極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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※※あてーんしょーん※※

高評価、コメント、ここすき、いいね、誤字報告ありがとうございます!
あと、アンケート結果によりアヤネちゃんの武器はシモンの弓剣に決まりました!
……個人的には割と意外かも?

今回も今回とてコラボ回です。

……あと、黒幕がすげえ与太になっちまいました。
苦手な人は苦手かも……


side after 聖杯、又は山を登る船(2)

 

 

 

……沈黙、重苦しい、沈黙。

 

 

セリカとカオリの間を、それと砂だけが支配する。

その沈黙の原因は互いに同じ。

しかし、相手を狩るべく隙を伺って硬直しているわけではない。

一気に流し込まれた多大な情報量を前にどちらも脳内CPUの処理が追いつかず、正しくフリーズしていたのだ。

 

……先に復帰したのは、比較的情報量が少なく済んだセリカの方だった。

 

「……先輩。私の目の前にいる狩人、何者?」

[……至近距離にいるため辛うじて感じ取れる。

恐らくは、キヴォトスの生徒という器に上位者としての意思と権能が宿っている……のか?推測でしかないが]

「……アビドス以外にも先輩みたいなのが、それもキヴォトス出身の狩人がいたと考えるべきか、何なのか……」

 

そう呟くと、セリカは改めて正面へと視線を戻す。

……目の前の相手は未だ固まったままだ。

少なくとも、現時点でこちらを害そうとする気配は感じられないが……

 

相手自身、キヴォトス出身なのにそんなにもこちらのことが珍しいのだろうか?

 

カオリの生誕の謎など知るはずもないセリカは、勝手にそう思い首を傾げた。

 

……補足しておくと、カオリは転生者である。

キヴォトスのことは[ブルーアーカイブ]という認識で前もって知っており、

尚且つ彼女が住むキヴォトスは非常にマイルドになったヤーナム自治区があることを除いて原作と大差がない。

無論、アビドスの惨劇など知るはずもないどころかそんなもの起こってすらいない。

そんな彼女が、ふと聖杯の共鳴を試してみようと思い立ち、その最中で妙な鐘の音を知覚してそれに応えてみたところ……

この有様(狩人セリカ)である。

 

 

……情報が、情報が完結しない……?

 

 

ヤーナムの少女の者と思しき頭の白リボン。

着ている狩装束は何の因果かガスコイン神父のそれ。

赤い瞳はぐずぐずに蕩けているし、そもそも何故セリカがここにいるのか……

そんな言葉の数々がひたすら脳裏を駆け巡る。

 

 

「……カオリ、って言った?」

 

 

……そんなカオリの硬直状態を解いたのは、奇しくも硬直の原因を作ったセリカからの呼びかけだった。

 

「……あぁ、すまない。同郷の狩人は私を除いて1人しか知らなくてね。それに、瞳が蕩けていたものだから、柄にもなく驚いてしまっていた」

「……そう。じゃあ、取り敢えずこっちも名乗らせてもらう」

 

一端、情報の洪水から解放されたカオリがそう声をかけるが、セリカは同郷という言葉に少々反応を示した程度で、後は短く返答するのみだ。

 

「……黒見セリカ。これでも一応正気は保ってるから、背中から刺される心配はしなくていい」

 

その感情の色が殆どない淡々とした言葉と共に、帽子の下にある赤く蕩けた瞳が……血に酔った狩人の証であるそれが、カオリをじっと見つめる。

そこに混じるのは、多少の警戒の色。

 

……少なくとも、カオリの記憶にある[黒見セリカ]と目の前の[黒見セリカ]は大きくかけ離れていた。

けれど、カオリはその動揺をどうにか心の奥底に封じ込める。

 

「心得た。改めてよろしく頼むよ、セリカ」

「……頼りにさせてもらうから、カオリ」

 

そう言って、2人は軽く狩人の一礼を交わす。

セリカからは純粋な警戒が、

カオリは未だ情報整理を試みて悉く失敗していることからくる妙な緊張感があった。

 

……さて、一先ずの挨拶を終え、カオリは改めてセリカの方を見やる。

 

