極夜に囚われたセリカ   作:時空未知

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セリカちゃん、お誕生日おめでとうございます!

と言うことで記念に今回の短編を書きました。
もしあの時の選択肢が違ったら?というお話です。
ほろ苦い本編とは趣向を変えて、甘い幸せがぎゅっと詰まってます。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

<警告>
今回描いてきた話中で1、2位を争うレベルでグロに振り切れてます。苦手な方はブラウザバックを強く推奨します。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※















血は甘美であり、また、悍ましい











side if セリカとリリー、又は狩人と獣

 

 

 

side present

 

 

 

「……ねえ、セリカお姉さん。今、いいかな?」

 

 

自室の勉強机で課題をこなしていたセリカの背後から、そんなかわいらしい声がかかった。

セリカはタブPCのタッチペンを置いて振り返ると、白いリボンをつけた金髪の少女、リリーが彼女の方を上目遣いに見上げていた。

その頭頂部から髪色と同じ獣の耳が、背後から尾が生えており、両の手は腕全体をすっぽりと覆ってしまうほどぶかぶかの袖に覆い隠され、その脚先も大きなスカートにより窺い知ることはできない。

そしてその頭上では、獣の歪んだ腕を思わせる光輪が浮かんでいる。そんな彼女の懇願に、セリカは少し考えこんだ後、小さく微笑んだ。

 

「大丈夫。丁度課題も終わりかけだったし」

 

リリーが何をしたいのか、具体的に何も言っていない。

けれど、ヤーナム……そしてここキヴォトスに戻ってきてからも

片時も離れたことのない少女が何をしたいのか、セリカはよく知っていた。

 

「それじゃあ、いつも通りお風呂場に行こっか」

「うん、ありがとう」

 

セリカがそう言うと、リリーもつられて微笑んだ。

 

 

________________________________________

 

 

あの出来事があってから、お互い物静かになり、笑うことも少なくなってしまった。といっても精神が致命的に破綻してはいないし、互いに親愛以上のものは抱いている。

……それはあの[先輩]が気に掛け、自分達でも良く理解しているほど、歪なものだが。

 

とりとめのない思考を抱きながら、

セリカはリリーと一緒に脱衣所で服を脱いでいく。

普段は顔のものしか見えないセリカの古傷だが、

その裸体をさらせば胸、腹、背中、太股と、より大きく、痛々しいものも露わになる。

対するリリーはというと年相応の少女らしく清らかな肌で、傷もない。

成長途上のかわいらしい胸のふくらみも露わになる。

……異質なものといえば、先ほどまではぶかぶかの袖と長いスカートに覆い隠されていた、少女のそれとは思えぬほど凶悪で、鋭利な爪のついた獣の手足だろうか。

 

服を脱ぎ終え、お互いに裸体になる。

けれど、それで恥ずかしがったりすることもなくセリカとリリーは風呂場に入った。

風呂場は普通のものと変わりはなく、

精々、湯舟の近くに沢山の輸血液の瓶が置かれている程度か。

湯舟には既に湯が張ってあり、暖かな湯気が立っている。

それを見てセリカは少し驚いたようだった。

 

「あれ、リリーちゃんいつの間にお湯が張れるようになったの?」

「むぅ……お姉さんがいつもやってるんだから流石にわかるもん」

 

そう言ってリリーはぷくりと頬を膨らませた。

そんな彼女を見てセリカは柔らかい笑みを浮かべると、

その頭を優しくなでた。

 

「あはは、ごめんごめん。

そういえば、もうスマホも完璧に使いこなせるようになってたもんね」

「むむ……でも頭を撫でてくれるから許してあげる」

 

少しばかり不満そうなリリーだったが、

結局セリカのことを許すことにしたらしかった。

その後は順番にシャワーを浴び、身体を洗う。

セリカは特に念入りに自分の身体を洗うと、

一旦ほどいていた髪を髪留めで結びポニーテールにした。

 

そして、それが終わると、セリカの足の上にリリーが乗る形で湯船につかる。

 

「ふわぁ……やっぱり気持ちいいなぁ」

 

湯舟という概念に触れてまだ日の浅いリリーが、蕩けそうな声でそう言う。

それをセリカは微笑まし気に見ていた。

 

