なぜ鏡流小説が微塵も増えていないのか!
なぜ物語の構想は出来てるのになかなか形に出来ないのか!
なんでなんだ!チクショウ!
ほんの僅かに、しかし確実に様子のおかしい鏡流を霊砂に任せて、炎秋は人けのない道を白珠と歩いていた。
目的は色々あるが、鏡流に落ち着く時間を作ること。
白珠の現在の状態の確認。
そして、単純に彼女と話をしてみたかったという興味。
正直先ほどのやり取りでその目的の一部は達成していたのだが、炎秋は正直複雑な心境だった。
「疑わないんですか?」
彼女からそんな一言が飛んできて、そんな心境など散らしてしまったが。
「疑う?」
「…貴方の話は景元から聞いてるんです。
昔のことも、今のことも。
貴方のご両親と鏡流の話も。
それに、歩離人としての特徴もある程度は理解しているつもりです。
あなたの言葉に従うだけの存在にならないことの意味も、私なりに分かってるつもりです」
「………。」
思わず立ち止まってしまう。
動揺や苛立ちによるものではなく、立ち止まって聞きたかったからであるが。
「私の体のことは調べてもらいました。
結果として、狐族でこそありますが…特異体質であることがわかりました。
歩離人のフェロモンへの耐性。
元々、こんな体質なんて無かったはずなのに。
そもそも死んだはずの自分が生きているっていうのも訳がわからないし、白露ちゃんにだって会いました。
私自身、自分がどういう状態なのか把握出来てないんです。
もちろん、こんな事を言って信じてもらおうなんて考えてるわけじゃないんです。
ただ………。」
そう必死に言葉をつなげる白珠を見て。
炎秋は思わず……
「…ふっ」
少し笑ってしまった。
人が真面目に話しているのに何事かといった目を向けてくる白珠。
しかし、炎秋の表情はその様子を『面白いものを見た』というふうに物語っていた。
「いや、悪い。笑うつもりはなかったが、耐えきれなかった。
鏡流から聞いてきた君の話とはまるで別人のようで」
「…一応真面目な話をしていたんですけど」
「慣れない敬語を使って?」
「慣れ…っ!
失礼な!こう見えても結構礼儀とかは考えてるんだよ!?」
そう言い、猛抗議してくる彼女と面と向かう。
「昔、俺が若かった時…いやまぁ、そりゃ今も若いほうだけど…雲騎軍に入る時だったか…鏡流から言われたことを一つ思い出した」
「?」
「『気持ちを伝えたいときは、相手と視線を合わせて目を見て話せば伝わる』
その時の俺は、正直あんまり他人に関わるのが好きじゃなかった。
鏡流さんさえ見ていれば良かった。
他に何もいらなかった。
でも、その言葉を聞いて…自分なりに考えてみた。
俺は…その言葉の真意をずっと探し続けてる。
そして…」
「…相手に気持ちを伝える時に目を合わせて話をしている?」
「ああ。そして、相手を理解したいときも。
今、アンタは俺と話をしようとした時に俺と向き合って…俺の目を見て話していた。
少なくとも俺にはその目が悪いやつの目には見えなかった」
そう言いつつ彼女から視線を前に戻しながら、言葉を繋げた。
彼女の事は、とりあえず見る必要は無さそうだった。
「俺は信じるよ。
白珠さんのこと」
その言葉を聞いてキョトンとした表情をした後、すぐに何処か呆れた雰囲気をに変わってこちらを見てくる白珠。
「じゃあ、もう敬語使わないよ?」
「問題ない」
「態度もいつも通りに戻るし」
「それがいい」
「遠慮とかしないけど」
「こっちも気が楽で助かる」
「…なんか真面目にして損した気分」
そう言いつつも、白珠は炎秋に対して、どう接していいのかわからなかった。
自分とよく似た蘇った死人。
鏡流の大切な人であり鏡流を大切にしてくれる人。
しかし、白珠にとっての信じていい人なのか。
白珠にはそれが分からなかった。
そこで、白珠は思い切って…
「…正直ね、鏡流と会って何話せばいいのか分かんないんだ。
もう会えないって思ってたから。
多分…いっぱい悲しませたから…。
でも、会わなかったら後からきっと後悔する」
今の自分の本心をぶちまけることにした。
そんな彼女の言葉を黙って聞いている炎秋。
続けて、彼女は思っていることを話していく。
「都合が良いよね…今更会えたってどうしたらいいのかわかんないのに。
鏡流だって、きっと迷惑なんじゃないかって。
本当は合わないほうがいいんじゃないかって。
ほんと嫌になっちゃうよね、私本当はこんなこと考えるタイプじゃないのに」
そうして、自分の本心を…鏡流にも話せないことを話した。
そんな白珠に帰ってきた言葉は
「それでも向き合おうとした」
少なくとも白珠が想定していた言葉ではなかった。
「え?」
「それでも向き合おうとしたんだ。
辛いかもしれない、苦しいかもしれない。
それでも、向き合おうとした。
だから会おうとしたんだ、辛い過去と向き合おうとしたんだ」
「向き合う…?」
「逃げても良かった。
楽な解決方法なんていくらでもあった。
それでも向き合おうとしたんだ。
自分自身と」
「俺はそれを、凄いことだと思う」
その言葉を聞いた白珠には、もう炎秋に対しての戸惑いのようなものはなかった。
しかし、代わりと言ってはなんだが…違う感覚を抱いた。
ため息を吐いて苦笑いのような笑みを浮かべる。
そして
『あぁ…鏡流はこれにやられたんだな』
そう、心の中で思った。
「というか…敬語のことを私に言うのなら、君のその喋り方は何?無理して強い口調にしてるけど、ところどころ違和感というか『無理してます』って感じが出てるけど」
「え…っ!?そんなに…?」
「うん、そんなに。
強い口調にすれば舐められないってのも鏡流の入れ知恵?」
「…参ったな。鏡流との関わった年月…鏡流の理解度でいうのならこちらが不利そうだ」