俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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16話『作戦会議』

 

 

 

 

 

 

 

『カタカタヘルメット団、郊外エリアまでの撤退を確認致しました!私達の勝利です!』

 

「よし、お前らご苦労さん。初めての指揮にしちゃあ及第点か――」

 

 カタカタヘルメット団を撃退してから数分後、安全圏(セーフティーゾーン)を通り過ぎたのを確認したアヤネの報告に、軽い拍手を送り労う。

 アヤネのドローンによる上空権と、アビドス自治区や市街地、郊外砂漠諸共含めた情報掌握はお手のもの。

 超常開放戦線では、ネットワークを主にハッキングを活用し、或いは人工衛星や通信機器によるGPSで敵の位置を特定していたロングヘアーがいたので、それに近いモノと思えば良いか。オマケにアヤネは人柄も良くマトモな性格だ。一言二言多すぎるガンギマリに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

「わあ!勝ちましたぁ!」

「あはは、どうよ!思い知ったかヘルメット団め!」

 

 ノノミとセリカは喜ばしく勝利を噛み締めた声を張る。

 今まで散々好き勝手やられていたので、欝憤が晴れて精々したのだろう。

 

「そういえばシロコちゃんと先生、さっきあの不良生徒となに話してたの〜?」

 

 腰をさすりながら猫背で、眠たそうに呟くホシノに、んっと…とシロコは先生に目を遣る。

 

「情報を聞いてた。この件については話してやりたいことは山々だが……情報整理とか色々する為にも、まずはアヤネんところ戻るぞ」

 

 何事にも優先順位は必要だ。

 蜥蜴の尻尾切り、

 闇バイトによる匿名、

 これらを踏まえてコイツらが動いたのは私利私欲や私怨による愚行ではなく何者かによって動かされたと考えて良いだろう。

 

 先ほどの「金や自分達のため」とも叫んでいたので、大方金目に釣られて汚い仕事に手を染めた…と解釈するのが正しいか。

 つまり、アビドス高等学校は何者かに何らかの理由で貶めようとしている黒幕がいるということだ。

 

 その黒幕は誰でどこにいるのか。

 黒幕に協力者はいるのか?

 そもそも何故廃校当然にも等しい学園を狙うのか。

 

 ただただ疑問が湧くばかり。

 それらを潰す為にも、まずは詳しくこのアビドス高等学校を知る必要がある。尤も、それを教えてくれるかは別として…だ。

 

「ん、先生言ってよかったの?」

「隠す必要はないだろ。それに情報を聞いてたってのは嘘じゃないからな」

 

 恐らく先生の心の底から吐いてた怒りの問答に、シロコとしては他に聞かされたくないからという配慮を考えていたのだろう。

 確かに砂狼シロコも何度も何度も襲撃してくるカタカタヘルメット団に腹を立てたりもした。

 先生が事情聴取していなかったら、死体撃ちで頭部に何度も銃弾を撃ち込むくらいには。

 私たちに二度と関わらないで、と言葉をぶつける程に。

 

 でも先生の言葉はその比じゃなかった。

 まるで生死を賭けたような言葉の重み。

 自分の大切なモノを侮辱されたような怒り。

 時折堪えているのに溢れ出るような殺気に似たナニカ。

 

 シロコは勘が鋭い。

 狼という名を冠するだけ野生本能が強く、敏感である。

 だからこそ感じるのだろう。

 志村転弧の過去に潜む、死柄木弔(もう一つの原点)を――

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「皆さんお帰りなさい!!お疲れ様です!」

 

 転弧先生率いる、他の四人と共に対策委員会と表示された教室へ戻ると、そこには笑顔でアヤネが出迎えてくれた。

 

「いやぁ、まさかヘルメット団に勝っちゃうだなんてねェ〜。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだしさぁ?」

 

「勝っちゃうだなんて〜じゃありませんよホシノ先輩。勝たないとアビドス高等学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか」

 

「ん、先生の指揮が良かった。隠れた伏兵、適切な距離と判断、計るタイミング……全部やりやすかった」

 

