極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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side present 狩人、又は獣狩りの夜(5)

 

 

 

……始めに動き出したのはセリカだった。

残り少ない青い秘薬を飲み干すと、その姿が景色の中に薄らいだ。

 

「消えたっ!?」

「狼狽えるな、サーマルを使って探し出して撃てぇっ!!」

 

その時、カイザーPMC側も動き始めた。

その無数の砲門が、秘薬を使用した筈のセリカただ1人に集中する。

まあ、秘薬は別に存在を完全に消失させる代物ではない。

事実、獣狩りでも感のいい獣には見破られることがよくある。

 

……ここまでは想定内だ。

 

次の瞬間セリカに放たれたのは、正に砲火の雨だった。

射線が被っているため主に攻撃しているのは7機のゴリアテと数台の攻撃ヘリ、そして高射砲のみではあるが、たった1人に向けられるには余りに多い。

 

「……!」

 

だが、セリカは前傾姿勢を取ると怯むことなくその砲火の中を一気に駆け出した。狙うはカイザー理事の乗る機体……ではなく、自分との戦闘経験がないであろう他の兵士の乗った機体だ。

対多数を相手にするならば、強敵ではなく、狩りやすい敵から狩り少しでも頭数を減らす……

そう判断しての行動だ。

……だが、それが実行できるのは、無論たどり着けてからの話だが。

次の瞬間、セリカの至近距離に衝撃波が走った。

 

「がっ!?」

 

ほとんど直撃に近い至近距離にどの敵が放ったかもわからぬ榴弾が着弾。

雨粒を吹き飛ばすと同時、セリカの体勢を大きく崩す。

その一瞬の内に、ゴリアテの両腕部のガトリング砲の弾丸が殺到した。

その体躯がそれらに嬲られるも一瞬。

瞬く間に、薄らいでいた少女の姿は粉塵の中に消えた。

サーチライトにより眩い光が投光されるが、撒い立つ砂に阻まれ状況は伺い知れない。

 

「おい、どうなっているんだ、確認できる奴は居ないのか!?」

「無理です!サーマルも地面が赤熱しているせいで精度が……」

 

普通なら確実に撃破出来ていると言い切れる状況だが、

今回ばかりはその限りではない。

何せ相手は少しでも動けるなら完全に回復できる手段があるのだ。

少し発見が遅れれば……

 

 

ガキィン!!!

 

 

「ア、アクチュエータがっ!?」

 

瞬間、量産型のゴリアテの一機の機体が無理矢理分厚い金属を切り裂いたような音と共にを大きく揺らいだ。

その足元に他方向から一斉にサーチライトが向けられる。

 

……そこには、いつの間に移動したのか黒い影が、セリカが立っていた。足元に転がるのは両断された迷彩柄の脚部装甲。

手に持つのは普段使用している直剣ではない。

鮮血を帯びた、薄い一振りの日本刀。

 

千景と呼ばれるその呪われた刀は、一撃の鋭さではレイテルパラッシュを遥かに上回る。

そもそも連戦に次ぐ連戦でレイテルパラッシュの耐久がかなり削れていたため、使い慣れたそれを温存するという意味もあるが……

 

「しまった……!」

 

ともあれ、敵が何をしようとしているのかを察した搭乗員は

慌ててゴリアテの脚部を操作し、後退しようとした。

けれどセリカは千景に付着した鮮血を切り払うようにして落としながら、

冷静にシンシアリティを内部機構が露出した箇所に照準する。

 

 

タタタッ

 

 

小気味よいバースト射撃の音とともに着弾地点から鮮血と共にスパークが迸った。

更に、その瞬間に地面を踏みしめたため、

その巨大な機体全体がバランスを失い大きく揺らめく。

搭乗者の視界に映るのは、重力に引かれ落ちてゆく景色と

巨体の下敷きにならないようにステップしながらも、

着実にこちらに近づいてくるセリカの姿……

 

「ひっ……!」

 

恐怖に駆られた兵が、脱出装置のレバーを引いたは当然といえるだろう。

ステップの勢いを乗せた居合切りが届くほんの一瞬、

操縦席が撃ちあがり戦闘圏外へと飛んでいった。

 

「……逃がした」

 

……思わずそう呟いたものの、

一先ず面倒な相手を一機排除することはできた。

 

ガトリング砲の掃射からのダメージ回復に輸血液1つ。

更に緊急補充をしたため、その回復に更に1つ。

輸血液は残り8つ、水銀弾は残り7発。

 

次は……

 

「っ!」

 

思考を巡らせていたセリカだったが、

何かが飛来する音を聞き届け即座にその場から飛び退る。

次の瞬間、先程までセリカがいた場所に上空から飛来した無数のロケット弾が着弾した。

……攻撃ヘリだ。

 

 

「面倒……!!」

 

 

セリカは再開された各方向からの砲撃の雨を紙一重でかわしながらそう呻くと、

水銀弾を使用するために有効射程の短いシンシアリティではなく、

銀鴉として変装している時に使用しているリボルバーマグナムを取り出すと、

上空へと銃口を向けるとトリガーを引いた。

 

 

ガァンッ!!

