俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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誤字脱字があったり、ルビや濁点振りを見逃してる可能性もあります。投稿してから、時間があれば見直して修正する模様です。
大体ストーリーの構造考えたりするから、一日が過ぎちゃう。尚1万文字超え。




2話『ミーティング』

 

 

 

 

 

「学園都市の命運を賭けた仕事?おいおい、いきなりチュートリアルもなしにスケールがデカ過ぎるぜ……本当に俺を知らない上で言ってんのかそれ?」

 

 この得体の知れない場所に突然転送され、転弧として二度目のニューゲームを迎えたかと思いきや、如何にも命運だなんて大袈裟な仕事を俺に押し付けやがる。

 俺の体感時間で言えばついさっき、緑谷出久と世界の命運を賭けた死闘を終わらせたのだが??……負けたの俺だけど。

 

「第一、そう言うのはお前らで片付けろよな…。ヒーロー……は、居ないんだよな、多分。異世界っぽいし…。だいたい自己紹介した後すぐに職務経歴ゼロの新人教師に大仕事をさせるだなんて、先生って職業はこの世界じゃ壮大なのか?」

 

「貴方が学園都市の先生だから、ですよ。ここへ訪れてから急遽、大きな問題を解決して欲しいという無茶な提案に困惑するのも、不安になるのも理解できます…。しかしこれは先生にしか成し遂げることができないのです」

 

 …まだ俺の魔王としての、死柄木弔の力を欲して懇願しているのなら理解はできる。

 然しリンは俺のことを本名である「志村転弧」しか知らなければ、先生から与えられた「死柄木弔」を知らないと言う。人使いも甚だしい…と言いたいが、コイツの礼儀作法や丁寧な言葉遣いと言い、知性的な女性がこうまで言うのだ。バカ、アホ、マヌケでないなら…そうならざるを得ない事情が有るのだろう。

 

(逆にこの世界の住人じゃない俺だからこそ…ってか?RPGかよ……レベル一の勇者に、魔王を倒せって言ってるもんだと解釈すれば……)

 

「さぁ、エレベーターへどうぞ」

 

 考察をしている最中、リンがエレベーターのボタンを押すと チィン… とエレベーターの音が点滅し、自動的に開く。

 彼女の言葉通り足を踏み入れると、見たことのない神秘的な光景が広がっていた。

 

 

「キヴォトスへようこそ――先生」

 

 

 眩しい太陽の光が差し込み、思わず腕で陽射しを防いでしまう。いつも掌を顔に付けていたせいか、顔面直射日光は慣れていない。とは言え、幾つも並ぶ高層ビル、蒼空のように透き通る海原、ショッピングモールや緑色の芝生、並列する電灯、交差点や道路を走る自動車――美しい世界が、どこまでも広がっていた。

 

「…すげぇ景色だな」

 

 俺からは信じられない発言だろうな、と心の中で毒を吐く。

 紛れもない本心だし、嘗て俺が居た頃は景色を前に心打たれたことはなかった。逆――常に苛立ちと痒みが増すばかりだった。

 憎しみが断たれたからか、今の俺に痒みもなければ、憎しみも苛立ちも何一つ感情が沸いてこない。

 嗚呼…これが綺麗っていう感情なのか。

 俺はこんな広大に広がる街を、壊したんだろうな。

 壊したくて、ぶっ壊したくて、堪らなかったんだな。

 地平線が何よりも美しく、綺麗に映って見えたんだ。

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります」

 

「Huh…?数千……?ハッタリだろ……」

 

「事実です」

 

 断言しやがったなコイツ…。

 数千?学校はまだ理解できる。小中高含めれば、日本だとまあ妥当だろう。然し学園と学校とは少々違う。

 そもそも学校なんて雄英か士傑くらいしか知らないんだがな。て言うか忘れそうになってたんだが、雄英ヒーロー科の敷地に侵入して、生徒ぶっ殺そうとしたり、雄英の生徒を拉致した俺が先生になるって改めて考えるとスゲェな。皮肉効きすぎだろ。

 

「俺はどこの学園の担任なんだ?」

 

「それは…詳細は後ほど。物事には順序が御座いますから…慣れないことばかりで最初は大変で、苦労すると思いますが……」

 

「嗚呼、頑張るよ…――」

 

「ッ…。ヤケに、前向きですね?先ほどまで否定的な感じでしたのに…」

 

「常識的な質問をしただけで、やらないとは言ってないだろうが…考えてみろ。知識もない初心者にサポートアイテム開発をやれって言われて即答するイエスマンにお前は出会った事あるか?そう言う事だよ」

 

「ま、まぁ…それはそうですが…」

 

「それと、先生になることは決定事項なんだろ。それで…俺が俺として肯定できるならそれで良い」

 

 ――もうこれ以上、俺を否定するな。

 ――僕がこうして生まれた事を、誰が肯定できる!?

 

 志村転弧とはなんだったのか。

 何となくだけど、直感的だけど…俺が俺として、新しく物語を築き上げていくのも、俺が俺として生きていくのも…この世界で言う『先生』が鍵なんだと思う。

 

 きっと俺の苛立ちと憎しみが生まれたのも…否定だらけの世界だったから。

 全てあの家から始まり、あの家から否定され、否定から死柄木弔が生まれた。

 

 肯定して貰えて、俺が生きていくのなら…頑張るしかないだろう。

 …そう考えると、先生になることを承諾してる俺の現状も中々なイエスマンじゃないか?

