最近思うのが『乞うご期待』が悉く本誌連載してたニセコイの次回予告並みに違ってくるの、なんか申し訳なくなってきたので、投稿できそうな日に転ちゃんからのメッセージを編集で言います。ごめんねぇ皆さん。
代わりに転弧先生がミカに特盛ラーメン全トッピング替え玉付きを好きなだけ財布で払います。
「もう大丈夫───
独白を終えた先生は、とても穏やかな表情だった。
その顔は全てを受け入れるかのように。
アビドスの全てを知っても尚、手を差し伸べようとする先生は、他の大人とは違って真摯に向き合ってくれている。
その言葉に、どれだけ救われるのだろうか。
「せん、せい……!!」
何か詰まっていたであろうアヤネは、段々と涙腺が緩くなってきたのか、瞳が揺れている。
ずっと、頼れる大人がいなかったのだ。
セリカは中学からの友達として仲は良いが、先生の信頼は小鳥遊ホシノとはまた違った温もりを感じていた。
「じゃあ私たち…希望を持っても良いんですよね?」
ノノミもアヤネと同じ気持ちだろう。
今までの借金返済は自分達で返済し、頼れる大人が誰もいなかった。
そんな子供達の味方でいてくれるシャーレの先生が側にいてくれる。
それはどれだけ有難いことなのだろうか。
……希望か。
誰もが抱える希望を、俺が体現しているのは…一体どれだけの奇跡なのだろうか。
前世は絶望を体現していた俺も、救われただけでこうも変わるものなのか。
「へぇー…先生は、変わり者なんだね。こんな面倒なことに自分から首を突っ込むなんて」
「ああ、どっかのバカがクソ面倒なことに土足で踏み込んで、手を差し伸べてくれた奴がいたからな」
ホシノの適当に遇らう言葉を的確に返す。
確かに面倒だ。
シャーレの書類仕事の方が幾分マシかと思う程に、面倒で解決できる自信などない。
だが、
自信がないから「この子達が苦しんでますが私は自信ないんで見て見ぬ振りをします」にはならんだろう。
自信がなくて当たり前なのだ。
大事なのはそれでも「自分はこうしたい」という意思が重要なのだ。
(――緑谷出久なら、きっとこのクソみてぇな借金事情も見てみぬフリはしないんだろうな)
精神世界――志村家に足を踏み入れ、俺の過去を知りながら…感情が流れ込みながらも、それでも「ぼくがきた」と俺に言ってくれた。
あのまま殺そうとしていれば、それだけで済んでた筈だった。
心など見据えずに、死柄木弔は破壊を貪る悪の象徴だと、だから殺してでも止めろって受け入れれば、それで楽だったはず。
それでもアイツは「泣いていた少年を見なかったことにしたくない」と諦めずに手を差し伸べてくれたのだ。
「……ねぇ、先生――どうして先生は私たちにそこまで良くしてくれるの?」
すると最後にシロコが俺に言葉を投げてきた。彼女のいつになく真剣で、真っ直ぐな瞳の問いに、俺はゆっくりと振り向いた。
「元々、アヤネが依頼してくれた通り…支援物資の補償だけでも嬉しかったし、指揮に関しては嬉しい誤算だった。意図しない結果だとしても、結果的に救われたのは事実だとして…先生が私たちの借金にまで手を差し伸べてくれるのも、充分過ぎるほど嬉しいよ。
でもね、だからこそ気になるの」
信頼はしてる。
感謝もしてる。
希望すらある。
疑ってる訳ではない――セリカにも言ったが先生は他の大人とは違って信用に値するし、最初の時も生徒の力を借りずに自力で自分達の学校に辿り着こうとしたのだ。
然も遭難者――下手すればあのまま見つからなければ、先生は危うく死んでいたのかもしれない。
それなのに、アビドスのことを必要以上に良くしてくれる。
だからこそ、理由を知りたい――どうしてそこまでしてくれるのだろうか、と。
「先生、ついさっき言ってたよね。アビドスは取り残されたんだろって………それはさ、先生もそうだったの??」
シロコの言葉は、志村転弧の核心を突いていた。
端から見ていたシロコからすれば、幾らなんでも深く理解し過ぎていると――まるで当事者のような台詞だ。
そうでなければ、ここまで真剣に、深刻に言葉を発するものだろうか。
同情はあるかもしれない――けど、先生の顔はまるで…一瞬だけ見えた先生の顔は、焼き焦がれた絶望を目の先にしていたように見えたのだ。
先生も……取り残されちゃったのかな。
こんな良くしてくれる先生も、見て見ぬ振りをされたのかな、と。
そう思えるのは、シロコは余程志村転弧に興味を抱いたからだろうか。
先生は数秒黙り込み、髪をくしゃりと掻きだした。
ハッ…と我に返ったシロコは、先生に深い質問をしてしまったと判断したのか「ん、ごめん…。深い理由とか求めてるワケじゃないけど、その…」とカバーするように言葉を濁している。
きっと人に言えない過去があるのだと自然的に察したのだろうか、彼女はすっ…と俯いた。
「………なぁ、シロコはなんでアビドスにいんの…?」
質問を質問で返されるとは思ってもいなかったのか、シロコは「…えっと、」と言葉が詰まってしまう。そんな彼女に「いや、いい…」なんて…目を瞑りながら止めておく…と手でジェスチャーを取る。
「今のは失言だったな――シロコやお前らがなんでアビドスにいるのか、なんてのは……俺が探るべきもんじゃない。大なり小なり、ここにいたいッてだけでも充分だからな」
理由とは、過去に直結していることがある。
自分は◯◯だからこうなった、自分は◯◯◯したくてここにいる、など…心の気持ちを露わにすることで、その人間性を相手に悟らせてしまうからだ。それはいつだって、自身の過去の風景や人に知られたくないワケも含まれている。その点を深く掘り下げれば原点の話になっていくが、それはまた今度の話となるだろう。
特に連合の多くのメンバーが過去に何かしらの理由があって、俺の下に募ってきた。
なかには過去とは関係なく単純明快な理由もあれば、大したことのない理由、様々な理由があった。
元々敵連合という組織自体…いや、俺自身が「好きなように生きて好きなように壊す」というスタイルだったので、より辺のない人間が集まり、集団化したメンバーもいつしか「居心地の良い自分達だけの居場所」となってくれたのだろう。
「……質問を変えようか、シロコはこのアビドス対策委員会…居心地が良いか?」
「……うん。確かに借金は面倒だし、ブラックマーケットの銀行強盗の案も却下されてアヤネには叱られるし、砂嵐も大変だけど……」
……は?コイツ今サラッと銀行強盗とか口に出さなかったか?
