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今回も今回とてコラボ回です。
▼見たまえ!青ざめた血のアーカイブだ!作品ページ▼
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呪われた深きローラン 第2層
「ガアアアァッ!!」
「グァァアア!!」
「っ!」
悍ましい叫びが連続する。
その光景にセリカは短く舌打ちすると、飛び掛かってきた2体の大型犬もかくやという大きさの赤目の猟犬を回避、その横腹目がけて即座に変形したレイテルパラッシュの銃口を照準する。
「ガウッ!?」
弾丸をもろに受けた一匹がよろめく。
セリカはその隙に前方にステップして一気に距離を縮めると更なる追撃をかけようと試みる。
だが、その背後にもう片方の猟犬が素早く回り込む。
間違いなく、背を見せているセリカを強襲するつもりだ。
……しかし、それは叶わない。
「通さないよ」
瞬間、横から素早く走り込んできたカオリが、上段に振りかぶった大剣……ルドウイークの聖剣をその胴体目がけて勢いよく振り下ろした。
「ギャアッ!?」
鮮血が舞う。
胴体を両断しかねない一撃を受けて猟犬が崩した。
その間に細い胴体に触れるように、カオリが手を差し伸べる。
「星の娘よ。貴女の先触れをここに」
瞬間、宇宙が開かれた。
空間を裂く宇宙の中から、無数の触手が飛び出す。
蒼白とも翠緑ともつかぬ色合いのそれは、出現位置の真正面にいたそれの身体をズタズタに引き裂きながら貫通し、あっという間に物言わぬ肉塊に変えた。
その光景を確認したカオリは一旦息を整えるとセリカの方へ視線を移す。
ドチャッ
「!」
瞬間、水っぽい音と共に血袋になった猟犬の身体が撃ち捨てられるように石畳を転げた。
それを作り出したセリカは、ただ何の感動もなく、末後の痙攣の後に動かなくなったそれを見つめていた。
先程から戦闘続きで全身に血をかぶっているが、それを気にする様子も一切ない。
……馴れている。
一応、先の上位者……別世界で第3エンドを迎えた狩人との会話でセリカ達についてほんの軽い説明の中で、セリカとアヤネが狩人であること。シロコは特異な状況にある獣であること。3人の中だとセリカが最も狩人としての歴が長いことを知らされていたものの、いざその姿を、[黒見セリカ]が狩りを行っている姿を見るのとではかなり印象が変わる。
「カオリ、まだ残ってる」
「……ああ、そうさね」
しかし、セリカからそう声がかかったのでカオリは一旦その思考を打ち切ると、視線を別方向へと向ける。
その方向には先程の番犬の主……旧主の番人が刀を携えてゆっくりとこちらへ距離を詰めて来ていた。
カオリはルドウイークの聖剣の先端を旧主の番人に向け、轢き絞るようにそれを構える。
セリカは太ももにシリンジを打ち込み血の弾丸を補充し、接敵に備える。
……先に動いたのは旧主の番人の方だった。
「……!」
番人は急に駆け出したかと思うと、
その勢いのまま何も持っていないはずの左手を後ろに引いた。
狙いはカオリだ。
その手の中に、オレンジ色の光が宿る。
……だが同時に、その予備動作はかなり大きかった。
「甘い」
ヒュオッ!