 

 

大口径の弾丸が相応の炸薬をもって放たれる轟音と反動が、セリカの腕にのしかかる。

けれど、夢に囚われる以前から狙撃の腕前はアビドスの中でも随一だった彼女の手により放たれたその弾丸は、寸分の狂いもなく暗闇の中を飛跳。

ヘリの側面にある弾倉部分を的確に撃ち抜いた。

 

[なにっ!?]

 

小規模な爆発と共にそのバランスが崩れる……だが、撃墜するには至らない。

セリカは一時的に、別方向のゴリアテから放たれたミサイルの回避に専念すると、

辛うじて体勢を立て直した先程のヘリに向けて再び照準。

 

 

「墜ちろ」

 

 

轟音が連続した。

 

 

続く2発目はコクピットの窓をたたき割り、中にいたパイロットの意識を刈り取り、連射された3発目はローターの根元を的確に撃ち抜いた。

不安定な軌道を描きながら墜落してゆく攻撃ヘリだったが、

セリカはその成り行きを確認する間もなく、次の攻撃への対処に移る。

 

[さ、3番機、撃墜されました!]

[そんなこといいからとっととあいつをどうにかするぞ!

対処が遅れて誰か死ぬよか遥かにマシだ!!]

 

……無論、先ほどの一機でヘリからの攻撃が終わったわけではない。

未だ無数のそれが音を立てて上空を飛び回っている。

セリカは戦場を駆け回りながらも、意識外からの攻撃をしてくるそれらを少しでも撃墜しようと再びマグナムの銃口を上空へと向ける……が、

その時、視界の端で赤い閃光が走った。

 

 

「……!しまっ

 

 

かなり無理のある体勢からでも反射的に回避行動に移れたのは、

やはり常日頃から狩りを行っていたからだろう。

だが、それでも限界はある。

 

 

「貰ったぞ!!」

 

 

カイザー理事の乗るゴリアテの主砲から放たれた赤色のレーザー。

それは一瞬にしてセリカの全身を飲み込んだ。

いくらキヴォトスの人間といえど直撃すればただでは済まないような威力を誇る高出力の熱線が、射線上にあった雨粒を須らく蒸発させ、セリカの身体を焼く。

 

 

「あぁあ゛あああっ!?!!?」

 

 

ヤーナムではまず感じることのないような苦痛にセリカから苦悶が発せられる。

……だが、その一撃すらセリカを行動不能に陥らせるには至らない。

 

 

「くははは!どうだ!!いい加減に……!!

 

 

照射が終わり今にも崩れ落ちてしまいそうな激痛が全身を襲う。

けれど、セリカはそれを無理矢理ねじ伏せると、

輸血液2つを一度に自身の太ももへ突き立てた。

一瞬で痛みは立ち消え、歪んでいた視界も鮮明になる。

その時、

鮮明になった視界が、開いたヘリの武装コンテナから射出された四角いもの……ヘイロー破壊爆弾を捉えた。

 

 

「!!」

 

 

セリカは正面に飛び込むようにして辛うじてそれを回避した。

……これでセリカが完全に撃破できるものと思っていたであろう。理事が悪態をつく声がきこえてくる。それをBGMにセリカは最後の青い秘薬を飲み干すとかろうじて今までの攻撃の中粉微塵には破壊されておらず、砲撃の残り火に包まれている廃墟群に潜り込んだ。

 

「理事、また目標を見失って……!」

「そんなことはわかっている、今すぐ奴が消失した座標から離れろ!!先程の馬鹿と同じ轍を踏んだらただではおかんぞ!!」

 

……聞こえてくる理事の怒声から察するに、流石に敵もセリカへの対処法が板についてきた。

距離を詰められたら負けるなら、絶対に距離を詰めさせない。

詰められそうなら退避する。

単純だが、恐ろしく面倒だ。

 

