世界一愛する、君へ。

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打上花火

「うーん……やっぱ全然見えないかあ……」

 

人影のひとつも見当たらない、静寂に包まれた浅瀬。遠くから響いてくる打上花火の音と誰かの歌声だけが、僕の耳にやけにクリアに入り込んできた。

 

夏合宿の期間も折り返しを過ぎて、何故だか実際の気温なんかよりも『冷たさ』を感じはじめてきた八月の半ば、夕凪の刻も通り過ぎた頃。合宿所のすぐ近くの神社にて、大規模な花火大会が行われていた。

先輩トレーナーに聞いた話によると、この花火大会は毎年恒例らしく、今では半ば、夏合宿のメインイベントのひとつと化しているそうだ。

 

「アルダンも、楽しめてるといいなぁ」

 

かく言う我が担当ウマ娘メジロアルダンも、今日ばかりは僕の元を離れ、学友たちと共に祭へと繰り出していった。せっかくの青春の1ページである。彼女がそれをたっぷりと自らの思う気ままに彩ってくれるのならば、これ以上喜ばしいことは無い。僕だって長く独り身でやってきた者だ、この程度、寂しくもなんとも……なんとも……

 

「……流石に、寂しいな、うん」

 

その辺の、手頃な岩場に腰かけて空を仰ぎ見る。案外穴場だったりして……なんて邪な気持ちでやってきたこの浅瀬だが、まあ、そんなに世の中甘くはなかったらしい。丁度件の神社のある小高い丘に阻まれて、下半分が欠けた中途半端な花火しか、僕の瞳からは見ることが出来なかった。

 

「………………」

 

けれども、そうだな。この雰囲気は嫌いではない。完璧ではなくっても、今は今の楽しみ方というものがある。僕はそっと目を閉じて、両の耳に神経を集中させた。

花火のメロディに、さざ波のリズム。何故だかピタリと一致したBPMに、運命的な何かを感じてしまう。相変わらず聞こえてくる歌声と相まって、まるで幻想的なミュージカルの舞台を前にしているような、不思議な感覚に、じわじわと、落とされて、行く。

 

「トレーナー、さん?」

「えっ」

 

思わず、遠くへ向かいそうになった意識を揺り戻してくれたのは、余りにも聞き馴染みのある透き通った声であった。

 

「どうされたのですか?こんな所におひとりで?」

「えっ、いや、暇だったからちょっ……と……」

「トレーナーさん?」

「あっ、いや、あ、アルダンこそ。どうしたの一人で?みんなは?」

 

渚のへりをなぞって現れたその人影の正体は、我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。鮮やかな紫色の花々が象られた浴衣に身を包んだその姿は、まるで精霊かなにかと見まごう程の、刹那的な美しさを僕の瞳に焼き付けてきた。

 

「疲れたので、一休みしてくる……なんて言って、少し抜け出してきました♪」

「えっ?どうして?楽しくなかった?」

「いいえ、とってもとっても楽しんでいますよ?けれども……」

「けれども?」

「何故だか、不意に、貴方に会いたくなってしまった……というのは、いけませんか?」

「───いいや、うん、いけないなんて事はないよ、僕だって、ああ、会いたかった」

 

少しだけ、ほんの少しだけ、照れくさそうな表情を浮かべた彼女に、思わず伸びていきそうになる左手を、これまた落ち着かない右手でなんとか押さえつけた。

花火にさざ波、先程よりも近く感じる歌声に、場違いに速い心臓のドラムが加わって奇妙な四重奏に変わっていく。

 

「トレーナーさんに連絡して、ここで待っていようと思っていたのですが。まさかそんな必要もないなんて♪」

「考えることは、お互い同じかぁ。でも残念だけど、あんまり花火見えないんだよね、ここ」

「そのようですね?ふふふ、残念です」

「その割には、随分楽しそうだね?」

「ふふ♪そうですかね?」

 

僅かばかり射し込んでくる花火の光に照らされて浮かび上がる、以前よりも少し健康的になった彼女の肌色。ちらりと僕に目線を向けてきた彼女は、そのままもう二歩、三歩とこちらに向けて歩みを進めてきた。

