俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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改めてブルアカとヒロアカ読み返してたんですけどふと気がついたのがありまして、転弧がアフォにネタバラシされて身体が弾け粉々になる際、背景に色んなキャラ達の写真がコマとして映し出されてたシーン……あれ転弧が関わってきたキャラ達だ。走馬灯かな?と思ってたら、アレって自分が傷つけてしまったという罪悪感らしいですね。
写真の大きさ的に母親が一番大きくて、家族はそれなりの大きさ。名前すらないモブやヒーローは小さいけどちゃっかり写ったり、直接的な関わりがない相手すらも「自分は傷つけてしまった」と思えてしまう精神って、ほんとに根っから悪い子じゃないんだって再確認した。
なので前回の話も相まってよかったぁ、と思えた。解釈違いは、第二部ストーリーになってしまいますからね。




特別編『休息の美食sweets』

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜…ッ たく、何よ……今日は私一人だけ!?信じらんないんだけど!!えっ、こんなことある???」

 

 トリニティ総合学園――学園都市キヴォトスが誇る三大学園の内一つと数えられるマンモス級たるお嬢様学校。

 礼儀作法を重んじるこの自治区は、宗教、派閥、図書館、正義、様々な主張が強いイメージだが、他の自治区と比較すれば平穏ではある。

 

 

 そんな街中で、一人の少女が髪を掻きむしりながら信じられないと捲し立てる。

 

 

 伊原木ヨシミ――放課後スイーツ部一年生。

 放課後スイーツ部の部員は四名。

 杏山カズサ、栗村アイリ、柚鳥ナツ、そして私。食事を重んじる部活であり、放課後にスイーツを食べて楽しむという、特に課題などなく平和に過ごす穏やかな部活だ。

 正義実現委員会やら救護騎士団など、暴徒の鎮圧とは違う。どちらかと言えば日常をより深く過ごしやすいものだ。

 

 

 さて、と……そんな私が何故トリニティの街中で苛立ち叫んだのかを説明しよう。

 

 

 ─────理由はこうだ。

 

 まずアイリは授業でどうしても解らない部分があったので、放課後教員に聞きたいとのことで、幾つかの問題を聞いているとのこと。

 これはまだ致し方ない。真面目な部類だし、私たち学生にとって学業こそ本分だ。

 

 次にカズサは小テストの赤点で補修を受けたらしい。

 頭がそこまで良くない ( 本人の前で言ったら喧嘩になるので煽りの時にしか使わない ) ので、「なに赤点食らってんのよ!!」と怒鳴りたくなる。

 

 ……最後にあのナツ(バカ)は放課の時に朝に購入した『ウミウシ・コーラ』を飲んで保健室に搬送された……らしい。

 なんでも最近発売されたごく一部の地域でのみ販売していたとされる珍しい飲料水。

 これを聞いて本気で頭が痛くなった。

 そもそもウミウシ・コーラってなんだ、

 なにをどう考えたら「よし、飲もう」となる。

 当の本人がいたら「未智たるスイーツがあれば、探究し追求するモノ…それもまたスイーツ部…いや、ロマン…」とか言い出しそうで考えただけでもキレそうだ。

 

「……じゃあ、今日は中止ね。折角決めてたお店の限定メニュー食べたかったけど……まあいいや」

 

 埋め合わせは後日するとアイリやカズサは言っており、ナツは「生きてたら逢おう、我ら放課後スイーツ部へ!!」と、グッドのサインまで送ってこられた。

 もうアイツに対しては突っ込まない。

 

 とはいえ…残ってるのが私だけとなると、今日予定したスイーツは後日…ということになる。

 私たちは「美味しいものを食べる部活」ではあるが、大事なのは私たち全員で何をしたのか、が大事なのだ。

 皆んなで決めたお店を一人で行ったところで面白くはない。

 とはいえ自分も自分で気になった店舗には足を運んで一人スイーツを楽しんだりする。

 

 さぁ、今日は帰るか…とモモトークを閉じて帰路に着こうとした時だ。

 

 

「う〜〜〜ん……あれ?道間違えたかなぁ…?おっっかしいなぁ…確かに地図はココだし…どこも同じような道でわかりにくいってば……もぉ〜〜…」

 

 

 近くで大看板の地図と睨めっこしながら、探しものをしている生徒がいた。

 紅色の長いツインテールに、猫を主張とした可愛い小柄の帽子を被った小柄( 恐らく自分と同じ体型 ) な生徒が一生懸命に探している。

 迷子かしら…?と思うのも束の間…

 

 

「あぁ〜〜〜どうしよう!!折角ここまで足を運んだのに…これじゃ『クレシェ・テンプレム』の期間限定スイーツが食べれない!!」

 

 

 ピタッ…と動きが止まる。

 

「…ねェ、あんた。そこに行きたいの?」

「えっ――??」

 

 放課後スイーツ部たる美食のエキスパート魂たるもの、無視することはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「わぁ〜〜〜…!!ここがあの隠れた名店『クレシェ・テンプレム』!!案内してくれて本当にありがとう!」

 

「いや良いって…たまたま時間空いてたからだし……私も、スイーツ好きだから、ここの店美味しいし…」

 

「トリニティに足を運んだことってなかったから、全然地図見ても分かんなくってさぁ〜〜…。ヨシミみたいに教えてくれる人がいなかったらどうしようかなって、ホントにありがとう!!」

 

 目的の店舗に着けば、思いっきり感謝された。

 いやぁ…正直、こんなにも感謝されたことってなかったから、何というか……恥ずかしいというか、照れるというか…。

 

「えーっと……あ、そいや名前…」

「あ!私はね――赤司ジュンコ!!折角だし、ヨシミも一緒にどう?」

「えっ!?あー……いや、ちょっと…」

 

 突然のお誘いにヨシミは面を食らい、少し沈黙した後、難しそうに…

 

「あ、ごめん……!ちょっと…」

 

 トリニティ外部の、他所の自治区から来訪した生徒というのは、彼女が地図と睨めっこしていた時から気付いていた。

 このトリニティ総合学園――規模も敷地もかなり幅広いので、地図を見て行く生徒はいれど、彼女の言動から察して他所だということは理解していた。

 正直私としてはミレニアムだろうとワイルドハントの生徒がこの学園に足を踏み入れようと、迷惑を被らないのであれば特に気にしていない。

 とはいえ流石に初対面の人といきなりスイーツを食べるというのは、こう…なんというか抵抗感がある。

 

「そっかぁ〜〜……でもでも!ありがとうねヨシミ!私、トリニティ初めてだから、なんか誤解してたかも!!」

 

 誤解?

