いや、何が言いたいかといいますとですね。
12月の終わりかけ辺りに推薦書いてもらってました(←今更気が付いた)
マジでうれしいです感謝……!圧倒的感謝……!
あと気づいてなくてごめんなさい……!
決して少なくない時間、泣いて、泣いて。
その間、先輩は少し離れた場所でそんな少女たちのことを見守っていた。
……その声が止んで、またしばらく時間が経ち。
彼女らの顔が涙の余韻で少し赤くなっている程度まで落ち着いた頃、
漸く狩人は彼女たちの元へと再び近づいた。
3人も足音に気が付いたのか、抱擁を解いて狩人の方へ向く。
「さて、感動の余韻に水を差してしまうようで悪いが、そろそろ話し合いに移ろうか」
「い、いえ、水を差すなんてとんでも。
寧ろ、
先輩を助けていただいて……感謝してもしきれません」
……ほとんど無意識のうちであろう、アヤネの[私]という言葉。
そもそも疲弊している精神状態と、
ノノミを説得したのは自分だという罪悪感からこぼれたのだろう。
とはいえ、その言葉にシロコとノノミが反応しないわけがない。
「アヤネが責任を感じることじゃない。言い出しっぺは私」
「そ、それを言うなれば最後に決定を下したのは私ですし……」
「……責任の問題は今ここで話し合う必要はないだろう?
結果として君たちは、全員命あってここにいるのだから」
今にもお互いの自罰で話が逸れていきそうになったものの、
先輩が冷静にそれを諌める。
……その言葉で、ひとまずは3人の状況は落ち着いたようだ。
「……そう、ですね」
生きていれば、生きてさえいてくれれば、またやり直せる……
その言葉が、アヤネの脳裏に瞬く。
……そんな彼女の表情を、狩人はしばらくの間見つめていたが
やがて、コホンと一つ咳ばらいをすると改めて3人に尋ねる。
「さて。先ずは、何から聞きたい?」
「……じゃあ、私が」
その言葉に小さく手を上げたのはシロコだった。
そう言った後、ちらりと変質しきった自分の左手に視線を向けると、
改めて狩人へと視線を戻す。
「輸血液……いや、そもそもヤーナムって場所の血の医療って一体何なの?」
「……確か、あの時君達に伝えたのは血の医療と獣。
そして我々、狩人についての大まかなことのみだったな」
狩人の言葉に少女たちは頷いた。それを確認した狩人は少しの間考え込む。
「……そうだな。端的に、要点だけ伝えるとすれば、だ。
君が獣へと転じる寸前だったのは、
そもそもの獣の病の最たる原因がその血の医療そのものにあるからに他ならない」
「……!?」
……血の医療そのものが、獣の病の根源。
まるで、ある病気を止めるために、
ワクチンですらなく、病原体そのものを身体に投与するとでも言っているような言葉に少女たちが驚愕する中、狩人はシロコに問いかける。
「シロコ。身体的な特徴以外に何か身体に変わりがあるだろう?」
「えっ……確かに、前よりもずっと身体が軽くて、
感覚も鋭くなってるような……」
「そう、それだ」
シロコの言葉に狩人は頷くと、言葉を続ける。
「ヤーナムの血の医療を受ければ、その者は血により生きる意志を得る……
言い換えれば、その血の力により大なり小なり、並み以上の力を得ることができる。
話すと長くなるから細かいことは省くが、順番が逆なのだ。
人ならざる力を求め、血の医療を見出したからこそ獣の病が、そして狩人が現れた。
獣の病へ罹患したものは失敗例、狩人は成功例、といった具合にな」
「……!」
「それは……」
理解できない……したくもない。
いつの時代も、人は発展を、高みを求める。それは当然の摂理だ。
けれど、それによって行きついた先がその様な、
人であることを最悪の形で捨てるようなものなど……
「狂ってますよ、そんなこと」
気がつけば、アヤネはそう呟いていた。
その言葉に先輩は短く頷く。
「ああそうだ。だからこそ、ヤーナムが廃れたのは必然ともいえるだろう」
その時、先輩が血の医療について話し始めた途中辺りから、
ずっと何か考え込んでいたシロコが急に何かに気が付いたのかはっと顔を上げた。
……その脳裏に浮かぶのは、
狩人と獣の起源、そして、セリカの言う、[暴走]……
「……待って、じゃあセリカの[暴走]って……!」
