俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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皆さん大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした( 土下座 )
えっと、半年以上待たせてしまい申し訳ありません。
作者のモチベーション、ブルアカの違う作品かゼンゼロ でも描こうかなど一時の迷いが御座いましたが、無事にモチベと共に戻ってきました。一話を投稿するだけでも時間がかかるゆえ、作者も今までやれなかったことに挑戦したり、時間がなくてやりたかったことをしていたので、そこはもう本当に作者の裏事情兼ねて許して下さい。

半分は執筆途中だったのが消え去ってしまって何を投稿しようか悩んでました。すみませぬ。
そんなこんなでアビドス編にすら辿り着けない愚かな作者の出遅れに、憤慨を押し殺しながら待っててくれると幸いです。焦らしはお嫌い?投稿が遅くてすまんね。物事には順序というものがございますと、チナツが仰っていました。




12話『胡蝶の夢』

 

 

 

 

 

 

 

「先生、貴方は自分が何をしていたのか理解していますか?」

 

「………俺の記憶が正常に働いていたら、多分…」

 

「多分??」

 

「………あー……三日間徹夜で仕事漬けしてた……くらいか」

 

「私がメッセージを送っていることに気が付きませんでしたか?」

 

「……そん時に恐らくブッ倒れたんだろうなぁ…」

 

「先生、自分が置かれている状況をわかってますか???」

 

 

 保健室のベッドに横たわりになりながら、気怠い声を振り絞り応答する先生に、痺れを切らしながら怒りを顕著するチナツの目は痛いくらいに鋭かった。

 最初に目を覚ました時は見知らぬ病院の天井だった。

 なんで病室の天井には独特の模様があるんだろう…という悠長な考えに浸る余裕もなく、看病していたチナツに質問責めされた次第である。

 

 経緯はこうだ───シャーレの仕事を消化する為に、手の空いた生徒に当番という項目で予約を入れまくっていたのだ。

 一昨日がハスミ、昨日は予約こそ入れてないがユウカがチラッと様子を見に来てくれたのである。

 ユウカにも目の隈が凄いから仮眠を取れと言ったのが、俺はそれを断ったんだ。このまま眠ってしまえば深い眠りに就いてしまい、やる気が湧かなくなると。所謂アドレナリン過剰分泌による、ハイテンションってやつである。火事場の馬鹿力に似た状況下で、変に拘りを持ってしまうのは自分の悪い癖でもある。

 

 そんななか、シャーレの当番予約をしてた俺に当日の朝、チナツが俺にモモトークでメッセージをくれたという訳だ。

 ゲヘナの仕事を終わらせ、モモトークで再度メッセージを送ろうにも未読になっていたことから胸騒ぎがすると、保健委員の勘が当たり、急いで駆けつけた結果、俺はデスクから転げ落ち、床に倒れ伏せていた状況を発見したらしい。

 睡魔に抗えずデスクに触りながら寝落ちしていたところ、体勢が崩れて落っこちたんだと。

 

 チナツは急いで保健室まで担ぎながら看病をしていたとのこと。その結果目を醒めたのが実に3時間後だこと。本来なら半日以上寝ててもおかしくないだろうとのこと。

 

「先生は過労で倒れたんですよ。私が当番でしたので、シャーレに来訪してみれば……。はぁ…念のため確認しますけど、誰かに襲われた、とかありませんよね??」

 

「前いた世界なら十分過ぎるほどあり得るが、ここじゃ襲われるようなことしでかした覚えないけどな」

 

「その前にいた世界では何をやらかしてたんですか一体……」

 

 不良生徒のことは敢えて口には出さないようした。なので覚えてないといえば嘘になる。

 

「はぁ……全く、この人は……」

 

 呆れながら、深い溜息を溢す。

 志村転弧先生───チナツからして見れば、呆れを通り越して無茶苦茶な人間だ。

 シャーレ奪還戦も此方の意見を聞かずに勝手に動いたり、ワカモがいる危険性がある中一人で進むとか言い出したり…そんな一人で問題を片付けようとする姿勢は、どこかヒナ委員長を想起させる。

 とはいえ我らの風紀委員長である『空崎ヒナ』と志村転弧先生は違う。

 

