俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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17話『地獄のアビドス借金返済事情』

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうだったよ?アビドスの連中は。なんで支援物資も弾薬も底を尽きそうな連中相手に尻尾巻いて逃げてきた?」

 

 ボロいアジト内。

 赤いヘルメットを被った不良が殆どのなか、ただ一人だけ黒いヘルメットを被っているリーダー格と思わしき不良は、苛立ちの声を張り上げる。

 

「リーダー…!そ、それが奴ら……以前襲撃した時よりもダントツで強くなってて…補給物資もこれでもかってくらいには…」

 

「わ、私なんかアビドスの狼のやつと怖い大人に質問責めされたんだぞ!?!!倒れて逃げていく仲間を人質にされてんだよ!!ウチらは仲間だ、見捨てる選択肢なんてあるわけないだろ!?」

 

「リーダー…!!本当に情報は確かだったの!?これじゃあ上に連絡、なんて言えば良いのさ…!!」

 

 ある者はアビドス高等学校の実力に計算外だと言わんばかりに

 ある者はシロコと転弧の尋問に欝憤を晴らすように叫び

 ある者は疑心暗鬼になり糾弾を

 

 各々が仲違いをするように、組織内がバラけていく。

 傷ついた者、

 負傷者を手当する者、

 残ってた不良と撤退した不良とで喧嘩している者、

 

 それもそのはず。

 今日を以てしてアビドス高等学校は我々カタカタヘルメット団が乗っ取り、それを莫大たる資金として引き換える交渉の契約を交えていたのだ。

 だが結果はどうだ?

 生徒を追い出し学校を占領するどころか、帰ってきたのはボロボロになって逃げてきた連中だ。

 

「私を疑っているのか…!?そもそも、怖い大人だと?バカを言うな――あんな廃校同然、落ちぶれた奴らの集まりに好んで味方になるバカなどいるわけが───」

 

 

 ドゴオオォォン!!!

 

 

 瞬間――ド派手な爆破音と共に、頑丈で錆びた工場の扉は爆発音と共に吹き飛んだ。

 

 

「………は?」

 

 

 全員が棒立ちとなり、唖然とする。

 土煙と共に、ブワッ!と煙が形を変え、何かの人影が注意散漫になっているヘルメット団の集団へと突っ込んでいく。

 

「ごめんねェ〜〜おじさん達が落ちぶれで」

 

 ガッ──!!

 鈍く、重々しい衝撃の音と共に、ヘルメット団の構成員一人は声を張り上げる間もなく意識が飛んだ。

 

 呆然とした隙を見せた束の間、唖然としていた空気は一瞬にして異常事態だと認識し銃口を向ける。

 

「だ、誰だ!?敵襲───」

 

「攻勢時ほど守りが疎かになるって本当だったな───」

 

 大人の声と共に、次に現れたのは滑空ドローン。

 カイザーコーポレーションやとあるミレニアム支度に佇む廃墟、或いはヴァルキューレ警察学校に所在する小型ドローンとは違う、独特なオリジナル型の火力制圧機が、ホシノの真上を通り過ぎ、弾薬を発射。

 

 

 ドシュルルン、ドシュルルン─────ボガアァアァン!!!!

 

 

 アジト内は再び爆発を轟かせ、一塊になっているヘルメット団構成員は手も足も出ずに制圧されていく。

 

 ホシノという特攻タンクは視線誘導の役目を負い、

 登場と同時に煙幕で視界を困惑させた間中でシロコの火力制圧ドローンで鎮圧と撹乱。

 後はノノミとセリカは好きなように暴れれば良い。

 

「いやぁ、いざ実践すると違うなやっぱ、意味合いが……」

 

 嘗て自分達も雄英高校合宿先で初勝利を掴んだ後、神野区アジトで爆豪を説得していた最中、トップを始めとしたプロヒーロー達に襲われたんでね。

 あの時の敗因を教訓として活かせたのは大きいな。

 

 煙と共に現れるのは、俺とシロコを始め、右からノノミが、左からはセリカが突っ込み射撃をしながら攻撃態勢。

 左右によるバラけた同時射撃は、人の思考回路を困惑させる。どちらを攻撃すれば良いのか?という一瞬の迷いは、簡単に足元を掬われる。

 それでもひたすらに迎撃されるのは目に見えているが…それも想定内だ。

 

「さあ!悪いことした人達にはおしおきですよぉ〜〜!!」

「アンタ達!今まで散々よくも私たちを甚振ってくれたわね!仕返ししてやるわ!!!」

 

 ノノミのミニガンが火を吹き銃弾の嵐が理不尽にも跡形もなく後方から応戦に駆けつけた増援を薙ぎ倒していく。セリカの精密な射撃はヘルメット団に的確なヘッドショットを決め込んでいく。

 ノノミの大雑把で、然し避ける隙もなく最大火力による暴力乱射は目を見張るモノがある。

 一方でセリカはノノミやホシノ、シロコのような荒々しさはないものの、それでも自身の持てる個性を最大限に引き伸ばし、的確に相手の意識を刈り取っていく。

 ……こいつ、上手いな本当に。

 勿論、ノノミの火力制圧も申し分なく頼りにしている。

 

「こ、コイツら…!!まさか私たちが学校奪取に失敗してから直で…!?」

「あ、アンタはあの時の…!!逃したって言ったくせに…!

 

 リーダー格はまさか本当にあの後直ぐに此方へ乗り込んでくるとは思ってもいなかったのか、その声には焦りと想定外の場面に困惑しており、方や一方はシロコと転弧に尋問を受けたヘルメット団の一人だ。

 

「逃した直後に自分達がやられるケースは考えなかったもんな。どうせ俺らが慈悲を込めて逃したとして、数日後には俺らへの嫌がらせ考えてたんだろ??だから、その嫌がらせごと壊す――」

 

「なッ……?!!」

「だったらなんだ!!態々ご説教垂れにきたのかよ!!」

 

 黒いリーダー格が銃口を向けたと同時に俺は身を低く屈め、前のめりに進もうとするも、横にいたシロコがそれより早くリーダー格へ詰め寄る。

 

「はッ───!!」

 

 銃で対抗…すると見せかけて、武力を試みたシロコはリーダー格の何発かの銃弾を回避し、力を込めて思いっきり腹部に蹴りを入れる。

「く゛ぇっ!?」という間抜けな声が低く鳴り、吹き飛び床へと擦り付けるように倒れた。

 

「何しやが…ッ」

 

 ダァン─────!!