 まあ伊達に頭張ってた訳じゃないからな。

 死柄木弔としてのゲーミングプレイ、リーダーシップ、超常開放戦線の最高指導者たる経験の賜物のお陰だ。

 逆に言えばシロコ達ほど優秀な戦力がいながら、生徒達に満足のいく指揮を取れないのは、三流以前に生前にさえ泥を塗ってしまう行動なので、俺は常に誇りを持って、胸を張って、コイツらの望む未来を導かなければいけないのである。

 

「今まで寂しかったんだねシロコちゃん。パパが帰ってきてくれたお陰で、ママはぐっすり眠れまちゅ」

 

「パパ扱いやめろ」

 

 ホシノなりの冗談なのは知ってはいるが、俺にとっては地雷なのでやめて欲しい。良い思い出じゃなく嫌な記憶が濃いのだ。

 オマケに先生に利用されていたというのだからより意味合いは二重になるだろう。

 

「いやいや、変な冗談はやめて!!先生困ってるでしょ!それに委員長はしょっちゅう寝てるでしょ!」

「そうそう、可哀想ですよ♪」

 

 俺に続けてセリカが突っ込んでくれた。

 何故だかノノミは笑っている。俺らのやり取りを見て楽しそうにしている様子だ。

 

「あはは……その、カタカタヘルメット団が襲撃してきてしまった所為で、自己紹介が遅れましたが゙改めてご挨拶しますね、転弧先生」

 

 苦笑を浮かべながらも、この場の空気を纏めるようにアヤネが主導権を握る。放っておいたら埒が明かないと悟ったのだろう。

 アヤネのような生徒が、仲間達を裏で支えてくれるのだろう。オペレーター担当と言い、頼もしい限りだ。

 

「私たちはアビドス対策委員会です。私は委員会で、書記とオペレーターを担当している一年の奥空アヤネです」

 

 自己紹介も丁寧で、シャーレ争奪戦初期メンバーと比べても可笑しくないほどに律儀で常識的だ。

 ……前世、初対面で失礼極まりない挨拶をしたトガと荼毘の二人には見倣って欲しいものだぜ全く。

 

「此方は同じ一年生の会計士――黒見セリカさん」

 

「どうも」

 

 アヤネの紹介に、セリカは軽い挨拶をする。

 最初の頃は人質か不審者か、何しにきたのか正体不明な大人で、信頼すらままならなかったものの、現時点では戦術指揮や支援物資の救援に多少なりとも悪くはないと彼女は判断している。

 

「そして二年生、一般委員の十六夜ノノミ先輩と行動班長の砂狼シロコ先輩」

 

「宜しくお願いしますね先生〜〜♡」

 

「ん、道端で助けたのが私」

 

 ――十六夜ノノミ

 ふわふわとした性格で、天真爛漫という言葉がお似合いの……平和ボケしてそうな生徒。

 一見どこにでもいるような、世間知らずっぽさが滲み出てる…ようにも見えるが、シッテムの箱を通じて生徒の情報を処理していたなかで、ノノミはガトリングガンを個人で携帯しているのだ。恰も涼しい顔で汚物消毒と言わんばかりに乱射していた。

 然も体幹が良いのか、それに見合う筋力を有してるからか、ほぼブレてないんだよな。

 なのでただの能天気と見ていたら、本気で痛い目に遭うだろうし、考え方次第ではかなり成長が高い生徒とも思われる。

 

 ――砂狼シロコ

 見慣れぬ自治区、砂に埋もれ廃墟ビルの壁にもたれながら過去の記憶と重なって絶望に浸っていた真中、手を差し伸べてくれた生徒。

 無意識に緑谷出久を想起しては、こんな風に手を差し伸べてくれる人がいたのなら、と思えてしまう程に、俺の中ではどこか大きな存在となった生徒。

 気も利くし、俺が気絶した時に背負ってくれたんだよな。

 

「………あれ?そいや俺なんで気絶したんだ?走ってたとこまでは覚えてたんだが……」

 

「ん、覚えてなかったの?先生、走ってた時に転んで思いっきり頭ぶつけた」

 

「あー……だからか、起きた時に鼻とか顔痛かったのと砂で汚れてたの。意識がプッツン切れちまったんだな。つーことは…」

 

「ん、おんぶした」

 

「………マジかよ。情けねェ醜態を晒したな」

 

「んーん、気にしないで。私も楽しかった」

 