 

「何か、言いたいことでもあるのですか?」

「……どうして?」

「随分と、熱烈な視線でしたので♪」

「まったく、敵わないなぁ……浴衣、綺麗だよ、アルダン」

「浴衣が、ですか?」

「えっ、あ、えと。アルダン自身も……いや、アルダン自身が、一番綺麗、だよ」

「……綺麗なだけ、ですか?」

「───凄く、凄く可愛いよ、アルダン」

「他には?」

「っ────もう……勘弁して……」

「ふふふ、まあ、いいでしょう♪ありがとうございます、トレーナーさん♪」

 

ぴたりと止まった、目と鼻の先。否が応でも目に飛び込んできたのは、普段より少し大人っぽく色気づいた、淡い桃色の唇だった。

 

「口紅、してるんだね、今日」

「あら、お気付きでしたか。正確には色付きのリップクリームですが、いかがです?似合ってますか?」

「ああ、勿論、この世の誰よりも似合ってるよ」

「───ふふ、良かった、合宿前に買ったばかりで、今日、初めて使ってみたんです」

「そうなの?それなら、嬉しいな。なんにせよ、初めてに立ち会うことが出来るのは、凄く幸運なことだ」

「ふふ、ふふふ。それにしても、この世の誰よりも、だなんて……」

「えっ、いや、だってちょっとでも遠慮したら、アルダンすぐ分かっちゃうでしょ?」

 

僕の、少しだけ熱が籠った言葉を聞いて、なんとも欲張りな笑顔を至近距離でぶつけてくるアルダン。たまらず目線を逸らした先に見えたのは、本当に、本当に悠久まで繋がっていそうな程に広がる夜闇に包まれた水面だった。

 

「それにその、凄く凄く似合ってるのは、事実だし……」

「あら、そんなにお気に召しました?」

「そりゃ、もちろん」

「……ふふ、それでは、そうですねぇ。これから先、トレーナーさんに私の特別な姿をお見せする時は、必ずこちらのリップで、それを彩って差し上げましょう」

「えっ、必ず?」

「ええ、必ず、生涯使い続けますよ?」

「生涯って、大袈裟だなぁ……けど、うん。凄く凄く、楽しみだ」

 

彼女の語る『生涯』がどれ程の長さなのかは、まだ分からない。まだ分からないけど、少しでも。一分一秒でも、永く、永く続いてくれたら、いいな、なんて。

 

「ふふ、本当に、ほんとうに……楽しみ……だ……」

「……トレーナー、さん?」

 

彼女の顔が、姿が、心地よく夜闇に溶け出していく。何故だか、すぐそこまで迫ってきている美しい歌声に身を任せて、僕はそっと、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

人影のひとつも見当たらない、静寂に包まれた浅瀬で、僕はそっと、目を開く。

誰かの歌声も、さざ波の音も、勿論、打上花火の音だって、何一つ、聞こえてなどこなかった。

 

「……なんで僕、こんな所に来ちゃったんだろう」

 

一昔前までは賑わっていた、広い広い海水浴場。自然豊かで水質も良く、昔はこの近くにトレセン学園の立派な合宿所が堂々と居を構えていた。

十年ほど前だっただろうか。水質の悪化と維持費の高騰を原因として、この海水浴場は閉鎖された。当然、合宿所も別の場所に移転となり、大きな観光資源を失ったこの街に、花火が上がることも無くなった。

 

「………………」

 

その辺の、手頃な岩場に腰かけて空を仰ぎ見る。中途半端に欠けた月だけが浮かんだ空を仰ぎ見ながら、大きく、大きく僕は息を漏らした。

 

「……流石に、寂しい。寂しい、よ。」

 

かつて、僕がまだ独り身で、駆け出しのトレーナーだった頃の話だ。

夏合宿中のとある日、丸一日の休息日、せっかくだから海辺のお散歩と洒落こみましょう、なんて当時の担当ウマ娘に提案されやってきた長い長い海岸線。

のんびりまったり他愛もない話に花を咲かせながらたどり着いたのが、この浅瀬だった。まだまだ子供だった僕ら、二人だけの穴場を見つけた事に、大層大袈裟にはしゃいでいたのを、よく覚えている。

