ほど見つけた穴の前にいた。

結局、レイテルパラッシュで切断し引きちぎった右腕は、

狩装束の袖と、右手の革手袋の部分がなくなってこそいたものの、

輸血液を大量に投与したことにより元の姿を取り戻していた。

 

……セリカは、吹き抜けの下をゆっくりと覗き込む。

飛び降りるには少し高いが、それもまた些細なことにすぎない。

男は、いなくなったセリカの姿を探すことなく、今も何者かへ呼びかけ続けている。

……その時、天を仰いでいた男とセリカの視線が偶々合った。

 

 

「……おお?」

 

 

初めて、漸く、漸く、男から、僅かながら驚愕が零れた。

それに対し、セリカはこの場所……メンシスの悪夢に赴いて、初めて笑った。

 

 

「……漸く、漸くね」

 

 

そう呟くが早いか、セリカは宙へ身を躍らせた。

グズグズに蕩けた赤い瞳に宿る狂気が、殺気が、それに向けられる。

 

 

「漸くあなたを狩れる……!あは、あははははっ!!」

 

 

ガキン!!!

 

 

落下の勢いを乗せた刺突が、男の身体を肩口から引き裂く。

レイテルパラッシュ自体は石畳に激突し、甲高い金属音を立てたもののそれと同時に夥しい量の血飛沫が舞う。

男はその一撃にのけぞるも一瞬、

にたりと笑うとセリカに向けて右手を差し伸べるように伸ばす。

その手に握るは神秘の軟体。

そこから宇宙が溢れ出す。

 

「遅い……!」

 

けれどその緩慢な動作は、セリカが見切るにはあまりにも容易なものだった。

セリカは相手の右側をすり抜けるように回避し、背後に回る。

その背後で夥しい量の触手が散弾のように放たれるのをしり目に、セリカはレイテルパラッシュでその背を全力で刺し貫いた。

 

「おああっ!?」

 

男の体勢が大きく崩れる。

その曝け出された無防備な背中に向けて、セリカはレイテルパラッシュを右手に溶け込ませると、一息にそれを体内にねじ込んだ。

 

 

鮮血が迸る。

 

 

臓物がねじ切れ、ぐちゃぐちゃにかき乱される。

鮮血が溢れ出し、落下の衝撃で僅かにできたセリカの傷跡がみるみるうちに消えてゆく。

 

「……ねえ、こんなもの?」

 

セリカは痛みに痙攣する男の耳元で短くささやくと、そのまま地面にその身体を叩きつけるようにして腕を引き抜いた。

倒れ伏した男に向けて更に追撃……しようとするも、

男が深い手傷を負ったとは思えないほど素早く動いたためそれは空を切る。

 

 

「あぁ!違うとも、我らが神秘の先触れはこのようなものでは終わらぬ、終わらない……!!」

 

 

セリカから距離を取るべく後方に飛び退りながらも、

嬉しくて、嬉しくて、楽しくて、楽しくてたまらないとでも言うかのように、男は声を上げると、懐から先程とは別の軟体を取り出した。

セリカはその動きに反射的に追従しようとするも、

ぞわりとした悪寒を感じ取りそれを停止。

代わりにシンシアリティで銃撃するに留める。

軟体を頭上に掲げ持った男の身体に、水銀弾が着弾する。

けれど、男の動作は止まらない。

……まるで、今から始まることを目の前の少女に見せたくて見せたくてしょうがないとでも言うかのように。

触媒の込められた軟体から、宇宙が、星々が吐き出される。

 

 

「天上の彼方……宇宙よ!!!」

 

 

瞬間、光が弾けた。

目の眩むような眩い星々の爆発が、煌めきながら飛び散る星のかけらが、セリカに向けて殺到する。

セリカはほとんど反射的に、

経験だけを頼りに正面方向へ潜り込むように踏み込んだものの、その破片のいくつかがその身体に触れた瞬間弾け、神秘の熱と衝撃を与える。

 