「!!」
その言葉が聞こえて、アヤネとノノミもその可能性に感づいたのか
反射的に、ほぼ同時にシロコの方へと振り向いた。
……そして、
「そうだ。ここからが本題だな」
狩人がそう発言したことで、彼女たちの思う可能性は完全に確定した。
「狩人と獣が表裏一体なら、狩人が獣へ転じることも十分にあり得る訳だ。
それは精神状態が強くかかわっているのだがな」
「精神状態、って……」
アヤネは狩人の言葉を反芻する。
セリカの今の精神状態が正常かと言われれば、断じて否だ。
というより、獣にこそなっていなくとも、
今までも何回か怒りで我を忘れてしまっていたことがあった。
「アヤネ。先程の君の話を聞く限り、セリカの状態は非常に危うい。
今すぐにでも獣化してしまってもおかしくないほどにな」
アヤネの推測を裏付けるように狩人がそう言葉を続ける。
……アヤネの表情は見る見るうちに青ざめ、
ノノミは息を呑んだきり言葉を失う。
シロコは何も言わなかったものの、その表情が厳しい、悲痛なものへと変わる。
「……気休めではあるが。
セリカの獣化はシロコの身体に見舞ったような、存在の不安定さから来るものではない。だから、万一完全に獣化してもこれを撃破することにより元に戻すことは可能だ。
それに、彼女の存在自体、良くも悪くもこの夢に囚われている。だから、君たちの光輪を削り取る兵器を使用されたとしても一時的に獣化するのみだろう」
3人の様子を見かねたのだろう。
狩人はそう、セリカは獣化が完全な終わりでないことを告げる。
だが、それを告げる本人の口調が優れないのでは、その励ましも焼け石に水でしかない。
「……でも、戻れたとしても。
獣になること自体がセリカちゃんの心に深い傷を作ってしまうはずです」
「……あぁ、そうだ」
アヤネの言葉に、狩人は一瞬言い淀んだもののそれを肯定する。
そんな狩人の返答に、彼女もまた、それを確かめるように頷いた。
容易に予想できることだ。
大切なものを傷つけ、奪われる事を何よりも恐れるセリカが、
それを理性を失い、自分の手で行うことになれば……
……だが。
「……でも、今の私たちだけでは……
先生と、協力者の便利屋の皆さんの力があっても、
セリカちゃんを止めて、
カイザーを下して、
ホシノ先輩を助ける。
それらを達成することが難しいことも、残念ですが事実です」
……そう言うとアヤネは、狩人のことを。
三角の被り物の奥にあるであろう、まだ見ぬその素顔へ向けて、
確かな意思の籠った表情で見る。
今も残る自身の精神の憔悴を押し殺して。
ただ、大切なものを救うために狩人に言葉を紡ぐ。
「ですので、狩人さん。
私たちに……アビドス対策委員会に。協力しては頂けないでしょうか?」
はっきりとした少女の言葉。
それに対する狩人の返答は非常に早く、そして迷いのないものだった。
「残念だが、それは不可能だ」
「……え?」
……はっきりと、狩人は彼女の申し出を断った。
受け入れてもらえると、思っていたのだろう。
呆然とするノノミとアヤネに対し、狩人は告げる。
「……もう一度言おう。単に断るのではなく、不可能なのだ。
私とて、出来る事なら今にもこの手でカイザーとやらを残らず狩り取ってやりたい」
「じゃ、じゃあ……どう、して?」
ショックから辛うじて言葉が紡げる程度には立ち直ったノノミがそう尋ねる。
それに対し表情はわからないものの、
それが見えたのならば、今、彼は唇をかみしめている……そんな声色で狩人は答える。
「私という存在が君たちの世界に長時間干渉するようなことは、
数多の防護策を講じていたとて避けなければならない。
……君たちでは絶対に対処できないこと。
それこそ、セリカが獣と化すといった事態を収束させるためにほんの一時的に顕現するようなことならば、可能だろうが……」
「……?」
「そ、それってどういう……」
「アヤネ、ノノミ」
狩人の言葉の意味が良くわからないのか、困惑するアヤネとノノミ。
そんな彼女たちに別方向から声がかかった。
……シロコだ。
「……狩人の言葉は正しい。この人はキヴォトスに来ちゃいけない」
「シロコ、先輩?」
……シロコは元々、そこまで冗談を言う性格ではない。