 

 

「そう…ですか。前向きな精神は素敵だと思います。それに…先生ならきっと、心配しなくても良いでしょう」

 

「いや、せめて心配はしろ」

 

「嗚呼、いえ…。信頼という意味で、です――あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね」

 

「…お前らのボスか。俺の…連合で言うリーダー的な立ち位置、か。トップなら俺に姿ァ見せろよなぁ…。安全圏で物事進めてる訳じゃないよな?」

 

「そんなことは…いえ、その話はまた後で説明致します…。話せば長くなりますので…」

 

 また話の順序か…と溜息を吐きながらエレベーターの天井を見やる。顔を上にあげた時、ふと視界に入ったモノに気付いた俺は、リンにある事を聞いてみた。

 

「……なぁ、ふと気付いたんだけどさ。お前の頭の上にあるそれってナニ?何かの個性か?」

 

「これ、ですか?」

 

 視界にはチラリと入っていた、頭上に浮かぶ天使の輪。

 三連星と思わせる蒼色の天輪は、白から水色、蒼色と…色の濃度や変色の過程まで細かく表しており、とても綺麗な印象が深い。

 

「これは、ヘイローと呼ばれる…生徒に携わる機能の一種です。個人によりヘイローの形は其々ですし…そう考えると、個性的では御座いますが…」

 

「個性じゃなくてそれだと?……やっぱ俺の立てた仮説は正解か…」

 

 個性が存在しない世界。

 ヘイローなんて存在初めて聞くし、元の世界でも聞いたことのない単語だ。創作物に登場する天使の輪っかを最初っからヘイローと呼びます、なんて言われればそれまでだが…。

 

「最初…こういう個性なのかと半信半疑に思っていたが…生徒が携わる機能の一種か……であれば、この特徴的なヘイローを持つことは普遍じゃない…のか。俺たちで言う個性の意味合いに似た、日常的な価値観を持つ概念なのか…。ではヘイローとは何だろうか……何を通して造形されるのだろう。それともヘイローの特徴デザインによって、特殊能力が推測可能だったりするのだろうか…。例えば…――嗚呼、駄目だな。考え出したらキリがない」

 

 考察を始めたら止まらなくなるのは、俺にとっての長所にもなり得たり、短所にもなったりする。余計なことも思慮に入っちまうからな。

 雄英襲撃の時、有象無象の雑兵と多対一で戦闘を望んだイレイザー・ヘッドのスタイル考察や、キャスリーン・ベイト(スター・アンド・ストライプ)と対立した時の新秩序(ニューオーダー)の弱点、発動条件、効果など……。

 ゲームを攻略してる時の感覚や、考察、計画を練ってる時の高揚感みたいなのに陥ったりするんだよな。

 まあ、そもそもリンの口振から察して個性の意味に、価値観の相違があるのは会話だけで理解した。

 

「先生…?」

 

「嗚呼、悪い……考え事してた。そいや仕事を始める前に確認したいことがある。ちょっと良いか?」

 

 俺の言葉に首を傾げるリンは、目を丸くする。

 

「なんかこう…要らないモノとかあるか?大丈夫だ、手間は取らせないからさ」

 

「はぁ……もうそろそろレセプションルームに到着しますよ?えっと…これで何をするつもりですか?」

 

 リンは意味不明だと、正体不明そうな目つきで俺を見る。渡されたのは小さな消しゴムだった。

 …沈着冷静、知性的な部分が強調されてるから、大人っぽく見えるだけでちゃんと生徒なんだよな。

 

 リンに渡された消しゴムをギュッと握りしめる。

 俺の個性は『崩壊』――五指で触れたものの対象を粉々に崩壊させる。ハゲとの闘いで覚醒、ドクターの改造手術を受けて、より崩壊のレベルは段違いに跳ね上がったけどな。

 初期の死柄木弔とは比較にならない危険性を潜めていた。

 ……のだが、いつまで経っても、小さな消しゴムは粉々に崩壊しない。塵にならず、固形を保ったまま維持してるのが、握り締めてる物体の感触で理解できている。

 

「ダメ…か……」

 

「…先生。マジックでも披露するおつもりだったのですか?」

 

「できる訳ねェだろ、手品はコンプレスの専売特許だ。手先を器用に操る芸なんざ、ゲームコントローラーでしか発揮できねえよ」

 

 崩壊が発動しないことに、安堵の息を漏らせば良いのだろうか、今まで所持していた個性が発動しないことに悪態を吐くべきか…。

 死柄木弔としてなら致命的だが…ヒーローも敵も、個性なんて存在しないこの世界軸ならば、意外と悪く無いのかもしれない…というか、必要ないのかもしれない。

 今にして思えば、俺の感情に憎しみも痒みも増さない…。緑谷出久に手を差し伸べられてから、心の底から安心したからなのか…あの時憎しみを打ち砕かれたからか、触れるもの全てを壊す破壊の権化は存在しないようだ。

 