「下手をしていれば命に関わっていたのかもしれませんよ!?意識のない状態で…どれだけ心配したと思ってるんですか?!幸い、大きな怪我はありませんでしたが……それでもッ ───」

 

「悪いな……心配かけて……」

 

「ッ ……悪いと言うくらいなら、どうして私を頼ってくれなかったんですか??ああ、いえ…御免なさい…。大変だからこそ今日、私をシャーレに呼んだのですよねッ 」

 

 普段滅多に怒りを見せないチナツが、ここまで感情的になるとは思いもよらず、面食らってしまう。当の本人もヒートアップしたのも束の間、冷静さを取り戻していく。

 

「………そんなに、シャーレの業務が酷いんですか??」

 

「サボってた訳じゃねえぞ。精々最初の時くらいだ…。その後もちゃんと業務はやってたさ、けどやっても訂正食らえば更に追加で色々寄せてきやがる。永遠に積んでいくんだ」

 

 これでも大分減らした方だ。

 学習能力はいいので、訂正を食らってもそこを修正すればリンからもOKを貰えたし、アユムからも「最近ホントに頑張ってますね!!私からの差し入れですので…宜しければ…」と栄養ドリンクまで貰ったくらいだ。

 …逆に言えばそれだけ。

 俺は義務教育も、学校と呼ばれる公共施設に於いて一般的な授業も受けていないので、仕事をするだけでも人一倍こなすのに難しいのである。

 その為仕事がストップを留めることなく永遠に、ベルトコンベアのように流れてくるのである。

 

「……分かりました。先生がシャーレで頑張って、ひたすらに一生懸命働いてるのは良いことです。その点、私は誇りにさえ思います」

 

「なんで上から目線なんだお前…」

 

「ですが───それとこれとは別です。私は風紀委員とはいえ、元々は救急医学部でしたから、事故で怪我をした…のであれば、とやかく言うことはありません。ですが、これが意図的に…無茶を通した結果であれば、私だって言う時は言うんです。私だって、怒るんですよッ 」

 

 心配だからこそ、

 大切だからこそ、

 保健委員だからこそ、

 目の前で誰かが倒れていたり、危険な目に遭っていたら放っておけない。

 だからこそ、チナツは叱るのだ。

 

「…ッ 。す、すみません……先生相手にこんな小言みたいな……その、私は先生の容態を心配してですね…」

 

「………」

 

 言いすぎたと考えたのか、チナツは弁明するように言葉を添える中、転弧は不思議と苛立ちを感じなかった。

 自分が無茶を通した結果なので叱られて当然なのは理解しているが、この不思議な感覚は…。

 

(……そいや俺、先生に拾われてから叱られたことなんて一度もなかったっけ)

 

 全てを肯定する───自身がどのような感情を向けようと、この手を血に染めていこうと、先生は全てを肯定した。

 憎しみを醸成、

 悪意を募らせ、

 自身の意にそぐわぬ者を排斥、

 子供のまま大人になったことには、環境は勿論…チナツのように誰かが止めてくれたり、声をかけたり、叱って、言葉を添えてくれる人間が周りには誰もいなかったからだろうか。

 

 自然と父の叱咤を思い出す。

 昔は駄々を捏ねてよく叱られてたっけ……父と違って不快に思わないのは、過程を通し精神が成長しただけでなく、立場の違いもあるのだろうが。

 

 

(………今まで、無茶をしても叱る奴なんていなかったな… )

 

 

 連合のリーダーとして、仲間を統括し率先して歩む人間の立場だったからか、それが当たり前になっていた。

 だが当時の俺と今の俺とじゃ立場が違う……先生としての自覚がなかっただけなのだろう。

 

「先生…?その、そんなにお気に触りましたか…??」

 

「いや、考え事……俺さ、滅多に叱られたことってなかったからさ…」

 

 補足で悪いが、ユウカは外させてもらう。

 アイツの場合はもう余計なお節介を通り越したヒーロー的な動機に似ている。いつも大声でリアクションを起こしているので、叱られたと言う実感がないというか、感覚が麻痺を起こしている。…それでもアイツも本気で怒ったら俺も考えさせられるんだろうな……ッ 。

 

「俺さ、これでも前いた世界じゃ頭張ってたんだよ。仲間達を率先して、先頭を歩まなきゃいけなくて、その為に色んな無茶をした――それが当たり前だと思ってたからさ。先生とリーダーって似てても立場が違うことってあるんだなって…」