 引っかかる言葉にヨシミは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

 そのままジュンコは手をブンブン!振りながらお待ちかねのスイーツ店へ入って行く。

 

(まっ…なんだって良いや。私は放課後スイーツ部――こうして迷える一人のスイーツ女子を救ったのであった……♪ )

 

 いや然し…当の本人が遠出のなか遥々とトリニティ自治区へ足を踏み入れ、スイーツを食べたいが為にやってきたのだ。

 なればこれ以上聞くのは野暮だろう。

 

 

「えぇ!?!!なんでェ !?!!」

 

 

 と、今度こそ帰路に就こうとした途端に背後から再びジュンコの大声を浴びせられることになる。

 今度はなに?忙しないなぁ…と心の中で愚痴をこぼしながら踵を返す。

 

「申し訳ございません…当店はこみあっており席が一つしか空いておらず…その、お一人様だけでは……」

 

「えぇ…んーっ、あ!あそこの!!あっちの席の人も一人じゃん!」

 

「あ、あの方は少々特別というか…いえ!決して贔屓という訳ではなく……あの方は直食べ終わるので…」

 

 何やら混み合っているようだ。

 店員の対応を聞いた一人席の人は勘付いたらしく「変わるか?」と席を立ち上がろうとするも他所の店員が「お気になさらず!」と対応している。…まあ経緯として一人席の人も前もって早く来ていたらしく、運悪く混み合ってしまったということだそうで…。

 

「はぁ……折角きたのに…私っていっつもこうだぁ…遠くから来たんだけど、ダメ?」

 

「…すみません…」

 

「はぁ……」

 

 かなり落胆していた。

 いつも、と言っていたので一度や二度ではないだろう。

 ……私たちだけなら幾らでも諦めはつく。

 美食巡り然り、スイーツ然り、満員で食べれなかったというケースはつきものだ。

 だけど…折角遠いところからきて、美味しいものを食べようとしていたのに、さぁ帰ってくれは流石に可哀想すぎる。

 

「すみません、私も一緒なら入れますか?」

 

「えっ!?」

 

 見てみぬフリなど出来ず、良心が働いたヨシミが店員に問う。流石の予想外な展開にジュンコは面を食らい、店員は「お、お知り合いですか?」と確認する。

 

「はい、そうです。一人だけは無理でも、知り合いの私たちなら席も空いてますし良いですよね?」

 

「そういうことなら…はい!では二名様、ご案内致しますね――」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

「い、いいの?その…」

 

「え、なに?私なんか変なこと言った?」

 

「いや、そういう訳じゃないけどさぁ……その…」

 

 テーブル席。

 柔らかなソファに座りながら、いかにもお嬢様だと言わんばかりの豪華な席で面を向かい合うように座るヨシミとジュンコ。

 ヨシミは以前にもスイーツ部と一緒に制覇したので慣れている。対するジュンコは初めてのトリニティの内装に驚きつつも、申し訳なさそうに俯きながらモジモジしている。

 

「だって……忙しそうだったし…」

 

「いやぁ、それはまぁ…なんというか…。私、ここのお店友達と何度も行ってたから気分じゃなかったというか…別に嫌ってる訳じゃないし」

 

「そ、それに……知り合いって言って…」

 

「え、なに?ケーキ紹介する仲じゃん?」

 

「ッ────── !!」

 

 ヨシミはギャルである。

 彼女の人柄の良さ、

 同じスイーツを嗜む同士、

 諦めてからのどんでん返し、

 その全てにジュンコはもうヨシミを友達認定している。

 いや寧ろこれだけ要素が揃ってただの知り合いは無理があるだろう。

 

「ありがとうヨシミ!!もしヨシミがいなかったら私…!」

 

「わかった分かった、取り敢えずなんか注文しよ?期間限定のスイーツ、食べたかったんでしょ?」

 

「そうそう!あ、ヨシミは食べる?私奢るよ?」

 

「え?良いの…?あ、けど……うーん…いや、いいよ流石に。ちゃんと私もお金払うから」

 

 流石に奢って貰うのは抵抗感が強すぎる。

 初対面での相席で食事を共にするのはハードル高いが、ここまできたらもう流石に抵抗感というより断る方が申し訳ないというか。

 

(……まあ、こう言うのも……悪くないかも…)

 

 他の自治区の知らない生徒と今日知り合って、道案内して相席してスイーツを楽しむ…うーん、我ながら凄い日だ。

 今日はスイーツ部の皆んなと期間限定の違う店舗のスイーツにありつけれなかったのは残念だが、友達ができたと考えれば悪い日でないのかもしれない。

 

「あ!すみません…!じゃあ私はこの『春の季節――幸福の翼・ラトリエ・ドゥ』を!」

 

「あ、私も同じのを…」

 

 店員を呼び、二人ともメニューの期間限定を頼む。

 結果、付き合ってしまった以上は自分も楽しむか…と、どこか楽観的になれるのは、ヨシミが常識人枠であるからで。

 

 それからジュンコとヨシミは語らっていけば次第に仲が良く深まり、いつしかモモトークの連絡先を交換するようになった。

 他にも好きな食べ物や趣味を語らったり、

 最近起きたこととか、

 噂になってるシャーレの先生ってどんな人なんだろうなど、

 ……唯一、教えてくれなかったのは、ジュンコがどこの自治区出身なのかだ。

 

 

 頼んでから数十分後――お待たせしました、というウエイターの言葉と共に、注文したケーキのセットが届いた。

 バナナとクリームを練ったチーズケーキ、金箔の付いた栗のモンブラン、クッキーとアイス、ホイップクリームが盛ったデザートタルト、りんごの形をしたストロベリーソース添えのチョコケーキ、豪華で彩りした素晴らしいスイーツ。

 正に宝石とも言えよう、涎が垂れそうになるスイーツ達に目は釘付けで、思わず言葉にならない声が漏れてしまう。

 