「だが…確証という訳にはいかないんだよなァ…」

 

 崩壊が発動しなかったのは、イレイザー・ヘッドやコピー能力を持つガキによる抹消状態だけじゃない。

 最期に先生の転移で連れてこられてから、崩壊が発動しなかった実例もある。

 交わり新たな " ナニカ " に成れなかったからか、スターによる個性が反発し合う余韻が影響を受けていたからか…。どちらにせよ、憎しみの感情がある状態なら、崩壊が発動するのかもしれない…と言うのが、現時点で出せる推測である。

 

「悪いな、忘れてくれ今の。後これ返す」

 

 消しゴムを返すと、リンは摩訶不思議なモノでも見たかのような、なんとも言えない表情を浮かべていた。まあ…いきなり要らないモノ寄越せって言っておいて、やっぱ返すわなんて行動取ったら誰だって不気味に思うわな。

 

「さぁ、着きましたよ先生。ここがレセプションルームです」

 

「へェ…中々広いんだな。質素で殺風景だ。解放軍アジトが懐かしく見えるぜ」

 

 ハゲ社長に鬱陶しい爽やかな笑顔で、街一つ覆う解放軍アジト内を歩きまわされてたっけ。…満身創痍で不完全な治療を受けた状態を、分身のトゥワイスが背負ってな。

 白、青が殆ど主張された色彩に、黒や緑色を足したいという謎の欲求に駆られる。成る程、公共で壁の落書きをする奴らの気分ってのはこんな感じなのか。

 

「ああーーっ!やっと見つけた!代行、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!!」

「ッ!?」

 

 などと下らない思考回路に浸っていると、耳をつんざく大声が広間に轟いた。剣幕と共に怒号を喉から振り絞った声色で、代行と呼ばれるリンにツカツカと足音を立てながら迫り来る。反射的に思わず、いつもの臨時態勢を取ってしまう。

 

「…ッてあれ?代行、その隣の方は…?」

 

「……びっくりしたわ。咄嗟に迎撃態勢取っちまったよ…」

 

 両手の掌を大きく開き、腰を低く構えた絵面を、クレーム女に見られてしまった。

 言い訳を述べるなら、殺るか殺られるかの瀬戸際の危機感を常に抱いた生活を送っていたから、反射的な行動をとってしまうのは仕方ないだろう?と言いたい。

 更に言葉を付け足すなら、二丁銃をそれぞれ片手で持ち歩いた状態で迫り来れば尚更警戒してしまうだろう。

 対するスーツ姿の女は、俺の存在に気付いたようで、不思議そうにこちらへ視線を向けている。

 

「首席行政官、お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が今の状況に納得のいく回答を要求されています」

「此方はトリニティ自警団です。同じく今回の騒動について詳細を…――」

 

 野次馬の如く、次から次にインタビューでも迫る勢いで、質問をリンに投げてくる。

 …よく見れば、コイツらもヘイロー…だっけ?多種多様なデザインしてるんだな。と漠然な回想をする俺を横に、深い溜息を吐くリンが視線を逸らす。

 

「嗚呼、面倒な人達に捕まってしまいましたね……」

 

「……人気者なんだな、お前」

 

 良い意味でも悪い意味でも…と、言う意味を含めて小言を漏らす。難儀なこった…と他人事のように呟き、我関せずと言わんばかりに余所見する。

 こう言うクソ面倒な問題の処理は全部、公安局みたいな役所が対処したりするんだろう。記者会見のイレイザーを思い出し、改めて世知辛い世の中だと殊更思い知らされる。

 

 一人は漆黒を象徴とさせる身長の高い女性だった。…俺より身長が高い。

 黒い両翼は何処かのNo.2を連想させる。携帯してる銃器はボルトアクションライフルだな。……なんでガキ共が銃器なんて保持してるんだ?治安局とかどうしてるんだよ。法が機能してない…なんてある訳ないよな?

 

 一人は栗色のストレートな髪に漆色のリボンを巻いてるメガネッ娘だ。リンと同じエルフ耳が特徴的で、大きく膨らんだ鞄を携帯している。大きめの鞄には包帯、注射器、鋏、医療用器具が溜まっている。

 

 一人は銀色のサイドテールを巻いており、長い髪を下ろしている。純粋無垢な赤い瞳に、天使のように清々しく、白を主張としたイメージが印象深い。彼女も三人同様銃器を携えてる。

 …確か、MCXだったかな…いや、MPXか??

 

 どっちにしろ、学園生徒が銃器を携えてるなんて、物騒な絵面だ。サバゲーなら兎も角、明らかにモデルガンでもなさそうだ…。本物なんだろう。

 

「こんにちは、各学園から態々ここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん――こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かってます」

 

 黒笑を浮かべ、ニッコリする威圧的な微笑に、内心「良い性格してるなこいつ…」と吐露する。

 生徒会、風紀委員会…あと、聞き間違いじゃなきゃ自警団って言ったか?学園に自警団なんているのかよ…。

 俺たちのいる世界とどう意味合いが違うのだろうか。そもそも自警団と語る輩は、正義感や先代的にヒーローの職業化が進む始発的な原初であって、法律的にはアウトになってる。