「……できるならずっと浸かってたい」

「ふふ、それだとのぼせちゃうわよ」

「むしろ一回のぼせてみたいかも。……いつものぼせてる暇なんてないから」

「……そうね」

 

リリーの表情に、ほんの少し影が落ちる。

彼女の言葉に、セリカも何かをこらえるようにそう答えた。

……そのまま、少しの時間が経過する。

 

「……それじゃあ、始めよっか」

「……うん」

 

セリカがポツリとそう言うと、リリーもその言葉に頷いた。

リリーは一旦立ち上がると、そのままセリカと向かい合うように座り直した。

……お互いに、一糸まとわぬ姿のまま向かい合う。

そして、リリーはおもむろにセリカの右肩にそっと手を当てると、

そのままもう片方の手で右腕を押さえるように持った。

 

「お姉さん、行くよ」

「……大丈夫、いつでもいいから」

 

リリーの確かめるような言葉に、セリカはゆっくりと頷くと、そう言った。

その言葉を聞いたリリーは、一つ息をつくと、

セリカに寄りかかるようにその柔らかな二の腕に口を……

鋭い八重歯の生えた口を近づけた。

 

________________________

 

 

「んむ」

「……ぁっ」

 

 

千切れる、引き裂かれる、噛み砕かれる。

片腕の感覚は既にない。

もう片方の感覚も、今消えた。

身体の中から赤色が絶えず流れ出して、既に深紅に染まった湯の中に垂れ落ちてゆく。絶え間ない激痛が、身を、意識を蝕む。

 

「……ぅ、はぁっ……う、ぐ……」

 

口から溢れるのは苦悶ばかり。けれどそれを、何とか堪えながら、押し殺しながら。激痛を噛みしめる。

 

「おいしいよ、お姉さん」

 

出血に薄らぐ意識の中、声が聞こえる。

赤の中で、大切な人の輪郭が見える。

 

セリカはそれに向けて、精一杯笑いかけた。瀕死のこの身で、果たして本当に笑えているかどうかなど分かりようがなかったが。

 

「それ、なら……よかっ、た」

「…………」

 

その言葉に輪郭が揺らいだ。

しばらくの間、セリカの耳に届くのは水音ばかりになる。

……そして、

 

 

「良くなんて、ないよ」

 

 

その末に聞こえたのは、感情を押し殺し震える、声だった。瞬間、太腿に軽い衝撃が走ったかと思うと、一気に感覚が鮮明になる。

晴れた視界の先では、今にも泣き出しそうな表情のリリーが、セリカの身体に覆いかぶさっていた。

 

「……私だって、こんなことがしたいわけじゃないんだよ」

 

ポツリと、悲し気な声でリリーがそう言う。

その瞳が、もうすっかり血に染まった風呂に向けられた。

 

「お姉さん、言ったよね。私を狩ってって。獣になんかなりたくないって」

「……うん」

 

その声に、セリカは小さく答えた。

リリーは言葉を続ける。

 

「でも、お姉さんは狩ってくれなかった。

それどころか自分の手を私の口に入れてきて……私がどういう気持ちだったかわかる?」

 

……それは、リリーの糾弾。

セリカの独り善がりで起こった、1つの悲劇に対する糾弾。

伏せられていた瞳が、セリカのことを射抜く。

 

「……おいしかった。今まで食べてきたどんなものよりも、ずっとずっとお姉さんの肉がおいしくて、どんなお菓子よりも血が甘かった。だから本当に、心の底から怖かった。ああ、これから私は獣になっちゃうんだ……って」

 

そう言って、リリーは手を掲げた。

獣化が中途半端に停止し、異質に変質した自分の手を掲げた。先程までの物だろう。それはすっかり血に濡れて、いくらか肉片がついている。

……それを、セリカに見せつける。

 

「お姉さんを初めて食べた時、神秘も一緒に食べたから、完全に獣にはならなかった……って、獣狩さんは言ってたけど。それでも、こんなのになっちゃった」

 

そう言うと同時、

 

 

「お姉さん、痛い?」

「……痛い」

「私のこと、殺したくなった?」

 

その言葉に、セリカは黙り込んだ。

そして、しばらく迷った末に、吐き出すように、かすれた声で言った。

 