 

「っだ!?」

 

 口答えも許されず、ヘルメットに銃弾を一発入れ、口を閉ざす。

 キヴォトス人も耐久力があるとはいえ、物理法則も鑑みて弾薬が直撃すれば痛覚は働く。

 後遺症や傷が残ることはなくとも、痛みは感じるのだ。

 

「動かないで、もう詰みだよ――」

 

 シロコは鋭い眼光を飛ばし、威圧する。

 一瞬の隙も見逃さない。

 

 

「………ッ。成る程、大人の力を借りて…ってやつか。道理で、ほぼ弾薬の残りが底を尽くはずのお前達が、私たちに勝てたわけだ…。結局は、大人の力か…」

 

 

 苦虫を噛み潰したような表情を、ヘルメット内で溢しながら嫌味を飛ばす。

 それを耳にしたシロコが僅かながら表情を歪ませ、腹部を抑えてる足に力を入れる。

 それはまるで、アビドス対策委員会は実力不足だから、大人という力を借りて自分達を倒しにきました。という遠回しの嫌味。

 実力に自信がないから、先生という大人に付き添われてるのだと。

 

「ぐ…ゥ…!事実、だろう??」

 

「事実だったとして、掴み取ったのはコイツらだ。匿名で従わせられてるだけで、使い捨て前提で雇われてるお前らと、守る為に闘ってるコイツらの実力は等価値じゃあないぞ───」

 

「あっ、先生…」

 

 ツカ、ツカ……と、シロコとリーダー格のヘルメット団に歩み寄る工場内の足跡が響き渡る。

 転弧先生は周囲を見渡しながら、見学にでもきたのかのように、周りを物色している。

 

「なぁ、このアジト良いな。ボロいし古いけど、仮拠点にすんのも悪くねェかもな。前s……万が一の時のこともあるし。つぅか戦車はあるな。やっぱり短時間での面制圧のお陰で面倒なことにならなくて済んだな」

 

「アンタか……。一人、怖い大人……っていうのは…」

 

 おぉ、おぉ…怖い大人だとさ。

 そりゃあそうか――尋問するなんて、前世でもよくやってたしな。

 とはいえ殺さなかっただけ俺の中でも大分甘えさせてる方なんだがな…。まあ、もう()す為に生まれ持った手ではないんでね。

 

「良いだろ、俺の指揮。けどな、指揮をしただけで勝てるほど世の中甘くなくてさ…。けど俺を通してアビドスの皆んなが勝てたのは、紛れもなくシロコ達の実力で掴み取ったもんだろ」

 

 例えば先生の指揮が如何に満点だったとして、シロコ達のレベルが1であれば、幾ら指揮が凄かろうと意味がない。

 今までアビドス対策委員会が、自分の居場所を守り戦い、抗い続けてきたからこそ、身につけた技術と強さ、経験は俺の指揮で活かすことができる。

 ……そんなものが無くても、充分に制圧は可能だと信じてるけどな。

 

「……ッ !!アンタのせいで、折角引き受けた仕事、台無しだよ…!!どうすんだよ!これじゃあアビドスを乗っ取ることも、ウチらが大金を得る事だって敵わなくなるじゃないか!!」

 

「……何言ってんだコイツ」

 

「はぁ!?!!」

 

 転弧先生の、心底興味もないどうでも良さそうな言葉に、リーダー格の声が荒々しく吠える。

 

「じゃあもしお前らが敵対した連中が、アビドス対策委員会じゃなくて、物凄く恐ろしい集団でも同じこと言えんだな。待ってるのは本当の意味での破滅だけだぞ」

 

 敵連合、死穢八斎獪、異能解放軍――他にも例を挙げれば山ほど、闇組織は存在した。

 ヒーロー達との衝突は、まだ勝敗が喫するだけで良い。

 ヒーローと呼ばれる職業は、人を助ける、弱きを守るが主体であって、人殺しは加味されていない。

 ……まあ、レディ・ナガンのような人殺しを許容されている公安直属ヒーローもいるだろうが…。

 

「闇の世界で生きてるってことはそういう事だよ。故に、同じ闇に潜む者と敵対すれば、狙われる事だってある。それを疎かに…いや、そんな風に生きちまった時点で、こうなるのは必然だったな」

 

 然し敵同士の組織抗争は訳が違う。

 失う者はヒーロー達とのそれではない。

 死者が出ない、制圧という面ではヒーロー達との戦いは刑務所で一生を終えるか、死刑が重罪犯に課せられるとして…。

 日陰者同士の争いは、命だけじゃない。

 築き上げてきた努力、組織の進歩、他組織の信頼関係、その全てがブッ壊れるか、奪われるかのどちらかなのだ。

 

 金目的で動く敵は外の世界でも山ほどいたし、全世界を辿れば数えきれないだろう。

 カタカタヘルメット団だってソイツらと同じだ。

 

 相手はアビドス対策委員会という善良な学園だから良い。

 然し残念ながら、今この学園の味方は嘗て闇組織の競争を生き抜いてきた歴戦の猛者である。

 ――だからこそこう言葉を残す。

 

 

「良かったな、相手がアビドス対策委員会で───」

 

 

 もしこれが人殺しを厭わぬ人間であれば結果は違った。

 組織の構成員ごと根こそぎ奪われていたかもしれない。

 名前すら奪われ、踏み台にされていたかもしれない。

 

 とはいえここは学園都市キヴォトス――何度も言うが前世にいたあの個性溢れる超人社会が舞台となるコミック的な世界でもない。

 それでもこの世界と前世はどこか似て非なる共通点が存在する。

 この世界にもこの世界のやり方が存在するのなら、俺も俺なりのフリースタイルをぶつけたって良い訳で。

 これが皆んな大好きな平等という言葉なのである。

 

「先生……」

 

 シロコは転弧先生から何かを感じたのか、然し表情は変わらない。

 ただここまで先生が語るのには、恐らく先生の過去には人に言えない何かがあるのだろうと、直感で察することができた。

 だから、深追いはしない。

 それでもシロコが信じるのは、転弧先生がただの大人ではないからであり、闇を抱えながらも私達の味方でいてくれるからだ。

 