 

「………」

 

 チナツは数秒ポカンと口を開けたまま、棒立ちし…

 

「…はぁ、ホンットに誰かさんと似ていますね………そんな無茶を通り越す性質は……」

 

 なんだか普段ヒナ委員長を止めれてない私に罪悪感を抱いてしまう。

 だがこの話に間違いや正解などはなく、どっちの主張も間違っていないのだ。

 

「…なぁ、ところでさ。お前を態々呼んだ結果、こうなっちまったが……シャーレの当番、どうする?」

 

「?どうする…と、言いますと?」

 

「仕事……の手伝い。元々そのつもりで呼んだからさ、俺が倒れちまったとは言えどうするかって…戻ってやるか?」

 

「はぁ……今の会話の流れで仕事、ですか…?先生、本当に人の話聞いてました???」

 

「聞いてなきゃ会話のキャッチボールにならんだろうが」

 

「会話が成立した上でその結論に至るのなら、今度は睡眠剤や麻酔薬を投入し拘束してでも止めるべきですかね」

 

 再びチナツの表情が怒りを露わにした。

 無自覚でもこのようなゲヘナのマトモ枠且つ物腰の柔らかい温厚な彼女を、ものの数秒で怒らせるのだ。伊達に長年ソロでLOLを経験しているわけではなさそうだ。

 

「申し訳ありませんが先生――今日は急遽として休日と致しましょう。先生には休む時間が必要です。ここで私がストッパーにならないと、先生は身を削ってでも同じことを繰り返しますし…仕事だって事情を説明すれば、幾ら連邦生徒会でも流石に代行は怒らないでしょう。なにより承服できかねますから」

 

 寧ろ無茶をしてでも仕事をこなしていたと知れば流石にリンも黙っていられないだろう。

 

「まじかよ……仮に俺が無理やり行ったら?」

「強行手段で止めます。何がなんでも───」

 

 流石に俺も無理やり行くつもりはないので、試しに聞いたら声がガチだった。マジで一瞬殺意に似た覇気を感じたぞこの女。

 

「何度も口酸っぱく言いますが、私は救護担当ですので…こう言った件において見逃すわけにはいかないのです」

 

 例えるなら過労で倒れた人間がいたとしよう。休息が必要で安静にしてろと言ったのに、納期が間に合わないとかで病院から脱走されたら誰だって止めるだろう。命がかかっているなら尚のことだ。

 

「…先生、どうしてそんなに無茶をするんですか?そんな無茶をしてまで、仕事をしなければいけない理由でもあるんですか?流石にあの七神リンが先生を追い込ませる程に仕事を振り込んでいるとは思いませんし、脅迫をしているとも思えません」

 

 シャーレ奪還戦も、先生の身を第一優先に考えていたり、リン自身も腹黒い部分はあれど、決して先生を蔑ろにするような性質でないことは、観察眼に優れているからこそ理解できる。

 

「……それは……」

 

『言えよ――俺が俺でいるのが耐えられないからってさ、人殺しのクズ』

 

 言おうとした途端、再び幻聴に似た重なる声が聞こえた。その声を聞くたびに、心が血塗れになって穢れて、自分の手が血で汚れている錯覚に陥ってしまう。

 

『こんだけ無茶を通せば自分は許されるとでも思っているのか?いつものように投げ出しちまえよ、暴力装置』

『今更多くの人間を殺した癖に、よくもコイツの穢れない純粋な気持ちに向き合えるな』

『先生なんて不釣り合いな、勝手な重しを付けられて、よくヘラヘラ笑って生きていけるよな、社会のゴミめ───』

 

「嗚呼…もう…五月蝿えなぁ…!!!!」

 

 頭をがしがし!!と掻きむしりながら、爪を立て『皮膚を掻き毟る』。ハッ…と我に返る。

 

「ッ ………先生?」

 

「あッ ……悪い、チナツ…別にお前に言ったわけじゃ……」

 

 ストレス、過労による幻聴、正常に働かない思考、思わず嫌気を刺す自分に放った言葉が、チナツへの返答を遮ったように放ってしまった。

 何なんだこの感情は…この、俺に投げかける声は…。

 

