なので今回は短いです。
それは昔の話。
ごく一部の者しか知らない話。
「ハァ……ハァ……!!」
まだ炎秋が死を迎えてない時の話。
仙舟が大きな戦いを終えていない時の話。
そして…。
「まだ、立つか?」
たった一度だけ…そう、たった一度だけ。
鏡流と炎秋が手加減無しの本気で剣を打ち合った時の話。
本気で命のやりとりをした時の話。
「……当たり前だ…!!」
その戦いは一つの願いから始まった。
たった一つ、炎秋が願ったこと。
『鏡流の隣に立つことのできる存在になること』
元々、戦場で鏡流の横に立つ事はあった。
同じ戦場で同じ方を向いて同じ敵に剣を向けていた。
そんな日々を続ける中で鏡流は一つの噂を耳にした。
【炎秋が鏡流を超えようとしている】
鏡流にはその噂が本当なのか嘘なのか、わからなかった。
だから、鏡流は言葉ではなく剣で炎秋に問いかけた。
そのために剣を構えた。
…そのハズだった。
「俺は…俺には…!!成し遂げないといけないことがあるんだ…ッ!!!」
炎秋と剣を交えて、噂が本当のことではないと理解した時。
鏡流は炎秋の目を見てしまった。
覚悟の目、目的のために自分のあらゆるモノを犠牲にする覚悟を持った目。
自分と剣を交えるなかで徐々に強く鋭くなっていくその目を見た。
「……なぜそこまでして足掻く?」
その時何を思ったのか、鏡流自身理解することが出来なかった。
しかし、止めなければならないと思った。
その目的がなんであれ、その覚悟を持った者の末路は知っていた。
その後、時が経つにつれて鏡流は少しずつ理解していった。
悲しかったのだ。
そんな目をしてほしくないから仙舟に連れてきた。
そんな目をしてほしくないから剣を交えた。
なのにどうしてそんなに足掻くのか。
「…恋焦がれたからだ」
どうして傷つくことを恐れないのか。
「くだらんな」
『無駄なことだ』
「傷だらけで立っても無様なだけだ」
『だから早く』
「諦めろ」
『諦めると言ってくれ』
たった一言。
鏡流がたった一言伝えれば良かったのに。
そうすれば炎秋が居なくなることは無かったのに。
「いけないっていうのか…」
「誰かを好きになることが…」
「そんなにもいけないっていうのかよッ!!!!!」
誰にも悟られることはなかった。
だが、鏡流はその時生まれて初めて涙を必死に堪えながら剣を握っていた。
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炎秋が鏡流を庇ってから数日後、鏡流は変わらず剣を振るっていた。
しかし、羅浮が炎秋を失ってからというもの…訓練所で雲騎軍の指導にあたった後に鏡流は何処かに姿をくらませることがあった。
雲騎軍は知らないことだ。
鏡流が剣を握った後に人けのない場所で静かに泣いていることがあるなどと。
鏡流が剣を握る理由が、仲間を2度失ったことに対する懺悔のためであることを。
唯一、彼女の弟子以外は知らないことだ。
そして現在、鏡流には生きる理由が一つ増えた。
炎秋が帰ってきた。
理由がなんであれ、炎秋が戻ってきたこと。
それで鏡流がどれほど救われたのだろうか。
今も鏡流は剣を握る事がある。
しかし、それは懺悔のためではないのだろう。
炎秋という守りたい者のため。
今度こそ守り抜くために。
鏡流は今を生きている。
そのことを知るのもおそらく一人だけなのだろう。
『誰かを愛することに理由など必要なものか』
毎朝早く起きて炎秋の寝顔を見ながら、鏡流はいつもそう思っていた。