回答頂きありがとうございます!
それはさておき今回グロ方面で好き放題やったので閲覧注意。
そして時系列前後注意報……
2026/05/10 内容を微修正。当時の作者の古則理解度が余りにもカスだった弊害……
「時に先生。件の襲撃事件が起こる前、私は7つの古則について話したね」
前触れなく、唐突に、思い出したように百合園セイアはそう言った。
全身が血に染まり、
右手には両端に刀のついた奇妙な武器を、
左手には身の丈程もある銃を持った異容を惜しげもなく晒しながら、瓦礫の散らばり、怪しげな光の差すバシリカの中央に立つ。
「第五則。楽園にたどり着きし者の真実を、証明することはできるのか?」
その声が、静けさの支配するバシリカに響いた。
……先生は答えない。ただ、静かにセイアの言葉に耳を傾ける。
そんな彼女を守るように展開するサオリ、ヒヨリ、ミサキは油断なく己の得物をセイアへと向けている。
セイアの言葉は続く。
「……YESかNOか、それだけしか許さぬ存在証明のパラドックス。
これは結局のところ他者を信ずるか、そうでないかの話なのだけれどね。
1つ、今という場面にも当てはめてみるとしよう」
そこで一度言葉を区切ると、セイアは改めて先生へと視線を向ける。
その瞳が、彼女の姿を静かに射抜く。
「先生。君は、この問いに答えず、ただ楽園を信じ、進み続けることを是とした。そうだったね?」
「"……うん、私はみんなを信じて、助けることが役目だから"」
先生の答えに、セイアはふっと柔らかく笑みを浮かべた。
その背後では、大輪の花弁を模した十字架に張り付けにされたインナー姿の少女が力なくうなだれている。
そこに絡みつく茨からは鮮血が流れ、誘うような血の香りが辺りに立ち込めている。
「そう、君ならそう答えるだろう。何故なら、君は[先生]であるから。
今という場面に当てはめるとしても、君は秤アツコが救われると信じ、進み続けている。正しく先生、求道者たるものだ。素直に称賛しよう……けれど、けれどね」
セイアの表情に影が落ちる。
……それは、これから起こることが変えようもない悲劇だとでも言うかのように。
「それもまた、この古則の一つの解釈にすぎない。
……だから、ここに一つ、私が見出した答えを言おう」
そう言って、セイアは一拍息を置くと、その、矛盾した問いかけへの答えを言った。
「証明できぬというなら楽園は存在せず、故に未来永劫至ることはない。
私は、誰もを心から信ずることができなくなってしまった。どのような聖人であれ、心の奥底に潜むものは恐ろしい狂気であると、ね。
……そして、これはこの今という場面にも当てはまる」
そう言葉を紡ぎながら、セイアは静かに先生らに歩み寄る。
「私は、秤アツコが救われると信じることはできない。
楽園のように誰もが最後まで笑っていられる世界は存在し得ないことと同じに。
……幸福の裏には数多の悲劇がある事が必然であり、
何かを成し得るには犠牲はなくてはならないものである。
……故に、だ」
セイアの視線がもう一度、先生と少女達を射抜いた。
「エデン条約の結末という、限りない幸福の裏である君達の物語は何処までも悲劇であり、
君達、アリウススクワッドの物語はハッピーエンドたり得ない」
その穏やかで冷たい言葉が、サオリ、ミサキ、ヒヨリの心に突き刺さった。
……ここまで心を奮い立たせ、進んできたとしても。
彼女達の心の根底奥底に刻まれた暗い、無常の意思は、
立ち塞がる絶望を象徴する少女を前に諦めを囁く。