 

彼女との思い出は勿論それだけではない。それからもずっと僕たちは、たくさんの時間を共に過ごした。

 

ある日には、二人で百人一首をした。結局一度だって彼女には勝てなかったけれども、あの日の彼女の表情は、今でも鮮明に瞼の裏に焼き付いている。

 

ファン感謝祭では、彼女の踊るチアダンスを、とびっきりの特等席で見ることができた。その様が余りに華麗で、美しくて、春の陽気に浮かれていた僕は、何度も何度もアンコールを求めたのだった。

 

クレープを一緒に食べに行ったこともあった。クレープの甘みとコーヒーの苦味に目を回しながら、けれども確かに、僕の中の『好き』がまたひとつ更新された瞬間だった。

 

あの日二人で作ったドライフラワーは、しばらくすると粉微塵になってしまった。けど……きっと彼女も知らなかっただろうが、その残骸は未だに書斎の棚の片隅、小さなボトルの中で捨てられずに残っている。

 

本当に、本当に沢山の思い出を積み重ね、そしていつしか僕は彼女に……いや、『いつしか』なんてことは無い。きっと初めから僕は、彼女に『恋』を、していたのだろう。

 

 

────そして、やがて彼女は、僕の妻になった。

 

 

夢と理想を抱いて海を渡り、二人でそれを具現化していく。肩書きは変わったけど、やっていることも、互いの関係も、トレセン学園にいる時とそう大きくは変わらなかった。

 

子宝にも恵まれた。彼女こそ『最強』のウマ娘になるんだ!なんてはしゃぎ倒した事を、産まれたばかりの愛娘に向かって言い放った僕の恥ずかしエピソードは、我が家の鉄板ネタの一つになった。

 

ずっと、彼女と生きてきた。本当に、ずっと。その過程で沢山の人々と友達になったし、美味しいものも色々食べた、たまにちょっとだけケンカもしたけど、やっぱり、全ての中心には彼女がいた。彼女は本当にずっと、永く、永く、僕の傍にいてくれたのだ。

 

「もう半年になる、んだな」

 

 

彼女と出会って十五年、彼女は死んだ。

 

驚くことはない、ウマ娘の寿命というのは、我々人間なんかより、ずっとずっと『短い』のだから。

 

 

そっと、ジャケットに忍ばせておいた小さな箱を開いて、じっと見つめる。彼女が愛用していた色付きのリップクリーム。彼女が本当に、本当に『生涯』使い続けた、その最後の一本。ここ最近は常に肌身離さず、どこに行くのにも一緒に連れてきている。もしも、もし、いつかどこかで再び彼女に会えたら、いつでも彼女の唇を彩れるように……

 

なんて。

 

「……分かってる、分かってるよ」

 

そんな奇跡みたいな事、起こるはずがないなんて事、僕はとうの昔に分かっている。今、僕の成すべきことは感傷に浸り死人のように余生を過ごしていく事ではない。彼女の子孫に、海の向こうの土地……彼女が積み上げてきた過去を、更に未来まで繋げていく事なのだ。

 

「そういやこのリップ、初めて見せてくれたのって……ここ、だったよなぁ」

 

瞬間、頭の上に電球が点った。そうだ、このリップはもう、ここに置いていこう。このリップとの思い出が始まった場所で、このリップとの思い出を終わらせる。なんて、なんて美しい幕引きなんだと自分で自分を褒め称えた。そうか、ようやく合点がいった。僕は今日、この為にこの場所に来たんだ。

 

「流石に、その辺にごろ置きしたらカラスとかに持ってかれちゃうよなぁ、いっそ海に投げるか?でもそれは海の生き物たちに悪いかぁ……あ!そうだ、砂浜!砂浜に埋めてしまえばいいんだ!」

 

そうと決まれば善は急げ、僕は勢いよく立ち上がって、手頃に物を埋めやすそうな、平らな場所を探し始めた。案外、砂浜というのはでこぼこしていて、深く穴を掘るのはかなり骨が折れ……