「がっ!?」

 

その衝撃でセリカは体勢を崩し、決して少なくない隙を晒した。

それに向けて、男は握りこぶしを作ると、

先程までの狂的な動作、発言の数々が嘘のような綺麗な右ストレートを放つ。

鳩尾に当たった瞬間、それは神秘の衝撃を伴った。

 

「ごふっ」

 

内蔵が押し潰されるような痛みに襲われる。

セリカは思わず後方に飛び退り、距離を取る。

男が放った神秘を纏った追撃の手刀は空振りした。

 

「……っ」

 

視界に映るのは檻の中の男のにやけ顔。

それを睨み返すのもそこそこに、セリカは一度輸血液を懐から取り出そうとする。

けれど、それに向けて男がまた右手を差し伸べる動作。

セリカが反射的に飛び退るとその脇を神秘の触手が通過した。

 

「……落ち着け」

 

その大きな後隙の間にセリカは輸血液を打ち、傷から回復すると男からつかず離れずの距離で次の動きを警戒する。

男の方も、セリカと同じように相手の出方を窺っているようだった。

一瞬、訪れる静寂そして……

 

先に動いたのは男の方だった。

 

 

「ハハハッ!!」

 

 

笑い声を溢しながら、

今までとなんら変わらぬ軟体を握った右腕を差し伸べる動作

……もう何度も見た、先触れの予兆。

 

「……!」

 

セリカは触手の射出位置からわずかに逸れると、

ステップの勢いを乗せたままレイテルパラッシュを突き出す。

その動作の瞬間、男の表情が驚愕に染まった。

 

 

「……これで、おわり」

 

 

その表情に、セリカはただ狂的な笑みで返答する。

一拍置いて、男の背からレイテルパラッシュの剣先が、文字通り生えるようにして鮮血と共に突き出た。

 

 

「ぎゃぁぁあああぁぁあああああああああああぁああぁあぁぁぁぁあああああぁああぁあああああっ!!!!……ぁ」

 

長い長い断末魔の末……遂に、血塗れとなったその男の身体が崩れ落ちる。

 

 

 

 

YOU HUNTED

 

 

 

「はぁ……はぁ……はは、あははっ……」

 

その胸の中心を刺し貫いたセリカは、しばらく荒い息をついていたが、

段々と生命の色が失われ、身体が燐光になって崩れ落ちてゆく男に向けて、

ただ、笑った。

 

「あははっ、いい声で啼いてくれるのね……

散々人の神経を逆なでしてくれたけど、そこだけは褒めてあげる」

 

そう言いながら男の眼前へと歩み寄ると、セリカはその顔を見下ろす。

 

「ねえ、何か言いなさいよ。

自分で言う獣に、あなたは殺されたの。

あなたの儀式も、願いも、これで何もかも終わ……り」

 

その時、セリカの言葉が止まった。

霧に融けゆく男……その顔に宿るは、セリカが望む苦痛でも、激怒でもなく、

 

 

「ああ、これが目覚め……すべて忘れてしまうのか……」

 

 

ただ、残念で残念でならないという、そんな表情。

何かに触れようと、倒れ伏したまま男は虚空に手を伸ばす。

 

 

「……っ!」

 

 

……その腕を、セリカは両断した。

 

 

切り落とされたはずのその腕は、地面に落ちる間もなく燐光となって消える。

……ただ、その場には男の残した檻と、静寂だけが残った。

 

 

……どれほど時間が経っただろうか。

鉄格子はいつの間にか開き、小部屋から出られるようになっている。

だというのに、セリカはその場からぴくりとも動こうとしない。

 

 

「……違う」

 

 

……不公平だ。

 

 

この獣狩りの夜に、アイリーンさんが、アリアンナさんが、おばあさんが、赤いローブの人が、ガスコインさんが、ヴィオラさんが……リリーちゃんが苦しんで死んで。

それなのに、これを引き起こした元凶が、

あんなにも……あんなにも何の感動もなく、ただ残念そうに死ぬのはあまりにも

 

