それでも俺は彼女が好きだ   作:じーじー

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振るわれる剣、震える心

 

 

 

 

時は少し遡り、大型星槎の制御システム室内にて。

白珠達はあらかじめ用意していた機械をシステム室内のコンピューターに接続した。

 

 

 

 

「よし、これでこの船の内部情報を外に漏らすことが出来る!

景元!!符玄さん!!

見える!?」

 

「「問題無い(わ)」」

 

 

 

彼女達がやろうとしていたことは船内の情報をハッキングにて引き抜き船内の情報を丸裸にすること。

そのために、あらかじめ符玄は白珠達に一つの機械を持たせた。

外部からのハッキングに内部の者が気付かないようにするために。

そして、その過程で監視カメラの映像を観ることだって出来た。

…そして。

飛霄には一つの予感があった。

 

 

 

 

 

「白珠さん」

 

「どうしたの?

何か問題が?」

 

「…モゼと一緒に引き続き作業をお願いしてもいい?

私、二人のとこに行ってくるから」

 

「………わかった。

気を付けてね」

 

 

 

 

白珠は、何か焦りを感じている様子の飛霄に気付きつつも何も言わずに了承した。

そして、それを飛霄自身も理解していた。

 

 

 

 

「…ありがとう」

 

 

 

 

短く一言だけこう伝えて、飛霄はシステム室を飛び出していった。

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「……グ…カハ…ッ…!!」

 

 

 

 

その一太刀を受けた呼雷は膝をつく。

たった一太刀、されどその一撃は今まで呼雷が経験したどの一太刀よりも思いものだった。

たった一撃、それでも致命傷となりうるほどに。

そして、膝をつき立ち上がることが出来ない呼雷に蒼く煌めく剣の刀身を向ける。

 

 

 

 

 

「これで終わりだ」

 

 

 

 

その言葉を聞いた呼雷は、何も言わずに下を向いている。

しかし、遠くから見ていた炎秋にはその顔が不敵な笑みを浮かべていることに気が付いた。

 

 

 

 

「マズイ!!鏡流ッ!!!!」

 

 

 

 

『何かマズイ』

そう思った時には呼雷は自らの心臓を…紅月を引きずり出す。

本来、その紅月は存在しないはずだった。

鏡流に一度敗れ、その後に幽囚獄から脱獄した呼雷が一度仙舟に解き放っていた。

その時、星穹列車の開拓者をはじめとして飛霄将軍らの協力のもとに対処済みだった。

だというのに…。

 

 

 

 

「その心臓…ッ!!」

 

「例え我が心臓が本物に似せて作られたものだとしても、戦首としての魂は変わらぬ。

そして、だからこそ…」

 

 

 

 

鏡流はハッとした。

理解したのだ。

次に呼雷が何をするのか。

 

 

 

 

「貴様に、託そう」

 

 

 

 

最後の力を振り絞り、呼雷は鏡流に剣を投げつける。

咄嗟に炎秋の剣にて受け止めるが、互いの剣が弾き飛ばされる。

そしてその隙に、炎秋の元にたどり着く。

 

 

 

 

 

「な、なにを…!?」

 

 

 

 

剣は無い。

武器を持たない。

だからこそ、都合が良かったとも言える。

 

 

 

 

「グ…ッ…!!」

 

 

 

 

呼雷は僅かなためらいもなく、その心臓を…紅月を炎秋へと埋め込んだ。

そして、満足そうに倒れ込む呼雷。

 

 

 

 

「貴様ッ!!」

 

 

 

 

鏡流は近付こうとした。

剣を拾い、呼雷の息の根を完全に止めようとした。

だが、無い。

先程弾かれた剣が無い。

そして、それに気付いて視線を炎秋に戻した時。

そこに炎秋の姿は無かった。

 

 

 

 

「……ッ!!!」

 

 

 

 

殺気。

背後から感じた殺気。

氷剣を右手に握り振り返る鏡流。

その先には。

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

こちらに背を向け自身の剣を握る炎秋の姿がある。

そして、ゆっくりとこちらを振り返る炎秋のその眼は。

 

