極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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手を伸ばしても、届くことはない











side present 対策委員会、又は血酔いの獣(1)

 

 

 

「ぅ……?」

 

 

 

暗闇に包まれた球状の空間。

非常灯が辛うじて照らすその外壁は、

奇妙な装置がびっしりと、隙間なく大量に取り付けられていた。

どこか生理的嫌悪を呼び起こすその装置群が向けられたのは中央ただ一点。

その中心部から、小さくかすれた声が響いた。

こつん、と。小さな物音を立てて地面に倒れ込んだその人物はしばらくそのまま地に伏せていたが、やがて緩慢な動作でその場に座り込んだ。

そして、手をゆるゆると眼前に持ってくると、久しくそれを動かしていなったかのようにまじまじと見つめる。

 

「身体が、自由に……?夢でも、見てるのかな……」

 

この空間、実験室に囚われとなっていた少女、小鳥遊ホシノはぽつりとそう呟いた。

ふと正面を見れば、どれだけ願い請っても開くことなく、固く閉ざされていた実験室の扉も開いている。

 

「……やっぱり、夢かな」

 

少しばかり考え込んだのち、ホシノは結局そう結論を出した。

 

だって、そうだろう?余りも都合が良すぎる。

今更自分が何の前置きもなしに解放されて、

いつでもここから逃げ出せるようになるなどということ。

夢でなかったらどうやって起こるというのだ?

寧ろ、自分という咎人には、あの実験の苦痛の方が余程……

 

 

 

ギャンッ!!!

 

 

「!?」

 

 

次の瞬間、ホシノがいる場所

……いや、この施設全体に響き渡るような音が彼女の耳朶を打った。

音が聞こえたのは彼女がいる場所から見て少し上部の方向。

まるで、凄まじい速度で金属か何かが擦れるような……そんな音だった。

その甲高い異音がぼんやりとしていたホシノの意識を一気に覚醒に至らせる。

 

「……何?」

 

ホシノは思わずそう呟いていた。

……けれど、当然この場所にその言葉に応える者はいない。

異音が聞こえたのはほんの一瞬で、今はまた、この実験室を静寂だけが満たしている。

 

しばらくの間、音が聞こえた方向を見つめていた彼女だったが、

やがてゆっくりと……けれど、確かな意思をもって立ち上がる。

 

 

……行かなければ。

 

 

今も、身体は重たい。心に巣食う何かが消えたわけではない。

でも……心の別のどこかが、言う。

自分はその場所に、向かわなければならないと……そう、言っているのだ。

 

 

「……行かなきゃ」

 

 

ホシノはもう一度、今度はそれを声に出して呟くと実験室の出口へと向かった。

 

 

__________________________________

 

 

 

実験室を出て、頼りない非常灯だけが照らす無機質な壁の廊下を、ホシノは進んでゆく。

……やはり、誰かがいる様子はどこにもない。

元々黒服が使っていた施設であるから、別にカイザーPMCがいなくてもおかしくないのだが……それでも、自分の足音しか響かない暗闇の廊下と言うのは不気味だ。

道行く先の隔壁がすべて開放されていることも、そのことに拍車をかけていた。

 

そうしている合間に、

ふと気が付くとホシノは大きな兵器一台が

ギリギリ通れる程度の大きさの通路に出ていた。

ここが突き当たりだったようで、

道を見れば地上へ向けての傾斜が付いていることが確認できる。

だが、それらの情報は次の瞬間にはホシノの脳裏から消え去ることとなる。

 

 

「……何、これ」

 

 

ホシノが呆然と呟く視線の先。

そこには、巨大な破壊痕があった。

硬質な壁を破断させながら、何かを轢き潰したような……そんな痕跡だった。

所々に、壁のそれではないぼんやりとしたオレンジ色に光る金属片がそこら中にこびりついている。

……十中八九、先程の音の根源はここだろう。

そして、この金属片の持ち主がどうなったか……想像するのは容易なことだった。

 

 

「……誰か、死んだ、の?」

 

 

ホシノは呆然とそう呟いた。

……死体を見たのは、これで2回目。

けれど、こんな……こんなにも。

その人が存在したという痕跡すらほとんど残さず、

ただの破片になってしまうのは、余りにも……

 

「……ここで、何が起こって……?」

 