 既に図々しく水分補給で寛いでいたので充分羞恥は晒してるのである。

 どこかズレてる先生と、さも友人のように会話をしているシロコに「あはは…」と苦笑いを浮かべるアヤネは、区切りの良いところで「最後に…」と一声。

 

「そして此方が三年生委員長――小鳥遊ホシノ先輩です」

 

「いやぁ〜〜〜宜しくぅ先生ッ 」

 

「…………嗚呼」

 

 適当な声で軽く挨拶をするホシノに、此方も軽く返事をする転弧。

 どちらも深く言葉を交えない事に、まるで見えない壁が隔ててる感覚だ。

 小鳥遊ホシノ――現時点では不明な点も多い生徒は、一見すると気怠くマイペースなんて言葉では留まらない生徒だ。

 ……もっと深く掘り下げるのは、流石に俺が神経質だと疑われてしまうので辞めておく。

 

「ご覧になった通り、我が校は現在危機に晒されています。その為、シャーレに支援を要請し、先生がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることができました。

 先生がいなかったら、さっきの人達に学校を乗っ取られていたかもしれませんし、感謝してもしきれません……」

 

 大袈裟だろと言いたくなるが、この世界では銃をメインに闘っている。

 弾薬や支援物資がなければ、当然戦う打算はないにしろ、武力行使が可能なのか考えると難しい話だ。

 その為、アヤネの言ってた通り本当に間一髪と言って良いほどに危機的な状況だったと窺える。

 それでもこの五人程の実力者なら、上手く乗り越えれたと思うが……

 

(いや……キヴォトス人が幾ら銃弾に対する耐久が高いとは言えど、無敵じゃないってことだしな。つまり、何百何千も被弾すれば命に関わるって考えると……)

 

 ……ありえない話ではない。

 この世界で誰かが死んだという訃報ニュースは、俺がシャーレに赴任してから一度も報告を聞いたことがない。

 過去の事例を探れば見つかるのかもしれないが、それにしたって人殺し位はあっても不思議ではないこの世界、それすらも聞かない。

 ワカモの犯罪歴も破壊活動が主にというだけで、殺人罪はなかったからな。

 

 不思議な世界だ、本当に。

 

「………なら、乗っ取られたら奪い返すまでだな」

 

「ん、万が一もない。弾薬さえ補給できれば問題ないし……」

 

「……なぁ、話の最中だったんで聞きそびれたが…この『アビドス対策委員会』ってのはなんだ?どういう意味?」

 

「あっ、そうですよね。ご説明いたします――対策委員会とは、このアビドスを蘇らせる為に有志が集った部活です」

 

 ………部活なんだな、コレ。

 

「他の生徒は転校したり自主退学、学校の生徒も殆ど少ないし、砂嵐もあって住民たちも殆どいなくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの。現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのは難しい…」

 

「今日凌いでも明日どうなるか分かったもんじゃねえってことか…。アビドスを蘇らせるってことは、つまり……それはアビドス自治区、住民を増やすってことか、或いは生徒を増やす…両方か?具体的な内容はどんな感じなんだ?」

 

「すみません……今は具体的な計画は難しくて……」

 

「ああ良い、気にすんな。つぅか五人でどうにかしようって守りながら考えてんだろ?」

 

 

 ――計画はあるのか?

 

 ふと嫌なやつの顔を思い出した。

 俺は自由奔放たる人間なので、相手の計画にとやかく言う気もなければ、口出しすることはない。

 そもそも、この世界にヒーローは存在しないのだ。

 

 俺らの世界では、人工的な意味で街の被害による建物の復興はかなり多かった。

 敵との過激な戦闘は、建物や街に被害が被る。

 ヒーローが倒した、だけで終わるほどあの世界はコミックのように簡略されていない。

 なので基本的に国が税金や保険など適用して損害を受けた被災地の復興を活動したりする。

 幾ら街が壊れても、作り直しては復興するのもある意味ヒーローや国のお陰ともいえよう。

 

 

 だがこの世界はそうじゃない。

 ヒーローが存在しなければ、砂嵐や猛暑による気候などの自然災害による救助がない。

 埋もれてしまっては元も子もなく、力がないので選択肢が狭まれている。

 助けてくれる存在がいないので、自分達でなんとかするしかない。

 

 

 ――ふと思う。

 自分が壊したかったと、錯覚していたあの世界……ヒーローなんてものが存在しなくなり、好き放題生きていくとして、それが果たして本当に正しかったことなのかと。

 

 ヒーローを根絶やし、全てが崩壊したその未来をアイツらが作ったとして、待ち受けている未来が現状のアビドスであれば?

