極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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※※あてーんしょーん※※


先に言っておきますが今回はコラボ回です。
……もう一度言いましょう。コラボかぇえええええぇぇぇえええええ?!?!?!!


と言うことで作者が一番混乱して狂喜乱舞しているコラボ回です。
めろんムーンさん作:見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!とコラボ回です。


や っ た ぜ 


いつもと比べて曇らせ要素は控えめです。
全体的にネタ方面に振り切れてます。

………………

………恐らく多分きっとMaybeprobablyparhaps保証は一切しない。プロットは粉砕するためにある。

その都合上、普段の作風からとんでもなく乖離すると思うので気をつけてください。
初めに言いましょう、好き勝手やります!!!


先方の作品ページももちろん載せておきます。
是非とも狩人様達は見てください。啓蒙が沢山増えます。脳に瞳も宿ります。

▼見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!作品ページ▼
https://syosetu.org/novel/352634/






幕間:side after
side after 聖杯、又は山を登る船(1)


 

 

 

ある日……と言っても狩人の夢に大抵いるせいでその辺の認識はかなり曖昧なのだが。

 

銀鴉としての仕事を終え、

ホシノとノノミに一瞬顔見せをしたのち、さっさと夢に帰ってきたセリカ。

……そんな彼女を待ち構えていたのは、

極めて真剣な表情をしたシロコの次のような言葉だった。

 

「ん、そう言えばセリカ」

「……どうしたの、シロコ先輩?」

 

柄にもなく真剣な表情の彼女の様子に何かあったのかと勘繰るセリカ。

だからといってそこまで差し迫った何かがある、といった様子でもない。

だからこそセリカは首を傾げた。

 

……今思えば気が付くべきだったのだ。

そのシロコの真剣な表情は、

対策委員会の会議でぶっ飛んだ提案を至極真面目に説明するのと同じようなもので……

 

 

「聖杯に行きたい」

 

 

「…………え?」

 

 

……一瞬、何を言われているのかわからなかった。

 

 

聖杯……聖杯といえばあれだ。

 

先輩が日々潜っては発狂して奇行に走ってアヤネからドン引きされているあれだ。

最近では上位者のくせしてミコラーシュのコスプレでMajestic!!とかほざきながら潜っていったので一度モツを抜くべきか本気で悩んだ。

 

いや、そんなことはどうでも良くて……だ。

 

「……シロコ先輩。なんで、急に、そんなことを……?

そもそも今の所、アヤネちゃんと一緒に先輩に稽古つけてもらってる位だったよね?」

 

……久方ぶりに頭痛を覚えてきたセリカがわざわざ兜をぬいで頭を押さえる。

そんな学年的後輩兼狩人的先輩である彼女へのシロコの返答は、至極単純なものだった。

 

 

「さっき狩人が聖杯はいいぞって力説してた。宝箱もたくさんあるって」

「……………………ッスー」

 

 

セリカはしばらくの沈黙の後、息を吸い込む。

 

……なるほど。確かに言っていることは事実だ。

事実だが……肝心の説明がいろいろ抜けている。

その説明だけだとシロコがいらぬ興味を抱くだけだろうが。

 

セリカは大きくため息をつくと

シロコの背後でいそいそと血晶石を仕分けている狩人に鋭い視線を向けた。

……上位者であるはずの狩人の肩が、その視線に当てられびくりと震える。

 

「……ということらしいけど、せ、ん、ぱ、い????」

「まあ待てセリカ。流石に誤解だ。

私はあくまで地底の素晴らしさについて説きつつも、

そろそろ脅威の低い聖杯を使っての実技訓練に移ってもいいのではと提案しただけでな……?」

「……シロコ先輩、あと、アヤネちゃん。先輩なんて言ってた?」

 

狩人の言い訳染みた答えには何も言わず、

セリカはきょとんとしているシロコと、人形とお菓子作りに勤しんでいたアヤネにそう問いかける。

 

「たしか、9kv8xiyi(3デブテンプレ)は難易度が低いから今度一緒に行こうって言ってた」

「そう、ですね。シロコ先輩の言う通り……あと、qjpktusu(貞子愚者テンプレ)もちょうどいいとか……」

「…………そっかぁ」

 