ホシノはたった一人、静寂の中で自問する。

……答えは出ない。

ただひとつわかっていることは、自分は進まなければならないこと……それだけだ。

やがて、ホシノはその破壊痕から視線を外すと、再び通路の先へと歩き始めた。

 

 

……外に近づくにつれ、段々と雨音が聞こえ始める。

けれど、やはりそれと自分の足音以外には何も聞こえてこない。

 

 

「……」

 

 

遂に、ホシノは建物の外へと出た。

雨の降りしきるカイザーPMCの基地……その全ては暗闇に閉ざされており、

自分が脱走したというのに警備の兵が出てくる様子も……

いや、そもそも誰かがいるような気配すらない。

まるで恐ろしい何かが来て、誰もが逃げ去ってしまったかのように。

……1人、1人だけ、この状況が作り出せるであろう人物にホシノは心当たりがある。

 

「……まさか、本当にセリカちゃんが……?」

 

だが、そう呟いてはみたものの、結局さほど時間の経たぬうちにホシノは頭を振った。

 

……いや、有り得ない。

いくらセリカが強いとはいえ、超近接戦が主体になる彼女ではカイザーPMCの物量すべてを相手にするには厳しいはずだ。

それに……これは自分の自惚れかもしれないが、

セリカなら助け出した瞬間に、真っ先に自分のもとに来るはず……

 

……そんな確信にも似た何かがあった。

 

「じゃあ、一体……誰が」

 

ホシノがまた、ぽつりとつぶやく。

 

 

……その時、

 

 

「ゴアァアアァアアアアアアッッ!!!!」

 

 

「!?」

 

 

叫びが聞こえた。

……その獣の咆哮に、ホシノは確かに聞き覚えがあった。

確か、セリカが狩道具と称していた不気味な獣の手を使った時、

あのような叫びを発していたはずだ。

 

遅れて聞こえる破砕音。

 

……間違いない。

何があったのかはわからないが、セリカが戦闘しているのだ。

 

「……セリカちゃん!」

 

ホシノはその音がする方向へと駆け出した。

幸いなことに、音がする場所はそう遠くはない。

彼女の足ならすぐにたどり着けるだろう。

その道中、ホシノは偶々落ちていた重装備のオートマタ用のものと思われる

重層装甲シールドとショットガンを拝借してゆく。

使い慣れているものではないが、無いよりマシだ。

幸いなことにシールド裏の弾倉も、半分ほどは水に浸かっておらず無事だった。

 

……未だ、身体は本調子じゃない。

でも、それでも、向かわなければならない。

 

ホシノは雨を跳ねのけながら、未だ断続的に響く破壊音に向けて足を早める。

 

 

「グアァアアァアアアアアアッッ!!!!」

 

 

再び聞こえてくる咆哮。

 

 

……近い!

 

 

ホシノはそう判断する否やショットガンの安全装置を外すと、

建物の影から基地の大通りに向けて、シールドを構えながら勢いよく飛び出した。

瞬間、

 

 

 

ドガッ!!!

 

 

 

凄まじい音を立てて、ホシノのすぐ横の建物の壁に何かが激突した。

それと同時、粉塵や破片と共に何かが飛び散る。

それはホシノの柔らかな頬に触れると、どろりとした粘性をもって広がった。

 

 

「……え?」

 

 

ホシノの思考が、動きが、停止した。

恐る恐る、ショットガンを持っている方の手で頬に触れると、それを眼前に持ってきた。

 

 

「……!」

 

 

それは、この暗闇の中でも十分わかるほど明瞭な……真っ赤な血だった。

ホシノは反射的に何かが激突した場所を見た。

 

 

「うっ……ぐ、ぃ、ってぇ……」

「……ハナ、ちゃん?……ハナちゃん!?大丈夫!?」

 

 

……激突したのは、それは、カイザーPMCの軍服を着た2人の少女だった。

片方は背中が大きく裂け、血と濡れた砂に塗れながら、

それでも尚、腕の中の誰かを守っている少女。

抱きしめられている少女の方は元々負傷していたのか、

自分の物かそれとも相手の物かもわからぬ血にぐっしょりと染まった三角布と包帯をつけている。……どちらも、辛うじて意識はあるようだ。

 

 

「……はは、何とか。カナヨの方こそ、立て……」

 

