極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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……今、テスト期間の奴の姿か……?これが


side present 対策委員会、又は獣狩りの夜(3)

 

 

「ウ、ウウウ?」

 

 

……ごちそうが、いなくなった。

 

 

獣は辺りを見回して微かに呻いた。

目の前にいた暖かな生きた血肉が、ふとした瞬間目の前から消えていた。

 

……実のところ、その周りの景色すら全く変わっていたのだが、

そのようなことは体力がほとんど底をつき、渇望に震える獣にはどうでもよいことだった。

 

 

鮮血が、血肉が欲しい……

先程まで共に過ごしていたそれらの肌を引き裂き、

その内を喰らい、啜ればいったいどれほど……

……先程まで、共に過ごしていた?

 

 

「……グう……うう?」

 

 

その時、獣の奥底から獣性の渇望とはまた違う……

まるで、その渇望を逆に押さえつけようとするような何かが膨れ上がってきた。

 

……わからない。

でも、そのことを考えるとなぜだか苦しい……不愉快だ。

 

 

「う……ウウウウッ」

 

 

本能的に頭を押さえ、それを振り払おうとするも、

どうにもその引っ掛かりは消えない。

 

苦しい、苦しい、不快だ、不快だ……

……この不愉快も、あの血肉を食べれば紛れるかも知れない。

 

獣は獣性の中でほとんどなくなってしまった思考の中でそう思いつくと、

自分の渇望を満たしてくれるそれを探すべく、

霧に包まれた神秘の庭園の中を歩き始めた。

……その時、

 

 

「……なるほどな」

 

 

ぞわりと、全身の肌が泡立つ。

本能的に解してはならぬ何かが、恐ろしい敵が背後にいる。

獣は反射的に後方へと飛び退ると、その敵を視界にとらえる。

 

「……セリカと同質の加護がありながら、

どうして一息に獣化が、それも取り返しのつかぬものが進行していたのかと思っていたが……そもそも、その加護が欠けていたか」

 

……目の前にいるのは、奇妙な三角頭。

けれど、発せられる気配が明らかにおかしい。

 

「グルルルルッ!!」

 

だが、だからといって逃げるという選択肢もない。

背を向けてしまえば、何も出来ずに殺される。

だから、獣は死に物狂いで目の前のそれに抗おうと精一杯威嚇する。

その様子を見た[それ]は、小さく思案するとまた、声を溢す。

 

「……荒療治になってしまうな。だが……仕方あるまい」

 

それはそう言うと、背中に下げられた武器に一瞬手を伸ばそうとしたが、

結局それを止めると代わりに、

黒い革手袋に包まれた大きな人ならざる手を獣に向けて構える。

 

「可能性は未知数だが……結果がどうであれ、行う他ない」

 

……間違いない、敵は、こちらに仕掛ける気だ。

 

獣はより一層低く唸るが、[それ]が怯む様子は一向にない。

それどころか、一歩一歩と追い詰めるようにこちらに歩み寄ってくる。

獣はじりじりと後退しながらもそれの様子を窺う。

瞬間、

 

 

タンッ

 

 

短く地面を蹴る音。

たったそれだけで[それ]の姿が一瞬掻き消えるような錯覚と共に獣の目と鼻の先まで接近していたのだ。

それに獣が何か反応するよりも早く、相手はその首をその手で掴む。

そしてそのまま、押し倒すようにして獣の身体を地面に叩きつけた。

 

 

「ギャアッ!?」

 

 

決して少なくない衝撃を受けた獣が悲鳴を上げる。

そんな獣に対し、[それ]はゆっくりと顔を近づけると

空いた方の手で被っている三角に手をかける。

獣はジタバタと暴れるものの、万力のようなその腕力の前に全く抵抗できない。

そして……

 

 

「……ア」

 

 

三角が、取られた。

 

「ア、ア、ああ、ああ」

 

その奥にあるのは、仮面のような無貌。

鬣のように広がる触手は、血の抜けたような黒。

この世のものとは思えぬ理解を拒むその様相の情報が、獣の脳に無理矢理流し込まれる。

視線を逸らそうにも顔の動きはその大きな手で首ごと固定され、

目の前のそれを見ないように瞼を閉じようとしているのに、

何故か恐ろしい無貌に惹きつけられてしまったように動かない。

 