セリカはその言葉を聞いた後、改めて視線を先輩へと戻した。

珍しく明確な笑みを浮かべているセリカ……その瞳は全く笑っていないのだが。

こんな気分になったのは本当に久しぶりだ。

憎悪だとかトラウマだとか獣性だとかその辺に当てられて狂ってるわけではなく、ただただ純粋かつ健全な怒り。

 

 

……ほんっとうに久しぶりだ。

 

 

「……先輩、何か言い残すことがあるなら聞いてあげるけど?」

「……ま、まあ待つんだセリカ。実際問題、いつか実技訓練はしなければなるまい?それにヤーナムは既に夜が明けてあの夜ほど獣がいない。そういう意味で聖杯を使うのは至極真っ当なもがっ」

 

即座に言い訳に走った狩人だったが、

その言はモノクルをかけた無貌を思いっきり掴まれたことにより停止する。

 

「だからって先輩が使ってる聖杯(全盛りトゥメル)に行かせるつもり?

その訓練で育つのは狩人じゃなくて

先輩みたいな地底人だと思うんだけど……その辺はどう思ってるの?」

 

笑顔でキレながらビキビキと顔を締め上げるセリカ。

狩人は何も言わない。

アヤネはその光景を固唾を飲んで見守っている。

シロコは心なしかその後何が起こるのかを面白そうに見ている。

人形はこの後起こることを大体察したため使者たちと一緒にいそいそと作りかけの菓子の避難を開始した。

 

「そ、そのうち全強化深淵(アメンボ)神秘深淵(エブたそ)の周回法も教えればしっかりと狩人としての技術もだな……」

 

……狩人の苦し紛れの言い訳。

次の瞬間、アヤネは「ブチッ」というセリカの堪忍袋の緒が切れる音を聞いた気がした。

 

 

「わかった。じゃあ回りくどい言い方はやめる。

訓練の段階を飛ばしすぎだって言ってるんだけど……わかる?」

「………ううむ」

 

 

先輩がそう、何とも言えぬ声を上げたきり重苦しい沈黙が、工房の中に立ち込める。

そして……

 

 

ゴシャ!!!

 

 

次の瞬間、完全にブチギレたセリカにより

狩人は工房の床目掛けて顔面を思いっきり叩きつけられた。

 

……ものすごく痛そうな音がした。

 

 

__________________________________

 

 

 

さて、兎にも角にも

狩人に容赦なく追撃をかけようとするセリカを押しとどめ漸く話は本題に移る。

即ち……アヤネとシロコの実践訓練についてだ。

セリカとしてはあまり気乗りしないことではあるが、

アヤネとシロコの技術向上のためには避けて通れぬ道なのもまた事実……

と言うことで聖杯狂いの妄言はさておき、

彼女自身、然程難しくない聖杯での訓練には賛成であった。

……あと、今のうちにシロコに植え付けられた聖杯に対する変なイメージを取り払っておかないと確実に面倒なことになるとも考えたためである。

ということで、行先は悍ましい儀式を全部やって難易度を極限まで上げたトゥメル=イル(最深部)などではなく……

 

 

「深きトゥメルの汎聖杯……?」

「……別に名前なんか覚えなくていいよ。種類は結構あるけど使うのはごく一部だし」

 

 

アヤネの言葉にそう返答しながら、いつもの装備に着替えたセリカは、先程狩人から受け取った赤い宝石の嵌った幅広の金細工の杯……深きトゥメルの汎聖杯を墓石の前に置く。

因みに、これより難易度の低いものもあるが、

シロコとアヤネは先輩から稽古をつけてもらっていること、倉庫に有り余っている死血で幾らか身体強化をしていること。セリカ含めて3人で参加することを鑑みて、きちんと狩人と打ち合わせをして決定した。

 

まあ、それはさておき、だ。

 

セリカは改めて背後にいるアヤネとシロコのことを見る。

 

