それでも俺は彼女が好きだ   作:じーじー

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完成形に至れる者

 

 

 

 

 

 

 

「来い」

 

 

 

呼雷のその一言を皮切りに、鏡流はその場から姿を消した。

そして、次の瞬間には呼雷の懐近くまで接近して刀を振り抜く姿があった。

少なくとも監視カメラ越しに旬雷が見た光景はそれだった。

その姿を終えたのは鏡流に炎秋、そして受ける呼雷の3名のみ。

 

 

 

「…フン」

 

 

 

それをなんてことないように片手に握る剣でそれを受け止める。

ハッキリ言って、呼雷の目にはその剣撃が止まって見えるように見えていた。

斬り込む鏡流のその一撃一撃を寸前で見切り躱していく。

呼雷は少なくとも身軽な身体をしていない。

だが、動きはかつての呼雷よりも速く鋭い。

鏡流の一刀を避け、次の一刀を待つ。

対する鏡流も本気で斬りつけているわけではなかった。

あくまでも様子見、あくまでも牽制。

互いの考えることを一つ。

斬り込めるだけの隙を探すこと。

しかし、そんな隙など無い。

互いに一挙手一投足が精錬されていた。

状況は硬直しているように見えている。

少なくとも表面上はそうだ。

だが、見るからに確かなことがある。

鏡流の剣撃が確実に見切られている。

対する呼雷は反撃すらしない。

そうしている呼雷はやがて痺れを切らしたように一言だけ告げる。

 

 

 

「…くだらんな」

 

 

 

瞬間、鏡流の横腹めがけて鋭い一撃が刺さる。

鏡流はその瞬間、斬りつけるために構えていた氷剣を咄嗟にかつ無理やり体勢を変えることで辛うじて受け止めた。

だが、衝撃は殺しきれない。

遠く吹き飛ばされる鏡流が空中で回転する自身の体を、地面に氷剣を刺し衝撃を受け止めながらすぐに体勢を立て直す。

そんな鏡流の背後に回り込んでいる呼雷の姿。

そして、それを気付くのに鏡流は僅かながら時間をかけてしまう。

炎秋には見えていた。

鏡流を吹き飛ばした次のタイミングにはもう回り込みの動作に入っていた。

かといって、それを予期させる予兆の空気感や気配は全くなかった。

無意識に動く。

その動作は古くから達人と呼ばれる武人の中でも一つの技術として存在していた。

生物には少なくとも気配を感じ取る第六感のようなものが存在しているかのような動きをすることがある。

木に留まる蝶を捕まえようとした時、こちらが捕まえるよりも先に蝶が先に動くことがある。

しかし、しかしだ。

あくまでも何も考えず…かつ呼吸を落ち着かせてなんてことないようにゆっくりと動く。

それをすることにより、道具すら使用せずに素手で蝶を捕まえる事が出来る。

事実としてそれを行うものは少ないながらも居る。

似たようなものだ。

無意識かつ自然体で、思考することなく気配を殺し動く。

相手に近づき、剣を振り抜く。

その遠さに気配が消える。

それを呼雷は行っていた。

故に、鏡流は呼雷を一瞬見失い隙ができた。

しかし、そこは雲上の五騎士でありかつて剣首としての高みまで至っている者。

地面に突き刺していた氷剣を抜き、衝撃を抑え込むことを止めその勢いのまま呼雷へと斬りかかる。

当然眼前には呼雷の剣が迫る。

だが、斬り下ろされた剣の刀身を自身の氷剣の柄の先端で弾き自身の体をずらすことで躱し自身の一刀を通す。

 

通す…はずだった。

弾かれた。

左手の爪によって。

本来ならば爪ごと斬り伏せられるはずだった。

そんなものガードにすらならないはずだった。

しかし、受け止められた。

弾かれた剣の衝撃を殺しきれない。

故に鏡流は弾かれた時の力をそのまま次の動作に繋げるための力に変換する。

一つ一つの動作を考えているのではない。

一つ一つが、いわばアドリブ。

咄嗟の反応によるもの。

何千、何万回などという数字では足りない…膨大な時をかけて振り続けてきた剣が鏡流の対応力を支えていた。

 

次なる呼雷の一撃を受け流す。

次なる呼雷の一閃を見切り受け止める。

次なる呼雷の一刀を躱す。

次なる剣撃を、攻撃を、一つ一つの一撃に。

鏡流は確かに対応している。

しかし、それでも。

少しずつ、少しずつ鏡流が押されていく。

対応しきれなくなっていく。

やがて、受け止められなかった剣をやむを得ず弾き飛ばす。

自らが大きな隙を晒すことを承知で。

次の瞬間、爪が鏡流の体を横から抉り吹き飛ばす。

吹き飛ぶ鏡流の体。

それでも、わざと派手に吹き飛びながら衝撃を殺しきった。

致命傷も避けた。

傷ではあるが、それでも最低限のダメージに抑え込んでいた。

そうして、立ち上がろうとする…そんな鏡流の姿を見ていた炎秋。

一人、強く拳を握りしめる。

炎秋は思っていた。

 