「話を変えるが……なぁ、お前らはアビドス高等学校へ攻め込んだ際に、周期的に鑑みて一週間で3、4回ほど俺らに襲撃したんだってな?弾薬や物資はどうしてる?」

 

「なんでそんな質問をする……?」

 

「いやな、不思議だと思ってさ。兵糧責めするにしろ、本格的に俺らに宣戦布告する前に金を貰ってたにしろ、普通弾薬や補給物資ってバカにならねえだろ。それだけの資金がお前らにあったってんなら話は変わるけどな……」

 

「……闇バイトで貰った金を、私たちが仕入れただけだッ」

 

「………ふぅん」

 

 ヤケに素直だな。

 この場合考えられるケースは二択。

 一、敢えて嘘を吐く。

 そうすることで隠している真実や本心を守ることにより、相手を上手く納得させる話術で相手を丸め込む方法。

 少なくとも最低限クライアントの信頼は守られるだろう。

 それとも弱味を握られており、それを暴露されない為の自己防衛が働いてると考えられる。

 二、隠す道理がない人間。

 失う者もなく、何もかもどうでも良くなった人間は嫌味すら湧かずに全ての真実を吐くことがある。まあこの手は滅多に見ないが…。

 

「……その金でとんずらしなかったんだな」

 

「…ッ。確かにウチらは金目に困ってる…。学校を中退された人間だって集ってるし、寄り辺のないウチらが集まったのも事実だ…。

 それでも仕事は仕事として、受けた仕事をこなすのが私たちだ───」

 

「よくも私たちを前にしてそんなこと…「じゃあなんでお前こなかったんだ?」……なに?」

 

 痺れを切らしたシロコが反論するのを、転弧が腕で制する。

 

「成る程…受けた仕事は全力投球……ね。お前らなりの組織図ってのはイマイチピンとこねぇが…まあ解った。じゃあなんでお前や他の奴らも全員総力あげて立ち回らなかったんだ?まさかお前、アビドスは弱いからって舐めプでもしてたのか?」

 

「……それは…」

 

「オマケに俺らには簡単に尾行されてるしよ、反撃も喰らう…。まぁ、お前が相手の実力を見誤ってたのは失態だったな」

 

 ……まあここはアヤネの情報収集力に頼らせて貰った。

 逆に言えばアヤネはあの場で即座に対応して、特定してくれたのだ。

 もし特定ができなければ防戦一方を強いられるしかなかったのだから。

 

 

「……ということで、だ――残念ながらお前達のゲームオーバーだ。コンティニューは諦めるんだな」

 

 

 

 

 

 

 今回襲撃をする前に、アビドス対策委員は、志村転弧先生と一緒に(というか一方的に始めたのは先生である)作戦事項を立てていた。

 

『今回は俺もついてくが、最初の作戦を出すだけで細かい指示は出さない』

 

 はぁ?と、ここで最初に疑問の声が出たのがセリカだった。

 シッテムの箱の神秘による機能上――特定の範囲内でしか生徒に的確な指示を執れないのであれば仕方ない。

 危険は百も承知だが、それでも本領発揮ができる上に先生の指揮能力は本物だった。

 だが指揮も執らない人間が着いてきたって邪魔でしかない。そんなセリカは疑問をぶつける。

 

『あのねぇ、私たちこれからピクニックに行くわけじゃないの。先生って銃弾一つでも浴びたら死ぬのよ?』

 

『撃たれた場所が致命的じゃなければ痛いだけで済むだけだろ』

 

 それを痛いで済ます先生の神経も大概だが。

 前世ではスナイプに両腕両脚撃たれたり、コピーのガキが抹消を使っていた為『痛覚遮断』+『超再生』が働かなかったとは言え、レディ・ナガンのライフルで両腕吹き飛んだのは事実である。

 あれめっちゃくちゃ痛かったなぁ…。

 

『転弧先生!ダメですよ、痛いだけで済ませちゃ。しっかり身体を大切にしてください。私たちだけでも充分ですから!私、これでも結構強いんですよ〜!』

 

 ノノミがのほほんとした笑顔で両手をオーケーサインを作り、メガネのようにして独特なポーズをとる。

 ……腕の感覚どうなってんだアレ?

 

『いや別に自分の身を削ること前提にはしてねぇよ。ちょっと奴らのアジトへカチコミする際に調べたいことがあってさ』

 

『調べたいこと…?』

 

 これが現在、カタカタヘルメット団が所持している武力とも呼べる弾薬や物資、アジト内の情報を調べる為の出向だ。

 アビドス砂漠は土地が広大で、俺ですらアロナのマッピングがあって到達したのだ。

 余所者…じゃない地元であれば説明は付くが、そんな奴らが態々アビドス高等学校で長期間滞在するのであれば、奴らが保有する武器はどうしてるのかという疑問が、今回転弧が生徒会と共に出動する理由でもある。

 

『それは後で話す……とは言っても今回の反撃――最初の作戦は…』

 

 襲撃する最初は視覚を不安定にさせ、小鳥遊ホシノが盾役で突撃。

 ヘイトが集まってる最中、後方の人間が近づくことを許さず、此方の出方を伺わせない。

 シロコの火力制圧ドローンでホシノのサポートと同時に敵の鎮圧を同時進行。

 更にその12秒後にセリカとノノミが左右に突撃。

 

 その後は好きにやって貰って構わない――というのが転弧先生の指示だった。

 

『なんか……本当に大丈夫そう?その作戦…その割には直ぐに済ませてるような気が…』

 

『敵を倒すのは大事だが、俺が初めて執った指揮もより素早い迎撃を行えたろ。如何にして敵を素早く制圧するか――これは最も重要だ。相手に一切攻撃すら許させない』

 

 もし相手が何かしら切札を所有していれば?