……しかし、
「"そんなことはないっ!"」
その言葉を先生は打ち払った。
その瞳は、立ち尽くすセイアを確かな意志の籠もった瞳で射抜く。
「"私は、みんなと約束したから。
必ず、アツコを助けるって約束したから。
だからセイア、君に彼女を殺させるわけにはいかない!"」
「……先生。それは叶わぬことだよ」
先生の力強い言葉。
だが、それにセイアが浮かべるのは悲しげな、諦観の微笑み。
避けられぬ絶望を前に尚も希望を抱き続ける先生を諭すように言う。
「……赤子の儀式。特別な血を持つ女性を女王と見立て、その身に大いなる存在の赤子を宿す儀式。
……ベアトリーチェはその副産物である青ざめた血を求めたようだがね」
セイアが語るのは、己の記憶に焼き付いて離れない滅びの記憶。
全ては獣となり、慟哭と悲哀の響くこの世に顕現した悪夢そのもの。
「ともあれ、儀式が完成すればキヴォトスに赤い月がふる。
零れるような鮮血の、赤の満月が……
……そうなったら、全てがおしまいだ」
セイアは遠い記憶の景色に思いを馳せながら、
言葉をぽつりぽつりと紡いでゆく。
「月は等しく全てを狂わせ、赤子の声は他の上位者を惹き寄せる。
そして誰一人例外なく、遂には血に飲まれ、狂い果てる。
……望まぬ赤子を産んだ彼女も、もう正気では居られまい」
そこで一度言葉を区切ると、セイアはもう一度先生のことを見た。
「そのようなバッドエンドは誰も望むまい。
誰一人幸せにはなれず、滅びのみが訪れるエンディングなど。
儀式の核たる彼女を殺さねば全て終わるというのに、
尚も君達は私に立ちふさがるのかい?」
「"……私だって、そんなバッドエンドは認められない"」
セイアの問いかけに、先生はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「"でも、それでもそれを起こさないために生徒が犠牲になることも、
人殺しになることも認められない"」
そう告げると、先生はセイアに笑いかけた。
彼女の暗い微笑みとは対照的な、明るい、希望の笑みだった。
「"大丈夫。私が絶対にこの物語をハッピーエンドにしてみせる"」
「……そうか」
セイアは、その言葉を噛み締めるように目を閉じた。
数分程経ち、セイアは目を開く。
そして、告げた。
「先生。聖人たる君と、狩人たる私は、どうにも相容れないようだね」
とても、とても寂しそうに、セイアは交渉の決裂を告げた。
先生が驚き、そして悲しげな表情に落ちる中、
セイアは刀を……落葉を構える。
「……私は、狩人にして終焉の番人。
この神秘の方舟が滅びぬためならば、
例え化け物と罵られようと、人殺しと蔑まれようと、喜んでこの身を捧げよう。
……それが、預言を見て、そして悪夢を見た私の役目だからね」
セイアは一度だけ磔にされたアツコ……その胎内で蠢いているであろうモノの姿を見て、そして視線を戻す。
「幸いなことに、赤子が意識を覚醒させるにはまだ時間がある。どうだい先生、1つ勝負をしよう」
「"……!"」
セイアの小柄な体躯に、向けられただけで膝をつきそうになる、恐ろしい殺気が溢れ出す。
その重圧の中でも、先生はセイアのことを気丈に見返す。
「私は君達を狩る。君達は私を止める。
どちらかがそれを成し得ればそちらの勝ちだ。
……古来から伝わる最も単純たる解決方法、殺し合いだよ」
「"……セイア"」
先生がかなしそうにそう呟く中、ミサキが声をかける。
「それで、どうするの?