突拍子もないことを極真剣に提案したりもするが、
今の彼女にそのような様子は一切ない。
ただ、いつになくその表情は厳しく、
そして、柄にもなく何処か怯えているようでもあった。
「私は成り行きで
……ダメ。
簡潔で、酷く抽象的な単語。
けれど、シロコが今発したそれは、もっと別の意味を含んでいるようで……
「……この世には、理解の及ばぬことがある」
その時、不意に狩人が言葉を発した。
「人は往々にして秘匿を解き明かしたがるものだ。
だが、それの秘匿は時に決して理解し得ぬが故に、
理解し得ぬように秘匿されているのだ」
そこまで言うと、狩人はゆっくり少女たちに向けて手を差し出した。
その中にはいつの間にか、
あの日、セリカがゲヘナ風紀委員の行政官に使った
頭頂部の砕けた頭骸骨が握られていた。
「迂闊に知ろうとすれば、この頭蓋の本来の持ち主のようになる。
[私]とはそう言う存在そのものなのだ。
存在しているだけで、世界の根幹に影響を与えかねないような……な」
「……なんだか、聞いてる限りだと都市伝説みたいですね。
知ってしまったら、恐ろしいことが訪れる……みたいな」
狩人の言葉に、ふとノノミが思いついたようにそう言う。
その言葉に狩人は短く頭の三角を揺らした。
「都市伝説の意味は解りかねるが……まあ、大方そのようなものだ。
正直、シロコの獣化を止めるためとはいえ、
秘匿を解したことすら賭けのようなものだった。
秘匿というものはそれ程人の身に余り、故に不用意に動かすべきではないものなのだ」
「……」
その言葉で、その秘匿のことを思い出してしまったのだろうか。
心なしかシロコの表情が青ざめているように見える。
……だが、その反応と狩人の言葉があれば、
その裏にあるものの恐ろしさを理解するには十分だった。
「……正直、理解できているとは言えないですけど……
取り敢えず、何か理由があることだけは十分に伝わりました」
「そう言ってもらえると助かる」
アヤネの言葉に、狩人は安心したようにそう言うと一つ息をつくと、
ふと何か思い至ったのか懐に手をいれる。
「……だが、このまま何の助力もしないというのも私の性に合わないのでな。
君たちにはこれを渡しておこう」
そう言うと、狩人は懐から何か取り出すと一番近くにいたアヤネに向けて差し出した。
片方は、水銀で並々と満たされたシリンジ。
もう片方は……銀色の小さな鐘だった。
「……これって、水銀弾、でしたっけ?」
「ああ、そうだ。今回の場合はその鐘を使うための触媒として使用するのだがな」
アヤネからの問いかけに狩人はそう言って頷く。
その時、その鐘を見たシロコが狩人へと声を掛けた。
「狩人、鐘の方はセリカから先生にもう渡されてる」
「……え?」
「!?」
その言葉に驚いたのはアヤネとノノミの方だ。
……当然といえば当然だろう。
ホシノの失踪が発覚してからいろいろな出来事が一度に起こりすぎて
あの時のセリカとの会話のことを話せていないのである。
「シロコちゃん、いつの間にそんなことが……?」
「えっと、砂漠に行く前にセリカから
自分が暴走するかもしれないって打ち明けられたの。
その時、先生に自分が手遅れになったら使って欲しいって同じ鐘を……」
「……あぁ、それはまた別の物だ」
その時、シロコの説明に何か思い至る節があったのか狩人が不意にそう言った。
「恐らく先生に渡したというのは狩人呼びの鐘だろう。
詳しい説明は省くが、私のような狩人を一時的に呼び出せるものだ」
「……ん、わかった。じゃあこれは?」
狩人の説明に納得したのかシロコは軽く頷くと改めてそう尋ねる。
「これは聖歌の鐘と言ってな。
触媒を使用して使用者と至近距離にいる人間の傷を癒やす道具だ。
輸血液と違うのはこれにはあれのような副作用がないことだ」
「……!」
その言葉に少女たちが驚愕するのは、当然ともいえるだろう。
「……使用回数は2回程度が関の山だがな」
その様子を見て過度な期待はさせまいと思ったのか、
そう訂正する狩人のその言葉に釣られるように、
改めてアヤネたちは手の中のその小さな鐘を見た。
……もし、この鐘があの時手元にあったなら。
このようなことは起こらずに済んだだろうか……?