瞬間、鋭い音を立ててルドウイークの聖剣が番人目がけて突き出された。
確かな質量と鋭さを持ったそれは番人の身体を覆う脆い骨灰を砕き、内部の焼け焦げた肉体を貫く。
攻撃の予備動作に移っていた番人だったがその質量の前によろめき、動作が中断される。
……だが、その手の中には未だ火種が燻ったまま。
「……」
番人は何も言わず、その火種を素早く地面に叩きつけた。
瞬間、周囲一帯に舐めるように炎と衝撃が放たれる。
けれど、その頃にはカオリはその爆発の範囲外に退避していた。
そんな彼女に向けて番人は再び左手を引き絞り、
今度こそその身体を炎に捲かんと試みる。
……けれど、その背後に迫る影。
「そこ」
瞬間、番人の背をレイテルパラッシュによる鋭い刺突が見舞った。
再び攻撃が不発に終わった番人に、
行動を許すまいとするかのようにセリカは更に刺突を重ねる。
しかし、番人はそれに対し強引に体勢を立て直すと刀を素早く振りかぶった。
次の瞬間繰り出される
……だが、それはやはり、叶うことはなかった。
「!」
番人が捉えたのは、自身の刀の動きのタイミングにほとんど追従しているかのように跳ね上がった、セリカが持つシンシアリティの銃口。
けれど今更、動作を変えることはできない。
番人が刀を振り下ろした瞬間、シンシアリティのトリガーが引かれた。
マズルフラッシュ
速射された3発の血の弾丸が番人の身体を穿ち、その体勢を大きく崩す。
その胴体が無防備にセリカの前へと晒される。
それに対し、セリカはいつも通りに右手を引き絞った。
貫通
先程カオリによってつけられた傷跡からねじ込まれたセリカの手は旧主の番人の焼け焦げた体内をかき乱し、その中に残っていた血液を体外へと掻き出してゆく。
「……ふふっ」
溢れ出す鮮血を全身に浴び、セリカは短く喜悦をこぼす。
けれど次の瞬間には、致命傷を負ったそれを地面へと打ち捨てた。
力なく石畳を転がった旧主の番人は、再び身動きする間もなく光に包まれ、霧へと溶けてゆく。
次に目を瞬いたときには、それの姿は完全に掻き消えていた。
その光景を見届けた後、セリカは軽く息を整えてからカオリの方へ視線を向けた。
「助かった。あいつら、1人で戦ったら面倒な上に水銀弾の消費もバカにならないからいつも戦闘避けてたんだけど……今回ばかりはそうも言ってられないし」
「……いや、構わないとも。私もよい業を見せてもらった」
……そんなセリカからの言葉に、カオリの返答は僅かに遅れた。
脳裏をよぎるのは、その確かな狩人としての技術と、先程彼女が内臓攻撃の瞬間に見せた喜悦。
記憶にある黒見セリカの表情とは全く違う、傷跡の走ったそこに浮かぶ歪な笑み。
……正しく、血に酔っていた。
そしてその様相を表す言葉を、カオリは一つしか知らない。
「しかし貴公、良い狩人だな。
狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。良い狩人だ」
その言葉に、セリカはピクリと反応を示した。
……けれど、続く彼女の返答は、カオリの予想とは少し違うものだった。
「……デュラさんと知り合い?」
たった一言だけの、そんな問いかけ。
思わぬ言葉にカオリは内心少し驚いた。
けれど、その動揺もすぐに掻き消す。
「あぁ、一応。とは言え、君が知るヤーナムとはまた別のヤーナムだが……」
「知ってる。なんとなくだけど先輩から聞いてるし……
……あと、デュラさんの言ってるようないい狩人ではない、とだけ言っとく。
血に酔うんじゃなくて、呑まれるようだと、ね」
セリカはそう言って小さく自嘲すると、どこか寂しそうに俯いた。
……先輩と呼ばれている上位者は、セリカは狩人としての歴が長いと言っていた。
元の面影がほとんど残らないほどの何かを、見てきたのだろう。
続ける言葉を思いつかないカオリを余所に、
セリカはふと何か思いついたようで、独り言に近い言葉を発する
「……そういえば、アヤネちゃん達が来てからデュラさんのとこ行ってないや。
今度2人と一緒に行こうかな……いや、でもアヤネちゃんと一緒だと血の酒を飲ませてくれないだろうし……」
「……貴公、匂い立つ血の酒を嗜むのかい?」
「時々ね。飲む場所も機会も中々ないから。
一回夢で飲んだときは人形さんを困らせちゃったし」
……それに、飲むときは大抵何かから逃避したい時ばかりだった。
今は少なくとも、逃避できるようなことはない。
……この言葉は、セリカは心の中で呟くにとどめる。
あまり声に出してもいいものではない。
セリカはふっと、また一つ息をつくと、改めてカオリの方を見た。
「話は置いといて、これで第2層の探索は終わったし、
一旦逆走して第1階層に行こうかと思うんだけど、どう?」
「異存はないよ」
セリカからの問いかけに、カオリは短く頷いた。
それを確認すると、セリカはすぐに身をひるがえすと元来た道へと引き返す。
……因みに、各階層入り口付近には歪んだ灯りこそあったものの、使者たちの姿は確認できず、機能も精々死亡した時に目覚める地点としての役割しか残っていなかった。
今狩人が、一時的に上位者謎パワー式通信を切って、この聖杯ダンジョンに接続しようと躍起になっているが、通信が回復しないということは相当手こずっているのだろう。
ぼんやりと、セリカはそんなことを考える。
「……時にセリカ、この狩りとは関係なく少し聞きたいことがあるのだが」
その時、不意にカオリから声がかかった。
……狩りとは関係ない。
その言葉に、セリカは少し警戒を覚えながらも、そちらの方へ視線を向ける。
「……何?」
「いや、大したことではないんだ」
セリカの反応から何か感じ取ったのか、
カオリはそう付け加えると、本題のその質問をセリカに投げかけた。
「銭形焼の金運壺、というのものを知っているかい?