疲れて聞き間違いでもしたのだろうか。
「でも、セリカやノノミ、アヤネにホシノ…皆んながいるから、凄く居心地良いよッ。私はこのアビドス対策委員会に救われてるから――」
だって、ここは私たちの居場所だから――
それ以上でもそれ以下でもない。
自分達の居場所で、かけがえの無い大切な場所だから。
大切だから、自分が救われたから、アビドスを守りたい。
単純なのかもしれない。それでもこの気持ちは、意思は、決して揺るがない。
――ホシノ先輩に手を差し伸べられたから。
アヤネやホシノは直に聞いて恥ずかしくなってきたのか、耳まで顔を真っ赤に染め上げ、ノノミは「シロコちゃん…!!」と嬉しそうに両手を合わせている。
…実際に口にした後、シロコは「ん…」と照れ臭くなったのか、そっぽを向いた。
「……俺もさ、シロコと同じ理由だよ――俺にも、居場所があった」
すると直ぐにシロコは先生の顔に振り向く。
先生は相変わらずシッテムの箱…と呼ばれる端末を使用し、情報整理と書類に目を通しながら、指で操作している。
「先生にも…?」
「ああ、最初はどうでも良かった。でも仲間が増えて、経験を積んで、時間を過ごしていく内に俺にとってどうでも良いことが、いつしか俺の灰色だった人生を彩るように、大切で明るい大きな存在になっていた」
最初は仲間など下らないと思っていた。
仲良しこよしなんてする気は更々なく、仲間ではなく駒として人を見ていた。
だが仲間が増え信念を芽生えてから「使えるものは使っていこう」という価値観に変わり、神野区後や八斎會など過酷な状況から仲間の大切さを自身で学んだ。
そんな自分も「気に入らないから壊す」という目的から「アイツらが生きやすい世の中にするために全部壊す」ってなったんだっけな。
仲間達は俺の期待に応え、死力を尽くして、それでも俺の後ろに着いてきた。
「どっかの誰か二人は五月蝿えし、面倒臭がりで無愛想な奴もいた。色々訳あって、苦労した時期は放浪生活もあれば資金もカツカツで、ヘルメット団みてェに金が欲しかった、なんてのもあった――」
先生の手の元から離れ、俺が筆頭となり連合を引っ張らなければいけなかったあの時期――神野区一件後、先生のコネで繋がってた連中は先生の敗北が世間に晒されたことで雲隠れしてしまった為、協力関係を仰ぐことができなかった。
そのせいで苦労を強いられたワケなのだが…。
自分達の身を隠すために拠点を探したり、金はねェし食料も調達しないといけないし……自身と敵対する組織も相まって、苦労を重ねたりもした。
クソみてぇな地獄の生活が続いてたっけな。
「でも、凄く居心地が良かった――アイツらがいなきゃ俺はとっくに道半ばで終わってた」
逆に言うと仲間がいなければ、ここまで自分は辿り着けなかったのだ。
その点でも、俺は仲間にも救われてたんだろうな。
こう思える自分がいるのもまた、憎しみが取り払われたからか、或いは俺の根底が仲間を大切にする人間性だったのか――
「セリカには勝手に重ねんなって言われるかもな――でもな、スゲェ大変な人生で、苦労も絶えず生きにくくって、窮屈な時期も相まってた。
――そんなクソみてぇな地獄でも、仲間は一切見捨てずに俺について来てくれた。決して裏切ることもしなかった。誰も居場所から離れなかった」
神野区後――先生が捕まったことにより計画も破綻し、黒霧の言う通り連合は弱体化した。そんななかでも俺の元から誰かが無理だと諦めて、連合を去る人間は一人もいなかった。
あの荼毘でさえ、途中から見捨てるように離脱することもなかったしな。
…一応、アイツは目的があったとは言ってたので、それもあるんだろうが…。
こうして俺が連合とアビドスを重ねてるのは誰かが手を差し伸べたか否かだけじゃない。
過酷な環境を仲間と協力して生き抜き、居場所だけでも存続させたことも立派な理由の一つに入るのだ。
――それでも連合は自分の居場所だと、決して
――それでもアビドスは自分の居場所だと、決して
そこに違いなど、あるはずないのだから。
「俺は言ったよな、お前達が残ったのも事実だって…。一緒だよ――俺たちと一緒だから。だからこそ、俺は放っておきたくない。取り残されたお前達を、俺は見捨てたくない。
理由はそんだけだ。難しい話なんて要らない――これは俺の意思で決めたことなんだよ」
見捨てられた結果、志村転弧は死柄木弔と成り果てた。
全て仕組まれていたにせよ、一般市民による「どうせ誰かが助けてくれる」という他責思考は紛れもなくオールマイトが作り出してしまった現実社会の環境で、先生はあくまでその環境を上手く利用しただけなのだ。
見捨てられた人間は、転がり堕ちて、もう二度と元に戻れない奈落の底へと落ちていく。