そんな思考がふと、アヤネの脳裏を過る。
けれど、彼女はすぐにそれを振り払った。
過ぎたことを、ifを今更考えても仕方ない。
少なくとも、これから起こっていたかもしれない悲劇をこれで防ぐことができる……
……そう考えた方が、ずっと気が楽だ。
「それとシロコ。君には輸血液も渡しておこう。
一度獣へと近づいてしまえば、今度は定期的に血を服用しなければならなくなるのでな」
「ん……わかった」
アヤネがそんな思考に浸っている最中、
狩人は今度はシロコに向けて大量の輸血液を手渡していた。
……普通なら明らかに懐に入りきらない量のそれだが、
形はどうであれ本質的に狩人に近づいているためなのか、それらはどこかに立ち消えてしまったかのように、けれど確かに懐に収まった。
それを見届けた後、改めて狩人は少女ら全員を視界に収める。
アビドス少女達も三角の奥にあるであろうその視線を見返す。
「私が今君たちに出来ることはこれが全てだ。
どうか、セリカが最悪の結果をもたらす前に連れ戻してほしい」
「……もちろんです」
狩人の言葉に、アヤネは力強く頷いた。
ノノミとシロコもそれに続く。
「狩人さんには十分いろいろしてもらいました。ここからは、私達の番です」
「セリカは私達の後輩で……仲間だから」
「……そう言ってもらえると助かる」
狩人は短く安心したようにそう言った。
……その時、狩人が何か感じ取ったように視線を上に逸らすと、
次に工房がある方向へと視線を向ける。
「ふむ。どうやら、丁度君たちの迎えが来たようだ」
「……迎え?」
身に覚えのないその言葉に思わず首を傾げた次の瞬間、
「"狩人っ!!"」
庭の小道の影から息を切らせた先生が勢いよく飛び込んできた。
しばらくの間狩人のすぐ近くで荒く息をついていた彼女だったが、
息が少しだけ整った次の瞬間バッと顔を上げる。
「"シロコとノノミとアヤネが居なくなったそれにセリカも……!
お願い、します。私にできることならどんな対価でも支払うから力を貸し……て?"」
ほとんど息継ぎすることなく、
まくしたてるように先生はそう言うと、狩人に向けて深々と頭を下げようとした……
所で漸く事態に気が付いたらしい。
「……ど、どうも」
「丁度帰ろうとしてたんですけど……その……」
「先生、私達はここいる」
動作の途上で呆然と固まった先生に、
3人は何とも言えない表情で思い思いの言葉をかけた。
……両者の間に、ひと時の静寂が流れる。
「"アヤネ、ノノミ……?それに、シロコ……!?"」
先生は、生徒たちの名前を心ここにあらず、
といった様子で呟くとよろめきながらも体勢を立て直す。
そしてそのまま、彼女たちのすぐ近くまで歩み寄ると腰を落とした。
「"みんな、大丈夫……だよね?どこも悪くなったりしてない……よね??"」
「完璧に大丈夫……とは、言いきれないですけど……」
「……ん。ちょっと、ね……」
先生の言葉に、少しだけ言いにくそうにするも一瞬。
少女たちは一瞬互いに顔を見合わせると、ふと微笑む。
そしてその表情のまま先生に向けて軽く腕を開いた。