 なんだっけ…昔、先生に拾われてから一時期ニュースになってたんだよな。夜景に蜂の群体と爆弾事件――ああ、思い出した。ポップとかいう女。他にもNo.6を名乗ってるやつ……先生が一枚噛んでたんだったな。

 

「今、学園都市に起きてる混乱の責任を問う為に…でしょう?」

 

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!?幾千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ?!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!!」

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」

 

「スケバンのような不良達が、登校中にウチの生徒たちを襲う頻度も、最近急激になりました。治安の維持が難しくなっています」

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 

「………」

「…………は?」

 

 俺は思わず口を開けたまま呆けていた。

 ここが元いた世界と違うとはいえ、犯罪率が上昇してるなんて生優しいものじゃない。物騒なんて言葉で片をつけて良いほどのレベルじゃない。

 俺たちが壊し、ヒーロー社会の信頼が地に落ち、日本が無法地帯と成り立ちつつあった、壊滅的な治安の悪さだ。

 オマケにガキどもでさえ治安が悪いと聞く。

 武器の不法流通だと?解放軍の…あのインテリ。スケプティックでさえ慎重に慎重を進めて、回りくどいやり方でやっと武器と物資の補給が可能だったのに……それが2000%だと??

 

 この世界が実は先生が支配したバッドエンドでした――なんて言われても違和感がない。

 て言うか…戦車やヘリコプターの出所が分からないってあるんだな。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの!?どうして何週間も姿を見せないの?!今すぐ合わせて!」

 

 これが、この世の象徴不在か――手を取り合おうとせず、誰もが誰も、責任転嫁する世界は、何処へ行っても同じか…。……いや、待てよ?連邦生徒会長?確か、俺もリンに同じ質問を投げたよな。この組織の…連邦生徒会のボス。安全圏で自分だけ有利な立場で、あぐら掻いてたらどうしてやろうかと考えてたんだよな。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません――正直に言いますと、行方不明になりました」

 

『!?』

 

 俺とリン以外は、絶句の声を漏らすのが聞こえた。

 行方不明…?組織のトップだから、何かしら誘拐とか…そういう事件性に巻き込まれたのか。

 リンは言いにくそうに答え、それを聞いた全員の顔色が悪くなる。連邦生徒会長の存在はこの世界ではかなり大きいようで、この三人の落ち込みぶりを鑑みて、俺の価値観で例えるならオールマイト不在みたいなもんか。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなった為、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探しておりましたが…先程まで、そのような方法は見つかっておりませんでした」

 

 俺の全く知らない単語が増えた。

 キヴォトス、連邦生徒会長、サンクトゥムタワー……専門用語を初心者に語ったところで頭に入ってこないぞ。

 

「それでは…今は方法があると言うことですか、主席行政官?」

「はい…この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

『!?』

 

 またしても全員は驚嘆な表情を浮かべる。スーツ姿の女は「この、人が?」と言いたげな顔色だ。信じられないものでも眺めてるような、困惑色。

 

「ちょっと待って!そう言えばこの先生は一体どなた?どうしてここにいるの??」

「成る程…主席行政官の隣にいる方が見慣れないので…キヴォトスではない所から来たのでは…と見解はしておりましたが、先生だったのですね…」

「はい、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が失踪する前、特別に指名した人です。改めて先生……せんせい?」

 

「………ああ、悪い。俺か、寝てたわ」

 

「目を開けたままで!!??」

 

 スーツ姿の女が大音量で壮大な突っ込みを入れてきた。リンは失神しそうな感じで眩暈を起こしてる。

 先程までご静聴してる前提で話を進めてたのに、立って目を開けたまま寝てると言ってきた。連邦生徒会長は超人で、発想が我々の認識に追いつけないと畏怖されていたけれど、この先生もまたある種の超人だ。

 

「その…寝てた、というよりボーっとしてたのでは……」

 

「嗚呼、そうそう…。先生って呼び慣れてないから仕方ないだろう…イマイチ、ピンと来ないんだよなぁ。サンクトゥムとか…生徒会長とか……この世界のこととか、色々と考え事してたわ」

 

「寝てた訳ではないのですね……それなら良いのですが…」

 

 栗色の髪をしたメガネッ娘に頷く転弧は相槌を打つ。黒い笑顔を浮かべ、静かに額に青筋を立てるリンを前に、我が物顔でマイペースを貫く志村転弧の絵面は中々にカオスだ。

 

「ほ、本当に大丈夫なの……?一応、先生、なのよね?行方不明になった連邦生徒会長が指名したって言う…頭がこんがらがってるんですけど…」

 

「この煩い方は放っておいて良いです。先生、続けますと……」

 

「ちょっと!?誰が煩いって?!わ、私は早瀬ユウカです!えっと、ミレニアムサイエンススクールのセミナーを務めてます…って、挨拶はともかくと言いたいけど…その、覚えておいて下さいね!!」

 

「煩いのは事実だと思うがな…声のボリューム、もうちょっと落とせないのかオマ…ユウカ。大体な、煩いのはスピナーで間に合ってるんだよ。……いねェけど」

 

「うぅ、先生まで……」

 

 これでも彼なりに優しい部類の声掛けだろう。

 そして元の世界にいるスピナーが聞いていたらこう言うだろう…「俺の涙を返せ」と。

 