「あ、ああああ、あ゛あああっ……!」

「……獣性と啓蒙は相反する。

だから私の姿を脳裏に焼き付けろ。それで何とか均衡を取る」

 

脳が割れんばかりの、

上位者そのものからもたらされる叡智が獣の

……いや、シロコの中に巣食う獣性を喰らってゆく。

けれど、それと同時にもたらされる想像を絶する苦痛を前に、

シロコの身体ががくがくと痙攣する。

けれど、それでも尚[それ(狩人)]はその手を放そうとしない。

そして、

 

 

「あ、あ゛ああぁあ゛ああああぁぁあああああああああっ!!!!????」

 

 

 

発狂

 

 

 

傷口などどこにもないにも拘らず、シロコの全身から夥しい量の血が噴き出す。

それと同時、彼女の身体から力が抜けてゆく。

それを見届けて、漸く狩人は彼女から手を放した。

 

「……ぁ…………ぅ、う」

 

……あれだけの出血をしていながら、シロコには未だに息があった。

多大な出血のせいで意識は朦朧としているようだが、それでも微かに胸が動いている。

そんな彼女に、三角……もとい金のアルデオをかぶり直した狩人は、

懐から取り出した輸血液を投与する。

 

「うっ……」

 

シロコの身体がびくりと震える。

……けれど、先程の痙攣じみたそれとは違い、

痛みによる反射的なものではあるが正常な反応だった。

焦点のあっていなかった蕩けた瞳が動き、狩人の姿を捉える。

 

「……気が付いたか?」

「……かりゅう、ど……?」

 

シロコの口元がゆっくりと動いた。

……そこから発せられるのは、

先程のような悍ましい獣の唸り声でも、咆哮でもなく、確かな人間の言葉。

 

「……その様子だと、戻ってこれたようだな」

 

そう言うと狩人は一息つくとそのまま立ち上がる。

 

「……!まっ、て、わたし……何が……」

「しばらくそこで休んでいるといい。

……私には、まだ行わなければならないことがある」

 

シロコがよろめきながらも何とか上体だけ起こし、

今にも去ろうとする狩人を呼び止める。

けれど、狩人は一瞬足を止めてそう言うと、再び歩き出す。

……その姿を追うだけの余力は、シロコにはなかった。

 

____________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

「……ぅ」

 

 

アヤネは短く呻き声を溢した。

背中に走る硬い感触。

どうも、何かの椅子に座らされているらしい。

……逆にいうなれば、それだけしかわからない。

 

アヤネは薄く目を開く。

一瞬、霞む視界。

それが段々と晴れてくる。

けれど、思考は未だ霞がかっており、直前の記憶を思い出すことは叶わない。

 

……目の前にあるのは、薪がパチパチと弾けながら煌々と燃える暖炉。

ふと壁面を見れば、それはキヴォトスではあまり見ることのないレンガと木で作られている。

……その光景に、アヤネは確かに見覚えがあった。

 

 

この場所は、確か……

 

 

「お目覚めですか?」

「……へ?」

 

その時、正面に知らない女性の顔が横合いから覗き込んできた。

……灰色の髪に、純白のそれに近い肌色。

美しく整ったその顔立ちは、何処か現実味がなかった。

呆然とするアヤネをしばらく見つめた後、女性はすっと立ち上がると、彼女のすぐ隣の椅子の前へと移動する。

その椅子に座っているのは……

 

「……ノノミ先輩?」

「……んう?」

 

そんな小さな声を零して、ノノミの瞼が開かれた。

そして同じように辺りを見回した後、異常に気がついたらしい。

 

「……ここは」

「お2人ともおかわりは無さそうですね。……安心しました」

 

そんな彼女らに向けて、女性はそう言った。

……よく見れば、その関節は球状関節となっており、明らかに人のそれではない。

そんな女性に向けてアヤネは恐る恐る声をかける。

 

「あの、貴方は誰ですか?それに、この場所は……」

「……そういえば、セリカ様のご友人の皆様とお会いするのは私にはこれが初めてでしたね」

「え?」

 

その女性から発せられた言葉に、アヤネとノノミは固まった。

 

……セリカを、知っている。

 

記憶が瞬く間に蘇ってゆく。

 

……そうだ、この場所は狩人の夢。

セリカが暮らしているという場所。

では、どうして自分はこの場所に……?