買って自分の部屋に置いておくだけで金運が得られるという代物らしいのだが……」
「……明らかに詐欺商品でしょ、それ」
次の瞬間、返ってきたのはセリカのジトっとした視線だった。
その返答にカオリはやはり、内心驚いた。
昔の彼女ならほぼ間違いなく騙されていた筈だが……
「そうとも言う。いや何、君がどんな反応をするか気になってね」
「……なんでそんなことを考えたかは聞かないでおく」
カオリの言葉に、セリカは呆れたようにそう言うと、一度正面に視線を戻した。
……けれど、不意に何かを思いついたらしい。
「……でも、金運アップというかお金がもらえるって言う点では否定しないかな」
「……?それはどういう……」
その言葉の意味が解らなかったのか、カオリが思わずそれについて問いかける。
それに対する、セリカの返答は少し抽象的なものだった。
「人を騙して金を巻き上げようとするんだったら、
巻き上げられた人からちょっとした復讐をされても、文句は言えないでしょ?」
「…………あぁ、なるほど」
つまり、セリカが言っているのはあれだ。
一度騙されたフリをして大義名分(?)を作ったのち、改めてその業者を襲撃して逆に身包みを剥がすと……そういうことだ。
最早当たり屋とか、広義的には強盗とも呼べそうな所業だが……割とまかり通ってしまうのがキヴォトスである。
カオリは限りなく黒に近いグレーな商売をしたばかりにどうやっても勝ちようもない相手に襲撃を受ける羽目になったであろう詐欺業者に、脳内で静かに手を合わせた。
「商品を盗りすぎない事と、現金も自分が被害にあった分以外に手を付けないように立ち回ればヴァルキューレもしつこくは捜査しない。
ついでに盗った商品も闇銀行経由でブラックマーケットに流せば足はつかないし、ちょっとした稼ぎにもなる。
おすすめはやっぱり宝石系の商品かな。変な効果なんて記述しなくてもあの手のやつはそこそこ高値で売れるし……まあ、偶にガラス玉だったりするけど」
しかも、滅茶苦茶詳しい。
紛う事なきアウトローである。
正直、カオリはちょっと引いた。
これが、覆面水着団の力……!
……尚、実際はこの世界線のセリカは、覆面水着団の盟友であり凄腕の独立傭兵、銀鴉として活動しているのだが、そんなことカオリは知る由もない。
「……解説は助かるが、私は遠慮しておくよ。資金は余り用入りではないしね」
「それがいいよ」
カオリのそんな言葉に、セリカは淡々と返答した。
……そこからまた、しばらくの間会話は途切れる。
再びそれが始まったのは、各階層への通路へとつながる最初の空間へとたどり着いた時だった。
「……そう言えば、私からも質問がある」
その問いかけは、意外なことにセリカから発されたものだった。
不意に向けられた赤く蕩けた瞳が、カオリの方向へと向けられる。
その言葉に、カオリは少しの間思案を巡らせた。
「ふむ……どんな質問かな?私が答えられる範囲のことであれば何でも答えよう」
「……じゃあ、遠慮なく」
……カオリの言葉に、セリカの返答が少しだけ遅れた。
少なくとも質問に答えてもらえる、という意味では喜ばしい返答なはずだが……
「…………」
「遠慮なく」と言った後も、セリカの言葉は途切れた。
その口元が、迷ったように動く。
……そして、
「……こっちのキヴォトスと、
あなたのいるキヴォトスは少し違う……確か、そうよね?」
「確かにそうだが……それで?」
また、セリカの言葉が途切れた。
赤く蕩けた瞳が、やはり迷うように揺れ、伏せられる。
……結局セリカはそのまま、迷いながらその問いかけを口にした。