何が起こっているのかはわからないが、(というか、今のセリカにゲールマンのそれに限りなく近い上位者の呪縛がかかっているのは……気の所為だと信じたい)

少なくともセリカがここにいて、尚且つ狩人であることは事実。

そして、狩人が深部の、それも儀式を全てこなした聖杯ダンジョンにいるということは、そういう事だろう。

見たところセリカの得物はレイテルパラッシュと……恐らく、水銀弾が撃てるように改造したと思しきアサルトライフル。

ここから考えるに、ステータスは技量血質で、血質血晶を取りに来たと見るべきか……

 

魔改造アサルトライフルについて聞いてみたい衝動を何とか抑え、カオリはセリカに尋ねる。

 

「それでセリカ。君の装備から見るに血質の血晶石を取りに来たと思うのだが、正解かな?」

「いや、血晶石は目的じゃない」

「……ほう?」

 

カオリは十中八九、

セリカが血晶石マラソンをしているのかと思っていたが、今回ばかりは違う。

セリカは少しの間、今し方起こった摩訶不思議をどう説明したことかと考えたが、結局、必要なことだけ伝えることにした。

 

「アヤネちゃ……連れ2人とはぐれたの。正直、呪い付きのここを安定して突破して、尚且つ隅々まで探索するとなると私だけじゃ厳しいから手伝って欲しくて……どうしたの?」

 

淡々と説明を始めたセリカだったが、ふとカオリの方を見ると再び動きが不自然にガチリと固まっていた。

……因みに原因は、無論セリカが冒頭に出した人物名である。

 

「……いや、何でもないとも」

 

……そうだ。セリカが狩人なのだから、

他のアビドスのメンバーもいてもおかしくは……いや、それはそれでいろいろ不味くないか?

 

「……因みに、その探し人の特徴は何かないだろうか?万一君とはぐれても対応できるよう、知っておきたい」

 

この言葉は半分本当で半分嘘である。

確かに万が一の事を考えて情報が欲しいというのもあるが、アビドスが何処まで獣狩りの狂気に染まっているのか、知りたかったのだ。

対するセリカは、その言葉に何かを感じ取りでもしたのか一瞬考え込むような素振りを見せる。

 

「……できればそんな場面想定したくないけど、一理ある」

 

……が、次の瞬間。彼女を取り巻く上位者の気配が呼びかけるように揺らめいたかと思うと、セリカはカオリの言葉に肯定を返した。

 

……何か、おかしい。

 

カオリがその上位者の気配……狩人に警戒しているとは露知らず、セリカは説明を始めた。

 

「1人目の名前は奥空アヤネ。聖歌装束と眼鏡を着けてる」

「……聖歌装束、空に宇宙を求めた者達の徴、か」

 

先程名前がちらりと出ていたので、

流石にカオリはこれには驚きはしなかったものの、装備の内容に思うところがあったのかぽつりとそう呟く。

 

「……続ける」

 

そんなカオリの呟きにセリカは少し顔を顰めたものの、説明を続ける。

……まだ名前の出ていない2人目。

ノノミか、ホシノか。もしくは……

 

「2人目は砂狼シロコ。異邦の服を着てるのと……獣の爪の変形後を使ってるから、それでわかると思う」

 

……シロコだった。

アビドス高等学校所属の、「ん、銀行を襲う」というセリフが余りにも有名な少女。

他の2人は今は居ないだけなのか、それとも訳あって狩人ではないのか……

 

カオリの脳裏に様々な予想が浮かび上がるが、目下最大の疑問は、何故か使用する武器が獣の爪の変形後……即ち、片腕が獣化した状態での使用に限定されたことだ。

別に、獣の爪を使っている、と言えばいいにも関わらずわざわざそう限定した理由……

 

「……わかった。人探しは余りしたことがないが、出来る限りの助力をしよう」

 

カオリはしばらく考え込んだ後、セリカに向けて表向きはそう快く返答する。

しかし、内心ではセリカ……いや、彼女を取り巻く上位者の気配に警戒を強めた。

 

相手が何を企んているか迄はわからないが、

思えば最初からこの全盛りローランも、

通常のものとは違い妙な感覚がしていた。

推測として最も有力なものは、自身の与り知らぬところでアビドス対策委員会が上位者の魔の手にかかり、それで……と言ったところか。

キヴォトスに転生してから幾星霜……と言っても数カ月程だが。

まさか、本来の意味で狩人が必要な案件が来るとは思わなかった。

 

……だが、自分とて狩人の一端、そして上位者だ。

完全に元通りとはいかないかもしれないが、必ずや……!