 

……シロコが、最早立ち直れぬ程の傷を負って、

それを何とか回復させるために一縷の望みに縋って、

輸血液を投与して。

それで……それで……!

 

 

「……シロコ、先輩!!」

「そうだ、シロコちゃんは!?」

 

 

その名を、ほぼ同時にノノミとアヤネは思わず口走る。

輸血液を投与してすぐに、明らかに様子がおかしくなった先輩のことが、完全に記憶の奥底から蘇った。

慌てて辺りを見回せば、ノノミと自分、そして謎の女性他に誰かがいる様子はない。

アヤネは椅子から跳ねるようにして立ち上がると、

女性のすぐ側に駆け寄る。

 

「あの、シロコ先輩は何処に!?輸血液を使ったら、先輩の様子がおかしくなって、それで……!!」

「彼女なら工房の外にいる」

 

その時、横合いから別の……けれど、聞き覚えのある声。

アヤネがそちらの方へと視線を向ければ、あの不気味な雰囲気を纏った金色の三角頭……[狩人]が壁にもたれかかるようにして静かに立っていた。

けれど、前にあったときとは違い、その身体は血で濡れていた。

 

「……狩人、さん……?」

「使者達に礼を言うことだ」

 

少女の呼びかけには答えず、狩人は言葉を紡ぐ。

 

「君達がセリカの使っていた病室にいた事は偶然に過ぎぬが、

事態に気がついた彼らが君達を拘束し、こちら側に送り届けなければ取り返しのつかぬ事になっていた」

「と、取り返しのつかないって……」

「君達も見たはずだ」

 

遅れて立ち上がるも、混乱している様子のノノミの言葉に、狩人は素っ気なく告げる。

その言葉には、静かな怒りが、そして悔恨が宿っていた。

 

「……私は言ったはずだ。

秘匿について伝えることこそするが、それに必要以上に触れることのないように、と。

セリカも言っていたはずだ。間違っても輸血液など使うことのないように、と……何故、それを破った?」

「そ、それは……」

 

狩人から発せられる不気味な気配も相まって、それは凄まじく強大なものに感じられる。

身体が竦み、震える。まるで人とは全く別の何かの気配が、精神そのものを蝕んでいるようだ。

……だが、

 

「……っ」

 

……今、ここで立ち止まっていたところで何も変わらない。

既に後戻りできる時など過ぎ去った。

ならば、この先に何があろうと……進むしか、ないのだ。

アヤネは、金色の三角の奥にあるだろう、狩人の顔を気丈に見返す。

 

 

「……その件に関して、伝えたいことが……いや、伝えないといけないことがあります。

どうか、聞いていただけますか?」

 

 

「……ふむ」

 

アヤネの言葉に、狩人は考え込んだ。

時間ばかりが、両者の間に流れてゆく。

 

「……わかった」

 

やがて、狩人がたった一言、だが確かにそう返答した。

 

「このままでは何だ。椅子に腰掛けるといい」

 

そう言って言葉を区切ると、狩人は軽く、被っている金色の三角を揺らした。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

……先程の椅子に腰掛けた後、2人は狩人に語った。

セリカが帰還した後、起こったことの全てを。

 

アビドスの現状。

それを打開すべく行った遠征で、セリカの力を狙うカイザーの策略に嵌ってしまったこと。

自分らの気が付かぬところで行われていたカイザーの取引を、先輩がその代償を引き受けるべく承諾してしまったこと。

その後のカイザーの襲撃で、セリカが暴走してしまったこと。

……その終局の間際、シロコが瀕死の重傷を負い、セリカが行方不明になったこと。

そのシロコを治療する為、輸血液を使用したこと……その、全てを。

 

 

「……なるほど」

 

 

全てを話し終えた彼女らに対し、狩人は初めてそう声を零した。

……瞬間、

 

 

ズンッ

 

 

その身体から発せられる悍ましい圧力が、急激に高まる。

 

「カイザー……等と言ったか?

