それでも俺は彼女が好きだ   作:じーじー

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やがて、その日は来たる

 

 

 

 

 

演武典礼、当日。

炎秋は、ある船の一室に居た。

決して小さいとは言い難いその船。

おそらく上では演武典礼の行事が盛り上がりを見せているのだろう。

が、しかし。

約束の時まで一人になれる静かな空間を炎秋は欲した。

結果、景元が用意したのがその一室だ。

防音の作りであるがゆえに演武典礼の音は、まるで聞こえてこない静かなその一室に炎秋は居た。

静かに座り、目を閉じて。

その時を待っていた。

 

 

はたして、何時間そうしていただろうか。

部屋にノック音が響いて一人雲騎軍が入ってくる。

 

 

 

「炎秋殿、将軍様より伝言です。

『そろそろ時間だよ』だとのことで」

 

 

 

それだけ伝えてその雲騎軍は一人出ていった。

炎秋は静かに目を開き、先日受け取った大剣を手に取ろうとした。

が、取る前に手が止まる。

やがて、剣を取るのをやめて服を脱ぎ部屋にあったルームシャワーにて体を洗い始める。

やがて5分を少し過ぎてから、シャワーより出てきて体を拭きドライヤーにて髪を乾かす。

冷やされていた牛乳を手に取り飲み干す。

深く息を吸い、吐き出す。

なんてことない日常のように、ナチュラルな状態になる。

 

 

 

「うっし」

 

 

 

ルーティンの完了。

かつて、炎秋は大きな戦いや試合がある前には決まってこうしていた。

いつも通り…いや、いつもよりもポテンシャルを発揮するためのルーティン。

やがて、スッキリした状態で剣を手に取り部屋を出た。

 

歩く。

演武典礼が行われていた闘技会場の西門へ。

不思議と緊張は無かった。

迷いも全くなかった。

何故かは炎秋自身にも説明できないが、スムーズに動けていた。

 

やがて、シャワーに入った熱気が体から消えて完全にスッキリした具合の時に西門に着いた。

立ち止まり、再度深く深呼吸。

足を進めた。

 

階段を一歩、また一歩と踏み抜いていく。

えらく長い階段のように思えた42段の階段。

 

登り終えたその景色の先に。

 

 

 

「…来たか」

 

 

 

鏡流は居た。

彼女には何も言わずに周囲を見渡す。

観客席にはほとんど誰もいない。

景元と飛霄と懐炎と。

それらの付き人、孫娘、その他少々。

無論、白珠も居た。

 

観客席に向けていた視線を鏡流に戻す。

鏡流は先程自分がしていた座り方で目を瞑り、その時を待っていた。

いつのまにか、こんなところまで自分は鏡流に似てしまったのだと炎秋は思っただろう。

 

やがて、ゆっくりと立ち上がる鏡流。

滑らかに自然体に。

立ち上がり、右手に氷剣を作り出した。

そして、目を開いて炎秋の方を見た。

それを見て炎秋も腰の後ろに固定していた大剣を抜き、右手に逆手で持った。

数秒、静寂があった。

息を呑む観客席の数名、無言で何も動じず見守るもの数名。

そんな数秒。

……。

 

 

 

 

開始の合図は無かった。

 

瞬間、鏡流の姿が消える。

 

 

 

(…ギリギリ見える)

 

 

 

炎秋には見えていた。

無論観客席に居る一部の者にも。

消えたように見えた鏡流。

しかし正確には、消えたように錯覚する速度で炎秋との間合いを詰めていた。

次の瞬間には炎秋の懐近くへ。

そうして鏡流に飛び込まれ、そうして振るわれた彼女の剣。

 

 

 

(…っぶね)

 

 

 

それを炎秋が体をひねるようにして一歩下がり、体をひねるようにして躱していく。

その躱したひねり、回転を利用して右手の大剣を鏡流にカウンターとして打ちにいく。

 

 

炎秋の大剣を扱う技術。

それは並の剣士の比では無い。

特徴的なものは剣の斬り方にある。

片手なのだ。

その大剣は本来ならば両手剣として扱う者がほとんどというような大剣すらも、片手で振り回す。

それでいて、動きは並などでは決してない。

フィジカルの成すものか、それとも技術によるものか。

普通の者には、振り抜く刀身など見切れぬほどの速度なのだ。

 

 

だからこそ、咄嗟であるがゆえに鏡流は躱された自身の剣を振り抜いた状態から即座に持ち替え、その大剣を受け止める体勢に入る。

 

 

 

(甘いんだよなァ!!!)

 

 

 

しかし、それを見た炎秋が咄嗟に大剣を薙ぎ払うような斬り方ではなく斬り上げるように下から搗ち上げる動作に切り替える。

そして、その下から来る衝撃を受け止めつつも空中に鏡流が後方に吹き飛ばされる形になる。

無論、炎秋もそんな状態の鏡流を追撃しようとする。

 

が、次の瞬間。

空中より斬撃の嵐が降ってくる。

 

 

 

「チィッ!!!」

 

 

 

距離を詰めようとした足を止めつつ右手の大剣にて斬撃を斬り落としていく。

斬撃の嵐。

それは鏡流が空中後方に吹き飛ばされつつも追撃をさせんとして氷剣による斬撃…それら連撃を炎秋に向けて放ち、追撃しようとする炎秋を牽制する。

 

炎秋にはそう見えた。

ゆえに、自身に対して”当たる斬撃のみ“を斬り落とした。

やがて、それらを捌ききった炎秋が着地せんとする鏡流に対して接地する前に距離を詰める。

 

正確には、詰めようとした。

 

 

 

(…!?足が動かな…なっ!?)