 戦車だけじゃない。

 火力重視の武器、

 ヘルメット団の構成員の数も不明、

 情報が殆ど解らない場合、俺らが取る最善の選択肢は「如何にして敵が本領を発揮させずに制圧できるか」もまた、生き抜くための攻略に必要不可欠だ。

 

 嘗て神野区でプロヒーロー達に制圧された時、荼毘や黒霧を中心に狙われたことで敵連合の終わりを錯覚した。

 頂上決戦――雄英の棺に関しても、幾ら特異点に到達し人類の新たな進化を遂げようにも抹消で個性はかき消され、本気を出せなかった。

 全ての連なりが緑谷出久に集結され、何一つ実力を発揮できなかった。

 

 この敗北を経験したからこそ、勝利へ活かす為に俺は考えて成長をしなくてはならない。

 

 相手の選択肢を潰す。

 奥の手を使わせない。

 迅速なる対処。

 

 もしこれを本当に可能に出来るのであれば、アビドス高等学校は少数精鋭の有望たる人材だ。

 仮にそれが失敗したとしても、次に活かす為、成長する為の課題にしてしまえば良い。

 

 

『指揮を執るのは簡単だ――だが先生である俺は個々人の普段の実力も知っておく必要がある。何事にも基礎ってのは大事で、その地盤から支えていくのが大事だからな』

 

 

 生徒の基礎能力値を把握し、そこから如何にして伸ばしていくか…欠点や得意分野、生徒達の癖や射線、それらは超高性能アロナの機能でもカバーしきれない。

 だから俺がそれを補う。

 

 

『安心しろ――物事には絶対という言葉は存在しないように、万が一のことがあれば指揮を執る。そのトラブルを見込んだ上で、俺がいる。邪険にすんなよな、危ないって思った時は身を引くし、生憎ノノミのように俺の身を心配してくれてる奴もいるんでな』

 

 ――自分を大切にして下さい。

 チナツから貰った言葉は、おばあちゃんの写真と一緒な大事にしまっておく。

 

 生徒の個々の実力を見計らう。

 今回は先程の俺の指揮能力を活かした上で、俺不在の戦闘を観察する。

 指揮を執った時の個々人の戦闘分析は大まかに測れたので、今度は俺が指揮を取らない時の生徒達の行動を分析する。

 もし生徒が助けを求めれば当然助ける。

 生徒が困っていたら助言もする。

 その為に俺がいる――

 

『ん、頼りにしてる。任せて、私が先生の周辺防衛(ボディーガード)と同時にいつも通りの戦闘、見せてあげる』

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『お疲れ様です皆さん!カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫、全ての破壊を確認しました』

 

 アヤネからの無線より、各メンバーは破壊の確認報告を受信する。

 ヴァルキューレ警察学校にも連絡を入れており、既に駆けつけに来ているとのこと。

 なんでもシロコ曰く犯罪者や、特に指名手配犯を対象とした裏の人間を引き渡す連絡を入れるとお金が貰えるとかどうとか。

 …ゲームだと賞金稼ぎとかでよく聞くな。

 

「よぉし、作戦終了!みんな、お疲れ様〜。それじゃあ皆んな、学校に戻ろっかぁ」

 

 ホシノの掛け声に、皆んなは明るい返事をし、アビドス高等学校への帰路へ就く。

 ここからかなり距離が遠いので、往復で60km――これだけでほぼ一日が終わるであろう長距離だ。

 …ただ一人、先生だけはホシノの言葉に反応はしなかった。

 

(………闇バイトで金を貰い、本格的に俺らを潰す為に奴らが支援物資を購入したとして………可笑しいんだよな、なんか…)

 

 先生はただひたすら、疑問を模索していた。

 心の内に芽生える疑惑の念が、まるで黒い靄で覆われているみたいだった。

 

 カタカタヘルメット団の実力は、とてもじゃないがシロコの言葉通り三流だ。

 にしては可笑しい…。

 防戦を強いられるほどの戦力だったのか?という疑問もそうだが、本当にアビドス高等学校を潰すためなら、その黒幕はなぜカタカタヘルメット団のみを雇ったのだろうか?

 使い捨て前提の駒ということは、失敗しても問題ないという意味だ。カタカタヘルメット団がやられた場合、候補とも呼べる愚連隊組織を金で雇い、攻め込めば良い。

 先生が言っていた――『100円ライターが使えなくなったらゴミへ捨て、また違うものを購入して使えば良い』と。

 つまり黒幕は先生のような残虐非道でもなければ、個人に恨みを買った私怨の依頼か、或いは…。

 

 複数の組織を雇わなかったという事は、先生という存在がイレギュラーだったという理由は一つ当てはまるだろう。

 いや、奴らは学校を占拠すると言っていた。

 複数の組織が占拠を目的として動けば、敵対組織の争いが起きるからか。いや、だとすれば尚更黒幕にしちゃあ関係ない話だ。

 

 リーダー格が嘘を吐いていた可能性も危惧している。

 まあ、どの道アイツらが口を割らなければ、もうそれでも良いんだけど…。

 

「考えたって今のところは難しいな……アヤネと相談するか」

 

 溜め息を吐きながら、「先生ぇ〜〜!どうしたんですかぁ?置いてっちゃいますよぉ?」と俺が後ろについてこないことに気付いたノノミが腕を振って俺に声を投げてきた。

 ……やれやれ、と転弧先生はマイペースな足取りで、アビドスの連中と距離を空けながら後ろへ着いて行こうとする。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「お帰りなさい皆さん。二度目の戦闘、お疲れ様でした――」

 

 アビドス高等学校、対策委員会の部室へ戻ると、そこにはアヤネが笑顔で労いの言葉をかけながら迎えてくれた。

 

「アヤネちゃんもオペレーターお疲れ様!」

 

「いえ!私なんてそんな……先生がいてくれたから、事もスムーズに進めましたし…」

 

「でも実践できたのもお前らの実力だろ。それにアヤネはよくやってくれてるよ。俺が保証する」

 

「そ、そんな褒めても…!!私なんて本当に、先生と比べれば役に立てたことなんて……」

 

 照れ隠しなのか、それとも本当にそう思っているのか…。

 アヤネはあわあわと恥ずかしそうに頬を赤らめ、首を左右に振る。

 

「そうですよぉ!転弧先生の言う通り、アヤネちゃんも頑張ってくれてますよ♡そう自分を卑下しないで下さいね?それに、火急の事案だったカタカタヘルメット団の件は片付きましたね。これで一息つけそうです」

 

「そうだね、これでやっと重要な問題に集中できる。ね、先生」

 

