それでも俺は彼女が好きだ   作:じーじー

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『それでも我は』ずっと言えなかった言葉

 

 

 

 

 

手紙に記されていた指定された場所。

そこは前に名を捨てたと語っていた歩離人と対峙した場所であった。

連れ去られた彼女の祖父と二人で炎秋はその場所を歩いていた。

 

 

 

 

「え、炎秋さん…」

 

「大丈夫だ、任せてくれていい。

こんなんでも、一応それなりに強いとは自負してる」

 

「は、はい…!」

 

 

 

不安に駆られる彼に『大丈夫だ』と声をかけつつも、炎秋本人は内心色んな感情を抑えていた。

 

 

 

(誰か知らねぇが…一発ぶっ飛ばしてやる…)

 

 

 

どんな感情よりも怒りが占めていたが。

そうしている合間にも、奥の広い空間が見えてくる。

剣を片手に同行者の安全を確保しながら進んでいくと、そこには…。

 

 

 

 

「お兄さん…!!おじいちゃん…!!」

 

 

 

10人ほどの武装した集団に拘束されたあの看板娘の姿が見えた。

彼女の祖父である彼は、ひとまずの安堵を噛みしめていた。

もっとも、その安堵は目の前の炎秋の口から発せられる聞いたこともない鋭く低い声によって吹き飛ぶのだが。

 

 

 

「その娘を離せ」

 

 

 

短い一言だけだったが、それ以上もそれ以下もなかった。

リーダーらしき人物が前に出てくる。

素直に渡してくるとは思えなかったが、それでも一応言ってから斬り伏せる。

そうしようとしていた。

だが、帰ってきた返答は。

 

 

 

「いいぜ」

 

 

 

了承の一言だった。

 

 

 

「なんのつもりだ」

 

「ん?」

 

「言い方を変えてやる。

要求はなんだと聞いているんだ」

 

「要求?」

 

「何のための人質だ?

貴様は俺を呼びつけるためにその娘を攫ったのだろう?

ならば、俺に要求があるのは当然のこと。

それとも何か?

その娘を意味もなく攫ったと?」

 

「あぁ、そういうこと。

いやぁ、話が早くて良かった良かった。

でも…その話は…」

 

 

 

炎秋は気付かなかった。

その狐族の娘に、10人の武装集団に、後ろの祖父に気を配りすぎて。

 

 

 

 

 

 

「そこに居る、大将としてくれや」

 

 

 

 

 

横で気配を殺していた、巨体をもつ長命種の存在に。

 

 

 

 

 

(気付かなかった…?俺が…言われるまで…?)

 

 

 

 

 

そう思い、そちらを向くとその方から徐々にこちらに歩いてくる巨体。

 

 

 

 

 

 

「…いや、そういうことか」

 

 

 

 

 

 

そして、炎秋には覚えがあった。

体が覚えていた。

 

 

 

 

 

「正直、その可能性を考えてなかったわけじゃない」

 

 

 

 

 

その身体から発せられている威圧感に。

 

 

 

 

 

「俺が蘇ったんだ。

むしろお前が蘇ってないほうがおかしい話なんだ」

 

 

 

 

 

そして、その悪夢自体を。

 

 

 

 

 

 

 

「テメェのツラなんさ、もう見たくなかったんだがな。

…呼雷…ッ!!!」

 

 

 

「そう言うな。

俺とて複雑なのだ、お前が我が同胞という事実がな」

 

 

 

 

その悪夢…今、蘇る。

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいる会いたくもない存在を前にして、炎秋はため息をついてしまった。

 

 

 

「………呼雷…ッ!!!!」

 

「ほう?今貴様が言うべきことはそれだと?」

 

「いちいち癇に障るッ!!!

…良いだろう、どうすればあの娘を解放する?」

 

「簡単なことだ。

お前が代わりになれば良い。

我々の人質をお前にする」

 

「俺が、人質に?

悪笑えない冗談は好きじゃない」

 

「冗談かどうかは一番分かっているはずだが、」

 

「……チッ」

 

「この条件を飲むなら…その剣を俺に寄越せ」

 

「…フン」

 

 

 

『今すぐ、目の前のこのクソったれを斬りつけたい』と炎秋は思っていた。

が、隣にいる祖父の孫を助けるのが最優先。

 

 

 

「炎秋…さん…?」

 

「…わかってる。

おやっさん、帰り道…ちゃんと覚えてるよな?」

 

「だめです、そんな…っ!」

 

「嬢ちゃん!!