「私はトリニティ総合学園所属、三年生――羽川ハスミです…こちらの方こそ宜しくお願いします」

「同じくトリニティ総合学園所属の二年生――守月スズミです。自警団として活動しています」

「ゲヘナ学園所属一年生――火宮チナツです。以後、宜しくお願いします」

 

 ユウカに続いて三人とも、俺に押し寄せるかのように挨拶する。

 ハスミはお嬢様のようなお淑やかで、スカートの袖を軽く摘みお辞儀をする。

 スズミは真面目な風貌と、表情変わらずと言った形で丁寧に自己紹介をする。

 チナツは自己紹介を終えた後に、小柄ながらもペコリと頭を下げる。三人とも礼儀正しいと言うか、真面目と言うか…いや…

 

『生で見ると気色悪いな』

『うわあ手の人ステ様の仲間だよね!?ねえ!?私も入れてよ敵連合!』

 

 アイツらが異端過ぎただけだ。

 最初の挨拶が最悪だった。

 自己紹介すらまともにやれない仲間たちに、大人として申し訳なさが目立ってしまうのは惨めさ故か。

 

「…よし、挨拶はできるようだな。死柄……ゴホンっ…。 あー…志村転弧――何気にちゃんとした挨拶って初めてかもな」

 

 個性的過ぎる仲間たちに囲まれて、感覚が麻痺してるのだろうか。妙にぎこちない挨拶を取ってしまう。こう言う時、いつも黒霧が何かと融通効かせてくれたから、普通の自己紹介が偶に「これでいいか?」となってしまう。

 その点、コイツらは個性的かと聞くと現状把握は出来ないが…まあ、マトモだろう。

 

「先生は…いつキヴォトスに来られたんですか?私達が此処へ駆けつけてから見かけなかったので…」

 

「……意識戻ったらいつの間にかここにいた。こうして言葉で伝えると、俺の状況って監禁に値しないか?って思うのは俺だけ?」

 

 確かに…と、スズミは思わず心の中で呟いた。

 最初、どんな先生なのかと警戒していたが…案外話し易いのかもしれない…というのが、彼女が吐露した本音だ。

 

「…?先生、唇の所、切れ目がありますよ?目にも…怪我でもなされたんですか?」

 

「ッ?嗚呼、これか。これは……うん、ガキの頃に掻きむしってこうなった。流石は回復キャラだな、細かいところに目配りが良い」

 

「か、回復キャラ!?ひょっとして…私が保健委員だから…のことですかね?言ってもないのに何故それを?」

 

「デケェ鞄から医薬品の匂いがする。ドクターの施設でも嗅いだことあるから分かるんだよ。他にも包帯や注射器とかも携えてるのが袋の隙間から見えるしな」

 

 成る程…と合点が言ったチナツは納得した。

 細かいところに目配りが出来てるのは先生も同じことで…然も匂いまで嗅ぎ慣れてるとなれば、元いた世界では病院に通うことが多かったのかな…とチナツは漠然に思う。

 ……尤も、チナツの漠然の想像とは裏腹に本人は肉体改造手術を受けて、個性譲渡する為に仮死状態を体験していたのだから、こんな真実、口が裂けても言えないだろう。

 

「ぶっちゃけ、連合パーティーには回復キャラはいなかったしな…チナツ――お前は優秀な人材だよ。もし一緒に戦うこととか、そう言うのあれば頼りにしてるぜ」

 

「えっ…!?あ、は…はい!あ…有難うございます!!」

 

 まさか褒められるとは思ってなかったのか、彼女の口角が自然と緩まってしまう。赤面するのを堪えながら必死に俯くチナツ。

 当の本人は何度も何度も血を流す怪我を負っていたので、お世辞抜きで彼女のようなヒーラーは側にいるだけで助かる。超再生の個性を持ってから俺には必要こそなかったものの、仲間たちの怪我治療含めて仲間に来ないかな、なんてのは願ってた。…まあ、医療系の個性持ちが敵になるなんて話、聞いたことは……いや、オーバーホールがいたな…。

 

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

 

 …此方の会話の折り合いを見計らったリンは、遮るように今回話す問題について解説をする。

 

 

 連邦捜査部――『シャーレ』

 

 

 リンが言うには…単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。

 連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を、制限なく加入させることすらも可能である。

 各学園の自治区で制約無しに戦闘活動を行うことさえ可能である。

 

 ――…こんなものがあの世界にあったら、ヒーロー免許いらなくね?一体何の為にそんな権限を作ったんだその連邦生徒会長…。この世界、俺の価値観じゃ推し量れないほどブッ飛んでやがる。

 

「シャーレの部室は、ここから 約30km 離れた外郭地区にあります。今は殆ど何もない建物ですが…連邦生徒会の命令で、そこの地下にある『とある物』を持ち込んでいます――先生をそこへお連れしなくてはなりません」

 

「…30km?遠いな…となると交通機関を使うのか」

 

「ええ、その通りです。その為には……モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど…」

 

「…酔わないかな。最悪、チナツからビニール袋でも借りるか…」

 