「……とりあえず緑でも増やすか」

 

 取り敢えずの対策は緑増やすことなんだ…と一同は心の中で突っ込んだ。

 

「確かアヤネがさっき言ってたアビドスを蘇らせるッて命題だよな?んで、今は具体的な計画はない……と。まッ、暴力組織が攻めてきたんだし、それどころじゃなかったよな」

 

 まだ暴力組織に関して疑念が完全に取り払えた訳ではないのだが、取り敢えず邪魔もない現状、進めておくべきことは進めるべきだろう。

 

「はい。主にアビドス自治区の住民を増やすこと、地域活動、並びに砂嵐による砂漠化の対策でしょうか……これが中々深刻ですが…」

 

「深刻すぎるだろ。これ五人で本当に解決できるってレベルじゃねえしな……」

 

 住民を増やす事は百歩譲って良しとして、地域活動も前世の世界を参照にすれば解らなくもない……が、砂漠化対策ってどうすんだっけ?

 先生の支配してた未来図では『水が必要な国には、水を湧き出す個性を欲するならそれを与えるように』とか、複雑な話をしていたのを共有感覚で聞いた気がする。

 

「先生の言ってた植林を増やす計画も考えてはおりまして、それでも費用も範囲も桁違いですし、シミュレーションもないので無策で行うのも非常に危険で……」

 

 ああ、当たりだったのか。

 それにアビドス自治区は広大な土地であり、恐らく前世でも日本の国がすっぽり入るのでは?と疑問に思ってしまう。

 この世界のアビドス砂漠が仮に、俺らの知ってるキヴォトス外部の世界――エジプトだとすれば、幾分か説明がつく。

 

「Huum……つぅか、砂嵐ってのは定期的に訪れるもんなのか?」

 

「気候や年月と照らすとそうですね……。ただ本当に予想外な時にも砂嵐は発生するので、こればかりはどうにも…」

 

 気圧差、強風が原因で砂嵐は発生する。

 自然現象を完全に防ぐ事は不可能であり、軽減するにしても植林による木の壁などがあれば、自然豊かな国や熱帯地方を参照に照らす事で最低限に抑える事は可能にしろ、やはり現状五人で解決できる問題ではない。

 

(………それでも、コイツらは絶対諦めないんだな……)

 

 無理だから諦めろとは言わない。

 好きなようにして好きに生きろという転弧のスタイルは、生徒の実現不可能なことを決して「諦めろ」とは言わない。

 

「まっ、でもさ!先生のお陰でカタカタヘルメット団も片付けたし、支援物資も補給できたし、今日は運が良いわ!!これで心置きなく借金返済に取り掛かれるわ!」

 

「カタカタヘルメット団が片付いたからと言って、まだ安心して言い訳じゃ…………――は?お前いまなんつった???」

 

 聞き流そうになる言葉を踏み止まり、セリカの言葉を巻き戻す。

 今コイツ……借金返済って言わなかったか?

 転弧の聞き返す言葉を聞き「はっ!?あわわ、違ッ……」と、発言を取り消そうと取り乱れる様子だ。

 

「そ、それは…ですね……」

 

「待ってアヤネちゃん!!それ以上は言わなくて良いから――!!」

 

「隠し事か?まあ借金なんて聞こえは悪いとして…その反応見るからに……お前らなんかやらかしたか?」

 

「ううん、そうじゃないの転弧先生。別に悪いこととか犯罪に加担してるとかじゃないから安心して――」

 

 俺の言葉にシロコは肩に手を添えてカバーに入る。

 俺としちゃあ死体遺棄と証拠隠滅を最初に図られた時点で絶対なる安心はできないんだが…。

 

「良いんじゃないセリカちゃん。別に隠すようなことじゃないし――」

 

「か、かと言って態々話すようなことじゃないでしょ!?」

 

「じゃあもうここまできたら態々隠すこともないだろ。なんだよ借金って――」

 

「煩いわね!!アンタは黙っててよ!!!これは私たちの問題なんだから!!」

 

「…………はァ?」

 

 セリカの激怒する感情的な訴えに、転弧先生の表情と声色は初めて歪みだした。

 二人の瞬間的なバチバチの争う視線に、アヤネやノノミは勿論、流石のシロコもこの空気の流れに良しとせず、止めに入る。

 

「せ、セリカちゃん落ち着いて!!!流石に今のは…」

「先生落ち着いて。セリカも悪気があった訳じゃないから」

 

 アヤネはセリカの肩を持つように、シロコは転弧先生の腕を抱きしめて、二人を止めに入る。

 流石に感情的に先走ったこと、莫大たる借金へのストレス、更には隠していたアビドスの闇を、今日出逢ったばかりの大人に聞かれたことに取り乱した結果、小さな積み重ねがきっかけで先生に無礼を働いたことにセリカはハッとしたのか、「うっ、ご…ごめん……」とぎこちない表情で軽く謝り、席に座る。

 然し謝罪先は俺ではなくアヤネ……だがな。

 

「………別に怒ってねェよ」

 

 何とか普段の表情を取り戻し、直ぐに冷静さを取り戻す。

 ………別に、この手の言い争いは慣れてない訳ではない。

 初期の連合ではヒーロー殺しとの対話でも幼稚な暴言吐いてたり、

 八斎會後のグダグダ期だった連合の日常に嫌気が刺したスピナーにも本音をぶつけられたりもした。

 今回それが学園都市キヴォトスに訪れて、連邦捜査部『シャーレ』の顧問となった俺が最初にぶつかったのが黒見セリカだっただけだ。

 

 とはいえ転弧先生としてはセリカの言ってた言葉に気が障ったのも事実だ。

 

 私たちの問題――その言葉に俺は含まれておらず、遠回しに志村転弧は部外者だと言うこと他にない。

 先生と生徒という関係が仲間意識とは違うという解釈もできてしまうし、それ自体は問題ない。

 出逢ったばかりの人間で、日も浅い為信頼を築くにしろ完璧とは言わないだろう。

 

 それでも人間は頭の中で分かっていても、感情という厄介なモノは人の思考や理性を鈍らせてしまう。

 

「まあまあ落ち着いてセリカちゃん。別にさ、おじさん達が罪を犯したって訳じゃないでしょー?先生もそう言った意味の心配を含めて身を案じてくれたんだしさ。まあそれでも面倒な借金で余裕がないのは事実だしねぇ」