 

密かに闘志を燃やすカオリ。

……けれど、セリカを取り巻いている上位者の気配こと狩人には、それは割と筒抜けだった。

 

[……警戒されているな]

「……私自身信じきれてないし、血に酔ってるのに正気だとか説明されればそうもなる、かな。シロコ先輩の説明も不自然だったし」

[いや、私の気配が警戒されている]

「…………………」

 

カオリに届かぬよう小声で狩人と会話していたセリカだったが、その返答が聞こえた瞬間、この謎通信を遮断したい衝動に駆られた。

 

よし、大丈夫。大丈夫……落ち着け自分。

 

[……私の方からカオリに呼びかけを試みてみよう。

相手も上位者であれど、害意はないようだ]

 

先輩からのそんな提案に、

セリカは初めから自分か先輩がそれを思いついていれば

もう少し早く済んだのでは?とぼんやりと思った。

 

 

……狩人から改めて状況説明を受けたカオリが再びフリーズした後、内心アルのような表情になってしばらく戻らなくなるまで残り5分。

 

 

_____________________

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

「セリカちゃーん!シロコせんぱーい!!」

 

 

呪われた深きローラン 第1階層

 

その中にある円形広場に、アヤネの声が木霊した。

けれど、その声に応える声は何もない。

……あくまで声は、だが。

 

「グオオオッ!!」

「!!」

 

背後から獣の咆哮。

アヤネは反射的に横方向へ飛び退ると同時、先程まで彼女がいた場所を罹患者の獣の牙が通過する。

 

「また……!」

 

その姿を見取ったアヤネは小さくそう呟くと同時、右手に持った湾曲した剣……シモンの弓剣を構える。

 

「はあっ!」

 

斬撃。

血飛沫が舞い散ると共に、獣から苦痛の悲鳴が上がり、その身体が怯んだ。

 

「今……!」

 

アヤネはその隙を逃さまいと、一気に連撃を加える。

絶え間なく浴びせられる斬撃に、獣は苦痛を上げ続ける事しかできない……が、

 

「アア゛ア゛ア゛ッ!!!」

 

その背後から小柄な獣が3匹、アヤネに駆け寄ってきたのだ。

アヤネがその咆哮に気がついた時には、既に獣は彼女の身体を攻撃圏内に捉えていた。

 

「あぐっ!?」

 

背中を切り裂かれる激痛にアヤネの動きが固まる。

けれどそれも一瞬。囲い込まれる前に受け身を取ると、相手から遠ざかる。

無論、それをみすみす見逃すような相手ではない。

鮮血を滴らせながら逃げる少女に小柄な獣の群れが迫る。

 

「っ、それなら……!」

 

こちらを追う獣の姿を確認したアヤネは、即座に相手の方向へと向き直るとバックステップ。その勢いのまま、コモンセンス(拳銃)を仕舞うと剣の根元の割れ目に手をかけた。

 

 

カチンッ!

 

 

瞬間、剣が刃の部分から真っ二つに割れるように展開したかと思うと、湾曲した刀身が弓の形状を形作る。

アヤネは即座にそれを左手に持ち替えると迫る獣の一匹に照準、そのまま弦を限界まで引き絞る。

……その手の中に、先程まで無かったはずの水銀の矢が現れた。

 

 

「当たって……!」

 

 

パンッ

 

 

小気味良く弦の弾ける音とともに、銀の矢が一直線に獣の脳天目掛けて飛跳した。

 

「ギャッ!?」

 

標的となった獣がそれを知覚したのは、

頭蓋を打ち破って頭部に深々と突き刺さった鏃により、割れんばかりの激痛が全身を駆け抜けた後だった。

しかし、頭部に致命傷を負ったが故にその知覚すらすぐに死に融ける。

 