だからこそ、誰かが手を差し伸べなければ…。
すると先生は拳を――ポス、と肩に当てるように、シロコに突き上げる。
「それにお前が言ったんだぜシロコ――助け合うのに年齢なんか必要ないって。お前が俺に与えてくれた言葉、そのまま返してやるよ」
『助け合うのに、年齢なんて関係ないよ』
転弧先生の言葉にシロコは制服越に胸を抑え、キュッと衣類を掴む。
――この人は、強いな。
身体的な能力の意味合いではない、
シロコが他者の強さを認めるのは、小鳥遊ホシノ以来だろうか。
負けず嫌いで、勝負事には全力で、自分より強い人には喰らいつく、正に狼少女だ。
そんなシロコが転弧先生を認めたのは、先生の根本的な精神性に惚れたのか、将又彼自身が王たる器たりえるカリスマ性から来る魅力に触れたのか。
狼とは、自身が認めた者に付いていくのである。
シロコと転弧のやり取りを、小鳥遊ホシノはジッと見守るように聞いていた――
(そっか……先生にも、そんな時期があったんだ……)
自分は今――とんでもなく失礼なことをしているのでは無いだろうかという心が芽生えてきた。
悪い大人ばかりが存在するのは紛れもない事実で、手を差し伸べる人間の全てが悪意に塗れていた。
だから疑わしきは罰せよと――そうして凡ゆる手を払い除けた。
『じゃあもし、本当に困っている人がいて…涙を流してたら、ホシノちゃんはどうするの?』
けどもし本当に先生が、ユメ先輩のように心の底から助けたいと思って差し伸べた手だとしたら?
それすらも疑ってしまえば、それは…。
いや…違う。
先生はユメ先輩じゃない。
ユメ先輩はもう、死んでしまったのだ。
もうこの世にいないのだ――偶々偶然、この大人と関わることで想起してしまっただけだ。
(頼りない大人……にしては、頼りたくなると思わせる先生は凄いなぁ……)
ヘイローのない大人など、たかが知れてる。
況してや銃弾一つ浴びれば致命傷は避けられない身体で、指揮能力以外何もできない先生が何を成せるのだろうかと。
シロコちゃんに担がれて、最初見た時はダメそうな大人が来たなぁ……だから、先生が来ようとも
それでも心の底から安心させられるコレは一体……ッ。
今までこんな感情はなかった。
何なのだろう、この靄が纏わり包み込むような…。
不快ではない、然し決して気分が晴れないような気持ちは…。
この気持ちの正体は――一体…。
―――――――――――――――――――――――――――
「ここが転弧先生の部屋だよ」
借金返済――並びにアビドス対策委員会の顧問となる。
生徒達に宣告し、生徒達の力になりたいと言う先生の意見、気持ちを尊重した結果、シロコが先頭に立ちながらアビドス校内を案内してくれていた。
「いいなぁ、この部屋。如何にもTHE・ボスの部屋って感じがして。ここが俺の第二拠点――新しい根城って訳だな」
アビドス校内に使われていない『執務室』
現在はアビドス対策委員会の生徒が5人しかいないということで、全く使われていない古い部屋。
それでも綺麗に清掃されているのは、俺がここへ訪れる前…それこそ三日前になるのだろうか、対策委員会のみんなで校内掃除をしたからだろう。
アヤネ曰くもし仮にも連邦生徒会に提出した依頼を引き受けてくれたら、先生が使用する部屋としてここを使って欲しいと見込んでの判断らしい。
流石はオペレーターにして、アビドスの四人を影で支持する参謀者だ。事前に先を見据えて行動を取る彼女に、将来有望な人材になるだろうと価値を見込んだ転弧は口角を釣り上げ不敵な笑みを浮かべる。
「やっぱ、こういう部屋が俺にとって落ち着くな……」
特別な部屋という訳でも、豪華でもない。無駄のない素朴な部屋でもない。ごく普通の執務室。
質素な木製の教壇に、柔らかい真紅のソファ、特別感も何もない見慣れたロッカーと教材を収納するスチール製の引戸車庫、部屋の隅には段ボールが置かれてる。
俺は荷物を下ろし、ソファに寛ぐ。
脱水と疲労蓄積のジョギング、アビドス対策委員会の指揮、カタカタヘルメット団殲滅の為アジトへの長距離の往復。
以上を踏まえて、肉体への疲労が蓄積していたのもあり、身体が鉛のように重たくなるのを感じながら、体を癒すべく休息する。
「先生お疲れ様。今思えば、今日一日であんな色々なことがあったのに…凄い疲れちゃったよね」
「なんだよ心配してくれてんのか、優しいなお前」
シロコの労いの言葉に、転弧は口角を釣り上げながら軽く手をフラフラと素振りする。
どういう訳か、シロコはセリカと違い多大なる信頼を俺に寄せている。
ノノミやアヤネも俺を信頼してるんだろうが、シロコの場合はまた違う。まるで主人を認めた忠犬…いや、猟犬や狼のようだ。
「タダでさえ先生は私たちと違って身体の構造は違うし……それに、先生が来てくれてから、良いことばかり起きてる」