 

 

 

「な…っ!?」

 

 

 

 

今まで鏡流が感じたことの無い、敵にすら向けたところをみたことがない。

そんな紅い眼をしていた。

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

鏡流には、わからなかった。

いや、氷剣は構えていた。

炎秋の身に何が起こったのかも、かつての飛霄の前例で何となく理解できる。

だが、鏡流には自身が剣を構えている意味が理解出来ていなかった。

 

 

 

「…めろ…。」

 

 

 

こっちに来るな。

 

 

 

「…やめろ…。」

 

 

 

斬りかかってくるな。

 

 

 

「…やめろ」

 

 

 

お前とは戦いたくなどない。

 

 

 

「やめろ!!!」

 

 

 

そんなことしたくなどない。

 

 

 

「そんな顔をするな!!!」

 

 

 

鏡流の剣が…心が震えていた。

 

 

 

「そんな目で見るな!!!!」

 

 

 

鏡流には出来なかった。

したくなかった。

かつて、鏡流にとって炎秋とは自身の罪の具現化された存在だった。

 

多くの命を奪ってきた。

この剣で多くの命を斬ってきた。

何度剣を振るっても。

行われるのは命のやり取りのみ。

笑顔を奪うだけの剣だった。

力とは奪うためのものだと。

鏡流はそれを自覚していた。

 

そんなある日のこと。

炎秋が剣を握る理由を知った。

『守りたいものを守るために』

バカバカしいと思った。

『それは甘さだろう』『それは弱さだろう』

そう思った。

そんなものでは強くなれないと思っていた。

しかし、炎秋は見るたび見るたび強くなっていった。

それは周りから敬意を集めていくほどになり、やがて鏡流すらも『甘さ』などとは思わなくなった。

それを貫き通すのもまた力である。

そう思わせるほどのものがあった。

 

そんなことを思っていた時。

ある戦いから帰還を果たした時。

鏡流はふと気付いた。

戦いが終わるたびに、炎秋の姿が毎回見えないことに。

鏡流は炎秋を探した。

そして、見た。

炎秋は居た。

人けのない場所に。

景色の良い高い屋根の上に。

周りから顔が見えないほどの高い場所に。

一人、泣いていた。

鏡流は声をかけずに、音もなくその場を立ち去った。

その後、弟子である景元にのみ他言無用という条件のもと話した。

景元は言った。

「彼は優しいのではないでしょうか?

それこそ、本当は戦うことなど嫌で。

それでも、何かのために戦っている」

鏡流にはその時、どうしてそんなことを炎秋がしているのかがわからなかった。

だが、やがて炎秋が居なくなって気付いた。

自分は彼に愛されていた。

彼が言う大切なものとは、鏡流自身のことだったのだ。

 

そして、鏡流は心から悲しみ悔み苦しんだ。

どうして気づけなかったのだろうと。

どうして守れなかったのだろうと。

そうして苦しみ続けて何年の時が流れたか。

それよりも多くの時を生きてきたはずなのに。

それよりも多くの時を生きたように感じた。

だが、炎秋は帰ってきた。

たとえ、それが夢であったとしても。

鏡流は炎秋を守り抜く。

そう決めた。

そんな炎秋は今、目の前で自身に迫っている。

鏡流を前に獰猛な顔をし、容赦なく剣を構える炎秋が迫ってきている。

だが、鏡流には反撃するなどという考えが思い浮かばなかった。

そうして、斬りかかる直前。

鏡流が対応よりも先に。

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 

先に剣を受け止めた者が居た。

 

 

 

 

「…やっぱり、こうなったのね」

 

 

 

 

そこには息を僅かに切らしながら、間に割って入ってきた飛霄の姿があった。

 

 

 

 

 

 




曇らせ過ぎるのは良くないと思います。
それは間違いなく悲しいだけですから。
ただし、雨が降った後に見る虹は格別なんです。
食後のデザートは別腹くらいのことを言っている自覚はありますとも。
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