「一応聞いておくけど、先輩にこれの使い方は……」

「説明は特に……確か、狩人さんにはどちらかというと

聖杯の成り立ちみたいなものを教えてもらったかな……?」

「ん、アヤネの言ってることであってる」

「……わかった。じゃあ、最低限説明しておく」

 

2人の言葉にセリカは少し考えた後返答すると、

軽く指で聖杯を示した。

 

「まず、聖杯に儀式をすることで地下にある聖杯ダンジョンって場所にアクセスできるの。……まあ、儀式って言っても変な道具とかおまじないとかは必要なくて、決められた材料をこの中に適当に放り込むだけなんだけど」

「……一応、儀式をするとかは狩人さんにも聞いてたけど、

思ったより簡単……っていうか雑って言うか……」

 

セリカの言葉に何とも言えない表情でアヤネがそういう中、

興味津々で聖杯のことを見ていたシロコが、セリカにふと話しかけた。

 

「それじゃあ狩人の言ってたあの文字列って何なの?」

「あー、それはね」

 

そう言えばそういう方法もあった。

セリカ自身は基本的に自分で儀式をして聖杯に行くので文字列を使う方法もあったことを失念していた。

 

「聖杯ダンジョンにはその場所に応じた……スマホで言う物理アドレスみたいなのがあって、一度この聖杯で儀式をした後で、尚且つ他の人が使ってるそのアドレスみたいなのを知ってれば儀式素材を使わなくてもその人が作った聖杯ダンジョンに行けるの。

先輩が言ってたのはその文字列の中でもとくに有名な奴」

「なるほど……要は、その場所だと宝物が多いとか?」

「……まあ、そうとも言う。それじゃあ儀式を始めるよ」

 

……いろいろ訂正したいことはあるが、

この際もう聖杯ダンジョンに入って逐次説明でいいだろう。

セリカは一旦説明を諦めると懐から材料を取り出す。

 

「まずは儀式の血を12杯」

 

そう言うと、セリカは懐から取り出した小皿に並々と真っ赤な血を、12杯分聖杯に流し込む。

注がれたそれはまるで、

今も生きているかのように泡立ちそれは小さな頭蓋のような形状を形作る。

 

……奇妙で、不気味でありながらどこか神秘を感じさせる光景。

それに自然と、アヤネは目を奪われる。

 

「やっぱり、こうしてみると血って、

不気味だけど不思議な魅力があるって言うか……」

「……あんまり魅入られないようにね。あとシロコ先輩」

 

ヤーナム由来の不思議現象を見てそんな言葉を溢すアヤネに向けてそう言った後、セリカは横からこそこそと右手を伸ばしていたシロコ向けて鋭く声をかけるとジトっとした目を向けた。

 

「……輸血液でもないし食べないでね?」

「…………ん」

「ん、じゃなくて……はぁ」

 

長い沈黙をおいて微妙に視線を逸らしたシロコ。

そんな彼女にセリカは何とも言えないため息をついた。

 

……こうなるのは何も初めてというわけではない。

獣化自体は抑えられているとはいえ、

今のシロコはセリカとは比べ物にならないぐらい獣に近いのだ。

その為、嗜好が恐ろしく獣に寄っているのである。

……具体的に言うと血に酔っているセリカですら口にしないようなものを食べようとする。

この前だと小アメンの腕が少しかじられていた。

因みに味はそこそこだが筋張っているうえに暴れて食べにくかったらしい。

 

一応、狩人が言うには上位者の血を被りに被っている自分たちも何だかんだ平気なのだから、変なものを食べてもせいぜい腹をこわすだけだろうという話だが……心配なものは心配だ。

……自分が鎮静剤や輸血液を使用している場面を初めて見たみんなも、同じ気持ちだったのだろうか?

 

「……ともかく、分量変わるかもしれないからやめてね?」

 

セリカは改めてそう言った後、次の儀式素材を取り出した。

……瞬間、その場が少しばかりカビ臭くなる。

 

「けほっ、なんか、急に埃っぽく……って何それ!?」

「……墓所カビ。今回は8株いる」

「な、なんでカビがいるの……?