「……ううん」

「……そっか」

 

リリーはその言葉に、ただ短く答えると、再び顔を伏せた。

……次に彼女が顔を上げた時には、そこにはもう悲しげな表情はどこにもない。

ただ、ごちそうを前に舌舐めずりする獣が、1人。

 

 

「……じゃあ、セリカお姉さん。私、次はお姉さんの柔らかいお腹が食べたいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それは、たった2人の為だけの、小さな獣の夜の出来事だった。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

朝……

 

 

とは言え、日はかなり高くまで登り、昼前と言っても遜色ないほどの明るさになった頃。空は青く、当然赤い月が浮かんでいることもない。代わりに空色の光輪が上空に幾何学を描いている程度か。

そんな空の下、陽光に照らし出された砂まみれの街の中を、2つの人影が互いに寄り添って歩いていた。

 

 

「よっと」

 

 

そのうちの人影の片割れ、セリカはずり落ちそうになっていた大きなバッグを軽く担ぎ直した。その拍子に、指定の制服の上から羽織っていた神父の狩装束が、そして腰に吊り下げている赤い真っ赤な宝石の嵌った複雑な機構の直剣が軽く揺れる。

そんな彼女に、連れ添って歩いていたリリーが声をかける。

 

「セリカお姉さん、疲れてない?」

 

そんな心配そうなリリーに向けて、セリカは彼女を安心させるべく微笑んだ。

 

「大丈夫大丈夫、ちょっと鞄を持ち直しただけだから。それより、リリーちゃんこそ疲れてない?結構遠出したし……」

 

返答の後に、セリカの方もリリーに向けて気遣いの言葉をかける。けれど、彼女はその言葉に首を振った。

 

「ううん、セリカお姉さんがずっと荷物は運んでくれてたし。それに、初めて見る景色ばっかりだからちょっと楽しかったかも」

「ふふ。そう言ってもらえると、何だか私もうれしいよ」

 

セリカから自然と笑みがこぼれる。そんな彼女につられてはにかんだようにリリーも笑った。

 

 

……普通なら、今頃2人ともアビドス高校にいるはずだが、今こうして町中を歩いている理由は単純、セリカが集めてきた輝く硬貨がどれほどの値段で売れるか確かめるべく、少し遠出していた為である。

この時、文字通りセリカに[食事を依存]し、不安定なリリーを置いてゆくわけにもいかず現在に至る。

 

 

そうして、先ほどの会話から少したった頃。ふとリリーが視線を落として自らの腹部辺りを見る。それと同時、彼女の表情が僅かに曇った。

 

「……お姉さん。学校に着いたら、軽めのご飯が欲しいかも」

「……!」

 

そんなリリーの言葉に、セリカはハッとしたように彼女の方を見た。リリーは何処となく影のある表情のまま、言葉を続ける。

 

「やっぱり、ああいう場所にいると、どうしてもお腹が空いちゃって……」

「……どうする?そのぐらいだったら別に近くの裏路地でも構わないけど……」

 

セリカは短く考え込んだ後にそう提案する。その提案を聞いて、リリーはしばらくの間、再び自分のお腹へと視線を向けていたが、やがてゆっくりと首を振った。

 

「そこまでしなくても大丈夫かな。そろそろ学校に着くし、あっちの方が見られ難いと思うから」

「……確かに、それもそっか。それならちょっと急ごっか」

 

リリーの言葉にセリカは納得すると、少し足早に目的地に向かおうとした。

……その時、

 

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴン

 

 

彼女らの目的地であるアビドス高校がある方角から特徴的な駆動音が聞こえてきた。その特徴的な掃射音に、リリーは兎も角セリカには良く聞き覚えがあった。

 

「……ノノミ先輩?」

「え、ノノミお姉さんが?」

 

セリカの脳裏に、のほほんとした顔をしていながらブンブンとミニガンを振り回す先輩の姿が思い浮かぶ。

……気がつけば、他の銃声も断続的に聞こえ始めていた。

そこまで来てしまえば、2人にも何が起こっているか察するには容易い。

 

