俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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誤字脱字のご報告、感想やお気に入り、投票含めていつも有難う御座います。本当に。
作者は投票やお気に入りが増えると脳汁が溢れ、感想をくれると有り難やー有り難やー!!とゴマすりしながら喜んで(返事すら難しいのは御免なさい)お返しします。

さて、そんなこんなでアビドス編の前に少しだけ。

黒霧の声優さんがいなくなったことに作者はびっくり仰天。ご冥福をお祈りします。



15話『自分なりの戦い』

 

 

 

 

 

 

「ん、ただいま。皆んな」

 

「あ、お帰りなさい!シロコ先ぱ……い?」

 

 ガララ!と扉を開けると、そこには見慣れた顔のアビドス生徒が数人。対策委員会の教室で待機していた。

 戻ってきたシロコに意識を向けたのは、猫耳生徒の後輩――黒見セリカである。

 挨拶の言葉が途切れたのは、シロコが何かを背負っているのを見解したからだろう。

 

「ちょっ!?何!?そのおんぶしてるの誰!?!」

 

 セリカがシロコの背後に指をさす。

 そこには今にでも死にそうな大人がぐったりと、担いでるシロコの肩に顔を埋めている。

 …死にそうな、というか、もう既に死んでない???

 息絶えているのではないか?

 セリカの至極真っ当な反応に、教室にいた二人も反応するように焦燥の顔色に染まっていく。

 

 

「シロコちゃん!?ひょっとして拉致してきたんじゃ!?」

「拉致!?もしかして死体!?!シロコ先輩が遂に犯罪に手を……!!」

「皆んな落ち着いて!!速やかに死体を隠す場所を探すわよ!!確か体育倉庫にシャベルと鶴嘴があるから、問題が発覚する前にまずは揉み消さないと……!」

 

 

 シロコちゃん、と呼ぶ生徒の名は十六夜ノノミ。シロコと同じ同級生でありながら、ゆるふわな印象を持っているのだが、今回シロコが拉致してきた大人を見て思わず驚愕。

 続いて犯罪行為に手を出したと早とちりした生徒は奥空アヤネ――セリカと同じくシロコの後輩に当たる優秀な生徒だ。

 

「ん、そういう訳じゃないんだけど……」

 

 やれ拉致だ犯罪だ、死体だ、仕舞いにはどうやって証拠隠滅を測ろうかと行き過ぎた憶測にシロコは反応に困る表情を零す。

 んん゛…と苦しそうに声を振り絞る背後の大人に、ひっ!?死体じゃない!?とセリカとアヤネは驚くように両手を掴んでいる。

 

 

「俺を死人扱いしてんじゃねえぞ……取り敢えず、水をくれ……」

 

 

 朦朧とする意識の中、掠れた声で三人に意見を述べた大人の顔色は土砂で汚れていて、とても…とっても酷く弱っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故意気揚々と自信満々にシロコの後を追っていた転弧先生が、シロコに担がれているのか、その経緯を説明しよう。

 砂漠地帯を駆け巡って30分が過ぎた頃、エナジードリンクで僅かながら身体の活力を取り戻し、糖分が脳に冴え渡りシロコの後を追っている頃だった。

 オーバーワークもあった為か、猛暑のなか休む暇なく全力疾走でシロコの後を追っていた転弧先生のスタミナは、割と極限に近い状態でいた。

 乾いた汗が再び吹き溢れ、息を切らしながらも目標に向かって全力ダッシュ。

 対するシロコは先生のペースを気にしながら漕いではいるも、それでも自力で走るのと公共機関で走るのとでは訳が違う。

 オマケに転弧は生まれてこの方、5歳の頃に三輪車しか乗ったことがないのでいきなりロードバイクに乗るのは無理がある。

 なので最善として、時代遅れのスパルタ的なジョギングを強いられているのだ。

 それでもアビドス高等学校が見えてきた頃に「ん、先生あともう少し」というところで、体に限界が迎えたのか、或いはよろめいてしまったのか、

 

 ドシャアアァァァーーーー!!!と壮大な音と共に倒れ伏せていた。

 

 流石のシロコもこれには驚き、直ぐにロードバイクを駐車して安否を確認した。

 意識が飛んでいること、頭から壮大にぶつけた為顔には砂が汗の水分を吸って完全に土汚れが目立ってしまった。

 幸い鼻は折れてないので、転弧先生と荷物を担ぎながら背負ってアビドス高等学校まで運んだということになる。

 

 

「結局、こうなっちゃったね…」

 

 シロコは駐車したロードバイクを停めたまま、倒れた転弧先生を担いでは学校を目指すように歩いていく。

 普段、体力トレーニングなどをしているからか、体力的にしんどいと感じることは少ない。なので大人を背負いながらジョギングくらいなんてことはない。

 

(けど…初めてかも。私の後ろに着いていくように、全力で走ってこれたの……)

 

 シロコは趣味でサイクリングを嗜むことがある。

 休みの日など外出で一日中走り回ったこともあれば、ランニングで買い物に行くことも彼女にとっては日常的な部分に入る。

 然しその距離は軽く何百キロにもなるだろう。

 アビドス工業地帯から自宅まで自転車で走ってきたと話したら

 

『いやいや、流石に無理があるでしょ!?!一体何百キロかかる訳!?』

『シロコ先輩、その距離を一日で走ったんですか??』

 

 セリカはドン引き、

 アヤネは引き攣るように冷や汗を流し、

 ノノミはショッピングでダンベルを購入したなど、色々な反応があった。

 他の生徒と違い砂狼シロコの走行距離の価値観は一線を画す。

 だからこそ、誰もシロコの趣味に興じてチャレンジする者もいなければ、基本一人で活動している。

 

 

 初めてなのだ。

 自分の後ろを追い求めるように、全力疾走で自分に追いつこうと、我武者羅に走りながら喰らいつくように必死に走ってくれたのは。

 

 初めて出逢う大人だとしても…いや、尚更だろう。

 これだけ何十キロ以上もの距離を手助けもなく全力で走って、空腹と水分枯渇で弱っているにも関わらず、弱音も吐かずに自分に着いてこようとした。

 