しかも、顕微鏡で見た時と同じスケールのサイズあるよね……」

「……取り敢えず使うの。何故かは知らないけど」

 

そう言うが早いか、セリカは未だ胞子をふよふよさせているそれをどさっと血で満たされた聖杯に流し込んだ。

近くで何処かの誰かが血がもったいないと言わんばかりの声を上げるが無視する。

……けれど当の聖杯はというと、それが正解だと言わんばかりに、

墓所カビをあっという間に溶かし込むと荘厳な音と共にえも言えぬ光を発した。

それと同時にその聖杯の前に使者たちが現れ、ヤーナムに通じる墓石と同じように祈りを捧げ始める。

 

「とりあえずはこれでよし」

「……確かに、いろいろ変なところはあるけど簡単……」

「で、今回はここに追加の儀式をする」

「え?」

 

セリカの思わぬ言葉にアヤネがキョトンとした声を溢す中、

セリカはやはり懐に手をいれるとそれを取り出した。

……瞬間、カビ臭さの立ち込めていたその墓石の前を身の毛もよだつような死臭が上書きする。

嗅いだこともないその香りにアヤネが目を白黒させ、

シロコが物欲しそうにそれを見る中、

セリカは懐から取り出したそれ……装飾を纏ったミイラ化した手首5つを聖杯の上に持って行く。

 

「まず、聖者の手首を使った死臭の供儀。

これをすると敵が強くなる……と言っても今回のは高が知れてるけど」

 

そう言うが早いか、明らかに聖杯に入りきらない大きさのそれを投入。

……しかし、沸き立つ血は零れることなく、その一切を溶かし込んでしまう。

だが、セリカはそれを見届ける間もなく更に懐に手をいれると、

8つのガラス瓶を取り出した。

その中に入っているのは……

 

 

「……うっ」

 

 

アヤネは思わず口元を押さえた。

そのガラス瓶の中には、辛うじてぶよぶよとしたピンク色が残った、

腐り果て、腫瘍ができた臓器が入っていた。

……少なくとも、見ていて気分のいいものではない。

 

「……アヤネちゃん」

 

けれど、そんな彼女の様子を見たセリカは、

その小瓶のうちの一つを手に取るとアヤネの眼前に、見せつけるように揺らす。

アヤネの顔が、青ざめてゆく。

それにセリカの表情が一瞬歪んだものの、

セリカはそれでもその動作をやめるつもりはないようだった。

 

「ぅ、うっ……」

「あんまりこんなことは言いたくないけど、

狩りに触れればこれからこんなものの一つや二つ……

いや、数え切れないほど見ることになる」

 

内容物が粘性を持って揺れる。

ガラス瓶越しに曇ったセリカの赤く蕩けた瞳が、じっとアヤネを見つめる。

 

 

「慣れろ、とは言わない。でも、覚悟はしておいて」

 

 

その言葉に、固まっていたアヤネの思考が動き始める。

 

……そう、だ。何のためにこの場に居る。何のために狩人になった。

心が、落ち着いてゆく。

……まだ気分が完全に晴れたわけでもないが、少なくとも落ち着いた。

 

アヤネはふう、と息を一つつくと、改めてセリカのことを見た。

 

「……うん、わかったよ、セリカちゃん」

「……それが聞けて良かった」

 

アヤネのその言葉にセリカはふっと笑みをこぼす。

……けれど、次の時、シロコの方を向いたそれは呆れの混じったものへと変わる。

 

「……まぁ、シロコ先輩みたく初めて見た時に気持ち悪がりすらしないのは、それはそれでどうかと思うんだけど……」

「む、失敬な」

 

セリカからの言葉に、

臓器の入った小瓶をまじまじと見つめていたシロコは、

心外そうにぷくりと頬を膨らませた。

 

「流石の私でもこれは食べたいとは思わない」

「そ、そう言う問題じゃないような……」

 

シロコの微妙にずれた反論に、アヤネからもツッコミが入る。

……けれど、結果的に少し重くなっていた場の空気が僅かに軽くなった。

 

「……それがシロコ先輩らしいともいうか。まあいいや」

 