「そんな褒めたってゲームしか貸してやれねぇぞ。あっ、カップ麺持ってきてたんだったわ。熱湯さえありゃあ食えるし……食うか?」
「ううん、いい――」
断られた。
いや、まあ別に良いんだけどさ…腹が減ってないだけかもしれないし。どっちにしろ俺の貴重な食糧は減らずに済むと考えれば良いだろうか。
「それより……先生、本当にいいの?借金返済の件……」
「あ?何度も言わせんなって…。これは俺の意思で…――」
「そっちじゃなくて、セリカの話」
「…………ああ、そっちね」
志村転弧は今日一日、皆んなと解散する前に一つ借金返済に関して条件を提示した。
借金を返済するのは此方として手伝ってやるが、それにはまず段階が必要で、それを乗り越えなければ幾ら俺に意思があろうと協力関係を築くのは『まだダメだ』と四人に話した。
アヤネは「えぇ!?あれだけ希望を見出したのに…?!」と違うどんてん返しに目をビックリ見開き、ホシノは「……まっ、そりゃそうだよねぇ」と当然の反応を示していた。
『それで、条件っていうのはなんです?』
他の三人の声を代弁するように、ノノミが問いかけてきた。
それに関してホシノはゆっくり、先生に気付かれない警戒する眼差しを向ける。
ああそうだ――こんな美味い話がある筈がなく、そんな甘い提案には必ず裏がある。
悪い大人はこうして私たちに条件を突き出し、搾取するのだ。
知っているよ…
もし条件次第で生徒達の身に危険が生じるような、奴隷根性を強いるのなら、強行手段だって――
『黒見セリカの了承を得ること――俺はまだ一人、アイツの声を聞けてないんでね』
…全く違った。
余りにも平和的な返しに、思わず目を丸くしてしまう。
拍子抜けとは正にこの事だ――ただ、黒見セリカから借金返済の了見に対して許可をもらう事だった。
『うへぇ、あのツンデレセリカちゃんを振り向かそうとするだなんて、先生もなかなか隅に置けないなぁ〜〜…」
『………言葉の意味がわからん』
『セリカちゃん……ですか…』
黒見セリカ――アビドス対策委員会にして、先生に不審と反感を持つ生徒。
先程の喧騒たる二人の啀み合いに( と言うよりもセリカが一方的に )他の一同は相性が悪いのだと見解した。
セリカの精神的な未熟さもあるのかもしれない。
然し先生の言った通り、大人の誰もが生徒に手を差し伸べなかったのだ。
そんな過酷な環境下、救いの手を差し伸べられず生き抜いてきた自分達……特にセリカに至っては大人に頼ると言うのは、プライドを捨てるというのと同価値の位置を表している。
『言ったろ、全員の意見でアビドス対策委員会の意思だって――誰か一人の意見を無視して、蔑ろにして物事進めるのは、差別や仲間外れと一緒だろう』
組織上ある程度全員の意思を尊重せず自分の都合の良いように物事を進め、他の者の言葉を無視することはトラブルを起こしかねない。
あんな大層な独白を語っておきながら、セリカの声すら、目すら、全て見なかったことにすることは、絶対あってはならない。
それは俺が許さない――黒見セリカも揃って、漸くのアビドス対策委員会なのだ。
『うへぇ…。先生は、本当に変わってるんだねぇ……』
『ああ、
『…ん?それってどう言う……』
『さぁってと、俺ァそろそろ疲れたから寝るぜ。取り敢えず明日になったらアイツも頭冷えてツラぁ見せに来るだろ。ってことで俺はここに住み込むから、誰か案内頼む』
意味深い言葉を投げてきた転弧に僅かながら動揺するホシノを他所に、転弧先生は席から立ち上がり、荷物を纏めている。
『えっ!?先生ここで住み込みですかぁ…?!』
『なんだよ、お前らにとって不都合なことでもあんのか?あー……寝床さえ確保できりゃあ勝手な行動はなるべく慎むことにするから安心しろ』
『いえ、そういうことじゃなくて……アビドスの夜は冷えますし…風邪を引くかもしれませんよ??もしも寝床に困ってるなら、私のお部屋に来た方が……』
『気遣いなら気持ちだけ受け取っとくわ。それにカタカタヘルメット団がやられた以上、違う暴力組織が来る可能性もゼロじゃない。夜の学校にも見張りが必要なように、俺が居場所を守る目となりゃあ、少しはお前らの役に立てるだろう。もし何かあれば通信で連絡すれば良い。日中はお前らが、夜は俺が守ってやる』
…ああ、この人はどれだけ私たちの役に立とうとしてくれるのだろうか。
こんなにも頼もしい大人がこの世界にいることは、ある種奇跡のようなモノなのだろうか。
『先生………分かった。じゃあその時何かあった時ようにモモトークの連絡先交換しよッ』
『ああ良いぜッ――他の奴らも良ければ交換しとくか』
シッテムの箱を起動させ、次々とモモトークの連絡先を交換していく。