 

 

「……難しいな……」

 

 

 まあ、あの時は壊してから考えるってスタンスだったのもある。

 ドクター曰く、敵とは戯言を実践する愚か者を指すのだと。

 だが今の俺は…先生なんでな。

 

「もしシャーレの支援がなかったら、今度こそ万事休すってところでした……」

 

「だねぇ、補給品も底を付いてたし、流石に覚悟したね。なかなか良いタイミングに来てくれたよ先生」

 

「うんうん!もうヘルメット団なんてへっちゃらですね!大人の力って凄いです⭐︎」

 

 ……随分と、過信してるな。

 いや、コイツらの実力なら好き放題したとしてもあの集団など訳ないと思うのだが気の所為だろうか。

 

「でも、根本的な解決にはなっていません。こんな消耗戦…いつまで続けなきゃいけないのでしょうか…。ヘルメット団以外にも、たくさん問題を抱えているのに…」

 

 アヤネは頬を膨らませながら悪態を吐く。

 ただアビドスを復興させたいだけなのに、自分達の邪魔どころか学園を奪おうと侵略する暴力組織に欝憤が溜まっているのだろう。

 

 アヤネの言葉に、数人が俯く。

 確かに、なんて言葉が出てしまう。

 支援物資による要請は確かに受理することができた。

 それは喜ばしいことだ。おかげでヘルメット団を始めた暴力組織相手に、対抗できるのだから。

 だがそれだけなのだ。

 ひょっとしたら明日は更に勢力を増やしてくるかもしれないし、何か卑怯な手段を用いることだって――

 

 

「ちょっと良いかお前ら…」

 

 

 と、ここで沈黙を破ったのが転弧先生だ。

 俺の言葉にアヤネは当然のこと、俯いてた生徒たちが顔をあげ此方を見つめる。

 

「さっきのカタカタヘルメット団って、どのくらいの頻度で攻めてきたんだ?」

 

「えっと……一週間で3、4回…記録を確認すると……はい、そうですね。長期的に鑑みた結果、弾薬の量がかなり少なかったのもあり、依頼を…」

 

「その暴力組織ってのは、カタカタヘルメット団ってやつらだけか??」

 

「そう、ですね……はいっ。間違いありません」

 

「成る程……ねっ」

 

 Huum……と髪をぐるぐると指で捏ねながら、思考に浸る。

 ――今回襲撃してきたのはカタカタヘルメット団という組織のみ。

 そして俺とシロコで尋問した末端は「ブラックマーケットで匿名で受けた」と言っていた。

 軽いバイトで手取りの良い金額を受けたと言っており、そこから信頼を買われ、ブラックマーケットからアビドスを襲撃したと考えてだ…。

 奴らを金銭で釣ることにより丸め込み、生徒の少ないアビドスを襲撃させることで簡単に使い捨ての駒が完成したという訳だ。捕まったとしても大元へ辿り着けない為の工作だろう。

 

 正に闇バイトだ。

 つまり、アビドス高等学校に襲撃指示を送った黒幕が存在する。

 その黒幕へ辿り着くには現状データが存在しない以上、闇雲を泳ぐだけ。

 

「アヤネ、俺がさっき頼んだデータ……取れてるか?」

 

「へ?あ、はい!カタカタヘルメット団の追跡…ですよね?はい。ここアビドス自治区内であれば、マッピング機能を駆使して追跡できます」

 

「そいつは重畳――アジトは特定できたか?」

 

「アジト……ってことは、先生――」

 

「ここから30km――カタカタヘルメット団の前哨基地があります!」

 

 先生の問答に、次第に鮮明な答えが見えていく。

 セリカの言葉が喉につまり、アヤネは奴らの追跡を特定できたらしい。

「よしッ──」と、俺は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「カタカタヘルメット団の基地に攻め込んで、二度と俺らに悪さしねェようにこっちから攻撃ぶちかます――そうすりゃあ少しはマシになるだろ」

 

 

 転弧先生の名案に、一同は「おお…ッ!」と声が上がる。

 