セリカはそう言いつつ、ガラス瓶の蓋を外した。

……瞬間、多少薄らぎつつあった死臭の残滓を、悍ましい腐臭が上書きする。

流石に生理的なもので、その場の3人全員がうっ、と顔をしかめる。

少しでもその臭いを嗅ぐ時間を少なくするためか、

セリカは説明しながら手早くその臓器を聖杯に突っ込んでゆく。

 

「腐臭の供儀って言って、この臭いで本来出てこない敵を引き寄せるの……

病巣の臓器とか使うんだけど、正直この臭いは私も無理」

 

セリカがそう言い終わると同時、最後の病巣の臓器が聖杯に放り込まれた。

それと同時、聖杯が再び荘厳な音と共に光を発した。

あれだけ立ち込めていた腐臭もそれと共に和らいでゆく。

……そこから少々時間が経ち、漸くまともに息を吸えるようになってセリカはほっと息をついた。

 

「これで終わり。あと一つ呪いっていう儀式もあるけど……

あれは難易度が桁違いに跳ね上がるし、今回のはそもそも使えない」

「……参考までになんだけど、何が起こるの?」

「生命力が半減して死にやすくなる。敵は据え置き」

「うわぁ……」

 

シンプルかつえげつない妨害内容にアヤネはドン引きした。

……まあ、それはさておき、だ。

 

「……いよいよ、ですね。シロコ先輩」

「……ん」

 

そう、アヤネの言う通りいよいよだ。

これから始めて本当の狩りに身を投じる。

シロコは元々前衛職かつ、

獣化したセリカとの戦闘経験があるため一概に初めてとは言えないが、

アヤネは元々後方支援が主かつ、狩りも正真正銘初めてだ。

……その分、緊張も大きいだろう。

 

「……わかってるとは思うけど、言っておく。

私もしっかり協力するつもりだけど、捌ききれない可能性も十分ある。

訓練とは違って相手は明確に殺しに来るし、攻撃されれば痛い。

気を抜けば当然死ぬ」

 

セリカのその言葉に、アヤネとシロコはこくりと頷く。

 

「……この役柄、死に慣れる(・・・・・)ことも大切だけど、覚悟はしておいて」

「うん……まだ完全に覚悟できてるかといわれると、わかんないけど……

でも、大丈夫だよ」

 

アヤネは不安は曲がりなりにもあるようだが、セリカの言葉にしっかりと返答すると、

最近ようやく使い慣れてきた仕掛け武器の持ち手を、ギュッと握り締める。

 

「私も問題ない」

 

シロコはあくまでいつもとあまり変わらぬ様子ではあるが、

少しは緊張しているのだろう。

変質した左腕がソワソワと動いている。

……そんな彼女らの反応を見て、セリカは気づかれぬ程度に微笑んだ。

 

正常な反応だ。

未知に挑むのは多少なりとも緊張し、不安を覚えるもの。

……願わくば、その感覚を忘れずにいてほしい。

 

 

「……それじゃあ、行こっか」

 

 

セリカはそう言うと、ゆっくりと墓石に触れた。

 

 

「あ、待って!」

「む、一番乗りはズルい……!」

 

 

背後でそんな声が聞こえてくる中、セリカの見る景色は段々と霧の中に消えてゆく。

そしていつも通り、最初に訪れる封印の間に……

 

 

「……っ!?」

 

 

たどり着こうという瞬間、

霧の中でセリカは自分の身体が何か波のようなものに当てられて揺らぐ錯覚に陥った。

それと同時、身体が別の場所へ。

階層の下へ下へと落ちてゆく。

 

「何が……!?」

 

その声に応えるものはいない。

やがて、景色が晴れる。

……薄暗く、砂地の目立つ回廊

僅かに砂煙の立つその場所は、その道の先を見通すことを阻害する。

その光景に、セリカは何よりも違和感を覚える。

 

 

「……封印の間じゃない」

 

 

……そう、封印の間ではない。

開始地点にあるべき歪んだ灯りもない。

この場所は、明らかに別の何処かだ。

それに、この感覚は……微かに漂う死臭と腐臭の中に交じる、この身を蝕む気配は……

 