「向こうの私たち。アビドスのこと、知ってる?」
……予想はしていたが、答えるのが難しい質問が来た。
「……少し、待ってくれ」
カオリは一度セリカにそう言うと、思案を巡らせ始めた。
経験則からするに、こちらのキヴォトスは概ね原作に沿った出来事が起こっている。
つまり、アビドスも例外なく、何の異常も……誰かが狩人になることもなく、
原作通りの1、2章を辿っているはずだ。
……この事を、このセリカに伝えて、いいのだろうか。
反対に、知らないといってしまうのは簡単だ。けれど、それも……
「……知らないなら、それでいい」
けれど、そんなカオリの思考を打ち切ったのは他ならぬセリカからの言葉だった。
カオリがセリカの方を見ると、彼女は小さく、柔らかく
……だが、寂しそうに笑っていた。
……そう、知らないなら。
トリニティにいるという彼女に、キヴォトス中を一時期騒がせた
「……セリカ?」
「それだけ知れたなら、十分だから」
カオリの言葉にセリカはあくまでそう言うと、次の瞬間には無表情に戻っていた。
会話をするうちに2人はいつの間にか上層へ続くリフトに乗っていたのだ。
リフトが軋む音と仕掛けが巻き上がる渇いた音が、会話の余韻を掻き消してゆく。
……それと同時、これから相対するであろう階層主のことで、緊張が高まってゆく。
「……裏側からここに入るのは、これが初めてかな」
「普通はそうだろうさね。この聖杯は何もかもが特異なものだ」
第一層の階層主だからといって、油断は禁物。
下にいる階層主よりはるかに厄介な存在も多々おり、気を抜けば容易く死ぬ。
……それが、呪いの聖杯ダンジョンというものだ。
カチン
小さな音を立てて、リフトが上へと昇り切った。
セリカとカオリはゆっくりと、その正面にある扉へと近づくと取っ手に手をかける。
「……すぐに終わらせる」
「ああ、それがいいとも」
そして短く言葉を交わすと、部屋の中に一息に足を踏み入れた。
「キシャアアアァァァアアアアアアアアッッ!!!!」
瞬間、下手人に気が付いた階層主が……血に渇いた獣が、咆哮を上げた。
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呪われた深きローラン 第1層
血に渇いた獣との戦闘は驚くほど素早く終わった。
元々そこまで難易度が高い相手ではなく、レイテルパラッシュを使用し身軽なセリカが注意を引き、その間にカオリが変形したルドウイークの聖剣を差し込む。
或いは聖剣を身軽に動ける直剣へと戻したカオリが正面を張り、
その間は骨髄の灰が籠った鮮血の弾丸が獣を容赦なく撃ち据える。
血に渇いた獣の大きな武器である遅効毒を持つ体液も、こうも徹底的に近接戦闘を行う相手を切り替えられては成す術がなかった。
さて、そうして狩りは一先ず終わったわけだが、2人はその場から動けずにいた。
……主な原因は、地に跪くように手をついているカオリである。
「血質濡血……乗算28.7%……加算7.3……」
その目の前にあるのは、先程血に渇いた獣から落ちた呪われた血晶石。
……ああ、悪くない。数値は素晴らしい、最高峰ともいえる代物。
けれど、カオリの手は今にも崩れ落ちてしまいそうなほど震えていて……
そう、その一点。その一点さえなければ……!
「全、マイ……ごふっ」
カオリはそう言い残すと、ドサッと音を立てて地に伏した。
そんな彼女を呆れた様子で見ているのはセリカだ。
「別に血晶石目当てじゃないし、どうでもいいでしょそんなこと。
私はそもそも温かな血晶石だったし」
「何を言ってるんだセリカ!