……安心させるように、まるで抱擁を受け止めようとするかのように。
「……先生、私達3人は無事です」
「ん、この通り五体満足」
「だから、遠慮なんてしなくていいんですよ?」
「"……!"」
先生の瞳が一瞬見開かれたか。
そして、段々とその表情が崩れてゆく。
「"みんな、本当に、本当に……"」
大きく広げられたその腕が、生徒たちを一度に包み込む。
彼女らも、先生の身体を抱き返す。
「"良かった……無事でいてくれてっ、本当に良かった……"」
……その声には、涙が滲んでいるように聞こえた。
………………………………
その後、感動の再会もそこそこに、
先生は狩人と生徒たちから一連の出来事の説明を受けた。
シロコの身体の状態に関して話が及んだ時に、先生はその表情を少し曇らせたものの
概ねのことは理解した様子だった。
「"……そっか、そんなことが……
何はともあれ、ありがとう、狩人"」
「礼はいらないとも。私はただ、私ができる限りのことを尽くしただけだ」
先生の言葉に狩人は柔らかくそう返答すると、
咳ばらいを一つした。
「……さて、まだ話し足りないかもしれないが、
そろそろ君たちの世界へ帰るべきだろう。なんにせよ事態は一刻を争う」
「"そうだね……それじゃあ、みんな"」
そう言うと先生は、アビドスの生徒たちへと視線を向ける。
……彼女らも、その視線に対しこくりと頷く。
それを確認した後、先生はほんの少し微笑むと、たった一言呼びかけた
「"帰ろう、アビドスに"」
………………………………
………
…
「先生!?急に消えたと思ったら……ってシロコぉっ!?!?!?」
一先ず、全身血濡れだったシロコの服を着替えさせた後、墓石に触れ、
アビドス高校の屋上に戻ってきた先生とアヤネ、ノノミ、シロコ。
彼女らを最初に出迎えたのは、素っ頓狂なアルの悲鳴だった。
いつもならカヨコがため息をついたりムツキが茶化しているところだが……
「うわぉ。先生の話を最初に聞いたときは何のことかと思ったけど……
生きていれば、不思議なことの一つや二つ起こるんだね……」
「……今度はもう少し事前説明が欲しいかな、先生」
……そんな彼女たちも今回のことには驚いているらしかった。
後から聞いた話には、シロコ達が行方不明になったことに焦った先生が、
便利屋68の少女らに行方不明の旨を伝えた後、
碌な説明をしないまま狩人の夢に向かったらしい。
アルたちに使者達は見えないので、その驚きは余計にだろう。
その後、対策委員会の教室へと戻った後、ヤーナムの話は極力伏せて、
ただセリカの知り合いが住んでいる場所に特殊な方法で向かったと説明した。
ムツキとカヨコは半信半疑といった様子だがアルとハルカはすんなりと信じてくれた。
……あくまでこのことは、だが。
「そ、そのことは分かった……けど、」
一通りの説明が終わった後、ようやく落ち着いてきた……
いや、落ち着いてきたために今度は不安の方が強くなってきたのか、
アルはそう言い淀んだのちにシロコの方へと視線を向ける。
「シロコ……大丈夫、なのよね?