 

「ウ゛ァァアァァアアアアッ!!!」

 

 

その時、少女らに向けて悍ましい叫び声を上げながら何かが突っ込んでくる。

……気がつけば、ホシノの身体は弾かれたように動き出していた。

少女らの前に立つとシールドを展開、突っ込んできたそれを受け止めた。

 

 

衝撃

 

 

「ぐうっ!!」

 

 

ホシノの全身に今まで経験したこともないような強烈な負荷がのしかかる。

……だが、耐えきれないほどではない。

 

「……お、お前、アビドス、の……捕まってたんじゃ」

 

背後で戸惑うような、呆然とするような……

そして、恐怖の入り混じった。そんな声が聞こえる。

ホシノはその声に対し一切振り向かずに声を張り上げた。

 

「そんなこと言って逃げないんだったら、私が撃つよっ!!」

「!!!!ガアアァアアアアッ!!!」

 

瞬間、盾越しにホシノに圧し掛かっていた重圧が咆哮が聞こえるや否や急に消える。

思わず体勢を崩しそうになったホシノだったが、

次の瞬間、横方向から聞こえてきた風切り音に向けて

ほとんど反射的に盾を動かす……が、

 

 

「くっ!?」

 

 

横なぎに振るわれたそれがホシノの身体を吹き飛ばす。

体調が万全ではないこと。

そして余りに急な方向変換であったが故に

衝撃に対する踏ん張りが効かなかったことが仇になった。

だが、薙ぎ払われた何かが身体に直撃することは避けられた。

ホシノはそのまま受け身を取ると、先程まで自分がいた場所に視線を向けた。

先程まではシールドで隠れて見えなかった襲撃者の全貌が露わになる。

 

 

「……!」

 

 

小柄なホシノの身体の何倍もある黒い毛並みの巨躯。

赤く蕩けた瞳と、頭上に浮かぶ黒く砕けたヘイロー。

……獣。その瞳に渇望と殺気をたたえた悍ましい獣が、そこにはいた。

 

その視線が向けられるのはホシノではない。

目の前でだくだくと血を流している、

己の渇望を満たしてくれる2体の生きた血肉、その一点。

 

「グオッ!!」

 

獣は短く吠えると、正面へと手を伸ばす。

少女らは必死でその魔の手から逃れるべく起き上がろうとしているが、

決して小さくない傷を負っている故にその動作はあまりにも遅い。

そして……

 

 

「させないよ」

 

 

銃声

 

 

暗闇の中をマズルフラッシュが一瞬駆け抜ける。

ホシノのショットガンから放たれた散弾は伸ばされた獣の腕に直撃し、

着弾の衝撃で凶爪の軌道をあらぬ方向へ逸らした。

その僅かな隙の間にホシノは素早く移動すると、

再びシールドを構えて獣の正面へと立ち塞がる。

獣は再び目の前に現れ、自身の邪魔をするそれを見ると不愉快そうに唸った。

 

そんな中、ホシノは獣の動きに注意を向けながらも背後の少女らを見やる。

カイザーPMCの少女らは、ようやく立ち上がって、

先程ホシノが飛び出してきた獣が入り込めない狭い道に逃げ込んだところだった。

 

……一先ず、目標は達した、といったところか。

 

 

「ガアッッ!!」

「!!」

 

 

ホシノがそのことに安堵したその時、獣が一声吠えたかと思うと、

その長い腕を生かしてシールドを捲るようにして背後にいるホシノを狙う。

けれど、彼女は今度はその一撃を間一髪で回避すると、

その頭部に向けてショットガンを速射した。

 

「グアッ!?」

 

ダメージこそ微細なものの、頭部に衝撃を喰らったことで獣が怯む。

ホシノはその間にバックステップで獣から距離を取ると、

横っ飛びに先程の通路に飛び込んだ。

 

 

「ゴアアァッ!!!!」

 

 

その間一髪、獣の巨体が風圧を伴ってホシノがつい先程までいた場所を通過する。

……巻き込まれていたらどうなっていたかなど、考えたくもない。

 

「……さて」

 