相手はユスティナやうちの中でも上位の生徒で構成された小隊を
単騎で相手取って悉く壊滅させてきた化け物。
例の聖剣は持ってないみたいだけど……正直、先生の補助があっても勝てるかどうか」
「"……ねえ、みんな"」
……その問いには答えることなく、先生はアリウススクワッドに呼びかける。
「"……アツコを、助けたい?"」
その言葉に、少女たちは息をのんだ。
……重圧に今にも押し負けてしまいそうな身体の震えが、
今にも銃を投げ出してしまいそうな心の奥底の諦観が、少しずつ……だが確かに薄れてゆく。
「……私の答えは、あの時と変わらない。
それに今の私は、ミカの意志も背負っている……諦めて、なるものか……!」
傷だらけの身体に鞭打って、サオリがアサルトライフルをセイアに向けて構える。
その瞳に宿るのは……虚しさでも、絶望でもない、確かな意志。
「こ、これからとっても苦しくて、辛いことが始まるんですよね……えへへ、分かります。
でも、絶対に私は逃げちゃだめだし……逃げられないし、逃げないんです」
そう言ってヒヨリは、今も背負っている自分のリュックサックを背負い直すと、
いつでも狙撃姿勢がとれるよう、ライフルに手をかける。
そんな仲間たちを、ミサキはしばらくじっと見ていたが、やがてため息をついた。
「……捕縛作戦、エデン条約襲撃におけるあなたの戦闘記録。
そして、同じ狩人である黒見セリカとの戦闘経験……
私達にも対抗戦術を立てる材料はそろってる。
……私はリーダーに従うよ」
そう言って、ミサキはロケットランチャーを肩に背負いなおした。
その瞳は相変わらずの諦観で満ちていながら、どこか希望を求めているようだった。
……そんな少女たちの言葉を、先生は静かに聞き届けていた。
「"……わかった。じゃあ、私がやることは1つ"」
そこで言葉を区切ると、先生はもう一度、希望をもって笑いかけた。
「"私は、
……誰ともいわぬ、曖昧な言葉。
その言葉にセイアは息を呑んだ。あふれ出ていた重圧が、弱まる。
「……そうか、君はこのような状況で尚、私も救うというのか」
「"ちょっと手荒になっちゃうけどね。私って、こう見えて結構欲張りなんだ"」
「ふふ、知っているさ」
希望と、暖かさに満ちた先生の言葉とは異なり、セイアの言葉ににじむのは、悲壮か、絶望か。
けれど、彼女も刀を下ろすことはない。
「……そうだね。
この武器の本来の持ち主である彼女、そして、ある意味で禁忌の秘密に君たちは触れる。
けれど、ベアトリーチェに送ったのと同じ言葉でこの狩りを始めるのは、いささか不適というものだろう。
だから、少し引用するにとどめることにしよう」
……そんな前置きと共に、その言葉は始まった。
「優しいね、君たちは」
コツ、コツと、バシリカに足音が響く。
セイアが少しづつ、少しづつ先生らへ近づいてゆく。
「……だがわかるよ、別れとは辛く、苦しいものだ」
そしてそれと同時に、薄れていた殺気も次第に濃くなってゆく。
「だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ……愚かな優しさを、忘れるようにね」
瞬間、セイアの身体が、
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時は、過去にさかのぼる……
「一応、成功ではありますね。ベアトリーチェ」
「……まあ、そうですね」
後ろ姿の肖像を抱え持つ首無しの男。
その、肖像の方からの声に、ベアトリーチェは不服そうではあるものの頷いた。
その視線の先には奇妙な機械が置かれており、意味不明なテキストをモニターに描きだしている。
それを見ながらゴルコンダが言葉を紡ぐ。
「[揺らぎ]と百合園セイアの夢の位置座標がさほど近づけられなかった時はどうしたものかと思いましたが……
幸いなことに、彼女自ら近づいてくれて助かりました」
「そういうこった!!」
ゴルコンダの声に、彼を抱え持つデカルコマニーが大声で相槌を打つ。
しかし尚も、ベアトリーチェの表情は優れない。
「……予想通り[揺らぎ]との接触によりセイアの意識は転送……しかし、その行き先がわからないのであれば消失と何の違いがありましょうか」
「ふむ……一理ありますね。