シロコ、ノノミ、アヤネ、ホシノ――ピロロン…!という効果音が鳴っていく。
よしッ、これで問題はなくなったな。
『でも、セリカちゃん…本当に先生のこと、信じてくれるかな……ある種、頑固なところがあると言いますか…もし、何か手伝えることがあれば…』
『安心しろよアヤネ、お前は友達らしく信頼してやれッ。
セリカが答えを出す時、それはきっと納得のいく言葉が返ってくるはずだぜ。お前らにとっても、自分にとっても――』
……先生は、随分と信頼してるんですね。
そう口に出さず、心の中で言葉をしまいながら、先生にどこか頼もしさを感じるアヤネは、少しだけ口元を緩める。
最初出逢った時と、こうも雰囲気も感じ方も変わるモノなのだろうか。
もし、これらすら先生が経験を通して懐かしむのなら…寧ろセリカちゃんと転弧先生はきっと相性が悪いのではなく…何よりも分かち合えるような…。
今はただ辻褄が合わないように、型が嵌らないようなもどかしさが表れてるのではないかと――
『よし、じゃあ何かあった時連絡くれよな。役に立つ立たない云々は置いといて……だ』
そう言って、今日という一日を解散したのだった。
「ああ、セリカはきっと納得のいく返事をしてくれると信じてるよ。根拠は言えねえけど……」
「……先生は、セリカのこと嫌いになってない?」
「昔のクソガキだった頃の俺ならさておき、あんなんで嫌いになるかよ。俺としちゃあ賢い判断だと思うがな…」
「賢い…か。じゃあ私たちは愚鈍?」
「んなこと言ってねえだろ。それにな、全員が全員同じ意見で通るとは最初っから思っちゃいない。少なからず俺に不感を持ってる奴がいても可笑しくないだろ、この先――」
「この先……」
「言ってなかったな、俺はシャーレの顧問になってから遠出の出勤で、初めて生徒達の問題を解決するんだぞ。それがここアビドスだったってわけだ」
「ん…!?そう、なの?これが先生にとっての初めての仕事なんだ…」
「だから俺は、自分の意思で選べるのがすごく嬉しいんだ」
先生は、やけに意思という言葉を使いたがっている。
いや、恐らくそれだけ大事なことだからだろうか…。
けど、初めての仕事でこんなにも胸を張れるのは、これも大人だからだろうか。
――――――――――――――――――――――――
「ふぅ、やっぱどこもかしこも砂に埋もれてんなぁやっぱ――俺らの地域じゃ台風はあっても砂嵐なんて生前じゃ絶対経験しなかったもんなぁ」
翌日――志村転弧は朝方からゴーストシティと化した郊外の街を歩いていた。
傾いた電柱、人が生活していたであろう家屋やマンション、社会人が働いていたであろう高層ビルが、傾いては砂に埋もれて……これが巨大な砂嵐の規模なのかと、改めて自然災害の恐怖を思い知らされる。
前回はシロコと共に学校へ向かっていたので気には留めていなかったが、改めてこうして見ると災害の跡地に、少しばかり思うことがある。
雄英と共にプロヒーローが超常解放戦線と決戦の火蓋を切ったあの決行の日――俺の目覚めで街は一気に崩壊し、多大なる犠牲が続出した。
魔王の目覚めだけで、一息吹くだけで、今まで築き上げてきた全てを撫でるだけで崩壊していくその様は、正に死柄木弔の災害と呼んで良いだろう。
俺だけじゃない――ギガントマキア。
歩く災害歩行は俺が「こい」と命令しただけで、街を闊歩し大勢の人間を殺し、街を破壊し、仲間と共に俺の元へやってきた。
その惨状は今まで見て見ぬフリをしてきた連中への報復…見せしめ、知らしめとして与えたは良いが、それは死柄木弔としての考えである。
今の俺としては、過去の罪を突きつけられてるようで心臓が痛くなる。
アヤネ達にはあんな大層なことを口にしたが、俺はこの惨劇を意図的にやったんだよな。
先生と意識が混ざり合った中でも、記憶が蘇る。
日本には法律が機能しなくなり無法地帯となったことで、裁判や政治などは機能しなくなり、辛うじて警察やヒーローが抗っていたが、それすら市民や不満の溜まった犯罪者が危害を加えてたんだってな。
「……死柄木弔も背負って生きていくって、そう言うこと、なんだよな……」
でも、この苦しみも痛みも…罪悪感も、全て生きているから感じられる。
敵じゃないからこそ、過去の惨劇や今を前にする痛感に、俺は志村転弧なのだと再認識できる。
全てを背負う――それはある種オールマイトに似た思想だ。
仲間達の想いも、死柄木弔も、先生の教育も、
『死柄木弔――お前の手で何ができる』
すると砂と血の泥に塗れた形成されし死骸が、恨めしそうに物語る。
『目の前の惨状は、嘗てお前が起こした悲劇と一緒だ――無垢で罪のない子供の側にいれると思うなよ』
『ふざけるな、死ね。死ねしねしねしねしね、クソ犯罪者が――』