「迫撃砲部隊!奴が消失した座標を送る、残さず吹き飛ばしてやれ!!!」

「……っ」

 

それに追い打ちをかけるように、

そんな理事の命令が聞こえてくる。

セリカは短く顔を顰めると、回復しきれなかった傷を輸血液を更に投与して癒しながら砲撃圏内から退避するべく移動を開始した。

 

輸血液、残り5。水銀弾は変わらず7。

 

それに、ヘイロー破壊爆弾を使用してくることがわかったことでセリカの中で攻撃ヘリに対する脅威度が跳ね上がっていた。

ただでさえ対処が難しいのにたまったものではない。

……唯一の反撃手段であるマグナムの残弾は15。

一機撃墜するのに3発と仮定しても5機分。

全てを撃ち落とすに足りるかどうか、といったところだ。

 

「……来た」

 

丁度廃屋を抜けた辺りで、迫撃砲の砲弾の飛来音が響き始めた。

遅れて聞こえる破壊音。

……青い秘薬の効果はまだ続いているが、

これが切れてしまえば、もう奇襲することすらままならない。

……何か、状況を巻き返せる手段を……

 

彼方への呼びかけは?

 

……発動までのタイムラグが大きすぎる。

一度詠唱を開始すれば発動まで止まることはないが、別に発動中攻撃されたダメージを無効化するわけではない。

今までだって敵が混乱している時に不意打ち気味に差し込むぐらいだった。

そもそも物資の損耗も馬鹿にならない。

 

……勢い任せの特攻は?

 

いや、そもそもその特攻が通らないからこうして立ち回っているのだ。

……いよいよ自分も追い詰められ、碌なことが考えられなくなってきたようだ。

まあ、だからといって撤退という選択肢は一切無いが……

セリカは短く息をつくと、右手にレイテルパラッシュを、左手にマグナムを持つ。

 

何にせよ、攻撃ヘリを少しでも減らして動きやすくすることが先決か……最悪、ゴリアテは千景のみで撃破できる。

セリカはそう思い直すと攻撃しやすい位置にいるヘリを探す。

羽音からしてかなり近くに居るはずなのだが……

 

……その時、

 

「……なぁっ!?」

「……!!」

 

突然、セリカの目と鼻の先に目標のそれが飛び込んできたのだ。

……低空飛行してセリカの姿を探していたのだろうか?

操縦席には、オートマタではなくヘイローを持つ生徒の兵士が乗っているのが見える……

 

……生徒。

 

いいことを思いついた。

セリカは即座に辺りを見回すと敵の機体に飛び移れる箇所を探す。

……丁度、都合のいい瓦礫があった。

 

「も、目標発見!!発見!!」

「これだから低空飛行はやめとけって言ったんだよ!!早く上昇しろって!!」

 

攻撃ヘリは慌てて上昇しようとしているようだが、

その反応はセリカにとって余りにも遅かった。

上昇するそれに向けて、セリカの身体が軽やかに跳躍する。

……その手は、その車輪に間一髪で届いた。

 

「うわっ!?」

「とりつかれたの!?」

 

人1人分の重量が急にのしかかったことで、機体が揺れる。

セリカはその揺れの反動すら使用し、武装コンテナの上へと移動すると、そこから操縦席に向けて足を踏み外さぬよう移動する。

 

「足音、足音するよっ!?」

「振り落とせって!!早くしないと下手すりゃ味方から撃たれるぞ!!」

「だ、だっ

 

 

バキィッ!!

 

 

次の瞬間、前方の座席に座った少女に聞こえてきたのは、コクピットを覆う透明な防塵シールドの後方部分が砕け散る音だった。

……それっきり、ロータの回る轟音と雨粒が装甲を叩く音以外の一切が途切れる。

 

「……カナヨ?」

 

少女は短く、この会社で唯一の友人であり、

後部の操縦席に座っているはずの少女の名を呼ぶと、

恐る恐る後ろに振り返った。そこには……

 

「……ぁ」

 

血の飛び散る後部席。

そこに、グッタリとした友人とは違う黒い影がいた。

その黒い影は、ショックで呆然とする少女に向けて白く風化した刃を躊躇なく突き立てた。

 

パキッ!