「ガアァッ!」

「グアッ!!」

 

だが、残った2匹は仲間の死に目もくれずアヤネに迫る。

それを確認したアヤネは直に弓を折りたたみ、その一撃を回避。

その隙に懐から取り出した輸血液を太腿へ撃ち込んだ。

傷が癒える。

痛みが消える。

……だが、本来の万全から

丁度半分程度の場所で治癒が途切れる。

 

「……やっぱりこれ、セリカちゃんが言ってた呪いが……」

 

その感覚にアヤネがぽつりと呟いた瞬間、

 

「ゴアァァァアアアッッ!!」

 

目の前の小柄な獣とは異なる、死角からの咆哮……

先程の罹患者の獣が、散々自身の身体を斬り刻んだ下手人に対して恐ろしい速度で駆け寄ってきていたのだ。

……だが、アヤネの表情に驚愕はない。

 

「そう何回も同じ手には掛かりません!」

 

瞬間、アヤネの左手が素早く、跳ね上がるように動く……

その手に握られるのはコモンセンス。

 

「ギャアアッ!?」

 

銃声と共に放たれた水銀弾は今にもアヤネを掴もうとしていた獣の胴体に突き刺さり、その体勢を大きく崩した。

獣が地面に手をつくと同時、その悍ましい頭が無防備にアヤネの前に曝け出される。

それに向けて、アヤネは右手を引き絞るように後ろに引く。

……その腕に、弓剣が溶け込んだ。

 

「お返し、です!!」

 

グシャッ!

 

獣の首元にアヤネの細い腕が突き刺さる。

技量の高められたそれは、獣の内部を的確に、致命的に掻き乱してゆく。

腕を引き抜けば、傷口から溢れた血が雨のようにアヤネに降り注ぐ。それは純白の聖歌装束を赤く彩り、更に、彼女の脳裏に刻み込まれたカレル文字によりその獣血の一部が水銀弾を込めておくシリンジの中に吸い込まれてゆく。

 

「ガア、アァ……」

 

致命的な傷を負った獣は微かな末期の声を溢すと、そのまま地面に倒れ伏し、動かなくなった。

……残るは、小柄な獣2匹のみ。

 

「……ふぅ」

 

アヤネはゆっくりと息をつくと、こちらの様子を伺うそれらを改めて見据えた。

 

 

数十秒後、切り刻まれた亡骸がその場に2つ増えた。

 

 

「……はぁ、はぁ……う、ぅ」

 

獣の亡骸と、誰のものかも分からぬ血飛沫に汚れた広場の中、漸く緊張が解けたアヤネはその場にへたり込むと同時、荒く息をつく。

その表情に浮かぶのは疲労と……確かな歓喜。

 

「やった……狩れた、やっと狩れた……!」

 

……3回。アヤネが先程の獣の集団に襲われて死んだ回数だ。

1度目は居なくなってしまったセリカとシロコを探すことに気を取られ、頭から貪り食われた。

2度目は先程、生きたまま咀嚼された恐怖が拭い切れず、身を隠して移動していたらいつの間にか小柄な獣に取り囲まれ、先程より惨いやり方で食われた。

3度目は何とか立ち向かったはいいものの、罹患者の獣の対応で手一杯で背後から挟み込まれ、全身を爪で斬り刻まれて死亡……

 

今回は完全に逃げに徹していて、うまく逃げ仰せたと思っていたが、気付かれていたらしい。

まあ、訓練で培った技術と死の経験で何とか突破できたので良しとする。

……だが、この場所を突破できたからと言って問題が解決したわけではない。

 

「……それにしても、2人は何処に……」

 

そう、逸れてしまったセリカとシロコに未だ会えていないのだ。

声を聞いたのは、転移途中身体を引っ張られるような感覚が過った瞬間、セリカが驚愕で息を飲むようなそれを発したのが最後。

何か異変が起きたのではと慌てて呼びかけようとした時には、この場所にいた。

セリカの反応から見ても、今起こっているのは異常事態なのだろう。

 

「……でも、何とか進める事はわかった」

 

……そう、少なくとも進める事はわかったのだ。

それに何度死んでも、この身は生き返る。

失敗した要因を覚え、対策し、次に繋げる……自分の得意分野だ。

それに、当初と状況は異なれど実戦訓練が出来ていることもまた事実……これを乗り切れば、狩人として大きく成長できるはず。

 

「よし、それじゃあここから先に……!」

 

 

さくっ

 

 

その時、アヤネの背後で地面を踏みしめる音がした。

それと同時、アヤネに背後から、長身の何者かが見下ろしているような影が落ちる

 

新手……!?