 

呪われた深きローラン 第2階層

 

 

セリカの脳裏を、そんな言葉が駆け抜けた。

 

 

「冗談、でしょ……!」

 

 

有り得ない。有り得ていいはずがない。

開始地点以前にそもそもこの場所はトゥメルですらない上に階層も相当深い。

更には身に覚えのない呪いの儀式の痕跡……

 

……何か、何かが起こっている。

 

「アヤネちゃん、シロコ先輩、訓練は中止。何かが……」

 

一先ずセリカは背後にいるであろう2人に、そう呼びかける。

……が、

 

「……?」

 

……返答がない。いや、先ほどまで混乱して気が付いていなかったが、そもそも気配すら感じられない。

 

「……2人、共?」

 

ただならぬ不吉な予感が駆け巡る。

……返答は、未だない。

セリカは、恐る恐る、背後へと振り返った。

 

 

「だいじょう……ぶ……」

 

 

……声をかける。

けれど、終ぞその呼びかけに応える声はなかった。

共に聖杯へと向かったはずのアヤネとシロコは忽然と姿を消していた。

 

「……は、ぇ……?」

 

その光景に、セリカはただ呆然と立ち尽くす。

 

どうして……?どうして?どうして???

 

そのたった一言が脳裏をぐるぐると駆け巡る。

辺りに満ちるは静寂ばかり。時折何かのうめき声がセリカの耳朶を打つ。

 

 

「……あ」

 

 

その時、不意にセリカが声を発した。

 

「……そうだ、これは夢。悪い夢。

アヤネちゃんもシロコ先輩も、いない訳が無い……考えてみれば、簡単、簡単なこと……」

 

ゆらり、と。

セリカの右腕が動く。

握られたレイテルパラッシュが銀色に煌めく。

その切っ先が示すのは、彼女の喉元……その一点。

 

 

「簡単な……」

 

 

鋭く砥がれた直剣が、今にも自らの喉を刺し貫……

 

 

[セリカ!!]

 

 

その寸前、脳に直接響いてきた声がセリカの手を押し留めた。

……聞き覚えのある声。

その声の主の名は、直に思い出すことができた。

 

「……先、輩?」

[……こちらの声が届いているようで何よりだ。これが初めてではあったが試してみた価値があったというものだ]

 

安堵した様子である狩人の声色もあり、

徐々にセリカの精神状態も落ち着いてゆく。

まともに喋れるまでに精神が回復し、漸くセリカは口を開いた。

 

「先輩、一体何が……」

[君達が聖杯に侵入した直後、ローランの一画……

それも通常では到達できないような奥深くから妙な干渉があった]

 

セリカからの問いかけに、狩人は即座にそう返答した。

 

[何かあったのではと勘繰り、急ぎこちらからも干渉を試みたが……その様子だと、既に起こったか]

「……入れてないはずの呪い儀式の入ったローランに飛ばされた。

アヤネちゃんとシロコ先輩とも分断。ついでに開始地点が2層で灯りも見当たらない」

[……まずいな]

 

セリカから端的かつ早口ではあるが、最低限の情報が矢継ぎ早に語られる。

……そこから大体想像がついたのだろう。

珍しく焦燥の籠った声が聞こえてくる。

このような現象を起こせるのは上位者かそれに準ずる者の仕業だと思っていたため、狩人が嫌がらせにこんなことをしたのではと少なからず考えていたのだが……そう言ったわけではなさそうだ。

 

「……念のため聞いておくけど、先輩が嫌がらせをしたわけではなく……」

[幻惑を見せる権能はあるのかもしれんが、

聖杯の理に干渉する術は私は持ち合わせていない。

それに、一時の感情で揺れ動くような性格ではないのは良く知っているだろう?]