 砂狼シロコにとって、志村転弧は充分に信頼できる大人になったのである。

 

 

(気絶…してるよね?良かった……。汗、かいてるから…匂いとか気になるんじゃって心配してたけど……杞憂だったみたい…)

 

 

 逆に先生も汗だくなので、お互い様なのかもしれない。

 先生の匂いは少し汗臭いけど…三日間も遭難するとなれば無理はないし、シャワーとか浴びたくてもできなかったのだから仕方がない。

 

(………なんだか、とても不思議……)

 

 初めて出逢う大人。

 然もアビドスを助けてくれるシャーレの先生。

 当然信頼は充分に値する。

 けれど……その要因とはまた違う、シロコにとっても知らない感情が湧き上がってくる。

 

 

 それは、かつて自分も先輩に同じことをして貰ったからなのか、

 似た境遇の人間を目の前にして、今度は自分が人を助けたからか、

 何とも言えない感情に、口ごもってしまう。

 

 

 そんな不思議な感情を、先生と一緒に抱えながら、アビドスの校門まで辿り着き、このまま教室へ運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ンクッ゙、ごきゅ、ごッく…んく゛……ッぷはぁ!あぁ、助かったぜまじで。窮地に一生を得るってのはこのことだな正に。エナジードリンクがねェのが難点だが、まあいいや。あ、もうヤカンの水が無くなっちまったな…。オイ、誰か新しい水持ってきてくれるか?」

 

 現在進行形で寛いでいる。椅子に座りながらヤカンにコップの水を注いでは飲んで、空になっては給水の繰り返しである。オマケにシロコに担いで貰い、死にかけていた癖に図々しさだけは一丁前である。

 これには流石のアヤネはもちろん、ノノミも少々引き気味である。セリカに至っては「何しにきたんだコイツ」という不審者を見るような視線を飛ばしているが、本人はお構いなしだ。

 シロコは「ん、これ」と予備のペットボトルを手渡し「サンキュー」と軽いノリの返事でキャップを開けて給水する。

 三人は思った。

 

 なぜあのシロコ(ちゃん)(さん)がこんなダメそうな大人のいうことを聞いているのだろうか。

 どうして彼女は見ず知らずの大人を拉致してきたのだろうか。

 なんで旧友のように既に慣れ親しんでるのだろうか、と。

 

 実はこの大人を人質に何か犯罪を起こすのではないかと違う方向に考えが行き渡り、心配が芽生えてしまっている。

 

 これ以上埒が明かないので、誰がこの空気の中話しかけるか、三人はお互い目を配らせながら問いかける。

 

(アヤネちゃん!こんな怪しい大人に話しかけるなんて無理!!いって!)

(えっ!?そんなセリカちゃん…!んん…ノノミ先輩、お願いしても良いですか?)

(ふぇ?私、ですか…?)

 

 テレパシーで心の声を送り合ってるように、お互いの視線で語り合う。

 ノノミは人差し指で自分を指し、後輩二人はうんうんと頷く。

 二年生として、先輩として任されたノノミは渋々承諾しながら、なんとも言えない空気を打破するように、恐る恐る挙手をして口から声を振り絞る。

 

「あ、あのォ……ところで、どうしてこんな砂漠地帯のアビドスに、お客さんが…?」

 

「あー……自己紹介、まだだったな。SNSで調べろって言いたいんだけど、まだ知れ渡ってないんだったよな」

 

 

 転弧的にはてっきりシャーレ争奪戦以降、ユウカから「SNSで話題になるかもですよ!」と言われてたので、全国指名手配を食らった感覚で顔も身分も世間に公表されているもんだと自覚していたが、名前が知れ渡っているだけで、実物では取り上げられていないらしい。

 クロノス新聞でもシャーレの先生現る!?という記事でしか上げられていないので仕方ないといえば仕方ない。でなければシロコが一眼見ても分かるはずもなく。

 

「俺は連邦捜査部──『シャーレ』。お前たちの先生ってやつだ。名前は名札の通り、ホラ…」

 

 上着のポケットから名札を取り出し、見せびらかすように掲げた。

 ブランブラン、と力なく虚空を泳ぐように揺れる連邦捜査部特注シャーレ顧問の名札は、自分自身の証明を示すものだ。

 

「と、いうことは…貴方がシャーレの先生!?」

「わあ!漸く申請が通ったんですねェ⭐︎これで安心です♪」

「これで補給が受けられる!!」

 

 連邦捜査部の顧問と聞き、生徒達が向ける疑心暗鬼の眼差しは一転、明るい希望の光に満ち溢れたような笑顔が照らされる。

 

「あー……蓄電器でも良いんだけどさ、充電できるモンってある?話を進めるには俺の端末を利用したいんだが…生憎切れちまって」

 

「ん、それなら私の貸すよ」

 

「………なぁシロコ、流石に気が利きすぎやしないか?」

 

「私、サイクリングで距離が長い時…泊まり込みする時あるから、常時蓄電器は持ち歩いてるの」

 

 シロコの有能さに少々恐怖さえ感じる転弧は、シロコのポケットには四次元らしきものが付いてるのではと錯覚してしまう。

 シッテムの箱を充電し数秒後、プン…端末の赤いバッテリーが点滅する。

 少し待つこと2%と表示され、明るい画面へと切り替わる。

 

「確かシャーレ…俺に依頼寄越したの、アヤネって生徒だったよな?どれだ?」

 

「あっ、ハイ!私です…私が奥空アヤネと申します!」

 

 急に名前を呼ばれたことにビクッ!と反応しながらも、一歩前に足を出す。先ほどの不審者とだらし無い汚れた大人とは一変し、自分達の救難に応えてくれた頼もしきシャーレの先生へと印象が変わった為、抵抗感はもうない。

 奥空アヤネ――赤縁メガネに、エルフ耳、白い花の髪飾りが特徴的な、普通の高校生だ。

 礼儀も良く、言葉遣いも丁寧で、声もハッキリとしている。

 

 

「……よし、確認するぞ?数日前にシャーレの手紙を寄越した差出人は奥空アヤネ。当事者である生徒はいるな……内容は『支援物資の要請』で間違いないな?」

 