どこの世でも秘匿に触れようとする愚か者は存在するということか。

……虫酸が走る……!!」

 

とてつもない憎悪の籠もった狩人の言葉。

……その姿に、奥底に隠されているであろう何かをアヤネとノノミは幻視した気がした。

空気をも震撼させるその圧力に、思わず2人の口から奇妙な吐息が溢れる。呼吸がうまくできない……いや、そもそも身体全体にうまく力が入らない。

意識が濁流の中に呑まれていって、

段々と身体の震えが、痙攣するように……

 

 

「狩人様。どうか、気をお鎮めください」

 

 

その時、怒りに震える狩人の肩に、女性の手がそっと触れた。

……球状関節となった人ならざるものの手が、しかし優しくその怒りを鎮めてゆく。

やがて、その場に静寂が戻った。

 

「…………あぁ、すまない。人形殿。

アヤネも……それにノノミ、と言ったか。怖がらせてしまって申し訳ない」

「い、いえ……私は大丈夫です」

「私の方も大丈夫ですから、そんなに……頭を下げないでください」

 

先程までの気配は何処へやら。

申し訳なさそうに頭を下げる狩人に、アヤネとノノミは慌ててそう言うと、ふと表情を落とす。

 

「それに……こうなってしまった原因の一端は、私たちにもありますから」

「……その事について言っていてはきりが無い。

お互いの為、その事は一旦置いておこう」

 

アヤネの言葉に狩人はあくまでもそう言ったものの、

少女らは完全にその言葉は飲み込み切れなかったらしい。

けれど、少し曖昧気味にではあるもののこくりと頷いた。

狩人はそれを確認すると、改めて彼女らに話しかける。

 

「さて、君達としても私に聞きたいことは沢山あるだろうが……先ずは血に触れてしまった少女……シロコについてだな。

事の相談は、彼女にもいてもらいたい」

 

そう言うと、狩人はその場に立ち上がった。

 

 

「……ついてきたまえ、彼女のいる場所に案内する」

 

 

______________________________________

 

 

「皆様に、血の加護がありますように」

 

 

そんな人形の女性の声に見送られ工房の外へと出ると、

そこは前に来た時と変わらぬ神秘の霧に包まれた庭園の景色が広がっていた。

 

……ただ、前と違う箇所があるとすれば、

少し奥まった場所には山積みの金貨が置かれており、

それを今も使者たちが少しずつどこかへ運んでいること。

そして、今はいない誰かのために設置されたであろう、ガーデンテーブルとガーデンチェア。そしてお茶菓子と紅茶のポットが置かれているところだろうか?

 

「……」

 

立ち止まり、それを見つめるアヤネ。

そんな彼女の様子に気が付いたノノミが彼女の元へと戻り、

その肩を抱きしめるようにして撫でる。

しばらくの間されるがままになっていた彼女だったが、

やがて、何かをこらえるようにその光景から視線を外すと、ノノミの方へ視線を移す。

 

「……すいません、ちょっと呆けちゃって」

「大丈夫ですよ……じゃあ、行きましょうか」

 

ノノミのその言葉にアヤネはこくりと頷く。

そして2人そろって先を進む狩人の背を追う。

 

墓石の立ち並ぶ坂を下り、最初に狩人の夢に来たときに起きた場所を通り過ぎ、

立木の生い茂る少し奥まった場所。

そこで初めて、狩人が立ち止まった。

そして、その奥へと声をかける。

 

「具合はどうかな?」

「……一応、だいぶ良くなった……けど」

「「……!!」」

 

その時、狩人と生垣の奥に隠れてこそいるものの、

あの時聞いた咆哮とは違う、確かなシロコの声がアヤネたちに届いた。

 

「シロコ先輩!!」

「シロコちゃん!!」

「……!」

 