 

「それは、そうなんだけど………」

 

「そうだよセリカ。ホシノ先輩の言う通り、転弧先生は信頼しても良いと思う」

 

「そりゃあそうだけど……先生は結局部外者なんだよ!?!」

 

「今度は遠回しじゃなくストレートに言いやがったな……」

 

「なによ、悪い??だって事実でしょ?」

 

「じゃあその事実序でに聞くが、その部外者に支援物資並びにカタカタヘルメット団との二度の戦闘に置いて、お前は部外者に頼ってたがその点どうなんだ??」

 

「ぐっ……!?そ、それは……それは…!」

 

「やぁやぁ、落ち着きなってば二人共〜」

 

 

 志村転弧と黒見セリカは相性が悪い。

 これは当の本人だけでなく、周りの皆んなも理解した。

 先生を信頼してないホシノも、こればかりは関係なく二人の味方だ。

 

「確かにさ、パパっと解決できるような問題じゃないけどさ?でもこの問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしか居ないんじゃない?悩みを打ち明けることでさ、何か解決策が見つかるかもよ〜?そうじゃなかったとして、先生が無理だったとしてもさ、それで終わりだし良いじゃん。それとも何か他にも良い方法があるのかにゃ〜〜?セリカちゃーん」

 

「でも、でも……さっき来たばかりの大人でしょ!?今まで大人達が、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!?!誰も、私たちのこと助けてくれなかった癖に…!!!」

 

「ッ――――」

 

 

『――誰も、僕を見てくれなかった癖に』

『――誰も、僕を助けてくれなかった癖に!!』

 

 

 セリカの悲痛な叫びが、ふと過去に溜めていた原点の言葉が返り咲く。

 それが不意にも、コイツとよく衝突するな…なんて軽い考えが吹き飛んだ。

 

 

「この学校の問題は、ずっと私たちだけで解決してきたでしょ…。ずっとどうにかしてきたのに、それなのに今日出逢ったばかりで、何にも知らない大人が首を突っ込んでくるなんて…!

 

 ――そんなの私は絶対認めない!!!」

 

 

 怒号を飛ばすセリカは、キッ――と転弧先生を睨む。

 対する転弧は、表情を歪ませることもなく、全てを受け入れるような目で見つめていた。

 それすらまた気に入らないのか、いっそのこと此方に不快か苛立ちの目で見つめ返してくれた方がまだ気が楽だったのか、踵を返し皆に背を向け、教室の扉を勢いよく開き、飛び出した。

 

「せ、セリカちゃん…!?!」

 

「!私、ちょっと様子を見に行きま――「いや、良い…そっとしといてくれ」…へっ、先生?」

 

 教室から飛び出したセリカに、ノノミが後を追おうとするのを転弧が制するように袖を握る。

 先生の制する言葉に、ノノミは何かを感じたのだろうか…数秒黙った後、「分かりました…」と頷き、なんとか戻ってくれた。

 

「あはは、ごめんねェ先生。セリカちゃん、ああ見えて怒りっぽいけど悪い子じゃないから、許してあげて?」

 

「いや、許すも何も怒ってねえって……寧ろ、懐かしく感じただけだ」

 

「懐かしさ…ですか?」

 

「………いや、まぁ…なんつぅか、昔の自分を重ねたって言うのかな…。ホント、何の因果だよこりゃあ………」

 

「昔の自分って…えーーっ!?転弧先生、昔はセリカちゃんと同じ怒りん坊だったんですかぁ!?ということは、可愛さもセリカちゃんみたいな…」

 

「それはちげぇよ。つぅか俺に可愛さ求めんな」

 

 ホシノは「先生も子供の頃はセリカちゃんみたいにツンツンしてたんだねぇ。なんだか青春感じるなぁ」とボケてやがり。

 シロコは「ん、でも全然想像できないかも…」と意外性に興味深そうに

 アヤネは「あはは…でも、先生にもそんな時期があったんですね」と感想を述べている。

 

 

 

 

 ――ホント、悉く俺ってやつは…この世界で昔のことを嫌でも想起させてきやがるな…。

 

 セリカの現状は、嘗て死柄木弔が信念を抱く前の…ステイン逮捕後、――癇癪を起こしていた自分と重ねていた。

 

 

『私ステ様が大好きです!!ステ様のようになりたい!!ステ様を殺したい!!だから私も入れてよ敵連合!!!』

 

『ヒーロー殺しの意思は俺が引き継ぐ――』

 

 

 義蘭(ブローカー)が紹介したトガヒミコと荼毘。

 敵連合に入りたいという希望が、俺ではなくステインがキッカケだった。

 あの時の自分は捕まった後もヒーロー殺しが気に入らなくて、話題ありきで自分は蚊蜻蛉な扱いだったことに、苛立ちと憎しみが湧いて不快な気分を過ごしていた。

 報道でも敵連合はオマケで、ステインばかりに注目が集まっていた。

 世の中は死柄木弔ではなく、ステインを見ていたのだ。

 市民も、仲間も、ヒーローも、重要視していたのはステインであり死柄木弔ではなかったのだ。

 

 ヒーローにもステインにも出鼻を挫かれ、自分がどうなりたいのか、どうすれば良いのか、解っているようで答えが見つからない…。そんな靄に包まれたような、不快感と苛立ちが、俺に余裕を無くさせていたんだったな。

 

 

 ――なんで俺はダメで、アイツが良いんだろう。

 ――俺とお前の何が違うんだよ。

 ――結局お前だって気に入らないモノを壊してただけだろう。

 

 

 自分とアイツを比較して、答えが分からずに悶々としていたな。

 そんな俺が答えを導き出せたのは、緑谷出久のお陰でもあるのだが…。

 だがこの答えは対話で初めて答えが導き出せたのだ。

 その為に必要なのは答えを教える人間ではなく、最初に必要なのは一人になる時間だ。

 

 

 ――セリカ、お前は俺のことが気に入らないんだろうな。

 俺が嘗て部外者だったヒーロー殺しが気に入らないように。

 セリカは部外者である志村転弧が気に入らない。

 

 