「ほわああぁぁぁ〜〜〜……」

 

 感動に打ち震え、涎が垂れそうになってる小動物らしさに「こいつ可愛いな……」と思えてしまう。

 

「いっただきます!!――はむ!はむ……んっ!おいひいぃぃ〜〜〜!!こんなに、美味しいスイーツ!はむ…んぐっ、なかなかないんじゃ、ない!もぐもぐ、んむ…っ」

 

「いや、喋るか食べるかどっちかにしなさいよ…」

 

 がっつくように限定スイーツを口に運び、口いっぱい頬張り咀嚼して、お腹へと飲み込んでいく。お腹が空いていたのか、それとも美味しそうなケーキに我慢できなかったのか、その食べっぷりと来たら、なんとまあ美味しそうなことか。

 

「ていうか……そんなに食べてその体型って…」

 

 マジマジと全身を見つめる。

 身長は私より少しだけ高い。そう、少しだけ。

 将来は大きくなるの。

 これから成長していくだけだから。

 

 と、話は逸れたがこんだけ食べてこの体型を維持できると言うのはモデル並に羨ましい。

 ホント無邪気というか、かわいいと言うか…。

 

「あ!ねえねえヨシミ!さっき話しそびれたんだけど、良いの見せてあげる!はいコレ!」

 

 此方が凝視していても「?」と純粋な瞳を向けながら、ふと思い出したように手帳をテーブルの上に置き、パラパラとページを捲っていく。

 手帳には何枚か写真が貼られている。

 中華料理、ラーメン、ハンバーグ、みたらし団子とカステラ、どれもジュンコが食べた記録を遺したグルメ写真だ。

 

「これはね、あんまり人に見せないんだけど…ヨシミはすっっごく良い人だから特別!この中華料理の麻婆飯と餃子は山海経、ラーメンはアビドス、ハンバーグはミレニアム、みたらし団子とカステラは百鬼夜行…どれも私が目につけたお気に入りのお店で、制覇したの!!」

 

「手帳につけるなんてマメだねぇ……」

 

「そう!でね、後はトリニティってことで…今日ここに来たの!それにほら、見返したらまた美味しい味を思い出せるし……んぐっ、んん〜〜〜…!!また行きたくなるでしょ?」

 

「まあ、私は良いと思うけど……」

 

 私の周りにジュンコのような子がいないので、そんな考え方もあるんだな…と考えさせられる。

 トリニティの生徒も甘いもの好きは多い。

 彼女の場合はスイーツに限った話ではないが、こんなにも食に対する拘りを持っているのは素直に尊敬する。

 

 

「……ん?ちょっと待って――もう殆ど食べちゃってるけど、写真はいいの?」

 

 

「へ?あっ………ぁ゛あぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!?!!」

 

 

 ヨシミの指摘に、ジュンコは忘れてたようで、大きな悲痛の叫び声を張り上げる。

 周りからビクッ!!と驚いたように此方を見つめる生徒達の視線が恥ずかしく、しーっ!静かにして! と言うサインを送るも、当の本人はパニクってる。

 折角遠出をして、期間限定 ( 然も値段も高い ) も頼んだのに、お目当ての写真が撮り忘れたことに気が動転してしまったようだ。

 そんな時だった――

 

「それでね、ミネ様が……きゃっ!?」

「あたッ …!?」

「ああ御免なさい…ッ !お話ししてたら、ぶつかっちゃって…その…大丈ぶ…………えっ?」

「あっ、いえ…私の方こそ急に動いちゃったから…こちらこそ大じょ……ぶ…?」

 

 

 あっ──────。

 

 

 偶々友達と談笑しながら歩いている生徒と、ジュンコの後頭部がぶつかってしまい、

 ――ジュンコの帽子が外れた。

 赤司ジュンコの頭には黒い角が生えていた。

 角の生えた生徒――それ即ちゲヘナ生徒を意味する。

 ジュンコの角が露わとなったことでぶつかった生徒は勿論、店内にいた生徒達の視線が一点集中していく。

 

 

 え、ツノ?あの子ツノ生えてない?

 ツノ…ってことは、ゲヘナ!?

 うっわあぁ……ゲヘナがなんでいるの?

 ねぇねぇ、アレ見た?あの子やばくない?

 気味悪いんだけど…。

 なんでゲヘナがここにいんの?

 信じられないんですけど……怖ァ…。

 つーかなんでトリニティにいる訳?おかしくない…?

 ひょっとしてスパイ…?エデン条約も控えてるし…。

 

 周囲が一瞬でざわつき、軽蔑的な視線がチクチク突き刺さって行く。

 トリニティはゲヘナとは違い、暴力的且つ問題行動を起こしたりはしない。

 上品思考と穏やかな一面とは裏腹に、他者への批評やお嬢様の腹黒さることながら、決して全面的に良いとは言えないだろう。

 況してやトリニティの自治区にゲヘナの生徒がいれば尚更だ。

 その痛い視線に耐えれきれず、失態をしでかしたことにジュンコの顔は青ざめて行く。

 

(油断した――――!!トリニティはゲヘナを毛嫌いしてるッ て言うのに……!!どうしよう、どうしよう…!折角ヨシミと友達になれたと思ったのに…!出禁かな…?出禁…だよね?? )

 

 ――ヨシミ、幻滅しちゃったかな?

 ゲヘナだったの?って、私のこと嫌っちゃうのかな…??

 

 ヒソヒソと周りの陰口は止まらず、腫れ物のような視線を浴びせてくる。

 ジュンコは頭を抱えながら、怯えるように顔を俯き涙目になる。

 普段のジュンコなら「アンタたち何よ!?」と一喝してやり返すのだが、自治区が自治区――況してや自分は理解した上でこの土地に足を踏み入れたのだ。悪いのは此方である。

 エデン条約が控えてるとはいえ、トリニティとゲヘナはお互い嫌悪し合っている。

 全員が全員とは言わないが、良く思わない生徒の方が圧倒的な数として占めているのだ。

 

「えっと……その、ジュンコ大丈夫?」

 

 然しジュンコの思考とは裏腹に、ヨシミはここにいる生徒達とは違い、こちらを心配そうに顔を覗いている。

 嫌悪感もなく、

 疑いの視線もない、

 ただまっすぐと友達を心配してくれている。

 

「ご、ごめん…ヨシミ……私…」

 

「えぇ、なに怖ァ……あの二人どういう関係?」

 

 ジュンコが黙っていたことを謝罪しようとする間に、トリニティ生徒の疑心がヨシミに向けられる。

 

 え、あの子トリニティの生徒だよね?