「…ッ。はい、問題ありません」

 

 初めて真剣な声色で問いてきた先生に、アヤネは気を引き締め、返事をする。

 さっきまでセリカでさえ「何だコイツ」という頼りない一面があったにも関わらず、こういう場面では大人としての真面目さを晒すのだから、少々反応に困ってしまう。

 

「で、だ――支援物資の以下の内容はこうだったな…」

 

 シッテムの箱を起動し、数日ぶりに見たアロナの『お久ぶりです先生ェ !!アロナ、もう先生に逢えなくて野垂れ死んでたかと思いましたよぉ…!』と涙を流しながらカステラを頬張ってる( …というか心配してるのかコイツ?)のを見事にスルーし、出張前に準備した契約書のデータを開いていく。

 

「物資内容は以下の点、お前の目も通してくれ」

 

 シッテムの箱をアヤネに手渡しし、液晶画面を見せる。

 映し出されたのは『物品譲渡証明書』――

 

 医療物品

 アビドス高等学校物品セット

 弾薬――5.56mm × 45mm NATO弾

 弾薬――7.62mm × 51mmNATO弾

 弾薬――9×19mm

 弾薬12ゲージ

 

 これらの支援物資を無償で補償する。

 ――以上の点が、奥空アヤネが記載した詳細の物資である。

 

「その上で、記された証明書に漏れがないか…確認を取りたい」

 

「はい、以上で問題ありません!!有難う御座います!これで漸く安泰です…!」

 

「そうか……数日間過ぎちまったから、記載した支援物資しか持ってこれなかったが、他に欲しいもんはなかったか?」

 

「いえいえそんな…充分です!何からなにまで気にして頂き有難うございます…!!」

 

 今まで孤立無援だったアビドス高校の生徒にとって、シャーレの支援物資は正に砂漠で水を求めた者に対する救済とも呼べるだろう。

 ここまで自分達のことを気にかけて、細かい部分まで気を遣ってくれる先生に、アヤネは心が暖まるのを感じる。

 書類作成はリンに連絡を取って作成手順を踏まえて申請したので問題ない。

 これもアロナとやり取りをした結果だろう。

 

「私、ホシノ先輩起こしてくるね!」

 

 と、ここで質問を投げる前にセリカは教室の扉を開け、飛び出すように出ていった。

 …セリカ。

 猫耳、ツインテ、アヤネと同じ同級生。まだ詳しいことは知らないが、俺の中の第一印象は死体遺棄を試みた常習犯というイメージの箔が強くついた。

 

「……なぁ、確認したいんだけどさ。アビドス高等学校の生徒って、他はどうしてんだ?全員って訳じゃないだろ」

 

 …改めて、転弧は内心思っていた疑問を生徒達に吐いた。

 それを聞いた三人は、複雑そうに表情を曇らせる。

 ……どうやら、デリケートな部分に触れちまったか。

 

「それは…」

「……はい、私とセリカちゃん、シロコ先輩にノノミ先輩、そして最後がホシノ先輩――この5名のみです。ここアビドス高等学校の生徒達は私たちだけで構成されている校内唯一の部活なんです」

 

「………………………は?」

 

 内心何かしら不登校なり事情があるのだろう、と軽く考えながらペットボトルの水を飲んでいた俺の思考を、ブッ壊すかのようにアヤネが正直に質問に答えた。

 言うことを躊躇っていたノノミをお構いなしに、アヤネは真っ直ぐ俺の瞳を見つめ、詳細を答える。

 

「元々アビドス自治区は異常気象もあって人が少ない上に、日々学校を占領しようと迫り来る暴力組織に対抗しており…私たちだけでも何とか学校を守れてるのが現状と言いますでしょうか……」

 

「…………つまり、このデッカい学校に在籍してる生徒は五人ってことか?」

 

「ん、そう言うことになる。昔はアビドスも三大学園に負けない位大きな学園だったってホシノ先輩が言ってたけど、転校したり中退したりする生徒が続出した結果、私たちだけが残ったの」

 

「…………こんなん、コミックでも中々見かけねェぞ。五人で、この居場所、守ってきたのか」

 

 少数精鋭で日々迫り来る暴力組織に抗い、周りの生徒に流されず最後までこの居場所を守ろうとしている生徒に、転弧は何か思うことがあるのだろう。

 ――……確かにアロナも、この学園は昔はかなりの規模だったと言う情報を話していたのは覚えている。

 シロコも昔はアビドスにはオアシスのプールやら祭りがあったとも聞いた。

 市街地はここからかなり遠く離れた場所にあるのも聞いている。

 

 ……とはいえ、幾らなんでも5人は少なすぎるだろう。

 

 聞いたことがない。

 もはや学園として機能してるのかさえ怪しい。

 こんな状態になって漸く「支援物資」を依頼した辺り、それ以外にも苦悩は沢山あっただろう。

 …よく、ここまで頑張ったなと感心さえ湧く。

 

「だから、支援物資の申請が受理されて、本当に助かりました!」

「ん、改めて…有難うね先生」

「これで心置きなく学校を守れますね⭐︎」

 

 自分達の居場所を守るために、今残っている生徒で結束して抗っている。

 抗う矛先は暴力組織。

 オマケに異常気象が原因で他の生徒は五人を除いて消えていったとさえ聞く。

 

 

「……………成程、ね」

 

 

 アビドス高等学校――どうやら俺が最初に承った仕事にしては、幸先が良いのやら困難だの何とやら、だ。

 俺は他の学園の内部事情に詳しく首を突っ込んだことはない。

 雄英高校とはまた違う…この学園は、まるで昔の俺が連合の居場所を…――

 

 

 

 ダダダダダダダダダ──────!!!!