気がつけば、その身体は声がした場所へと向けて駆けだしていた。

……そんな2人の呼びかけが聞こえたのだろう。

誰かが息を呑む声がかすかに耳朶を打つ。

けれど、当然といえば当然だが2人の足が止まることはない。

狩人のすぐ傍を通り抜ければ、見覚えのある灰色の長い髪が見える。

今にも泣きだしてしまいそうな感情を抑えて、アヤネは彼女に声をかける。

 

 

「先輩、大丈夫で……す、」

 

 

……だが、その声はすぐに途切れることになった。

 

目の前で、生垣のすぐ傍に立つ少女……それは間違いなくシロコだ。

それだけは間違いない。

……間違いない、が。

 

 

「……アヤネ、ノノミ」

 

 

そう、シロコは2人の名前を口ずさんだ。

……その、少し掠れた声にはどこか、怯えが混じっているようだった。

瞳は病室で様子が豹変した時と同じようにぐずぐずに蕩けている。

そこまでは、あの時と同じ。

 

だが、彼女には本来なかったはずの髪色と同じ大きな尾が生えており、

元々ついていた狼の耳も、より大きく、ふかふかしたものへと変わっている。

そして何より、その左腕。

……何も変わっていない少女然とした右腕とは対照的に、

肘辺りから灰色の獣毛に覆われ、

その手の形状も歪な、凶悪な爪の生えた獣のようなものへと変貌していた。

ただでさえ異常なその姿を、

患者服ごと赤で染め上げる夥しい量の血が狂的に彩る。

 

……3人の間に、重い沈黙が流れるのは、必然ともいえるだろう。

そんな中、最初に動いたのはノノミだった。

 

「シロコ、ちゃん……一体、何が」

 

恐る恐る、少しずつ彼女の元へと近づこうとしたノノミ。

だが、シロコはその行動に気が付くや否や、

素早く左腕を押さえつけながら後ずさりした。

 

 

「2人とも、近づかないで……!」

 

 

「!」

 

明確な拒絶の言葉。

けれど、シロコはアヤネとノノミの驚愕する様子を見て、

「しまった」とでも言うかのようなはっとした表情になる。

 

「いや、その……ごめん。2人が嫌いになったわけじゃないの」

「……そうなん、ですか?」

「うん、それは本当……でも……」

 

シロコはそこで一度言葉を区切ると、

さらに強く、強く、変わり果てた自分の左腕を押さえつける。

……まるで、その凶爪が決して振るわれることの無い様にするかのように。

 

 

「……記憶は曖昧だけど、あの時……私は2人を、殺そうとしてた」

 

 

シロコの口から、掠れた……今にも泣きだしそうな、

悲鳴のそれに近い声が零れる。

 

「あんなに一緒に暮らしてたのに、あんなに大切だったのに、

気が付いたときには、2人ともただの美味しい獲物にしか見えなくなってた。

それをむさぼり喰らうことしか……考えられなくなってた」

 

先程まで獣性に精神を犯され、何とか立ち直りこそしたものの、

その時の記憶は曖昧なイメージとして、しかし確かにシロコの脳裏にこびりついていた。

……何も、言葉をかけることができない。

その間にも、シロコから次々に感情が……恐怖が溢れ出す。

 

「……怖いの。2人に触ったら、

また、また同じことになるんじゃないかって。

今度こそ、殺しちゃうんじゃないかって。だから……!」

「心配することはない」

 

その時、横合いから声がかかった。

……狩人だ。

 

「シロコ。

詳しい説明は一先ず省くが、今の君の状態は極めて歪ながら安定している。

彼女らに触れた程度では再び獣性に傾くことはない」

「……」

 

狩人の言葉に、シロコの動きが止まる。

けれど、やはりまだ不安なのだろう。

動きは止まったままで、一歩踏み出すことすらできずにいる。

そんな彼女の様子に、狩人は少し考え込んだのち、もう一度言葉をかける。

 

 

「……万一のことがあっても、私がいる。

君がいかにして暴走しようとも、友人に一つの傷もつけさせぬと約束しよう」

「「「…………」」」

 

