間奏/奏でるは救いのための音
2度、行われた戦い。
2度、ぶつかり合った意思と意思。
2度、行われたそれぞれのやりとり。
そして、最後に交わされた一つの約束。
それらの出来事から7日ほどの時間が過ぎた頃。
「…ただいま」
外出より帰宅し、金人巷にある自宅のドアを開ける者が一人。
「………。」
返事が帰ってこないことが、最初からわかっていたかのようにため息をつく者が一人。
「…まだ、帰ってこない…か」
そう呟きながら、炎秋は自宅に入りドアを閉める。
だが、鍵は閉められていなかった。
閉めなかったのだ。
『彼女はこの家の鍵を、持っていないから』と。
例の一件から7日が過ぎて、8日目になる。
まだ、鏡流は帰らない。
しかし、炎秋は彼女を探しには行かなかった。
彼女が今何をしているのかを何となく察していたからだ。
そして、その数日間…自身もあることのために外出していた。
彼女が、いつ戻ってきても良いように。
「…ハァ」
一人で座るには少し大きい椅子に腰掛け、右手の甲を額に当て視界を遮りつつ上を見上げる。
部屋を照らすライトの光が手の隙間から差し込んでくるのを眩しいと思いつつも、思わずそうせざるを得ないほど炎秋は堪えていた。
ただただ、辛かった。
一人で過ごすのはこんなにも寂しかっただろうか。
誰かを一人で待つのはこんなにも寂しかっただろうか。
いつ帰るかもわからない人を待つのはこんなにも辛かっただろうか。
…彼女もこんな風に誰かを待っていたのだろうか。
「……鏡流」
具体的な日時は指定されなかった。
しかし、鏡流が戻ってきた時。
その時、炎秋は彼女と剣を交えることになっていた。
模擬戦でも、試合でもない。
お互いの全力を出し切ることを条件とした一対一の戦い。
炎秋には分からなかった。
「俺は…ただ……」
そこまで言って、その先の言葉が出てこない。
結論は出したはずだ。
覚悟も出来たはずだ。
しかし、言葉に出来ていなかった。
言葉として、発言できていなかった。
そんな朦朧とした感覚の中で、炎秋はドアが”閉まる“音を聞いた。
「…ッ!!」
そちらをすぐさま振り向く炎秋。
「ほんと、不器用で意地っ張りで頑固で強がりで」
ちょっとずつ近付いてくる彼女。
「似てるっていうかな。
なんていうかな…そうだな…」
炎秋は、彼女が入ってきていることに気付かなかったことに内心動揺する気持ちと帰ってきたわけではないことの動揺が混ざり合った複雑な心境でそちらを見ていた。
「二人とも、見てられないや。
そんな風になっちゃうまで自分を追い込んでさ」
「…白珠さん」
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彼女を客人用のソファーに座らせて、色々と準備をする炎秋。
「…コーヒーと紅茶と緑茶、どれを飲みます?」
「じゃあ、コーヒーかな。
『彼が入れたコーヒーは、格別なんだ』って教えてもらったばっかりで」
「それも、景元が?」
「そう。
知ってることが凄いことみたいな喋り方で自慢してきたから」
「…そうですか」
「………。」
慣れた手際でコーヒーを淹れていく。
何度もやっているからスムーズなものだ。
手際の良さは鏡流すら褒めたものだった。
「……………。」
思わず手が止まる。
【自分が自然と鏡流のことを考えていた】ということに手が止まってしまった。
「…大丈夫?」
「…ええ。」
白珠からその言葉をかけられてようやく再度動く手。
そうして淹れたコーヒーとミニトーストを彼女の前に持っていく。
彼女の前にそれらを置いたとき、彼女の目が自分を見つめていることに気付く。
いや、正確には…。
「…そんなにですか?」
「ん?」
「そんなに…酷い顔をしていますか…俺は……」
炎秋の顔を見ていた。
しかしながら、そう聞かれた彼女はその質問に答えなかった。
少し黙って考える素振りを見せたあと、炎秋の質問に対する答えの代わりと言わんばかりに質問をこちらに投げてきた。
「酷い顔をしている自覚はあるんだ」
「まぁ…その…」
「うぅん、いいの。
それが分かってないと逆に困ってたもの」