 

 

 などと呑気に物思いに耽っていると、突然鳴り響く夥しい銃声が思考を掻き消すように貫いた。

 

「ッ!!噂をすれば…!!」

「今の銃声は……」

 

 窓ガラスが割れ、教室内にも散弾が侵入する。

 シロコの怒りを孕んだ声色に対し、転弧は相変わらずマイペースに落ち着いていた。

 

「ひゃーーっははは!撃て撃て!奴らは既に弾薬の補給が尽きている筈だ!襲撃して一気に畳みかけろ!」

「今日こそこの学校は我々カタカタヘルメット団が占領してやるのだ!!」

 

 甲高い笑い声が、

 攻撃性の含む声が、

 嘲り笑う声が、

 

 乱射する銃撃と共に笑い声が聞こえてくる。

 

「アイツら性懲りも無くまた…!!」

 

「……アレが例の暴力組織ってやつか」

 

「アレは…カタカタヘルメット団です!武装して此方の学校に侵入しようとしてきます!!」

 

 なんつぅチープな団体名だ。

 まっ、シャーレ争奪戦と同じ有象無象の不良にはお似合いの名前か。と口角を釣り上げる。

 とはいえ流石に校内に侵入されたら面倒だな…。

 雄英は校門にバリアが張ってあり厳重なセキュリティが実施されていたり、士傑は校則的にも厳しいこともあってか侵入が難しかったりと、名門校はそれなりに凄かったんだなと殊更実感させられる。

 その点この学園は枯渇的なことも踏まえセキュリティという概念すらない。

 ……本当によくここまで生き延びれたな、コイツら。

 貶してるのではない、褒めてるのである。

 

「ホシノ先輩連れてきたよ!!ほら、いい加減寝てないで起きてってば!!」

 

 ガラララ!!と扉を開く大きな音に、この場にいる全員の視線がセリカの声と共に振り向く。

 

「むにゃむにゃ…ヘルメット団めぇ〜〜…これじゃあオチオチ眠れないじゃないかぁ」

 

 首根っこを掴まれて眠たそうに、溶けた気怠い声で愚痴を溢すのが、最後の生徒。

 

「ほら!先生も来たんだし、委員長なんだから確りしてってば!!」

 

「やぁやぁ、どもども。小鳥遊ホシノだよ、よろしくぅ」

 

 ――小鳥遊ホシノ

 アホ毛にピンク、オマケにこのメンバー全員の中でも一番の小柄な生徒。

 ……オマケに委員長、らしい。

 つまり…このアビドス高等学校のボスとも言える存在だろう。

 人を見かけで判断する訳ではないのだが、襲撃を受けた反応の危機感のなさに疑わしくなってきた。

 

「………なぁシロコ、コイツ大丈夫か?」

 

「ん、大丈夫。実力では全員の中で一番だから」

 

 マジかよ――と、口から溢れそうになる。

 ……信頼、できんのかコレ?

 

「お前がホシノか。緊急事態でも眠気が取れないのは特異体質か何かか?」

 

「んぁ〜〜?うへぇ、どうだろうねぇ……?まぁまぁ、気難しい話は置いといて、適当によろしくねェ」

 

「…………」

 

 相変わらずマイペースな声色トーンで、無気力に返事をするホシノは、周りの四人とは違って……()()()()()だ。

 ふわあぁ〜〜っと欠伸をしながら、面倒くさそうに武装する。

 大きな灰色の盾に個性的なショットガン――成程、ユウカと同じタンカーか。

 

「ほーら、ホシノ先輩!さっさと校庭に出動する!!」

「わわッ、セリカちゃん!そんな腕を引っ張らないで、おじさん足腰弱いんだからさぁ〜〜」

 

 ……おじさん??

 ホシノのおじさん呼びにクエスチョンマークを浮かべる先生を他所に、シロコは無事割れてない窓を開ける。

 

「先生は避難してて。それに、先生のお陰で弾薬と補給品は充分――もう守ってるだけの私達じゃない」

「はーい、今度は反撃開始ですよォ⭐︎」

 

 そして、高い場所から二人は飛び降りる。

 おい、ここ確か校舎3階じゃなかったか…??

 いや、キヴォトス人にとって3階からのワンチャンダイブすら大したダメージにもならないのだろう。

 

「おいおい…マジかよ。とはいえ、今の俺は水の飲み過ぎで下手に動いたら吐きそうだ……いや、逆にヘルメット団って奴らの目の前で吐いたら隙くらいは作れるかな」

 

 至極最低な策略である。

 隣で聞いたアヤネでさえ二度見をしている。

 …今のは冗談だと聞き流すことにしたアヤネは、コホン!と軽く咳払いし

 

「私がオペレーターを担当します!もし万が一、漏れた敵が此方に侵入してくるケースがあれば私が即座に先生を守ります!!」

 

 成程…アヤネはオペレーター役か。

 通信機による情報共有は重宝ものだ。

 激戦区や激しい抗争、少数で数多くの敵対者との対峙に於いて、戦況では目前のことに集中してしまい視野が狭くなる。

 当然、臨機応変に対応できる優秀な人間もいるが、皆んなの眼となり皆に情報を発信するだけでも生存率や勝率は大きく変わる。

 アヤネは液晶画面をタップ操作して、ドローンを操縦。

 更には視界もリアルタイムで映されるので、上空から戦況を見渡すことが可能。

 

「……頼もしい、が…俺が何もしないってのはこう、癪だな……」

 

 死柄木弔の提案である崩壊の譲渡――今にしてチラついてしまうのは、個性がなく戦える術がないからか。

 一応身体能力には自信はあるのだが、悪く言えばそれだけなのだ。

 …まあ、敵の攪乱や一人二人、行動制限をかけることは安易なんだけどさ。

 

『先生!何か忘れてませんか?』

 

 さてどうしたものか…と思考を巡らせている最中、シッテムの箱が青白く光る。

 やる気に満ちたアロナに意識を向ける。

 

「んぁ?あー…アロナか。なんだよ、俺はちゃんと生きてるぞ。カステラ美味かったか?」

 

『違いますそうじゃないです!えへへ、ここから漸く、アロナちゃんの本領発揮ですよ!!』

 

 本領発揮だぁ?