「……」

 

狩人のその言葉に、セリカはふと記憶を思い返してみる。

 

無数の理論値愚者が悉く全マイに散り、地面に倒れ伏している先輩……

永劫に及ぶ回数血晶石が温まった結果、全裸アルデオで走り始めた先輩……

偶々自分と聖杯に潜ったとき、こちらが一回目で理論値血質を入手したのを見て嫉妬にかられ、そこら辺にいた敵に石槌で八つ当たりを始める先輩……

偶々行動を共にした異世界の狩人から迷信じみた攻略方法を聞き、嬉々として実践して見事に爆死する先輩……

赤蜘蛛を見かけた瞬間、普段の冷静さが嘘のように猛然とその方向へ吶喊する先輩……まあ、これに関してはわからなくもないが。

 

……しかし、曲がりなりにも狩りを成就し、上位者となった者の姿か……?これが。

 

[セリカ。今、非常に失礼なことを考えていないか?]

「……気のせいじゃない?」

[……そうか]

 

ここぞとばかりに鋭い勘を発揮してきた狩人に対しセリカは適当にそう返答すると、

改めて表情を真面目なものへと変える。

 

「それより先輩、私じゃなくて2人の状況はわかる?」

[……夢に未だ囚われになっている(少なくとも死んでも死なない)こと、そしてこの聖杯ダンジョンにいることが伝わってくるのみだな。

それ以外は大まかな位置すら判別がつかん。

この会話は、私と君とが長くを共に過ごしてきて、尚且つ君が夢の助言者……即ち、最も私と近い位置にいるからこそ辛うじて成り立っているのだ]

「……了解。少しだけ安心できた」

 

少なくとも、生きていることはわかった。

今はそれで安心できたと、セリカは思い込むことにする。

 

けれど、状況が変わったわけではない。

アヤネとシロコとははぐれたまま。

そもそもこの場所自体、本来とは攻略難易度が大きく乖離している。

……一刻も早く、2人を探し出さなければ。

 

セリカは改めてそう思いなおすと、狩人に問いかける。

 

「先輩、少しでも頭数が欲しい。こっちに来れない?」

[……ダメだ。先程の聖杯を使用しても本来行く予定だった深きトゥメルに繋がっている。どうにも、君たちをその場所に落とし込んだ何者かはこの場所への移動途中に君たちを無理矢理引きずり込んだらしいな]

「……っ」

 

しばしの沈黙の後、狩人からそんな声が聞こえてくる。

現状考えられる、最も手っ取り早い手段が遠のく……だが、まだ終わったわけではない。

 

「先輩、狩人呼びの鐘が使えないか試してみる」

[……わかった。夢に帰還し次第、こちらも共鳴を試みる]

 

その短い言葉だけで、セリカが何をしたいかを理解したのだろう。

再び狩人の声がしばしの沈黙に包まれる。

それを確認した後、セリカは懐から狩人呼びの鐘を取り出した。

 

「……ふぅ」

 

……狩人からの返答は、まだない。

その静寂が、今、この時は心をキリキリと締め付ける。

 

 

「……大丈夫、大丈夫」

 

 

セリカは自身にそう言い聞かせる。

そう、大丈夫だ。大丈夫に決まってる。

……特に、アヤネはあの時約束してくれたではないか。

ずっと、傍にいてくれると……

 

[……セリカ、準備ができた]

「こっちも準備万端、いつでもいける」

 

狩人の声が聞こえてくる。

 

……いよいよだ。

 

セリカは大きく深呼吸をすると、懐から取り出した鐘を正面に差し伸べる。

そしてゆっくりと、それを鳴らした。

 

 

リーン……リーン……リーン……

 

 

時空の隔絶を超えた澄んだ鐘の音が、辺りに響き渡る。

……共鳴は、返ってこない。

 

 

[……何だ、共鳴を阻害されている……?]

 

 

リーン……リーン……リーン……

 

 

狩人の訝しげな声が聞こえる。

……共鳴は、返ってこない。

 

 

[……む、この領域は私とはまた違う何者かの域とでも言うのか?]