 なんでゲヘナなんかと仲良いの…?

 やっぱスパイよスパイ!あの二人繋がっていたんだわ…!

 これ、ナギサ様に報告した方が……

 て言うか、よくゲヘナなんかと一緒に過ごせるよね。

 信じられないんですけどぉ……やだぁ。

 

 陰湿な批難は、ジュンコから軈てヨシミへと伝染して行く。

 不穏な空気は風船のように大きく膨らみ、止まることを知らない。

 段々と陰口は増して、気味悪そうに二人に視線を送り、ジュンコにぶつかった生徒も後退りしている。

 

「はぁ………あのさ、流石に限度ってもんがあるでしょ…。良い加減に…」

 

 今まで黙っていたヨシミも堪忍袋の緒が切れたのか、一言二言なにかガツンと言い返そうと前に進もうとした途端――

 

 

 

 

「おいテメェらなによってたかってコイツらのこと馬鹿にしてんだ良い加減にしろよマジで。今時差別だなんて流行んねェぞ――時代遅れのガキども」

 

 

 ヨシミとジュンコの前に、一人の大人が憤慨の声を張りながら、庇うように二人の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『えっへへぇ…♪先生、とっても美味しいですねェ 。こんな豪華なケーキが食べれるなんて、アロナのほっぺたが落ちちゃいそうです♪』

 

「うめェだろコレ。や、まさか席がめっちゃ空いてる時に入れて良かったぜ。人があっという間に埋まってきたな」

 

 栗のモンブランを一個シッテムの箱内に入れ、アロナは美味しそうに食べながら、俺はシュークリームを頬張っていく。

 シャーレの仕事より、トリニティの出張へ赴いた転弧は仕事を早めに終えた為、小腹が空いたと近くに寄った店に入り満喫していた。

 トリニティ自治区の出張内容は、モモカより「何名かの生徒が食中毒を引き起こしたらしいから、ある商品を回収して欲しい」とのこと。

 商品に原因があると問題視した連邦捜査部は、特定の店舗を絞り調査をしたいとのことになった。

 その原因となる商品が……

 

『いやぁ、まさかカイザーコーポレーションが発売した新商品の『ウミウシ・コーラ』に問題あったとは……お手数おかけしてすみません先生…』

 

『いや意味分かんねえわ流石に。なんだよウミウシ・コーラって。この発想に至ったイカれ野郎出せッ 。ソイツに毒味させてやる』

 

 カイザーコンビニエンスの隠れた店舗。

 そこに陳列する大量のウミウシ・コーラの一缶をゴミでも取るように二本指で摘みカラカラと振る。

 ていうかコレを購入する生徒達も大概である。

 ……いや、怖いもの見たさで飲んだケースも考えれるか。

 

『つーかなんでこんな物騒なもんこの店だけ出してんだ』

 

『ええ、ですからカイザーコーポレーション経由の元……このカイザーコンビニエンスに流れ着いたのです。とはいえまさかこんな事になるとは…とほほ……』

 

『……26ッ てのはどんな意味がある?』

 

『26時間営業という意味です!!』

 

『1日は24時間だぞ。勝手に時の概念を変えるな』

 

 …なんかもう、ぶっ飛んでる。色々と。

 モモカの言いつけ通り、ダンボールに大量の兵器飲料水(クソみてぇなコーラ)を積み込んでいき、ヴァルキューレに連絡した後に引き取るように事情を説明した。

 

 

『成る程…これが例のブツなんですね。後は我々ヴァルキューレにお任せ下さい!!あっ、申し遅れました――私は中務キリノです!以後、宜しくお願いしますね先生!!』

 

 中務キリノ――ヴァルキューレ警察学校一年生。

 生活安全局…とか、なんか難しい話をし出したが、第一印象としては明るく活発。

 物事をハキハキと声に出してる元気な生徒……と言ったところか。

 

『可能ならこの危険物をカイザーコーポレーションに返品した後、発明者に飲ませろ。これ絶対にテイスティングしてないだろ』

 

『えぇ!?そんな…流石に本官にその様な権利はないと言いますか…いえ、あったとしても権利を無闇に濫用することは犯罪者と変わらないことであって…!!』

 

『んだよ、メチャクチャ真面目なんだなお前……』

 

 まあ確かに私情を持ち出すのは警察としてどうかと問われるけども。

 ……そいやこの世界の警察って、あんまり触れてないんだよな。

 一応シャーレ奪還戦――狐坂ワカモ率いるダツゴクの生徒達の調査に貢献してくれてはいるので、関わるのが初めてという話ではないのだが…。

 

『それにしても…貴方があの先生、ですか――』

 

『なんだよ、不満か?』

 

『いえ、そんなことは…!その、生で見るのは初めてでしたので…』

 

 デジャヴ発言2

 もう敢えて何も突っ込まない。

 俺はこの学園都市キヴォトスでは歩く天然記念物らしい。

 SNSで閲覧した者もいれば、そうでない者…それぞれに別れている。

 ヴァルキューレ警察学校ともなれば、ある程度の有名人を認知していても不思議ではないか。

 

『つぅか、ガキなのによくもまあ警察なんてこのご時世……頑張ってんな。警察って聞けば俺の知ってる世界とはまた意味合いが異なるんだろうけど……』

 

『えっ!?あ、いや……それ程でも…えへへ……。確かに私は射撃訓練の成績が著しく悪いので、もっと人一倍頑張らないといけないですし、大変ですけど…私、憧れの学校に入れて、頑張りたいって思って前に進んでますから…!!』

 

 ふーん…そうかッ 。

 と、表面上では無愛想さることながらも、内心としては憧れの何者かになれるキリノが、どことなく自分にはなかった眩しさに直視できなくなる。

 …俺たちの世界では、ヒーローと警察は根本的に違う。

 