 

「ん?」

 

……なんて、ぶつぶつ考えながら足元を見ていると、なんだか。

『不思議な形をした石』がひとつ、砂浜に半分埋まっているのが視界の端に映り込んで、思わず僕は、それに向けて手を伸ばす。

 

「これ……って……」

 

その石を、あっさりと地面から引き抜く。明らかに自然のものでは無い、不思議な石。人間の頭みたいな部分に、長い髪、そして腕。けれども、ここから先は────

 

 

「────、──?」

「えっ」

 

思わず、遠くへ向かいそうになった意識を揺り戻してくれたのは、余りにも聞き馴染みのある透き通った声であった。

 

「─────────?──────────?」

「……………………」

「──────?」

「あっ、いや、いや、本当に。なんでも、ないよ、『アルダン』」

 

渚の向こう側から現れたその人影の正体は、我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。鮮やかな紫色の花々が象られた浴衣に身を包んだその姿は、まるで精霊かなにかと見まごう程の、刹那的な美しさを僕の瞳に焼き付けてきた。

 

「─────、───────……──────、───────────♪」

「……うん、うん、そっか。それなら仕方ない、ね」

「───、────────────────?────……」

「うん、うん、なるほど。そっか、そっか」

「────、───、──────────────……─────、──────?」

「そっか、そっ……」

 

少しだけ、ほんの少しだけ、照れくさそうな表情を浮かべた彼女に、思わず伸びていきそうになる左手を、

 

「違う」

 

しっかりと、はっきりと、右手で力強く押さえつけた。

 

「───────────、───

「違う、違うんだ。君は、僕の求めるものじゃない」

「……─────────

「確かに君だって美しい、君の生きてきた道程だって、本当に尊いものなんだろう。それだけは絶対に、否定したりなんか、しない」

「……──、─、───。─、───、───、─、─、────、─♪」

「けれども、僕の進みたい道はそっちじゃない、僕は、僕は、『メジロアルダン』と、『生きて行きたい』んだ」

「………………」

 

それきり、彼女は口を閉ざす。彼女の顔が、姿が、心地よく夜闇に溶け出していく。

 

「ありがとう、ありがとう、もう一度、僕の目を覚まさせてくれて。いつか、どこかで逢えたら、その時はもっともっと、仲良くなりたい、な」

 

右ポケットにリップクリームを、左ポケットには不思議な石を。僕はどちらも、どちらも持って帰ることに決めたのだった。

優しく手を振る彼女に、控えめに手を振り返してから、僕はそっと、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

「……さん、……ナーさん、トレーナーさん!」

「……えっ」

 

人影のひとつも見当たらない、静寂に包まれた浅瀬で、僕はそっと、目を開く。遠くから響いてくる打上花火の音と、さざ波の音だけが、僕の耳にやけにクリアに入り込んできた。

 

「トレーナーさん?大丈夫ですか?急にうずくまってしまうなんて……ちゃんと、立てますか?」

「……アルダン、あ、ああ……アルダンんぅぅ……」

「えっ?あ、えっと、は、ハンカチ、使いますか?」

「い、いや、それは、大丈夫……」

 

彼女の手を借りて、よろよろと立ち上がる。なんだか、随分と不思議な夢を見ていたみたいだ。

 

「……ねえ、アルダン?人間とウマ娘の寿命ってさ、それぞれどれくらいか、わかる?」

「はい?ええと、申し訳ございません、質問の意図が……なぜわざわざ、『人間』と『ウマ娘』を区別したのですか?」

「……うん、大丈夫、もう大丈夫だよ、ごめんね、変な事聞いて」

「は、はい……?」

「そういえば、あれ?僕、どれくらいの時間こうしてた?」

「時間ですか?ものの数秒くらい、だったでしょうか?」

「あ、そんなもんなのか、良かった良かっ」

「トレーナー、さん?何も良くありませんよ?急にうずくまって気を失ってしまうなんて、どう考えても……」

「う、ご、ごめんね、アルダン。でも大丈夫、本当に、大丈夫だか……あっ」

「……トレーナーさん?」

 