『それでお前はヒーローになったつもりか偽善者。その痛みは俺たちにとってどれだけ辛いと思ってるんだ』
『んだぁテメェ!!?俺らと同じ犯罪者風情がなぁに物悲しげに痛み味わってんだぁ!?あぁん!?』
死者の声が聞こえてきた気がする。
これは死柄木弔の幻聴と似てるのだろうか…。
次々と形成されていく血と砂で混ざったドロドロの人形は、暴言を嵐のように吐き散らす。
一人は解放軍のような死者。
一人はサラリーマンのような人間。
一人は異形の姿…をした人間。
一人は……幼い頃、俺のこと蹴飛ばして暴力振るったチンピラの一人。
――悪いな。それでもこんな俺が二度目の人生で生きてるってことは、俺には責務がある。
例え遺族や被害者が罵詈雑言を喚き散らそうと、吐き捨てても、俺が諦める理由にはならないからさ。
頭の中で反芻するナニカを、転弧は信念と理想で振り払う。
否定ではない――自虐的な心さえも、転弧の揺るがない芯を折らないように原点が支えているのだ。
すると血と泥が混ざり合った死者の亡霊は粉々になり、塵となって消えていく。
「………まあ、これも一種の個性の副作用と思えばいいのかな。副作用と付き合っていくってのは、長年の経験からくるものか」
決して無視している訳でもない。
だが、立ち止まる訳にもいかないのだ――例えそれが安眠できることのない、茨の道だとしても。
「げっ…――――」
「ん……?」
ふと感情に耽っていると、嫌そうな声が漏れたのを転弧先生は聞き逃さなかった。
踵を振り返り、声の主に意識を向けると、偶然にもバッタリと、覚えのある顔がこちらを見つめていた。
黒見セリカ――アビドス借金返済をする条件として、彼女を説得して了承を得ることが鍵となっている。
セリカは相変わらずと言った形で、先生の顔を見るなり嫌悪を示すように顔色を曇らせる。
「よォ、セリカか。昨日ぶりだな――なんだよ、学校のルートとは随分違ェがサボりか?」
などとそんな彼女の心境をお構いなしに、フレンドリーに話しかける転弧先生は一切気にしてない様子だ。それがまたセリカの火に油を注いでるのだろうか、キッ――と睨むように言葉を発する。
「な、何よ……!!私がどこで何をしようと私の勝手でしょ!?それに今日は自由登校なの…って違う違う。あのさ、馴れ馴れしくしないでくれる?私まだ先生のこと認めた訳じゃないんだけど」
「ああそうだな、お前がどこで何をしようがお前の自由だ――好きなようにすりゃあ良い」
「あっそ、そうさせて貰うわ。というか、こんな日中で散歩なんて暇なの?いいご身分だこと――そんなんじゃダメな大人だと思われちゃうわよ?」
「死体遺棄と証拠隠滅測ってたお前が何言ってんだ」
「なっ――!?!そ、それは違ッ……!!」
ダメな大人だと思われるのはこの際クソどうでも良いが、少なくとも俺の中ではお前はもう常習犯だと言う認識がついててな。
普通に生活してたらそんな物騒な発想でないんだわ。
「そ、それは偶々というか……!!決して犯罪に手を染めた訳じゃないし……」
「多くの犯罪者はみんなそう言うってのがお決まりになってんだよ。で、何人埋めたんだ?」
「違うって言ってるでしょ!?!しつこいわね…!!ってもういいや、私用事があるから!!!」
揶揄われてることに、冗談の通じないセリカは段々と苛立ちのボルテージを溜めていく。
憤慨たる感情に身を任せそうになるも、そもそもの話こんなダメな大人と会話すること自体が無駄だと判断したセリカは、無視を決め込むことにした。
先生を見ないように、素通りしていく。
「おいセリカ、これ受け取れッ!」
背を向けたセリカに何かを投げるのか、無視を決め込もうとしたのも束の間、その決意を裏切りながらセリカは振り向いた。
慌ててキャッチすると、手触りとしては小瓶だろうか…確認すると…
――栄養ドリンク。
どこかしこのコンビニ販売店やらで売っている、ごく普通の栄養ドリンク。
特に重労働や徹夜、オフィスのデスクワーク作業など、兎に角苦労してる人には最高のオトモとも言えよう。
「アタシ、アンタの施しなんて受ける気更々ないけど?まさかコレがお近付きの印とでもいう訳?」
「………もっと高価なモノだったら喜んでたか?」
「ハッ――モノで釣ろうとしてる時点で浅はかね。こんなの要らないわよ、これで借りを作るだなんて思われるのも嫌だし…」
「人の善意くらい素直に受け取れよ。どんだけ拗らせてんだお前……ああ、まんま昔の俺もそんな感じだったか」
――……なんか、私のことを昔の先生と重ねられるの、最高にムカつくんだけど。
普段怒り気味だと自覚こそしているけど、ここまでムカつく人間も早々居ないだろう。
このダメな大人はひょっとして人を怒らせる天才なのか?
