それは、すべてを決する日のために剣を1人振るっていた時のこと。
「………見えない」
炎秋がやっていたこと。
それは自身のイメージする最強である彼女を想像し、それを擬似的に自分の目の前にあるものとして考えての鍛錬。
全てはイメージの産物。
しかし、しかしだ。
「…勝てる光景が」
見えない。
今の自分の実力だけでは、足りない。
自身の持つ剣を見る。
かつて、自分を守れればそれだけでいいと思っていた。
前はこの大きさの剣で自分の全てが守れていた。
守りたいもの、大切な思い出。
無も知らぬ親からの授かりものであるこの身体。
それがいつの間にか、この剣だけでは収まらなくなってしまった。
守るために戦う。
そうやって生きてきた。
しかし、そのたびに1つのことを炎秋は自分自身に問いかけていた。
『何かを守ることは、何かを見捨てることなのか』
炎秋は元々戦いが嫌いであった。
それでも戦った。
仙舟のため。
羅浮のため。
自分のため。
そして、鏡流のため。
そのためにこの剣で何かを奪ってきた。
命か、はたまた尊厳か。
自分の大事なのものを守るために、誰かの大事なものを壊してきた。
何かを守るために、何かを見捨ててきた。
全てが救えればそれが一番良かった。
敵も味方もない。
全て守りたかった。
初めて誰かの命を奪った時、それがいかに綺麗事かを理解した。
それでも。
…それでも、守りたかった。
問の答えは出ていない。
出る気配すらない。
(……。)
いまの炎秋を支えているもの。
守りたい人、鏡流の存在か。
はたまた、白珠との約束か。
そもそも何故鏡流と戦わねばならないのか。
鏡流の意図は何か。
先日聞いた白珠からの言葉。
折り合いをつけるために、鏡流にふっかけたというその言葉。
…それだけだろうか。
それだけというのは鏡流にとっての白珠の存在が炎秋にはわからない。
しかし、炎秋には一つだけ確かなことがあった。
少なくとも、鏡流は何かしらの覚悟を決めたはずだ。
そして、しかるべきその日が来た時に。
鏡流が、剣で何かしらを伝えてくるのか。
それとも言葉を投げかけてくるのか。
そうしたとき、自分がどうするべきなのか。
(…そんなもの)
決まっている。
答えるだけだ。
剣ならば剣で、言葉ならば言葉で。
自分が鏡流を、そして鏡流に自分を。
理解し合うために。
『向き合う?あの女と?自分とも向き合いきれていない男がか?』
(……。)
剣を構えようとして、もう一度止まる。
あの時、切り捨てはした。
しかし、この身には確かに埋め込まれたままだった。
その心臓には、意識が宿っていた。
いわば残留思念か、はたまた意識がそこにあるのか。
だが、炎秋の意識のなかでたしかにもう一つのナニカは居た。
『貴様はたしかに仙舟の者なのだろう。
だが、貴様は間違いなく歩離人だ。
半分だろうとたしかにお前は歩離人なのだ。
この心臓が埋め込まれても、お前はソレを御している。
不完全でも、たしかに適応しつつある。
染まりつつあるのだ。
あの女が分かり合おうとするためという建前で貴様を御すれるか試しているのだとしたら?
その可能性を、貴様が否定できるのか?』
(…ならばどうした。
心臓を完全に我がものとしろ、だとでも言うつもりか。)
『貴様はそれをしようとしている。
愚かだな、あの女に並ぶために力を欲した貴様が力を受け入れきれないのか?』
(……。)
『口を閉じるのが上手いものだな。
そうして何も言わず、目を背け続けるか?』
しばらく立ち止まり、剣を収める。
そうした炎秋は、通信機を手に取りある者にあることを告げた。
「景元、お前今時間が作れねぇか」
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しばらく目を閉じ、その場で待っていると一人の足跡が聞こえてきた。
「ずいぶん急だね。
いったい何の用だい?」
「来たか」
景元をその場に呼んだ。
その手に武器を握らせて。
「前から思っていた、お前のそれは長矛でいいのか?
それとも…」
「炎秋」
さて何から話したものかと無理やり話を持っていこうとする。
しかし、それを景元が止める。
すると、本来呼んでいないもう一人もそこに現れる。
「…白珠さん」
その手には、景元と同じように武器が…弓を手に矢を背に。
何事かと思う。
想定内ではなかった。
すると、景元から話が続けられていく。
「私も白珠も、今日の予定はすべてキャンセルしてきた。
だから、まずは私からということになる」
その長矛を構える景元。
「…何も、伝えていないが」
「わかるさ」
「……。」
「私の次は彼女も相手になる」
「何故だ?」
「何の話になる?」
「何故、何も聞かねぇのかって…そう聞いてんだよ」
「聞いてもいいのかい?」
目を閉じる。
息を深く吸い、吐き出す。
落ち着いている。
これならば冷静に話せる。
そう思いながら目を開ける。
返事を待つ2人が見えていた。
「…俺の知らない鏡流が居る」
「君が知らない?」
「つまりそれは、景元や白珠さんをはじめとした雲上の五騎士と呼ばれた時代の彼女であり…俺の知らない俺の生まれる前の彼女の姿だ。
俺は…鏡流のことを知っているつもりで過ごしてきた。
と、言ってもだ。
ある程度は知らないことだって沢山あるとは思ってもいた。
それでも他の人よりは知っているつもりだった。
…つもり、だった。
でも、もうそれはやめたい。
俺はもっと知りたいんだ、知らなきゃいけない」
「……。」
「…じゃなきゃ、俺は本気で鏡流と向き合えたって言えないはずなんだ」
「言葉では、ダメなんだね」
「言葉でしか伝わらないこともあるかもしれない。
でも、剣を…武器を向き合ってでしか伝わらないこともあるはずだ。
少なくとも鏡流はそれをしようとしている。
なら、俺も知りたい。
鏡流と同じ方法で、景元…お前から」
「…そうか。」
「…もういいか、始めても」
「ああ、全力で相手をさせてもらうよ」
そうして、炎秋は景元と打ち合いはじめた。
その場所から距離を取って白珠はその様子を見ていた。
少し明るく笑うように、何かを思い出すように…そして真剣に。
難産がすぎる!!!!