それでも俺は彼女が好きだ   作:じーじー

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それはまるで…

 

 

 

 

担当医が変わってからおよそ4週間後。

その日も5回目の検査に、炎秋は向かっていた。

朝から鏡流は出かけている。

と、いうのもだ。

鏡流が最近一人で出かけることが多くなった。

薄々だが、厄介事が起きている。

炎秋には、そんな気がしていた。

なぜか?

その理由は、まさに今炎秋自身が感じているものが関係している。

足を止め、通り過ぎようとした売店の方を向き品物を見て買わずにまた前を向き歩き始める。

そんな動作を間に挟む。

 

 

 

(…今日も居るな)

 

 

 

炎秋は後をつけられていた。

外出する時に。

毎回ではない、稀に。

それもかなり遠くから、視線を感じる程度のもの。

だが、見られている時は確実に監視されていた。

敵意は感じないし、誘いをかけても絶対に手も出してこない。

それが不気味であった。

手を出してくれたほうが、簡単にやり返せるというのに。

あるいは、それを理解しての行動だろうか。

モヤモヤしつつも丹鼎司の方に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「対象、丹鼎司へと向かうのが確認できました。

また、金人巷には鏡流は居ません。

よって、我々は作戦のフェイズ1をこれより開始します」

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

炎秋はいつも、検査後に担当医と軽い話をすることを炎秋のルーティンとしている。

話すことは、かつての雲上の五騎士や鏡流の話ばかりだ。

本人に聞けばいいと霊砂には嫌味を言われることもあるが、第三者目線でしか分からない価値観もあるとしていた。

炎秋目線でだが、春孝は雲上の五騎士に何処か尊敬にも似たものを持っていると炎秋は感じていた。

雲上の五騎士について語っている彼は何処か楽しそうなのだ。

そんな様子で語る彼を、炎秋は気に入っていた。

そんな春孝の姿を今日も見るつもりで丹鼎司に来た。

 

 

 

 

「……今日は久しぶりにアンタか」

 

「残念そうにしないで頂けませんか。

追い出しても良いのですよ?」

 

 

 

そこにいたのは春孝ではなく、霊砂だった。

 

 

 

「春孝さんはどうした?」

 

「野暮用、ということにしといてください」

 

「…聞かないほうがいいか?何も」

 

「ええ」

 

「…わかった。

じゃ、始めてくれ」

 

「そうしましょう」

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

同時刻、神策府にあるとある応接室にて。

景元、鏡流、白珠の三人はある人物を前にしていた。

 

 

 

「今日はお呼びいただき、将軍様方のお時間をとらせることになってしまい大変申し訳ありません」

 

 

 

そう言って頭を深々と下げるのは、他でもない炎秋の代理担当医こと春孝だった。

少し前、彼は神策府にいる将軍の元へ一通の手紙を送っていた。

内容は【例の団体について知っている】というもの。

景元はそれを見て、他2人と送り主である春孝を神策府へと呼びつけた。

それが炎秋がたまたま検査する日付と被った。

そのため春孝ではなく霊砂が対応することとなったのであった。

余談だが、霊砂は突然のこの対応に内心舌打ちしていたとだけ記しておく。

 

 

 

 

「気にすることはない。

むしろ、一報いただけたことに感謝している」

 

 

 

そう返す景元に何も言わずに頷きながら見ている白珠と腕を組んで目を瞑り立ちながら話を聞く鏡流。

2人は話を聞くことに徹し、対応は景元に任せることにしていた。

 

 

 

「それで、話してくれるのかい?

いや、聞いていいのかい?

対歩離人排除組織創設者である君の話を。

おっと失礼、今は対歩離人反対活動組織として行動しているんたったかな」

 

「…知っていて当然…ですかね」

 

「現在かの組織には炎秋の情報をつかまれていてね。

炎秋の周りの人物すべてを洗い出す必要があった。

そこで君のことも知ったというべきかな」

 

「…ですが、そんな私でも…話をさせて頂きたい」

 

「それは、我々としても是非もないことです」

 

 

 

そう言い、彼は一つずつ話し始めた。

 

 

 

「まずは、くだらない身の上話から。

私もかつては平和に家族で暮らしていた時期がありました。

両親とも仲が良かった。

友達も大勢居ました。

進路にも恵まれました。

当時の私の夢は化学者、その夢も叶いました。

そんな私の大切な家族は…友人は…そして、夢はさえも。

歩離人によってそのすべてを奪われました。

両親なんて私の目の前で殺されました。

私は…私は、心底歩離人を恨みました。

復讐を誓うほどには。

その復讐のために、私は歩離人を捕縛し研究して情報を得るための組織を作った」

 

「…それが、例の…?」

 