 

刃は鈍く、更に風化した骨の短刀は少女の肌を切り裂きながらも脆く砕ける。

けれど、その傷口さえあればそこから滴る緑色の薬液が入り込むには十分だった。

 

「………」

 

セリカはそれを確認すると何も言わず自分がこじ開けたコクピットの穴から外へと身を乗り出す。

その様子は確かにその少女の視界に入っていたはずだが、彼女は、セリカの姿も、脇腹を貫かれ意識を失っている友人の姿も、何もいなかったかのように、何の異常もなかったかのように正面へと視線を戻した。

 

「……ひっ!」

 

そして、その代わりに外の他の……味方のはずのもの。

その全てが、まるで恐ろしいものであるかのように振る舞い始めたのだ。

搭載された機銃の照準が別方向にいるヘリに向けられる。

 

[5番機?どうしたんだ5番機!?]

「く、来るなっ!?!!」

 

 

掃射

 

 

思わぬ相手からの攻撃を受けた故に、碌な回避行動もとれずその一機が撃墜される。

 

「何?何なの?!化け物がいっぱい、ひいっ、こんなのっ知らない!?!

助けっ……死にたく、死にたくない……!!」

[何をしている!?それは友軍、おわっ!?]

 

 

……2機目。

 

 

5番目の攻撃ヘリは滅茶苦茶な軌道を描きながら上空を飛び回る。

セリカはそれに振り落とされないように装甲に取りつきながらも、

次なる着地点(・・・)を冷静に探す。

 

 

[……!5番機の側面装甲に黒見セリカを確認!!]

[目標確認の報告は本当だったか……構わん、撃ち落とせっ!!]

 

 

「……気づかれた」

 

 

上空を飛び回っていた他の攻撃ヘリが明らかな敵意を持ってこちらに旋回する。

 

「カナヨ、は、早く上昇してくれ!!

私だけじゃ火器管制と操縦を両方こなすなんてできないぞ!?」

 

……いた。死角から急激に上昇して攻撃を仕掛けるつもりなのか、下方向に一機。

あの位置なら十分に飛び移れる。

 

セリカは装甲のヘリを握っていた手を放すと、宙に身を躍らせた。

一瞬の浮遊感。それと同時、セリカの身体は雨粒と共に落下し始める。

……だが、その落下も長くは続かない。

 

 

バキッ!!

 

 

「ぐっ……!」

 

 

凄まじい音を立ててセリカの身体がプロペラに激突する。

決して少なくないダメージがもたらされるが、セリカは何とかコクピットのキャノピーの枠辺りに掴まった。

一方、ヘリの方が受けた損害はセリカのそれの比ではない。

 

 

「メ、メインローター大破っ?!高度がっうわああああっ!?」

 

 

浮力を生み出す一番重要な部分が破壊されたうえに、

急に落下速度のそれなりに乗った重量物が飛びついてきたのだ。

バランスは急激に崩れ、無茶苦茶な軌道を描き始める。

 

「……これはもうダメそう」

 

セリカはそう呟くと、

今にも墜落しそうなそれの側面装甲を思いっきり蹴とばし、

その勢いのまま大体同じぐらいの高度を滞空していた別の攻撃ヘリの車輪に飛びついた。

 

 

[5番機撃墜!!だが、目標は……]

[目標はどこかに落ちた!!その巻き添えを12番機が食らって……]

「こちら1番機、目標は多分うちの機体に引っ付いてやがる。

このまま撃ち落としてくれ!!」

 

上から聞こえてくる通信に耳を傾けながらも、

セリカは右手でぶら下がったまま左手のマグナムを照準。

近場にいた一機に狙いを定める。

 

 

1発

 

 

側面装甲に命中するが、

元々被弾を想定して頑丈に作られている部分であるためか足りない。

 

 

「……やっぱり、ローターを直接狙わないと、か」

 

 

セリカはそう呟くと再び照準した……が、

 

 

がくんっ

 

 

急にぶら下がっていたヘリが移動を開始したためにその照準は大きくぶれた。

放った弾丸は甲高い音を立てて跳弾、あらぬ方向へと飛んで行く。

 

[1番機!]

「5番機みたく乱心したわけじゃないから安心しろ!!

今のうちにとっとと撃墜しろって!!」

「っ!」

 

どうも相手はこちらに狙いをつけさせないつもりらしい。

風と雨に嬲られながら、セリカはマグナムをしまうと懐から

別の何かを取り出す。

……それは、黒いプラスチック製の画鋲をそのまま大きくしたような見た目の物体だった。

セリカはそれの先端部分を無理矢理装甲に突き立てることを3つ分繰り返した後、

パッとヘリの車輪から手を放した。

……再びその身体が雨粒と共に下へ下へと落ちてゆく。

 

[……!1番機!目標が手を放したぞ!]