 

その場がしんと静まり返った。

……狩人のどことなくズレた励まし。

いや、そもそもその暴走が起こってほしくないのだが……

けれど、普段珍妙な格好をしていながら冷徹な雰囲気のある彼が発したその言葉には、どこか温かさがあることもまた事実で……

 

「……あんまりフォローになってないと思うけど」

「む……そうか?」

 

困ったように。けれど、先程よりほんの少しだけ和らいだ表情でそう言うシロコ。

その言葉に珍しくキョトンとする狩人。

そして、表情こそわからぬものの、極まりが悪そうに狩装束の襟元を弄る。

 

「こういった励ましは不得手でな……

今一何を言えばいいのか分からないのだ」

「い、いやいや大丈夫ですよ!

狩人さんなりに励ましてくれてることは、十分伝わりましたから」

「アヤネちゃんの言う通りです。

それに……きっと、心配するようなことは起こりませんから」

 

申し訳ない、と語外に聞こえてきそうな狩人の言葉に、

それにアヤネとノノミはそう、微笑みと共に返答すると、

改めてシロコと向かい合った。

……先程とは違い、互いの表情に一点の曇りもない。

 

「……よし、それじゃあ」

「行きますよ、シロコちゃん」

「……大丈夫。いつでも来て」

 

そう言ってお互いに声をかけたった後、

ゆっくりと、誰からともなく一歩踏み出す。

 

シロコが、アヤネが、ノノミが、そっと右手を差し出す。

 

 

そして、その手が……

 

 

「……っ」

 

 

触れる寸前。一瞬、シロコの手が躊躇うように止まった。

……けれど、それはやはりほんの一瞬のこと。

意を決したシロコがその手を少し前に動かせば、

容易くそれはアヤネとノノミの手に触れた。

 

 

……何も起こらない。

 

 

少しの間を置き、やがて互いの手が抱き合うように、指を絡める。

 

 

……やはり、何も起こることはない。

 

 

シロコは、思わず顔を上げた。

……アヤネもノノミも、同じように顔を上げていたため、自然と目が合った。

 

 

「……ほら、やっぱり、大丈夫でしたね☆」

 

 

ノノミがおどけた様に、けれど、今にも泣きだしそうな声でそう言った。

 

「……うん。大丈夫、だよ」

 

ノノミの言葉にそう、シロコは答える。

微かな熱を伴って発されたその言葉と共に、

瞳から溢れ出してきたものが頬を伝う。

 

……気がつけば3人は互いに抱き合っていた。

服越しに感じる体温は、

何故かもう何年も何年も触れ合っていないようにも感じられた。

 

 

「大丈夫、大丈夫だよ……!」

 

 

「はい、はい……!」

 

 

「お帰りなさい、シロコ先輩っ……!」

 

 

……静かな神秘の庭園の中で、しばらくの間少女らの泣く声だけが響いた。

 

 














どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

スーパー荒療治ここに極まれりでしたがシロコちゃんは何とか正気を取り戻しました。
今現在、神秘と獣性と啓蒙を混ぜ合わせて3で割ったような存在になっていますが生きてるのでセーフです!


……ホントにセーフか?これ(真顔)


それはさておき、
ここで何故、瞳以外のシロコの身体特徴が変化しているかについての補足を。
セリカに関しては元々狩人だったことに加えて、
ヘイローは万全なので完全に獣化しても戻ってくることができました。
けれど、シロコに関しては前回の通りヘイロー破壊爆弾でヘイローに大ダメージを受けてる上、そこに輸血液を入れられた故に、より極端に獣化が進行しました。
でも、完全に取り返しがつかなくなる前に
先輩が月の魔物謹製の啓蒙を無理矢理流し込んで獣化を抑え込んでます。
啓蒙増加させたら獣性ゲージ短くなるあれです。
つまり、獣化しかけの所に無理矢理支え挟み込んで止めてる感じなんですね、今。
で、す、の、でぇ……


仮になんだかの要因で啓蒙が削れると詰みます。



……流石にこの後啓蒙減らす展開を作るつもりはないです。今のところ。



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