ホシノは短く息を整えた後、そう声を発して背後を見た。

その視線の先にいるのは、ボロボロのカイザーPMCの少女2人。

負傷のせいで足取りは遅い。

……あの獣がここを無理矢理、壁を破壊しながら通ったとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。

だからこそホシノは、ショットガンとシールドを一度背中に背負うと、2人に向けて駆け出すと、出来る限り傷に障らないように、けれどその身体を掬い上げるようにして抱き抱える。

 

「……え、うわっ!?」

「きゃあっ!?」

「はいはい、ちょっと揺れるけど我慢してよねー」

 

ホシノはそう言うと、背後から聞こえる獣の咆哮から離れた場所に向けて、全速力で駆け出した。

 

________________

 

 

……どれほど走っただろうか。

しばらくしてショックから脱したカイザーPMCの少女らの案内で、医務室がある施設へと向かったホシノ。

施設内は誰もが慌てて飛び出したのか酷く散らかっていたが、ベッドは無事。少なくとも応急処置ができるだけのスペースはあった。

少女らの傷もお世辞にもまともに動ける状態とは言い難いので床や棚に散らばる包帯や消毒液やらを集め、応急処置にも手を貸す。

……その間、互いにほぼ無言。

偶に包帯の受け渡しなどでやりとりをするのみだ。

そうしてしばらくして、漸く応急処置が終わった。

……最初に声を発したのはホシノだった。

 

「とりあえず、これで大丈夫……かな?」

「!……はい、本当に、本当にありがとう」

「……助けてくれたこと、感謝は、してる。それは本当だ……つっ」

 

言葉を発した拍子に傷に障ったのか、ハナと呼ばれていた方の少女がうめき声をあげる。

その様子に、カナヨと呼ばれていたもう片方の少女が慌てた。

 

「ちょ、ちょっとハナちゃん!傷が深いのにそんなにしゃべったら……」

「だから、大丈夫だって、カナヨは心配しすぎ……」

「うへ、随分仲良しだねぇ、君達」

 

明確な命の危険が去って少し気が緩んだのか、

痴話喧嘩じみた会話を始めた彼女らに、

ホシノはいつも通りのニマニマとした表情を浮かべると軽く茶化す。それに対し、お互い包帯姿になった少女らは顔を赤くした。

 

「な、仲良しって……えへ、えへへ……」

「そ、そりゃまぁ……こいつとはもう色々長い付き合いだし……ってカナヨ、ニヤけるなニヤけるな」

「……あり?」

 

てっきり誤魔化すものかと思っていたがお互いに満更でも無さそうである。ホシノは2人の様子に一瞬、毒気を抜かれたもののやがて軽く息を整えた後、近くの丸椅子に腰掛けると改めて彼女らに話しかける。

 

「……まぁ、お取込み中のところわるいんだけどねぇ……

ちょっと、おじさんに教えてほしいことがあるんだけど。

具体的に言うと……あの化け物のこととか」

 

そうおどけた様にいうホシノの表情は、あくまでにへらっと笑っていた。

……その目はお世辞にも笑っているといい難いものだったが。

けれど、その言葉にPMCの少女らは少し驚いた様子だった。

 

「……?」

 

想定と異なる反応にホシノが少し訝しむ中、

カナヨがおずおずと話しかける。

 

「……なんでおじさん?かはわかんないけど……教えてほしいって、あなたは、その……アビドスの生徒……だよね?」

「……そうだよー?でも、まさか、あんな獣みたいなのがうちの学校から……」

 

そこまで言葉を紡いだところで、

ホシノの言葉が止まる。

 

……待て、獣?

 

見たままの印象を何気なく発しただけなのに、なぜだかその言葉が嫌に引っかかる。

そんな彼女の反応に、カイザーPMCの少女らは顔を見合わせた。

……ホシノがそのことをどうも本当に知らないらしいと悟ったのだろう。

カナヨがゆっくりと事の次第についてホシノに説明し始めた。

 

「あの、私達もその、あなたの後輩、黒見セリカ……さんとの戦闘で負傷して、しばらく戦線から離脱していたのでよく知らないけど……あの化け物は、スポンサーから提供された兵器が直撃したその人が、変身?したとかで……」

「……!!」

 

ホシノの表情が驚愕に染まった。

 

獣の病、血の医療……狩人。

 