 ヒーロー自身の個性使役は、正式な手続きと免許の元に初めて使用が許可される。それは防衛の一種であり、意図的な行動、私怨ある個性の使役を禁止した。

 法律や人権を尊重し、個性の使役に法律を定めることで現代社会の形や秩序を守ろうとするのが警察だ。その為個性の使用は当然禁止されているし、代わりと言ってはなんだか護身用として拳銃の使用が許可されている。

 ヒーローに憧れる人間は多かったが、警察になりたいと思う人間は少なかった。

 中でも敵受取係は世間じゃ「大した仕事じゃないだろ」と、小馬鹿にされていたりする。

 

『先生も改めて、御協力感謝します!!』

『感謝っていうか、シャーレの仕事だったからな。じゃあ後は頼んだぜ…俺は帰って終了間近のクソみたいな書類をブッ潰す覚悟で終わらせる』

 

 そんで今度こそゲームをやろう。

 最近ゲームをやれていなかったので、苦しみや抑圧から解放された娯楽はきっと俺を救ってくれる。

 

 

 

 などと一仕事を早く終えた後、俺は帰路へ就こうとしたのだが、丁度小腹が空いていた。

 そいや今日はカロリーバーと飲料ゼリーしか腹を満たしてなかったので、どこか近くにいい店はないかと探す。

 

『お、丁度良い店があるじゃん。軽く休憩してから電車に乗って帰ろう』

 

 で、見つけた店が隠れた名店と噂( 後から知った )のクレシェ・テンプレムで一息ついてたと言うわけだ。

 

 

 んで現在に至る訳である。

 コレまでの経緯を振り返り、一息吐きながら紅茶を啜る。

 すると何やら出入口の扉で何やら騒いでる様子が、遠い席でも聞き取ることができた。

 

「……なんだアイツ、入りたかったのか。俺もそろそろ食い終わるし…おい、アンタ。会計頼めるか?」

 

「はい?ですが先生……ごほん、お客様。まだ食べている途中のようですが……」

 

「アイツ入りたがってんだろ。俺も一人だし、アイツだけ入れないってのは不公平じゃないか?俺が退いたら食えるだろ」

 

「ああ…そう言うことですか。いえ、お気になさらず!確かに人が急遽混んでしまい、二人組以上となりましたが…今食べてらっしゃるお客様が残してまで立ち去ることは御座いませんので…」

 

「そうか…なら良いんだが……」

 

 店員も「お気遣い有難う御座います…」とペコペコ頭を下げて謝罪する。…まあ、悪いなとは思いつつ運が悪かったのだろうと耽り、残りの食べかけのケーキも食べていく。

 何やかんやで入口で揉めてた生徒が店内に入れた様なので「…まあ、結果的に良かったな」と他人事の様に思いながらシッテムの箱を起動し、モモトークの返事、メモのフォルダ内の整理、今後のスケジュールの再確認、忘れた仕事がないかのチェックを行っていく。

 ……我ながら、大分様になってきたなと誇りにさえ思う。

 

 一通りチェックも終わり、問題ないと確認を終えた後――周囲がざわついている事に気付いた俺は、視線を浴びせられている生徒に目を遣った。

 

 

「んぁ?なんだ……ゲヘナの生徒か。どうしてこんなざわついてんだ?」

 

 なんだ、ゲヘナの生徒じゃん。

 ワカモが来たのかと思ったぜ――と、状況を楽観視した俺は最後のケーキを口に入れて食い、飲み込んだ後に「よしっ、美味かった…ごっそさん」と席から立ちあがろうとする。

 だがそこで聞こえたのは、俺にとって喜ばしくないモノだった――

 

 

「え゛ッ …なんでゲヘナがここにいんの??最悪なんですけどォ……キモっ」

 

 ピタリ――俺の足が止まり、ヒソヒソと小声で悪口を言ったトリニティの名も知らない生徒に意識を向ける。

 

 …今、こいつなんて言った?

 

「ゲヘナの生徒って相変わらず気持ち悪いよね…」

「暴力で野蛮なんだって…怖ァ〜……」

「幾らエデン条約が控えてるからって、ねぇ??まだ結んでないし……」

「て言うかさ、ゲヘナの生徒も大概だけど……もう一人向かい側に座ってるあの子、トリニティでしょ??」

「えぇ〜〜…どういう関係なのアレ、怖いんですけどぉ……やめてほしいよね…ホントっ」

「きっとスパイに決まってるわ。じゃなきゃあり得ないでしょ……」

「ゲヘナなんかと仲が良いの?あの子一体どんな生徒…?」

 

 はぁ??おいおいマジか。

 そう言うこと、平気で言っちゃうタイプかコイツら――人の前で言っちゃあいけないことを、陰口みてぇにヒソヒソ言って…聞こえてないとでも思ってんのか。頭ん中シーラカンスかよ。

 

 

「……テメェらみたいな時代錯誤の差別主義者がいるから、スピナーみてェに苦しんでる奴が増えるんだろうがッ 」

 

 

 何も悪いことしてない奴を、集団がよってたかって陰口叩いて差別する奴は――絶対に許せねえ。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 ざわついてた周囲の空気感がより重さを増し、大人が庇い立てたことにより集中してた標的がジュンコとヨシミから一変した。

 

「な、なんですか貴方は一体……!?急に現れて……」

 

 トリニティの生徒は突然見知らぬ他人に言われた事に愕然としていた。

 まさか逆に違う人間から反論をされるとは思ってもいなかったのか、その声には明らかに動揺が窺えた。

 

「!アンタ……」

 

 ヨシミは自分達を庇う様に先頭に立つ大人の背後を見て、不思議と怒りが収まり安心したのか、声のトーンは元に戻っていた。

 ジュンコも震えて俯いていた顔を上げ、ヨシミと同じ様に大人の背後を見つめる。

 

 

 うわぁ……あの人急になに…?なんか怒ってるっぽくない?

 見た事ないけど……あの二人とどんな関係が…

 

「おい、そこの二人も言いたいことがあるなら胸を張って言えよ。コソコソ小声で言ってても聞こえるぞ」

 

 ――ヒッ!?

 気付かれてないと本気で思っていたのか、明らか様な反応を取るように硬直した。

 いや、これ本当に気付かれてないと思ってたのか?