「ええ。

そうして歩離人を捕縛し、そのすべてを調べ尽くした。

その果てに、私は歩離人の狐族を従えるあのフェロモンに対抗出来うる特殊な抗生物質を作り出すことに成功しました。

そんな活動を続ける中で、私はある歩離人と人間についての記録を発見します。

それをたどり、調べた果てに…私は炎秋という男を知った。

彼の来歴、そのすべてを。

彼は人間と歩離人の元に生まれた混血だと言うじゃないですか。

なので、私は彼を陰ながら監視していた。

醜い本性を暴き出すために。

…ですが、そんな私の思惑とは反して…彼は彼の信念に基づいた行動を重ねていった。

【大切なものを守りたい】

その信念の行動を。

途中、私は戦場にて彼に命を救われました。

彼は歩離人の血を引いていたにも関わらず、狐族のこの私をですよ?

私の歩離人に対する復讐を誓った心はその時…音を立てて砕け散っていった…。

そんな彼がある日死んでしまった。

彼が愛した…1人の女性を守って…。

私は悲しみに暮れました。

歩離人との争いには勝ちました。

ですが、私の心の中は空虚な感情が支配していたんです。

『何に復讐するのか』ではなく『どうやって生きていくか』すら考えました。

そんな時、私はあの呼雷が蘇生術について研究をしているという話を聞きました。

それを聞いた私は、自分の作った組織を使い血眼になってその情報を洗い出しました。

結果、私は蘇生術の情報…そのやり方を見つけ出した。

あの命を救った気高き存在である炎秋に加えて、彼が命をかけて守った鏡流の仲間である亡くなった雲上の五騎士、白珠を蘇らせるために。」

 

 

 

それを聞いた白珠は抑えきれずに言葉を出した。

 

 

 

「…私?」

 

「はい、あなたを蘇らせたのは私なのです」

 

「……そっか」

 

「今思えば、バカなことを…余計なことをしたと…心より思います」

 

「…いや、納得した」

 

「…何がですか?」

 

「私、昔から周りからの悪意には敏感で…。

でも、蘇ったって自分で理解した時に嫌な感しがなかったから。

『たぶん、私を生き返らせた人は…悪意があったわけじゃないんだ』って何となくおもってたから」

 

「すみません、話が逸れすぎましたね。…戻しましょう。

私が蘇らせたのは白珠様お一人だけです。

炎秋様は別の生き残りの歩離人が蘇らせた。

その歩離人も、愛した女性に会いたくて…歩離人としての立場などどうでもよく狐族の女性とただ互いに愛し合いたくて…。

私はそのことを知り、自然と行動を起こしていました。

私が作った組織を解散して医者として誰かを救おうとしました。

ですが、組織を解散しようとした時にその組織のリーダーの座を狙っていた男が現れました。

名を『旬雷(じゅんらい)』と言います。

旬雷は私を組織から裏切り者として追放して組織を乗っ取り、リーダーとなり…今のあの組織が出来上がりました。

奴の目的は歩離人の完全な殲滅。

かつての私とほとんど同じです。

表向きにはそういうことに奴はしました。」

 

「…どういう意味です?」

 

「私が追い出されたのは、歩離人のフェロモンに対しての抗体手段を確立していたからです」

 

「…まさか」

 

「奴は…歩離人…。

真の目的はあの呼雷を生き返らせること」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴はこの羅浮という大船ごと、仙舟人を完膚なきまでに破壊し尽くそうとしているのです…!」

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

「…やっと終わった」

 

 

 

そう言いつつも検査を終えて金人巷に帰る炎秋。

長時間の拘束は疲れることもあり、まったりと帰る炎秋だったが…一つ気になることがあった。

 

 

 

(そういや…視線を感じない…?)

 

 

 

それに気づいた次の瞬間、ハッとして炎秋は猛スピードで金人巷に向かった。

行き着いたのだ、一つの考えに。

今まで、最初から視線を感じる時は家に帰るまではその視線が消えることはなかった。

それが、途中で消えた。

その現象から得られる答えに行き着いたのだ。

 

 

 

 

「おやっさん!!ばあさん!!

どうした!?何があったんだ!!」

 

 

 

 

途中で視線が…監視が無くなった。

監視する必要が無くなった。

 

 

 

 

「目を離していたらいつの間にか居なくなってて…手紙が…!」

 

「手紙…!?」

 

 

 

 

 

それはまるで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの娘…!!

攫われたって…!!!!

命が惜しくなければ炎秋を指定したとこに連れて行けって!!!!」

 

 

 

 

 

 

『絶好のタイミングを伺っていて、そのタイミングが訪れたと言わんばかりではないか』と。

 

 

 

 

 

 

 

悪夢が、始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 




筆が…筆が乗ってきた…!?
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