確か、貴方は[揺らぎ]に新たな儀式の可能性を模索しているのでしたね?」
彼女の気分転換も兼ねてか、ゴルコンダがベアトリーチェの研究の事に話題を変える。その言葉にベアトリーチェは頷いた。
「まあ、そうですね。
黒服が言うには黒見セリカの変質の原因を担っているのはそれに混じった不可解な血によるものらしいので。
その根源が[揺らぎ]と仮定してなんとかして[揺らぎ]を誘引するか、黒見セリカ、そして現在百合園セイアが転送されたであろう夢を通じた別世界へのアクセス方法を解析してその力の根源を手に入れたいところなのですけどね」
そこまで言ったところでベアトリーチェは1つ、ため息をついた。
「……まあ、幸いなことに百合園セイアの肉体がある場所は割れています。意識が帰還した後に捕縛して、私の崇高の糧とさせてもらいましょうか」
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「う、ぅぅう……」
古びた、誰もいない廃屋の中。
そこで微かなうめき声が聞こえた。
百合園セイア、その人だ。
「……っ、ここ、は……?」
セイアは微かに痛みの残る頭を押さえながら、辺りを見渡す。
視界いっぱいに飛び込む、人気のない寂れた廃屋……
しかし、セイアにとってそこには全くと言っていいほど見覚えはなく、そして、ただの廃墟と言うにはそこは余りにも不気味で、暗い気配に満ちていた。
ここは、夢だ。
セイアの心の中で、直感に近い何かが囁いた。
夢の中を幾度となく揺蕩ってきた彼女だからこそ、
それを直ぐに理解した。
……けれど、ここはただの夢ではない。
「あの……上位存在?の様なものとの接触で、
夢という形をとった領域に迷い込んでしまった……?」
体感としてはその様な感覚だ。
その証拠にセイアは自分の目覚めをコントロールできるが、
今は何故か[目覚める]ことができない。
まるで、この領域に囚われてしまったとでも言うかのように。
……けれど、
「見つけ、なくては……この夢から逃れる方法を」
……まだ、理解できぬ叡智を流し込まれた頭は痛む。
それでも尚、セイアは立ち上がる。
過去に見た滅びの未来……
今まで一度たりとも予知夢が外れたことはない故に、
自分が少し諦観しがちな性格であることはよく理解している。
しかし、今回ばかりはそうもいかない。
この滅びの預言を伝えなければ、本当に全てが手遅れとなる。
……そんな気がするのだ。
「……まず、この夢の主を探し出す。
恐らく、あの翠緑に濁った海の中か、その近くに……」
そう、自分を落ち着ける意味も込めて
セイアは独り言の予測を並べながら廃屋の外に踏み出す。
……しかし、そこに広がっていたのは、
翠緑の海でも、ましてや月光に照らされた白い花園でもなかった。
「……!」
捻じくれた都市。
翠緑の影は何処にもなく、茶褐色に捻れた岩に旧世代の市街が飲まれたように存在している。
少し離れた場所に映る川は全て血のような……
いや、正に鮮血が流れており、腹を膨らませた異形が無数に闊歩している。
そして、空に広がるのは暮れとも、明けとも、取れぬ青ざめた空。
「……悪夢」
そう、悪夢だ。
精神を犯すイメージで固められた、身の毛もよだつ様な悪夢。
……その様は。まるで呪いのようですらあった。
呪い……
セイアの脳裏に、水の中を落ちていた時に聞こえた、
唄うような女性の言葉が蘇る。
これが、この世界が呪いというのであれば、一体何の、どのようなものに対する……
セイアが考えを巡らせていたその時だった。
「ギャア、ガウッ」
「!?」
奇妙な声がセイアの耳に飛び込んできた。
見れば、丁度セイアと同じ程度の背丈の……
あの赤い月の滅びの予知夢で見たような、人型の奇妙な獣の群れがセイアの方に向かってきているところだった。
唯一違う所と言えば、その頭上にヘイローが浮かんでいない点か。
「っ……!」
……ここはあくまで夢のはず。
しかし、先程の上位存在との接触といい、この夢は何かがおかしい。獣に襲われ、殺された結果、現実世界の自分に何か影響が出ないとは言い切れない。
そう結論付けたセイアは、身を翻すと反対方向に駆け出す。
その時、
「ギッ」
ドチャッ
背後で、先程の獣が奇妙な鳴き声を上げたきり、
何も言わなくなった。