 チナツは沈黙した数秒後、此方に身を寄り、ギュッ――っと両手を包むように握りしめてくれた。

 

「…は?」

 

 今度こそ理解不能だった。

 チナツはジッと両手を包み離さず、握ってくれている。

 その手は女の子の肌で、柔らかくて…緑谷とは皮膚が違うんだと感じる。

 

「人は、精神的に追い詰められると…正常な判断が下せず、時に悪化している場合や追い詰められている時は自暴自棄になったり、現実逃避をする為にひたすら自分に鞭を打つことがあります。特に鬱病や精神疾患を患っている人間は、こう言ったケースが顕著することが多いんです。寝ている間に、バイタルチェックを行いましたが…どれも生きているだけで奇跡…いえ、肉体的には私たちキヴォトス人と比較して弱い部類ではありますが、それでも十分過ぎるほどにタフネスです。それほど迄に追い込んでしまう理由があるとして、それはきっと私が考えているよりも、重いのでしょう」

 

 先生はこの世界の住人ではなく、前のいたキヴォトス外の人間だ。それだけでなく外部の人間にも、過去の背景は存在する。それは自分が知らないだけで、どんなことがあったかは知らない。

 だからこそ、この人がこれ程に追い込んでしまうのは…きっと、キヴォトスがどうとかではなく、本人にしか解決できない特別な事情があるのだと、チナツは見解した。

 

「お前……」

 

「?まさか、私が傷つくと思いましたか?救護担当というのは、怪我をしている人間を相手にしてるだけではありません。中には廃墟の遊園地に行って精神疾患を患った人も相手にしましたから」

 

 廃墟の遊園地――スランピア

 モモカからチラッと聞いたことがある。都市伝説扱いされてる有名なスポットだったっけ。人喰い猫がどうのこうの…。

 

「何より、あの時私が問いかけた質問に、先生は答えてくれたんですから……先生が生徒を傷つける事がないというのを、私は知っていますし、信じていますから」

 

 ニコッと微笑むチナツに、先程の嫌悪的な感情がなくなっていく。

 確かゲーセンでデートした後、喫茶で話していたワカモの件───生徒を救えたかも、という言葉を今でもハッキリ覚えているからこそ、命を賭けて、身を賭して行動したからこそ、チナツは信頼しているのだ。

 

「ですが、これだけは約束して下さい───風紀委員や救護担当だけでなく、私個人として…火宮チナツとの約束事です」

 

「……無茶すぎる約束はなしな」

 

「どの口が言ってるんですか全く」

 

 呆れながら笑うチナツは、優しい瞳を向けてこう言った。

 

 

「自分を大切にして下さい───」

 

 

 チナツの言葉に、転弧は言葉を失った。

 喉につっかえたような、生まれて一度も言われたことのない言葉。そんな俺の間の抜けた顔などお構いなしに、チナツは続けて言葉を足していく。

 

「自分を大切にしないと、もし先生が倒れて動けなくなった時、その日その時交えた生徒との約束だって守れないんですよ?今日みたいに、ですけどねッ。だから先ずは自分のことを考えて、大切にしていきましょう?」

 

 先生にさえ言われたことのない言葉に困惑する。

 今まで過ごしてきた人生は、闇に潜みながら命のやり取りをする日々だった。

 同じ日陰者と対峙するは生存競争、

 時に他者を蹴落とし、

 疑心暗鬼に目を光らせて、

 

 心安らぐ隙がなければ、自然と自分の命を削ってしまう。

 そんな習慣に馴染んでしまったからこそ、今まで自分を大切にするなんて発想さえ湧かなかった。

 成る程…これも一種の経験ってやつでもあるのか…。

 

「ソイツは…中々無茶な相談だな…」

 

「はいッ …!?今のでさえ無茶なんですか!?先生が過労で倒れる仕事よりかはずっとマシだと思うのですが……」

 

 良いことを言ったのになぜ締らないのだろう…と、呆れてしまう。もはや先生のこれは一種の病気かなんかだろうと勘違いしてしまう。

 

「約束しないとは言ってないだろ。今まで一度も言われたことがないんだからさッ 。俺の体がどうなろうと、俺の問題だって考えで生きてたからな。人の生き方なんて、そう易々と変われるもんじゃない…それに───」

 