きょろりと目線を動かした、輝く浜辺の奥の方。

何かが視界の端に映り込んで、思わず僕は、それに向けて歩みを進めた。

 

「これは、先日の人魚像?それがどうかされたのですか?トレーナーさん?」

「あ、ああ、いや、そうだなぁ。これ、本当に『綺麗』だよなあ……なんて、そう思ってさ」

「それは、ええ、間違いなく。凄く凄く綺麗、ですね?」

 

一枚一枚、狂気的にまでこだわり抜いて『精巧』に彫り上げられた美しい鱗模様。

一体誰が彫り上げたのか、どうしてここまでやったのか。今となっては、誰も窺い知ることは、出来ない。けれども。

 

「……八百比丘尼の伝説、人魚の肉を食べて不老不死の身体を得て、だけど、不老不死故に家族にも友人達にも、愛する人にまで、何度も何度も先立たれてしまう。なんて、知ってるよね、アルダンなら」

「ええ、もちろん、知っていますよ」

「愛する人に先立たれる、なんてさ、一体どんな気持ちなんだろうね」

「それは……分かりません。分からない、けれども」

「けれども?」

「……もしもトレーナーさんが遠くへ旅立ってしまったのなら、泣いてしまうのでしょうね、私は」

「……ふふ、泣いてくれるんだね?僕の為に」

「もちろんですよ?そして、トレーナーさんもそう、私が先に旅立ってしまったのであれば、貴方はきっと、言葉も出なくなるほど泣いてしまうのでしょう?」

「流石、よく分かってるね?」

「泣いて泣いて、長い間引きずって、ぐるぐるぐるぐると悩み抜いて……それでもきっと、最終的には『未来』を信じることに決めるのでしょうね、貴方は」

「……そうかな、それは、わかんないや」

 

改めて、目の前の人魚像に向き直る。もしかして彼女は、今もどこかで生きているのだろうか。今もどこかで、この浅瀬のことを、見守っているのだろうか。

だと、するならば。

 

「アルダン、その綺麗なリップって、今持ってたり、する?」

「ええ、持っていますよ?」

「少しだけ、ほんの少しだけ使わせて欲しいんだけど、いいかな?」

「……ええ、構いませんよ♪」

 

彼女はそう言って、その色付きリップクリームを僕に握らせた。僕はそれを開けた。浴衣の懐に入れっぱなしだったせいでここまで歩いてきた彼女の熱が伝わったのか、中身は生あたたかくどろどろに溶けていて、甘い香りがした。僕は蓋を開け小指を突っ込み、中のリップクリームを少量取った。そして……

 

「……うん、こんなもんかな?」

「ふふ、とっても綺麗になりましたね♪」

 

彼女の顔に灯る、暖かな桃色の、一点。

なんだか、どこかの誰かによく似ていて、僕は思わず手を差し伸べた。

 

「……!トレーナーさん!上を……!」

「えっ?あ、あっ!?」

 

アルダンに促されるまま、空を仰ぎ見る。僕の瞳に映し出されたのは、間違いない、大輪の打上花火だった。

 

「凄い……こんなに綺麗に見えるなんて……」

「丁度クライマックスで、今までより高く高く打ち上げてる、のかな?いや、本当に、凄い……」

「ふふっ!ここは本当に『穴場』だったみたいですね?」

「ね?本当に……ここに来れて、良かった」

 

赤、青、黄色、桃、紫……様々な色で夜闇を染め上げては、儚く消えていく、打上花火。けれども、少しだって切なくなかったのは。

 

「また来年も、ここで花火を見ましょう?その時も間違いなく、このリップを付けてきますから……約束ですよ、トレーナーさん♪」

「うん、間違いなく、来年だろうと再来年だろうと。できるだけ永く、永く……ね?」

 

今までよりもずっと、ずっと、僕らは、『永遠』を信じることが出来るようになったから。

静寂に包まれた浅瀬で、僕らは二人、小さく指切りをした。

 


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