 眉を顰める転弧を他所に、アロナ一瞬だけ目を閉じた後、プワァ……と青白い光が溢れ出す。

 幾つものホログラムが投影され、スクリーン画面が空中で表示される。

 目を開いたアロナはそれを慣れた手付きで操作し、事務作業をこなすようにタップ操作をワンオペで行っていく。

 幼少なアロナとは一変し見違えるアロナの姿に、思わず固唾を飲む。

 アロナの視覚、脳内情報、シッテムの箱に表示される視認可能のホログラム――それら全てが手に取るよう理解していく。

 それはシッテムの箱の主である志村転弧にのみ与えられた権限である。

 

『敵の数、弱点や生徒達のスタイルと装甲、武器、フィールドを写せます!そしてシッテムの箱による意識共有により、志村転弧先生と共有致します!』

 

「………おいおい、なんだこりゃあ…。すげェぜアロナ……!!流石、俺の秘書なだけはあるな…見違えるぜホント…ッ」

 

 えっへん!と高らかに両腕を組みながらドヤ顔を誇るアロナに、こればかりは転弧も驚かずにはいられない。

 彼女の有益な働きには素直に賞賛に値する。

 

 液晶画面内に表示されるは、アビドス高等学校の生徒達。

 

 striker

 砂狼シロコ――ミドル(アタッカー)

 黒見セリカ――ミドル(アタッカー)

 十六夜ノノミ――バック(アタッカー)

 小鳥遊ホシノ――フロント(タンク)

 

 Special

 奥空アヤネ――バック(ヒーラー)

 

 生徒達の立ち位置、武器、得意戦術、様々な情報が記載されている。

 他にも敵の情報はカタカタヘルメット団20名。

 弱点情報、地形適正、様々な情報が脳内に渡っていき、処理していく。

 

(まるで『サーチ』で情報確認をしているみたいだな……シッテムの箱にこんな機能が備わってたなんて……侮れねェな。連邦生徒会長サマとやらも…)

 

 然もコレを俺に遺したのだから。

 不理解な聖遺物だからこその神秘であり、タブレット端末で片付けていいモノでもないことも、七神リンが厳重に保管していたことも、狐坂ワカモがシャーレ争奪戦時に狙っていたのも、全て納得する。

 仮に俺が『サーチ』の個性をストック所持していたとしても、この世界に個性の概念がない以上使い道がゼロなので、シッテムの箱の神秘には殊更驚きを隠せない。

 個性のない超常を、人は神秘と呼ぶのであれば、仮に俺がこの世界で個性を所持すれば、どのような概念と解釈を齎し……いや、辞めておこう。今考えるのはそんなことじゃない。

 

 

「今まで散々、この学校に襲撃(ちょっかい)出して来たんだよな。じゃあ今度は俺らが反撃するターンッて訳だ。

 

 自分達が返り討ちに遭うってことも、想定してるッて訳だもんなァ???」

 

 

 俺は久しく、嘗て死柄木弔と似た不敵な笑みを浮かべ、シッテムの箱を活用する。

 

 

 こっから反撃――スタートだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 死柄木弔を通した志村転弧は、良くも悪くも放任主義且つ自由主義者だ。

 仲間達が勝手に行動を起こし、好きなように活動し、好きなように生きれば良い。

 然し放任とは下手すればトラブルを巻き起こしてしまうリスクが高い。前世でも仲間達を好き勝手動かした結果、潜伏期間中に荼毘が焼死体の事件を相次いで起こしたり、トガは定期連絡もなしに士傑に侵入したりなど、連合のマークは日々悪化していたこともあった。

 普通であれば不都合が働く危険因子は直ぐに取り払う為に対策するだろう。そうなれば放任はいつしか監視をすることになる。

 そこで自由主義が働く。

 自分にとっての不利が働くのであれば、放任はいつしか規制を強いる。だが死柄木弔は「やめろ」とは言わなかった。

 自分の家庭事情や今まで過ごして来た環境、連合内の自由奔放が売りだったのもあるにせよ、彼の解放的思想、ルールに縛られない自由らしさが、連合たる首領の器とも言えるだろう。

 

 それらを踏まえ普段であれば今回のカタカタヘルメット団――暴力組織も、適当に片付けるなり何なり好きにやって貰って構わない…という思考だった。

 

 

 然し今回ばかりはそうではない。シッテムの箱に秘められた神秘、並びに超高性能AIアロナの能力や情報共有。

 これらの秘術は先生(自分)だけの特権であり、新たな原点とも呼べる。即ち――今回はデモンストレーション。

 新たなスタートラインとして、志村転弧が学園都市キヴォトスの先生として、先生なりの闘いをする為の指揮。

 崩壊があれば、というのは個性がある前提の話。

 無個性の俺にはナビゲートをしてくれるアロナを始めに、シッテムの箱というキヴォトス全土のインフラ機能を制御、並びに加えて生徒達に干渉し命令を与える。

 

 

 シッテムの箱の権限を使用し、生徒達の指揮を執る。

 これが俺の新しい戦術――俺だけの戦い方だ。

 

 

(…前にドクターが遺した端末装置で脳無を使役してたような感覚だが、それとはまた違う、高性能…)

 

 前世は先生の個性と肉体改造強化を施した後、不完全とはいえ目覚めた際に使用したニア・ハイエンド脳無を思い出す。

 端末一つ操作するだけで、屈強な兵士達を従わせ、想い通りに暴れてくれた。

 

 だがシッテムの箱は違う。

 自身が生徒達の指揮を執り、勝利へ導く責務がある。

 それには知識量、判断力、経験値、様々な要素が必要となっていくだろう。

 

 

 指示がない場合は生徒達が自由に戦う。

 だが万が一生徒達が窮地に陥った際は先生が指揮を執ることで、理不尽を打破させる。

 成る程…なるほど……。

 本当に死柄木弔が連合にいた頃と、志村転弧がシャーレで先生やるのと大差はないんだな。

 

 どちらかと言えば今の方は個性がない分、生徒に指示を出すのがより便利で効率的になっただけ。

 

 だがたったそれだけでも戦況も大きく変われば、自身の適応力や成長も促せる。

 

 

 

「よし、今回は俺が指揮を執る」

 

 

 カタカタヘルメット団相手に遅れを取る連中ではないことは、先程の会話で理解している。

 今までだって、これからだって自分達の…自分なりの戦いで切り開いてきたのだろう。

 

 だが、それだけなのだ――

 俺がこれから先の未来…まだ見ぬ生徒を、これから出逢うであろう生徒達を導く為にも、経験が必要だ。

 

 相手が凶悪な暴力組織であれば、下手な指揮は味方を全滅へ導くのだろうが、生憎と相手は有象無象…チンピラが寄せ集まり武器を手にして、調子に乗ってるだけ。

 ……それに。

 

 

 ――弱いもの虐めしてヘラヘラ笑ってた分、先生である俺が介入したって文句はねェよな???

