それでも俺は彼女が好きだ   作:じーじー

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彼女の視線の先にあるもの

 

 

 

 

 

 

炎秋が丹鼎司へと向かっている同時刻。

羅浮の人混みの中、橋の上にて。

橋の手すりに手を置き、一人遠くを見つめる者が一人。

 

 

 

「………。」

 

 

 

何も言わずに、ただ遠くを見つめるだけ。

はっきり言えば、キャパオーバーという話だった。

かつて、雲上の五騎士と呼ばれた存在であった時。

その仲間を失った悲しみ。

そして同じく、かつて自分を愛してくれると言っていた男。

自分の中で、無意識のうちに大切な人になっていた男。

そんな男を失った悲しみ。

そんな悲しみを心の奥底で封じ込めて過ごしてきた。

『そんなものは弱さだ』と。

『過去に縛られるべきではない』と。

そうやって、生きてきた。

 

しかし、今になって帰ってきた。

二度と会えないと思っていた…私もお前が大切だと伝えられなかった男が。

ギリギリだった。

ギリギリ耐えていた。

『そんなはずない、生きているはずがない』だとか『会えなかった悲しみを抱えつつも隠してきたのに今更何を』だとか『これが夢なんかであってたまるか』だとか。

その他様々か感情が彼女を包んでいた。

それでも、私が好きだと言ってくれていた。

思っていた言葉を確かに聞いたのだ。

直接ではない。

その場に居たわけではない。

通信越しに。

だが、それでも…それでも確かに聞いたのだ。

それを聞いた時、隣にいた弟子のことなど忘れて。

膝から崩れ落ち、初めて心の底から涙を流した。

それで彼女はギリギリだった。

ギリギリ耐えられた。

様々な感情より嬉しさが勝った。

だが、もう1人…どうしても会えないとしていた彼女が帰ってきた。

男が帰ってきた時、言わなかった言葉がある。

 

 

 

「…今更…今更会えたとして我にどうしろというのだ」

 

 

 

彼女は小さく呟いた。

遠くを、ここではない何処かを見つめながら。

ため息をつこうとした。

 

 

 

「よくわかんないけど、はいこれ」

 

 

 

そう隣から声をかけられるまでは。

ハッとして声が聞こえたを向くと、茶の入ったカップを差し出しながらこちらを見ている人物が居た。

 

 

 

「貴様は…曜青の…」

 

 

 

そう言われた人物…曜青の将軍である飛霄は少し笑顔を見せながらカップを押し付けてきた。

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

「それで?」

 

 

 

カップを鏡流に押し付けた飛霄は、そのまま彼女の隣に移動して鏡流と同じ方向を向いていた。

 

 

 

「何の話だ?」

 

「かの、元剣首である鏡流殿がいったいどのような悩みを抱えているのか気になるのはいけないこと?」

 

「…何の話だ」

 

「それは無理がある。

アタシの目にもわかるくらいに…まるで黄昏れていたじゃない」

 

「……。」

 

「ま、話したくないならこれ以上は聞かない。

代わりにアタシの話に付き合ってもらうけど」

 

「…もういい、勝手にしろ」

 

「最近噂になってるであろう狐族を主体とした対歩離人の団体を知ってる?」

 

「知らないとでも?」

 

「なら、詳細は省くわね。

彼らが何を目的としているのか。

その一部分が分かったから、伝えとこうと思って」

 

「目的?

そんなもの景元にでも…」

 

 

 

『教えればいい』そう繋げようとした鏡流は言葉を止めてしまった。

目の前でこちらに指をさす飛霄の姿があったためだ。

 

 

 

「…我だと?」

 

「正確には…『雲上の五騎士』」

 

「どういうことだ?なぜ我や景元を欲する?」

 

「さぁ?そこまではわからないけど。

でも、団体が掲げている話を聞けば何となく想像できる。

でしょ?

そして、そうなってくると五騎士以外にもう1人標的になる人物が出てくる」

 

「…炎秋か」

 

「でも、彼が今団体の連中と接触を図るには最悪な状況になりかねない」

 

「…景元から聞いたか」

 

「まぁ、だいたいの話は。

だから、周りに内緒で羅浮に来ちゃったわけだけど」

 

「曜青の将軍が無断で出歩くとはな。

それも羅浮を。

…羅浮の中に内通者がいると?」

 

「そういうことになるわね。

色々と調べるには一人で動けたほうがいいこともある」

 

「いつも共同で行動している2人はどうした?」

 

「別行動中。

その最中にあなたを見つけた。

色々話しといたほうがいいと思って」

 

「…そうか。

精々、気をつけることだ」

 

「……もう一つ、ついでに話しておくわ。

自分の中で、何かに迷っている時…誰かに対しての悩みを持っている時。

言葉にして、直接伝えないと何も伝わらない。

それは言うことは簡単だけど、やるのは難しい。

でも、貴方が必死に行動していたり悩んで居たところはきっと周りも見ていたはず。

少なくとも大切な人であればあるほど。

必死になる姿を見ていたはず」

 

「……。」

 

「じゃあ、そろそろ行くけど…。

そのお茶、今人気の新しいブレンドらしいから飲んでみるといいかもしれないわね。

新しいことにチャレンジしてみるって意味でも」

 

 

 

そう言い残してその場から去っていった。

 

 

 

「……。」

 

 

 

そちらを見ることなく、鏡流はその場から動くことは無かった。

仕方なく、貰ったカップの茶を飲む。

 

 

 

「…甘い…今の仙舟人はこんなものを飲むのか」

 

 

 

思わずそう呟いてしまう。

だが、貰い物であるため捨てるのも無礼と思い、なんとか飲んでいく。

『これを土産にすれば炎秋は喜ぶだろうか』

『白珠ならば好きそうな味ゆえ、今度持っていこうか』

そんなことを考えながら。

 

 

 

 

 




…飛霄ってどういうふうな喋り方してただろうかと書いてて何度も思いました。
(追記 2025/12/01 3:37)
誤字報告助かりました。この場を借りて感謝をお伝えします。
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