「!……はは、そいつは良かった。貴重な戦力を削らずに

 

 

爆発

 

 

次の瞬間、セリカが先程まで掴まっていたヘリの下部で爆発が起こったかと思うと、

その通信が途切れる。

 

 

……時限爆発瓶。

読んで字の如く作動から一定時間後に起爆する特殊な狩道具だ。

普段の狩りではまず使用しないような代物だが、

まさか役立つ時が来るとは……

 

そんなことを考えながら、セリカはレイテルパラッシュを取り出すと変形。

それと同時に1枚の紙切れを擦る。

 

 

バチィッ!!

 

 

瞬間、夜の暗闇の中で蒼白の雷光が弾けた。

それは落下するセリカの軌道を美しく彩る。

 

雷光ヤスリ。

彼の黒獣の雷光を人為的に発生させる特殊な紙片。

……少なくとも、精密機械にはこういった雷撃は致命的だろう。

 

そう思考するセリカの視線の先には、量産型のゴリアテが一機。

丁度セリカの落下地点にいた。

 

 

タンッ

 

 

セリカはその方の装甲へ軽やかに降り立つ。

あれだけの高度から落下したというのに、その衝撃による負傷は一切見受けられない。

……普段から獣のカレルを刻みつけておけば、こういった時に役に立つものだ。

 

「なあっ!?」

 

視線の先には驚愕に表情を染めるオートマタ。

セリカはそれに向けて雷光を纏ったレイテルパラッシュを向ける。

 

 

パァンッ!!

 

 

短い銃声と共に放たれるは雷光を纏った真紅の弾丸。

それが、オートマタの装甲に突き刺さり、貫通する。

 

 

「がgggががががああっ!?」

 

 

内部機構に過電流が走ったのだろう。

奇妙な悲鳴を上げて機能不全に陥ったそれを余所に、

セリカはすぐさまゴリアテの肩から飛び降りた。

……瞬間、その場所に火が、撃墜されたヘリの残骸が降り注いだ。

それは瞬く間にその全体を飲み込み、やがて一つの火球へと姿を変える。

セリカも少なからずその余波を喰らったものの、

行動に支障をきたす、というほどではない。

 

「……ふぅ」

 

セリカは短く息をつくと、輸血液を投与する。

……これで輸血液の残りは4。

状況が厳しいことには変わりないが、それでも幾分か楽になった。

これなら……

 

 

「そこか、黒見セリカっ!!!」

 

 

瞬間、もはや聞きなれた声が響いたかと思うと、発射音がそれに追従する。

セリカは素早く体勢を元に戻すと、回避行動。

先程まで自身がいた場所に、ミサイルが突き刺さる。

けれどそれを見届ける間もなく、セリカは続けざまに飛んできた砲弾へと意識を集中する。

 

 

……その時、

 

 

「……ぅ?」

 

 

……そう、これはほんの小さなミスと、偶然が重なっただけなのだ。

いくら狩人といえど精神的に、肉体的に想定以上に疲弊しており、

蓄積し続けるそれを激情の中に押し殺していたが故に、

気が付かぬうちに発生した些細なミス。

回避しようと踏みしめた場所が偶々、雨でぬれたコンクリート片で、

疲労が相まって踏み込みが足りずにその足が滑った。

 

訳も分からぬまま地面の転げたセリカの身体を砲撃が穿つ。

 

 

「がはっ!?」

 

 

衝撃波に無理矢理身体を押し拉げられ、セリカの口から奇妙な吐息が零れる。

それだけだったならば、まだ立て直しようがあった。

……だが、

 

そのすぐ傍に。

本当に奇跡的に、内部の兵器が先程の誘爆に巻き込まれず、

ただ吹き飛ばされたヘリの武装コンテナの残骸が……

 

 

ヘイロー破壊爆弾を搭載したコンテナが、傍にあったことなど。

ほんの偶然に過ぎなかったのだ。

 

 

カッ

 

 

音が、消えた。

辺りが閃光に包まれる。

 

 

「……あ」

 

 

自分の中の何かが無理矢理引きはがされ、奥底に眠る何かがあふれ出てくる。

 

 

……それっきり、黒見セリカの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

黒い、試作型のゴリアテの操縦席。

そこでカイザー理事は荒い息をついていた。

サーチライトで照らされているのは、

つい先ほどまで、たった1人でカイザーPMCに対し、

もはや悪夢とすらいえるほどの惨状をもたらしていた少女。

それは今、地に伏したままピクリとも動かず、

頭上に浮かぶヘイローは酷くノイズがかったテレビ画面のように明滅している。

 