あの傷から回復してくれたのはもちろんうれしいけど、
何か、尻尾生えてるし、左腕も変な感じになってるし……」
「確かに、何だかハロウィンで狼人間の仮装してるみたいに……
こう言っちゃ難だけど、
セリカちゃんの言ってた獣に近くなってるような気がするような……」
「ん、んー」
便利屋たちからそう声をかけられ、シロコはどう返答すればよいのか迷ったのか
少しばかり考え込む。
「……セリカの言いつけを破ったらこうなったの。
そのせいでセリカの知り合いに呼び出されてた……みたいな感じ」
「言いつけを破った……って、あの薬を使っちゃった、ってこと?」
「うん」
アルの言葉にシロコは頷くと、禍々しく変質した左手を軽く動かす。
……変質していない右手と比べても、
その手は一、二回りほど大きい。
「今はまだ無事でいられてるけど、
使った直後は副作用でどうにかなりそうだったから……
やっぱり、できることなら使わない方が良かったんだと思う」
「シロコ……」
何処となく、沈んだ様子でそう言うシロコ。
……何と声を掛ければ良いのかわからないのだろう。
その横で言い淀むアル。
そんな彼女の様子に気がついたのか、シロコは表情を整えると少し明るい調子で言った。
「でも、何はともあれ体調は治った。
これでみんなと一緒にセリカとホシノ先輩のところに行ける」
「……そうですね。
カイザーの戦力を相手にする都合上、少しでも戦力は欲しところですし、
そういう意味では……」
……シロコの言葉にアヤネがいつも会議を取り仕切っている癖によるものか、
状況を取りまとめていたその時、何かに気が付いたのか言葉を途切れさせた。
その視線が、便利屋68の少女たちに向けられる。
「そう言えば、アルさん達は……」
「くふふ、野暮なこと言わないでよメガネっ娘ちゃん?」
けれど、その言葉はにまにまと笑ったムツキの声により押しとどめられた。
……きっと、アヤネが言わんとする言葉を察したのだろう。
そんなムツキの言葉を、アルが継いだ。
「私達も参加させてもらうわ。
戦友を傷つけられて尚引き下がるなんて……
そんなこと、アウトローの名が廃るものよ!!」
確かな意思を持って発せられたその言葉。
その声にも、瞳にも、一点の曇りがない。
そんな幼馴染の姿を見てまた、短く笑みをこぼすと改めてムツキも言った。
「目には目を、歯には歯を。
無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……ってね。
あの時以来、うちの会社のモットーでもあるんだからね?」
……いつも通り浮かべられたつかみどころない笑み。
けれど、その言葉には不思議といつものようなからかう調子のそれが感じられない。
「わ、わたしはアル様に従う次第です。
それに……個人的に奴らは消し飛ばさないと、って思ってますし……」
ハルカはそう言って、ショットガンをぎゅっと抱きしめた。
指示が出されれば、今にも飛び出して行ってしまいそうな
確かな気迫が、そこには込められていた。
……そんな仲間たちを見て、カヨコは一つ息をついた。
「……まぁ、こんなところ。
やるからには全力で、うちは助力を惜しむつもりはないよ」
そう言うカヨコ自身も、自らの社長が決定した選択に異論はない様子だった。
「……皆さん」
彼女らの言葉に、感極まったのかアヤネの言葉が震える。
……けれど、泣くにはまだ早い。
アヤネはそれを何とかこらえると、改めて真剣な表情を戻す。
「……便利屋の皆さんが参加してくれたので、
これで直接戦闘ができる戦力は私達含めて8人」
「皆さんは私達とは違って、爆弾で範囲殲滅もできますしね☆」
「"……うん。戦力も倍近くになったし、戦術の幅はこれで大分広がった"」
アヤネとノノミの言葉に、先生はそう相槌を打った。
だが、その表情は厳しい。
「……でも、正直これでも足りるかどうかはわからない」
「"……シロコの言う通り。
それに、時間に猶予がない以上どこかに救援を求めるのも難しい"」
先生の言葉に、少女たちは皆表情を引き締める。
……戦力差のことなど、初めから分かり切っていたことだ。
けれど、それでも進むのだ。
「まず、夜襲は絶対条件。戦力差を覆すにはそれしかない」
「できる限り迅速な作戦行動も求められますね。
そうでなければ、奇襲した効果が薄くなる……」
そこまで意見が出たところで、少女たちの視線が改めてある一点へと向けらる。
その先にいるのはこの場唯一の大人……先生だ。
「"……大丈夫。指揮に関しては私が何とかする"」
たった一言、何の確証もない……けれど、何故か信じられるその言葉。
「"私は、みんなの先生だからね"」
先生は、そう言って微笑んだ。
どもー、時空未知です。
実に一週間ぶりぐらいの更新です。やっぱテストはクソです。
まあ、それはさておき今回の作品はいかがだったでしょうか?
……皆さん、どうか落ち着いて聞いてください。
足 ペ ロ は キ ャ ン セ ル さ れ ま し た (迫真)
ゲヘナ風紀委員まで足を運べるだけの余裕がないからねしょうがないね。
ということで次回、いよいよカイザー基地攻略戦です。
……はい、戦力差やばいです。
いくらなんでも風紀委員の助力なしに連中とやり合うのは無理があります。
……けれど、けれどね。1人だけこの戦力差を埋めかねない人がいるんですよ。