 解るよ、その気持ちは。

 敵連合という組織を結成したのは俺で、そのリーダーが俺なのに…勧誘しては俺に殺害予告を突きつけて、俺に敵対を見せつけた奴が人気者になっていた。

 計画が進みさぁ仲間が集まるぞ、と思いきや口を開けばステインの名前ばかり。

 当時のトガヒミコも荼毘も、ブローカーでさえもステインばかりに気を取られていて鬱陶しかった。

 

 それらの経験を鑑みて、セリカ……お前が俺を気に入らないのはきっと…――

 

 

 

 

 

 

 

 ツカツカ、ツカツカ─────

 閑散とした廊下を早い足取りで歩く音が、五人しか存在しない寂れたアビドス高等学校内に反響する。

 

「先生のバカ……ッ!皆んなのバカ、バカ…!!」

 

 ――気に入らない。

 何が先生、先生って、馬鹿みたいに。

 今日出逢ったばかりの大人が、何にも知らない癖に偉そうに。

 上から目線なのも、解った風な口を利くのも、ヘラヘラしてるのも、全部全部ムカつく。

 ムカついて、

 気に入らなくて、

 これ以上――私たちの領域(対策委員会)に足を踏み入れないで欲しい。

 

 黒見セリカの言動は、一言で言うなれば子供の癇癪だ。

 大人に頼る道筋が正しいとしても、その道に委ねない。

 それは一種のプライドであり、黒見セリカ自身の気持ちの問題だからだ。

 例え自分が間違っていたとしても、今まで仲間たちだけで問題を解決しようと死力を尽くし、汗水垂らし、必死に頭を悩ましながら、それでも苦労を乗り越えて支え合ってきたのだ。

 それなのに今日出逢ったばかりの大人に頼るなんて論外だ。

 見ず知らずな大人に頼るなんて、じゃあ私達のやってきた苦労はなんだったのだ。

 

 先生の言ってた言葉が、無意識の内に反芻してしまう。

 

 ――支援物資を頼んだのも、カタカタヘルメット団の二度の戦闘も、部外者に頼ったのはどうなんだ?

 

 理解しているのだ。

 本当はアヤネちゃんが依頼した支援物資の補償に、真摯に向き合ってくれたのも感謝してる。

 先生の指揮は今までにない程本領も発揮できたしそれも感謝してるのは本当だ。

 

 ただ、指揮能力と借金返済はまた別なのだ――借金返済は、私たちだけの問題なのだ。

 

 身勝手で我儘なのは百も承知だし、理解している。

 子供が感情論で(気に入らないと)喚き散らし、下手なプライドと意地で拗ねてるのだって、指摘されずとも理解している。

 駄々を捏ねているのだって言われても仕方ないだろう。

 

 

 ――理解していても、納得はできないのだ。

 

 

 今まで私たちに手を差し伸べてくれる人は誰一人も居なかったのだ。

 こんな砂だらけに埋もれた廃校同然のアビドス高等学校に、救いの手が伸びてきても……そんなのもう、遅いのだ。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「えーっとね、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだーっ。まあ、ありふれた話なんだけどね」

 

「へぇ…学校って借金抱えてナンボだったのか、知らなかった」

 

 セリカが早退(退室)してからと言うのも然程時間は経っておらず、改めてアビドス高等学校が抱えてる借金()を打ち明けることになった。

 じゃあ雄英高校とかも洒落にならない資金を費やしてるから、借金でも抱えてたんかな…。などと頓珍漢なことを想像している先生は「金額は?」と仔細を聞くことにした。

 尤も生まれてこの方、教育施設は幼稚園しか通っていなかったので、「来年は華ちゃんと同じ小学校だー!」と思いきや僕のヴィランアカデミアに入学した訳で…。

 学校のことに関しては全く知識はない。

 

「借金の金額はザッと9億――」

 

「…………Huh?冗談だろ??」

 

「………9億6235万円、です」

 

 増えやがった――約10億の借金……だと?

 ホシノは「しょうがないんだよ…」と何かを悟るような顔つきで呆れながら言葉を濁し、

 アヤネは膨れっ面で嫌な表情を浮かべていた。

 

「これは、アビドス……いえ、私たち「対策委員会」が返済しなくてはならない金額なんです…」

 

「………人生ゲームでもハードモード過ぎるだろソレ…」

 

 強くてニューゲームでも無理ゲーかもしれない。

 9億って…確かサラリーマンが一生を懸けて稼ぐ金額がざっと一、二億……だったかな。

 

「これが返済できないと学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります…ッ」

 

「………じゃあ次はその銀行を狙ってブッ壊せば借金は返済しなくても良いって上手い話はないか?」

 

「はい!?!何を物騒なことを言ってるんですか転弧先生!?」

 

 どうやらここから入れる保険はないらしい。

 俺の提案は無慈悲に、アヤネの驚嘆の叫び声により掻き消された。

 

「んっ…先生、先生。上手い話なら銀行g――「シロコちゃーん?今真面目な話してるからねぇ」ん…」

 

 シロコが何かを言いかけたが、ホシノがそれを制した。

 ……ホシノの言葉だけでシロコが子犬のように従うのは、主従関係らしき何かを感じるな。

 

「ただ問題は…実際に完済できる可能性は0%に近く、殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……」

 

「そして私たちだけが残った」

 

「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全て借金のせいなんです…」

 

 アヤネが説明するにはこうだ。

 アビドス高等学校の借金理由――それは数十年前、アビドス学区の郊外に存在する砂漠で起きた砂嵐。

 異常気象は何度も聞かされたので驚くことはないが、問題はその規模が絶大だったということだ。

 頻繁に起きることはあれど、例外な砂嵐は想像を絶するほどであり、全てを飲み込み砂が埋もれ続けたとか…。

 その自然災害を克服するべく、昔のアビドス高等学校は多額の資金を投入するも底を尽き、結局金を借りてまで存続させる他なかった。

 況してや自然災害によって街を、学校を、全てを砂に埋もれたアビドスに巨額を融資するもの好きな銀行などいるはずもなく。

 

「その結果、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

 

 最初のウチは直ぐに返済できる目処だった。

 然し砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し、学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途を辿ったとのこと。

 

「それで、結果的に小さな小さな積み重ねが、この借金って訳か――」

 