 

「……やった、やったのか?」

 

 

……呆然と理事は呟く。

あれだけ必死に、持ちうる戦力全てを投入して撃破しようとしていたのに、

いざその光景を目の当たりにすると、どこか信じられない。

 

[理事……その、目標はどうやら、

偶々落ちていたヘイロー破壊爆弾の誘爆に巻き込まれて、それで……]

 

ふと、部下からの通信が聞こえてくる。

……その声を聴いて、漸く理事は今目の前で起こっていることを実感した。

 

「……そうか、そうか。私はやった、やったのか……」

 

ふつふつと、戦闘時の興奮と焦燥で忘れていた疲労が身体を包み込む。

けれど、それ以上に心の奥底からある感情が沸き上がってくる。

 

 

「私は、私はやったんだああああああぁあああ!!!

くはっ、くははははっ!!!」

 

 

ゴリアテのコクピットから、狂喜の叫びが溢れ出す。

それは拡声器を通して戦場全体に響き渡った。

……兵たちも、それでようやく事が終わったことを悟ったのか、

ある者はその場に座り込み、ある者は理事と同じように勝鬨の声を上げ、

ある者は墜落したヘリの残骸へと応急キットをもって急ぐ。

理事はそのまま一頻り笑いに笑った後、

セリカが倒れ伏していた所へ視線を向けながら

部下に呼びかけるべく音声装置を起動させる。

 

「よし、生きているかどうかはしらんが、黒見セリカの身体を回収しろ。

これだけ迷惑をかけさせられたのだ。

とことん実験して使い潰してやらんと腹の虫が……」

 

 

……収まらん。

 

 

理事はそう言葉を紡ごうとした(・・)

……そう、紡ごうとしたのだ。

だが、結果としてそれはすぐに途切れることとなる。

 

 

「……は?」

 

 

先ほどまで倒れ伏していたはずの黒見セリカが、

緩慢な動作ながら起き上がっていたのだ。

だからといって今までのように傷から回復した、という様子ではない。

片時も放すことのなかった武器はすべて取り落とし、

ヘイローは未だ明滅を繰り返している。

その動作もどこか人とは思えぬもので……

セリカの頭が、暗い雲で閉ざされた空をゆっくりと見上げた。

 

……まるで、そこに本来浮かんでいるべきものを請うかのように。

 

その頭から帽子が、

そして度重なる着弾の衝撃で結び目の緩んでいた白いリボンが零れ落ち、

雨に濡れた黒髪が広がった。

 

 

「あ……ぁ、……ア、アアアア」

 

 

セリカの口から苦痛にあえぐような唸り声が零れる。

だが、それはだんだんと別の物へ……人ならざるものへと変わってゆく。

 

 

「う、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァアアアアアアアアッッ!!!??」

 

 

セリカが自身の頭を割れんばかりに押さえつける。

まるで溢れ出す何かを抑えつけようとするかのように。

 

ヘイローが、黒く砕けてゆく。

それと同時に、セリカから発せられる声が悍ましい何か……

獣そのものへと変貌していく。

その小柄な体が、一瞬の光に包まれる……瞬間、

 

 

 

 

「ゴアァァァァァァァァァァアアァアアアアアアアアアッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

一際大きな、食い破らんばかりの咆哮が辺り一帯に響き渡った。

 

 

……そこには、一匹の獣がいた。

 

 

黒い毛並みにやせ細った身体。

だがその体躯は、ゴリアテのそれに迫らんとするほど巨大で、

その手と爪のみが骨と皮ばかりの身体に見合わぬほど凶悪に肥大化している。

狼を思わせる乱杭歯の並んだ頭部には裂ける様な瞳孔の赤い瞳が宿り、

頭上には黒く砕けたヘイローが浮かぶ。

 

 

 

……血酔いの獣、セリカ。

 

 

 

彼の地でそれは、そのように呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 










どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

……はい。あえて何も言いませんがお察しの通りです。
事態は最悪の方向に悪化しました。
強敵は第2形態があるものだからねしょうがないね。
取り敢えずカイザー理事は……残骸が残ればいいですね()


一応、獣化前に散々輸血液を使用しているのでセリカちゃんにも理性が残っている可能性が無きにしもあらずですが……
残ってたとしていつまで、
具体的に言うとこれからこの場所に来るであろう人たちが来るまでもつかなぁ。
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