 

「先生あのヘルメット団を逃したのってそういう算段?」

 

「まあな。別に約束は破ってないからな――俺は逃がしこそはしたが再び攻めに行かないとは一言も言ってない。気絶した生徒を放置したのだってそうだし、ヴァルキューレに連絡しなかったのも…奴に情報を吐き出す為の信頼を買わせる為だ」

 

 上手いな、とシロコは先生の攻略に感心する。

 言葉巧みな交渉と戦術指揮の腕、一体どこで培ったのだろうか…これも大人だからこその凄みなのだろうかと、シロコは頼もしさを感じていた。

 

「ですが、今からですか?」

 

「そこはお前らの判断に任せる。ただ俺が今回の案を出したのは幾つか理由があるからだ――それだけじゃない。今回の戦闘が簡略化されていたとはいえ、油断は禁物だ。

 俺は先生であってお前たちは生徒……俺はアドバイスを提示したり、今回の支援物資の提供みてぇに手を伸ばすことはしても、自分の選択肢は自分で選ぶべきだ」

 

 個人的には今すぐ攻め入って組織の壊滅をしたいと言うのが、死柄木弔としての意見。

 無力化させることで危険を取り払い、黒幕に繋がる情報を収集したいというのが、志村転弧の意見。

 この二つが混ざり合い、結果的にカタカタヘルメット団アジトを襲撃するべきだと踏み込んだ。

 だがそれはあくまで俺の選択肢。

 俺だけが独断専行では、まるで生徒達の選択肢そのものを選ばせず、こちらが一方的に選んでいるだけである。

 それでは意味がない――ここが先生とリーダーの違いだな。

 

「私は良いと思います!彼方も、まさか今から反撃されるなんて夢にも思っていないでしょうし」

 

「確かにね、私達もやられっぱなしって訳にはいかないわ!!」

 

「私は賛成――ホシノ先輩はどう?」

 

 ノノミとセリカ、シロコは賛成の意を述べる。

 アヤネは此方と同じく皆の意見を聞いてから、という審判的な立ち位置だ。

 

「うへぇ、そうだねぇ。大体先生の言ってることは同意見かなぁ〜。ヘルメット団は数日もすればまた攻撃してくるはず…ここんところずっとそういうサイクルが続いてたし、先生も言ってたけど今日凌いでも明日はどうなるかって言ったら…根本的な解決にはならないしねぇ」

 

 ホシノの同意に、賛成の意を決めた三人の表情が緩やかになるも「ただ…」と、ホシノが先生に振り向く。

 

 

「先生の理由も、念の為に聞いておこうかなぁ」

 

「……は?理由?」

 

「そう、理由。さっき言ってたよね、幾つか理由があるって――」

 

 

 …コイツ、賢いな。

 俺の提案を鵜呑みにせず、自身で芽生えた疑問を聞くことで俺自身の考えを公共で晒す。

 仮に俺が悪い大人だと想像すれば、俺がどんな狙いと算段で考えているのか理解できるから。

 なんだよ…寝坊助かと思いきや、リーダーとしての才覚はあるみたいだな。

 ホシノの意見に、他の四人の視線が俺に集まっていく。

 そうだな…と呟いた後、俺は理由を話した。

 

「組織ってのは俺たちが考えてるほど単純じゃない。蟻の巣みてェにデリケートな複雑構造になっている。

 今回俺らが対峙したカタカタヘルメット団――大方、ブラックマーケットの闇バイトで釣った即席の使い捨て前提の駒だろうな」

 

「使い捨てって…」

 

「世の中悪い大人がいたとして、蜥蜴の尻尾切りをする人間がいても可笑しくないだろう」

 

 俺の先生や、オーバーホールがそうだったように――人を人とさえ思わず、道具として罪や責任を擦りつける悪い大人というのは、キヴォトスの外にも居たんでね。

 俺もその使い捨て前提の駒だったんだけども。

 

「カタカタヘルメット団の後ろに黒幕がいる以上、下手な動きは却ってお前たちに危険を晒すもんだと危惧したからだ。だから最初は、アヤネに情報収集を頼んだ」

 

「ん、けど使い捨て前提なら…仮に私たちが潰しても気にしないんじゃない?」

 