ほぼ同時に聞こえてくる何かを無理矢理引き裂くような音。
そこから一拍置いて、セイアの背中に何かが直撃した。
「あうっ!?」
かなりの質量を持ったそれのせいで、
セイアはつんのめって倒れる。
「うぅ、一体な……?」
痛みを堪えながら起き上がろうとしたセイアだが、
その言葉は不自然に途切れた。
それは、自身の背中に走る何かが張り付くような感触と、ドロリとしたものが伝う感触のせいだった。
少し改造した制服故、背中が大きく開いているため余計ことそれが大きく感じられる。
その異質で、身の毛もよだつような感覚に反射的にセイアは振り返った……振り返って、しまった。
「……!?」
グチャグチャに切り裂かれた獣の辛うじて上半分と思われる物体が、
力なくセイアに寄りかかっていた。
その全身から流れ出る死血が、断面から零れ出た
セイアの全身を汚す。
「ひっ……!」
普段、何処か達観して、冷静なセイアとて、
キヴォトスでまず見ることのない惨殺死体が自分に触れたことにより掠れた悲鳴がこぼれる。
その死体は先程まで動いていた為か、嫌に温かだった。
……動けない。
その死体を振り払おうにも、
恐怖で怖気付いた身体は塗り固められたように
脳からの命令を受け付けない。
その時、
ヒュオッ
セイアの耳に、そんな風切り音が聞こえてきた。
次の瞬間、同級生と比べても遥かに小柄な少女の身体が、鞠のように跳ね跳んだ。
セイアはわけも分からぬまま、
目まぐるしく回る視界と地面に打ち付けられる鈍痛に身を任せる。
そして、その身体がねじれた岩にぶつかり、止まった。
そこでようやく、セイアは自分の身体が獣のもの以外の
鮮血で染まっていることに気が付いた。
「かふっ、ごふっ……!?」
声が出ない。かわりに口から夥しい量の血と掠れた吐息が溢れる。
それと同時に、脇腹が感じたこともない激痛を発し始めた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
セイアの思考が、その一点で塗りつぶされる。
「う、ぁ、ああ、ぐぅっ……!」
うめき声を発している間にも痛みを発し続けている場所からは
次から次へと鮮血があふれてくる。
セイアは反射的にそれを自分の制服のゆったりとした袖で押さえつけた。
……服越しに何かがぬめるような感触と中に直接手を突っ込まれたような
凄まじい違和感が走る。
けれど、痛みは少し、ほんの少しだけ和らいだ。
そうすることでようやく、セイアに思考するだけの余裕が生まれた。
……切ら、れた?
まず、浮かんだのはそんな単語だ。
しかし、痛み越しに感じる傷跡はあまりにも歪な裂傷。
ただ切りつけられただけならこうはなるまい。
そして、いくら自分の身体が弱いとてヘイローの加護を容易く貫通する刃物……そんなものキヴォトスでは聞いたこともない。
様々な言葉がセイアの脳裏を駆け巡る
……その時、
「……ぇ?」
セイアはようやく、自分の身体に影がかかっていることに気がついた。
目の前にあるのは、ズボンに覆われた人の足に見える。
ふと視線を動かせば、その足の主が刃の砕けた分厚い大鉈、そして旧世代の大型の火薬銃を握っているのが見える。
セイアはよろよろと視線を上に向けた。
そこには……
「……っ!!」
口に当てられた布と大きめの帽子。そしてヘイローがない。
その他には目しか分かる情報はない。
しかし、その唯一露出した目はもはや原型がわからぬほどドロドロに、オレンジ色に蕩けており、今にも零れ落ちてしまいそうだった。
ガキンッ
男性の腕が大きく振り上げられる。
重厚な金属音を立てて、伸縮性のあるベルトで繋がれた大鉈の刃が巨大で、凶悪な刃を作り出す。
「ウアアァアアア゛ッ!!!」
獣の咆哮と何ら区別のつかぬ咆哮と共に、
呆然とするセイアにその大鉈の刃が襲いかかる。
その軌跡は、とても、とてもゆっくりと弧を描いて自分に迫っているように、セイアには思えた。
それが自分の身体に触れた瞬間、パッと鮮血が飛び散る。
その一つ一つの金属の刃がセイアの肉を、骨を、内臓を断ち切り、刮げ落とす。
金色の燐光の破片が、儚く散ってゆく。
身体がグチャグチャに散らばり、その身体に激痛が……
「あぁあああああぁああっ!!?」
セイアは、初めて自分の死ぬ感覚に
……廃屋?