無論、天才である。
初日から七神リンを相手に何度も額の青筋を三本浮ばせたり、連邦生徒会に提出する議題『ハイランダー鉄道学園の融資、並びに鉄道路線の設計を如何にするか』という課題の書類に『ゲルダの伝説、大地の汽笛みたいで良いと思う』と書いたときは本当にリンが拳を振り上げかかったのだ。因みにモモカはゲラゲラ笑いまくって椅子から転げ落ちそうになったらしい。
…もう、いいや。本当に話すだけで疲れてくる。
セリカは再びを転弧に礼も言わずに、走り込もうとする。
「おいセリカ――お前は俺の何が気に入らない?」
先生の真剣な問いにセリカは踏み出した足を止め、無意識にブレーキをかけてしまい、再び彼女の動きが止まる。
鋭い眼光で転弧先生を睨むも、当の本人は決して怯むことも、恐れることもなく真っ直ぐな瞳をセリカに向ける。
大人の余裕……というやつなのだろうか、益々気に入らない。
セリカが口を開く前に、転弧先生が再び声に出す。
「信頼してないだけなら、態々怒りを露わにする必要なんてないはずだ。信じてなくても、期待なんかせずとも、わざわざ拒絶をする必要はないだろ。況してや俺とセリカ達じゃ身体の構造も耐久も違う…。そんな俺を警戒したって気苦労が重なるだけだぞ」
信じてないだけなら、それで良い。
期待なんかしなくても、それでも良い。
所詮俺は無個性の人間で、そんな人間が銃弾を浴びれば致命傷は免れない。
一方でセリカ達はキヴォトスという住民という理由で全く大した傷にはならない。
そんな俺が仮に悪い大人だと仮定して誰かを傷つけることなど、例えるなら巨大な戦艦相手に石っころを投げるような意味合いと一緒である。
「………そういうところよ」
口を開かず帰られるかと思いきや、セリカの口が開きだした。
「アンタのそういうところが気に入らないのよ――何にも知らない癖に…!私たちのこと、知った風に口を利くのも全部…!!土足で
「まあ、だろうな――ここはお前らにとって大切な場所なんだもんな」
セリカの悲痛と抑えてきた本心の前に、まさか先生から否定ではなく肯定の言葉が出てくるとは思ってもおらず、思わず再び振り向いてしまう。
「突然遭ったばかりの大人に頼るなんてどうかしてる――確かに、そう思われても仕方ないよな。だってお前も俺も、何にも知らないもんな。況してや9億6235万の借金なんて、逆に頼れって方が難しいわな。そんな面倒なことに首を突っ込む者好きなんている訳ないし、いたとしてもそこに疑いの目を向けるのは賢い判断だと思うぜ」
その結果――悪徳金融会社に頼ってしまった。
最初は完済できる見込みでも、雪だるま方式で次々と借金が膨らんでしまう。
返済できない見込みを理解した上で、何も残らなくなっても徹底的に搾取するのが大人だと、そんな価値観で育ってしまえば……そりゃあ本当の救いの手が差し伸べてきても、疑いを向けるわな。
何故人は疑いを向けるのか――理由は人の嘘を見抜くためだ。
コイツは嘘を吐いてる疑いがある。
ならその嘘が何なのかを調べる為に、人の心理を探ろうと警戒する。
そして人を疑うのにはもう一つ。
それは自身の身を守る為だ。
相手が嘘を吐き、それが自分達に危害を加える人間であれば?
セリカにとって対策委員会は大切な居場所だ。だからこそ、そこに第三者が土足で踏み込んで、自分達の抱えてるモンに手を差し伸べたら、感情的にもなるだろうよ。
何より大切な場所だからこそ、せめて守らねばと――セリカは信じないのだろう。
それに関して俺はセリカを子供の癇癪だとは思わない。
寧ろ頼もしささえ感じる。
相手に自分の領域を渡したくない――そう思えるのは、立派なことだ。
それは対策委員会を守りたいという意思すら感じる。
だから俺はセリカの判断は賢いと思っている。
「信用してないから、疑いがあるから、その言葉だけで片付けて払いのける………それって要は『気に入らないからお前なんて要らない』ってことだよな。
じゃあ気に入らないから、お前は否定するとして…その後どうすんだ??気に入らないなら、ソイツの手を平気で振り払って、傷つけても良いって…そういうことになるぞ」
「うっっさいわね!!!!黙って聞いてたらベラベラと…!!こっちの調子や事情に同情めいて肯定なんてしないでくれる!?アンタに私の気持ちがわかる訳――」
「解ってても言えねェわな。お前の気持ちを理解しているって、そんなコト。俺がお前らのことを知ってるだなんて――んなモン言えねえよ。俺はお前が体験したことも知らない。セリカだけじゃない、ホシノもシロコもノノミもアヤネも…どんな人生歩んでたか俺は知らない。
過去にどんな経験があったのか、何があったのかは知らない。けど、そんなの当たり前だろ」
知らなくて当たり前なのだ。
全部知ってたら、そんなの気持ち悪いだけだろう。
知っていたら、じゃあ私たちは貴方の言葉に従います、なんてことにはならない。
結局何にも知らない癖に首を突っ込むな、なんてのは……理解できないことに対して理由を付けて否定する苦し紛れに過ぎないだけだ。
……昔の俺みたいに。
「同情めいて肯定してるだぁ??する訳ねェだろ――俺はお前らのことを、可哀想だなんて微塵とも思っちゃいない。不幸だと片付ける気も更々ない。そんなんで片付いたら、じゃあ俺らの存在は言葉だけで片付けるようなヤワな存在だったのかってなる。
俺は不幸とか、可哀想とか、悲惨だとか、そんな理由で人の顔色伺う人間でもないぞ」
不幸で片付いてしまえば、
運が悪かったと片付けてしまうのは、
それはアビドス対策委員会を否定することになってしまう。
同時に敵連合の存在自体を否定することにもなる。
不幸で片付いてしまうのなら、砂漠化現象をどうにかする必要はないのである。
運が悪かったと片付ければ、わざわざこの学校に居座る必要もないのである。
それでも自分達がここにいるのは、可哀想とか、しょうがなかったとか、そんな軽い言葉ではない――そんな流れる言葉にすら抗い、現状をどうにかしたいからだ。