これぞ多くの狩人が行きつく先であり、秘匿されし真実の一端ではないか!」
「……何で、こう、先輩みたいなのが……はぁ」
セリカは血晶石についてかなり無頓着かつ身近な例が狂人であるため地底人には割と辛辣である。
そんなため息をつくセリカを見て、カオリは誓った。
必ずや彼女にも厳選の歓びを、周回の悦楽を理解させねば、と。
瞬間、カオリは即座に跳ね起きるとセリカに向けて一気に距離を詰めた。
対する当人は急に接近された理由がよくわかっていないのかきょとんとしている。
「セリカ、この一件が終わったら共に9kv8xiyiに宇宙悪夢的確率でのみ手に入る血質血晶石を厳選しに向かわないか?あれは素晴らしいものだ」
「え……確かに予備武器の千景の厳選が中途半端とはいえ、
宇宙悪夢的確率って言ってる時点で行きたくないんだけど……」
「いや、是非とも行くべきだ。そして形状変化の拝領を……!」
そう言って更にカオリが厳選の楽しさをセリカに伝えようとした……その時だった。
「きゃぁあああああ!?!?」
空洞の中で幾度となく反響してくぐもって響いた悲鳴が、2人の耳朶を打った。
少なからず弛緩していた両者の空気感が、一気に緊張を帯びる。
声が聞こえた先は部屋を抜けた先……第1層の、それもすぐ近くだ。
そして、この悲鳴の主は……
「アヤネちゃん!」
瞬間、セリカの身体が弾かれたように駆け出した。
カオリが慌てて追いかけるも、
その頃には、セリカは正面にある両開きの扉をタックルでこじ開け、通路の中へ飛び出しているところだった。
その視界に広がるは一本道。
そこから中央部分へ通じる鉄格子を閉じる仕掛けのレバーは既に解除されているらしく、ライトが翠緑に点灯している。
その鉄格子の隙間から、向こうの状況がセリカの視界に飛び込んでくる。
黒く細長い、両手に鎌を持った影のような化け物が3体。
白い服を着た誰か……いや、アヤネを追っている。
「狂気者……ヘムウィックの魔女か!」
セリカは吐き捨てるようにそう呟くのもそこそこに、
鉄格子の取っ手に急いで手をかけると一気に上へと上がるや否や、
即座にレイテルパラッシュとシンシアリティを照準した。
「させない!!!」
瞬間、銃声が連続する。
連続で放たれた銀と赤の弾丸が今にもアヤネの背を切り刻もうとしていたそれらの側面を穿ち、よろめかせる。
「へ、あ……あれ?」
何が起こっているのかわからなかったのか、呆然としている様子のアヤネ。
その右往左往する視界がよろめいた狂気者の方へ走るセリカの姿を捉える。
「セリカちゃん!」
「今はそれは後、目の前の相手に集中して!カオリ!そっちで魔女の方を!」
セリカはアヤネに鋭くそう呼びかけると、
追いついてきたカオリの方に視線を向け指示を出す。
カオリも狂気者の姿を視認して状況を理解したのか、
大剣へと変形したルドウイークの聖剣を担いだまま、少し離れた場所で光る赤いランタンへと駆け出した。
セリカはそれを見届ける間も惜しいと正面に向き直ると、一番近くにいた狂気者の胴体をレイテルパラッシュで刺し貫いた。
悍ましい劈くような悲鳴が辺りに響くが、
セリカはそれに追撃は加えることはなく思いっきり蹴り飛ばして地面に転がす。
その姿を見て、漸くアヤネの金縛りは解けたようだ。
「っ、セリカちゃん、その敵、倒しても倒しても復活してきて……」
「わかってる。今、本体の方に協力者が向かってくれてる。
私達はこいつらの足止め!」
「……!わかったよ!」
セリカの言葉にアヤネは頷くと、即座に後方に飛び退って狂気者に向けて矢を射かける。
大きく引き絞ることはせず、気を引き付けるための速射。
それはセリカが攻撃したのとは別の2体の胴体を正確に射抜いた。
想定通り、狂気者らは怯みこそしたものの、致命傷には至らない。
寧ろチクチクとした痛みを与えてくるアヤネの姿を、影の中に浮かぶ灯りのような白い瞳で、憎悪をもって捉える。
「キァアアアアッ!!!」
狂気者の片方が、金切り声を上げながら鎌を振りかぶり、
そのままアヤネに向けて駆けだそうとした。
けれど、激情に震えるそれは当然、背後まで気が回っているはずもない。
銃声が響く
「ギャッ?!」
細い足を鮮血の弾丸で貫かれた狂気者が再び体勢を崩した。