「いいや、マークするぜ。『どうやって支援物資が少ない状態で撃退できたのか』ってさ」

 

「あっ…!!」

 

 と、ここでアヤネは目を丸くしハッとする。

 交戦時にヘルメット団が「支援物資が底を尽く」という発言をしていたことを思い出す。

 

「で、だ――雇われた兵隊達が周期で攻撃している……雇われ報酬を貰ってる以上は、上の人間に定期連絡は入れるはずだ。金で雇った奴らがいつ逃げるか分からないからな。その為にも進行状況は耳に入ってると仮定して良いだろう」

 

 つまり、と転弧はまるでこの作戦会議を攻略ゲームのように、どことなく笑みを浮かべて語っていく。

 

「シロコの言う通り使い捨ての集団がやられたところで、大元に辿り着くのは現状不可――ヘルメット団がやられた後が重要じゃない。俺たちが襲撃した後のケースも視野に入れるべきだ」

 

 俺の大っ嫌いな先生は、育ててくれた恩と同時に凄いと思い知らされたことがある。

 それは、常に先を見据え行動を取ること。

 未来予知という個性はなかったにせよ、あの人の行動力が如何にして確実性で計画の実行性が高いか思い知らされた。

 そんな俺にはまどろっこしい行動も、窮屈なやり方も性に合わない。

 それでも……常に考え遥か先を見据え、行動を実行すると言うのは、俺が神野区で連合と共に逃がしてもらった後、初めて自身で考えたことだ。

 

「視野に入れた結果、おじさん達の身に何が起きるか案じてくれたんだね。じゃあ尚更、どうして今回の襲撃を考えたの?」

 

 セリカが何かを言いかけた時、ホシノが真っ先に質問をしてきた。

 それを聞いたセリカもまた、喉を鳴らして言葉を押さえ込んだ。

 数秒沈黙した後、再び口を開いた。

 

「黒幕がアビドス高等学校を狙っていると知った以上、俺らとしちゃあ放置できない問題だ。俺達を狙ってる奴をどうにか解決しない限り、根本的な解決にはなり得ないのさ。

 …つまり、俺たちが()()()()()()ソイツもいつかは俺たちの前に姿を現すだろうさ――」

 

 ここで、俺の言いたいことを全員察したようだ。

 

 自分たちを潰したいのであれば、わざわざヘルメット団などという暴力組織を使わなくても済むことだ。

 雇うと言った以上俺らに顔を見せたくないか、或いは見せたら不味いのか…。

 パトロンが存在するか、はたまたアビドスに恨みを買ってる人間か…どちらにしろ碌な相手じゃないことは確かだろう。

 

 

「だからまずはカタカタヘルメット団を倒したことで俺らの強さをアピールする。そして付け狙ってる奴らを誘き出しブッ潰す。そうすりゃあ対策委員の言う()()()()()()()()()ことに集中できるだろう??」

 

 

 結局は、アビドス生徒達の為が大きな主張だった。

 長ったらしい説明は、あくまで自分たちの身に起きるケースである。

 メリットとデメリットの提示は必要だ。

 それを知ってるか知らないかだけで、見えてくる形が違ってくる。

 

 

「だがその選択肢を選べば自身に火の粉が降りかかるだろうよ。俺は忠告と、先見の知恵を与えただけだ。アヤネにカタカタヘルメット団以外の組織が居ないことは聞いている。だがそれでも何が起こるか分からない――それを踏まえた上で襲撃するか?他に何か意見があるなら構わないぜッ。

 まだ出逢ってばっかだが…俺は先生だ。その先生である以上、生徒の意思を尊重したい。結局のところ、今のだってあくまで俺が選択肢を提示したまでだしな」

 

 もし違う選択肢を取りたいのならそれでも構わない。

 昔は自分たち連合に刃向かう連中は、全部ぶっ壊せば良いという考えだった。

 敵組織だろうと、協力関係を築いた同盟組織が恨みを買おうと、全部真っ向から返り討ちにしてきた。

 だがその考え方だけじゃ意味がないというのも、これもまた連邦捜査部シャーレ赴任により、自身で考え答えを導いた結果なのだ。

 

 

「け、結局私たちが戦っても良いんじゃない!!変に不安を煽らないでくれる?!」

 