「またヘルメット団なの?いい加減に懲りればいいのに……」

「ヘルメット団……って、お姉さん達が2日前にやっつけてた人達だよね?」

「……うん、そうそう。諦めだけが兎に角悪くって……はぁ」

 

リリーからの問いかけに、キヴォトスでは比較的よく見かけるヘルメットを被った不良グループの姿を思い浮かべ、盛大にため息をつく。

 

2日前にセリカがほぼ単騎で暴れに暴れて壊滅させた上に物資を残さず略奪した為、再起不能な痛手を負わせられたと自負していたのだが……

追い討ちが足りなかったか、将又セリカがいない時を狙ったのか……

 

まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「リリーちゃん、荷物のことはお願い」

「うん、じゃあ、前と同じで近くで隠れてるね」

 

セリカはリリーと荷物のやり取りをしながら左手にシンシアリティを装備すると、懐から空のシリンジを取り出す。

そして、その針を自分の太ももに向けると慣れた手つきでそれを突き立てた。

 

「……ん」

 

ピストンを引けば、少しばかりの不快感と引き換えに色鮮やかな血が器内を満たす。

その様子を、リリーは少し物欲しそうな表情で見つめていたが、少ししてブンブンと頭を振ってその欲求を振り払う。そんな彼女の様子を見て、セリカは少しばかり微笑ましそうな表情になった。

 

「できるだけ早く片付けてくるから、その後でね」

「ん……約束だよ、セリカお姉さん」

「うん、約束」

 

セリカはリリーに向けて小さく頷いた後、懐から抜き放ったレイテルパラッシュを変形。その薬室に自身の血を送り込んだ。

準備はこれで十分。後は……

 

 

「……それじゃあ、行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」

 

 

互いに何気なくそう呼びかけた後、セリカはアビドス高校へといち早く駆け出した。

 

 

……彼女らが先生と出会うまで、後十数分

 

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

…………

 

 

……

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

side past

 

 

 

 

 

秘匿が解かれ、狂気ばかりが満ち満ちた青ざめた血の夜空。

赤い、赤い、溢れ落ちそうな血の月。

 

そんな悍ましい赤い月灯りに照らされたヤーナム聖堂街の一画、オドン教会の前。

その場所に、誰かの声が響く。

 

 

「ねえ、セリカお姉さん。お願いがあるの」

「やめて……!」

 

 

片や、瞳の蕩けた金髪の少女、リリー。

片や、神父の装束に身を包んだ、黒髪の少女、セリカ。

リリーの言わんとする言葉を聞こえないように、聞こえないように、セリカは自分の耳をぎゅっと、ぎゅっと、押さえつける。

けれど……

 

 

「私を、狩って」

 

 

……その小さな言葉が、セリカには嫌に大きく聞こえた。

どれだけ聞こえないようにしていても、脳裏に刻み込まれるように、届いてしまった。

 

「……私、獣になんてなりたくない。せめて最後は、人として死にたい。だから、最後はセリカお姉さんに狩ってほしい」

「……やだ」

 

セリカは、リリーの願いを拒否した。

掠れた声で、しかしはっきりと。

そんな彼女の頬に、リリーはそっと手を当てる。

……涙で微かに湿ったその手は、不思議なほどに暖かい。

 

「私だってお姉さんとこれでお別れなんて嫌だよ。

もっと一緒にいたかった、一緒に夜明けを迎えたかった」

「やだ、やだよ……」

 

リリーはただ、柔らかくセリカに微笑みかける。

その頬に、涙が伝う。

……その時、リリーはふと思いついたように自分の髪を止めている白リボンに手をかけると、そっとそれを解いた。

 

「……これね、私が物心ついたときに、はじめてお父さんとお母さんからもらった誕生日プレゼントなんだ」

 

そう言うと、リリーはそのリボンをセリカの手に握らせる。

……セリカは抵抗したものの、それは、狩人でない少女に簡単に押しのけられるほど、弱々しいものだった。

 

「私が死んでも、ずっとそばにいるから。だからお姉さん、安心して、ね?」

「……」

 

セリカは手の中の白リボンと、蕩けた瞳のリリーとの間で、惑うように視線を行き来させていた。

何度も何度も。迷い、迷い。惑う、惑う。

そして、その末。

 

「リリー、ちゃん」

 

 