 ヘリなんて乗ったことも操縦したこともないから、乗心地とか空気や振動の酔いに吐き出さなければ良いのだが…なんて先生の心配を他所に、リンは通信機器を使って外部から連絡を取っているようだ。

 

『シャーレの部室?……ああ、外郭地区のこと?そこ、今大騒ぎだけど??』

 

 コール音が鳴ると、ヴォン…!とホログラムが投影された。

 ホログラム――俺たちの世界にも投影機器は存在しており、最新技術は割と俺たちの世界と変わらないんだな、と謎の安堵を漏らす。

 投影に写されたのは、ピンク髪のメスガキ感漂う低身長で小柄なガキだった。後ろにウネウネと動いてるのは、爬虫類特有――ドラゴンを連想させる緑色の尻尾だ。

 

「大騒ぎ…?」

 

『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れたみたいだよ?』

 

 ダツゴク事件か?

 俺の記憶に薄らと残るは、ニアハイエンド脳無を筆頭に暴れ回るダツゴク。先生のEMP攻撃を受けて機械が倒壊する焼け野原の地獄絵図だ。

 恨み辛みで、世の中ぶっ壊そうぜって意気込みながら破壊活動に勤しむのは、個性があろうと無かろうと起きるもんは起きるべくして…ッて感じか。

 リンの表情は段々とドス黒い影色に変わり、眉を歪ませる。

 

『それでどうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』

 

「…リン。それって相手に筒抜けじゃね?何処からか情報が漏れたか、連邦生徒会の情報を探る手段を持つヤツが手招いて、集団行動を起こしたとかじゃねェか?可能性は考えるほど有り得なくはないが……」

 

 巡航戦車、ヘリコプター、矯正局を脱出した仮称『ダツゴク』生徒。集団で暴挙し、特定の場所で騒ぎを起こす…それじゃあまるで「貴方達のコトは丸分かりですよ」と言わんばかりだ。…まあ、ユウカ曰く風力発電所…だっけ。数千ものがシャットダウンとかする位だ。何処からか情報が漏れてしまったと推測しても可笑しくはないな。

 オマケにこっちは「侵す側」だったんだ。やっぱり経験積んでると違うな。

 

『まあでも、もうとっくに滅茶苦茶な場所なんだから、別に大したコトな…あっ!先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!ホイじゃ、通信切るね〜』

 

 ブツン!と途切れる音が響いた後、シーン…と静まり返るレセプションルーム。

 ふうぅぅぅーーー……腹の奥底から苛立ちを堪え、メガネを光らせるリンが、既に噴火寸前前の状態で我慢している。

 

「……あの爬虫類のガキ、吊るして代わりのヘリ貰うか」

 

「先生!?!教師としてあるまじき発言してません!?」

 

 転弧の死柄木的発言に、耳を疑うユウカは目を丸くする。他の一同も二度見してる位だ。

 

「ジョークだよ。本気に取るなって」

「どんなジョークですかそれ……」

「シガラキジョーク」

 

 はぁ…?と困惑の吐息を漏らすユウカを他所に、転弧先生は顎に手を当てる。

 

「デリバリーなんかこの状況で頼むなよ……俺だって小腹空いてンのに飯の話しやがって…。つうかカロリーバーで良いだろうが。――それで?交通手段であるヘリが使えないならどうするつもりだ、リン」

 

「そう……ですね。ですが、問題が発生してしまいましたが…大したことでは有りません…」

 

 チラ…と横目を見遣ると、四人の顔色が変わる。

 リンは口角を釣り上げ、ある考えを閃いたようだ。

 

「な、何よ……私たちの顔なんか見つめて……」

 

「丁度ここに、各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので…私は心強いです」

 

 え?とユウカがポカンと口を開いたまま、怪訝な顔を浮かべ、片足を一歩後ろに下がる。

 

「キヴォトス正常化のため、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!私たち、行くだなんて一言も申してないんだけど?!」

 

「ひょっとしてコイツらをパーティーメンバーに加えて、シャーレ(拠点)奪還か?良いね、漸くチュートリアルの始まりだ。こう言うのは物分かりが良くて得意分野なんだよ。……崩壊、持ってないから壊せないけど」

 

 先生が生徒殺したり、怪我でもさせたら本末転倒だし…自分自身である志村転弧という存在を否定して、再びAFOのような人間になるのも嫌だから、ある種として必要ないのかもしれないな。

 …だが。

 

(……崩壊は使えないけど、幾つか試したことがない検証がまだ残ってるんだよな)

 

 掌を何度もグッパーグッパーと握ったり手を広げたりを繰り返す。…まあ、発動しなかったにしろ、元々の身体能力で最低限カバーすればいけるか。

 

「大体、どうして私達が…こう言うのは連邦生徒会が解決するべき事態じゃないの!?それなのに、なんで戦場に立たされなきゃいけないのよ全く…ふざけないで!!」

 

「充分な戦力が此方にない以上…お前ら猫の手も借りたいんだろう。じゃなきゃ他学園の生徒に頼むなんて真似はしないだろう。……半ば強制ではあったが…。事件を解決させたいなら黙って着いてこい。お前らもそっちの方が手っ取り早いし、得意だろう」

 

「けど……」

 

「それと…――」

 