「だから理由だッつったろ。そもそも付け狙われてる以上、それなりに覚悟固めておけよって話だ――どっちにしろ放置したころで大方、装備や武力を高めて襲ってくるだろうぜ。アビドス高等学校の弾薬が底を尽きそうになるッてことは、向こうの構成員の人数も鑑みて、物資や弾薬も比較にならないほど高いんだがな……」

 

 と、ここでもう一つ考えた線としてはカタカタヘルメット団が再び何かしらの手を使って責めに来る危険性だ。

 先に潰しておこうと言う根を摘む行動は、明らかに悪党ではあるのだが……まあ、そこはヒーローも同じ思考だな。

 もしシャーレ争奪戦時の戦車とか突っ込まれたら流石に笑えん。

 

 ヒーローは逃げてきたから強くなった。

 その原理と同じで、奴らもまた逃げて力を培って強くなる。

 太刀打ちできないほど肥大化した組織と対峙すれば、待っているのは破滅だけ。

 

「と、どうします?」

 

 アヤネは再度、チラチラとホシノと転弧を見比べるように目線を配る。

 先生の言葉に嘘偽りはない。

 アヤネとしては先生の意見はご尤もだと気付かされた。

 不安要素はあれど、それを先生は言葉にすることで確実性が成り立った。

 

「………」

 

 ――ああ、この人凄いな。

 そう思ったのには理由がある。

 小鳥遊ホシノは、志村転弧を信頼していない。

 当初の時も頼りない大人が来たのだと、心底興味などなかった。

 

 だが先生がカタカタヘルメット団に襲撃の件を言い出した時は、奇しくも自分が前回から考えてた計画を言い出したことを、偶然とは思えなかった。

 

 一体何を思ってそんなことを言い出したのだろうか…と、不審に思ったホシノは黙ってられずに先生に質問を投げた。

 支援物資の件と言い指揮能力の高さ…は、先生の能力による問題だからそれはさて置き、敵対する暴力組織に殴り込みに行くなんて、何を考えているのだろうと。

 

 もしこの人に何か別の思惑があっての行動で、アビドス生徒達を良くない方向へ進ませる悪い大人であるのなら、例え連邦生徒会が相手でも容赦はしない。

 そんな腹づもりでいた。

 

 だが今回の件で先生は模範解答どころか、更に向こうへ行く遥か先を見据えた答えを提示した。そしてその回答には、自分たちの身に何が起こるかという危険性の提示も含まれていた。

 自分たちの行動が、いかに影響力があるのかと言う知らしめ――それはつまり、委員長である自分に責任という問題を突きつける。

 もし恨みを買った生徒が、アヤネちゃんやセリカちゃん、ノノミちゃんにシロコちゃんを傷つけたら?

 自分は良いとして、何かトラブルが起きたらどうなる?

 それは委員長である自分が責任を負わなくてはならない。

 自分たちが選んだ選択肢に、先生は責任を負う必要はないのだから。

 ぶっちゃけ先生がアビドス高等学校に来たのだってあくまで支援物資の補償、並びにカタカタヘルメット団の侵攻も運が悪かっただけ……つまり、これから先のことは先生が介入しない以上、問題は私たちで解決しなければならない。

 

 上手いな――と、感心せざるを得ない。

 だから凄いな、という皮肉を込めた賞賛を浴びせる。

 自分が先生の弱点…強いては良くない事を企んでるのでは?という不安を突いた結果、まさかこんな返答をするとは思ってもいなかった。

 やっぱりこの人は、()()()と同じで頭が回る……いや、

 

 ――でも…こうも思う。

 本当に自分達を貶めて、子供を食い物にする悪い大人がわざわざ、()()()()()()()()()()()()()とネタ明かしのように敢えて言うだろうか?