 もしも、生徒が危険な目に遭えば俺は間違いなく自分の身を削ってでも、現状をどうにかしようと動き出すだろう。

 人はそれをヒーローと呼ぶのだろうが、俺はあいにく聖人君子でもなければ、見ず知らずの人間を救えるような人間でもないのはよく理解している。

 だから――俺の生徒だけでも、俺を慕ってくれる奴らだけでも、いざという時に投げ捨てる可能性もあるだろうと。

 

「善処はする――チナツの言葉にも一理あるからな…。無茶はするかもだが、せめて最低限自分くらいは守れるように努力はするよ」

 

「はいッ――それを聞けて安心です。先生は嘘を吐かないので、そういうところは信頼していますから」

 

 それから他愛のない会話を軽く続けながら、結局夕暮れまでチナツと一緒に過ごした。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「なぁ、流石に泊まるのは申し訳ないんだが…」

 

「何を言ってるんですか先生。今日は安静にする日ですッ 。私が帰った後、どうせ隙あらばと仕事に慎むのでしょう?」

 

「俺のこと信頼してるんじゃなかったのか」

 

「ええ、良い意味でです。先生は無茶がお好きなようですから、私が断固として止める為にシャーレで先生のお守りとして付き添いますから」

 

「黒霧かよお前は……ッ たく…」

 

 当番が付きっきりの時用なのか、仮眠用として設けたのか、シャーレ内部には俺以外の寝室にも寝床がある。

 そこは全く使われてないので、清潔に保たれている。チナツが補足で付けた方が、帰りの終電に間に合わない時などにも利用できると言っていたので、使わない方が可笑しいのかどうなのか…。

 

「先生、お腹は空いてないですか?折角なので栄養のあるものを食べて、体を回復させましょう」

 

「ああ、カロリーバーがある。後は飲むゼリーも……チナツも腹が減ったならカップ麺あるぞ」

 

「……失礼ですが先生、自炊はしておりますか??」

 

「する訳ないだろ。飯すらマトモに炊いたことないぞ」

 

 チナツの顔色が険しくなってきた。

 ああ、ヤバい…完全にユウカと同じスイッチ入ったか??それもその筈、食生活バランスが壊滅的なのだ。

 

「んん゙……まぁ、忙しかったという事で今回は目を瞑りましょう…。それに、料理を教えるなら給食部のフウカさんの方が適任ですし」

 

「あー…給食ってあれだろ、学校で配られた飯を食うやつだろ。囚人みてえな」

 

「懐かしむのは構いませんが、その言い方ですと給食すら食べたことがない風に聞こえますよ?」

 

 食ってねーからな。

 前いた世界ではテレビで話題になった『ランチラッシュが◯◯小学校で給食を作ってみた!!』なんて番組しか見たことがない。 

 

「そうですね、炊飯器はあれどお米はないですし………」

 

「飯くらいは流石に良いって。つーか俺病人みてぇな扱い受けてんなこれ……ほら、カップ麺でも食えよ」

 

「あっ、卵はありますね。私が作りますので、少々お待ちください」

 

 ガン無視である。どうやら俺の虚に塗れた信頼は地に落ちたらしい。

 卵――カップ麺に卵を投入する為に買ったパック入り。

 賞味期限も切れてないので問題ない。

 

「本来ならお粥かおにぎりに、卵焼きで済まそうかと思いましたが……ないのは仕方ないですね」

 

「お粥は食わんぞ、あんなドロッドロとした水臭いやつ。粥食うくらいならまだお前が作る握り飯を食いたい」

 

 それは一種のプロポーズになってしまうので、不覚にもん゛ん…ッ !!と咳払いをしてしまう。

 キッチンは使用されていない為、清潔に保たれている。自炊をしてないことに驚きこそあれど、調理場が綺麗なのは安心する。

 

 普段は朝の朝食に卵焼き、ウィンナー、ご飯、味噌汁、というTHE 朝食という定番のメニューを起床時に作っている。

 緊急の時は軽いパンで済ませてしまうのだが、いつも手慣れた料理で振る舞うべきだと判断したチナツは、卵を焼いていく。

 