悪いが俺と場所、交代だ!!」

 

 

 

剣を呼雷の方へ投げると、呼雷はそれを受け取るわけでもなく真っ二つにへし折った。

それを横目に人質となっている彼女に近付くと彼女は解放される。

代わりに手錠を付けられる炎秋。

 

 

 

「お、お兄さん…」

 

「大丈夫、大丈夫。

こう見えても結構強いから。

俺は大丈夫だから」

 

「…フッ、大丈夫…か…。

さて、貴様ら。

俺は今機嫌が良い。

俺に殺される前にとっとと消えろ、見逃してやる」

 

「……クッ…!」

 

「良いって行きな、おやっさん」

 

「…すまない…っ!」

 

 

 

そうしてこの場を離れる二人を笑顔で送る炎秋。

 

 

 

「で?

何が目的だ?

俺をわざわざ人質にするために俺を部下に監視させて誘拐なんてしたんだ。

当然理由があるんだろ?」

 

「流石に、そこまで分かっているか。

同胞の血を引くよしみだ、答えてやっても良い…が、移動が先だ」

 

 

 

そう言った呼雷は手錠から伸びている鎖を引き、歩き始める。

それに抵抗することもなくついていく炎秋。

もっとも、抵抗したとして…まだあの二人が逃げ切れている保証は無いため下手に動くことが出来ないため仕方なく従うだけだが。

そしてそれを、その呼雷も理解して動いていた。

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

「ふーん?面白そうな展開になってるじゃん。

たまたま興味が出てハッキング仕掛けてみたら、こんなのが映り込んでるんだから…羅浮ってそんなに物騒なとこなわけ?」

 

 

 

 

「ま、このままだと色々と面倒なことになりそうだし…エリオの言うとおりに神策府にこのデータを送っとこ。

一応、刃の仲間だったらしいし。

恩くらい売れば、昔の刃の話がいつか聞けそうだし」

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

その後、大きな船に乗せられた炎秋は手錠をされたまま椅子に座らされていた。

その向かいにいる呼雷はその様子を見て満足そうにしている。

炎秋自身、動きたいように動けないでいた。

と、いうもの…手錠をされてから思うように力が入らないのだ。

おそらく、手錠に何かを仕込まれていると炎秋は考えていた。

 

 

 

 

「その手錠、良いものだろう?

歩離人の力を抑制するものらしい。

皮肉にも我々を捕らえるための道具が貴様の捕縛に役に立つとはな?」

 

「…そうかよ」

 

「さて、目的は何か…という話だったな。

と、言ってもだ。

薄々気が付いているのだろう?」

 

「…鏡流か」

 

「そうだ。

俺は今度こそ忌々しい仙舟を滅ぼす。

それは絶対だ。

その過程で仙舟人は皆殺しだ。

先程の奴等を逃がしたのも、後から殺すのと何ら変わりないからだ。

しかし、しかしだ。

鏡流、奴だ。

奴だけは必ずこの手で真正面から打ち破り、屠らねばならない。

だがどうだ?

今の奴は腑抜けている。

優しさという病にかかり、弱く成り下がっている。

そんな奴に勝ったところで意味は無い。

そこで貴様だ。

貴様には、奴を釣る餌と言う役割と同時に病を治す薬にもなってもらう。

腑抜けた元剣首を、殲滅の化身であったあの頃の鏡流に戻すために」

 

「……。」

 

「本来ならば、奴には一報入れねばならないところだった。

人質の命が惜しければ我と一対一で殺し合え、と。

しかし、その必要も無くなった」

 

「…どういう意味だ」

 

「先程、ハッキングがあった。

こちらの情報は抜かれたというわけだ。

もっとも、その後の計画までは抜かれておらぬがな。

抜かれた情報は一つ。

『貴様を人質にし、この船にて待つ。

さもなくば全てを破壊し尽くす』ということのみ」

 

「テメェのこと、やっぱ嫌いだ…俺は」

 

「俺もだ。

しかし、残念だ。

やつがそれを目にした時、いったいどんな表情をしているか…それが見えぬというのだからなァ…!!」

 

 

 

 

 

 

「しかし貴様…やけに冷静だな?」

 

「そうでもないさ、この手錠さえなければな」

 

「いい面をする」

 

「ほざけ。

こんな手錠さえなければ、

貴様の喉元ごと噛みちぎってくれる程に怒りに駆られているのだ。

気安く話し掛けてくれるな、これ以上は抑え込めん」

 

「…その眼だ。

鏡流の次は貴様だ。

精々蓄えることだ、その怒り」

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

「…師匠、待ってください」

 

「…どけ」

 

「そんな状態で向かっても、勝てはしませ_」

 

「どけと言ったのだッ!!!!!」

 

「…ッ!」

 

「貴様に言われずともそんなことが分からぬと思うかッ!!