 頭ん中お花畑すぎるだろ。荒らしたくなるくらいに。

 

「え、えっと……だって、その…その人、ゲヘナ……ですよ?」

「金払って飯食ってる奴の何が悪いんだよ。言ってみろ」

「ッ ……!!つ、ツノが生えてて!私たちと違う自治区…!そんな人がここにいること自体がおかしいでしょう!?!」

「お前らも翼生えてんだろ。形が違うってだけでなんでコイツだけ馬鹿にされなきゃいけねえんだ。不公平だろそんなの。何が平和主義なお嬢様学校だ――蓋を開けてみりゃあ陰湿だらけの偽善だな」

「ッ――!?!あ、貴方ねぇ…!!」

「今の俺の言葉でキレるってことは自覚あるんだよな?まさか自分たちはヘラヘラ他人に悪口言って、自分は言われるのは嫌だとでも??」

 

 人間は心を言い当てられたら直ぐ怒る。

 トリニティ生徒の表情も心境も、次第に変わり苛立ちへ変わっていく。

 だが当の転弧は表情を崩さずに淡々と言葉を述べる。

 臆することも、怯むことも、意見を変えようとせず。

 

 

「俺はお前みたいに翼なんて持ってない。コイツのようにツノなんか生えてない。何にも持ってない、ただの人間だ――――どうだ。俺はお前らが当たり前のように持ってるモノ()を何も持たない脆弱な人間だ。笑うなら俺も笑えよ。それすらできないなら、お前らは卑怯者だよ。それこそ、本当の青二才のガキだ」

 

 

 自分一人では何も成せない癖に、

 周りがいて同じ感想を持ってるから、

 周りがやってるから私も悪口言ってやろう、

 どうせコイツは自分と違うんだ、

 そんな思想を持つ奴らが集団になれば、軈てイジメが生まれる。

 言葉の暴力を、暴力とさえ思わなくなってしまう。

 

 こうして軈て争いは生まれ、憎しみが生まれる。

 

 大層腐った話だ。

 その腐った話が肥溜めとなり、肥大化すれば膿が生まれる。

 こうして生まれた膿は腐敗し閉じ込めた世界を汚染していく。

 

「ね、ねぇ……ひょっとして、この人…シャーレの先生じゃない??」

 

 黙って見守っていたトリニティ生徒の一人が、恐る恐る震えた声で指をさす。

 それを聞いた生徒達の周囲が、えっ?と声を漏らし、重かった空気は次第に息がしにくくなる程に重苦しくなってきた。

 

 転弧は深い、深いため息を吐きながら髪をガリガリガリガリ…と不愉快そうに、痒そうに掻き毟る。

 ――先生だと知れば、今度は掌返しか。

 どこまで行っても人間ってのは、単純というか…。

 特にガキは狡くて尚更単純だ――自分より立場が上の人間がいると知れば、罪悪感から逸らすように、自分は悪いことをしてないと言わんばかりに現実逃避する。

 もう喋る気力さえも湧かない。

 

「……おい、お前ら大丈夫か??クッソ気分悪くなったろ。取り敢えず出るか」

 

「えっ!?あ、えっと……」

 

 突然言い当てられた二人は、回答することに困惑する。庇われたこと、怒ってくれたこと、それだけで釘付けの状態で固まっていたのに、今度は此方二人に意識を向けた先生に固まってしまう。

 

「お、お客様!!その…すみません……お、お会計の方を…」

「……アンタもさ、経営は大事なのかもしんねェけど、こう言うの止めろよな。ここは美味しいモノを食う憩いの場所で、人を不快にさせたら意味ねェじゃんか」

 

 金は俺が払う――金色のクレジットカードを取り出し、ぶっきら棒に通す。

 自律思考型ロボットの店員もかなり気まずいのか、目をバツ印なベタ表情を浮かべて「…ぜ、善処します……」と申し訳なさそうに何度も頭を下げた。

 

「え!?その……本当に良いの??」

 

「こんな店にお前が金払う必要はない。それに……飯を食って不快になる場所とかあり得ねェだろ…行こうぜ」

 

 客の一人すら大切にできない店が、どれだけ美味しいスイーツを作れたところで結局は無価値に等しい。

 転弧は二人を連れて店の外へ出た。

 

 

 

 

「はぁ〜〜〜……なんだありゃあ。トリニティって穏便そうには見えていたが、やっぱ偉い奴らは人を下に見る習性があるから、ああやって侮辱的な言葉が吐けるんかね」

 

 グイィ〜〜ッ と背伸びをしながら、つまらなさそうに欠伸をする転弧に、黙っていたヨシミが後ろから転弧の袖を引っ張る。ヨシミの行動に転弧は「ん…?」と応えるように立ち止まる。

 

「あ、あのさ…!!アンタがあの…シャーレの先生??」

 

「ああ、うん…まぁ。これ聞くの何回目だ………――そうだけど、そいやお前らの名前聞いてなかったな。事態があんな風だったし……」

 

 ヨシミが食い込むように尋ねてきた。

 店内でスイーツを待ってる雑談で「そいやシャーレの先生ってどんな人か知ってる?というか実物見た?」というジュンコに「いや、見てないし特にそこまで興味も……けど、私たちって公式な部活とはいえ、正義実現委員会とかよりもそこまで活躍度とかないし…」と会話をしていたからだ。

 

「あ、あの……!!私、私ね!赤司ジュンコって言うの!!さっきはその…助けてくれてありがとう!!」

 

 ジュンコ…というガキが、満面な笑みを浮かべて俺に感謝を述べてきた。

 ――助けてくれてありがとう。

 これはきっと……死柄木弔では聞けなかった言葉だ。

 こんな俺でも、人に感謝をされるというのは…なんと言うか、生まれて初めてなので、かなり複雑になっていく。

 

「…いや、良いよ。気にすんな……お前は何も悪くないだろ。ただ単に美味いもん食おうとしてただけ――たかがゲヘナとか、トリニティとか…その違い如きで粗探しみてぇに人を馬鹿にすんのが許せなかっただけだ。お前は気にせず好きに生きて好きに美味いもん食って生きていけば良い」

 