 

 

 自身の仲間が傷つけられれば怒るのは当然の理。

 まだ出逢ったばっかで、コイツらのことなんて何も知らない。

 俺の生徒…だという実感も、正直言ってしまえば日も時間も浅すぎるから尚のこと。

 

 だが…砂狼シロコはそんな見ず知らずだった俺を助けてくれた。

 シャーレの先生ではなく、一人の人間として。

 それなら少なからずその恩義には、報ってやらねェとな。

 

 

 

 

 

 

「オラオラおらぁ!!どうしたどうした!?弾薬も物資も少なくなって苦しいだろう?さっさと学校を手放せよ!!もうこの学校は我々カタカタヘルメット団のモンだ!!」

 

 

 ダダダダダダダダ────────!!!

 カタカタヘルメット団構成員の一人が、軽機関銃を乱射しながら高笑いに宣言する。

 

 

「だァれが手放すもんか…!!ここは私たちの居場所なんだから、死んでも離さないッての!!!」

 

 セリカは鬱陶しそうに、苛立ちの滲んだ声で悪態を吐く。

 

「けど、どうして私達の支援物資が底を尽きそうなのを知って……」

 

 アビドス校舎の3階。

 俺の隣でアヤネが疑問を持って呟く。

 アヤネの持つ通信機器端末は、ドローン操作だけでなく生徒達の無線通信機からも外部の会話など受信可能だそうで…便利なことだ。

 

「……まあ、大体推測は可能だが…その為にも先ずは奴らを終わらせよう」

 

 色々と推測は可能だ。

 だが情報不足なのも事実…憶測でしか考えられない現状、その推理が当たるとは限らない。

 その為にも遅かれ早かれ愚連隊を倒してから、一人や二人くらいは尋問するべきだ。

 それでもシャーレ争奪戦同様に、使い捨て前提の駒として何者かに利用されてる節も濃厚である。

 俺はシッテムの箱の液晶画面を操作していく。

 

『ホシノ――タンクEX。視線誘導を頼む』

 

「うへぇ!?」

 

 瞬間、俺の呟きは音声を拾い、シッテムの箱の機能を駆使して小鳥遊ホシノのヘイローを通し聴覚として送り込む。

 咄嗟に自分に声を投げられたことに、遮蔽物で隠れてたホシノがビクッと驚いた。

 

「びっくりしたぁ〜〜…!急になにさもぉ!」

 

『嗚呼そっか…慣れてないのか。アヤネの通信機器とは違ってこっちは連邦捜査部シャーレから授かったモンだし…。慣れてないだろうけど頑張ってくれ。んでだ、威嚇でも良い。射撃と同時に盾で防御形態維持したまま前進――ヘイトを買ってくれ』

 

「えぇ〜〜おじさんが囮役ぅ?前に出ろってぇ〜〜〜??」

 

『おじさんじゃねえだろ、寿命二倍にでもなってんのか。頼むぜ、お前の持ってる盾は何のためにあるんだ?その盾で、皆んなの力になってくれ』

 

「………」

 

 俺の言葉に小鳥遊ホシノは数秒黙り込んだ後、「それもそうだね…」と、いつになく真剣な声色で折畳式の重装甲の盾を展開していく。機械音と金属音が響き、シールドを武装。

 

 言われるがままに、指示通り遮蔽物から盾で身を守り隠れながら、片手でショットガンを駆使して辺りを攻撃。

 

「なッ!?急に反撃して…ッ」

「確かにそうだね――」

 

 どうやら転弧先生の言葉にスイッチが入ったらしい。

 それは彼女の核心か、或いは地雷か。

 先ほどの面倒臭そうな反応とは一変し、いつになく珍しい目つきで抵抗する不良を鎮圧へと追い込む。

 

『よし、一気にヘイトがホシノに向かった。その間…セリカ、遮蔽物をランダムに駆使して援護射撃。隠れてる奴らが数人いるから、顔を出したら優先的に狙ってくれ。

 ヘルメット団の奴らが後方で援護射撃をしてる…から、シロコはホシノに視線が集まってる間、中間距離で手榴弾投擲――その7秒後、ドローンで更に鎮圧を頼む。奴らの援護を断つぞ』

 

「うわっ!?ちょっ、びっくりするじゃない!!ったく、分かったわよ!!」

「ん、了解」

 

『反撃の隙も、逃げる手段も与えない。ノノミは45度の方角へ20m走ってくれ。距離を取ったまま、ホシノが弾薬装填に入ったらリトルマシンガンで一掃だ』

 

「はぁ〜〜い、了解です⭐︎それにしても凄いですねぇ、ヘルメット団の皆さん、遮蔽物に隠れてない私が表に出ても気づいてないですよぉ〜♪」

 

 小鳥遊ホシノによるタンカーの視線誘導。

 砂狼シロコの手榴弾とドローンによる火力支援。

 黒見セリカの優秀スナイパーによる手腕。

 

 小鳥遊ホシノに視線が向いても、攻撃が通らないのであれば違う生徒に攻撃を向けようとする。

 ならばホシノがヘイトを買ってる間、その意識が他に向ける前にシロコの火力支援で敵の選択肢ごと撹乱。

 隠れて此方の戦力を削ろうと遮蔽物に隠れながら援護射撃をするので、セリカには援護射撃を要請。隠れ蓑に対抗するは隠れ蓑。

 この三大要素の脅威にヘルメット団は自分の身を守ること、敵に対抗すること、撤退をするか否かで迷うはず。精一杯で視野が狭まれば、残りのノノミには視線が向かない。

 だから、遮蔽物に隠れてなくても彼女の存在には誰も気づかない。

 高火力と広範囲の武器を持ってる脅威すら気付かせない。

 