 

反射的にアヤネは頭上を見上げた。

そこにいたのは……

 

「……へ?」

 

青白い肌、歪に歪み、絶叫のような表情のまま固まった顔。

その頭頂部からは枝垂れるような長く黒い髪が垂れ下がっている。細く、不気味な腕に保持されているのは、殆ど黒と言える程にまで汚れた包帯に巻かれた死体。

そして、その落ち窪んだ穴のような眼窩は、アヤネの事をじっと見つめていて……

アヤネの記憶の中から、不意に幼い頃見てトラウマになっているホラー映画の記憶が蘇る。

そこに出てくる幽霊に、それはとても良く似ていた。

 

……瞬間、アヤネの精神から先程の決意が吹っ飛んだ。

 

 

「ひやぁああああああああああああああ!?!?」

「ギョアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

アヤネが渾身の悲鳴を上げると同時、推定:貞子は何とも言い難い悍ましい絶叫を発したかと思うと手に持った死体を大きく振りかぶる。

幸いなことに予備動作は大きかったのでアヤネが受け身を取って回避するだけの余裕はあった。

 

 

ドゴシャッ!!

 

 

その代わり、アヤネが先程までいた場所に直撃した死体が、

明らかに死体を叩きつけただけで立てていいような音ではない破砕音が聞こえてくる。

……アヤネの中の直感が叫ぶ。

あれは先程の獣の爪や牙のようなちゃちなものでは断じてない、と。

当たったら死ぬ、と……

 

気がつけば、アヤネは全速力でその場から駆け出していた。

……何やら他のいろんな敵の横を通り過ぎたような気がするが既にアヤネの意識の中にはない。

 

 

「な、何なんですかあれなんですかあれ!?違くないですか?!

もっとこう、獣じゃなく、獣じゃなくてっ!?」

 

 

毛色が違う、余りにも毛色が違う。

どっちかというとあれはホラー世界の住人だ。

……というか、未だに嫌な予感が剥がれてくれない。

 

アヤネは走りながら、恐る恐る視線だけを背後に向ける。

そこには髪を振り乱し、恐ろしい速度でこちらの動きに追従してくる先程の化け物……

 

「ひうっ!?」

 

アヤネは小さく息を呑むと正面へと視線を戻した。

心臓の音がうるさい。段々とスタミナも切れてきた。

 

 

「き、気のせい気のせい何もいない何もいない……!」

 

 

けれど、一度意識してしまえばそれまで。

背後の化け物がこちらを追う足音が耳からこびりついて離れない。

……というか、どんどん足音が大きくなってきている気が……

 

 

「エ゛ァァァァアアアア!!!」

 

 

叫び。

瞬間、アヤネはなけなしの体力を振り絞って

反射的に斜め後ろ方向に向けて飛び退っていた。

 

 

ブオン!!

 

 

次の瞬間、化け物身体がすぐ横を通過したかと思うと、

先程までアヤネがいた場所を死体が大きく薙ぎ払った。

凄まじい風圧が駆け抜け、目と鼻の先で死体が停止する。

 

「ぅ……!」

 

その光景に背筋が凍るような感覚を覚えるも一瞬、

アヤネはその隙に化け物から弓剣を構えた。

 

……逃げっぱなしでも追いつかれる。

ならば、ここでどうにか相手を仕留めるしか方法はない。

 

そんなアヤネの決意を知らず……いや、知っていても一切気に留めないであろう化け物……守り人の狂人がぐるりと、どこか人間離れした動作でアヤネの方を振り向く。

髪がだらりと垂れさがる。

その黒い眼窩が、アヤネの姿を捉える。

 

「……っ」

 