「……ぅえ?」
……そう、廃屋だ。初めて自分が目を覚ました。
セイアは慌てて起き上がると、自分の身体を確認する。
服にも、身体にも、傷一つなく、血の跡も全く無いまっさらな状態だった。
……まるで、先程の出来事が悪い夢であったとでも言うかのように、全てが元通りになっていた。
けれど、夢と言うにはあれは余りにも鮮明だった。
あの時セイアは確実に死んだ。死んだのだ。
それなのに、今こうして無傷でいる。
「……一体、何が……?」
セイアが呆然と呟いたその時、
「ギャッ」
既視感のある叫びが、廃屋の外で聞こえた。
見れば、入口のすぐ向こうで、あの男が逃げる獣を
伸縮する大鉈で薙ぎ払い、一瞬でそれらを肉片に変えていた。
そして、ゆっくりと振り返ったそれとセイアは目が合った……合って、しまった。
蕩けた瞳が揺れ動く。
カシャン、カシャンと。
金属の擦れる音を立てて男が
「……ヒヒ、ヒヒヒッ」
相手から、男性の笑い声が……
しかし、明らかに正常でない狂的な声が聞こえる。
その狂気が、フラッシュバックする光景が、セイアに恐怖を強く強く刻み込む。
……逃げなければ
気がつけば、セイアは相手の側をすり抜けるように、
扉の外へ飛び出していた。
普段身体が弱く、ほとんど運動をしないというのに、
命の危険を感じたこの身体はセイアの想像以上に速く走ってくれた。
そして、銃声
「あぐっ!?」
それが聞こえたのとほぼ同時に、セイアは地面に倒れ伏した。
地面に胸が打ち付けられ、無理矢理息が吐き出される。
その原因は男が速射した水銀の散弾。
それはヘイローの加護を突き破り、
セイアの足を一瞬で使い物にならない血肉に変えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
背後に、鉈を構えた男が迫る。
それでも尚、セイアは必死で手と、
辛うじて関節は動く足を使って這いずりながら逃げる。
けれど、その速度は余りにも遅かった。
少女の背中向けて大鉈が振り上げられ、
そして風切り音を伴って振り下ろされた。
________________________
悪夢、悪夢、悪夢……
何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す。
幾度も死の苦痛をこの身に刻まれ、次の瞬間にはあの廃屋で目が覚める。
鉈で頭をかち割られた次は、
急いで廃屋から逃げ出して、物陰に隠れていた大型犬2匹に気が付かず、押し倒されて貪り食われた。
その次、廃屋に閉じこもっていたら、またあの男に殺された。
その次、獣の群れが狩られている時に思い切って飛び出して、そのまま逃げることは思いのほか上手く行った。
しかし、別の目の蕩けた男の爆発する金槌により、全身を打ち砕かれて死んだ。
次は、次は、次は……もう何度繰り返したか自分でもわからなくなっていた時、ようやくセイアは鮮血の川の近くに辿り着いていた。
「はあ……はあ……はあ……」
この前は、鋭い曲刀で肉を断ち切られ殺された。
腕を恐ろしい力で掴まれ、
そのまま皮膚の下を冷たい異物が這っていく悪寒を
味わうのはもう二度と嫌だ。
「うっ……」
フラッシュバックする光景と感触に、セイアはえづいた。
けれど、今にも胃液を吐き出しそうになるのを、彼女は必死に抑える。
何故なら……
ビチャ、ビチャ、ビチャ……
セイアの隠れている岩陰のすぐ後ろ。
そこには血をたっぷりと吸い、
腹をパンパンに膨らませた青白い歪な人間が無数に歩き回っていた。
先程は遠目に見るだけでその異容はわからなかったが、
近くで見ると、その生理的嫌悪を催す外観がはっきりと見て取れた。
そして先程、偶々足を滑らせた蕩けた瞳の男が、大量のそれ