涙に掠れた声のまま、セリカはリリーの名を、たった1つ口ずさんだ。それと同時、彼女は、大切な少女の身体をそっと抱き寄せる。その行動に、リリーは少し虚を突かれた表情になった。けれど、それもすぐに悲し気な微笑みへと変わる。

そして……

 

 

 

「セリカお姉「ごめん、ね」」

 

 

 

せめて、最後にずっと自分を守ってくれた優しい人の名を呼ぼうとしたリリー。けれどその言葉は、他ならぬセリカが被せるように発した謝罪の声でかき消された。

 

「……ぇ?」

 

何処か、堪えきれぬ悲哀の中に淀んだ色を帯びた声。それに引き寄せられるように、リリーはセリカの顔を見上げた。

……自然と、2人の視線が交差する。

微かに潤んだ蕩けた碧色と、赤色が交差する。

 

「お姉、さん?」

「……」

 

セリカは何も答えない。リリーの発した声から、不安を帯びたその声から、そして視線から。逃れるように深く俯く。

 

「……私、には」

 

その末に紡がれるのは、途切れ途切れの言葉。

先程にも増して、深く、深く……

 

 

「私には、出来ないよ」

 

 

淀んだ、言葉だった。

 

「んぐっ!?」

 

瞬間、リリーの口内を圧迫感が満たす。

余りにも突然かつ感じたこともない異物感に、リリーは反射的に口をもごつかせた。

……その拍子に、鋭く変質しつつあった彼女の犬歯がそれの表面を切り裂いたのは、ほんの偶然だった。

 

「……!」

 

ぷつりと何かが裂ける感触と共に、芳醇な香りがその場所から溢れ出してくる。零れ落ちたそれが舌の上に広がれば、歓喜にも似た何かが奥底から溢れ出してくる。

その時、漸く彼女は理解した。

セリカは、自分自身を……

 

 

「ん、んん!?んんんん!???」

「リリーちゃん、私を食べて……!」

 

 

歓喜に、獣性に抗い、何とかそれを、柔らかな手を吐き出そうと抵抗するリリー。けれど、セリカは抵抗する少女を凄まじい力で押さえつける。

 

 

いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだおいしくないおいしくないおいしくないおいしいやめてやめてやめて……!!

 

 

「私は生き返るから、何があってもいなくなったりしないから……!どんな姿になっても、ずっと、ずっとリリーちゃんの傍にいるから!」

 

 

最早悲鳴に近い声を発しながら、尚もセリカはその動作を止めようとはしない。その間にもリリーの理性は擦り切れ、獣性が意識を蝕んでゆく。

そして……

 

 

「だからお願い……傍に、いて。リリーちゃん」

「……ぁ」

 

 

バキッ

 

 

瞬間、何かが噛み砕かれる異音が周囲に走る。それと同時に、セリカの腕に焼け付くような痛みが走った。

 

「ぅっ……!」

 

その激痛を前に、セリカの口から苦悶が溢れる。けれど、その声を噛み殺す間もなく、彼女の身体は拘束を振りほどいたリリーにより、瞬く間に地面に押し倒された。

 

 

「はあ、ハぁ ハァ、あ、ぁあァアア」

 

 

少女から、人と獣とがぐちゃぐちゃに混じり合った吐息が零れる。変質した八重歯が除く口からは、先ほどかみ砕いたモノの鮮血が絶えず零れ落ちている。

けれど、それでも尚。石畳を割り砕きそうなほど手を握り締めながら。目の前に倒れ伏した獲物の血肉への欲求から、リリーは何とか逃れようと足掻く。

 

 

……だが

 

 

「リリーちゃん」

 

 

そんな彼女のことを、セリカは血塗れの手のままそっと抱きしめる。

 

……否。

自分の首筋、芳醇な血が集まる場所へと、リリーのことを導いた。

そして、たった一言。優しく、彼女の耳元で囁く。

 

 

「大好きだよ」

 

 

その小さな一言で、リリーの理性を辛うじて支えていた最後の柱はぽっきりと折れてしまった。

 

 

 

 

 

 














今回から後書きを活動報告に投げます。
以下リンク
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=328124&uid=455114

あ、後これだけ言っておきます。


つ づ き ま せ ん
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