 ――そんな理由で!と声を発するユウカを遮るように、転弧先生は人差し指を立て、ユウカの顔面前に突き出す。思わず開いていた口を閉ざし、硬直してしまうユウカを前に、転弧は語る。

 

「リンには悪いが、お前らが来ないなら俺も行かん。幾ら交通機関の手続きがあろうと、戦闘が免れないと理解してる以上俺一人で火に飛び込むつもりはない。

 ダツゴク生徒共…――暴挙による騒ぎ、鎮圧するに当たって戦力は少しでも欲しい。俺はリンに頼まれた学園都市の命運とやらを解決する。お前らは俺と協力して事件解決に貢献し、各学園に起きた問題を解決できる。どうだ、自然な交渉と譲渡だろう」

 

 いつになく先生が述べる理論は、その場として適切だった。

 確かに、なんて思ってしまう程に転弧先生の言葉はどれも正論で的確だった。

 

「それは……」

 

「大体、幾千もの風力発電所がシャットダウンしたんだろう?困ってる現状、少しでも改善する為には自分で動かなくちゃいけないんじゃないか?悠長なことを言ってるほど、余裕がないのはお前達が知ってるんじゃないのか?

 だから――お前たちは御足労して連邦生徒会に駆けつけに来たんじゃないか?このままずっと誰かに助けて貰うのを待ってるつもりか?待ち続けた結果、こうして巡り巡って今を引き起こしてるんじゃないか?」

 

 待機は現実逃避。

 怠慢は職務放棄。

 懇願は責任転嫁。

 

 俺は、ずっと、ずっと、ずうぅぅーーーっっと、それに苛立ちを覚えた。

 ムシャクシャした。

 その結果、最悪な展開が訪れた。

 死柄木弔という、社会の闇を体現させたモンスターが産まれた。

 だって、そうだろう?

 

「もしお前達が戦闘に不向きと言うのなら、戦闘可能な者を寄越して少しでも学園都市の問題に目を向けるべきじゃないか?このまま不良たちを野放しにして、後は責任転嫁をするつもりか?その結果、取り返しのつかない結果が起きてしまうかもしれないだろう」

 

 

 ――誰もたすけてくれなかったんだねぇ…。辛かったね、苦しかったね。志村転弧くん

 ――ヒーローが!そのうちヒーローが!皆んなそうやって君を見ないフリしてきたんだねェ。一体誰がこんな世の中にしてしまったんだろう?君は何も悪くない

 

 今でも昨日の様に、鮮明に思い出す。

 声色は優しくて、僕を拾って認めてくれた先生に涙を流していた自分を。

 然しそれすら仕組まれたマッチポンプで――邪悪に歪みまくった魔王の掌で支配されてたピエロだったんだ。

 この世界と俺のいた世界が、構造も概念も違えど――科学の発展や共通語は一緒だったりする。

 そう…もし。もしも、もしかしたら。

 その「もしも」の可能性には、キヴォトスで言う新たな「死柄木弔」が生まれるのかもしれない。

 その死柄木弔という現象を悪用し、全てを掌の上で転がし踊らせ、ヘラヘラ笑いながら、支配する悪い大人がいるのかもしれない。

 

 可能性は低いのかもしれない――でも、ゼロじゃない。

 何故なら、この世界は未智と神秘に溢れた箱庭で、其処には必ず畏怖され排斥を生み出す恐怖だって存在するのだから。

 

 脳裏に焼き尽くし浮かぶは…道のど真ん中――血に塗られた真っ赤な手を抱えながら、罪悪感に押しつぶされそうになってる自分を。道行く通行人の視線が、チクチクと肌に突き刺して、痒みが増した。

 ガリガリ、爪を立てながら首元を掻きむしり、この世の全てに絶望した志村転弧を。

 

 俺は、そうやって見てみぬフリをされるのが嫌だったから。

 綺麗事を並べて現実逃避をする人間に苛立ちと憎しみが湧いたから。

 己の怠慢や弱さを他者に責任転嫁し擦り付けるのを見て吐き気がしたから。

 

 ――それが嫌だったから、全部壊そうってなったんだ。

 

 

「俺は生徒を支配するつもりも、主従関係になるつもりも最初っからない。それが志村転弧として生きていくニューゲームだからな。それが俺とお前らの――対等な関係だ。俺は、()()()()()()()()()()()()()()から、俺とお前らの為に頑張りたいんだよ」

 

 嘗ての俺は支配して壊そうとした。

 其れが俺を救う為であり、仲間が求めていた夢だったから。

 でもさ…それは結局、アンタの誘惑通りだったんだろ?先生。

 俺が集めた仲間も、あの後全部奪って使い捨てようとしたんだろう?