 事情を聞き終え、俺が確認すると、アヤネは小さく肯首する。

 ホシノも、シロコも、ノノミも真剣な顔つきで、だがとても…どこか下を向いてそうな暗い顔付きだ。

 

「私たちの力だけでは、毎月の利息を払うだけで精一杯で…弾薬も補給品も、底をついてしまいます…」

 

「…………」

 

「セリカがあそこまで神経質なのも、これまで誰にも問d「誰も手を差し伸べてくれなかったんだろ――」……せん、せい?」

 

 シロコの言葉を遮るように言葉を放った俺に、シロコは勿論…ホシノは珍しく目を丸くした。

 

 

「アビドスの砂漠化も、クソみてぇな地獄の借金事情も、セリカの怒りも、全部――見て見ぬフリをされて、都合の悪いアビドスの全部、手を差し伸べれるはずの皆んな(誰か)が傷んだ上から蓋をしたんだろ」

 

 

 先生の言葉は、凄く重々しかった。

 その眼はどこか薄暗く、闇を抱えて、まるで過去を見つめているようだった。

 

 

「過去何世代も、仕方がなかった、しょうがなかったと――セリカの言う大人は言い訳を並べて、苦しんでるお前たちの目すら見向きもせず、見なかったフリをしてきたんだろ。だからセリカのやつ、そうなっちまったんだろ」

 

 

『ヒーローが…その内、ヒーローや警察が直ぐ駆けつけにきてくれるからね!!』

『あーー…悪いな坊や!おじさん、今から会社だから!ヒーローが助けてくれるって!』

『そんなの俺に頼るなって……あー、えっと…その内誰かが助けてくれるっしょ!』

『うわ不気味……なにこの子…私ら関係ないから。ほら行こっ』

『いやぁ、ちょっと…ねぇ…?ど、どうせヒーローがなんとかしてくれるっしょ…』

 

 

 結果、傷んだ上から蓋をしたアビドスは莫大な借金(地獄)になった。

 小さな、小さな積み重ね。

 小さな、小さな小さな、小さな積み重ね。

 悪徳金融業者に頼ったのも、苦しみながら救いの手を差し伸べた結果なのだろう。

 その結果――悪い大人が子供を騙し、借金による負債を与えていった。

 そうすることで、悪徳金融業者だけが得をするからである。

 

 先生が、俺が死柄木弔として生まれ変わってから、幾らか成長した時に教えてもらったことがある。

 なぜ、人は人を騙すのか…と。

 

 人が人を騙すのは、そうすることで得をするからだ。

 人が人を騙すのは、それこそ生存競争を生き抜く為の戦術だから。

 人が人を騙すのは、相手が騙された時の歪んだ表情が愉しいから。

 人が人を騙すのは、邪魔な奴を蹴落とす為だ。

 人が人を騙すのは、相手の心理を削る為だ。

 

 嗚呼、そりゃあそうだ。

 先生の教育を受けずとも、自然とそうする大人がいりゃあそらぁ腐るわな。アビドスの借金事情は、その大層腐った悪い大人たちが味を占めたからだ。

 悪い大人に、見て見ぬフリをする皆んな、粗悪な環境、生徒たちは助け合えずにこの土地を見捨てた。

 

 

「だから、アビドスは取り残されたんだろ」

 

 

 取り残された――その言葉に、道端のど真ん中で一人だけ、世界に取り残されたような一人ぼっちの幼い少年が浮かび上がった。

 助けてという声が言葉に発せれないように。

 セリカも助けてという言葉が発せれないのだろう。

 

「人は本当の本当に助けて欲しい時、それを言葉に出すことができないから……だから、大人は……本来あるべき大人は……」

 

 子供にとって大人の言葉は絶対だ。

 小さな子供の世界では、大人の言葉は絶対で、

 大きな存在で、大人なしでは生きていけなくて、

 大人を頼りにするから安心もすれば怖くもなって、

 

 だからこそ――子供にとって大人とは、絶対なのだ。

 

「先生……」

 

 これにはシロコ、ホシノ、ノノミ、アヤネも、転弧の言葉に吸い寄せられるように食いついていた。

 静寂な空間が漂う。

 生徒たちに初めて見せる影の面に、四人は何も言えず立ち尽くしていた。

 転弧先生の言葉は、それだけ迫力が有り、現実味を浴びていた。

 

 

「……………こんなの無理だ、諦めようと、問題に取り組むことなく捨て去ったこのアビドス………皆んなはここ、諦めて消えてったんだろ。借金なんて諦めて、直ぐ別の学校に転校すれば良い。それで簡単に済む話――皆んなそうやって消えちまったんだろ」

 

「…………」

 

「そんな当たり前の正論なんざ、誰もできるし当たり前だよな。でもな、多くの生徒がこの土地を残して消えた中、お前らが残ってることも事実で、借金をどうにかしたいって気持ちがあるのも…お前らがここにいることが証明だ――」

 

 俺は、ゆっくりと生徒たちを見回す。

 砂狼シロコ

 小鳥遊ホシノ

 十六夜ノノミ

 奥空アヤネ

 そして…目を瞑り、黒見セリカを瞼の裏で思い返す。

 ゆっくりと目を開け、俺は宣言する。

 

 

「だから俺は、その証明を照らしたい――最後まで残ったお前たちの手を伸ばしたい。俺は今日を以て対策委員会の先生として、仲間(一員)になるぜ」

 

 

 

 嘗て敵連合として活動してた組織のリーダーは、『シャーレ』顧問を通してアビドス対策委員会の顧問(先生)となる。

 差し伸べた手は、触れた手は崩壊すると…自分は人を殺す為に生まれ持った手だと思わされていた。

 そんな俺の手でも、誰かに手を差し伸べれるのなら。

 その手で誰かを助けることができるのなら――蓋をぶっ壊してでも助けてやる。

 

 

「もう大丈夫――先生()がいる」

 

 

 

 

 

 

 






どさくさに紛れて先生の腕を抱きしめるシロコ策士じゃない???

えー、実はこの後アビドス校内をシロコの案内でるんるん歩いてくとこまで書こうとしたのですが、余りにも終わらなさすぎるので…シ、〆にしました!!!
2万文字近く…!だったんですよ!!


『次回、セリカが物凄い土埃を起こすぞ。乞うご期待』
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