に群がられ嬲り殺しにされ、その死体の血を音を立てて吸われているのが見えた。
……もし、今見つかったらその二の舞だ。
「……どう、して」
ポロリと、セイアからそんな声がこぼれる。
覚めない、覚めない悪夢。
もう、二度と覚めることはないのかもしれない。
どれだけ助けを求めても誰も応えることはない、ひとりぼっち。
「どうして、こんな事になったのだろうね」
……滅びの運命を防ぎたかった。
だと言うのに、今こうして自分はたった1人で狂気の狭間を彷徨っている。
……友人と再び会うことと、自分の正気の消失。
果たして、どちらが先だろうか。
「……どうして」
もう一度、セイアがそう呟いた。その時、
フッ
セイアのいる場所を、影が覆った。
ふと見上げれば血をたっぷりと吸った異形の巨体が、
今まさにセイアを押し潰さんと降ってきていた。
「!!!」
セイアは血の川に弾かれたように身体を投げ出し、何とかそれを回避する。
純白の制服が、彼女の淡い色の肌が、鮮血で赤く汚れる。
しかし、それ以上にセイアが立てた水音のせいで、異形の視線が一斉にそちらを向いた。
「……っ!」
セイアは慌てて立ち上がると、川を下る方向へと駆け出した。
異形は、あるものは跳ねながら、あるものは虫のようにギクシャクと這いながら、美味しそうな哀れな獲物に向けて駆け出す。
セイアは必死で逃げ続けた。
しかし、無情にも道はすぼまるばかりで、そして……
「なっ……!」
遂に狭い洞窟の前に来た時、その中に続く道を異形2匹が塞いだ。
狼狽えたセイアは引き返そうとするが、そちらも自分を追いかけてきた大量の異形が塞いでいた。
……もう既に腹は膨れきっているはずなのに、
明らかにこの大量の異形全てが満ち足りるほど小柄なセイアが血を持っているわけでも無いだろうに、
化け物は貪欲に血を求め続ける。
そして、そのうちの一匹がセイアめがけて飛びかかった。
セイアは辛うじてそれを避けるが、そこに追い討ちをかけるようにさらに一匹。そしてもう一匹。
「がっ!?」
巨体を支えるには不安すら残る枝切れのような腕なのに、
その腕力は恐ろしく高い。
一撃目で吹っ飛ばかれて岩に叩きつけられるセイア。
痛みに呻く彼女に、僅かな反撃の暇すら与えず、
その壁に打ち付けるように追撃、追撃、追撃、追撃、追撃。
「ごふっ」
めちゃくちゃに殴打され続けた末、彼女の体内で何かが弾けた。
ヘイローが明滅する。
……これで口から血が溢れるのは何度目か。
鈍痛に霞む思考は嫌に冷静だった。
化け物達は既にセイアに動く余力が残っていないと判断したらしい。
ぞろぞろ、壁に寄りかかって動かないセイアに近づいてくる。
……今回の死因は、生きたまま血を吸われて死亡、か。
せめて、痛み無く逝ければいいと思う。
セイアは今回を諦めると、薄れる意識に身を任せ、そのままゆっくりと目を閉じた。
最後に彼女の視界に写ったのは、大量の化け物と、
その奥に隠れるように存在する洞窟から出てきた謎の人影だった。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
……いつぶりかのR-18Gチキンレースです。加減がわからん……
とまあ、肉体的にズタボロになり精神的にもかなりキテるセイアちゃん。
次回の更新いつになるかわかりませんが、
その時が来たら精神方面にもトドメを差します。
……そういえば、アイドルマリーさんお迎えしてイベント見て絆見て癒されてたら元々考えてたマリーさんのブラボネタを細かく思いついちゃいました。どないなってんねん俺の精神性。
……いります?
ヤーナム観光短編、どれがいい?
-
脳に瞳を得かけたナギサ様
-
メンシス学派、柚鳥ナツ
-
聖職者の獣、伊落マリー
-
狩人の悪夢に囚われたセイア