しかし、奴は!!!

奴はいったい何に手を出したッ!!!」

 

「……師匠」

 

「我が側にいれば良かったのか!?

いつまでも過去に引きずられずに、炎秋と白珠と…向き合えば良かったのか!?

そうだ!!そうだとも!!!

そうすればこんなことにはならぬはずだった!!!!

そんなことは言われなくとも分かっておるわ!!!!!」

 

「……。」

 

「我が行かねばならんのだ!!!

何度も言わすなッ!!!!

黙ってそこをどき、船を出___」

 

 

 

激昂に駆られる鏡流、そんな鏡流が言葉を全て吐き出す前に…。

 

 

 

「鏡流!!!」

 

 

 

鈍く、そして鋭く打たれた音が響き渡った。

 

 

 

 

「…………白珠…?」

 

「鏡流は、炎秋を助けたいの?呼雷を殺したいの?

それとも…自分を正当化したいだけ?」

 

「……な…にを…。」

 

「今、自分がどんな顔をしているのか…本当に分かってるのかって聞いてるの!!!!」

 

「……っ」

 

「私だって、どんな顔でこんなこと言うのかわかんない!!!

でも…でも!!

今の鏡流なんかよりはずっとマシだよ!!!

一人で全部何とかしようとして!!!

その末路がどうなったか!!!

私がどうなったか…知ってるのに!!!」

 

「ならば…ならばどうしろと言うのだ…!!

涙なんてとうに枯れたと思っていた!!

もう会えぬと!!一生傷を背負っていくのだど!!

後悔の中でずっと生きてきたのだ!!

それがどうだ!?

炎秋も!!今はお前も!!

こうして我の前に立っている!!

分からぬ!!!我にはもう!!!

どうしたら良いのかなんて分からぬ!!!!」

 

 

 

白珠は優しい。

今まで一度も誰かに手を上げた事など無かった。

 

 

 

「…なっ!!…グッ!!!!」

 

 

 

たった今、鏡流の涙を流すその顔を横から殴り飛ばすまでは。

 

 

 

「……ハァ…ハァ…。」

 

「白…珠……?」

 

 

 

白珠は痛かった。

殴った右手が。

なによりも心が。

息を切らしていた。

でも、殴り飛ばした。

泣いていた。

白珠も鏡流も。

今まで鏡流の前で泣いたことはたくさんあったが、鏡流の泣いたところは見たことが無かった。

だが、それでも殴った。

『伝えたいことを真に伝えたい時、言葉ではどうしようもないと思った時…そんな時は一度思いっきり殴ってみろ。

我なら、そうする』

そんな言葉をかけてくれた、目の前の彼女の言ったように。

 

 

 

 

「私ね…あの時言えなかった。

『苦しい』って…『助けてほしい』って…。」

 

 

「白珠…。」

 

 

「でも…今はね…?

言えるよ…?

言う方法…知ってるんだ…」

 

 

 

泣いて前が歪んでいる。

それでも殴り飛ばし、壁に寄りかかる彼女に近づき腰を下ろして彼女の両手を自分の両手で包み込む。

 

 

 

 

「だからね…?

一人で言えないなら私も言う…。

だから…だから、二人で言おう…?」

 

 

「…うっ…くっ………っ…!!!」

 

 

 

 

鏡流の手は温かかった。

今しか言えないと思った。

鏡流の視界もまた…歪んでいた。

でも、それでも目を開いて見た。

弟子が、何も言わずにこちらを見ている。

その顔は、怒ってもいなければ…心配している様子でも無かった。

今しか言えない。

今だから、言おうと。

 

 

 

 

 

「我は…それでも我は…炎秋が…炎秋が好きだ…!!

炎秋に会いたい…!!!

だから…だから頼む…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…我を…助けてくれ………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟子は、笑ってくれた。

友人は、泣きながら笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「その言葉が、聞きたかった」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お、俺の指が…動くことを止めない!?
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