『何故自分は何も出来ないのか』と。

今だけではない。

普段から。

それこそ蘇ってからずっと。

蘇って自身の状態も状況も分からなかったあの時。

炎秋は自身が犠牲となりその命を助けた鏡流の事を考えていた。

鏡流がかつて、仲間を失い心に浅くない傷を残していたことを何となく理解していた。

だから強くあろうとした。

彼女を愛していたから。

だが、彼女の前から消えたあの時。

鏡流は泣いていた。

その瞬間、炎秋は消えゆく意識の中で悔いていた。

『また、傷を背負わせてしまった』

だから、炎秋は羅浮に帰ってきたのだ。

彼女を傷付けてしまったのは自分だと。

彼女を救わねばならないと。

 

だが、今自分は何をしている?

この場で、足手まといになり彼女に手を貸すことすら出来ない。

 

 

 

 

(どうしたらいい…考えろ…どうしたら…!!!)

 

 

 

 

どうしたら救えるのか。

 

 

 

 

(戻ってきたんだろ…!鏡流を助けるために!

なら動け!なら考えろ!!

俺が出来ることはなんだ…!!!)

 

 

 

 

それを考える炎秋の手に。

 

 

 

 

(……ッ!)

 

 

 

 

腰にかけた剣が当たった。

 

先程、飛霄より受け取った剣。

景元より預けられていたその剣は、新しくもかつて自身が握っていた剣に似たものであった。

剣の柄にはその剣を打った者の名が刻まれている。

【懐炎】

かつて、約束をした。

戦いが終わった時、剣を打ってもらうと。

その約束を、あの爺は炎秋の命が尽きても守ってくれたのだ。

それを受け取った時、炎秋の心は一瞬温かさのようなものに触れた。

あの老人がどんな気持ちでこの剣を打ったのか。

炎秋の心を様々な感情が走り抜けていく感覚が襲った。

そんな中、明確に意思を感じた。

『何かを守るための剣となれ』と。

 

炎秋は動いた。

思考や理屈より、体が先に動いた。

 

 

 

 

 

「鏡流ッ!!!!!!」

 

 

 

 

そう叫ぶ名の彼女にその剣を投げた。

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡流は炎秋より剣を受け取った際に不思議な感覚になった。

ひどく心が落ち着いている。

一寸の揺れも無い。

先程受けた痛みも感じない。

受け取った剣を鞘から少し抜き、見る。

綺麗な、真っ直ぐな刀身。

気付けば鏡流は僅かながら笑っていた。

理解出来ていた。

なぜ炎秋が自分に剣を渡してきたのかを。

おそらく理屈ではない。

だが、彼女は理解出来ていた。

次に自分が何をするべきなのかを。

目を閉じる。

深く息を吸い、吐き出す。

そして、構えた。

その剣を鞘に納めたまま。

本来彼女がしないような、独特な構えをとった。

呼雷はその型を見たことが無い。

監視カメラ越しに見る旬雷など知るはずもない。

おそらくだが、知りもしない。

その場にいる者たち、そのほとんどがその構えを知らない。

たった一人の男を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

かつて、炎秋が鏡流の隣に立てるようになるために。

そこまで強くなるために、到達させた技がある。

 

一門一龍 抜刀術

氷冠閃 円

 

鏡流の太刀筋を元として自身の抜刀術という型に当てはめ研ぎ澄ませていった技。

その技を知るものは炎秋以外には居ない。

何故ならばその技を受け止められた者は一人として居ないためだ。

たった一人の例外を除いて。

鏡流だけは、一度だけその技を見たことがあった。

受け止める側ではなく、その技を見る側として。

鏡流の目にもその技は極致のように感じさせるほどの技。

そんな彼の技を、彼自身満足していなかった。

周りとは違い、炎秋自信はそれを未完成とした。

あと一手足りない。

僅かながら何かが足りない。

そして、炎秋にはその理由がなんとなくとして理解出来ていた。

足りない部分が何であるのか。

それを満たせる存在が何であるかを。

 

 

 

 

 

一門一龍 抜刀術(いちもんいちりゅう ばっとうじゅつ)

 

 

 

 

 

 

完成させられる者が誰なのかを。

 

 

 

 

 

 

 

(…ああ、やっぱりか)

 

 

 

 

 

 

元とした型を持つ者こそ、完成形に唯一至れる存在であるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

月冠閃 円華(げっかんせん まどか)

 

 

 

 

 

 

たった一太刀。

他に通ったものは何一つとしてない。

しかし、その一太刀をもって。

 

 

 

 

 

 

「………ガ……ハ…ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

呼雷を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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