「……先輩、まだ続けるよ」

 

 

……狩人から聞こえてくる、芳しくない声の数々。

セリカは短くそう言うと、尚も共鳴せぬ鐘を鳴らし続ける。

 

 

リーン……リーン……リーン……

 

 

[……ぐぅ、未熟な月の魔物の権能ではこんなものか……?いや、まだ何か……]

 

 

リーン……リーン……リーン……リリーン……

 

 

「……?」

 

 

その時、規則的な音を鳴らし続けていた狩人呼びの鐘の音の中に、

それとは別の、小さな鐘の音が交じる。

 

 

リーン……リリーン……リーンリーン……

 

 

「……先輩、共鳴してるよ?」

[何、だとすればそれは私ではないぞ?

……いや、しかしこの様な深部まで共鳴できるなど、

それこそ上位者の権能がなければ……]

 

 

セリカからの言葉に、先輩が滅多に発さぬ驚愕の声を溢す。

 

……上位者の権能がなければ、たどり着けるはずもない。

 

その言葉が、脳裏に嫌な響きを残す。

けれど、セリカと狩人が覚える不吉を余所に、鐘の音は共鳴を深めてゆく。

 

 

リーンリーンリーン、リーンリーンリーン……

 

 

……瞬間、

 

 

コォ……

 

 

静かな風が湧く音と共に、セリカの正面に燐光が、そして青白い霧が沸き立つ。

それはやがて、一人の人影の後姿を形作ってゆく。

 

 

「……砂に沈んだ呪いに満ちた彼の地、ローラン。

その奥深くで私を呼んだのは貴公かな?」

 

 

響き渡るは穏やかな、しかし凛とした少女の声。

その背丈は狩人の中でもかなり小柄であるセリカと比べても、頭一つ分ほど低い。

狩人の狩装束からは透き通るような肌のうなじが見え、

白とも銀ともつかぬ美しい髪を後ろにまとめている。

 

そして、セリカの鼻腔をくすぐるのは……

 

「……月の香り」

「おお、貴公にはわかるのか。

それは幸いなことだ。しかし、貴公も同時に、私と同じ月の狩人であろう?」

 

セリカが小さく呟いた言葉が届いていたのか、

少女は嬉しそうに言葉を僅かに弾ませた後、そう問いかけてくる。

……けれど、その言葉は既にセリカには届いていなかった。

彼女の赤く蕩けた瞳は、霧が晴れるにつれ少女の頭上に現れたもの……

 

 

……赤いヘイローに、釘付けになっていた。

 

 

「……その、光輪」

「ああ、これかな?これは私の神秘の表れであり、存在であり、

脳裏に刻まれた彼の者の声を示している。

君には見慣れぬものかもしれないが、じきになれるさ」

 

 

見慣れていない、わけがない。

 

少女の言葉を、セリカは反射的に心の中で否定する。

 

何せ、それが示すのは……ヘイローが、存在するということは……

 

 

「……これ以上、前置きが長くなるのはよくないかな。

そろそろ互いに自己紹介をするとしようか」

 

 

不意に少女はそう言うと、セリカに向けて振り返った。

本来なら口元は黒い布で隠しているはずだが、

わざわざ挨拶の為に一時的に下しているようだ。

帽子のすぐ下にある双眸は空のように透き通った青。

それが、呆然と固まるセリカの姿を確かに捉える。

少女は、柔らかく笑みを浮かべた。

 

 

「私は月の狩人、月乃カオリだ。

ひと時の間だが、貴公と共に獣狩り、を……?」

 

 

月乃カオリと名乗る少女。

その少し芝居がかっているともいえる挨拶が、唐突に途切れる。

……2人の間に訪れる、深い深い沈黙。

 

 

「……おぉ……?」

 

 

……カオリ、完全にフリーズ。

 

 

……片や、透き通るような青の下に転生した、上位者たる狩人。

……片や、透き通るような青を失った、血に酔った狩人。

 

 

異なる次元の特異な狩人2人の邂逅は、

やはり奇妙で、特異なものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?


……コラボ回と言いながら、肝心のカオリさん出てくるの最後の最後である。
まあ、当然この後も続きます。続かせます。当然です。

いやしかし、当初の予定は大人数団体聖杯攻略でしっちゃかめっちゃかする予定だったのに……どうしてこうなった??
腕が勝手に、勝手に曇らせを書こうとする……!誰か、誰か止めてくれ……!



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