脳裏を駆け巡るのは、断片的に伝えられてきたセリカのいた世界の情報の数々。

……信じられない、信じたくない。けれど、今は納得するしかなかった。

けれど、それと同時にカイザーに、そしてゲマトリアに対する憎悪がふつふつと湧き上がってくる。

……けれど、程なくしてホシノは軽く頭を振った。

 

「……そっか……うん、まぁ、君達に怒っても仕方ないよね。

大方そのまま……暴れてるセリカちゃんを止められなくてってこと?」

「……はい」

 

ホシノの言葉にカナヨは頷いた。

 

「私達が治療を受けている間に、基地は壊滅状態になって……それに、負傷した原因が原因だったので味方にも置いていかれちゃって……」

「うっ……ごめん。あたしも、なんだか混乱してて……」

「いいよハナちゃん、こうしてなんだかんだ無事なわけだし」

 

……どうも、ホシノの知らぬことで何かあったらしい。

まぁ、特にそのことについて聞く必要はないだろう。

ホシノはそう結論づけると改めて口を開いた。

 

「……うん、大体事情はわかったよ。

それで、君達はこれからどうするの?」

「このまま助けが来るまで待つか……それか、傷が落ち着くのを待って、隙を見て逃げ出すぐらいかな」

「ま、そうだよねぇ」

 

カナヨの言葉にホシノはそう言って軽く笑うと、ゆっくりと立ち上がった。そしてそのまま、部屋の出口へと歩き出す。

 

「……え、あ?」

「お、おい!」

「んー?どしたの?」

 

そんな彼女の背に、背後から声が掛かる。

その声に、ホシノはあくまでものんびりとした口調で返答する。

 

「……あんた、何しに行くつもりだ?」

「時間稼ぎ。少なくともおじさんに注意が向いとけば、君達が襲われることはないし、脱出もスムーズに行くでしょ?」

 

ハナからの問いかけに、ホシノはちらりと視線を向けてそう答えると、正面へと視線を戻す。

 

「……それに、君達がどう思ってるかは知らないけどさ。

セリカちゃんは……()の、大切な後輩ちゃんだから」

 

ホシノのその言葉に、先ほどまでのようなおどけた様子はない。

暗く、静かで……そして、凪いでいた。

その言葉から何かを感じだったのだろう、

カイザーPMCの少女達は何も言わず、その背を見つめる。

……少しの間、彼女らの間に沈黙が流れた。

 

「……ま、心配はいらないよ。こう見えて、おじさん結構強いんだよ?」

 

沈黙に耐えかねたのか、ホシノが前と同じように戯けた調子でそう言うと、軽く肩をすくめて見せた。

そんな彼女を見てしばらく何か考え込んでいる様子のカイザーPMCの少女達だったが、やがて顔を上げる。

 

「……あなた達を、アビドスを攻撃した私達に、こんなこと言う資格はないのかもしれないけど……がんばってください」

「死ぬなよ。その大切な人に殺されたら……全部駄目になるだろうし」

「……その言葉、素直に受け取っておくことにするよ」

 

ホシノは短く背後の少女達に返答すると、今度こそ部屋を出た。

廊下を歩く中、ホシノは予めひろっておいた輪ゴムを取り出すと、雨粒で濡れた桃色の髪を後ろで括る。

 

……装備はショットガンとシールドのみ。

しかも使い慣れたものではない。

弾薬は12ゲージのバックショット25発。

後、医療棟の探索中に偶々見つけたスモークグレネード2つ。

サイドアームは無し。

防弾チョッキも無し。

グレネードの種類も数も不足している。

体調だって万全とは言い難い。

 

……でも、それでも。

 

「……ごめんなさい、みんな。こんな、ダメな先輩で。

ごめんなさい、先生。迷惑かけてばかりの生徒で」

 

ホシノはぽつりとそう呟く。

この全ては、自分の浅慮が招いたこと。

 

「……ごめんなさい、ユメ先輩」

 

だったら、その責任を取るのも……自分だ。

 

「……私が、何とかするから」

 

……外は変わらず暗闇に包まれ、冷たい雨が降っていた。

 

 

「……セリカちゃんを、助けるから」

 

 

 











<Eye of Horus>

ホシノが愛用しているシンプルなデザインのショットガン。
ホシノの装備の中核を担っている。

彼女は紛う事なき強者であり、
その身を傷つける事の叶う者は少ない。
だが、ただ強き事だけに、何の意味があるだろうか。
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