今も、身体の震えが止まらない。今にも逃げ出してしまいたい……が、

 

 

「やらなきゃ、やられる……!」

「ギェエアアアアアアアアア!!」

 

 

アヤネがそう呟くと同時、死体を大きく振りかざした守り人の狂人は少女を撲殺せんと躍りかかった。

 

 

 

 

__________________________________

 

 

 

呪われた深きローラン 第3階層

 

 

 

 

 

……さて、話に移る前にここで聖杯について解説することとしよう。

基本的に聖杯ダンジョンは古代の地下遺跡や墓地の類であり、

それ故に所々に埋葬品や高価な品々が集結された宝物庫のような場所がある。

とは言えこんな場所を意気揚々と漁ろうとするのは聖杯に慣れた狩人位なもので、

普通ならこの場所の異様な雰囲気に委縮してしまうのが常だ。

異常事態が起こっているならば尚更のことだろう。

 

……しかし、ここに良くも悪くも非常に神経が図太い少女が1人。

 

 

「……ん、宝の山」

 

 

宝物庫の扉を開け、堂々とその中に侵入してきた少女……砂狼シロコは周囲を見渡して満足そうにそう呟いた。

柱が、奇妙なオブジェが立ち並び、宝箱のようなものや大棺が無数に置いてあるこの場所。

 

ここにきっと、狩人が言っていたような宝物が……

 

……セリカとアヤネとはぐれ、一時は混乱していたシロコだったが、

混乱していてもしょうがないし、どうせ死んでも生き返るのだから2人を探しがてら探索をすればいいのでは?

と、思い至ってからが早かった。

道行く獣やら白いよくわからない人型やらを狩りつつ、時に敵対的な狩人や素手でとんでもない攻撃力を叩き出すズタ袋を持った相手やらの強敵に挑みつつ、火球をこれでもかと言うほど連射してくる足の長い敵や鎌を持った影を大量に召喚してくる魔女を這々の体で狩ったはいいものの、碌な物を持ち合わせていなかった上不味かったので、次からスルーすることを脳内決定しつつ……

……砲火の絶えないキヴォトスでもかなりアウトロー寄りの思考回路を持ち合わせたシロコは、聖杯での順応が恐ろしいほど早かった。

力こそ正義。ん、わかりやすい道理。

 

さて、そんな彼女は今現在、

冒険の末見つけたこの宝物庫の中に何が眠っているのかについて心を躍らせていた。

宝箱は大小合わせて4つは堅い。素晴らしい。

更に奥には如何にもそれらしいレバーまである。

確か、一箇所仕掛けで閉じられて進めない扉があったので、恐らくそれを開けるためのものだろう。その先にはきっと、更なる財宝が……

 

……実のところ狩人の言う宝物(血晶石)宝箱(素材ボックス)にはかなりの齟齬があるのだが、それをシロコが知るのは少し先である。

そして、宝物庫というものは往々にして番人がいるもので……

 

「ヴオォオォオオオオンッ!!!」

「むっ」

 

瞬間、

頭部が縦に割れたような口を持つ、松明を握り締めた二足歩行の銀色の獣が、爪を振りかざしシロコ目掛けて飛びかかってきた。

けれど、シロコはその一撃を懐に潜り込むようにして回避すると返す刀で左手の爪を一閃する。

 

血飛沫が舞う。

 

「ギャアッ!?」

 

胴体を深々と切り裂かれた故、獣が苦痛の悲鳴を上げて怯む。

そこで生まれた隙に向けてシロコは湧き上がる獣性のまま、一気に畳み掛けるように連撃を繰り出した。

 

「ヴぁあッ!!」

 

シロコは吠える。

血飛沫に沸き立つ獣性は更なる力をもたらし、それにより高められた一撃は繰り出す度に重く、鋭くなる。

……けれど、相手とてただ何もできぬまま攻撃を受け続けている訳では無い。

 

「グウウウウゥゥ……!!」

 

銀の獣が唸りを上げると同時、血を流しながら身を丸く屈める。

 

傷口を隠そうとしている?