「な、なんだよコイツら!?急に……」

「前までこんな戦い方じゃ……いてっ!?ちょ、盾で殴ってくるなんて…!!」

「待ってろ今助け……ぐぁっ!?」

「ちっ!さっきから援護射撃して隠れてる奴…遮蔽物で移動してるから捉えられない!!」

「ドローン来るなあぁぁぁ!!!」

 

 

 各々が自身の役割を果たし、指示通りに動いていく。

 この手の戦略は幼少期の頃からロールプレイングゲームを駆使していたので、より効率良く生徒達のポテンシャルを発揮させることができる。

 隣にいたアヤネは思わず口を開きながら呆けている。

 凄い…私たちのことを、より的確に指示を送る先生に、自分よりも経験も判断力も違うのだと殊更実感させられる。

 先生だからそうなのかもしれない。然し…

 

「アヤネ…は、ドローンで救援物資提供か。そのドローンを物資の代わりに爆薬とかで代用できたりするか?」

 

「……へっ?あっ、はい!えっと、ですね…」

 

 すると突然名指しをされたので、思わず取り乱してしまう。

 

「爆薬は現在手持ちにはないので…弾薬や医療品での対応がメインになります。すみません、ご希望に応えられなくて……」

 

「そうか…なら良い。次の機会に移そう。そうだな…救援物資はホシノを第一優先に、次にシロコに頼む。嗚呼それと……アヤネ、ちょっと良いか?」

 

 とは言ってももう直ぐ戦闘は終わりを迎えるが…念の為だ。

 その念の為を拵えることに越したことはない。弾薬の消費だって馬鹿にならないしな。

 

「さぁ――終わりの時間ですよォ〜〜〜〜♪」

 

 そして、ノノミのリトルマシンガンの銃口が火を吹く。

 乱射による轟音の嵐が巻き起こり、弱り追い詰められていくヘルメット団の構成員を瞬く間に蹂躙するかのように倒して、倒して、薙ぎ倒していく。

 構成員の断末魔を最期に、校舎には侵略してきたヘルメット団達が気絶して倒れていた。

 

 今立っているのはこの居場所を守り続けてきたアビドスの生徒達であり、完全勝利だ。

 

「凄い……こんな短時間で簡単に倒せちゃった…」

「ん、先生の指示。凄く合理的で良い」

 

 セリカは信じられないという顔立ちで、

 シロコは普段よりも良いパフォーマンスに少々喜びを感じて

 各々、感じることは多々ある様子だ。

 

「ぐ……こ、の………」

「お、お前ら…!!覚えとけよおぉぉ!!」

 

 残ったヘルメット団は、負けセリフを吐きながら撤退していく。

 ある者は悔しがりながら言葉を吐き捨て

 ある者は気絶した仲間を担いでいき

 ある者は逆に助けてくれと喚きながら背中を見せていく

 

「へへん!ざまーみなさい!!これに懲りたら二度と来ないことね!」

「うへぇ、おじさんなんだか疲れちゃった。もう一度寝直そうかなぁ」

「はい、これで一件落着ですねェ⭐︎」

 

 三人が意気揚々と勝利を噛み締めていると、バチュン――!!と射撃の音がした。

 方角へ振り向くと、シロコが最期に走っているヘルメット団の構成員の足を射抜いたのである。

 

「シ、シロコ先輩何を!?」

 

「ん、先生が一人は確保して情報を絞り出すんだって。聞きたいことがあるとかなんとか…気絶で置き去りにしてるヘルメット団はいつ目を覚ますか分からないから、ヴァルキューレに連絡するんだって」

 

 痛てぇ!!!と校門付近で倒れ伏せている生徒に、シロコは近付いて行き取り押さえる。

 先生が?という疑問を抱くセリカとノノミに、ホシノは直感で先生が何をしようとしているのか、薄々と想像は付いたみたいだ。

 なんてことを話している最中に、校舎の玄関扉から転弧先生が歩み寄ってきた姿が見えた。

 

「おぉ、悪いなシロコ。改めてお前らお疲れ、だな」

「んーん、先生の指示とっても分かりやすかったし、直ぐに鎮圧できた。あんなに早く片付けれるんだ…」

「ソイツは重畳――時間との戦いも視野に入れる。本当はお前らなりの、普段の戦いっぷりも見たかったが……今回は特別だ」

 

 さぁてと、と転弧はシロコが抑えてる不良生徒の前にしゃがみ込む。

 

「クソ…!!テメェが黒幕か…!こんなことして、タダで済むと思うなよ!!」

 

「へぇー……まだそんな威勢のある元気が残ってるとは。で?どうだ――散々見下してた奴らに返り討ちに遭って。土の味を確り噛み締めたか?」

 

「アンタ何者だよ…!!余所者の癖に引っ込んでろよ!!!アンタはこの学校と何の関係がある?!うちらに勝てないからって、アンタはコソコソ隠れてたんだろ?」

 

「………」

 

「ぎゃああぁぁぁ!!?痛い痛い!関節が…!!」

 

「シロコ、お前急にどうした?緩めてくれ、会話ができねえ」

 

「ん、ごめん。今の腹立ったから」

 

 へぇ、俺のこと悪く言われて怒ってくれたのか、なんか嬉しいな。

 

「単刀直入に聞く。なんでこの学校を襲った?理由を吐け――」

 

「………アンタに言う義理はない」

 

「ふぅん、あっそ。喋らないなら良いぜ、お前らが逃げた場所追跡して、特定して、お前らのアジトも、お前らが築き上げてきたモンも、逃げ道も全部ぶっ壊してやる。お前らがやってきたことを、今度はこっちがやったところで、お前は許してくれるんだよな??」

 

「んな――ッ !?だ、大体……私が喋ったところで何になる!?私たちは何の得もしないじゃないか!!」

 

「じゃあこうしよう。お前が素直に喋ったら大人しく帰してやる。気絶した仲間もヴァルキューレには黙っておこう…どうだ、自然な譲歩だろう?」

 

「巫山戯るな!!!私たちはただ、自分たちの為にやったんだ…!仕事のため、お金のため……それなのに、なんで私にそんな仲間を人質に…これが大人のすることか!?」

 

「巫山戯るな?そっちこそ巫山戯るな。こっちは散々お前らの嫌がらせ(暴力)に対抗して、耐え忍んで、自分の居場所を守ってきただけだろうが。それなのにお前らはコイツらに何をした?