無論、弾丸を放ったのはセリカだ。自身に切りかかってくる狂気者の攻撃をかいくぐりながらも、器用にアヤネを狙っている狂気者の行動を阻害する。
アヤネを狙うもう片方の狂気者は目標の下にたどり着くことこそ叶ったものの、たった1体ならばアヤネでもその攻撃を回避するのは容易い。
そして、そのうち、待ち望んだ言葉が聞こえてくる。
「魔女は狩った!後は影を狩るのみだ」
狂気者を召喚するヘムウィックの魔女は死んだ。
そんなカオリからの報告が、セリカの耳に届いた。
「了解」
その声が届いた瞬間、
セリカは狂気者が大きく鎌を振りかぶった懐に飛び込んでその胴体を刺し貫いた。
「キシャア!?ア、ァァァ……」
元々瀕死まで体力を削られていた狂気者は、
鎌を振り下ろす間もなく息絶える。
それを確認する間もなくセリカが視線を動かせば、アヤネに向かっていたものの内の片方がこちらにターゲットを変え、鎌を横方向へ大きく振りかぶり迫ってきていた。
……けれど、捉えてしまえばこちらのものだ。
銃声
「ギャッ!?」
胴体にレイテルパラッシュの弾丸が着弾した狂気者が大きく仰け反る。
その中心目がけ、セリカは右腕を突き入れた。
血が吹き出し、既に赤に染まっているセリカの身体を更に濡らしてゆく。
確実な致命傷を与えて腕を引き抜けば、地面に倒れ伏した狂気者の身体は瞬く間に霧に融ける。
残り1
「せあっ!」
だが、わざわざ援護に向かう必要もなかったようだ。
セリカが視線を向ければ、最後の狂気者はアヤネの連撃により斬り伏せられていた。
目の前で消えてゆく狂気者を見てアヤネは緊張を落ち着けるためか何度か深呼吸している。
……そんな彼女に、セリカはゆっくりと歩み寄ると声を掛ける。
「……アヤネちゃん」
「あっ、セリカちゃん」
その声を聴いて、アヤネの視界がセリカの方へと向けられる。
この以前にも他の獣や守り人と相対してきたのだろう。
聖歌装束はすっかり血に染まっている。
けれど、アヤネの表情は、瞳は、はぐれる前と全く変わらぬもので……
「……!」
「わっぷ?!」
気がつけば、セリカはアヤネに抱きついていた。
そしてそのまま、その体温を……温かさを全身で感じる。
「えっと、私はこの通り大丈夫……だよ?」
……そんなセリカの行動にほんの少しだけ戸惑ったものの、
アヤネはゆっくりとその身体を抱きしめ返す。
そしてそのまま、その背中をゆっくりと撫でる。
「大丈夫、だからね」
「……それが聞けて、良かった」
セリカはそう囁くように言うと、更にギュッとアヤネの身体を抱きしめた。
…………
…………数分後
「……セ、セリカちゃん。ちょっと苦しいかも……」
「やだ。もう少しこのまま」
流石にそれなりの力でずっと抱きしめられているため
少々苦しくなってきたのかアヤネがそう呼びかけるが、
当のセリカはまだ放したくないらしい。
だからといってアヤネ自身にも振りほどくつもりは一切なく、
そのままの体勢でオロオロするばかりである。
「……」
その光景を、カオリは少し離れた場所……
それも、2人の目に留まらない物陰から、慈母の如き微笑みを浮かべて見ていた。
あの場に自分がいるのは野暮だろう。
百合は遠くから愛でるものである。
「……!?セリカちゃんどこからともなく視線を感じるよ?!」
「別に見られて減るようなものでもないし。もう少し……」
「……おっと」
どうも、狩人になったことで感覚が鋭敏になっていたのか、
こっそりと見ていたのをアヤネにバレてしまったらしい。
幸いにも位置まではわかっていない様子。
カオリはこれ以上の邪魔はせぬよう視界を外すと、そのまま静かに柱の裏に姿を隠す。
「百合の花……良いものよな……」
そうカオリは口ずさむと、
柱の向こうから聞こえてくる声が落ち着くまで気配を隠した。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
コラボ回第3弾でした。
……アヤネちゃんと会うところまでは書けたな、ヨシ!!
これなら4話以内に……噓です多分5話必要です(いつもの長引き症候群)
次回はシロコと合流して第3層の階層主との戦闘できたらいいなぁ……
……でもあのスカスカとの戦闘苦手なんだよなぁ。うまく書けるかな(震え)