 

シロコの脳裏にそんな言葉が過るが、その予想は即座に打ち切られることとなる。

 

バチッ

 

「!!」

 

青い雷光が弾ける。

その光は見る間に激しくなり、それを帯電させるように、溜め込むように、銀の獣が身体を屈める。

シロコが尚も相手の血を求めようとする獣性を押し留め、素早く後退するのと、それが起こるのとはほぼ同時だった。

 

 

ズバンッ!!!

 

 

雷光が弾け、それは同心円状に獣の周囲へと広がる。

それは退避したシロコの目と鼻の先まで迫り、熱された空気が膨張する奔流と生暖かい風を届けた。

……もう少し回避が遅ければ、雷光に全身を打たれていたことだろう。

 

 

「オオオオォォォンッ!!!」

 

 

シロコと距離を離すことに成功した銀の獣は、即座に松明を投げ捨てると4足歩行となり、裂けた口を大きく開きシロコに向けて飛びかかる。

……が、

 

「はァっ!」

 

次の瞬間、銀の獣の側頭部にシロコの回し蹴りが突き刺さったのだ。

獣の膂力をもって放たれたそれは飛びかかっていたそれの軌道を大きく逸らし、横方向へ叩きつける。

全身を巡る鈍い痛みで一瞬身動きが取れなくなった獣に対して、シロコは容赦なく左手を振り下ろした。

 

 

「オ゛ァッ!?……ァ……ァァ……」

 

凶爪が深々と身体に突き刺さる。

銀の獣は今度こそ断末魔を発し、身動きを止めた。

 

「……よし」

 

獣が確実に絶命したことを確認して、シロコは一息ついて獣性を落ち着けると立ち上がる。

……と、不意にシロコの目に、左腕の爪を引き抜いた拍子についてきた鮮血が、そして幾らかの肉片が目にとまった。

 

………

 

「……今はいいかな」

 

シロコはぽつりと呟くと、左腕を振るってそれらを軽く落とした。

 

それより今は宝箱だ。先ずは、比較的小さなものから……

 

表情にこそ出ないが、心なしか蕩けている筈の瞳がキラキラと輝いているように見える。

そうしてシロコが心を弾ませながら窪にある小さな宝箱の蓋に手をかける。

……瞬間、

 

 

「……?」

 

 

今にも宝箱を開けようとしていたシロコの手が不意に止まる。

 

……見られてる。

 

そんな不思議な感覚が、シロコを駆け抜ける。

 

「……さっきから(・・・・・)、誰?」

 

シロコは何処にいるかも知れぬそれに呼びかけるように声を発すると、辺りを見回す。

 

……柱の裏、入口付近の死角。

 

注意を集中してみるが、何もいない。

そして辺りを見回すうち最終的にシロコの視線がたどり着いたのは、自身の足元……その下に広がっているであろう地下だった。

 

「……何?」

 

シロコはたった1人、ぽつりとそう呟く。

先程からずっとそうだ。

時折足元から、見られているような気配を感じる。

害意のようなものでないことはわかるのだ。

けれど、何というべきか視線が熱っぽいような、纏わりつくような……とにかく、見られていてあまりいい気はしない。

 

「……変なの」

 

シロコはそう言って眉をひそめると、改めて宝箱に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あぁ、やはり素晴らしい。

 

獣でありながら、その身に類稀な啓蒙を身に宿し、確かな理性も残している。

我と同じ、特異な存在。

その身を繋ぐ柵も直に解き放とう。

さぁ、我が胸のうちに来てくれ。

 

 

我が、伴侶よ……

 

 

 








どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

……なんか、感想欄でこの話もブラッドアーカイブし始めるんじゃないか?って声が散見されてましたけど、心外ですね!
まるで僕が曇らせしか書けないみたいな……
……あれ、なんか書いてく文章が曇らせになってくぞ?あれ、あれれれれ??
ま、まあネタ寄りかつ平和な終わり方にはするつもりなので……うん。


あと、絶妙に気持ち悪い発言をしていましたが今回の黒幕顔出しです。
ゲームには登場していない上に
作者がこじつけにこじつけを重ねて自我が芽生えてるので割と与太。
次回は……アヤネちゃんに合流できるといいなぁ(願望)


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