 どうしてだろう、シャーレの先生だからだろうか…。

 言葉を聞いてるだけで、心の底から安心して落ち着く…。

 どんな人なのかなって思ってたけど…それになんだか、どことなく私たちの仲間に似た…特に、『ハルナ』や『アカリ』のような強い芯を感じ取れる。

 

「へぇ……先生って、初めて会ったけどカッコいいところあるじゃん」

 

 口角を釣り上げながら、ヨシミは肘で横腹を小突く。

 いてぇ、突くな。と軽く手であしらう転弧のやり取りは、さることながら仲良さそうに見える。

 

「別に…かっこいいとかそう言うもんじゃねえだろ…俺は思ったことを口にしただけだ」

 

 いや、本当にカッコよかったよ――そう言いたかったが、これ以上褒めるのは恥ずかしいので、心の底にしまっておいた。それに…

 

「まッ 、正直先生の言葉にスカッとしたことは事実だし――後、その…改めて奢ってもらってなんか申し訳ないと言うか……そうだ!今度、埋め合わせ、させてよッ」

 

「良いのか?」

 

「私、借りとか作りっぱなしにしたくないからさ?んーーっと…そうだ!今度、またスイーツ部の皆んなと集まったとき、時間が合えば一緒にどう?」

 

「ん、分かった。モモトークの連絡先交換しとくか」

 

 まさかジュンコと友達になれるといい、シャーレの先生と初めて会って即連絡先交換できるとは。

 嫌なこともあったけど、これは結果的に見れば棚から牡丹餅では?

 

「あ、モモトークと言ったら…ジュンコもする??」

 

「えっ!?あ、良いの?て言うか私……ヨシミにゲヘナだってこと黙ってたし…周りの生徒から変な目で見られた…よね?それにトリニティってゲヘナを嫌ってるって言ってたし…」

 

「それって逆も然りだろ。ジュンコは何とも思ってねェの?」

 

「わ、私はそう言うの全然気にしたことなくて……」

 

「だったらもう答えは出てるだろ」

 

 やれやれ、と転弧先生は両手を広げて呆れた素振りを見せる。

 ふぇ?ポカーン…としてるジュンコを他所に、「確かに…」とヨシミも納得したように頷く。

 

「私はさ、確かにトリニティの生徒だけど……なんて言うの?政治とか、対立とか…そう言うの難しい話に興味なくてさ。単に美味しいモノ食べて、平和に過ごせればそれで良いじゃんね?」

 

 それに…と、続けてヨシミは腕を組みながらんーー…ッ と、言葉を考えて込み、数秒後。

 

「転弧先生…だっけ?名前。

 でさ?あー……ほら、転弧先生がもうほぼ答え言ったようなもんだけど……私はさ、先生と一緒でツノも生えてないんだし、やっぱ違うのは違うじゃん?ン〜〜…やっぱ言葉にすんのムズ…っ」

 

 頬が段々と紅潮に染まっていく。

 普段仲の良い友達と、楽しく好きに生きてきたので、真剣な話をすること自体に羞恥心が湧いてくる。

 

「けど、違うのは違うとして受け入れるだけで…私たちが仲良くしちゃダメってことはなくない??そりゃあエデン条約が近づいてるとか、どうとか言われてるけどさ。逆に締結した後にだって仲良くして良いなら、今からでも遅くはないじゃん?」

 

 エデン条約――確かトリニティとゲヘナの…長年の敵対立に終止符を打つための、平和条約。

 戦争があるとすれば、それをお互いが手を取り合い終結させる為のモノ。

 

「あ、それでもイマイチピンとこないならさ!こう言うのはどう?私たちはお互い好きなモノが一緒で、趣味も語らい合える友達…だから、みたいな……」

 

 改めて言葉にするとメチャクチャ恥ずかしい!!と頭を抱え、顔から湯気が出てるヨシミに、どことなく自分を重ねる。

 友達――人の好きなものや、趣味は、お互いの他人を通して理解者となり、分かち合えると。

 

「……ジュンコ。お前、こうやって言って欲しかった言葉をくれる友人、そうそういねぇぞ」

 

 トリニティ総合学園が偽善と疑心、他者を蹴落とす腹黒さに塗れた学園なら――ヨシミのような人格者は希少とも呼べるだろう。

 

「て、て言うかさ!!先生も先生で変にカッコつけて、恥ずかしくないの!?」

 

「だから言ってるだろ。俺は思ったことを口にしただけ。自分の気持ちに正直になって、胸を張って何が悪いんだよ――前に進むって、自信を持つってそう言うことじゃないのか?」

 

 ああダメだ――この人は大人だから経験値が違う。

 それとも私が気にしすぎてるだけなのだろうか。

 この大人は無敵である。

 

「…ッ !!ううん、ありがとう!!」

 

 ジュンコは携帯を取り出し、三人でモモトークの連絡先を交換した。

 今でもゲヘナとトリニティは対立し、冷戦状態が絶え間なく続いている。

 一触即発。

 正にお互いが核兵器を晒し続けているような状態。

 

「あ、ねぇ!二人とも時間ある?もし良かったらだけど……違うお店、行かない??折角だし…」

 

 モモトークを交換した後、ジュンコは勇気を振り絞り声に出す。

 顎に携帯を当てながら、恥ずかしそうに、でもって一緒に何かを食べたそうにしていて…。

 

「ほ、ほら!!私、写真撮り忘れちゃったし…先生に奢りっぱなしなのも良くないじゃん?私も借りは作りっぱなしにはしたくなくて…大丈夫!お金は払うから!」

 

「良いのか…ッ てか俺はさておき、ヨシミは良いのか?」

 

「まあ、乗り掛かった船だし…良いよ、付き合う。それに私の分って転弧先生が奢ってくれたんでしょ?私はほら、元々払うつもりでいたから…奢らなくても良いと言うか…」

 

「よしじゃあ決まりだな。ヨシミ――美味い店案内してくれ、リードを頼む」

 

「はぁ!?!え、私なの??ジュンコは他に行きたい店とかあったら案内するけど…」

 

「私は今日このお店の噂を聞いてずっと前からマークしてたから…ッ 。他はあんまり知らなくて…というか、トリニティに足を踏み入れたのでさえ滅多になくて…」

 