「すげぇな、卵三つも入れるのか」

「目玉焼きでも良いですけど…卵焼きのほうがふっくらしてて美味しいですから」

「ふーん……チナツは料理得意なのか?」

「いえ、人並み程度で…料理ができるとなれば、ウチには給食部のほうが適任ですよ。二名しか在籍しておりませんけど」

「……なぁ、お前んところの部活って人数少なくないか?」

「……ぐぅの音もでません…」

 

 調理場で二人揃っている姿は、後ろからすれば仲の良いカップル風景なのだが、第三者視点がいないのでそれを認識することも確認することもできないのは致し方ないのかもしれない。

 

「ほら、できましたよ。後はインスタントの味噌汁を…ッ と。カップ麺ばかりでは健康に悪いですからね。違うものも、こうして作らないと絶対に食べないでしょう?」

 

 どうやらガン無視されていた訳ではないようだ。

 俺の行動を遥か先に見据えて断言するチナツはエスパーかなにかだろうか。否───安易に予測できるからこそ、ダメな大人なのだ。

 

「……うまっ。久し振りに卵焼き食ったわ」

 

 今まで人並み家庭で出される料理にはてんで興味もなければ関心すらなかったので、チナツの手料理を食べて考えを改めた。

 

「もし食材が揃っていたら更に多く振る舞えたんですが…ごめんなさい」

 

「謝るな――俺が悪いように聞こえるが?」

 

 いや、悪いのは俺ではあるが――とはいえ料理など壊滅的な俺には、今日という日まではカップ麺生活しか考えられなかっただろう。

 

「つうかチナツはその量で足りるのか」

 

「あ、はい。私夜は少なめですので…。お気になさらず」

 

 女子は体型を気にすることがあるので、深く突っ込むのはやめておいた。と言うか聞いた話だと朝は多く食べて、昼も夜は少なめが理想らしいもんな。

 まあ俺としては「んなもん知るか、好きに食え」理論なので考えたこともなかった。

 

「手料理……食ったのは…黒霧と、もっと前は……」

 

 

『転弧――席について一緒に食べよ?』

 

 

 ああ、家族か……。

 ヒーローの話を除けば、比較的に父は温厚なので、飯を食う時はまだマトモだったな。

 

『転弧!お誕生日だからいっぱいご馳走だよ!ほら、モンちゃんも美味しいって言ってる!!』

『うん!でもね華ちゃん。モンちゃんが食べてるご飯はいつもと何も変わらないドッグフードで…』

『そう言うのはどうでもいいの』

 

 ……改めて思い返すと、変に抜けてるところは今も昔も変わんないな。

 解放戦線で食う豪華な散財飯も悪くはなかったが、庶民が口にする飯を食うのも…悪くはないな。

 

「ふふッ 、先生の方こそ足りたでしょうか?」

 

「ああ……疲労が凄かったから空腹もそんなに…ッ て感じだったしな」

 

 まあ腹減ったらカップ麺を食えば良いのだが、今それを言ったら本当に怒りかねない。折角手料理 ( 頼んではないが )まで振る舞ったのに、少ねえから違うの食うはノンデリカシーというやつである。

 俺も大概ノンデリではあるが、踏み止まるラインはあったりする。

 

「それならよかったです♪それでは食後は少し休憩してから先生は横になってて下さい。代わりに私が書類の整理から、簡単な事務処理なら私でもできますし…ほら、これなら一日を無駄にせず済むでしょう?」

 

 コイツは女神か何かか?

 俺の中での株はフルスロットル――仲間たちにも自慢してやりたい位なんだが。

 

「良いのかよ……お前の休む時間はどうすんだ」

 

「ええ、それに先生はキヴォトスに来たばかりとはいえ…頑張ってるじゃないですか。少しくらい、報われても良いと思いますよ?それにご心配なくとも、私もキリの良いところで切り上げて、休みますから」

 

 報われる、か――

 俺にそんな資格、あるのだろうか。

 チナツからすればなんてことないのだろうが…。

 

 とはいえ、こうまで言われる機会はないだろう。

 人の善意は素直に受けておくべきだ。

 

 

( 久々にゆっくりベッドで寝れるな…… )

 

 そうして俺は自室へ戻り、倒れるように仰向けにフカフカのベッドで眠りに就く。

 

 

 ――今日休んで、明日から仕事頑張るか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故、明日がくると思うのだろうね?』

 

 バッ――!!と身体が反応するように、寒気に襲われ目が覚める。

 不吉な声が聞こえ、一瞬にして疲労と眠気が吹っ切れたような気がした。

 