「…え?」
「…いい?今から1回しか言わないからね?心して聞いてね」
「…はい」
「…ふぅ。
『どうして鏡流はこんなことするんだろう』そう思ってる?」
「…まぁ、そうですかね」
「…言い切らないんだね?」
「…すみません」
「いや、良いの。
むしろそうあってくれたほうが良いから」
「…さっきから意図がよくわからないんですが」
「…いいえ、アナタはわかってるはず。
わかっているけど、それと向き合うのを心の奥底で怖がってる」
「心?」
「…鏡流もアナタも…理屈はわかっている。
お互いのいままで、相手の事情、自分の感情。
お互いに許せる理屈もある、お互いに助け合うことが出来る…それも理解している。
でも、感情が追いついてないの」
「…感情?」
「そう。
頭では…理屈は理解できている。
でも二人とも、自分の感情が今ある理屈に追いついてない。
2人の感情…心は、まだお互いに傷付いた昔のまま。
特に鏡流なんて酷いものでね。
失う恐怖に囚われて、乗り越えられそうで乗り越えられない間でいた時に…さらにもう一人を失って。
深い絶望と後悔のなかで生きてきた中で、全てを諦めた後にアナタと…私と…2人と…本来ならありえない再会をした。
彼女の失うことの絶望は、失いたくない切望に変わってしまった。
でもそれは、少なくとも希望なんかじゃない」
「だから真剣勝負…いや、アンタがふっかけたわけか…白珠さん」
「…二人は剣に生きている。
お互いに全てをぶつければ、見えてくるものもある。
そうやって私は彼女に毒を飲ませた。
霊砂さんが教えてくれたの。
『薬と毒は表裏一体だ』って。
だから私もその毒がいつか彼女を救うと信じて託した。
……他人事みたいに言ってるけど、私が悪いことはわかってる。
本当は背負わなきゃいけないんだって。
だからアナタに…アナタ一人に背負わせたくなんてない。彼女と向き合わなきゃいけないのは私も同じなのに。
私はアナタに責任を…役割を押し付けてしまっている。
『私だけじゃきっと彼女の心を埋められない』って思ってしまっているから。
アナタが鏡流の心を埋めてくれた後に、そこを補強しようとしている。
だから、私はアナタに謝らなきゃいけないの。
私は……」
「白珠さん」
「…何?」
「俺は…俺には、きっとそんなこと出来なかった。
そんなふうにきっかけを作ることすら出来なかった。
そんな自分が俺は嫌で嫌で仕方がなかった。
勇気が出ないとか、覚悟が足りないとか。
そんな言葉に逃げようとしてた。
でもそれに逃げたら俺はきっと全部駄目になると思って…必死にそう思わないようにしてた。
…『ごめんなさい』は俺がアナタに言うべき言葉なんです、本来なら。
だけど、きっとそれを言っても誰も救われないから。
俺も、白珠さんも、鏡流も。
誰も救われなんてしないから。
…だから後は俺に…任せてくれませんか」
「……。」
「彼女を、そして俺たちを。
二人で…いや、みんなで救う手伝いをしてくれませんか。
きっと俺一人じゃ無理だから。
俺は、今になってようやくわかってきたんです」
彼女の前に手を差し出す。
「誰かを頼ったって、いいんだってこと」
ご無沙汰しております。
まずは、期間が空いてしまい大変申し訳ございませんでした。
二次創作作ってるのにそこすら謝れなかったらおしまいだと思い、謝罪させていただきます。
とりあえずといいますか、方針が何となく決まりましたので投稿させていただきます。
1話で物事が終わる話を流してから、本筋を通しつつ流していった話を拾っていく形かなと。
正直、これからの話は…というより最初から自分の自己満足的なモノが強く出ております。
『俺が見たいのはこれっ!こういうので良いんだ!だれかっ!誰か書いてくれないかっ!』
その気持を大切にしてしまおうかなと言ったところです。
なので、こっからは完全に私の趣味全開なのかなと思います。
驕りのようになってしまいますが、どうかご了承のほど頂ければかなと思います。
というか誰か!鏡流ss書いてくれよっ!!!!俺は需要側でありたいんだよッ!!!!!!