「あー…そっかぁ。じゃあ……先生は?」

 

「俺は小腹が空いて偶々寄ったらここに入っただけ」

 

「んー……どうしよっかなぁ。後は……あ!じゃあさ、私が前から個人でマークしてたお店があるから、そっちにしない?名前は『ブラトルーマ』こっからなら徒歩で15分で着くし…ここと離れてたら、さっきみたいな変な噂は立たないでしょ」

 

「立っていたらいっそ違う自治区で虱潰しに美味そうな店舗漁ってくのもありだな」

 

「じゃあ決まりね!えっへへ、私たち…なんだか似たもの同士だね!先生はちょっと分かんないけど」

 

「あー…俺、美味いもん食えればそれで良いって思考だからな」

 

「うっわ何それ……先生って好きなモノってあるの?」

 

「………おはぎか。偶にカステラと緑茶で嗜むこともある」

 

「百鬼夜行のタイプだった??」

 

 なんてことのない雑談を交えて、

 三人は新しい目標を立てた店へ足を運んでいく。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「ジュンコちゃん!なんだかとってもご機嫌良さそうだね!」

 

 食堂のテーブルでいつものメンバーと食事を楽しみながら、今日のメニューの食事を堪能している。

 今日のメニューは比較的まともだったこと、この前ゲヘナ学園の風紀委員( 主に空崎ヒナ )にコテンパンにしばかれたので、渋々大人しくしているのである。

 ご機嫌よくカレーライスをたべていると、隣にいた『獅子堂イズミ』が興味深そうに顔を覗いてきた。

 

「へ?ううん!ちょっと、ね――」

 

「あら、珍しい…何か良いことでも??」

「先ほども手帳と睨めっこしながらニヤニヤしていましたもんねェ 〜?」

 

 序でに前の席に座っている『黒館ハルナ』、『鰐渕アカリ』が興味深そうに話に乗っかってきた。

 うーん……写真は見せたくない ( 今は独り占めしたい )から話だけでもしておこうかな?一応、助けられたのは事実だし。

 

「えっと…実は─────」

 

 かくがくしかじか。昨日起きた日の顛末を話し終えると、イズミは『ウミウシ・コーラ』飲みたかったなぁと変な方向性に偏っており、アカリは「そうだったのですねェ …♪お礼に先生にはたっっぷり私と一緒にご飯でおもてなししてあげましょう♡」と瞳が妖しく光っており ( 怖いくらいに )、ハルナはなんと…と、お上品に手で口元を抑えていた。

 

「それはそれは……素敵な殿方に出会えたのですね。その方との美食もまた…私たちが追求するべき美食………先生はその風格を携えている。正に美食の体現者なりえるかもしれません」

 

 そうかな?と、ジュンコは首を傾げる。

 先生の食生活が壊滅的だった為、ハルナの飛躍的な話に実感が湧かなかった。

 

「けど……この思い出は、一生忘れない」

 

 手帳に閉まっている写真は、単に美味しいスイーツだけが映し出されてるわけではなくて、ヨシミと転弧先生も写っていた。

 思い返せば美味しい味が蘇ってくるけれど、そこに二人がいれば辛い時、またあの時みたいな嫌な思いをした時、なんとなく先生を見習おうと思えたからだ。

 この楽しい思い出を、またいつか――

 

 

 

 

 






THE・もう一軒の店内状況。

転弧「でさぁ、今日ここにきたのだってその『ウミウシ・コーラ』とか頭ぶっ飛んだ飲み物の回収に回ってきたんだよな」

ジュンコ「なにそれ…イズミが好きそうなやつじゃん……この前チョコと歯磨き粉と一緒にホットケーキ食べてたし……」

転弧「……なあ、そいつの個性って悪食とか言われてないか?」

ジュンコ「…?個性??」

ヨシミ「ちょっと待って!!??それナツが飲んで保健室に運ばれたんだけど!!」

転弧「いやアレを買う生徒も大概意味不明だぞ??チャレンジャーか怖いモノ知らずか?」

ヨシミ「いやぁ、どうせアイツのことだから…ロマンとか、言ってそうな…」

転弧「意味が分からん、破綻してる。まだ怖いモノ見たさの方が全然説得力あるぞ。つーかウミウシって食えんのかアレ」

ジュンコ「んぐっ、もぐもぐ……先生はさ、このチョコレートモンブランか苺とパイナップルのタルト、どっちが美味しいと思う??」

転弧「あー…俺はチョコレートモンブランだな。チョコは口ん中に甘いのがめっちゃ残るからあんま好みじゃねえが、こいつはあっさりしてるのと栗の風味が効いてて美味い」

ヨシミ「私は逆かな。果物とお菓子ってやっぱり洋菓子として王道だし……果実を食べた時の甘い果汁とサクサクの生地が相性良くって」

転弧「お前ら普段こんな甘いもん毎日食ってんのか??」

ヨシミ「わ、私は部活とはいえ毎日ってわけじゃないわよ!?!週に4、5日くらい自制してるし…」

転弧「めっちゃ食ってる部類だぞソレ。感覚麻痺してるのかもしんねェ けど。ジュンコは?」

ジュンコ「私はスイーツ限定って訳じゃないの!ほら見て、写真!結構色々あるでしょ?私たちは美食研究会だから、凡ゆる美食を追求してるの!」

転弧「あれ?確かどっかで聞いたことが……」

ヨシミ「そういう先生は普段何食べてるの??」

転弧「忙しい時期はカロリーバーと飲料ゼリー。余裕のある時はカップ麺だ」

ヨシミ「…………」
ジュンコ「…………」

転弧「急に黙るなお前ら、あー…よくてコンビニ弁当だ」

ヨシミ「……今度、スイーツ部の皆んなで美味しいモノ食べましょ」
ジュンコ「…アカリに頼んでお腹いっぱい食べてもらうように伝えるね」

転弧「俺を憐むなお前ら――」



元々、胡蝶の夢を投稿する前に考えてた話だったのですが、先に序章を終わらせた方が良いかな?ということでこの形になりました。
それとアビドス序章と一緒に同時投稿しようと考えてたのですが、それだとめっちゃ読者を待たせるなぁ……となったので、先に。
後日またアビドス編開始いたします。暫し待たれよッ 。


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