 たかが生徒は五人だとお高くとどまって、どうせ誰も助けてくれないとヘラヘラ笑いながら集団でリンチの場ァ設けて、コイツらから何もかも奪おうとして、んでいざ自分達がやられたらこのザマか??

 

 お前は一体何様だ――この際だから言っておくがな、負けた奴に言い訳なんかないんだよ」

 

 

 敵連合の死柄木弔であれば、ここで崩壊させていた。

 だが今の自分はシャーレの先生であり、先生である以上俺は暴力には頼らない。

 

 …真似ではないが、俺も反抗的でクソガキだった頃、どんだけ生意気で反発な態度を取っていても、先生は決して暴力だけはしなかったしな。

 付け加えるなら、父のような人間になりたくない…という根底もある。

 

 この世界は命のやり取りがあるのかさえ曖昧で、死への定義を聞かぬ程に疎く、平和と戦争が隣歩きしている。

 だからこそ、負けたところで死ぬと理解してないから、死の概念がないから、喋ろうとしない。

 

「それとな、大人のやり方かって聞くがな――子供だったら集団で助けを求めてるコイツら虐めて良いのか。

 俺はコイツらの先生だ。俺の生徒に手を出すってのがどう言う意味か、ちゃんと勉強してこい。相手の生徒とか知らねえ、じゃ済まないんだよ。お前らのやってる行動ってのは。そしてお前らが喧嘩ふっかけてきた以上、俺のやり方どうこうに年齢とか関係ないんだよ」

 

 それだけ重要なことを、取り返しのつかないことを、戦争にも等しい行動をしてるのだと、言葉の重みを増す。

 尤も――相手が人殺しも厭わぬ敵だったら、それこそ何の意味も成さない質問なんだけどな。

 

「あ……あぁ…わ、わかった……話す。私たちは、お金が欲しくて…仕事をやってたんだ…」

 

 末端の心が折れた。

 よし、交渉術が上手く機能した。

 

「誰からの仕事だ」

 

「し、知らない!!匿名だったから、つい……」

 

 成る程…蜥蜴の尻尾切りか。

 

「最後の質問だ、仕事はどこで承った。言え――そしたら解放してやる」

 

「ブ、ブラックマーケット……最初はSNSで良い仕事があったから、それに従ってたら信頼を買われて今回の…」

 

「おいそれ闇バイトじゃねェか、マジであったのか」

 

 前世でもない訳ではないのだが、何せ自分達が犯罪行為に手を染める集団だったのでこの手のニュースは疎い方だ。

 

「………行け」

「?い、いいのか?」

「このまま警察に連れてかれたいなら無理強いはしないがな」

 

 シロコ、と俺が軽く呼ぶと、いいの?と目で訴えてきた。

 軽くサインを取り、仕方なくと手離した。

 そのまま末端は逃げるように情けなく走り去って行った。

 

 

 

「本当に良かったの?」

 

「シロコとしちゃあ不満か?そりゃあそうか……自分達に喧嘩ふっかけてきた連中だもんな」

 

「うーん…それはそうなんだけど、先生の言動からして逃さない感じだったから」

 

「確かにこの手のパターンは逃がさないことは多いよな。ぶっちゃけ、昔の俺だったら絶対逃さなかった。だが今の俺は先生だしな。信頼ってのは、何も良いことだけに使うモンじゃない。時には毒にも薬にもなったりする」

 

「?どう言う意味?」

 

「こっちの話だ」

 

 一応アヤネにはカタカタヘルメット団が占領してるアジトの捜索をしている。

 見つけ次第、ヴァルキューレに連絡するか俺たちで反撃しに行くか…第三の手を使うかは俺の選択肢次第だ。

 これを聞いて思うだろう。

 約束は違うのではないかと?

 約束は破ってない――見逃すと言っただけで、襲撃しないとは言ってない。

 本当ならアビドスの生徒達全員に今すぐに襲撃をかまして欲しいのだが…

 

(俺がここにきたばかりッてのもあるが…不特定の情報のまま、暴力組織に乗り込めば別組織からの報復に遭うケースも存在する。

 カタカタヘルメット団を潰せば、協力関係を築いていた別組織がいたとして、アビドスを標的にし、再び争いごとに勃発していくだろう。

 なので焦らず急かさず……が一番であると)

 

「……そいや一方的に言いたいこと言ったけど、シロコは何も言わなくても良かったか?」

 

「ううん、先生のお陰で寧ろ凄くスッキリした。言いたいこと全部言ってくれたし、有難う」

 

 シロコの顔は少しだけ報われたような、清々しい顔色だった。

 自分達のことを、自分のことのように真剣になって怒ってくれたのが、余程嬉しかったのだろうか。

 

 

「改めて、これからも宜しくね、先生――」

 

 

 






セリカ、ノノミ、ホシノは何話してるんだろう?くらいにしか遠くにいたので内容は知りません。

「ふわぁ……うへぇ…?」
ちっ…頼りないのがきたなぁ。
あんな可愛い顔して内心これまじ???

転弧としてはこれどうなの?気づいてるの?と疑わしく思う読者がいると思うのでお答えすると、実は不明です。
けど違和感はある。そんな感じです。
転弧は色んな人と関わったり、疑わしく考えているので、ホシノが他の生徒と違う感情を向けてるのは理解してます。
これにはちゃんとした理由もあるので、話せていけたらいいなと思います。

ホシノと転弧って似てるんだよね。
お互い信頼できるのか??という疑問を持っているのである。


「次回、ホシノが目を開けたまま眠るぞ乞うご期待」
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