期間が空いたことに関しては『本当にすみません』としか…
無冠剣神を表すものとして次のような言い伝えが仙舟にはある。
『かの無冠剣神の斬撃はあらゆる障害を斬り捨てる。
しかし、その斬撃は斬るために振るわれるものであらず、護るために振るわれる斬撃である』
これは『戦いとは倒すためでなく守り抜くためである。どんな者にも例外はない』ということを表しており、現在の羅浮でもこの教えを大事とする者は少なくない。
そんな無冠剣神だが…
「なぁ、やめないか?流石にここまでする必要は…」
「何がだ、普通だろう。それに何かあってからでは遅いのだぞ」
「いや…だかな…」
現在進行形で障害にぶち当たっているところだったりする。
結論から言おう。
近いのだ、鏡流と炎秋の物理的距離が。
というより、鏡流が炎秋から離れないといったほうが正しい。
炎秋と鏡流が共に同じ屋根の下で過ごしはじめて日が経とうというこのタイミングで、鏡流は炎秋に詰めてきたのだ。
しかも、物理的に。
およそ半径1mを頑なに離れようとしない。
炎秋が2歩前に歩けば鏡流も2歩前に歩く。
今度は3歩下がれば、鏡流もまた3歩下がる。
食事も散歩も買い出しも全て必ずついてくる。
笑える。
しかし、笑えるのは食事や散歩までである。
「一緒に風呂に入ることや寝ることは駄目だろう…?」
風呂と睡眠だけは話が違うのだ。
「何がいけない?我と共に風呂や寝床に入るのはそんなにも不満か?」
「不満があるわけじゃない!…だけど…いや…そうだな…少しぐらいこう…恥ずかしいとか思ったり無いのか?」
「まったく」
「微塵も?」
「無い、むしろそちらのほうが好ましい」
「そっか…わかった…」
「入る気になったか」
「いや、今日までは別に入る」
「なんだと…?」
「”今日までは“ね」
「…明日からはどうなる?」
「景元から貰ったこの家の契約書…その項目の中に『毎朝、自由に運動出来る場所を提供できる』と書いてあった」
「…そうか。かつて、我らは一つの決まり事を作ったな」
「まぁ、つまりはそういうことになる」
「「【お互いの意見が違ったときには剣にて話をつける】」」
「ちゃんと覚えていたのか」
「当たり前だ。俺が鏡流さんとの出来事を忘れるわけがない」
次の日の朝、2つの極まりし剣がぶつかることを…まだ誰も知らない。
……景元が頭を抱えることも合わせて。
「それから、ところどころタメ口が抜けているぞ」
「…いや、そもそも俺は鏡流さんには敬語の方が多かったじゃな_」
「鏡流”さん“?」
「け…鏡流には敬語の方が多かったじゃないか…」
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無冠剣神が帰って来る前のこと。
仙舟「羅浮」に一つの連絡が入った。
その連絡を要約するのならばこうだ。
『とある事情につき、曜青から使者が来る』
その連絡が入ってからというもの、羅浮に居る一部の者達はその使者を歓迎するための準備へと取り掛かっていた。
曜青からの使者、大半の者達が『羅浮との交流を図りに来た』と考える中…羅浮にて無視できない出来事が起きた。
英雄の帰還。
かつて亡くなったはずの英雄の帰還。
それは本来ならばありえないことだった。
炎秋が家に住み始めて二日目…曜青からの使者に対しての歓迎の準備へと取り掛かる皆を横目に、太卜司頭を悩ませているものが二人。
その二人こと、景元と符玄の両者は複雑な表情をして話をしていた。
「それで?偽物であるという可能性は?」
「おそらく…いや、それはありえないだろう」
「…我らが将軍は一体どんな策で本物だと断定したのでしょうか?」
「簡単なことだ。
まず、1つ目の理由として『彼が突如として暴れ出した金人門番を即座に無力化した』という点。
それもただ無力化したのではなく、目にも留まらぬ速さで一瞬で制圧していた。遠目に見ていたが、あれだけの実力…そうそういないだろうね。
2つ目は彦卿との手合わせかな。
軽めの試合形式だったとはいえ彦卿相手に余力を残して圧勝というのはなかなか出来るものじゃない。
自慢じゃないけど、未熟なところがあるとはいえ僕の弟子はかなりの実力者といっても過言じゃないだろうからね。
並大抵の相手では話にならないはずだ。
3つ目は……」
「…?」
「師匠が、彼を離そうとしなかったことかな」
何処か嬉しそうに自分の師と友のことを語る景元を見ながら符玄は呆れたようにため息をつく。
『本当に…今、御空はとある任に当たって天舶司を離れているというのにこの将軍ときたら…』と思いながら。
だが、そんな符玄に景元は『これは余談だけど…』と話を続ける。
それを聞いた符玄はこれから先起こるであろう出来事に、もう一度ため息をついた。
「私が仕込んだのは、彦卿との手合わせだけなんだ」
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《とある場所 とある時》
「ただいま戻りました」
「…成果は?」
「何も問題ありません。
記憶や能力はそのままに、我らの同族と見ても遜色ない状態へとなっておりました」
「…そうか」
立ち上がり、空を見上げる。
久しく見ていない…そこにあるはずの月夜が彼らを照らしていた。
「さて、見せてもらおうか雲上の五騎士の生き残り。
貴様らの敵は我らだけではない。
果たして貴様らは剣を向けられるのか?
自分達の仲間に対して…友に対して…」
その月は“赤く燃え盛るような”色をしていた。
ソレは月夜を浴びながら憎しみに顔を歪ませていた。
「友を失う悲しみを…友を自らの葬る絶望を…!!
我らと同じ苦痛を…味わうといい…!!!
雲上の五騎士!!!!」