そのどうにかしたい――という気持ちは、心を支える原動力にもなる。
「でもな、セリカ――何にも知らない人間でも、それでも手を差し伸べる人だっているんだよ。この世界じゃなくてもそうだ」
キヴォトス外部───超人社会と呼ばれる個性溢れる世界。
あの世界にだって、俺が壊したかったあの社会だって、理由はどうであれ手を差し伸べる人間はいた。
誰かが困っていたら、泣いていたら、笑っていなかったら、敵に襲われていたから、災害に巻き込まれて苦しんでいるから、様々な理由はあるだろう――救いの手を差し伸べる人間がいた。
人はそれをヒーローと呼んでいた。
俺が壊したくて、憎しみが湧いたあの世界――それでも最後に、緑谷出久は両腕が壊れても、手を差し伸べてくれた。
優しくて温かい手を、俺は生涯忘れることはないだろう。
でもこの世界は俺等の知ってる世界とは違って、子供には残酷な世界だ。
オールマイトという存在が居なかろうと、オールフォーワンが関わっていなくとも、見捨てられた子供に救いの手を差し伸べてくれる大人は誰一人もいない。
「だからこそ、手を差し伸べるって意味……もう少しだけ考えてみろよ。それでも俺のことを信じたくないのなら、それでも良い。ただし――お前が納得のいく答えかどうかは、お前で決めろ」
「……………ばっかじゃないの」
セリカは心の底から、小さな声を漏らした。
……だが、そこには苛立ちも憎悪も感じない。
少しだけ、ほんの少しだけセリカの声色が薄まった気がした。
それは理解できない者に対する畏怖か、
或いは自分に納得のいく答えが見つからないこと自体に気付けたからか。
セリカはもう何も言わずに、俺から逃げるように踵を返し、全力でダッシュするように土埃を舞って走っていった。
「……後は、お前次第だ。俺は最低限のことは言ったぞ。ここからどうお前が答えを導くのか…」
嗚呼、先生というのはこういう生き物なのか――俯瞰的な感情に浸りながら、未熟だった自分の背中を想起し重ねていく。
まさか、あの頃の俺が今こうして…生徒に初めて教授するなんて思ってもいなかったな。
『答えを教えるだけでは意味がない――自身で考えさせ、成長を促す。教育とはそう言うものだ』
――先生。アンタの言う教育って、そういうこと、なんだよな。
これが教育…か。
こんな俺でも、先生らしいこと…ちゃんとやれてるんだな。
それは受けた教育を全て、自分のモノにしたからだろうか。
「…………はぁ、はぁ…………なによ、何なのよもう……!!」
ここまで来れば、流石に転弧先生に聞かれてないだろう。
一人になってもセリカは苛立ちを込めたように、悪態を吐きながら汗を拭う。
朝方とはいえアビドス自治区は気温も高く、市街地はまだ割と普通の気候だ。とはいえここは砂に埋もれた廃墟同然――捨てられた砂漠だ。
「はぁ…………何やってるんだろ、私も……」
全力疾走を終えてから、早まる心臓の鼓動を抑え、息を整えていく。
先生から逃げるような形で、こんなことをしてる自分にすら嫌気が刺してしまう。
どうして、どうして無意識に…こんなにも心が弾むのだろう。
嬉しい……と思えてしまう自分が、情けなくなってしまう。
こんなにも自分を見てくれる人が、こんなにも真剣になって言葉を発してくれる人がいることに、心を許してしまいそうになる。
それは今まで誰も真剣に対話をしてくれる人がいなかったからか。
本当に手を差し伸べてくれる人が誰もいなかったことを物語っているからか。
それとも……本気で自分の為を思ってくれる人が対策委員会以外誰もいなかったからか。
「………わかんない……でも……」
許したいけど、許せない自分がいる。
大人は疑わしい。でも本当に疑い続けても良いものなのか。
あの人が気に入らない。でもどこか落ち着く…。
今の黒見セリカの心には、矛盾が生じている。
許したい自分と、許せない自分。
まるで天使と悪魔が分裂し、囁いているようだ。
「どうすれば、良いんだろ……」
苦悩を抱えながら、セリカは肩に背負ってた鞄を持ち直し、考えながらもアルバイト先へ歩を進めていく。
私は、先生を信じるか疑い続けるべきか…。
その手を振り払うべきか、手を握るべきなのか――
ユメ先輩の『もし本当に困ってる人がいて…涙を流してたら、ホシノちゃんはどうするの?』は、まさかの転弧にもぶっ刺さると言うね。ユメ先輩、絶対5歳児転ちゃんと会うべき奇跡の代弁者でしょ。
だから誰我為の歌詞である『希望にも絶望にも会えてしまうこの願いが、憎しみを再生する』が刺さるんですよねぇ〜…。
モモトーク連作先の交換について。
ホシノがするか?と思いますがご安心を、怪しまれない為に仕方なくです。その証拠に自己紹介メッセージでは「お昼寝中は絶対連絡しないで」となっています。ホシノは日中寝ているので「連絡するな」という遠回しの言い方です。
夜中はパトロールしているし起きているので、もし本当に何かあった時に先生が連絡が来たらそれこそ出動するので「まあ、それくらいなら良いか」となっています。その為、例えば夜中に「ホシノはゲームでもすんのか?」と連絡しても未読スルーします。
つまり交換など所詮は口約束でしかない、形だけのモノです。
けど、もし…もしも本当に信頼できるようになったら、きっと…。ホシノから連絡が返ってくることも、してくることもあるかもしれませんね。
同情めいて肯定してると思っているのか。
可哀想だなんて思わない。
それは志村転弧だけじゃないんです。
トゥワイスとトガヒミコのことを思い出してください。
『テメェらの都合で俺らを不幸扱いするんじゃねえ!!!』
『お前達の解釈で私達を可哀想な人間扱いするな!!』
無意識のうちに、その場で聞いてもない仲間達の想いをセリカに言葉に乗せて言ってくれてるんです。優しいねリーダー。仲間達の代弁者だ転ちゃん。
だからアビドスの借金も砂嵐も、転弧は今まで一度も「あー…不幸だな」だなんて思ってないんですよ。