 

 それが最高に嫌で、アンタを心の奥底から軽蔑した。

 アンタの敷いた道には従わない。

 俺はもう、アンタの駒にはならない。

 

 

 これから俺は志村転弧として生きる為に――魔王(アンタ)から卒業する。

 

 

 先生として未経験で、この先躓くこともあるだろう。

 茨の道で、至らぬ点もあるかもしれない。

 過ちだって犯すかもしれない。

 

 だからこそさ――ここが、俺の始発点。

 先生としての初めてのチュートリアル。

 未経験者が初めて直ぐに完璧可能な人間なんていない。

 生徒がいない一人だけなんて、先生とは呼ばないしな…。

 

 だから、せめてお前達と一緒に頑張りたいんだよ。

 

 

「とまあ…前置き長らく語ったけどさ、俺たちなら大丈夫じゃねえかな…。お前らの側には俺がいる。頑張れば何とかなるだろ――」

 

 

 俺は拳を前に突き出して、ユウカの肩にコツン…と、痛くない程度に押し当てる。まっ、一緒に頑張ろうぜ――と、はにかむ俺に、死柄木弔の面影はもう既になく、志村転弧というもう一人の俺が笑っていた。

 緑谷出久とお別れした俺と、全く同じ笑顔で。

 

 

 茫然と立ち尽くす四人は勿論、リンも真に受けた顔をしていた。

 転弧先生の言葉は、文字や文章だけに現せば何の変哲もない言葉で、正論を述べた事実上の言葉。

 先生視点から想ったことを口に出した――それで済む。

「立ったまま寝てた」とか「吊るしてヘリ寄越そうぜ」とか、頓珍漢なことを口に出してた、ちょっと頼りになるか心配程度に思ってた先生の印象は、一気に変わった。

 

 

 先生から発した言葉は、どこかとても重くて、迫真で、まるで実体験をしたかのような語り手で――彼の…先生の言葉に吸い寄せられて、ついつい聞き魅入ってしまう。

 一気に空間が変わり、流れが先生に持ってこられたんだ。

 普通の大人とは違う、個性的で独特な雰囲気……それこそ、先生だからこそなんだろう。

 

 事実上――ドクターに問われた際、死柄木の言葉にスピナーだけはユウカ達同様、真剣な志で、彼の言葉を清聴していたからだ。

 

「……」

「…おい、どうした?大丈夫か?何か反論はあるか?」

「…あッ!ええっと、いえ!!別に、なんでも……」

「なんだよ、人が折角真面目に話したのに…お前も立ったまま目ェ開けて寝てたのか」

「いやいや違いますよ!?!!そんな器用なこと出来るわけないじゃないですか!?私のこと何だと思ってるんです!?ただその…ビックリしちゃって…これが、大人の言葉ってやつですかね?」

「………経験だろう」

 

 くるり、と向き直る転弧先生は、いつも通り予想もつかないフラフラしてそうな雰囲気に戻っていた。

 そんな先生の後ろ姿が、何となくだけど…つい、追っかけたくなるようで、大きいような細いような…そんな錯覚染みた、不思議な感覚に見舞われた。

 

「なぁリン…30kmだと、ヘリが無理なら車で行くのか?俺無免許だからいつもはスピナーに任せててさ。アイツ運転下手だけど……もう居ないし…生徒の誰かが運転でもしてくれるのか?」

 

「あっ……ええっと、そうですね。私がお送り致しますので…と言うより、元よりヘリの時点での算段でしたので…」

 

「嗚呼、そっか。そういえばそうか…。じゃあ運転頼むぜ…。お前らも来いよ――折角のチュートリアル…ミーティングと行こうぜ」

 

 さっきまでの雰囲気はどこ吹く風か、なんともなさそうにしている。

 転弧先生のマイペース加減に、着いていくのが大変だなと思うこともあるけれど…。でも、あの時真剣に話す先生の…あの眼差しは忘れない。

 

 それと何でか分からないけど…さっきの先生の台詞――単調で、普通で、何気なくありふれた言葉なのに…。

 

 

『まっ、一緒に頑張ろうぜ――』

 

 

 どことなく、心が温まった気がした。

 励ましの言葉が、先生に送って貰えるだけで…心なしか自然とやる気が出るのは…科学では証明される心理現象なのか。先生の応援に、気恥ずかしくなってるのか…私には、この感情表現を数字で表すのは、難しい。

 先生の呼び出しに、私たちは車内に駆け込んだ。

 

 

 これから起きるであろう――戦場へ、先生と一緒に赴くのであった。

 

 

 






MVP緑谷出久。
おばあちゃんが第二の死柄木弔となりえたかもしれないジョキジョキくんを助けたように、転弧自身がキヴォトスという別世界で『皆んなで手を取り合う』を体現している。
然も被害者だからなおより深く理解してる模様。
ブルーアーカイブって青く透き通る青春物語でしょ?皆んなで手を取り合って学業に励んだり、挑戦したり、悲劇を乗り越えて人生を謳歌するって、まんまタイトル通りじゃん。ちゃんと青春できるじゃん。


「お前が言うな」と思う方々も賛否両論、これから現れるかもしれませんが、やらないよりやる善意ですからね。
まあ転弧自身も「許してくれ」とは一切言ってないから…。そう偏る思考は野暮ということで。

初期、死柄木弔って絶対ステータスそこそこ良いと思うんですよ。
考えてみて下さい。改造手術も、碌に死線を潜り抜けなかった死柄木がUSJ襲撃時、緑谷、梅雨、峰田の三人が反応できない速度で梅雨ちゃんに触れてるんですよ。
考察でも「既に身体能力強化系の個性与えられてない?」っていわれてるくらい、素が速いんですよ。


「次回、俺が道路を走り回る。乞うご期待」
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