 

 

あまりにも…………

 

 

 

あまりにも……

 

 

 

あまりにも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……セリカ?」

 

 

 

________________________________________

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

……突然聞こえてきた声に、セリカは顔を上げる。

見渡せば、そこはいつもと同じ狩人の夢の中。

 

目の前では先輩が、心配そうに自分のことを覗き込んでいる。

 

 

「……あれ、先輩?私……」

「……メンシスで回収した例の物を渡そうと懐に手をいれた辺りから、急にどこかに意識を連れていかれたように呆けていた」

「……え、そうなの?」

 

 

先輩にそう言われ、セリカは改めて記憶を思い返す。

……そう、だ……確か、自分は先輩に、

メンシスの悪夢と呼ばれる場所の攻略を依頼されていた。

この、長い長い獣狩りの夜が起こった直接の原因が眠るという場所。

そこで、悪夢の主を……あの男を狩った後、

最上階でオルゴールの鳴り響く中、姿のなき上位者の乳母を狩って……

 

 

それで、へその緒を手に入れて、帰ってきた。

 

 

……決して良いものではない記憶の数々に、セリカは僅かながら顔を歪める。

 

「体調が悪いなら、こちらとしては少し休んでもらいたいものだが……」

 

そんな彼女を心配してか先輩がそう声をかけるが、それに対しセリカは首を振った。

 

「別にいいよ。先輩だって、狩人の悪夢……?

とか言う場所で狩りをしてきたんでしょ。疲れてるのはお互い様。それに……」

 

そう言うと、セリカは工房があった(・・・)場所に視線を向ける。

 

「……もう、休む必要もない。でしょ?」

 

その視線の先では、今まで彼女たちが少なからず心の拠り所であり、安息の地として使ってきた古工房が火に包まれ、燃え上がっていた。

 

……狩りは、あの時確かに終わったのだ。

あの時セリカがメルゴーの乳母を狩り、

赤子の声が消えた時……確かに、終わりを告げたのだ。

狩りが終われば、狩人がひと時の安らぎを得る場所は、もう不要だった。

先輩も、その言葉に促されるように燃え上がる古工房を見る。

 

「……そう、だな」

 

先輩は、短くそう呟いた。

暫くの間、2人はゆらゆらと揺らめく炎を見つめていたが、

やがて、ふと先輩が何か思い出したようにセリカに声をかける。

 

「そう言えば、セリカ。

狩人の悪夢で少し得難い経験をしたのだが……一つ、質問をいいか?」

「……何?上位者のことだか獣のことだか知らないけど、私はそういうことは……」

「いや、そうではないのだ」

 

先輩からその話題が出た瞬間、露骨に不機嫌になるセリカ。

それを先輩はやんわりと否定する。

 

「……セイア、と呼ばれる少女を知らないか?

何分、君と姿が似ていてな」

「……セイア?」

 

それ対し、セリカは思わずおうむ返しにその言葉を呟くと考え込んだ。

 

……人物名であることはまず間違いない。

けれど、先輩は特にそう言うことは気にしない性格のはず。

だというのに、自分にわざわざそれを尋ねたということは……

 

……その後しばらくセリカはその名前について考えを巡らせていたが、

やがてため息をつくと先輩の方を向いた。

 

「……知らない。

私と同じようにヘイローがあって、

キヴォトスから来てるのかもしれないけど……正直、どうでもいい」

「……そうか」

 

セリカの返答に先輩は少し間をおいて、返答した。

……また、2人の間に静寂が流れる。

その時、

 

 

「狩人様、セリカ様……お待ちしておりました」

 

 

背後から静かな女性声が聞こえた。

 

 

 





どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?


……ミコラーシュ戦が長引きました(いつもの)
次回、次回こそは本当に過去編が終わります。
この悪夢の果てにセリカは何を見たのか……

……まあ、結局のところ。セリカは終わらぬ夜に囚われたままなのですけどね。
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