 そもそもの話、自分たちの身を案じていなければ前提を話す必要性は全くないのである。

 いや、それに先生は()()()と言っていた。

 まるで自分も仲間だと言わんばかりの……勘違いから来る下手な仲間意識か、それとも()()()()()()()()()()()()()()なのか…。

 

 お人好しのバカ、か…――

 

 

『もし私が騙されたら、その時はホシノちゃんが今みたいに救けてくれるでしょ?』

 

 

 なんで、今になってあの人のことを思い出すのだろう…。

 …――ユメ先輩。

 

 

 

「……――で、良いよな?」

 

「……ノ先輩?」

 

「おい、ホシノ聞いてるか?」

 

「んぇっ…!?」

 

 転弧先生の顔が、ホシノの顔の近くに迫っていた。

 物思いに耽っていたせいで、肝心な時にミスを犯してしまったらしい。

 転弧先生が軽く、ホシノの頬に触れてきた。今になって漸くの事態に気付き、次第に羞恥で頬が赤く染まっていく。

 

「な、なにかなぁ〜〜!?おじさんピンピンだよ!!うへへぇ、やだなぁ…ちゃんと聞いてるってば」

 

「おお、起きてたか。目を開けたまま寝てんのかと思ったぜ。ちゃんとボケてただけで良かった」

 

「ちょっと、幾らホシノ先輩が眠たがりだからって目を開けたまま寝てる人間なんているわけないでしょ!!」

 

 先生はお巫山戯で揶揄い、セリカが呆れたように突っ込んでる。

 …どうやら怪しまれてないようだ。

 いや、怪しまれてたよね、流石に。

 

「で、どうする?他の四人は行くって決まったが……ホシノはどうする?賛成か反対か――」

 

「えぇ〜〜…そんな、おじさんの意見聞かなくたってもう目に見えてるでしょ〜?多数決で四人だし…決まってるような――」

 

「ダメだ。お前の意見も聞いてから、漸くアビドス全員の意思だろ。悪いが俺はガキの頃から仲間外れが嫌いでね――」

 

 

『わっ!トラックがきてて危なかった〜〜…だいじょうぶ?立てる?怪我してたら大変なんだよ?』

『仲間はずれにされちゃったの?じゃあ、僕といっしょに遊ぼうよ!!あのね、あのね、僕も友達がいないから、三人で遊べばすっごく楽しいんだよ!!』

『みっくんともちゃん!ヒーローごっこで一緒にあそぼうよ!!』

 

 

「もしお前一人の意見を取り溢して取り返しのつかないことになったら、俺もコイツらも一生の後悔を背負って生きていく。何より……俺が俺自身を否定しちまうことになる――」

 

 

 ……本当に、信頼できない大人――なの、だろうか。

 心が揺らぎ、微かに鼓動が速くなる。

 この人は、真っ直ぐ私の目を見てくれる。

 そこにドス黒く濁った瞳ではない、純粋でどこか解放されているような…。

 

 

「うへへっ、もォ仕方ないなぁ…。よーっし!それじゃあカタカタヘルメット団を倒しに出発進行!!おじさん、はりきっちゃうかぁ」

 

「だからホシノ先輩はおじさんじゃないでしょ!!私らと何ら変わらないっての!!」

 

 

 ――そうだ。

 仮にこの人が悪い大人で私たちを騙そうとしていても、今度は私が何とかすれば良い。

 もう前回と同じ失敗は犯さない。

 今度こそ、大切な人を離さない。

 

 

 もう、ユメ先輩のように救えなかった――なんてこと、嫌だから。

 こうして六人共に意思は集結し、アビドス対策委員会はカタカタヘルメット団への反撃を開始する。

 

 

 

 

 







小鳥遊ホシノの『先生は責任を負わなくても良いのだから』について補足。
これはですね、まだ借金の話はしてないので『カタカタヘルメット団を倒した後は帰るから後始末は私達にしろってことだよね?』理論です。
でも転弧先生はちゃんと『この行動起こしたら何かしらアクシデントが起こる可能性高いけど君ら大丈夫そう?』というアドバイスなので、ホシノは強く言えないんです。正論だから。だから上手いよなコイツとなってる。
然も理由を話せって言って正直に話してるから尚更だ。


シロコで思ったんですよ作者。
ん、ん、って言うじゃないですか。そこが可愛いじゃないですか?
最近ね、シロコが「ん」て言う度に思い出すんですよ…小大唯が。
シロコの声優は小倉唯、小倉唯といえばネーミングが小大唯に近い…小大唯といえば喋り方が「ん」。「ん」といえば砂狼シロコ。そう!つまりシロコとB組の小大は一緒だということに!!?
……んな訳ねェだろ!!!!



「次回、グレたセリカが早退するぞ。部外者はシロコと一緒に転弧事務所の面々で校内パトロールだ。乞うご期待」
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