「…は?ここは……」

「あ!!先生!先生ェ !!目が覚めましたか!?」

 

 全身に響き渡る不気味な悪寒と、冷や汗に心拍数が上がりながらも、聞き慣れた声がする。

 泣きじゃくりながら、俺の袖やらズボンをグィグィ 引っ張る姿は幼稚園児か何かだろうか。

 アロナがいることに内心ホッとし――

 

「いや…はっ?違ェ だろ。なんでアロナがここにいる??」

 

 シッテムの箱――連邦生徒会長が俺に遺したと言われるオーパーツ。

 その端末内でしか存在できないアロナが、俺と一緒にいる。

 周りを見渡せば、外は真っ暗闇に覆われ、床はチャプチャプ…と水の音がする。

 

(間違えてシッテムの箱の中に入っちまったか?いや、今まで寝落ちはしても誤って起動させたことは一度もないんだが……。それともアロナからのSOSか?)

 

「ひょっとすると、アロナ――お前が俺をシッテム内に引き込ませたのか?」

 

「わ、私にも何がなんだかサッパリで…!!き、気付いたら先生も私も、こんな訳の分からないところに……うぅ、アロナも寝ていたので起きたらビックリしちゃいましたよ!!」

 

 まさかの原因不明――アロナも俺も不理解な現象が起きている。

 キヴォトスという神秘が溢れる箱庭――オーパーツは不可解だからこそ、神秘として存在している。

 人間が認知する理解とは程遠い、理解されない根源の正体こそが神秘だとして、そのオーパーツでさえ影響を及ぼす不可解な現象が起きてるのだとすれば……

 

(アロナが解らないのも頷けるってわけか…。となればシッテムの箱によるエラーコード…って線は曖昧か??)

 

 シッテム内は透き通る蒼を象徴とした空間が存在しており、夜中でも夜景こそあれどここまで酷い程に暗くはない。

 馴染みのある教室らしき空間も、山積みのように積まれていた椅子と机も、後ろのカバンを入れる引き出し口もない。

 暗闇と床の水色の海だけが広がる空間は、正に冥界。

 

「ひょっ、ひょっとして……!!」

 

「何か心当たりでもあるのか??」

 

「いちごカステラとバナナカステラを両方いっぺんに食べようとしたから罰が当たったのでしょうか…!?せめて一口くらいだけでも…」

 

「うん、期待した俺がバカだった」

 

 このポンコツは何を言ってんだ――悪態を吐きながら、アロナの頭に手を置き、ボサボサと髪を撫でる。

 

「取り敢えず、俺の側から離れるな。先生らしく安全くらいは確保しないとな……」

 

 つぅか、眠りに就こうと目を閉じた瞬間に不気味な声が聞こえて、目を覚ましたらこんな所にいるんだよな。

 夢…であって欲しいのだが…。

 

 

『なァにが先生らしく安全くらいは確保しないとな――だ。お前が触れてきた奴らは、皆んな壊れちまったって言うのにな』

 

 

 などと考え方をしてる束の間――今度こそ鮮明に聞こえた。

 俺とアロナは反射的に声主の方角へ意識を振り向いた。

 相手の影を見た瞬間、俺は思わず息を止め硬直した。

 側にいたアロナはヒッ…と低い声を漏らし、服を握る力が強張った。

 

 

『ガキのお守りに従って、自分のやったことを正当に忘れようと必死になって……惨めなもんだぜ志村転弧。これが悪の象徴だったなんて聞いて呆れるぜ――』

 

 

 聞き慣れた声…と言うよりも、一番知っている声。

 粘り着く不穏な声色

 曇りなき純粋な殺意

 誰よりも俺を知っている人物

 

 

「……おいオイ、寝ぼけてるッ て割には冗談キツすぎだろ…精神面でもチナツに診てもらうべきだったか…?」

 

 

 

 全身に家族の残骸()を装着させた、もう一人の死柄木弔(オレ)が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






温度差が激しい、半冷半熱的なストーリー。
チナツが一緒に泊まりますと聞いてあのギャルゲーメモロビ想起した人、素直に挙手しなさい。


「次回、俺ともう一人の俺が喧嘩する。トゥワイスかよ、乞うご期待」


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