 

 

 

凍っている。

足元が凍っているのだ。

炎秋の足と地面が氷によって固められている。

周囲に氷の障壁が建つように道をふさいでいる。

氷剣による連撃。

牽制のために放たれたと炎秋は反射に近い感覚で予測し、行動した。

が、鏡流の意図はもう一つあった。

それが、炎秋の動きを制限すること。

 

しかし、即座に対処する事が出来るのも無冠剣神の所以か。

炎秋は右手に持つ大剣で氷を薙ぎ払った。

炎秋の大剣の薙ぎ払い。

その風圧、および剣圧にて足元の氷に目の前の小さな氷の壁を砕く。

その薙ぎ払いたるや、視認も難しく広範囲かつ高威力。

隙という隙もそこまでない。

かつて、炎秋の相手をした有象無象がこの斬撃によって殲滅されてきた。

が、どこまでいっても横の大振り。

ほとんど無いにしても、だ。

 

 

 

「…っ!!」

 

 

 

氷の砕かれる景色を見たその瞬間に。

眼前に迫る鏡流の姿を炎秋が視認した。

薙ぎ払った隙を鏡流が見逃さずに距離を詰めてきたわけだ。

動きを制限したゆえに出来たその隙。

それを待っていた鏡流。

右手の大剣は間に合わない。

ゆえに鏡流からの一撃は必中か。

そう観客も鏡流自身も。

その場の者たちはそう思っていた。

 

…2人、炎秋と懐炎を除いて。

 

 

 

「…なっ!?」

 

 

 

おそらく初めてだろう。

その場にいた者すべてが初めて聞いた。

鏡流の動揺したような、とっさに出た声。

その鏡流の視線の先。

そこにはあったのだ。

振るわれた鏡流の氷剣を受け止める“左手に持った炎秋の剣”が。

 

そして、瞬間。

炎秋の右手による大剣にて、受け止めた鏡流を斬り返し払う。

しかしまぁ、流石というべきか。

鏡流は咄嗟に受け止められた自身の剣と炎秋の左手に握られた剣を弾くように後方に弾かれ、無理やり距離を取ることで大剣による斬撃を回避する。

そのまま、後ろに数歩距離を取った。

 

炎秋には見えていた。

多少ではあるが、確かに動揺を隠しきれぬ鏡流の表情が。

鏡流は見ていた。

思わず、ニヤけてしまっている炎秋の表情が。

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

「な、なんで剣が…!?」

 

 

 

驚く雲璃を横目に思わず笑う懐炎の姿を景元は見ていた。

 

 

 

「知っておられるのですね、懐炎殿は」

 

 

 

懐炎は聞かれても数秒なにも言わずに、二刀流となった炎秋が鏡流に剣を向けるのを見ていた。

やがて、思い出すように…そしてどこか得意げに話し始めた。

 

 

 

「あの炎秋の大剣。

一見するとただの両手剣。

大振りの大剣じゃろうて。

しかも、炎秋はこれを片手で振り回せる。

無論そこまでは知っているものも多かろう。

ヤツが無冠剣神などと言われる所以の一つじゃからな。

かつての奴は、大剣を片手で扱っておった。

が、本人もかつて言うておった。

『どうしても、一撃と一撃の間に隙が出来る』と。

かなり隙を抑えられるようになっておったが、斬り合う相手がそれこそ剣首ほどの実力者ともなれば話は別。

致命的な隙となろうて。

ゆえに奴は、自身の戦い方にあった大剣を作り出した。

右手にて振り抜いたその隙に。

”左手で抜ける、大剣の側面に固定されている一回り小さな剣を取り付ける事が出来る“という奇想天外な発想をしての。

ゆえに、あの大剣は重い。

雲璃とて運ぶのに苦労しておった。

並大抵の刀では重いと言わぬあの雲璃がだ。

『固定機構を外して左手にて抜剣できる』

これが奴のあの剣の秘密の一つじゃ」

 

 

 

 

景元は知らなかった。

というよりも、だ。

この場にて、ソレを知るのは炎秋と懐炎の二人のみ。

鏡流ですら知らぬこと。

しかも、だ。

『あの剣の秘密の一つ』と言ったのだ。

知らぬことが、あの剣にはまだあるということになる。

 

 

 

 

「蛇足じゃがの」

 

 

 

しかし、懐炎は付け足した。

 

 

 

「あの仕組みは、何度か使っておるのという話じゃ。

…なぜ広まっておらぬと思う?」

 

 

 

付け足すべきだと思ったからか。

 

 

 

「使った相手が、誰も生き残らんのじゃよ」

 

 

 

つけ足すべくして。

 

 

 

 

 

 




好き放題やった。
これはスターレイルなのかとか、鏡流ssなのかとか。
関係なく好き放題やった。
もっとも、これからも好き放題やりますが。
なんとなく筆が乗ったといいますか、頭にポンと浮かんだもので。
とりあえずここまで文字にしました。
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